研究者の自由な発想に基づく研究は、研究者の知的好奇心や探求心に根ざし、その自発性や独創性に基づいて行われるものであり、新たな知の創造や幅広い「知」の体系化を通じて、人類共通の知的資産を創出するとともに、重厚な知の蓄積の形成につながるものである。
また、このように基盤的であるが故に多様な発展の可能性を持ちうる研究は、イノベーションの源泉たるシーズを生み出すもの(多様性の苗床)であり、研究の成果は知的・文化的な価値の創造のみならず、イノベーションによる新たな経済的・社会的価値の創造を通じて、直接的あるいは間接的に社会の発展に寄与するものである。
このような研究者の自由な発想に基づく研究は、我が国の将来にわたる持続的な成長・発展や、人類の存続に係る諸課題の解決を図る上で不可欠な「基礎科学力」を支える極めて重要なものであり、一層重視した上で広範かつ持続的に推進していくことが必要である。
その一方で、近年、これらの研究の中心である大学等(大学及び大学共同利用機関をいう。)の基盤的経費が減少傾向にあること、また基幹的な競争的資金制度である科学研究費補助金についても、応募件数が増加する一方で十分な増額が図られず、新規採択率が低下傾向にあることなどが課題となっており、その一層の充実・強化に向けた取組を着実に進めていくことが不可欠である。また、これらの研究で得られる優れたシーズを基にしたイノベーションによる新たな経済的・社会的価値の創出に向けて、基礎段階にある研究や基盤的な研究を進展させるための取組を強化していくことが必要である。
さらに、このような研究は、直ちに具体的な成果等に結びつくことが難しいため、公費を投入することに対する説明が困難な面があるが、国民の理解に支えられてこそ、なお一層の研究環境の充実が図られるものであることに鑑み、研究の目的や意義等について、広くわかりやすい説明を行っていくことが重要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)研究資金の一層の拡充
2)社会に対する説明責任の強化
天然資源等に乏しい我が国が、持続的な成長を遂げるとともに、地球規模の問題解決等で先導的役割を担っていくためには、我が国の科学技術イノベーションを担う優れた人材を、短中長期の各視点から戦略的に育成・確保していくことが極めて重要である。
特に、近年、世界的な人・モノ・カネ・情報等の移動が加速し、企業活動や研究活動をはじめ社会・経済におけるあらゆる活動等が国境を越えてグローバルに行われる中、人材は将来的な国の成長・発展の源となるものという認識の下、「知」の獲得をめぐる国際的な競争が一層激化しており、我が国としても基礎科学力の強化に向けて、優れた創造的人材の育成・確保に向けた取組を一層強化していくことが必要である。
その上で、今後の科学技術イノベーションに携わる人材育成を進めるに当たっては、アカデミアはもとより、産業界も含めた社会の多様な場においてリーダーシップを発揮できる高度かつ多様な人材を重視するという姿勢を明確にしていくことが必要である。
さらに、科学技術と社会との関わりが深化し、イノベーションの重要性が高まる中、これらを推進するために求められる人材の資質能力等は一層多様化しており、異なる資質能力や背景を持つ個人が集い、それぞれの能力を十分に発揮することにより、組織全体としての力を最大限発揮できるような取組を推進していくことが不可欠である。
このような視点を踏まえ、今後の知識基盤社会をリードする創造的人材の育成について、以下の主要事項に基づき推進する。
(1)知識基盤社会で活躍する人材の育成
(2)世界トップレベルの研究者の養成
(3)次代を担う人材の育成
(4)技術者の養成・能力開発
知識基盤社会の多様な場で活躍する優れた人材を育成していく上で、大学院教育が担う役割は極めて大きく、大学院をより魅力あるものとし、また、人材のキャリアパスの一層の充実を図っていくためには、社会・国民からの要請も踏まえつつ、大学院における教育研究活動の質の向上に向けた取組を進めていくことが不可欠である。
その一方で、産業界が求める人材像を大学に対して発信する取組が未だ十分とは言えず、また大学教員が産業界の多様なニーズを把握できていないため、学生に対する教育研究指導や就職等に関する情報提供が不十分とも指摘されており、社会の多様な場で活躍する人材の確保に向け、産学官連携での人材育成を進めていくことが必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)大学院教育の充実・強化等
2)大学と産業界との協働による人材育成
3)大学教員の人材育成に係る意識改革
4)大学における進路指導体制の強化
優秀な学生の大学院博士課程への進学を促していくためには、大学院在籍時に経済的な支援等を受けることができ、また、修了後にはアカデミアのみならず産業界等に多様なキャリアパスが確保されるとともに、学部卒業者や修士課程修了者と比して、社会的に高い評価を得られるなど、学生が博士課程への進学を自らのキャリアの一つとして視野に入れるよう、支援体制を強化していくことが必要である。
一方で、博士課程修了後、ポストドクター(※4)となった者の中には、将来のキャリアパスの見通しが得られない者や、ポストドクターの専門分野構成と産業構造から専門性が要請される分野構成との間のミスマッチの影響で、アカデミア以外の進路に進むことができない者等が存在しており、国、大学、公的研究機関、さらには産業界が密に連携して、その解消に向けた取組を推進していくことが求められている。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)大学院学生への経済的支援の充実
2)博士課程修了者のキャリアパスの多様化
3)ポストドクターに対するキャリア開発支援
※4 博士号を取得後、研究室の主宰者又は助教等の職に就いていない任期付研究者をいう。
科学技術イノベーションの推進に当たっては、資質能力や専門分野の異なる構成員が相互に働き合い、多様な視点や発想を取り入れることで研究活動が活性化し、組織全体として創造力が発揮されることが重要であり、男女共同参画や国際交流の推進のみならず、人材の多様性確保の観点から、女性研究者の登用や、海外からの研究者及び留学生の受入れ等を促進していくことが必要である。
また、研究を進める上で、多様な視点や発想を柔軟に取り入れられる資質能力を身に付けるためには、若い頃から異なる組織や文化を経験することが有益であり、学生が学部卒業後に他の大学院に進学することや、人材の流動化・多様化の観点から多様な経験を有する研究者を積極的に登用すること等を促進していくことが求められている。
その一方で、女性研究者については、第3期基本計画において採用の数値目標を掲げ、その数は年々増加傾向にあるなど着実な進展が見られるものの、欧米諸国と比較すると未だ低い水準にとどまっている。また、研究環境や生活環境の問題等を一因として、海外からの研究者や留学生の受入れ数は、近年、伸び悩む傾向にある。さらに、研究者の自己研鑽を促し、また研究活動の活性化を図る観点から、研究者に複数の研究機関を経験させることの意義や必要性等が指摘されているところである。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)女性研究者の登用及び活躍促進
2)海外からの研究者及び留学生の受入れ促進
3)大学における人材の流動化・多様化の促進
我が国が科学技術イノベーションを推進し、独創的・先進的な研究成果を数多く創出することで世界をリードしていくためには、その直接の担い手となる世界トップレベルの研究者を養成・確保するとともに、これらの研究者の活躍を促進するための支援を強化していくことが極めて重要である。
しかしながら、大学等の基盤的経費及び人件費の削減等により、近年、若手教員の採用規模が縮小しており、また、研究者の高齢化の進展も相まって、若手教員の割合が年々減少傾向にあると指摘されている。このため、アカデミアを中心に世界をリードすることが期待される研究者が、世界最先端の研究成果の創出に向け、その優れた資質能力を一層発揮して研究を進めることができるよう、研究費や研究環境の整備等に係る研究資金を充実していくことが必要である。また、将来を担う若手研究者の活躍を促進していくため、若手研究者が競争的な環境の下で独創性を発揮し、挑戦的な研究を行うことができるよう、若手向けの研究資金を充実していくことが不可欠である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)世界をリードすることが期待される研究者等を対象とする研究資金の充実
2)若手研究者を対象とする研究資金の充実
将来を担う若手研究者に自立と活躍の機会を与え、その後のキャリアパスを見通すことができるようにするためには、若手研究者を対象とするポストの拡充を図っていくことが必要である。特に、若手教員の割合が減少傾向にある一方で、団塊世代の退職により、大学等の教員等が大幅な世代交代を迎えつつあるこの機を捉えて、若手研究者のポストを増やすとともに、その採用等に際して、より柔軟で透明性の高い人事システムを確立していくことが求められている。
また、公正で透明性の高い選抜を経た若手研究者に対して、自立して研究に専念できる環境を提供することで優れた研究者を育成するとともに、大学等の人事の見直しにつながるものとして導入が進められているテニュアトラック制(※5)は、ポストドクター等の若手研究者のキャリアパスに係る環境整備につながり、ひいては研究活動の活性化にも資するものである。しかしながら、現在、大学等におけるテニュアトラック制の導入は未だ試行段階であることから、大学等の理念・特色等に応じて、その普及・定着に向けた取組を大幅に充実していくことが必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)若手研究者ポストの拡充
2)テニュアトラック制の普及・定着の促進
※5 公正で透明性の高い選抜により採用された若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積むことができる仕組みをいう。
我が国が将来にわたり、科学技術イノベーションを着実に推進するとともに、それを国の持続的な成長・発展につなげていくためには、次代を担う才能豊かな子どもたちの育成に向けて、児童生徒が科学技術イノベーションに関する素養や創造性を培うことができるような取組を進めていくことが必要である。
特に、近年、米国や韓国等の諸外国においては、才能を有する子どもを見出し伸ばす教育に力を入れており、我が国においても、将来の科学技術イノベーションを先導する人材を戦略的に育成していくことが求められている。この点、「教育は人なり」と言われるように、学校教育の質の向上を図る上で教員の果たす役割は極めて重要である。しかしながら、小中学校において理科の指導が苦手な教員が少なくないとされており、新しい学習指導要領に基づく理数教育の一層の充実を図っていくためには、それに携わる教員の指導力を高めるための取組を充実していくことが必要である。
このため、具体的には、以下のような取組を推進する。
将来の科学技術イノベーションの担い手となる人材を育成・確保していくためには、優れた素養を持つ創造性豊かな児童生徒を見出し、その才能の伸長を図っていくことが必要であり、初等中等教育の段階からの一貫した取組を進めていくことが求められる。
その一方で、諸外国との比較において、我が国では観察・実験等を重視した理科の授業を受けていると認識している生徒の割合が低く、また、科学への興味関心や科学の楽しさを感じている生徒の割合が低いと指摘されており、才能を持つ子どもを育む基盤として、科学技術への興味関心を高め、理科や数学が好きな子どもの裾野を広げていく取組を進めていくことが必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)科学技術への興味関心が高く、理数好きな子どもの裾野の拡大
2)才能を見出し伸ばす取組の充実
なお、我が国の中高生は、文系・理系の進路選択により、履修科目が絞り込まれることなどにより、途中での進路変更が難しいとの指摘があるが、自らの専門分野以外に興味関心が向いた場合、それに柔軟に対応できるようにすることも重要である。
科学技術関係人材として社会で活躍する技術者は、これまで、ものづくりをはじめとして、我が国の産業界を牽引してきたとも言える存在であり、今後の産業界のさらなる発展を実現していく上で、極めて重要な役割を担っている。同時に、アカデミアにおいても、研究活動等で用いられている複雑かつ多様な研究施設・設備等の着実な維持管理・運用等を進めていく上で、技術者は欠くことのできない人材である。
しかしながら、近年の世界的な産業構造の変化や情報化の進展、科学技術の大規模化・複雑化等に伴い、技術者に求められる資質能力もまた高度化・多様化しており、これらに対応するための技術者の育成方策や、現在、活躍している技術者の能力開発に向けた取組の強化が必要とされている。
さらに、将来にわたって、このような役割を担う技術者を安定的に養成・確保していくためには、初等中等教育段階からの教育を充実するとともに、社会全体として、技術者が安全で快適な社会を形成するための基盤整備を担っていることを改めて認識し、その社会的役割を高く評価する風土を形成していくことが重要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)技術者の養成のための教育の充実
2)技術者の活躍促進のための環境整備
研究者の切磋琢磨による優れた研究成果の創出に向けて競争的な研究環境を醸成し、また、そこで得られた研究成果をイノベーションに結びつけていくためには、このような研究活動を支援するための研究資金を充実するとともに、その研究内容・手法等の独創性や先進性を適切に評価し、研究のさらなる発展等を図るための仕組みを整備していくことが極めて重要である。
特に、我が国の研究開発を支える競争的資金については、その重要性に鑑み、第2期基本計画で倍増を目指すことが明記されて以降、一貫して、その拡充が図られてきた。しかしながら、近年、競争的資金が微増にとどまっていることに加え、大学等の教育研究基盤に厚みを増す必要性や制度間の連続性・継続性の欠如、さらには運用の硬直性等が指摘されており、優れた研究成果を生み出し、また、イノベーションを加速する観点から、競争的資金の一層の拡充と多様性の確保を図り、併せて、その制度改革を進めていくことが求められている。
また、国が主導して行う研究開発を効果的・効率的に進めるとともに、優れた研究開発の着実な進展を図る上で、研究開発評価は極めて重要な役割を担っており、これまで内閣総理大臣が決定する「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(以下、「大綱的指針」という。)等に基づく取組が着実に進められてきたが、科学技術によるイノベーションの重要性が一層高まる中、より研究開発の特性を考慮した研究開発評価システムへの改善・充実を図っていくことが必要である。
このような視点を踏まえ、独創的な研究を発展させる研究開発システムへの改革に関しては、以下の主要事項について推進する。
(1)競争的資金の拡充及び制度改革
(2)研究開発評価システムの改善・充実
競争的資金制度は、我が国の研究者間や大学等、公的研究機関及び民間企業等の機関間の切磋琢磨を促し、競争的な研究環境を形成していく上で、基幹的な研究資金制度であり、研究者の自由な発想に基づく研究や政策課題に対応した研究開発を対象とする制度、また基礎研究や出口指向の研究を対象とする制度、さらには個人や機関を対象とした制度など、目的や特性等に応じて多様な制度が設けられている。
このような競争的資金については、全体として、毎年度微増傾向にある一方で、未だ第2期基本計画において目標とした水準には届いておらず、また間接経費の総額も着実に増加しているものの、全ての制度において30%を措置するまでには至っていない。また、競争的資金制度が、個々の制度等を越えて切れ目無くつながる仕組みや、ハイリスク研究等を積極的に取り上げる仕組み等についても課題が指摘されている。
科学技術の進展に伴い、研究開発の内容や手法等がより高度化・複雑化し、また研究開発の対象等も多岐にわたる現状に鑑みると、このような競争的資金制度の多様性を確保していくことは極めて重要である。その上で、科学技術によるイノベーションを実現していくためには、研究者が独創的あるいは挑戦的な研究に取り組むとともに、その進展段階に応じて研究を継続的・発展的に進めることができるよう、我が国の競争的資金制度全体を俯瞰した制度運用を進めていくことが必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)競争的資金の一層の拡充
2)イノベーションに向けた競争的資金制度全体のマネジメント
3)多様な競争的資金制度の整備・充実
社会・国民の十分な理解と支持の下で、イノベーションにもつながる優れた研究成果の創出や競争的な研究環境を実現すること等を目指し、競争的資金の一層の拡充を図っていくためには、競争的資金制度について、その審査や執行等に係る公平性や透明性を高める取組等を着実に推進することにより、社会や国民に対する説明責任を適切に果たしていくことが必要である。
これまでも、文部科学省をはじめとする各省庁においては、競争的資金の配分が適切に行われるよう、審査・評価体制の充実に努めるとともに、研究費の管理・監査に係るガイドラインを策定するなど不正使用の防止に努めてきたところであるが、より社会・国民からの信頼を得て、研究支援等を行う観点から、これらの取組を一層強化していくことが重要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)公正・透明で質の高い審査・評価体制の整備
2)競争的資金の不正使用の防止
競争的資金をはじめとする研究資金が、研究者や機関等に対するインセンティブとして適切に機能するとともに、研究者や機関等において優れた成果が生み出されるようにするためには、これらの研究資金制度について、より効果的・効率的な資金配分や弾力的な資金運用等が可能となるよう、制度の目的や特性等に応じて、その改善を図っていくことが必要である。
その一方で、研究費の使いやすさは改善しているものの、研究費の使途や会計年度間の繰り越し等に関して課題がある等の指摘が挙げられていること等を踏まえ、引き続きこれらの制度の一層の改善・改革に努めていくことが重要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)競争的資金制度の管理・運用に係る体制の充実・強化
2)競争的資金制度に関わるルールの統一化・弾力化等
研究開発評価は、国費を用いて行われる研究開発の質を高め、成果を国民に還元していく上で重要な役割を担うものであり、評価結果を適切に活用することにより、優れた研究開発活動の推進や研究者等の養成、研究者コミュニティの活性化に寄与するとともに、効果的・効率的な資源配分、競争的な研究環境の創出、さらには公的投資に対する説明責任の遂行等が可能となるものである。このような観点から、これまで関係省庁や各機関において、大綱的指針等に基づく研究開発評価の着実な実施が図られてきたところである。
その一方で、近年、科学技術の進展に伴う研究開発の高度化・複雑化が進むとともに、科学技術によるイノベーションの重要性が高まる中、研究開発評価に求められる内容もまた大きく変化しており、研究開発評価に新たな視点を導入し、研究者や機関の活動の活性化を図るとともに、より効果的・効率的な評価を可能とする観点から、研究開発評価システムのさらなる改善・充実を図っていくことが求められている。
特に、現在の大綱的指針では、評価の観点が「行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)」に沿って定められているが、研究開発やイノベーション等に関する取組は目的や対象、内容等が多様であり、このような研究開発の特性等を踏まえた評価としていくことが必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)研究開発評価に係る階層の再構築
2)多様な評価の観点・基準・項目等の設定
大綱的指針等に基づく質の高い研究開発評価を通じて、優れた研究開発成果や、それによるイノベーション、効果的・効率的な研究開発の推進、さらには優れた研究開発環境の整備等を促進していくためには、これらの研究開発評価を円滑に進めるための実施体制を構築していくことが必要である。
特に、資金配分機関や大学等、公的研究機関等においては、評価の重複や過剰な負担等による、いわゆる「評価疲れ」の問題や、研究開発評価の実施に当たっての評価者の確保、また評価に係る事務を支える体制の整備等が課題として指摘されていること等を踏まえ、研究開発評価の重複排除等を検討するとともに、研究開発評価の実施体制について一層の充実・強化を図っていくことが求められる。
さらに、これらの取組を通じて、評価の重要性を研究者や評価者、さらには機関等で共有できるような評価文化を醸成していくことが重要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)効率的な研究開発評価の実施
2)研究開発評価に係る体制の整備
我が国が、今後とも知識基盤社会として持続的な成長・発展を遂げていくためには、世界に先駆けて独創的・先進的な研究成果を創出するための研究を着実に推進するとともに、これらの研究開発活動等を担い、我が国の成長の源泉たる優れた人材を継続的に育成・確保していくことが重要である。
このため、我が国の教育研究活動の主体として、創造性豊かな人材の育成や、新たな知識等を創出する基礎的な研究活動を担っている大学等に期待される役割は極めて大きく、その教育研究力の強化に向けた取組を総合的に推進していくことが求められている。特に、近年、大学等における教育研究を支える基盤的経費が減少傾向にあり、その経営環境が厳しい状況に置かれている中、大学等の教育研究の質の向上を図っていくためには、国として大学等に対する安定的な財政措置を行うとともに、併せて教育研究の充実・強化に向けた取組を幅広い観点から進めていくことが必要である。
また、大学等に所属する研究者が優れた研究成果を生み出し、その活用を促進していくためには、大学等において知的財産の管理等を専門で行う人材を確保するなど、研究活動を効果的・効率的に推進するための体制整備を進めることが必要である。さらに、研究開発成果の創出のみならず、世界で活躍する研究者等の育成や国内外の優秀な研究者等の確保等にもつなげていく観点から、大学等の施設・設備等を充実するとともに、その一層の利用促進を図っていくことが必要である。
上述した視点を踏まえ、大学等の教育研究力の強化に関しては、以下の主要事項について推進する。
(1)大学等の教育研究の質向上
(2)研究活動を効果的に推進するための体制整備
(3)大学等の施設・設備整備及び共同利用・共同研究の推進
(4)研究情報基盤の整備
国内外において人口構造や産業構造、社会構造が大きく変化し、また世界の潮流に併せて、大学のグローバル化が急速に進展する中、大学等が、我が国の科学技術イノベーションを支える中核的機関として、教育研究活動等を通じて社会全体に寄与・貢献していく機会は一層拡大している。このような観点から、現在、中央教育審議会においては、中長期的な大学教育の在り方について、公的な質保証システムの在り方の見直し、学生支援・学習環境整備、グローバル化の進展の中での大学教育の在り方など、多様な論点について検討を行っているところであり、これらの審議も踏まえた上で、大学における教育及び研究の質の向上に向けた取組を進めていくことが必要である。
また、大学共同利用機関は、大学を中心とする我が国の教育研究全体の基盤を支え、新たな研究等の展開を目指す上で極めて重要な役割を担っている。しかしながら、これらの機関に対する運営費交付金等が、近年横ばい若しくは微減傾向にあるなど、これらの機関における共同研究活動等をめぐる状況は厳しさを増しており、大学制度の改革をはじめ、大学共同利用機関を取り巻く状況の変化等を踏まえつつ、その機能強化に向けた取組を進めていくことが必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)大学の教育研究の充実・強化
2)国際的に卓越した教育研究拠点の形成
3)大学共同利用機関の機能の強化
また、大学院教育については、上記で掲げるもののほか、本章2.(1)及び(2)で掲げた取組を推進する。
大学等において、独創的・先端的な研究成果を生み出し、それをイノベーションに結びつけていくためには、研究者のみならず、研究活動全体のマネジメントや知的財産の管理・運用、さらには先端的な施設・設備の維持・管理等を専門とする多様な人材が活躍し、全体として効果的に研究活動を推進することができる体制を整備していくことが必要である。これにより、大学等における教育研究活動の活性化が図られるとともに、これらの教育研究の質の向上にもつながることが期待される。
しかしながら、大学等においては、現在、これらの専門人材が少ないこと等を一因として、研究者自身が様々な事務的・技術的な業務を担う必要があるため、研究時間を十分確保することができず、結果として大学等における研究活動の停滞や、学生に対する教育の質の低下にもつながりかねないとの指摘もされており、これらの改善に向けた取組を強化していくことが求められている。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
国立大学法人等(国立大学法人、大学共同利用機関法人及び国立高等専門学校をいう。)においては、これまでの第1次及び第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画や、国立大学法人等の自助努力により、耐震化等の老朽再生や狭隘解消、病院再生整備等の取組が着実に進捗してきたところである。
今後も安心・安全な教育研究環境の確保が求められる一方で、既存施設の老朽化等の更なる進展、新たな政策的課題や社会的要請への対応等の課題が顕在化してきている。このため、国立大学法人等が、高度化・多様化する教育研究活動の発展、国際競争力や産学連携の強化、さらに地域貢献や国際化の推進等に適切に対応していくためには、若手研究者や海外からの研究者、留学生にとっても魅力ある教育研究環境の形成を目指すという視点も踏まえつつ、多様な機能を備えた施設の整備を進めていくことが必要である。同様に、高等教育機関の約8割を占める私立大学においては、研究施設等の整備が学校法人の負担によるところが大きく、それらに遅れが見られるため、我が国の教育研究活動のすそ野を広げる観点から、私立大学に対する支援を充実していくことが求められる。さらに、公立大学においては、設置者である地方公共団体の判断に基づき、財政措置の拡大が図られることが望まれる。
また、国立大学法人等においては、これまで多様な研究分野や産業等への波及効果を生むとともに、国民に夢や希望を与える大型のプロジェクトをはじめ、先端的・独創的な研究を推進するための研究施設・設備等の整備を進めてきた。
しかしながら、研究開発の大規模化・複雑化に伴い、施設等の大型化・高度化が進む一方で、運営費交付金や施設整備費補助金の減少等により、研究施設・設備の計画的な整備・更新や維持・管理に必要な経費の確保が困難になりつつあることから、長期的視点に立った安定的・継続的な財政支援を行っていくことが不可欠である。さらに、大学等が有する研究施設・設備等の共同利用・共同研究の推進を図り、先端的・独創的な研究成果を持続的に生み出すことができるような体制を整備していくことも必要である。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)大学等の施設・設備整備の推進
2)大学等の研究施設・設備の整備及び共同利用・共同研究の推進
研究情報基盤は、我が国の大学等における教育研究活動や研究開発活動の全般を支えるライフラインとしての性格を有する基盤的な情報インフラであり、これまで最先端の研究情報ネットワークの整備・運用や大学等及び公的研究機関における教育研究成果等の保存・発信、大学図書館の電子化等の取組を着実に推進してきたところである。
その一方で、大学等においては、財政上の問題や事務体制、あるいは技術的な問題等により、個々の大学等において、これらの研究情報基盤を整備することが難しい状況等が指摘されており、世界最先端の成果を目指す研究活動等を効果的・効率的に進めるとともに、大学等の教育研究の質を確保していくためには、これらの研究情報基盤の整備を着実に推進していくことが必要である。
また、昨今、科学技術の研究活動を進める上で、理論、実験、計算(シミュレーション)と並ぶ新たな方法としてe‐サイエンス(※6)が急速に進展しており、今後の我が国の科学技術イノベーションの発展を支える研究情報基盤を整備する観点から、これらの取組についても着実に推進することが求められている。
このため、具体的には以下の取組を推進する。
1)研究情報ネットワーク等の整備
2)研究成果等の発信・流通促進
3)e‐サイエンスを支える研究情報基盤の構築
※6 高性能コンピュータ、大規模ストレージ、高速ネットワーク等を駆使して、大規模・大量の研究資源や研究成果としてのソフトウェアや論文・データベース等、さらに研究プロセス等を統合・活用して研究を推進するための手法をいう。
科学技術・学術政策局計画官付