2.基礎科学力の強化

1.基礎科学力の強化に向けた研究の推進

 研究者の自由な発想に基づく研究は、研究者の知的好奇心や探求心に根ざし、その自発性や独創性に基づいて行われるものであり、新たな知の創造や幅広い「知」の体系化を通じて、人類共通の知的資産を創出するとともに、重厚な知の蓄積の形成につながるものである。
 また、このように基盤的であるが故に多様な発展の可能性を持ちうる研究は、イノベーションの源泉たるシーズを生み出すもの(多様性の苗床)であり、研究の成果は知的・文化的な価値の創造のみならず、イノベーションによる新たな経済的・社会的価値の創造を通じて、直接的あるいは間接的に社会の発展に寄与するものである。
 このような研究者の自由な発想に基づく研究は、我が国の将来にわたる持続的な成長・発展や、人類の存続に係る諸課題の解決を図る上で不可欠な「基礎科学力」を支える極めて重要なものであり、一層重視した上で広範かつ持続的に推進していくことが必要である。
 その一方で、近年、これらの研究の中心である大学等(大学及び大学共同利用機関をいう。)の基盤的経費が減少傾向にあること、また基幹的な競争的資金制度である科学研究費補助金についても、応募件数が増加する一方で十分な増額が図られず、新規採択率が低下傾向にあることなどが課題となっており、その一層の充実・強化に向けた取組を着実に進めていくことが不可欠である。また、これらの研究で得られる優れたシーズを基にしたイノベーションによる新たな経済的・社会的価値の創出に向けて、基礎段階にある研究や基盤的な研究を進展させるための取組を強化していくことが必要である。
 さらに、このような研究は、直ちに具体的な成果等に結びつくことが難しいため、公費を投入することに対する説明が困難な面があるが、国民の理解に支えられてこそ、なお一層の研究環境の充実が図られるものであることに鑑み、研究の目的や意義等について、広くわかりやすい説明を行っていくことが重要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)研究資金の一層の拡充
 2)社会に対する説明責任の強化

<推進方策>

1)研究資金の一層の拡充
  • 国は、研究者の自由な発想に基づく研究を支える基盤的経費である国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成を拡充する。また、公的研究機関における、これらの研究に対する財政措置を確実に行う。
  • 国は、研究者の自由な発想に基づく研究を推進するための競争的資金である科学研究費補助金について、一層の拡充を図る。具体的には、将来の規模及び在り方について、どの年齢層に対しても新規採択率30%を確保すること及び間接経費30%を確実に措置することの2つの条件を達成するための取組を推進する。
  • 国は、これらの研究から生まれたシーズを出口まで結びつけるための多様な研究資金制度の整備・充実を図るとともに、これらと科学研究費補助金との連携を強化する。特に、科学研究費補助金等で得られた優れた研究成果等を基に、研究の更なる進展を図るため、基礎段階にある研究や基盤的な研究について集中的かつ重点的に支援する研究資金を一層拡充する。
  • 国は、このような研究の性格上、実施に当たってのリスクは高いが、成果が得られた場合の効果が極めて大きい研究も少なくないことに鑑み、研究者の独創性や研究の発展可能性等を考慮し、研究課題を柔軟に選定することや、ピアレビューを含めた評価システムの在り方について検討する。
  • 国は、近年の財政状況が厳しい状況に鑑み、大学等及び公的研究機関が自助努力により資金を得られる仕組みとして、大学等及び公的研究機関に対する寄附の活性化に資する寄附税制の拡充等を検討する。
2)社会に対する説明責任の強化
  • 大学等、公的研究機関、学協会及びそれらの機関に所属する研究者等は、新しい「知」の創出という社会的使命を担っているとの認識に立ち、研究の意義や期待される成果等について、国民の幅広い理解が得られるよう、情報発信等の取組を積極的に進めることが求められる。
  • 国は、研究者の自由な発想に基づく研究等の推進に関して、その政策的な意義等について、社会・国民に対する情報発信等を積極的に進める。また、大学等及び公的研究機関に対して、アウトリーチ活動の重要性に関する理解の増進を図ることなどにより、これらの取組を一層促進する。

2.知識基盤社会をリードする創造的人材の育成

 天然資源等に乏しい我が国が、持続的な成長を遂げるとともに、地球規模の問題解決等で先導的役割を担っていくためには、我が国の科学技術イノベーションを担う優れた人材を、短中長期の各視点から戦略的に育成・確保していくことが極めて重要である。
 特に、近年、世界的な人・モノ・カネ・情報等の移動が加速し、企業活動や研究活動をはじめ社会・経済におけるあらゆる活動等が国境を越えてグローバルに行われる中、人材は将来的な国の成長・発展の源となるものという認識の下、「知」の獲得をめぐる国際的な競争が一層激化しており、我が国としても基礎科学力の強化に向けて、優れた創造的人材の育成・確保に向けた取組を一層強化していくことが必要である。
 その上で、今後の科学技術イノベーションに携わる人材育成を進めるに当たっては、アカデミアはもとより、産業界も含めた社会の多様な場においてリーダーシップを発揮できる高度かつ多様な人材を重視するという姿勢を明確にしていくことが必要である。
 さらに、科学技術と社会との関わりが深化し、イノベーションの重要性が高まる中、これらを推進するために求められる人材の資質能力等は一層多様化しており、異なる資質能力や背景を持つ個人が集い、それぞれの能力を十分に発揮することにより、組織全体としての力を最大限発揮できるような取組を推進していくことが不可欠である。
 このような視点を踏まえ、今後の知識基盤社会をリードする創造的人材の育成について、以下の主要事項に基づき推進する。
 (1)知識基盤社会で活躍する人材の育成
 (2)世界トップレベルの研究者の養成
 (3)次代を担う人材の育成
 (4)技術者の養成・能力開発

(1)知識基盤社会で活躍する人材の育成

1. 大学院における教育研究の質の向上

 知識基盤社会の多様な場で活躍する優れた人材を育成していく上で、大学院教育が担う役割は極めて大きく、大学院をより魅力あるものとし、また、人材のキャリアパスの一層の充実を図っていくためには、社会・国民からの要請も踏まえつつ、大学院における教育研究活動の質の向上に向けた取組を進めていくことが不可欠である。
 その一方で、産業界が求める人材像を大学に対して発信する取組が未だ十分とは言えず、また大学教員が産業界の多様なニーズを把握できていないため、学生に対する教育研究指導や就職等に関する情報提供が不十分とも指摘されており、社会の多様な場で活躍する人材の確保に向け、産学官連携での人材育成を進めていくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)大学院教育の充実・強化等
 2)大学と産業界との協働による人材育成
 3)大学教員の人材育成に係る意識改革
 4)大学における進路指導体制の強化

<推進方策>

1)大学院教育の充実・強化等
  • 国は、「大学院教育振興施策要綱」に基づく大学院改革を着実に進めるとともに、中央教育審議会における審議を踏まえ、同要綱に基づく成果と課題等について検証を行った上で、今後の大学院教育の改革の方向性と体系的・集中的な取組を明示した、新たな「大学院教育振興施策要綱」を策定する。
  • 大学は、人材育成目的や、それを達成するための目標設定及び教育内容・方法の明確化、学修課題を複数の科目等を通じて体系的に履修するコースワークの充実、良質の教材の開発・活用、研究科・専攻単位での教育方法の開発・展開等の取組を推進することが期待される。
  • 大学は、教育プログラムの基本的事項(大学院修了者が達成すべき資質能力、これを修得するための教育体系、研究指導の方針等)を明らかにするとともに、教育研究の質の向上に向け、基本的事項に係る情報の公表を進めることが期待される。
  • 大学は、教育目的や内容に応じた入学者選抜を適切に行うとともに、博士課程の中で本格的な論文作成の研究に着手するまでの間に、学位取得にふさわしい適性や資質能力が養われているかどうかを適切に審査することが求められる。
  • 国は、上述したような大学の取組を促進するための方策を検討する。また、公表されている大学院教育に関する情報を集約し、一覧できる仕組みを整備するための方策を検討する。
  • 大学は、学士課程における各専攻分野を通じて培うべき「学士力」を明らかにするとともに、論理的思考力や問題解決力、創造的思考力を高める教育活動を行うことが求められる。
2)大学と産業界との協働による人材育成
  • 国は、人材育成における産学官連携を推進し、産業界におけるイノベーションの推進や、アカデミアのプロジェクト研究の実施等に不可欠な「チーム力」を最大化できるリーダーを育成するための取組を支援する。
  • 産業界は、大学に対して大学院修了者に求める人材像を明確化するとともに、大学からの要請に応じて、産業界のニーズを踏まえたカリキュラムの作成や連携大学院の取組等に積極的に参加することが求められる。また、大学等との間で修了者等の就職活動を円滑に進めるための方策について検討する。
  • 大学は、教員の産業界への派遣や企業のインターンシップへの参加、産学協働の研究開発プロジェクトへの参加等を促すとともに、産業界は、再教育・再学習の観点を含め大学に人材を派遣するなど、双方向での人材交流を促進することが期待される。
3)大学教員の人材育成に係る意識改革
  • 大学は、教員の教育活動の履歴を評価する手法の導入等により、教員の教育面の業績を可視化して多面的に評価し、採用・昇任、再任用等の人事や処遇への反映等を通じて、人事の見直しを進めることが求められる。また学生の学修状況や進路について逐次把握し、教育内容の検証を進めることが期待され、国はこれらの取組を促進する。
  • 大学は、教員に対して、授業や研究指導に加え、専攻の運営や教員としての心構え等のプログラムを設けるなど、FD(ファカルティ・ディベロップメント)の実質化を図るとともに、自己研鑽機会(サバティカルリーヴ)を充実することが求められる。
  • 大学は、TA(ティーチングアシスタント)が、将来、大学教員となる大学院学生にとって教授力を研鑽する貴重な機会であることに鑑み、TAの充実や大学院における大学教員養成機能の強化を図ることが求められる。また、国は、このようなTAの充実に組織的に取り組む大学を支援する。
  • 国及び資金配分機関は、競争的資金の目的や特性に応じて、機関を対象とする競争的資金の審査項目にキャリア教育の実施や過去の人材育成の実績等を盛り込み、これらを評価指標の一つとすることを検討する。
4)大学における進路指導体制の強化
  • 大学は、大学院修了者が大学のみならず、民間企業や海外の機関等への就職も視野に入れるよう、情報提供やインターンシップ等の充実、そのためのキャリアアドバイザー等の体制整備等によるキャリア支援を強化することが求められる。また、国は、これらの取組を促進する。
  • 大学は、就職情報提供のワンストップサービス化を図り、学生及び修士・博士課程修了者に対する就職機会の情報提供を充実するとともに、修士課程学生に対し、博士課程に進学する意義についての説明や修了者の進路把握等を行うことが求められる。

2.博士課程進学に対する支援の強化

 優秀な学生の大学院博士課程への進学を促していくためには、大学院在籍時に経済的な支援等を受けることができ、また、修了後にはアカデミアのみならず産業界等に多様なキャリアパスが確保されるとともに、学部卒業者や修士課程修了者と比して、社会的に高い評価を得られるなど、学生が博士課程への進学を自らのキャリアの一つとして視野に入れるよう、支援体制を強化していくことが必要である。
 一方で、博士課程修了後、ポストドクター(※4)となった者の中には、将来のキャリアパスの見通しが得られない者や、ポストドクターの専門分野構成と産業構造から専門性が要請される分野構成との間のミスマッチの影響で、アカデミア以外の進路に進むことができない者等が存在しており、国、大学、公的研究機関、さらには産業界が密に連携して、その解消に向けた取組を推進していくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)大学院学生への経済的支援の充実
 2)博士課程修了者のキャリアパスの多様化
 3)ポストドクターに対するキャリア開発支援


※4 博士号を取得後、研究室の主宰者又は助教等の職に就いていない任期付研究者をいう。

<推進方策>

1)大学院学生への経済的支援の充実
  • 国は、優秀な学生が安心して大学院を目指すことができるよう、TA(ティーチングアシスタント)、RA(リサーチアシスタント)、フェローシップ(研究奨励金)等による大学院学生への給付型の経済的支援を大幅に拡充する。
  • 国は、教育の機会均等を図る観点から、授業料や入学金の負担軽減を図るとともに、貸与基準を満たす希望者全員に奨学金を貸与するなど、家計に応じたきめ細やかな負担軽減策を講じる。
  • 国は、民間企業からの寄附金や受託研究等を活用した大学の自助努力を促進することなどを通じて、大学院学生等に対する経済的支援を充実するよう努める。
  • 国は、上述した取組等により、「博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す」という目標の早期達成を実現する。
  • 大学は、大学院進学に係るコストの提示及び学生に対する経済的支援等に関する見通し(ファイナンシャル・プラン)の提示を行うことが期待される。
2)博士課程修了者のキャリアパスの多様化
  • 大学は、産業界と協働して、博士課程学生に対し、マネジメント能力や複数の専門分野にまたがる課題への応用力等の育成を図るとともに、国はこれらの取組を支援する。また、産業界は、博士課程修了者(ポストドクターを含む。以下同じ。)について、課題設定能力や幅広い科学技術的素養等を評価し、適性に応じて研究職以外でも登用していくことが期待される。
  • 大学は、博士課程学生や修了者を対象に、リサーチアドミニストレーターや知的財産関連職、産学連携コーディネーター、国際業務専門職員等の専門性を必要とする人材、さらに基礎研究の成果を産業化につなげ起業を志す人材(アントレプレナー)等を育成していくことが期待される。また、国は、これらの取組を支援する。
  • 大学は、教育委員会と連携して、博士課程修了者が教員としての資質能力を身につけられる機会を充実する。また、教育に意欲がある優秀な博士号取得者等を教員として活用するための取組を進める。
3)ポストドクターに対するキャリア開発支援
  • 国、大学等及び資金配分機関は、互いに協力し、ポストドクターを任期付きで雇用する際の労働条件や養成の在り方等を示したガイドラインを策定し、ポストドクターのキャリア開発等を組織的・体系的に支援することが求められる。
  • 国は、社会の多様な場で活躍するために必要となる異分野への対応能力や実践的な技術開発能力を身に付けることができるよう、ポストドクターの適性・希望や専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップ等の受入れ促進など、アカデミアと産業界等の連携強化の取組を支援する。
  • 大学等や公的研究機関は、所属するポストドクターにキャリア開発の機会を提供するとともに、ポストドクターの情報をデータベース化するなど、産業界に発信できる体制を整備することが求められる。

3.科学技術人材の多様化の促進

 科学技術イノベーションの推進に当たっては、資質能力や専門分野の異なる構成員が相互に働き合い、多様な視点や発想を取り入れることで研究活動が活性化し、組織全体として創造力が発揮されることが重要であり、男女共同参画や国際交流の推進のみならず、人材の多様性確保の観点から、女性研究者の登用や、海外からの研究者及び留学生の受入れ等を促進していくことが必要である。
 また、研究を進める上で、多様な視点や発想を柔軟に取り入れられる資質能力を身に付けるためには、若い頃から異なる組織や文化を経験することが有益であり、学生が学部卒業後に他の大学院に進学することや、人材の流動化・多様化の観点から多様な経験を有する研究者を積極的に登用すること等を促進していくことが求められている。
 その一方で、女性研究者については、第3期基本計画において採用の数値目標を掲げ、その数は年々増加傾向にあるなど着実な進展が見られるものの、欧米諸国と比較すると未だ低い水準にとどまっている。また、研究環境や生活環境の問題等を一因として、海外からの研究者や留学生の受入れ数は、近年、伸び悩む傾向にある。さらに、研究者の自己研鑽を促し、また研究活動の活性化を図る観点から、研究者に複数の研究機関を経験させることの意義や必要性等が指摘されているところである。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)女性研究者の登用及び活躍促進
 2)海外からの研究者及び留学生の受入れ促進
 3)大学における人材の流動化・多様化の促進

<推進方策>

1)女性研究者の登用及び活躍促進
  • 大学等及び公的研究機関は、女性研究者が出産・育児等と研究を両立できるよう、在宅勤務や短時間勤務、柔軟な雇用形態・人事制度の確立、研究サポート体制の整備等を推進することが求められる。また、国はこれらの取組に対する支援を充実する。
  • 国は、第3期基本計画で掲げられた女性研究者の採用割合に係る数値目標(自然科学系で25%(理学系20%、工学系15%、農学系30%、保健系30%))について、理学・工学・農学分野での早期達成を目指すとともに、女性研究者の活躍をより一層促進するための方策を検討する。
  • 大学等及び公的研究機関は、女性研究者の活躍促進に係る取組状況や女性研究者に関する数値目標について具体的な計画を示し、女性研究者の積極的な確保・活用に努めるとともに、部局毎に女性研究者の職階別の在籍割合を公表することが期待される。
2)海外からの研究者及び留学生の受入れ促進
  • 国は、大学等及び公的研究機関と連携・協力して、海外から優れた研究者を招へいするため、研究機関の魅力の向上・発信や、給与等の処遇面における国際水準の条件整備、事務局の国際対応能力の向上等を進めるとともに、周辺自治体等と連携し、子どもの教育や配偶者の就職など、研究者の家族も含め生活しやすい環境整備を進める。
  • 国は、大学の国際競争力の強化や海外からの研究者や留学生にとって魅力的な大学づくりを進める観点から、大学における留学生受入れ体制の整備や日本人の海外派遣、海外大学との間でのダブルディグリー等の国際的な教育連携等の取組を支援する。
  • 国は、大学等と連携し、「留学生30万人計画」に基づき、優秀な留学生を戦略的に獲得するため、留学の動機づけから就職等に至るまで、総合的な取組を推進する。
3)大学における人材の流動化・多様化の促進
  • 大学は、自校以外の大学院修了者や、自校以外で一定期間ポストドクターや教員を経験した者を積極的に採用するなど、多様な人材の獲得に努めることが期待される。
  • 国は、学生が学部を卒業した後に当該大学以外の国内又は海外の大学院に進学し、学位を取得することを促進するための方策を検討する。また、大学は、このような国内又は海外の大学院での学位取得を目指す学生に対し、支援を行うことが期待される。
  • 大学は、公正・透明に行った採用結果として教員の自校出身者比率(自校学部出身者比率)が高くなることはあり得るものの、人材の流動性・多様性を高める観点からそれが過度に高い場合には、当該比率の低減を図っていくことが期待される。
  • 国は、各大学の教員の職階別の自校出身者比率を公表するなど、研究者の流動性向上に資する方策等を検討する。

(2)世界トップレベルの研究者の養成

1.優れた研究者を養成・確保するための研究資金の充実

 我が国が科学技術イノベーションを推進し、独創的・先進的な研究成果を数多く創出することで世界をリードしていくためには、その直接の担い手となる世界トップレベルの研究者を養成・確保するとともに、これらの研究者の活躍を促進するための支援を強化していくことが極めて重要である。
 しかしながら、大学等の基盤的経費及び人件費の削減等により、近年、若手教員の採用規模が縮小しており、また、研究者の高齢化の進展も相まって、若手教員の割合が年々減少傾向にあると指摘されている。このため、アカデミアを中心に世界をリードすることが期待される研究者が、世界最先端の研究成果の創出に向け、その優れた資質能力を一層発揮して研究を進めることができるよう、研究費や研究環境の整備等に係る研究資金を充実していくことが必要である。また、将来を担う若手研究者の活躍を促進していくため、若手研究者が競争的な環境の下で独創性を発揮し、挑戦的な研究を行うことができるよう、若手向けの研究資金を充実していくことが不可欠である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)世界をリードすることが期待される研究者等を対象とする研究資金の充実
 2)若手研究者を対象とする研究資金の充実

<推進方策>

1)世界をリードすることが期待される研究者等を対象とする研究資金の充実
  • 国は、世界をリードする傑出した研究成果を創出することが期待される潜在能力の高い研究者を対象に、長期的かつ継続的に支援を行う研究資金を充実する。
  • 国は、卓越した洞察力や指導力を有する研究者を対象として、将来のイノベーションにつながる科学技術のシーズや新しい方向性を生み出す研究を推進する競争的資金を充実する。
  • 国は、世界トップレベルの研究実績等を有する研究者を対象に、研究開発において能力を最大限発揮できる環境整備等を進めるための研究資金制度を着実に推進する。
2)若手研究者を対象とする研究資金の充実
  • 国は、若手研究者が能力を最大限発揮して、独創的・挑戦的な研究を行うことができるよう、若手研究者を対象とした競争的資金を充実する。また、大学等は、ポストドクターがアカデミアを目指す者の主要なキャリアパスの一つであると認識し、ポストドクターが競争的資金に積極的に申請することを奨励することが求められる。
  • 国は、研究者の職に就いたばかりのポストドクター等の若手研究者が、自立して活躍できる機会を確保するとともに、その活動を活性化するため、研究活動のスタートアップ時期を支援するための競争的資金を充実する。

2.若手研究者の活躍促進のための環境整備

 将来を担う若手研究者に自立と活躍の機会を与え、その後のキャリアパスを見通すことができるようにするためには、若手研究者を対象とするポストの拡充を図っていくことが必要である。特に、若手教員の割合が減少傾向にある一方で、団塊世代の退職により、大学等の教員等が大幅な世代交代を迎えつつあるこの機を捉えて、若手研究者のポストを増やすとともに、その採用等に際して、より柔軟で透明性の高い人事システムを確立していくことが求められている。
 また、公正で透明性の高い選抜を経た若手研究者に対して、自立して研究に専念できる環境を提供することで優れた研究者を育成するとともに、大学等の人事の見直しにつながるものとして導入が進められているテニュアトラック制(※5)は、ポストドクター等の若手研究者のキャリアパスに係る環境整備につながり、ひいては研究活動の活性化にも資するものである。しかしながら、現在、大学等におけるテニュアトラック制の導入は未だ試行段階であることから、大学等の理念・特色等に応じて、その普及・定着に向けた取組を大幅に充実していくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)若手研究者ポストの拡充
 2)テニュアトラック制の普及・定着の促進


※5 公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組みをいう。

<推進方策>

1)若手研究者ポストの拡充
  • 大学等は、その目的や特性に応じて、業績・業務に応じた処遇の見直しを検討し、全体の人件費に配慮しつつ、准教授や助教等の若手研究者ポストを増加させることが期待される。
  • 大学等は、現在の教授等の退職後の機会に准教授や助教等の若手研究者のポストを拡充していくための方策を検討することが期待される。
  • 大学等は、若手研究者のポストの確保とあわせて、教育目的により合致した適切な教員配置や柔軟な組織改編等の人事の見直し、人事評価の給与等への反映など、人事の適切な改善・運用を進めることが求められる。
2)テニュアトラック制の普及・定着の促進
  • 大学等は、「博士課程からポストドクター、テニュアトラック教員を経てテニュア教員」というキャリアパスをアカデミック・キャリアパスの一つとして確立することが期待される。
  • 国は、テニュアトラック教員の新規採用数を増やすため、テニュアトラック教員の割合について具体的な数値目標を設定(例えば、全大学の自然科学系における若手の新規採用教員総数のうち2割に相当する人数等)し、その達成に向けてテニュアトラック制の導入を進める大学等に対する支援を一層充実する。また、大学等は、テニュアトラック制が単なる任期制ではなく、優れた研究者の育成を主な目的としていることに鑑み、テニュアトラック修了後を見据え、テニュアトラック教員数に見合う十分なテニュア教員ポストを確保することが求められる。
  • 国は、テニュアトラック制の普及・定着を図るため、機関を対象とする競争的な支援制度の審査において、テニュアトラック制の導入など、若手研究者を育成する上で有益な人事上の取組について、評価の対象とすることを検討する。
  • 大学等のうち、特に世界的な教育研究拠点を目指す大学等は、若手研究者を新規に採用する際、大半のポストをテニュアトラック教員とするなど、テニュアトラック制の導入を促進することが期待される。

(3)次代を担う人材の育成

1.初等中等教育に携わる教員の指導力の向上

 我が国が将来にわたり、科学技術イノベーションを着実に推進するとともに、それを国の持続的な成長・発展につなげていくためには、次代を担う才能豊かな子どもたちの育成に向けて、児童生徒が科学技術イノベーションに関する素養や創造性を培うことができるような取組を進めていくことが必要である。
 特に、近年、米国や韓国等の諸外国においては、才能を有する子どもを見出し伸ばす教育に力を入れており、我が国においても、将来の科学技術イノベーションを先導する人材を戦略的に育成していくことが求められている。この点、「教育は人なり」と言われるように、学校教育の質の向上を図る上で教員の果たす役割は極めて重要である。しかしながら、小中学校において理科の指導が苦手な教員が少なくないとされており、新しい学習指導要領に基づく理数教育の一層の充実を図っていくためには、それに携わる教員の指導力を高めるための取組を充実していくことが必要である。
 このため、具体的には、以下のような取組を推進する。

<推進方策>

  • 大学は、理科や算数・数学の指導が得意な教員を養成するため、教員養成段階において、最先端の科学技術等に触れる機会や、観察・実験を行う実習等を充実することが求められる。また、国は、大学と教育委員会とが連携して、教員養成プログラムの開発・実施や地域の理数教育における拠点の構築・活用等を通じ、優れた教育実践を行い、地域の理数教育で中核的な役割を担う教員(コアサイエンスティーチャー)を養成する取組を支援する。
  • 教育委員会及び大学は連携して、専科制等も活用しつつ、理工系学部出身者の教員の活用を検討するとともに、教員を志望する学部学生や理工系の大学院学生、ポストドクター等が、理科支援員等として学校教育を経験できる機会を充実することが求められる。
  • 教育委員会は、大学等とも連携しつつ、現職教員に対して理科や算数・数学に関する研修機会を充実する。

2.児童生徒の才能を見出し伸ばす取組の推進

 将来の科学技術イノベーションの担い手となる人材を育成・確保していくためには、優れた素養を持つ創造性豊かな児童生徒を見出し、その才能の伸長を図っていくことが必要であり、初等中等教育の段階からの一貫した取組を進めていくことが求められる。
 その一方で、諸外国との比較において、我が国では観察・実験等を重視した理科の授業を受けていると認識している生徒の割合が低く、また、科学への興味関心や科学の楽しさを感じている生徒の割合が低いと指摘されており、才能を持つ子どもを育む基盤として、科学技術への興味関心を高め、理科や数学が好きな子どもの裾野を広げていく取組を進めていくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)科学技術への興味関心が高く、理数好きな子どもの裾野の拡大
 2)才能を見出し伸ばす取組の充実
 なお、我が国の中高生は、文系・理系の進路選択により、履修科目が絞り込まれることなどにより、途中での進路変更が難しいとの指摘があるが、自らの専門分野以外に興味関心が向いた場合、それに柔軟に対応できるようにすることも重要である。

<推進方策>

1)科学技術への興味関心が高く、理数好きな子どもの裾野の拡大
  • 国及び教育委員会等は、大学や産業界等と連携し、児童生徒が科学技術と社会との関わりに関する興味や関心を持つことができるよう、研究所・工場等の見学や出前型の実験・授業など、実践的で分かりやすい学習機会を充実する。
  • 国は、研究者や技術者、理工系の大学院学生やポストドクター等の外部人材を小学校の理科授業に活用し、児童の興味関心の向上や授業の充実を図る取組を支援する。
  • 国は、児童生徒が理数教育を通じて科学的な見方や考え方を養うことができるよう学校の観察・実験設備等の整備・充実を支援する。
  • 国は、児童生徒の科学技術に関する興味関心や理解を向上させるため、各地域の科学館等で行われる実験教室や体験活動等の取組を支援する。
2)才能を見出し伸ばす取組の充実
  • 国は、児童生徒が、大学等や公的研究機関等において、理科、算数・数学に関する発展的な内容を学べる機会を充実するとともに、集中して発展的な内容が学べる機会として、サイエンスキャンプ等の場を充実する。
  • 国は、未来を担う科学技術関係人材の育成を目指すスーパーサイエンスハイスクール(SSH)への支援を一層拡充するとともに、その成果を広く他の学校にも普及していくための取組を推進する。
  • 国は、国際科学オリンピック等の科学コンテストに参加する児童生徒を増やすための取組を支援するとともに、理科や算数・数学に優れた才能を有する児童生徒の国内外での交流を促進する。
  • 国は、国際科学オリンピック等の結果や、スーパーサイエンスハイスクールの成果等を大学等の入試において評価する取組を支援するとともに、高等学校在籍中に大学の自然科学系科目や専門科目を科目等履修生として履修する取組や、「出前授業」の実施等を通じ、円滑な高大接続に向けた取組を推進する。
  • 国は、大学や産業界等と連携して、児童生徒が現役で活躍している研究者や技術者と交流し、親しむ機会を充実するなど、初等中等教育段階からのキャリア教育の取組を支援する。
  • 国は、児童生徒の自由な発想に基づく研究発表の機会充実やネットワーク構築等を促進するため、学校における科学部活動を支援する。

(4)技術者の養成・能力開発

 科学技術関係人材として社会で活躍する技術者は、これまで、ものづくりをはじめとして、我が国の産業界を牽引してきたとも言える存在であり、今後の産業界のさらなる発展を実現していく上で、極めて重要な役割を担っている。同時に、アカデミアにおいても、研究活動等で用いられている複雑かつ多様な研究施設・設備等の着実な維持管理・運用等を進めていく上で、技術者は欠くことのできない人材である。
 しかしながら、近年の世界的な産業構造の変化や情報化の進展、科学技術の大規模化・複雑化等に伴い、技術者に求められる資質能力もまた高度化・多様化しており、これらに対応するための技術者の育成方策や、現在、活躍している技術者の能力開発に向けた取組の強化が必要とされている。
 さらに、将来にわたって、このような役割を担う技術者を安定的に養成・確保していくためには、初等中等教育段階からの教育を充実するとともに、社会全体として、技術者が安全で快適な社会を形成するための基盤整備を担っていることを改めて認識し、その社会的役割を高く評価する風土を形成していくことが重要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)技術者の養成のための教育の充実
 2)技術者の活躍促進のための環境整備

<推進方策>

1)技術者の養成のための教育の充実
  • 国、大学、高等専門学校、産業界等は、相互にパートナーシップを組むための「場」を形成するとともに、特に産業界で必要とされる技術者について共通認識を得て、その育成に向けたコアカリキュラムの策定や教材の作成、学生の長期インターンシップ、企業での教員研修等を推進する。
  • 大学は、大学院において、研究者のみならず企業等の技術者を目指す学生がいることを踏まえ、複線的で多様なカリキュラム設定を検討するとともに、学生が柔軟に履修選択できるよう、組織的・体系的な教育体制を整備することが求められる。
  • 国は、日本技術者教育認定機構(JABEE)による専門認定制度について、技術者教育の質の確保を図る観点から、現状の課題等を検証しつつ、その充実に向けた検討を行い、機構の取組を促進する。
  • 高等専門学校は、産業界等との連携による様々な形態での共同教育や、技術者としての創造力の涵養のための一般教育の充実、最新の技術動向に対応するための専攻科の整備・充実等を進めるとともに、老朽化設備の整備等を進める。
  • 大学及び高等専門学校は、社会との関わりの深い工学教育や技術者育成に関する優れた取組等について、積極的な情報提供を推進することが求められる。
  • 国は、情報化の進展があらゆる産業に影響を与えている現状を踏まえ、高度IT人材を育成する取組を、産学や大学間の連携等により推進する。
  • 国は、地域の教育機関や産業界等が協働して、地域における技術の担い手を養成する取組を推進する。
2)技術者の活躍促進のための環境整備
  • 国は、インターネットを活用した自習教材やデータベースの開発・提供など、ニーズに則して能力や知識を継続的かつ効果的・効率的に向上できる環境を整備する。
  • 国は、技術士等の技術者資格制度の普及拡大と活用促進を図るとともに、制度の在り方についても、時代の要請にあわせて見直しを行う。また、産業界等においては、技術士の役割を積極的に評価し、その活躍を促進していくことが期待される。

3.独創的な研究の発展に向けた研究開発システムの改革

 研究者の切磋琢磨による優れた研究成果の創出に向けて競争的な研究環境を醸成し、また、そこで得られた研究成果をイノベーションに結びつけていくためには、このような研究活動を支援するための研究資金を充実するとともに、その研究内容・手法等の独創性や先進性を適切に評価し、研究のさらなる発展等を図るための仕組みを整備していくことが極めて重要である。
 特に、我が国の研究開発を支える競争的資金については、その重要性に鑑み、第2期基本計画で倍増を目指すことが明記されて以降、一貫して、その拡充が図られてきた。しかしながら、近年、競争的資金が微増にとどまっていることに加え、大学等の教育研究基盤に厚みを増す必要性や制度間の連続性・継続性の欠如、さらには運用の硬直性等が指摘されており、優れた研究成果を生み出し、また、イノベーションを加速する観点から、競争的資金の一層の拡充と多様性の確保を図り、併せて、その制度改革を進めていくことが求められている。
 また、国が主導して行う研究開発を効果的・効率的に進めるとともに、優れた研究開発の着実な進展を図る上で、研究開発評価は極めて重要な役割を担っており、これまで内閣総理大臣が決定する「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(以下、「大綱的指針」という。)等に基づく取組が着実に進められてきたが、科学技術によるイノベーションの重要性が一層高まる中、より研究開発の特性を考慮した研究開発評価システムへの改善・充実を図っていくことが必要である。
 このような視点を踏まえ、独創的な研究を発展させる研究開発システムへの改革に関しては、以下の主要事項について推進する。
 (1)競争的資金の拡充及び制度改革
 (2)研究開発評価システムの改善・充実

(1)競争的資金の拡充及び制度改革

1.競争的資金制度の多様性・連続性の確保

 競争的資金制度は、我が国の研究者間や大学等、公的研究機関及び民間企業等の機関間の切磋琢磨を促し、競争的な研究環境を形成していく上で、基幹的な研究資金制度であり、研究者の自由な発想に基づく研究や政策課題に対応した研究開発を対象とする制度、また基礎研究や出口指向の研究を対象とする制度、さらには個人や機関を対象とした制度など、目的や特性等に応じて多様な制度が設けられている。
 このような競争的資金については、全体として、毎年度微増傾向にある一方で、未だ第2期基本計画において目標とした水準には届いておらず、また間接経費の総額も着実に増加しているものの、全ての制度において30%を措置するまでには至っていない。また、競争的資金制度が、個々の制度等を越えて切れ目無くつながる仕組みや、ハイリスク研究等を積極的に取り上げる仕組み等についても課題が指摘されている。
 科学技術の進展に伴い、研究開発の内容や手法等がより高度化・複雑化し、また研究開発の対象等も多岐にわたる現状に鑑みると、このような競争的資金制度の多様性を確保していくことは極めて重要である。その上で、科学技術によるイノベーションを実現していくためには、研究者が独創的あるいは挑戦的な研究に取り組むとともに、その進展段階に応じて研究を継続的・発展的に進めることができるよう、我が国の競争的資金制度全体を俯瞰した制度運用を進めていくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)競争的資金の一層の拡充
 2)イノベーションに向けた競争的資金制度全体のマネジメント
 3)多様な競争的資金制度の整備・充実

<推進方策>

1)競争的資金の一層の拡充
  • 国は、大学等の基盤的経費の確保及び公的研究機関に対する財政措置を前提に、新規採択率の向上や一件当たりの研究費の増額等を目指し、競争的資金について一層の拡充を図る。その際、大学等や公的研究機関等の機関間競争や研究環境整備等の促進に向けて、全ての競争的資金制度において、直接経費を拡充しつつ、早期に間接経費30%を措置すること等を勘案して、全体的な規模の拡充を図る。
2)イノベーションに向けた競争的資金制度全体のマネジメント
  • 国は、我が国の競争的資金制度全体を俯瞰した上で、資金配分機関の多様性の確保を前提に、各々の制度の位置付けを明確化するとともに、制度間の連続性を確保するための体制を構築する。具体的には、国や資金配分機関等が連携・協力を進めるための「場」の構築や、競争的資金制度全体をマネジメントする体制の整備等を推進する。
  • 国及び資金配分機関は、イノベーションに向けて競争的資金の制度間の連続性を確保する観点から、競争的資金の目的や特性に応じて他の制度等で顕著な成果等をあげた研究を、より肯定的に評価するような審査・評価項目等の設定を進める。
  • 国及び資金配分機関は、研究者や機関に対して連続的な支援が可能となるよう、終了直前に評価を実施し、成果が顕著な取組等については支援延長や他制度の活用等による支援を行う仕組みを構築する。
  • 国及び資金配分機関は、独創的な研究成果を生み出すためには長い期間を要する場合があることに鑑み、中長期的な視野に立った研究支援を行う仕組みを整備する。
3)多様な競争的資金制度の整備・充実
  • 国及び資金配分機関は、イノベーションにつながるハイリスク研究や新領域の創生を目指した研究、異分野融合型の研究など、研究の独創性・多様性等を積極的に評価して支援する競争的資金制度を充実する。
  • 国は、大学等や公的研究機関等における人材育成や研究環境の整備等の取組を支援するための競争的資金制度を充実する。
  • 国は、ポストドクター等の若手研究者が自らの研究活動等に係る経費に充当することができ、かつ、それを基に希望する機関に所属して研究活動を行うとともに、所属機関に対して、基盤的経費の確保を前提に環境整備等に係る経費も措置できるような競争的資金制度の創設を検討する。

2.競争的資金制度における審査・評価体制の強化

 社会・国民の十分な理解と支持の下で、イノベーションにもつながる優れた研究成果の創出や競争的な研究環境を実現すること等を目指し、競争的資金の一層の拡充を図っていくためには、競争的資金制度について、その審査や執行等に係る公平性や透明性を高める取組等を着実に推進することにより、社会や国民に対する説明責任を適切に果たしていくことが必要である。
 これまでも、文部科学省をはじめとする各省庁においては、競争的資金の配分が適切に行われるよう、審査・評価体制の充実に努めるとともに、研究費の管理・監査に係るガイドラインを策定するなど不正使用の防止に努めてきたところであるが、より社会・国民からの信頼を得て、研究支援等を行う観点から、これらの取組を一層強化していくことが重要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)公正・透明で質の高い審査・評価体制の整備
 2)競争的資金の不正使用の防止

<推進方策>

1)公正・透明で質の高い審査・評価体制の整備
  • 国及び資金配分機関は、公正・透明で質の高い評価システムを構築するため、若手や女性、産業界関係者など審査員の年齢・性別・所属等の多様性の確保や審査員の評価を進めるとともに、審査における利害関係者の排除や審査結果の開示等を徹底する。
  • 国及び資金配分機関は、競争的資金制度の目的や特性等に応じて、審査・採択方法、審査基準や評価項目・基準等を定めるとともに、それらを公募の際の募集要項等に明記する。
  • 国及び資金配分機関は、競争的資金制度の特性等に応じて、PD(プログラム・ディレクター)・PO(プログラム・オフィサー)の在り方について検討し、その権限と役割の明確化を図った上で、その充実・確保を図る。このうち、特に、政策課題に対応した研究開発を行う競争的資金制度については、資金配分機関等に専任のPD・POを配置し、その責任の下で、全体マネジメント、進捗状況管理、研究開発終了後の評価・助言の実施等を確実に推進する。
2)競争的資金の不正使用の防止
  • 国は、競争的資金の不正使用等について厳正に対処し、大学等及び公的研究機関に対して、研究資金の管理・監査体制の整備を求めるとともに、資金配分機関に対して研究機関の管理・監査体制の状況確認の徹底等を求める。
  • 国は、研究費の配分の不合理な重複や過度の集中を排除するため、大学等及び公的研究機関に対して、所属する研究者のエフォート管理を徹底するよう求めるとともに、「府省共通研究開発管理システム(e‐Rad)」を運用し、競争的資金の配分機関に対して、互いに連携・協力しつつ、競争的資金の適正な執行を行うことを求める。

3.研究者に使いやすい研究資金制度への改革

 競争的資金をはじめとする研究資金が、研究者や機関等に対するインセンティブとして適切に機能するとともに、研究者や機関等において優れた成果が生み出されるようにするためには、これらの研究資金制度について、より効果的・効率的な資金配分や弾力的な資金運用等が可能となるよう、制度の目的や特性等に応じて、その改善を図っていくことが必要である。
 その一方で、研究費の使いやすさは改善しているものの、研究費の使途や会計年度間の繰り越し等に関して課題がある等の指摘が挙げられていること等を踏まえ、引き続きこれらの制度の一層の改善・改革に努めていくことが重要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)競争的資金制度の管理・運用に係る体制の充実・強化
 2)競争的資金制度に関わるルールの統一化・弾力化等

<推進方策>

1)競争的資金制度の管理・運用に係る体制の充実・強化
  • 国は、競争的資金制度の効率的・弾力的な運用や審査・運用等の専門性確保等の観点から、本省が担っている競争的資金制度の審査・配分機能について、その目的や特性等に応じ、可能なものについては資金配分機関への移管を進める。その際、資金配分機関の運営費交付金として措置される競争的資金については予算全体の効率化の対象外とするなど、一定の配慮を行うことを検討する。また、資金配分機関は、競争的資金の審査や評価、管理・運用等に係る体制の充実・強化を進める。
  • 大学等及び公的研究機関においては、間接経費について、その趣旨を踏まえ、研究環境の整備や、資金管理・監査体制の整備、さらには競争的資金の申請支援体制等の整備など、事務処理体制の強化に有効活用していくことが期待される。
2)競争的資金制度に関わるルールの統一化・弾力化等
  • 国及び資金配分機関は、競争的資金制度について、費目間流用や使途の制限、人件費としての使用等について、ルールの統一化・弾力化を推進するとともに、手続きの簡素化・合理化を進める。
  • 国は、研究費の年度を越えた使用の円滑化を進めるため、繰越明許費制度の要件や適用例等の周知、申請手続きの適正・迅速化、繰越事務手続きの簡素化等の取組を進める。
  • 国は、平成21年度補正予算において、研究者が研究開発において能力を最大限発揮できる環境整備等を目的として創設された基金「最先端研究開発支援プログラム」について、研究費の弾力的な運用等の観点から評価を行うとともに、それらの結果も踏まえつつ、我が国の研究資金制度全般について、単年度会計主義との関係を整理した上で、一層の弾力的な管理・運用が可能となる仕組みを検討する。

(2)研究開発評価システムの改善・充実

1.研究開発の特性を踏まえた評価システムの構築

 研究開発評価は、国費を用いて行われる研究開発の質を高め、成果を国民に還元していく上で重要な役割を担うものであり、評価結果を適切に活用することにより、優れた研究開発活動の推進や研究者等の養成、研究者コミュニティの活性化に寄与するとともに、効果的・効率的な資源配分、競争的な研究環境の創出、さらには公的投資に対する説明責任の遂行等が可能となるものである。このような観点から、これまで関係省庁や各機関において、大綱的指針等に基づく研究開発評価の着実な実施が図られてきたところである。
 その一方で、近年、科学技術の進展に伴う研究開発の高度化・複雑化が進むとともに、科学技術によるイノベーションの重要性が高まる中、研究開発評価に求められる内容もまた大きく変化しており、研究開発評価に新たな視点を導入し、研究者や機関の活動の活性化を図るとともに、より効果的・効率的な評価を可能とする観点から、研究開発評価システムのさらなる改善・充実を図っていくことが求められている。
 特に、現在の大綱的指針では、評価の観点が「行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)」に沿って定められているが、研究開発やイノベーション等に関する取組は目的や対象、内容等が多様であり、このような研究開発の特性等を踏まえた評価としていくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)研究開発評価に係る階層の再構築
 2)多様な評価の観点・基準・項目等の設定

<推進方策>

1)研究開発評価に係る階層の再構築
  • 国は、研究開発に係る政策体系を踏まえ、研究開発評価を行う階層について、「政策‐施策‐プログラム・制度‐研究開発課題」に再構築し、それぞれの階層間の適合性や相互接続性を踏まえた評価システムを構築する。同時に、国及び公的研究機関は、施策やプログラム・制度の評価を重視し、国は、その結果を政策の改善・充実等に反映するよう努める。
  • 国は、上述した研究開発評価の再構築の観点を含め、研究開発評価システムの在り方について包括的かつ総合的な検討を行うとともに、その結果を踏まえて、大綱的指針の見直しを行う。
2)多様な評価の観点・基準・項目等の設定
  • 国は、研究開発課題等の評価について、研究の不確実性や研究成果がもたらす効果の多面性・長期性等を考慮した評価の観点を設定する。また、上位の政策や施策、プログラム・制度の目的に則して評価基準・項目を設定する。
  • 国及び資金配分機関等は、研究開発課題等の評価において、ハイリスク研究や新興・融合領域の研究等が積極的に評価されるよう、新たな研究領域の創設の可能性や予期せざる波及効果の有無等を評価するための適切な評価基準・項目等を設定する。
  • 国及び資金配分機関等は、研究開発課題等の評価において、研究開発活動のみならず、若手研究者等の人材育成の取組やアウトリーチ活動、研究環境や研究基盤の整備等を評価基準・項目等として設定することを進める。
  • 国は、大学等及び公的研究機関に対して、研究開発の国際競争力の強化や研究開発の重要性に関する国際的な客観性の確保等の観点から、研究開発評価において、特に有効と考えられる場合には、評価基準・項目への世界的なベンチマークの適用や海外で活躍する研究者等の評価者としての登用等を促進する。また、その効果・影響を踏まえ、我が国に相応しい世界水準での評価方法に向けて見直しを図る。

2.研究開発評価の実施体制の充実・強化

 大綱的指針等に基づく質の高い研究開発評価を通じて、優れた研究開発成果や、それによるイノベーション、効果的・効率的な研究開発の推進、さらには優れた研究開発環境の整備等を促進していくためには、これらの研究開発評価を円滑に進めるための実施体制を構築していくことが必要である。
 特に、資金配分機関や大学等、公的研究機関等においては、評価の重複や過剰な負担等による、いわゆる「評価疲れ」の問題や、研究開発評価の実施に当たっての評価者の確保、また評価に係る事務を支える体制の整備等が課題として指摘されていること等を踏まえ、研究開発評価の重複排除等を検討するとともに、研究開発評価の実施体制について一層の充実・強化を図っていくことが求められる。
 さらに、これらの取組を通じて、評価の重要性を研究者や評価者、さらには機関等で共有できるような評価文化を醸成していくことが重要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)効率的な研究開発評価の実施
 2)研究開発評価に係る体制の整備

<推進方策>

1)効率的な研究開発評価の実施
  • 国及び資金配分機関等は、評価に伴う負担を軽減する観点から、評価目的や評価結果の活用方法、責任主体等の明確化を図った上で評価を行うシステムを構築する。
  • 国及び資金配分機関等は、評価の重複や過重な負担を回避するため、研究開発施策やプログラム・制度、研究開発課題等の各階層の評価結果や機関評価等の結果の活用、評価の軽重の調整など、研究開発評価の合理化・効率化を促進する。また、評価に関わるデータベースの構築・運用等を進める。
2)研究開発評価に係る体制の整備
  • 国及び資金配分機関は、ピアレビューを行う評価者に対する研修等の機会を充実するとともに、退職した研究者等を評価者として活用することを検討する。
  • 国は、評価に関連する専門的知見及び経験を有するマネジメント人材や研究支援人材の育成及びこれらの人材のキャリアパスの確保を推進するとともに、大学等や公的研究機関における取組を促す。また、評価を専門とする研究者を活用し、研究開発評価の方法や理論の高度化を進める。
  • 国は、大学等や公的研究機関に対して、研究開発評価における研究者の過度の負担を軽減し、評価を効果的・効率的に行うための事務体制を整備するとともに、これらの事務に携わる人材の育成や、キャリアパスの確保等を進めるよう促す。
  • 国及び資金配分機関は、競争的資金で行われる研究開発について、制度の目的や特性等を踏まえつつ、PD・POの評価に関する権限及び役割の明確化を図るとともに、専任のPD・POの導入等を促進する。また、国及び資金配分機関は、PD・POの養成・確保に向けて、大学等と協力し、若手研究者等を対象とする研修等の機会を設けるとともに、大学等に対して、PD・POとしてのキャリアを積極的に評価するよう求める。
  • 国及び資金配分機関は、評価の実施主体、評価者及び被評価者が協力して、評価システムを構築するとともに、評価者が評価手法や評価基準等について議論する機会を継続的に設けることを検討するなど、研究者が評価の重要性を共有できる評価文化の醸成に努める。

4.大学等の教育研究力の強化

 我が国が、今後とも知識基盤社会として持続的な成長・発展を遂げていくためには、世界に先駆けて独創的・先進的な研究成果を創出するための研究を着実に推進するとともに、これらの研究開発活動等を担い、我が国の成長の源泉たる優れた人材を継続的に育成・確保していくことが重要である。
 このため、我が国の教育研究活動の主体として、創造性豊かな人材の育成や、新たな知識等を創出する基礎的な研究活動を担っている大学等に期待される役割は極めて大きく、その教育研究力の強化に向けた取組を総合的に推進していくことが求められている。特に、近年、大学等における教育研究を支える基盤的経費が減少傾向にあり、その経営環境が厳しい状況に置かれている中、大学等の教育研究の質の向上を図っていくためには、国として大学等に対する安定的な財政措置を行うとともに、併せて教育研究の充実・強化に向けた取組を幅広い観点から進めていくことが必要である。
 また、大学等に所属する研究者が優れた研究成果を生み出し、その活用を促進していくためには、大学等において知的財産の管理等を専門で行う人材を確保するなど、研究活動を効果的・効率的に推進するための体制整備を進めることが必要である。さらに、研究開発成果の創出のみならず、世界で活躍する研究者等の育成や国内外の優秀な研究者等の確保等にもつなげていく観点から、大学等の施設・設備等を充実するとともに、その一層の利用促進を図っていくことが必要である。
 上述した視点を踏まえ、大学等の教育研究力の強化に関しては、以下の主要事項について推進する。
 (1)大学等の教育研究の質向上
 (2)研究活動を効果的に推進するための体制整備
 (3)大学等の施設・設備整備及び共同利用・共同研究の推進
 (4)研究情報基盤の整備

(1)大学等の教育研究の質向上

 国内外において人口構造や産業構造、社会構造が大きく変化し、また世界の潮流に併せて、大学のグローバル化が急速に進展する中、大学等が、我が国の科学技術イノベーションを支える中核的機関として、教育研究活動等を通じて社会全体に寄与・貢献していく機会は一層拡大している。このような観点から、現在、中央教育審議会においては、中長期的な大学教育の在り方について、公的な質保証システムの在り方の見直し、学生支援・学習環境整備、グローバル化の進展の中での大学教育の在り方など、多様な論点について検討を行っているところであり、これらの審議も踏まえた上で、大学における教育及び研究の質の向上に向けた取組を進めていくことが必要である。
 また、大学共同利用機関は、大学を中心とする我が国の教育研究全体の基盤を支え、新たな研究等の展開を目指す上で極めて重要な役割を担っている。しかしながら、これらの機関に対する運営費交付金等が、近年横ばい若しくは微減傾向にあるなど、これらの機関における共同研究活動等をめぐる状況は厳しさを増しており、大学制度の改革をはじめ、大学共同利用機関を取り巻く状況の変化等を踏まえつつ、その機能強化に向けた取組を進めていくことが必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)大学の教育研究の充実・強化
 2)国際的に卓越した教育研究拠点の形成
 3)大学共同利用機関の機能の強化
 また、大学院教育については、上記で掲げるもののほか、本章2.(1)及び(2)で掲げた取組を推進する。

<推進方策>

1)大学の教育研究の充実・強化
  • 国は、大学における教育研究の多様性と持続性を確保する観点から、大学の教育研究活動に係る基盤的経費である国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成を拡充する。
  • 国は、中央教育審議会における公的な質保証システムの在り方、大学における自主的・自律的な質保証の在り方、グローバル化の進展を踏まえた大学教育、さらに学生の学習環境整備等の幅広い観点からの大学教育の在り方に関する審議を踏まえ、大学教育の一層の改善・充実を図る。
  • 国は、大学間の連携を促進し、教育研究活動の充実を図る観点から、全国共同利用を行う附置研究所として、文部科学大臣の認定を受けた共同利用・共同研究拠点における研究活動を支える安定的・継続的な財政措置を行うとともに、優れた教育や学生支援を行うために大学が共同利用を行う拠点についても、その支援方策を検討する。
  • 大学は、自らのマネジメント力の向上に努め、外部資金等を柔軟に活用して、教育研究施設・設備の充実、教育研究活動に係る推進体制の整備、公的研究費等の管理・監査のための事務局体制の強化等を推進することが期待される。
2)国際的に卓越した教育研究拠点の形成
  • 国は、「グローバルCOEプログラム」について、中央教育審議会で行われる大学院の組織編成の在り方や学内外の連携強化、国内外の優秀な研究者等が協同して教育研究を行うための体制整備、さらには施設設備の共同利用の在り方等の観点からの総合的な検証結果を踏まえた上で、引き続き、次世代を担う優秀な若手研究者の育成を進める観点から、国際的に卓越した教育研究拠点としての大学院の形成に向けた取組を推進する。
3)大学共同利用機関の機能の強化
  • 国は、大学共同利用機関が、単一の大学では整備が困難な大規模な研究施設・設備や、大量の研究情報・データ等を全国の研究者の利用に供し、大学の枠を越えて共同研究を実施する中核的機関としての役割を果たしていることの重要性に鑑み、これらの機関に対する財政措置を確実に行う。
  • 大学共同利用機関は、異なる研究者コミュニティにより支えられた複数の研究機関が1つの法人を構成するメリットを活かし、各法人における一体的な運営の強化や新たな学問領域の創成に努めるとともに、それらを支える体制を強化する観点から、人事や予算における機構長裁量の拡大や機構長補佐体制の強化等を進めることが期待される。
  • 大学共同利用機関は、共同利用・共同研究に供する研究資源の着実な整備を進めるとともに、研究者が大学共同利用機関の研究資源を活用して研究に専念できる環境を整備することにより、我が国の研究全体をリードする中核的機関としてのCOE機能を一層高めていくことが求められる。
  • 大学共同利用機関は、大学全体の教育研究を支援する機能や、共同利用・共同研究拠点をリードする役割、さらには優れた研究環境を活用した大学院教育への貢献等を一層充実させていくことが期待される。

(2)研究活動を効果的に推進するための体制整備

 大学等において、独創的・先端的な研究成果を生み出し、それをイノベーションに結びつけていくためには、研究者のみならず、研究活動全体のマネジメントや知的財産の管理・運用、さらには先端的な施設・設備の維持・管理等を専門とする多様な人材が活躍し、全体として効果的に研究活動を推進することができる体制を整備していくことが必要である。これにより、大学等における教育研究活動の活性化が図られるとともに、これらの教育研究の質の向上にもつながることが期待される。
 しかしながら、大学等においては、現在、これらの専門人材が少ないこと等を一因として、研究者自身が様々な事務的・技術的な業務を担う必要があるため、研究時間を十分確保することができず、結果として大学等における研究活動の停滞や、学生に対する教育の質の低下にもつながりかねないとの指摘もされており、これらの改善に向けた取組を強化していくことが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。

<推進方策>

  • 国は、大学等において、研究開発活動全体のマネジメント、特に競争的資金の獲得や知的財産の管理等に必要な会計・知財等の専門事務を担う研究管理専門職(リサーチアドミニストレーター)や、研究に関わる技術的業務や知的基盤整備等を担う研究技術専門職(サイエンステクニシャン)など、研究活動の推進に関わる多様な人材を充実するための取組を支援する。
  • 大学等は、研究管理専門職や研究技術専門職等を適切に評価し、処遇するとともに、研究活動を効果的に推進するための事務局体制を強化することが求められる。
  • 国は、大学等の教員や研究者等の教育研究業務の支援体制を充実・強化するため、大学等における、修士・博士課程学生等のTA(ティーチングアシスタント)及びRA(リサーチアシスタント)としての登用を支援する。
  • 大学等は、計画的なSD(スタッフディベロップメント)の実施等を通じて、研究活動の推進に関わる多様な人材の養成・確保に向けた取組を進めるとともに、大学等が行う評価において、これらの職員等の役割を適切に評価し、処遇等に反映していくことが期待される。
  • 大学等は、その目的や特性等に応じて、特定の共同研究に参画する教員には一定期間、大学運営等に係る負担を軽減することや研究専従教員とすること、サバティカルリーブを短期間で取得できるようにすること等に配慮することが期待される。

(3)大学等の施設・設備整備及び共同利用・共同研究の推進

 国立大学法人等(国立大学法人、大学共同利用機関法人及び国立高等専門学校をいう。)においては、これまでの第1次及び第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画や、国立大学法人等の自助努力により、耐震化等の老朽再生や狭隘解消、病院再生整備等の取組が着実に進捗してきたところである。
 今後も安心・安全な教育研究環境の確保が求められる一方で、既存施設の老朽化等の更なる進展、新たな政策的課題や社会的要請への対応等の課題が顕在化してきている。このため、国立大学法人等が、高度化・多様化する教育研究活動の発展、国際競争力や産学連携の強化、さらに地域貢献や国際化の推進等に適切に対応していくためには、若手研究者や海外からの研究者、留学生にとっても魅力ある教育研究環境の形成を目指すという視点も踏まえつつ、多様な機能を備えた施設の整備を進めていくことが必要である。同様に、高等教育機関の約8割を占める私立大学においては、研究施設等の整備が学校法人の負担によるところが大きく、それらに遅れが見られるため、我が国の教育研究活動のすそ野を広げる観点から、私立大学に対する支援を充実していくことが求められる。さらに、公立大学においては、設置者である地方公共団体の判断に基づき、財政措置の拡大が図られることが望まれる。
 また、国立大学法人等においては、これまで多様な研究分野や産業等への波及効果を生むとともに、国民に夢や希望を与える大型のプロジェクトをはじめ、先端的・独創的な研究を推進するための研究施設・設備等の整備を進めてきた。
 しかしながら、研究開発の大規模化・複雑化に伴い、施設等の大型化・高度化が進む一方で、運営費交付金や施設整備費補助金の減少等により、研究施設・設備の計画的な整備・更新や維持・管理に必要な経費の確保が困難になりつつあることから、長期的視点に立った安定的・継続的な財政支援を行っていくことが不可欠である。さらに、大学等が有する研究施設・設備等の共同利用・共同研究の推進を図り、先端的・独創的な研究成果を持続的に生み出すことができるような体制を整備していくことも必要である。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)大学等の施設・設備整備の推進
 2)大学等の研究施設・設備の整備及び共同利用・共同研究の推進

<推進方策>

1)大学等の施設・設備整備の推進
  • 国は、現在の大学を取り巻く課題やグローバル化、温室効果ガス削減の取組等の社会的要請も踏まえつつ、計画的な施設の整備を進めるため、今後、重点的に整備すべき施設等を盛り込んだ国立大学法人等全体の施設整備の計画を策定するとともに、安定的・継続的な財政措置を行う。
  • 国立大学法人等は、長期的視野に立ったキャンパス全体の整備計画を策定するとともに、施設の有効活用等の経営的な視点に立った施設マネジメントを一層推進し、施設マネジメント等に関するPDCA(Plan,Do,Check,Action)サイクルを確立し、継続的な取組を進めることが求められる。
  • 国立大学法人等は、寄附や自己収入、長期借入金、PFI(民間資金等活用事業)の活用など、多様な財源を活用した施設整備を進めることが期待される。また、国は、税制上の優遇措置も含め、これを支援するための取組を進める。
  • 国は、私立大学の教育及び研究に果たす役割の重要性に鑑み、私立大学における施設・設備整備を着実に推進するため、私学助成等の充実を図る。
2)大学等の研究施設・設備の整備及び共同利用・共同研究の推進
  • 国は、特に大型装置の整備をはじめ多額の投資を要する大型プロジェクトについて、研究分野毎の研究者コミュニティの議論を踏まえた「ロードマップ」を策定し、これを基本としつつ、客観的かつ透明性の高い評価を行った上で、実施主体となる大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点に対して、安定的・継続的な財政措置を行う。
  • 国は、大学等において世界最高水準の研究成果を持続的に生み出す重厚な研究基盤を長期的な視点に立って計画的に整備するため、研究設備の計画的な整備・更新や、その維持・管理に係る経費について、安定的・継続的な支援を行う。
  • 国は、大学等の有する研究施設・設備を用いた共同利用・共同研究が、個々の国公私立大学の枠を越えて国全体の科学技術の発展に資するものであることに鑑み、これらの活動に供する研究施設・設備に対する安定的・継続的な財政措置を行う。
  • 国は、大学等が保有する研究設備について、限られた資源の有効活用を図る観点から、大学間連携等による相互利用や再利用等を効果的に行うための体制整備を進めるとともに、設備の保守・運用・整備を行う技術職員を確保するなどの方策を講じる。

(4)研究情報基盤の整備

 研究情報基盤は、我が国の大学等における教育研究活動や研究開発活動の全般を支えるライフラインとしての性格を有する基盤的な情報インフラであり、これまで最先端の研究情報ネットワークの整備・運用や大学等及び公的研究機関における教育研究成果等の保存・発信、大学図書館の電子化等の取組を着実に推進してきたところである。
 その一方で、大学等においては、財政上の問題や事務体制、あるいは技術的な問題等により、個々の大学等において、これらの研究情報基盤を整備することが難しい状況等が指摘されており、世界最先端の成果を目指す研究活動等を効果的・効率的に進めるとともに、大学等の教育研究の質を確保していくためには、これらの研究情報基盤の整備を着実に推進していくことが必要である。
 また、昨今、科学技術の研究活動を進める上で、理論、実験、計算(シミュレーション)と並ぶ新たな方法としてe‐サイエンス(※6)が急速に進展しており、今後の我が国の科学技術イノベーションの発展を支える研究情報基盤を整備する観点から、これらの取組についても着実に推進することが求められている。
 このため、具体的には以下の取組を推進する。
 1)研究情報ネットワーク等の整備
 2)研究成果等の発信・流通促進
 3)e‐サイエンスを支える研究情報基盤の構築


※6 高性能コンピュータ、大規模ストレージ、高速ネットワーク等を駆使して、大規模・大量の研究資源や研究成果としてのソフトウェアや論文・データベース等、さらに研究プロセス等を統合・活用して研究を推進するための手法をいう。

<推進方策>

1)研究情報ネットワーク等の整備
  • 国は、最先端の教育研究活動を支える基盤として、研究情報ネットワークや大型コンピュータ等の情報基盤の整備・拡充を進める。特に、高度化・多様化するニーズや需要増に対応するとともに、教育研究活動に必要な研究資源等の共有を推進するため最新の情報通信技術を導入し、安定的かつ信頼性の高いネットワークを構築する。
2)研究成果等の発信・流通促進
  • 国は、論文を中心とする研究成果の情報発信や流通体制の一層の充実を図るため、大学等における機関リポジトリの構築等を促進することにより、論文や観測・実験データ等の教育研究成果の電子化等による体系的収集・保存やオープンアクセスを推進する。また、学協会が刊行する論文誌等の情報発信力を強化するため、これらの電子化等を一層推進する。
  • 大学等は、大学図書館等について、文献・資料の電子化を含めた整備・充実を図るとともに、それらを踏まえた機能強化を図ることが求められる。また、全国各地の博物館等と大学等との連携・交流を推進し、これらの博物館等が有する文献・資料の有効利用を促進することが求められる。
  • 大学等は、大学図書館における電子ジャーナルの効率的・安定的な購読ができるよう、有効な対応方策を検討することが求められる。
  • 情報提供機関は、各機関との連携の下、論文誌の電子化等を効果的・効率的に実施するとともに、各機関のデータをシームレスに利用可能とするなど、高度な情報サービスを構築し、ユーザーが利用しやすい環境を提供する。
3)e‐サイエンスを支える研究情報基盤の構築
  • 国は、大量のデータベースを高度かつ高速に処理する技術をはじめ、多様な情報を有機的に融合する技術の研究開発を進めることにより、e‐サイエンスを支える研究情報基盤を構築する。

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