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1.基本認識

 今日、社会・経済が大きく発展した一方で、その影の部分として地球環境問題や資源・エネルギー問題など、世界は大きな問題を抱える状況となっている。さらに2008年、百年に一度と言われる金融危機・経済不況が世界を襲い、今なお深刻な影響を与え、危機の後の世界における新たな秩序形成に向け、世界は変革を求められている。すなわち、グローバル化の更なる進展と様々な構造変化の中で、時代に相応しい社会・経済のシステムや公共政策の在り方が問われている。
 歴史を振り返れば、我が国は戦争という悲惨な経験と時を合わせるように農業社会から工業社会へと移り変わり、戦後の復興期から欧米へのキャッチアップの時代を経て経済的繁栄を手に入れた。そして、1990年代初頭のバブル経済崩壊後の迷走から再生を目指す中で、現在に至り世界における科学技術のフロントランナーの一員として、厳しい大競争の時代に直面している。
 このような時代の変化の中で、1995年、「我が国における科学技術の水準の向上を図り、もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的とする」との高い理念の下に科学技術基本法が制定され、我が国の科学技術政策における一大転換期を迎えた。そしてなお、バブル経済崩壊後の長期的停滞に苦しむ中にあって、1996年に同法に基づく科学技術振興の5カ年計画として第1期の科学技術基本計画(以下、「基本計画」という。)が策定され、以降、第2期及び第3期の基本計画の下で、世界や時代の変化に対応しつつ、我が国における科学技術振興のための弛みない努力が重ねられてきた。そして時代は工業社会から知識基盤社会へと移り、科学技術は社会・経済との関わりをより一層深めるとともに、社会・経済は、価値の創造において科学技術によるイノベーションへの期待を高めている。
 世界的にも、また国内的にも変化の時代にある今こそ、科学技術が世界とともに我が国が存立するための生命線であるとの認識の下に、科学技術基本法の理念に立脚し、我が国の中長期を見据えた新しい国の姿を展望しつつ、時代の変化に即した基本的方針を掲げて、社会・国民に夢と希望をもたらし、社会・国民の理解と共感を得られる新しい科学技術政策の展開を図る時である。
 本章では、我が国の中長期を展望した科学技術の総合戦略に向けた重要政策を提示するに当たっての基本認識について、科学技術を取り巻く諸情勢の変化や諸外国の科学技術政策の動向、科学技術基本法制定以降の主な成果と課題等を挙げつつ述べる。

1.科学技術を取り巻く諸情勢の変化

 現在、我が国をはじめ世界中の国々は、社会的・経済的に一つの岐路とも言うべき大きな環境変化に直面している。各国ともこれらに対処するための様々な政策を講じている中にあって、科学技術政策に期待される役割や、その在り方についても、また大きく変化している。ここではまず、昨今の科学技術政策に関連する世界及び我が国における諸情勢の変化のうち主なものを挙げる。

(1)世界における諸情勢の変化

<地球規模問題の顕在化>

 近年、地球温暖化による様々な環境影響が指摘されており、温室効果ガス削減に向けた各国の取組を促進するため、京都議定書に続く、2013年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みの合意への関心が高まっている。このような中、地球規模の気候変動等が一因とされる自然災害や食糧・水資源の問題が多発し、また、新興・再興感染症の蔓延や人口増加に伴う貧困層の拡大など世界各地で深刻かつ重大な問題が顕在化している。
 また、2008年の原油や食糧価格の急騰をはじめ、近年、世界規模での資源・エネルギーの需給逼迫等を一因として、生活必需品の市場価格が大きく変動する傾向が見られる中で、新たな資源の獲得等に向けた国際的な競争が激化しており、国内外で食糧・資源・エネルギー等の安全保障に対する関心が高まっている。

<新興国の台頭及び世界の経済状況等の変化>

 経済の面では、世界第一位、第二位の経済大国である米国と日本をはじめとするG8が、これまで世界経済あるいは国際政治の中心を担ってきたが、近年、特に経済面を中心に、中国、インド、ブラジル等の巨大な市場を抱える新興国の影響力が増しつつあり、今後、これらの国々の相対的な地位が高まり、長期的には世界の多極化が進むなど、現在の勢力地図が大きく変化することが予想されている。
 特に、2008年10月に米国のサブプライムローン問題に端を発した、いわゆるリーマン・ショックが発生し、第二次世界大戦以降最悪と言われる世界的な金融危機・経済不況に見舞われる中、各国が、内需拡大を中心に大規模な財政出動を伴う経済対策を迫られる一方で、これらの新興国が、世界の成長エンジンとして大きな役割を期待されるなど、経済における世界の多極化の傾向が顕著に見られる。その一方で、今回の経済不況を受け、米国における「グリーンニューディール」と呼ばれる環境技術を活用した社会経済構造の転換と再生をはじめ、新たな成長基盤を模索する動きが広がっており、特に科学技術によるイノベーションが、その鍵として注目を集めている。
 また、経済活動等のグローバル化が進展し、人・モノ・カネあるいは情報の流動化が加速する中にあって、高度な知識や頭脳の獲得に向けた国際的な競争がますます激しさを増している。さらに、グローバル化に伴う国際的な産業構造の変化の中で、事業形態が、従来の閉鎖的・自前主義の垂直統合型ビジネスモデルから、開放的・グローバルな水平分業型のビジネスモデルへと転換(オープンイノベーション)する企業等が増えているなど、イノベーションモデルが多様化しつつあり、近年は、これらの企業等が大きく業績を伸ばしている傾向が見られる。

(2)日本における諸情勢の変化

<社会・経済構造の変化>

 米国に次いで世界第二位の規模にある我が国の国内総生産(GDP)は、近年、減少傾向にあり、2010年にも急伸する中国に抜かれることが予想されている。また、我が国の国民一人当たりのGDPは、年々低落傾向にあり、世界に類を見ない速さで少子高齢化及び人口減少が進む中にあって、我が国が将来にわたり、持続的に成長・発展を遂げていくため、国を挙げて産業競争力の強化や国民生活の質の向上等に向けた取組を進めていくことが急務となっている。
 このような中、上述したような中国、インド等の新興国の急速な台頭や2008年の世界的な金融危機・経済不況に加えて、我が国が得意としてきた自前主義の研究開発モデルの限界、さらには世界的に進むオープンイノベーションへの対応の遅れ等により、これまで日本経済の牽引役であった基幹産業等の国際競争力が長期低落傾向にある。特に、平成20年度の我が国の官民合わせた科学技術研究費が9年ぶりに対前年比減となるなど、経済不況等の影響が研究開発投資にまで深刻な影響を及ぼしている傾向が見られる。国内的には、これらも一因として、失業率の上昇や雇用環境の悪化等を招いており、国際社会においては我が国の存在感が相対的に低下してきている。
 さらに、これまで我が国のアカデミアや産業界を支えてきた優秀な研究者・技術者の大量退職期を迎えつつあり、少子化に伴う若年人口の減少に加えて、特に若年層の理工系離れが進む中、将来の研究者・技術者をはじめ、高度な知識を有する多様な人材を確保していくことや、大学、産業界等の競争力を強化していくことが大きな問題となっている。

<深刻かつ重大な問題への対応の必要性>

 グローバルな問題等への対応も問われている。地球温暖化や資源・エネルギーの問題など国際協調・国際協力による取組が不可欠な問題が顕在化する中、我が国が誇る世界最高水準の科学技術を積極的に活用し、これらの問題解決に向けて、国際的な役割を果たしていくことが求められている。特に、地球温暖化対策では、政府として温室効果ガスの排出量を1990年比で2020年までに25%削減、2050年までに現状から60%から80%削減するという目標を掲げており、その実現に向けた取組や温暖化の影響に適応するための取組を進めるとともに、国際的な合意形成や開発途上国に対する支援等で世界を先導していくことが期待されている。
 さらに、我が国においても、近年、大規模な地震や津波、風水害等の自然災害に加えて、重大事故や感染症、さらには食品安全を揺るがすような問題が頻発しており、国民の暮らしを守り、安心・安全な社会の実現に向けた取組を強化することに対する社会・国民の要請等が一層高まっている。

2.諸外国の科学技術政策の動向

 世界の諸情勢が大きく変化し、国内あるいは地球規模での様々な問題が顕在化する中で、諸外国においては経済や地球温暖化等の未曾有の危機を克服し、将来の持続的発展を実現するための鍵として、科学技術及びイノベーションに関する政策を積極的に展開している。特に、2008年の世界的な金融危機・経済不況を受けて、長期的な国の成長・発展を目指す観点から、これらの政策を、より一層重視するとともに、政府投資のさらなる拡充を図る傾向が見られる。

<米国の取組>

 米国では、2期8年にわたったブッシュ政権の後を受け、2009年1月に民主党のオバマ大統領が就任した。オバマ政権においては、世界的な未曾有の経済危機への対応として、同年2月に総額7,870億ドル(約81兆円)の財政支出を発動する「米国再生投資法」が成立し、総額183億ドル(約2兆円)が研究開発関連機関に配分され、特に基礎研究や医療、エネルギー、気候変動の4つの分野に重点が置かれた。
 また、同年9月には、オバマ政権発足以降の科学技術イノベーション政策を包括する「米国イノベーション戦略」を発表し、米国の持続的発展や高い生活の質、さらには雇用創出等を図る上でイノベーションへの投資が不可欠であるとの認識の下、「米国イノベーションの基盤に対する投資」、「実り多い起業を活性化する競争的市場の促進」、「国家重点目標を達成するためのブレークスルーの加速」の3つの柱で構成される具体的な推進方策等を示すとともに、国全体として総研究開発費(民間と政府の研究開発費合計)を対GDP比3%以上とすることを掲げている。

<欧州の取組>

 欧州連合(EU)では、2008年11月に欧州委員会が「欧州経済回復計画」を発表し、長期的観点に基づく、さらなる経済成長と持続的発展をもたらす「賢明な投資」を含む総額約2,000億ユーロ(約30兆円)の投資計画が盛り込まれ、自動車産業等での研究やイノベーション、エネルギー効率の良い建物や技術への戦略的投資等が示されている。
 また、欧州全体の研究開発戦略の策定及び資金の配分等の仕組みである「第7次フレームワークプログラム(FP7)」(2007年‐2013年)において、FP6と比較して大幅な予算増(期間中の予算の年平均を65%増)を掲げるとともに、「産学連携」、「基礎研究」、「人材育成」、「基盤整備」の4つの基本プログラムに基づくコンソーシアムによる共同研究を推進している。さらに、「リスボン戦略」(2000年3月欧州理事会採択、2005年改定)において、2010年の総研究開発費を対GDP比3%に向上させるとしている。
 英国では、2009年に「ビジネス・イノベーション・技能省」を設立し、世界最高水準の研究基盤の構築と経済力・競争力の強化に向けた一体的な施策の推進を図っている。また「科学・イノベーション投資フレームワーク」(2004年‐2014年)において、総研究開発費の対GDP比を2014年までに2.5%に引き上げることを掲げ、2010年の科学技術基盤予算を大幅に拡充している。
 フランスでは、高等教育、研究及びイノベーションは国の最重要課題であるとの認識の下、2006年の「研究計画法」、2007年の「大学の自由と責任に関する法」に続き、2009年中の「国の研究・イノベーション戦略」の策定に向けた検討が行われている。また、2009年6月に行われた上下両院合同議会での大統領演説において、未来への投資の財源として大規模な国債の発行を発表し、それを受ける形で国全体の優先課題を検討している委員会の報告において、総額350億ユーロ(約4.6兆円)のうち160億ユーロを高等教育・研究・イノベーション支援に配分することが検討されている。
 ドイツでは、2005年の「研究・イノベーション協定」及び「国の改革プログラム」に続き、2006年に連邦政府の研究開発及びイノベーションのための包括的戦略計画である「ハイテク戦略」を策定した。同戦略は、リスボン戦略の目標を達成するための手段でもあり、これに含まれる政策の総規模(2006年‐2009年)は、2007年時点の見積もりで146億ユーロ(約2兆円)とされている。

<その他の主な国々の取組>

 中国では、科学技術による持続的発展や、科学技術・教育・人材立国、独自のイノベーション向上等を基本方針とする「国家中長期科学技術発展計画」(2006年‐2020年)を策定し、2020年までに総研究開発費の対GDP比を2.5%以上とすることなどを目標として掲げるとともに、同計画を詳細化した「5カ年計画」に基づき、基礎研究や人材育成、企業の技術イノベーションの強化等を推進している。
 韓国では、「第二次科学技術基本計画」(2008年‐2012年)において、基礎研究を中心に科学技術予算を2012年までに1.5倍に拡大することや、総研究開発費の対GDP比を5%に引き上げることなどを目標に掲げている。
 インドでは、「国家イノベーション法」の立法に向けて、2008年に「統合科学技術計画」の策定やイノベーション支援対策等を柱とする法律の原案を発表した。また「科学技術政策2003」(2003年発表)において、総研究開発費の対GDP比を、「第10次五カ年計画」の終了時(2007年)までに2%に引き上げることを目標として掲げている。現在進められている「第11次五カ年計画」(2007年‐2012年)においては、基礎研究や人材育成の推進等を掲げている。

3.科学技術基本法制定以降、特に第3期基本計画期間における主な成果と課題

 近年、世界は大きな変化と危機への対応を図る上で、科学技術及びイノベーションの重要性を改めて認識し、具体的な行動を起こしている。
 そもそも科学技術の振興は、これまでも例えば、医薬品や医療技術の発達等による人々の健康改善や平均寿命の延伸、また、新産業の創出やサービスの高度化・効率化と、それによるGDP及び国民所得の向上、さらに生命科学や宇宙開発等による人類の新たな可能性を大きく拓くなど、人々の暮らしや国の成長・発展、さらには人類の繁栄に大きく寄与してきた。
 天然資源に乏しい我が国においては、このような科学技術の振興が我が国の経済社会の発展と国民福祉の向上等にとって極めて重要であるとの認識の下、平成7年に制定された科学技術基本法に基づく3期15年にわたる基本計画の下で、政府を挙げての科学技術の振興が図られてきたところである。
 同法制定以降、政府の研究開発投資の増加や研究開発基盤の整備、科学技術のシステム改革等は着実に進展し、数多くの優れた研究成果や実績が上がっている。しかしながら、我が国や世界における深刻かつ重大な問題解決に向けた科学技術の一層の貢献や、将来の科学技術を担う人材の育成、研究開発を支える基盤の整備等において課題も指摘されており、今後の科学技術政策を展開するに当たっては、これらを踏まえた対応を図っていくことが必要である。
 このため、科学技術基本法制定以降、特に第3期基本計画期間における主な成果と課題について挙げる。

<画期的な研究開発成果の創出等>

 これまで、研究開発投資とともにシステム改革等の取組を進めてきた結果、大きな成果が上がっている。具体的には、政府研究開発投資が支えた主な成果例として、iPS細胞の創出や次世代画像表示技術(有機EL)、放射線によるがん治療技術(重粒子線治療)、次世代蓄電システム(自動車用・自然エネルギー用)、自然災害の減災システム技術、月・惑星探査や地球観測、宇宙ステーション等の地球と宇宙の探査・観測技術等が挙げられる(※1)。
 また、この10年で、自然科学系の日本人ノーベル賞受賞者は8人となり、特に平成20年には4人の受賞者を輩出(物理学賞については3人が受賞者独占)するなど、世界的にも我が国の基礎科学力は高く評価されている。

<研究開発投資及び科学技術の戦略的重点化>

 次に、第1期から第3期までの基本計画においては、期間内における政府の研究開発投資の目標額を設定し、その達成に向けて、国を挙げて研究開発投資の拡充の努力が重ねられてきた。その結果、第1期基本計画以降、政府研究開発投資は着実に増加しているが、近年、米国等の先進国のみならず、中国等をはじめとする新興国が科学技術関係の投資額を大幅に増加する中にあって、我が国の政府研究開発投資は、ほぼ横ばい若しくは微増にとどまる状況が続いている。このままでは、科学技術への投資に関する諸外国との差がさらに拡大し、我が国存立の生命線たる科学技術が、将来的に弱体化していくことが強く懸念されている。

‐ 第1期:目標の約17兆円に対し、実績は約17.6兆円。
‐ 第2期:目標の約24兆円(対GDP比1%、期間中の名目成長率3.5%)に対して、実績は約21.1兆円(期間中の対GDP比平均0.85%、名目成長率平均0%)。
‐ 第3期:目標の約25兆円(対GDP比1%、期間中の名目成長率平均3.1%)に対して、実績は平成21年度1次補正までで約17.3兆円(平成20年度までの対GDP比平均0.82%、名目成長率平均‐0.6%)。

 また、第2期及び第3期基本計画に基づき、「重点推進4分野」及び「推進4分野」(※2)さらには国家基幹技術を含む戦略重点科学技術等への研究開発投資の重点化が進展する一方で、国の政策課題や社会的なニーズに対応した研究開発、異分野融合型の研究開発等への取組の必要性が高まっている。加えて、諸外国においては、将来の成長・発展の芽として基礎研究への投資を拡大する傾向が見られ、我が国においても、それに遅れをとらないよう基礎研究を一層重視して推進していくことが求められている。


※1 「政府投資が支えた近年の科学技術成果事例集」(2009年3月科学技術政策研究所)より引用。
※2 「重点推進4分野」:ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料「推進4分野」:エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア

<科学技術システム改革>

 さらに、第3期基本計画においては、科学技術システム改革として人材の育成や競争的環境の醸成、大学の競争力の強化、産学官の連携、さらには国際活動の戦略的な推進等が掲げられ、これに基づき、具体的な取組が進められている。
 このうち、人材育成に関しては、大学院重点化により、博士課程修了者の量的拡大が図られ、知識基盤社会としての我が国を支える高度な知的人材が多数輩出されている。しかしながら、大学における若手研究者ポストの不足に加え、アカデミア以外の就職先の多様化が進んでいないなど、産学の間の需要供給のミスマッチ解消やキャリアパスの確保等が課題となっている。また、国民、特に若年層の科学技術に対する関心が低下する中で、次代を担う人材育成の在り方も課題として指摘されている。
 また、新たな知の創造と継承、さらには優れた人材の育成を担う大学・大学院の役割の重要性が増す一方で、近年、大学の教育研究基盤を支える国立大学法人運営費交付金及び施設整備費補助金、私学助成が大幅な減少傾向にある。さらに、大学の研究施設・設備等の整備は着実に進展してはいるものの、財政状況の厳しい折、施設等の老朽化対策に加え、教育研究の高度化・多様化や新たな社会的ニーズへの対応等が課題として指摘されている。このような中、我が国の大学の国際競争力の強化の観点も含め、国際的に卓越した大学院の形成や世界トップレベルの研究拠点の形成が進められているが、世界の大学等と伍していくため、一層の取組の強化が求められている。
 我が国の大学等の研究活動や研究開発のシステム改革等を支える競争的資金については、第2期基本計画で掲げた期間中における総額の倍増には至らなかったものの着実に増加傾向にある。しかしながら、採択率や研究環境の改善を図る観点から、これらの競争的資金について、一層の拡充を図るとともに、研究費の弾力的な運用や間接経費の確実な措置等を進めていくことが求められている。
 産学官の連携に関しては、イノベーションの原動力として、産学での共同研究や技術移転、大学発ベンチャーが増加するとともに、特許取得件数及び特許実施料収入も増加傾向にあるなど、大きな進展が見られる。その一方で、企業等において世界的に進むオープンイノベーションへの対応等の観点から、新たな産学官連携や知的財産戦略の在り方を検討する必要性等が課題として指摘されている。
 科学技術の国際活動に関しては、近年、海外で研鑽を積む若手研究者の数が減少傾向にあり、また、受入れ環境の問題等も一因として、海外の優秀な研究者等の招へいが十分進んでいない状況が見られる。さらに、第3期基本計画以降、科学技術外交との視点に立ち、専ら開発途上国等への科学技術面での支援に関する取組が積極的に進められているものの、地球規模の問題が顕在化する中、国として、科学技術の国際活動を我が国の科学技術の一層の発展に役立てることも念頭に置きつつ、先進国から開発途上国まで多様で重層的かつ戦略的に推進していくことが求められている。
 さらに、我が国の科学技術の推進において重要な役割を担っている研究開発法人については、独立行政法人化以降、運営費交付金及び施設整備費補助金等が減少傾向にあるなど、卓越した研究成果の創出や人材育成、保有する大規模な研究施設・設備の整備・運用や、その幅広い共用等を進めていく上での課題が指摘されている。そのような中、平成20年に制定された「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(平成20年法律第63号)」(以下、「研究開発力強化法」という。)及びその附帯決議において、研究開発法人の在り方を含め、研究開発システムの在り方について総合科学技術会議が検討することとされており、早急な対応が求められている。

<総合科学技術会議の役割>

 総合科学技術会議は、我が国の科学技術政策の総合調整を担う組織として、これまで分野別推進戦略の策定や資源配分方針の策定等により、国の科学技術政策の総合的かつ計画的な推進に努めてきた。しかしながら、府省横断的な科学技術政策の推進やイノベーションを阻む隘路の解決等に向けて、総合科学技術会議の改組も念頭に、一層の機能強化が求められている。

<その他>

 第3期基本計画以降、海洋基本法(平成19年法律第33号)及び宇宙基本法(平成20年法律第43号)が制定されるとともに、それらに基づき海洋基本計画及び宇宙基本計画が策定されるなど、それぞれの分野において、科学技術の観点も含め、政府一体としての総合的な取組の推進が図られており、これらの計画と整合性を持ちつつ、科学技術政策を推進することが求められている。

4.我が国の科学技術政策に求められる基本姿勢

 これまで述べてきたような国内外の状況認識等で明らかなように、今、我が国を含め、世界の政治・経済の勢力地図や経済社会構造が激変する歴史的な転換点にある。これまでは、世界第一位、第二位の経済大国である米国及び日本が、その他の国々を引き離して、世界経済の中で大きな地位を占め、また、G8を中心とする先進国が国際的な政治や経済等の議論をリードし続けてきた。しかしながら、近年、世界経済における中国、インドをはじめとする新興国の台頭により、世界の多極化が急速に進展しており、特に昨今の世界的な経済不況の脱出に向けて、これらの新興国を交えたG20が、国際経済協力を協議する第一の場として位置付けられたことからも、先進国の相対的な地位の低下と多極化の動きが顕著に見てとれる。
 このような世界の潮流の中にあって、我が国は、GDPの規模が2010年にも中国に追い越されることが見込まれるなど、新興国がGDPの規模を拡大する中で、これまでのように世界経済の中で大きな割合を占める経済大国としての地位を維持し続けることは難しく、長期的には世界の中での相対的地位が低下していくことは避けられない。このため、我が国が、今後どのような分野や領域等で強みを発揮し、持続的な成長・発展や国民の豊かな暮らしの実現、さらには世界における確たる地位の保持等を目指していくのか、世界の中での我が国の将来的な立ち位置を明らかにするとともに、それに向けた国の大きな戦略を持つべき時期に来ていると認識すべきである。
 一方で、我が国の足下を見れば、ここ十数年に及ぶ経済的な停滞に加えて、2008年以降、世界を襲った未曾有の金融危機及び経済不況により、これまで我が国を支えてきた基幹産業までもが大きな影響を受けている。また、世界に類を見ない急速な高齢化が進展するとともに、少子化に伴って人口減少期に突入しており、今後、社会保障等に係る国民負担が増加することが見込まれるなど、将来に向けて、社会や国民生活を取り巻く環境は一層厳しさを増している。さらに世界に目を向ければ、環境問題、エネルギー問題、さらに貧困問題等の地球規模の問題については、これまで各国あるいは国際機関において、様々な努力が行われてきたものの、未だ解決への道のりは遠く、難問が山積している状況にある。
 このような現状を踏まえ、我が国としては、国内における資源や人口をはじめとする様々な「制約」を克服しつつ、社会・国民に対して、安心・安全で質の高い生活を実現するとともに、安定した就労環境の下、持続的な経済成長を実現することを目指し、国としてあらゆる政策を総動員した総合的かつ体系的な取組を進めていくことが極めて重要である。また、上述したように、近年、地球規模で発生している深刻かつ重大な問題が顕在化する中、我が国としても、先進国の一員あるいは世界第二位の経済大国として、世界各国と協調・協力しつつ、多面的な政策手段を講じることで、積極的な役割を果たしていくことが一層求められている。
 その中でも、特に科学技術は、天然資源等に乏しい我が国にとって、最も有力な手段かつ資源であり、これまでの基本計画等に基づく科学技術振興により、着実にその成果が上がるとともに、現在も世界トップレベルの水準を維持し続けている。一方で、近年、諸外国においても科学技術の重要性に対する認識が高まり、その振興に向けて国家戦略の策定や投資の大幅な拡充が進められている中、今後、我が国の科学技術面での国際的な優位性が揺らぎかねないと懸念されている。しかしながら、科学技術こそが、我が国が将来にわたり産業競争力の強化や医療福祉水準の向上等を通じて、安定的で持続的な成長・発展を実現するとともに、地球温暖化をはじめとする地球規模問題への積極的な貢献を果たし、世界における日本の存在感を高めていく上で欠かすことのできない、まさに国の生命線とも言うべきものである。さらに、科学技術により生み出された成果や、科学技術の振興それ自体が、社会・国民に対して夢と希望をもたらし、ひいては国の活力を生み出すものである。
 このため、我が国として、科学技術に関する幅広い政策を国家戦略として明確に位置付け、中長期的な視点に立って、その推進を図っていくことが必要である。また、このような科学技術政策の推進に当たっては、目指すべきものや期待される成果、その重要性や果たすべき役割等について、広く社会・国民が認識を共有することができるようにするとともに、科学技術の性格上、その成果が目に見える形で社会に還元されるまでには長い時間を要することも少なくなく、短期的な視点あるいは経済的な利益のみの視点から評価されるべきものではないことから、科学技術の振興は未来への先行投資であるということについての深い理解と、それを推進することに対する高い支持を、社会・国民から得ていくことが不可欠である。
 ここにおいて、今後の我が国の科学技術政策については、単に科学技術の振興それ自体を目的とするものにとどまらず、社会・国民からの要請を踏まえ、豊かな国民生活あるいは人類社会の実現に向けて科学技術の知見を新たな価値の創出に結びつけるものとして、我が国あるいは世界のための「社会・公共政策」の主要な一つであるという位置づけを改めて明確にするとともに、国として、これを強力に推進していくという姿勢を示していくことが必要である。
 その上で、今後の科学技術政策の推進に当たっては、我が国の社会・公共政策全体の基本的な方針として挙げられる、

1)医療や社会福祉、子育て、教育等が保障され、また多文化が共生する中で、国民の誰もが安心した生活を送ることができ、分け隔て無く社会参画できるようにすることを目指す
2)雇用や人材育成等のセーフティーネットを整備し、また食や治安等に関する安心・安全を確保しつつ、新たな雇用や需要を創出することで持続的・安定的な経済成長の実現を目指す
3)我が国が持つ豊かな経験と実力を活かし、人類生存に関わる危機に立ち向かうとともに、アジアをはじめとする世界各国と真の信頼関係を築き、多面的な協力を進めていくことを目指す
等の方向性と軌を一にして、総合的かつ戦略的な推進を図っていくことを基本姿勢としていくことが極めて重要である。

5.科学技術政策により中長期的に目指すべき国の姿

 「社会・公共政策」の一つとしての科学技術政策の位置付けを明確にするとともに、我が国全体の政策の方向性と軌を一にして推進していくという基本姿勢に基づき今後の政策を展開していくに当たっては、社会・国民の要請等を十分に踏まえて行うという視点に立ち、科学技術政策により達成することが期待される大きな目標を中長期的に目指すべき国の姿として掲げ、その実現に向けて諸施策を推進していくことが重要であると考えられる。
 すなわち、今後の科学技術政策については、まずは国民の誰もが安定した就労環境の下、将来にわたって質の高い生活を送ることができるようにするため、科学技術を活用することにより、社会・国民を取り巻く様々な課題への対応策を提示していくという方向性を一層明確にすることが必要である。同時に、我が国は世界の中で、一つの極を成す経済大国として、また成熟した民主国家として、国際社会に対して大きな責任を有しており、我が国の誇る先端的な科学技術によって、世界あるいは地球、さらには人類生存のために、地球規模で発生する深刻かつ複雑な問題の解決に積極的に貢献するという方向性を示していく必要がある。
 さらに、科学技術の振興や、それによって得られる成果は、国民に夢と希望をもたらすとともに、世界における知的先進国としての地位向上に貢献し、ひいては将来に向けた国の活力にもつながるものであることから、科学技術の進歩に対する絶え間ない挑戦を続け、また、それを許容する社会的土壌を育んでいくという方向性についても示していくことが重要である。
 このような視点を踏まえ、以下の通り、我が国が科学技術政策により中長期的に目指すべき5つの国の姿を掲げ、これらを大きな目標として科学技術政策を進めていくべきである。

1.安心・安全で、質の高い社会と国民生活を実現する国

 産業構造の変化や、少子高齢化等に伴う社会構造の変化が急激に進む中にあって、安定した就労環境の下、全ての国民が健康長寿の恩恵を享受し、また、地震・火山・津波・台風等の自然災害や重大事故、テロ等の不安や脅威から守られる社会の実現に向けて、医療・社会福祉や防災、食品安全等に関する科学技術を推進することで、将来にわたり安心・安全で質の高い社会及び国民生活を実現するとともに、それらを国民の誇りとしていく国となる。

2.国際的優位性を保持しつつ、持続的成長・発展を遂げる国

 資源・エネルギーに乏しく、また少子高齢化の進展や人口減少が予想されるなど、様々な「制約」がある中でも、低炭素社会や循環型社会をはじめ、世界のモデルとなる社会像を掲げ、その実現に向けて、イノベーションを通じた新産業の創出やサービスの高度化等にも結びつく最先端の科学技術や国の存立の基盤となる科学技術に取り組むとともに、それらを担う優れた人材を育成・確保することで、国際的な優位性を保持しつつ、将来にわたり持続的な成長・発展を遂げていく国となる。

3.世界各国と協調・協力し、地球規模問題の解決を先導する国

 地球の将来に重大な影響を与えるおそれのある地球温暖化や、気候変動に伴う洪水・干ばつ、高潮等の自然災害、貧困国を中心に蔓延する新興・再興感染症、世界人口の増加を一因とする食料・水、資源・エネルギー等の欠乏、さらには生物多様性の喪失など、地球規模で発生し、国際協調・国際協力による取組が不可欠な問題に対して、重層的かつ多様な科学技術によるイノベーションを推進し、対応策を提示することで、これらの問題解決を先導していく国となる。

4.多様性があり、世界最先端の人類の「知」の資産を創出し続ける国

 これまで人類が築き上げてきた英知を基に、人類のフロンティアを開拓するとともに、次代を担う子どもたちに科学技術への夢や希望を与え続けていくため、真理探求等を目指す研究者の自由な発想に基づく研究や、宇宙、地球、生命など人類未知・未踏の領域の探索に挑戦する科学技術を推進することで、多様性があり、世界最先端の人類の「知」の資産を創出し続ける国となる。

5.科学技術を文化や文明の礎として育む国

 科学技術は、本来、経済的・社会的価値のみならず、知的・文化的価値の創出をもたらすものであるが、科学技術を芸術創造等にまでも幅広く結びつけ、高度に発展させてきた我が国の歴史を踏まえ、これをさらに一歩進めて、科学技術の研究開発活動や、それに携わる人々、さらにそれを育む土壌、すなわち科学技術それ自体について、社会全体が文化あるいは文明社会の礎として育んでいく国となる。

6.今後の科学技術政策における基本的方針

 我が国を取り巻く国内外の諸情勢が大きく変化する中、「目指すべき国の姿」を実現していくためには、新たな知的資産を創出し、重厚な知の蓄積を目指すとともに、国として取り組むべき重要な政策課題を明確に設定した上で、それらの課題への対応に向けて、イノベーションを目指した科学技術を総合的に推進していくという方針を明確に示すことが必要である。その際、今後は社会・国民の参画も得て政策課題を設定していくという考え方が、特に重要となる。
 また、資源・エネルギー等で「制約」の多い我が国において、これらの政策を確実に推進していくためには、現在そして将来を担う「人材」が極めて重要であり、知識基盤社会における多様な場で活躍できる優れた人材を育てていくという方針を、一層明確にする必要がある。
 このような視点を踏まえ、以下の通り、今後の科学技術政策における3つの基本的方針を新たに掲げ、政策を実行していくべきである。

1.科学技術政策から「科学技術イノベーション政策」へと転換する

 これまでの3期にわたる基本計画の下での政策推進により、我が国は世界的にも高い科学技術水準を有する国となった。その一方で、科学的な発見や発明等をイノベーションを通じて、成果の社会還元や新たな価値創造に結びつけていく取組や、社会的な課題に対応するために科学技術を積極的に活用していくという政策的な取組は、未だ途上にあると言える。
 他方、世界的な金融危機・経済不況を受けて、米国をはじめ世界各国が新たな時代における経済成長の方向性を模索する中で、将来的な国の新たな成長軸の獲得を目指して、科学技術によるイノベーションを政策的に推進する動きが急速に拡がっている。また、国際的な産業構造についても、従来、我が国が得意としてきた垂直統合型のビジネスモデルのみならず、国際水平分業型のビジネスモデルが拡大する動きが顕著であり、達成すべき課題を設定した上で関連する知識や技術を集積し、ソリューション技術として提案するという形が注目されるなど、イノベーション形態の大きな変化が生じている。
 このような中にあって、高い科学技術水準を持つ我が国においても、今後、科学技術を国の成長力の柱として一層強力に推進することはもとより、単に科学技術の進展のみを目指す政策にとどまらず、科学技術の進展により得られた成果の社会還元を一層推進するとともに、科学技術を取り巻く社会・経済等までも幅広く視野に収め、社会ニーズ等に基づく重要な政策課題を設定し、それらの課題解決に向けた取組を促進する観点から、科学技術政策と、科学技術に関連するイノベーションのための政策とを組み合わせた総合政策への転換を図ることが不可欠である。
 このため、今後は、このような総合政策を「科学技術イノベーション政策」と位置付け、国を挙げて強力に推進することを基本とする。ここにおいて、「科学技術イノベーション」とは、単に研究開発で得られた成果を事業化・産業化に結びつけることを意味するのではなく、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて新たな経済的価値や社会的・公共的価値の創造に結びつけること」として定義付ける。
 また、科学技術イノベーション政策においては、1)科学技術による創造的・先端的な研究成果を創出するとともに、それらを発展させて新たな価値の創造に結びつける、2)予め達成すべき課題を設定し、それらを実現するため関連する科学技術を総合的に推進する、という2つの政策的アプローチが存在する。
 このため、政策の推進に当たっては、それぞれの政策的アプローチに対応し、次章以降において、1)に該当する「2.基礎科学力の強化」と、2)に該当する「3.重要な政策課題への対応」に整理した上で双方を車の両輪として位置付け、関連する研究開発システムの改革を含めて、その推進を図っていくことが必要である。さらに、社会制度をはじめ、社会との関わりの中で総合的な政策の推進が必要であり、これは次の2.で述べる「4.社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に基づき推進する。

2.科学技術イノベーション政策を「社会とともに創り、実現」する

 1999年7月にハンガリーのブダペストにおいて、世界科学会議が開催されてから10年を迎えた。この時に採択された「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」は、それまでの知識あるいは開発のための科学という視点にとどまらず、「社会における科学と社会のための科学」という考え方を示し、科学者に対して人類の福祉や持続的な平和と開発への貢献、さらに倫理的問題への対処を求める画期的なものであった。
 この宣言が出されて10年が経過した今日、社会と科学技術との関わりは、より密接なものになるとともに、我が国が科学技術イノベーション政策を掲げる上でも、その重要性は一層高まっている。このため、今後の政策の推進に当たっては、これらの政策が社会・国民の課題やニーズに応えるものとして、企画立案から推進段階において国民の参画を得るとともに、その成果については広く社会に還元されることが強く要請されていることを改めて認識する必要がある。
 このような点を踏まえ、今後は、「社会とともに創り、実現する」という観点に立脚し、政策等の立案に当たっては、社会・国民の幅広い参画を得るとともに、併せて社会・国民の理解と信頼を得ていくための取組を積極的に進めることを基本とする。
 また、責任ある政策の推進を図る観点から、施策等に関する責任体制を明確にし、これらの実効性・実現性や効果的・効率的な実施等を担保するとともに、実施主体による社会・国民への説明責任の強化を図ることにより、社会・国民の深い理解と高い支持の下で政策を推進することを基本とする。これらに関する具体的な取組については、基本的には、次章以降の2.~4.の全てに関わるものであるが、特に「4.社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に掲げる方針に基づき推進する。
 その一方で、科学技術基本法及び基本計画においては、対象とする科学技術について「人文科学(※3)のみに係るものを除く」とされている。しかしながら「科学技術イノベーション政策を『社会とともに創り、実現』する」ことを目指し、我が国や世界を取り巻く深刻かつ複雑な問題に対応していくためには、人文科学や社会科学の視点を、より積極的に取り込み、その知見等の活用を図っていくことが重要である。
 この点、人文学や社会科学、自然科学を包含する「学術」は、あらゆる学問の分野における知識体系の構築と、それを実際に応用するための研究活動、さらに教育活動をも包括する意義を持つものとして、我が国の科学技術イノベーション政策の推進において重要な役割が期待されており、その着実な振興を図っていくことが求められている。
 これらの点を勘案した上で、今後の科学技術イノベーション政策の推進に当たっては、対象とする科学技術について、我が国や世界における複雑な問題との関わりにおいて、自然科学のみならず、人文科学や社会科学に係るものも幅広く対象に含め、総合的な政策の推進を図っていくことが必要である。


※3 科学技術分野における一般的な三大分類である自然科学、人文科学及び社会科学のうちの人文科学及び社会科学をいう。

3.科学技術イノベーション政策において「人と、人を支える組織の役割」を一層重視する

 第3期基本計画においては、その基本姿勢として、「モノから人へ、機関における個人の重視」を掲げ、科学技術政策の観点からも、インフラ整備を優先する考え方から、優れた人材を育成し、活躍させることに着目して投資する考え方に重点を移すこととされた。この姿勢については、我が国全体の政策の方向性にも整合的であり、引き続き、社会・国民の幅広い層から支持を得ているものと考えられる。
 天然資源等に恵まれず、また少子高齢化に伴い我が国の人材層が薄くなるなど、様々な「制約」のある我が国が、今後、知識基盤社会として発展し、世界の中で独自の存在感を示していくためには、国を挙げて、その核となるべき人材を絶え間なく育成していくことが不可欠であり、人材に係る取組は、科学技術イノベーション政策の推進に当たって、特に重点的かつ横断的に取り組むべきものである。
 このため、第3期基本計画の基本姿勢のさらなる発展・強化を図る観点から、「科学技術イノベーション政策において『人と、人を支える組織の役割』を一層重視する」を掲げ、我が国の人材育成の中心を担っている大学について、研究面のみならず教育面での役割を一層重視し、社会のあらゆる場で活躍できる人材の育成や世界をリードするトップクラスの人材の育成・確保を進めるとともに、初等中等教育段階における人材の育成、さらには海外からの研究者や留学生の確保等を積極的に進めることを基本とする。
 また、このような人材がその能力を十分に発揮し、一層活躍できるようにするためには、人と人とをつなぎ、これらを支える機能を担う研究・教育機関における組織の役割が極めて重要であり、大学や公的研究機関等における研究者等に対する支援機能を強化するための取組や、研究活動におけるチームワークの重視、さらには研究者間や組織間のネットワークの形成を促進する取組を、併せて進めることを基本とする。

 以上の基本認識に立ち、「目指すべき国の姿」の実現に向けた科学技術イノベーション政策の重要事項を次章以降で述べる。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)

-- 登録:平成22年06月 --