基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)(第6回) 議事録

1.日時

平成21年10月1日16時~18時30分

2.場所

文部科学省第2講堂(旧文部省庁舎6階)

3.議題

  1. 社団法人日本経済団体連合会からの発表
  2. 産業競争力懇談会(COCN)からの発表
  3. 産学官連携の推進に関する今後の重要課題について(産学官連携推進委員会)
  4. 「今後の地域科学技術振興施策の在り方について(中間取りまとめ)」について(地域科学技術施策推進委員会)
  5. 科学技術・イノベーションのための研究開発システム改革について(産学官連携の推進、知的財産戦略の推進、地域イノベーション・システムの構築、研究開発成果の社会実装)
  6. その他

4.出席者

委員

野依主査、野間口主査代理、東委員、安西委員、伊地知委員、大隅委員、白井委員、立川委員、冨山委員、永井委員、西尾委員、二瓶委員、原山委員、本藏委員、益田委員、丸本委員、森委員

文部科学省

中川副大臣、後藤政務官、坂田事務次官、清水文部科学審議官、森口文部科学審議官
(大臣官房)土屋総括審議官、奈良総務課長、藤原会計課長、坪井政策課長、岡文教施設企画部技術参事官、菱山文教施設企画部計画課長
(高等教育局)義本高等教育企画課長、藤原大学振興課長
(科学技術・学術政策局)泉局長、渡辺次長、小松科学技術・学術総括官、中岡政策課長、佐藤調査調整課長、川端基盤政策課長、柿田計画官、森田国際交流官、増子科学技術・学術戦略官(地域科学技術担当)
(研究振興局)磯田局長、倉持審議官、山脇振興企画課長、柳研究環境・産業連携課長、舟橋情報課長、勝野学術機関課長、山口学術研究助成課長、渡辺研究振興戦略官
(研究開発局)森本審議官、箱崎審議官、土橋開発企画課長、鈴木地震・防災研究課長
他関係官

オブザーバー

相澤総合科学技術会議議員、白石総合科学技術会議議員、金澤総合科学技術会議議員、続橋日本経済団体連合会産業技術本部長、中村産業競争力懇談会実行委員長、中塚産業競争力懇談会事務局長

5.議事録

【野依主査】
 科学技術・学術審議会第6回基本計画特別委員会を開催します。
 本日、新しく文部科学副大臣に就任されました中川正春副大臣、文部科学大臣政務官に就任されました後藤斎政務官にご出席いただいておりますので、最初に副大臣、政務官からご挨拶をいただきたいと思います。

【中川副大臣】
 ご紹介をいただきました、鳩山政権のもとで副大臣にご指名いただきました中川正春でございます。
 先日から、野依主査をはじめ、多くの方々から早速、様々な叱咤激励をいただいたり、夢を語っていただきまして、新しい時代に向けて、日本を科学技術、そして学術立国としてしっかりつくり上げていかねばという思いを新たにいたしました。理屈というより心に打たれまして、改めてこのポジションに就かせていただいたということを感謝申し上げております。皆さんと一緒に頑張っていきたいと思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
 早速、来年度に向けての予算を基本的に見直していきたいという議論が始まっております。私はどちらかというと、科学、学術というのは初めてのフィールドでありまして、財政、金融、あるいは外交という分野でこれまでやってきたものですから、そんな切り口で財源を議論してみたい。税だけでいくと袋小路に入ってしまいまして、「無い袖は振れないからあっち削れ、こっち削れ」と全部内向きの話になってしまいがちですが、そういうことではなく、「新しい投資資源をここで見つけていくのだ」というような思いの中で、何とか前向きに、新しい力をそこから出してくるような議論ができないかということをとことん突き詰めていきたいと思っております。
 そういう切り口で一度やってみるということで、私はこのポジションに就かせていただいたのだ、ご指名をいただいたのだという思いを持って頑張っていきたいと思いますので、これからまた皆様からのご指導をいただき、また、皆様の思いというのをぜひ聞かせていただけることを楽しみにしておりますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 続きまして、後藤政務官お願いします。

【後藤政務官】
 皆様、こんにちは。ご紹介いただきました、政務官を拝命しました後藤斎と申します。
 鳩山政権がスタートして2週間余りが経過いたします。川端文部科学大臣のもとで中川副大臣共々、これからの本委員会におけるご議論というものが、これからの日本の暮らしや、この国自体を左右する重要な議論だと承知をしています。また、限られた時間の中でのご議論だということも十分承知しています。
 これからは、それぞれの分野が連携し、オールジャパンで知恵と力を出していかなければ、我が国は欧米だけではなく、アジアの国からもやはり置いていかれてしまうという強い危機感を持つ必要があります。良い日本、そしてより良い一人一人の暮らしのため、ぜひとも皆さん方の英知を結集していただく会議となるように心からお願いをして、皆さん方への就任と、そしてお願いのご挨拶にさせていただきたいと思います。
 これからもどうぞよろしくお願いします。ありがとうございます。

【野依主査】
 ありがとうございました。副大臣、政務官は、ご公務の都合により、途中でご退席される予定です。
 さて、新しい内閣が発足しまして、これからどのように科学技術・学術政策が進んでいくのか、私も、その新しい方向に大いに期待しているところです。
 今後の審議に当たりまして、泉科学技術・学術政策局長から何かご説明などありますでしょうか。

【泉科学技術・学術政策局長】
 科学技術・学術政策局長の泉でございます。ただいま中川副大臣、それから後藤政務官からお話がございましたように、この新しい政権、内閣では、科学技術・学術については非常に重要視しておられます。川端文部科学大臣ご就任の際の鳩山総理からのご指示の中に、大学や研究機関の教育・研究力を強めて世界をリードするようにということがございまして、そのようなことも念頭に置きながらの中川副大臣、後藤政務官のご発言だったと拝聴したところでございます。
 大臣、両副大臣、両政務官の政務三役という体制が文部科学省としての重要政策決定をしていくことになります。私ども事務局といたしましても、政務三役には、文部科学省としてのこれからの科学技術・学術振興に向けた意思決定をしっかりやっていただけるように、引き続きこの委員会を運営していきたいと考えております。この度、副大臣・政務官には、本基本計画特別委員会について、特に重要な会議であるというご認識を賜り、ご出席いただき、ご挨拶を賜ったということを、この機会に申し上げておきたいと思います。
 今日は、総合科学技術会議の相澤議員、白石議員もお見えですが、総合科学技術会議でも、今日から専門調査会においてご議論が始まりました。これからそちらでの審議も本格化すると思いますが、日本の科学技術・学術予算の3分の2を占めている文部科学省ですので、この基本計画特別委員会でのご議論を通じまして、これからの日本の科学技術・学術振興にしっかり対処し、まさに世界をリードしていけるような科学技術・学術政策が立案できるように、事務局としても最大限補佐していきたいと思いますので、引き続き、本委員会の先生方におかれましても、よろしくお願い申し上げたいと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、議事に入ります。最初に事務局から配付資料の確認をお願いします。

【柿田計画官】
 議事次第の裏に、資料一覧を記載させていただいております。また、ファイルの資料の中に、これまでのこの委員会での資料、また関連する参考資料を綴じ込んでおります。もし不足等ありましたら、随時お申しつけいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 本日の議題は、「科学技術・イノベーションのための研究開発システムの改革」のうち、「産学官連携」、「知的財産戦略」、「地域イノベーション・システム」及び「研究開発成果の社会実装」です。
 また、社団法人日本経済団体連合会及び産業競争力懇談会(COCN)の2つの団体におきまして、第4期科学技術基本計画に向けた今後の科学技術政策のあり方に関して検討がなされています。本日の議論に先立ち、それぞれからご発表いただきます。
 まず、日本経済団体連合会における検討について、科学技術政策部会長でもいらっしゃる東委員からご発表いただき、次に、産業競争力懇談会における検討について、実行委員長でいらっしゃる、株式会社日立製作所の中村道治さんからご発表いただいた後、まとめて質疑の時間をとりたいと思います。
 それでは、日本経済団体連合会からのご発表について、東委員からご説明お願いします。

【東委員】
 ご紹介いただきました東でございます。
 経団連ではこの4月から、第4期科学技術基本計画に向けて、産業界からの提案を議論してまいりました。目標としては、来月の初旬に提言としてまとめさせていただこうと思っております。資料1、7ページのパワーポイントに沿ってご説明いたします。
 タイトルは「科学・技術・イノベーション」ということで、「科学技術・イノベーション」ではありません。我々産業界側からいたしますと、第4期科学技術基本計画に向けての検討では、「イノベーション」がつけ加えられたということで、やはり英語のSTI、サイエンス・テクノロジー・アンド・イノベーションに対応するようにタイトルをつけさせていただいております。
 基本認識ですが、特に産業界の最近の動向といたしましては、人口減少と消費の停滞が原因で、日本市場から海外市場へという潮流がかなり進んでおります。そこで、グローバル競争の激化が非常に大きな課題となり、さらに、オープン化・ネットワーク化によって、すべてのスピードが早くなっている。そして、国際的なビジネス環境の変化、これらが日本の今後を左右する大きな問題として浮上してきているのでないかと思います。
 先ほど申し上げましたように、企業から見た科学・技術・イノベーションについてです。科学に関しましては、ノーベル賞受賞者が近年増加しているということもあり、日本が科学においては、非常に強い分野がはっきり見えてきている、と言えると思います。勿論、全部が強いわけではありませんが。技術は日本の強みだと思われてきたわけですが、コモディティ化と書いてあるように、最近、技術の価値が時間とともに急速に落ちてしまう現象が起こっています。そういう意味で、イノベーションが今後の付加価値の中心になっていくであろうと考えております。これについては後で述べます。
 3番目に、日本型イノベーションを再考すると、これまでの強みは垂直統合、あるいは自前主義で、技術のすり合わせによって非常に強かったわけです。しかしながら、これがグローバル化によりまして、世界のスピードについていけない要素になっており、高いコストをもたらす要因にもなっています。そのためにオープン・イノベーションの推進に取り組んでいるわけです。もう一つは、国内での同じ業種の競争に終始し、ガラパゴス化の問題もあります。
 これに向けての解決案として、あえて2つに分類しました。1つは課題解決型アプローチ、これを連続型と呼んでおります。これは従来の強みの強化ということで、例を挙げますと、半導体の微細加工技術です。これはムーアの法則でよく知られてますように、3年で4倍集積度が上がる。また、CO2削減も、対90年比25%削減という具体的数字が出た途端に課題が設定されることになります。
 もう一つは価値創造型アプローチで、これは非連続系と呼んでいますが、ある確率で生まれるものであって、なかなか予測はできない。ただ、むやみに興味のあることを研究者がやっていれば出てくるという問題ではないので、これはやはり世の中で起こっているパラダイムシフトを確実にとらえて、グランドデザインを描いて取り組むべき問題であると思います。
 課題解決型アプローチは、次の3ページに書いてありますが、今まで日本が非常に強い領域で、産官学の連携といった場の形成、あるいはロードマップをきっちり作って、そのロードマップを基準にして行動していく。それから、これは必ずしも課題解決型というのは実用化研究だけではなくて、目的基礎研究というものもこれに入ると思います。特に3番目に書いてあるように、グローバルな協働を可能にする拠点の形成、これは我々としてもお願いしたいところです。
 それから、4ページ目に移っていただいて、価値創造型アプローチです。あまりこういう言葉は今まで使っていませんでしたが、やはり今、課題解決型の技術がなかなか新たな市場を築くということは難しい、つまり、新たな雇用を創出できないという問題があり、このような新たな市場をつくるアプローチを、日本の中でもっと積極的に取り組まなくてはいけないのではないか。そういう意味では、パラダイムシフトへの感度を高めた多様な基礎研究の推進、これには一定規模の安定的な資源配分が非常に重要かと思います。それから、3番目に書いてあるハイリスク研究、ブレークスルー創出に向けたインセンティブの付与。これは競争原理の活用、特にコンペ等で、今までハイリスク研究に対する失敗は許されないという考え方から、失敗は何度もやっても、それが次の成功に結びつけばいいんだという風土に変えていかなくてはいけない。それから、4番目は、日本人が一般に弱いと言われているグランドデザイン、つまり、全体のアーキテクチャ作りですね。何か新しいビジネスモデルを作るというようなグランドデザインの策定、検証ということを積極的に促すような集中投資を可能とする仕組みを、今後導入していただきたいということです。
 残り3ページは、イノベーション創出に向けての具体的な施策はどういうことをやるのかということが書いてありますが、これは今までこの委員会で大分ご議論されていることなので、ポイントだけ申し上げます。5ページは、グローバル化です。グローバル化で、特に2番目に書きました国際標準化も見据えた国際的な共同研究・実証の推進。例えば、ODAとの連携。あるいは、3番目のCO2削減。最近非常に話題になっておりますが、この技術開発ロードマップの国際的な共有、国際連携が非常に重要かと思います。
 そして、6ページですが、イノベーション創出の中の人材育成です。人材育成は、この委員会の大半を費やして議論してきたところです。産業界からも非常に問題意識のあるところですが、私の意見は、皆さんのお考えとほとんど同じなので、ここは省略いたします。
 それから、7ページは、イノベーション創出の研究開発システム、この強化が大事ではないかと思います。先ほど泉局長のお言葉にもありましたが、総合科学技術会議を中心とした司令塔機能ですね。そこには統括機能があり、資源配分があり、府省横断、あるいは調査・分析といった司令塔機能を強化してもらいたい。それから、次に書いてある科学技術予算、税制に関してです。
 添付資料1-2の6ページ目の下側に書いてあります。科学技術予算資源配分でありまして、総額目標というのは一概に言えませんが、ただ第3期科学技術基本計画で掲げた総額目標は25兆円、対GDP比で1%でした。引き続き目標を掲げる方向で検討を進めて、政治のコミットのもとで決定していくという過程をぜひお願いしたいと思います。
 それから、税制のほうですが、法人税の問題は経団連が大分前から言っていることですが、研究開発の税制、あるいは先端研究設備の減価償却、これらの改善です。相当ドラスティックに変えていただかないと、中国、韓国、台湾には勝てません。これらの国々は国家的に税制を相当変えておりますので、先ほどの国際競争力の強化という意味では、税制の改善が非常に大事であろうと思います。
 3番目の大学研究開発法人についてです。組織としてのミッションの見直しは、常に取り組んでいただきたい問題です。それから、運営費交付金の配分のあり方の見直し、特に競争的資金との関係において、運営費交付金の配分というものも、ぜひ中に盛り込んでいただきたい。企業側としては、現在はめったにないパラダイムシフトだと思います。やっぱり数十年に1回の大きな変革が現在来ておりまして、企業としてはこの機会をとらえて、新たなビジネスを興し、そして雇用を創出するということが産業界の目標です。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 続きまして、産業競争力懇談会からのご発表です。中村実行委員長、お願いします。

【中村COCN実行委員長】
 ただいまご紹介いただきました中村でございます。
 資料2をごらんいただきたいと思います。1ページ目をめくっていただきまして、2006年から始まりました第3期科学技術基本計画では、3つの理念と6つの大目標、12の中目標を掲げて、国としての予算配分を行っていただきました。今、第3期科学技術基本計画を読み直してみても、計画自体非常によくできております。とりわけ我々が評価いたしますのは、政策課題解決型研究への指向や、あるいは社会還元の必要性を明らかにして、イノベーション創出の必要性をアピールしてきたことではないかと思っております。しかしながら、既に中間点を通過いたしまして、課題解決型のイノベーション創出が、期待されたほど進展していないとの懸念もございます。この一因としては、国としての科学技術政策の統括機能が弱いこと。手段であるべき重点8分野が3つの理念、政策目標と分断されたまま目的化されていること。あるいは、要素技術の開発指向に向かう傾向が強いことなどが挙げられるかと思います。また、各国が科学技術投資を伸ばす中で、第3期科学技術基本計画で謳いましたGDP比1%、25兆円の目標の大幅未達というのは、やはり由々しき問題かと考えております。
 2ページ目です。研究カテゴリーと研究資金の重点配分につきましては、私どもはやはり、Curiosity-drivenの学術研究と課題解決型の出口を見据えたSolution-drivenの研究というのは、明確に区別してかじ取りすることが必要かと考えます。後者につきましては、例えば、5年後に社会にどのようなアウトカムが期待できるのか明確にして、PDCAサイクルをきちんと実行することが必要ですし、定量的に目標設定することが望まれます。出口を見据えた研究費が増加しますようお願いしたいと思いますし、課題ごとに府省の壁を超えて関連政策投資を包括した予算化が進みますようにお願いいたします。
 3ページ目ですが、COCNが特に課題解決型イノベーションを、21世紀の国富論の中心に据える理由は、やはりこれからシステム、サービスに新たな付加価値が生まれるからです。コモディティ製品を量産することだけでは、製品投入後短期間のうちにグローバル規模の価格競争に陥ります。人件費や税制などで不利な我が国の産業界は、先端研究の成果が持続的な産業競争力に直結しないというジレンマも、過去15年経験してきたわけです。これに対して我々は、システム、サービスというところに国富の源泉を求め、国としての垂直統合モデルを作っていくことが必要ではないかと考えております。
 4ページ目です。このためには、国としての重点分野を従来のような技術分野の視点ではなく、例えば、低炭素社会であるとか、安全・安心・快適社会であるとか、産業競争力を支えるインフラであるといったような、やはり課題解決の視点で推進していくのがよいと思います。また、一度計画が決まったから5年間続けるというのではなく、常に柔軟に見直して、社会の変化のスピードを先取りすることが望まれます。私どもCOCNでは、過去4年間、このような観点から検討テーマを取り上げてまいりました。
 5ページ目です。実際に推進するに当たって、幾つかの論点をご紹介したいと思います。我が国は、課題先進国と言われております。低炭素社会の実現でも、高齢者対応でも、グローバルに先駆けて取り組むことが可能ですが、しかしながら先ほどもお話がありましたが、要求レベルの高い日本市場での開発と実証の成果が、そのまま国際社会で受け入れられるとは限りません。世界市場の普遍性とか発展度、あるいは社会構造、文化への適応力が求められると考えております。また、先端的な研究開発投資による優位性が国の富と結びつくためには、やはりシステムを見直す必要があると思います。とりわけ知財保護と活動に向けたシステムづくりとか、標準化、デファクト化への国としての取り組みが望まれると思います。
 6ページ目です。COCNは、産業界の有志による科学技術政策の提言と実現を目指す機関でして、産業界の業種の壁を超えたテーマ設定や、プロジェクトに関する検討を行っております。また、それは単なる提言にとどまらず、実行に至るまで関係することにしております。この中にはアカデミアの方にも参加していただいています。我が国のさまざまな分野、あるいは切り口で、イノベーションを検討するグループが形成され、提案活動を進めているわけでして、今後はこのような動きをぜひ奨励していただければと思います。
 7ページ目です。また、温暖化対策1つをとりましても、幾つかの選択肢があるということは重要なことでございます。例えば、車の燃費改善による炭酸ガス排出の削減1つとりましても、軽量で強い素材の車両を開発するという選択肢もあるでしょうし、交通制御による走行速度のアップというアプローチもあり、実は後者のほうが効果が大きいという試算もあります。どのようにして、あるいはどのような優先順位で取り上げるかというのは、単に自然科学の問題ではなくて、どちらが社会として望ましいか、より投資効果があるかといった点で、社会科学、あるいは人文科学の知見を含めた多面的な考察と、鳥瞰的な判断が必要であると考えます。
 最後に、次の8ページですが、人材について申し上げたいと思います。人材については、既にこの委員会でも詳しく議論されているところですが、私から申し上げたい第1点は、人材のバランスと教育の複線化です。先端研究人材、あるいは実務技術人材、技能人材、それぞれ将来必要です。高学歴社会におきましても、やはり一人一人の天分に適した分野で、高い目標に挑戦していただくように、教育の複線化を進める必要があるかと思います。また、基盤技術に関する研究と教育にもっと注目する必要があるかと思います。また、先端技術だけでは信頼性に優れた装置システムを低コストでつくることはできません。しかるに、基盤技術を支える多くの学術領域が現在衰退、あるいは存続が懸念されているというアンケート結果も企業から寄せられておりまして、国としての取り組みを見直す時期ではないかと考えます。
 次の9ページ、その他には、知財・標準化人材の重点的な育成等々ございますが、産業界としましても、人材育成に関しましては、責務があると考えております。例えば、求める人材像の明確化であるとか、あるいは魅力ある事業テーマを発信するとか、小中学生の理系教育等への参画というところを、今心がけようとしているところであります。
 10ページ以降は参考ということで、ご覧いただけたらと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、日本経済団体連合会及び産業競争力懇談会からのご発表に対しまして、ご質問がある方は、挙手をお願いします。

【野間口主査代理】
 私も片足の半分ぐらい、まだCOCNとか経団連に残っておりますので、質問というより確認です。特にCOCNの資料説明、具体的な問題提起もありましたが、例えば、衰退や存続が懸念される学術領域の例などを具体的に示すなど、大変印象深く聞いたのですが、今年の前半にやりました基礎科学力強化委員会などの議論でいつも話題になったのが、ドクターコースの問題です。それから、科学技術・学術審議会で毎回問題になるのは、大学から出てくる博士の持っている能力と、産業界側の要求とのミスマッチですね。これはいつも話題になりまして、私はいつも歯がゆい思いをしておりました。
 経団連の産業技術委員会等のアンケートによりますと、ドクターを採用している企業の、採用したドクターに対する満足度はかなり高いという報告も聞いておりまして、それらの経験を踏まえますと、産業界、つまり経団連やCOCN側と、文科省、大学とのコミュニケーションをもっと上手くやれば、ドクターの活用という点で、私はかなり改善できるのではないかという気がしております。改善できないとしたら、それは産業界にも問題があり、ドクターを作る側にも問題があるということで課題が見えてくると思いますが、そこまで経団連をはじめとした産業界側から声を出していただいた方がよいと思います。いつもハイブローな議論で、お互いに相手に届かないジャブの応酬だけで終わってしまっているような気がしますので、ぜひその辺のところもお願いします。もしここで何か補足されるようなことがあったら、是非お願いしたいと思います。

【中村COCN実行委員長】
 ありがとうございます。ドクターコースを卒業して、博士号を取って企業に入ってくるという方は、私どもは年々増えているのではないかと感じていますし、実際の職場、特に研究部門においては、こういう不況のときでも、あまり変わりなく入ってきていただいているというのが、周りで起こっていることです。私はここで、先端科学技術人材と申しましたが、やはり研究開発、とりわけ企業におきましても研究を支える人材というのは、かなりの高度人材でなければやっていけないわけです。今までそれを企業の中で育成し、企業から社会人ドクターということでいただきましたが、これからはやはり国全体として、企業で役立つようなドクターがきちんと入ってくるという姿にしていくべきだと思っております。
 そういう意味で、確かに今、野間口主査代理から言われましたように、双方がジャブを出し合っているのではなく、そろそろ本気になってデータベース、エビデンスベースできちんと議論をするような時期に来ていると思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。優秀で志のある学生がドクターを目指す、そこに関するインセンティブが必要ではないかと思います。そのためには、学生に対する奨学金等の経済支援などの充実が必要です。

【西尾委員】
 東委員のご発表と、それから、中村実行委員長のご発表、非常に貴重なものとして聞かせていただいたのですが、東委員の仰っている強調点と、中村実行委員長の仰っている強調点が違うと思いますので、確認させて下さい。東委員の強調点は問題解決型アプローチをこのままずっと続けていくとしても、いわゆる価値創造型アプローチというか、問題発掘型アプローチとも言えると思いますが、そちらをより強めていかないといけない、そちらが重要だという意味のご発言かと思います。一方で中村実行委員長の発言はそうではなく、問題解決型への転換と書いてありますので、やはりまだそちらの方を今後強力に推進していくべきだというご発言かと感じました。私としては、それらの強調点の相違は重要であり、質問させていただきます。

【東委員】
 中村実行委員長が3ページ目で書いておられる、今後、システム、サービスという、これからの市場が、付加価値がこのように変化していくのであり、市場規模が広がっていくと。このような解釈のもとに、そちらのほうに経営資源も投入していきましょうと、こういう考え方が1つございます。それは現在の課題としてあるんですが、その課題を、もっと市場を広げていこうという考え方ですね。
 もう一つの考え方は、やはりここ何年かを通じて、日本の競争力が維持できているかどうかです。特に産業競争力の観点で非常に懸念されることは、従来からの課題ですが、1つの大きな産業が生み出され、その枠の中でやっていることにそろそろ限界が見え始めていることは事実なのです。ですから、この限界を打破するには、もう一つ新しいものを作り出そうとするのか、その産業をさらにまた伸ばそうとするのか。考え方は2通りあると思います。やはりこのようなグローバル化、あるいはネットワーク化ということがどんどん進んでいる状況の中では、その流れに取り残されてはいけないので、できるだけ新しい産業を創出する、そういうチャンスをどんどんつくり上げていくシステムを導入したほうがいい。
 そういう意味で、前に菅委員が仰っていましたが、アメリカでは大学院の学生の独立性を促して、そこにリサーチアシスタントとしての給料を出し、若い人達が独立性をもって新しいことへチャレンジするしくみが形成されている。日本も、このようなシステム構築に積極的に取り組む時期に来ています。今度の第4期科学技術基本計画で逃すと、次になかなかチャンスが来ないという意味で、あえて書きました。

【野依主査】
 そこでの研究の担い手として想定されているのは、大学セクター、研究開発型独法、あるいはベンチャーでしょうか。

【東委員】
 現状を見ますと、大学に期待したいと思います。アメリカ、特にシリコンバレーや東海岸の状態を見ますと、それなりの社会システムができ上がっていますから、ベンチャーキャピタルのほうが入りやすくなっています。そうすると、必ずしも大学でなくてもいろいろなところから出やすいのですが、今の日本の制度では非常に制約があって、出にくいシステムになっているから、やはり大学が中心になってやっていくと思います。

【中村COCN実行委員長】
 今、東委員からお話があった通りですが、私が課題解決型のイノベーションと言っております中には、東委員のところで言っておられますように、非連続的なパラダイムシフトを起こすようなものというところが当然のことながら入っているし、これが大事だろうというふうにとらえております。従来のやり方で課題をインクリメンタルに解決するというところでは、やはりインパクトは少なくて、革新技術であるとか、全く新しいシステム的なアプローチとかいうのを含めて、パラダイムシフトを起こすような非連続的なイノベーションをつくるというのが、本当に求められているというふうに思っておりまして、それはやはり大学、それも自然科学だけではなくて、人文社会科学の研究者の皆さん方、独法、それから、それを実際に実現する民間であるとか、あるいは行政とか、あらゆるステークホルダーが一体となってやっていくことで、初めて実現できるのではないかと思います。

【白井委員】
 2つほどお伺いしたいんですが、1つは今のお答えのところに関係しているんですが、研究カテゴリーの分離ですね、2ページ目のところで。こうすべきだと私も思うんですが、現実に今ある大学であるとか、あるいは研究体制というのをごらんいただいていて、どんな方向性を目指すべきなのかと。今のままでそのまま改良すればできるんだという話なのか、それとももう少し再編したり、何か思い切ってやっていかなきゃ無理なんじゃないかというふうに、産業界からはごらんになっているのかどうかということが第1点です。
 今、お答えの中で、問題解決型の研究、そういう中にもイノベーションというか、そういうものはあるんだとおっしゃったんですが、私は若干疑問も持っていて、もう一つの質問になるんですが、後のほうで、社会科学、人文科学の知見というものを組み合わせていくべきだと。私も全くそうだと思いますが、そういう問題提起は世の中で一生懸命やっていると思います。だけど、全然ゼロとは言いませんが、実際に取り上げるペースが遅いし、ばらばらだし、結局うまくいっていないわけです。ですから、ここのところをどういうふうに産業界のほうはお考えなのかという点です。まさに理工系の従来型の研究の連続だけでは、イノベーションはなかなか生まれない。仮に大学に期待するにしても、そんな感じがします。人文科学との両方から出てきて、初めてそこに新しい問題意識が出てくるから、いくらでも新しいイノベーションというのは生まれてくる余地があると思うんです。ちょっとそういうところでお話を伺えればと思います。

【東委員】
 どんな方向性を目指すのかというご質問なんですけれども、今、オープンイノベーションというのは、組織と組織がある目標、グランドデザインを共有して、それでお互いの強みを発揮しながら新しいものを生み出しましょうという仕組みです。しかし、今後10年ぐらいのスパンで考えたときに、これはやはり組織じゃなくて個人になっていくというように考えます。個人が新たな発見や発明をすれば、必ずe-ジャーナルを通して出されるか、あるいは、もう少しやわらかい形でネットワークに出される。それが素晴らしいものであると、そこにコミュニティが形成される。そのコミュニティが、必ず今の企業体系の枠組みとは全然違った形態になっていくわけでしょう。そのコミュニティは、リーダーシップのある人が会社にしたり、発見者がその会社をつくるというようなケースがどんどん増えていくのではないかと、私は想像します。
 企業の中の研究者の場合、現在は企業が知的財産を所有していますが、今後は、高度な技術者に対しては、全く違う契約をする形態をとるように変わっていくと思います。つまり、短期的雇用契約です。例えば2年、3年の契約というと、現在のプロ野球選手と球団の形態に近づきます。本当に一流の研究者というのは、必ずそういう道を歩んでいくのではないかと思います。そういうことができるように企業も変わっていかないといけない。だから、雇用形態、雇用契約というものが必然的に変わっていくでしょう。私は将来の姿をこのように想像しているのです。これは経団連としての意見ではなく、私個人の意見です。そういうものを今後進めていくにはどういう障壁があり、どういうことをクリアすればそれができるかということを詰めたいと思っています。

【野依主査】
 ありがとうございます。目指すべき方向性については、おそらく合意が得られると思います。ここで2つ大事な点があります。1つは、大学等の教育研究の体制、あるいは枠組みをその方向に向けるように変えていくということ。もう1つは、研究プログラム、あるいは資金によってその方向に促していくのか。これは、次期科学技術基本計画に向けて考えていく必要があります。

【丸本委員】
 今、2つの団体のほうからいただいた意見の中で、私は東委員が言われたことは非常に適切なご指摘だったと思っていますが、大学は大体課題型解決アプローチの研究、それから、価値創造型研究のどちらもやっています。ところが、イノベーションにつながりやすいと言われた価値創造型の非連続型ですが、その中に面白い要素がたくさんあって、それをいかに引っ張り出してイノベーションに結びつけるかというところだと思いますが、その力が大学にはほとんどないと言っていいと思います。先生方も、研究は一生懸命やるのですが、イノベーションというところまでは能力がない。
 ですから、そういうシステムは、国、あるいは産業界も協力していただいて作り上げることが最も重要じゃないかと私は思っています。幾つかの人材養成の中で、そういうことをコーディネートしたり、うまくつないでいける人を、うちでも少しはやっていますが、まだ非常に力が弱い。ですから、この辺のシステムが全体としてうまくいけば、価値創造型アプローチの中でもかなりイノベーションにつながる芽はたくさんあると私は思っておりますので、ぜひこの辺を強調したような、うまくいくようなシステムにしていただけると大変ありがたいと思っております。

【原山委員】
 これは経団連のポジションペーパーとして伺いました。この中で2ページの課題解決のところで、国家的課題とおっしゃっていますが、経団連としては、具体的にどういうものを想定なさっているかをお聞きしたい。それから、最後のページで、企業のところで、パラダイムシフト等を踏まえた不断の変革とあります。パラダイムシフトという言葉はあちこちで聞きますが、具体的にどういうものを想定なさってこの言葉をお書きになったのかということを教えてください。

【東委員】
 国家的課題ですが、これは我々も最初に議論しました。低炭素循環型社会、健康で安全・安心な快適社会など、第3期科学技術基本計画の重点8分野が出口として掲げた社会があり、それに向けた技術課題と研究課題が国家的課題というようしました。
 それから、もう一つ、パラダイムシフトをどのようにとらえているかというご質問ですが、パラダイムシフトは、やはり今の価値観がある時点をもって急に変わるというのがそもそもの定義です。例えば、オバマ政権が誕生して、それまでの市場経済一辺倒から地球規模で世界を見直そうという考え方に変わりました。これはやはりパラダイムシフトだと思います。
 今回の日本の政権交代も、政治上のパラダイムシフトだと思います。大きなパラダイムシフトは今まさに起きています。1年、2年の間に急速に変わるのだけれども、それは台風の目と同じように、その渦中にいるとなかなか気がつかない。しかし、5年後に振り返って、あの時がそうだったと思うものです。それがパラダイムシフトの本質だと思います。

【中村COCN実行委員長】
 先ほど白井委員からのご質問にちょっと補足させていただきますが、1つは基礎研究の方向性について企業はどういうふうに考えているかです。私どもは昨年これについて、かなり企業間で議論しました。基本的にはストークスのモデル等も参考にして、基礎研究というのは、飛躍知を求めるもの、あるいは革新知を求めるもの、基盤知を求めるものという大きなくくりで分けて、その各々について、それに適したファンディングなり研究の仕方、あるいは産業界とのつき合い方というのがあるのではないかという議論をしております。
 それから、人文社会、あるいは自然科学の統合というのはどうしたらできるかということです。私が本日申しました業種、あるいは専門分野を超えるようなプラットフォームの中で喧々諤々をやるのが一番いいのではないか。現在、COCNも東京大学と民間企業十数社が一緒になって、高齢化社会における生活支援システムのあり方、あるいは都市機能のあり方等を検討中です。そういう議論を通じて、お互いの距離を縮めることが有効ではないかと考えております。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 ただ今頂いたご意見に関しましては、本委員会においても、今後の検討に当たって参考にしたいと思います。
 続きまして、産学官連携についての審議に入ります。まず、科学技術・学術審議会産学官連携推進委員会における審議報告について、説明をお願いします。

【柳研究環境・産業連携課長】
 研究環境・産業連携課長、柳でございます。産学官連携推進委員会の検討状況につきまして、事務局として、資料3-1及び3-2によりご説明させていただいた後、主査をされている白井委員より、総括していただきたいと思います。
 現在、当委員会の状況については、まだ取りまとめという段階ではありませんで、資料3-1の表題にあるように、論点整理という状況です。当委員会におきましては、各種調査の結果に基づき分析をするとともに、今後の基本的な考え方を整理するとともに、取り組みについてご議論をいただいております。資料につきまして、調査結果について一部ご紹介させていただきますと、資料3-2の1ページです。共同研究の数、特許の実施件数等をグラフに示しておりますが、概ね右肩上がりと非常にデータは伸びておりますが、その下の2ページに書いてありますように、共同研究につきましては、数は伸びているものの、1件当たりの金額については234万円が249万円とあまり伸びていない。額としては非常に小さい。また、特許の実施件数については非常に伸びているものの、実施料収入については未だ額が少なく、米国と比べると100分の1以下という状況であるとか、ベンチャーの設立数については、平成16年度をピークに減少してきているというように、幾つかの調査結果をもとに分析をしまして、考え方をまとめていただいております。
 資料3-1に戻りまして、まず冒頭、今後の産学官連携についての基本的考え方です。委員会におきましては、産学官連携の意義について、まず再確認をしていただいております。イノベーション創出、そして競争力強化といったことの重要な手段、よく言われますが、大学にとっても教育、研究、社会貢献の発展にとって、とても意義は大きいということで理解しております。そして、教育、研究、イノベーション、これらを知のトライアングルとして、三位一体として産学官連携の施策を推進していくに当たって、この視点に立って考えていくということでとらえております。
 具体的な考え方につきましては、3つ目の菱形です。我が国の産学官連携活動につきましては、当初、大学等における特許の個人帰属を前提といたしまして、研究者、研究室単位ということで進めてまいりましたが、国立大学の法人化等を契機として、機関帰属を前提とした大学などの組織的な活動に転換しました。その中で、国としては、組織的な対応ということで、大学等の体制整備に力を注いできたという状況です。3つのプロセス、「知の創造」、「成果の保護・権利化」、「知的財産の活用」、このプロセスを見たときに、体制を整備するということにより、やや真ん中の「成果の保護・権利化」にこれまで力がいっていたのではないかという認識を持っております。このような観点から、その前のフェーズである、知のプロセスであります「知の創造」、そして「知的財産の活用」というところについても力を入れていくとともに、それぞれのプロセスのバランスのとれた連動、それぞれのつなぎを図っていくということが重要という認識で、今後の方向性を議論しております。
 具体的にはマル1、マル2、マル3として、マル1、イノベーション創出の源泉たる「知の創造」を強化するため、産学官協働の基礎研究レベルへの拡大を図っていくということで、後の主な取り組みの1につながっています。マル2として、研究成果をイノベーションにつなぐ「知的財産の活用」を強化するため、新たな促進スキームの構築や支援の充実を図っていく。そして、「知の創造」、「成果の保護・権利化」及び「知的財産の活用」というプロセスのバランスのとれた連動を図るということで、既存の施策の強化・充実についても議論を進めてございます。これらの考え方に基づきまして、具体的な取り組みの方向性について、1.から6.にまとめております。
 後ろにポンチ絵を入れております。1.の産学官協働によるイノベーション創出に向けた新たな場の形成ということで、先ほど申し上げました基礎研究レベルへの拡大としまして、産学の対話・交流について考えております。具体的には、産業界の課題に対しまして、産学の対話により設定された重点研究領域において、大学等が基礎研究を行い、その成果を踏まえた緊密な産学官の対話・交流を行う「知」のプラットフォームを形成していく。そして、基礎研究に立ち返って技術課題の解決を図る基盤を提供することにより、産業界の取り組みを加速するとともに、産業界の視点、知見を大学の基礎研究にもフィードバックしていくということを考えております。また、研究開発独法の役割、産学官連携の官の役割といたしまして、大学等の「知」の結節点となり、体系化して産業界につなぐ役割を担っていただくことが重要ではないかと、このような議論をしております。
 また、2点目として、ポンチ絵の下です。研究活性化及び活用促進に向けた知的財産開放スキームの構築ということで、知的財産の活用強化に向けて、検討を進めております。大学の特許につきましては、現在未利用のものが8割を超えるという状況でして、この大学の特許を積極的に使っていくということ。そして、また研究を進めるに当たって、特許の存在自身が基礎研究領域の推進にとって障害になり得るというアンケート調査もありますので、このような施策を考えております。これまで総合科学技術会議でも、各種研究ライセンスに関する指針等を出していただきましたが、これらを具体的に進めていくための施策として考えております。大学等が保有する特許を、企業を含む国内の他機関における研究過程に限って無償開放する「リサーチ・パテントコモンズ」というものを構築いたしまして、個別にライセンス契約を結ぶことなく、研究に限って特許を簡便に利用できる仕組みを考えております。戦略的に重点化する技術分野を選定して、領域ごとに関連する特許マップ等も提供していくということで、「科学技術コモンズ」ということで考えております。これにより、基礎研究を活性化するとともに、産業界にも開放していくことで、大学等の知的財産の活用を促進し、知的財産の新たな価値の発掘につなげ、イノベーションの創出を促してまいりたいと思っております。
 また表に戻っていただきまして、以降3.として、研究成果の創出と活用に向けた支援の充実ということで、競争的資金の増加等により、研究時間が減少しているというデータもあります。こういったところの支援。そしてまた、大学発ベンチャー等を促進していくために、アーリーステージにおける研究開発経費等の充実も重要と考えております。
 4.として、地域における産学官連携活動の推進。国の活性化につきましては、地域の元気に支えられているということで、知を活用して活性化を図っていきたいということで、地域における取り組みもさらに支援していくことが重要と考えております。
 5番目です。ビジネスモデル、そして研究開発のグローバル化に鑑みまして、国際的な産学官連携戦略が一層重要になってくるということを考えておりまして、また海外との関係では、プロモーション戦略を考えていくこと。そして、すべての大学が同じように対応ができない中で、大学間のネットワークも重要と考えております。
 6番目につきましては、体制整備を図ってきた中で、産学官連携本部等大学の組織、そしてTLOといった機関がある中で、最適な機能を考えていく。場合によっては、連携の強化ないしは統合といったことも検討していくということ。そして、2番目のポツにあるように、海外機関とやり合っていくための人材、そして、ライフサイエンスなど専門的知見を有する人材、これらの確保、育成・評価、また、キャリアパスの確立が重要だという議論を進めさせていただいております。

【白井委員】
 大体今の報告で尽きていると思いますが、最初にあったとおり、この5年間で産学連携というのは、確かに数量的には増えています。これが成果だということはもちろん言えるのですが、この委員会の中では、どちらかというと問題意識の方が強く、これをただただ継続して実行してもうまくいかないという意見が強かったです。では、どこをどうすればいいのかということが、まだ非常に大きな議論になっていて、これの資料は中間レポートでしかないのです。いずれにしても大学にとっても、教育上も産学連携というのは非常に重要だということは当然ですし、これをさらにやらなければならないけれど、では、どういうふうにやるか。
 その中で、先ほどあった産業界からある学術研究と、課題解決型研究というような観点は非常に重要だということが我々の中でも議論になっています。ですから、そういうことがしっかりできるような体制というのを少し考え直す必要があるのだというのが1つです。
 それから、今日のレポートの中であるのは、やはり日本の中で産学官連携を考える時に、どうしても地域という問題と、地方の問題、中小企業とか、そういうことをどう考えるかという議論と、それから、もう一つはグローバル企業みたいな、世界に対して我々はどういうふうに産業をやっていくのか。これは非常に観点が違うんです。そこのところをどう現実にやっていくのかということは、細かく考えるべきだろうということが、今、非常に議論になってきて、もうすぐ次のレポートがまとまる予定ですので、またご報告させていただきます。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 それでは、続きまして、地域科学技術施策推進委員会における中間取りまとめについて、事務局から説明してください。

【増子科学技術・学術戦略官】
 地域科学技術担当の戦略官をしています増子でございます。資料4-1をご覧ください。
 この中間取りまとめにつきましては、科学技術・学術政策局に設置しております地域科学技術策の推進委員会のほうでまとめたものです。まず1ページ目をご覧ください。最初に、地域科学技術をめぐる現状と課題ということです。特に地方自治体における科学技術振興の現状ということですが、この10年間を見ますと、ほぼすべての都道府県等におきまして、科学技術振興策を審議する審議会、あるいは独自の大綱等が策定されているという状況で、取り組み自体は着実に進展しているのですが、一方、地域の科学技術の経費というのは減少しております。特に第2期科学技術基本計画がスタートした平成13年度と平成19年度を比較しますと18%の減少ということで、地方自治体の一般的な歳出が、この間9%の減ということですので、その倍近く科学技術の予算が減少しているということです。
 特に地方の公設試につきましては、この6年間で30%の予算の減少。特に公設試の職員数につきましても8%の減少ということで、自治体の職員の減少がその間2%に比べますと、研究者の数も含めましてかなり減少しているというのが現状です。その背景として、地域の方がよく仰るのは、科学技術の振興は国が旗振り役ということで、国の役割という意識がかなりあるようで、そういう中で、また厳しい地方の財政事情と相まって、一層科学技術の予算が削減の対象になりやすくなっているというお話です。
 2ページ目ですが、そのような状況の中で、第2期科学技術基本計画で、地域における知的クラスターの形成を国として積極的に促進していくということが打ち出され、それを踏まえて文部科学省におきましては、平成14年度から知的クラスター創生事業、あるいは小型のクラスターを育成する都市エリアの産学官連携促進事業等をスタートしたところです。特に世界的規模の知的クラスターの創生につきましては、第1期のクラスターにつきましては18地域で実施しまして、選択と集中の観点から、5年後に9地域に絞りまして、現在、世界レベルのクラスターを目指して強力に推進しているところです。また、平成21年度からは、昨年5月に総合科学技術会議のまとめられた科学技術による地域活性化戦略を踏まえまして、中規模のクラスターの形成も促進するということでグローバル拠点型の育成ということで、新たな制度を設けております。小型の地場産業等の特色を生かしたクラスターにつきましても、現在、30地域で実施しており、既に59地域が事業終了という状況です。
 3ページ目ですが、このようにクラスターは進展しているわけですが、その成果としては、このクラスターにより、産学官連携のネットワークが広がりつつあるとか、あるいは、出口を志向するような大学の研究者の意識改革にもかなり貢献しているという意見も出されております。また、具体的な数値を書いておりますが、特許の出願とか、あるいは商品化につながったかなりの成果も出ております。また、具体的な事例で申し上げますと、システムLSIのクラスターである福岡については、スタート時点では20社程度だったのが、2008年末時点で8倍の160社と、ベンチャーも含めてですが、集積がなされているということで、着実に推進が図られているということです。
 4ページ目ですが、このように進んでいるクラスターもありますが、やはり幾つか課題もあるということです。特にクラスターを将来的に自立させるという観点で考えますと、やはり国が支援している期間は着実に進むのですが、将来的な計画を考えると、スタート段階から地域発展のロードマップをしっかり作る必要があるということ。もう一つは、研究成果がしっかりと事業化につながるように、市場ニーズとかマーケット規模というものをしっかりと把握した上で、事業化戦略をしっかり作っていくということも大きな課題になっております。もう一つは、クラスターの形成というのは、何も自治体単位ではありませんので、行政区域を超えたネットワークの構築も、大きな課題になっております。それにも増して重要なのは、やはりクラスターを支える人材の育成確保も非常に大きな課題です。
 2つ目は、地域イノベーション全体のシステムを強化する上で、どういうところを課題としてとらえるかということですが、1点目は、やはり大学の地域貢献力の強化のために、さらなる充実を図っていくべきだという考え方。もう一つは、国として重点的に取り組むべき分野をしっかりと設定すべきだという意見もありまして、これまでのクラスターとか小規模なクラスターの育成については、地域の自由提案型ということでしたが、やはり国を挙げて対応すべき分野というものを、地域の主体性を尊重しつつ、しっかりと強化を図っていく必要もあろうかということ。3点目は、最終的にイノベーションを起こすためには、文科省のクラスター制度だけではなくて、やはり産業化を担う他の省庁との連携強化をしっかり図っていくべきだということが言われております。
 5ページになりますが、ここで改めまして、今後の地域科学技術振興の基本的考え方のポイントだけ申し上げますと、まず国が行う意義、必要性ですが、やはり我が国全体の競争力の強化のためには、地域の持つ多様性、それから独創性を積極的に活用して進める地域科学技術振興の積極的な推進が、やはり不可欠であるということが大きなポイントです。その中で国の役割は、やはりあくまでも主役は地域という考え方のもとで、地域の取り組みを促すという考え方を基本としつつ、国と地域が対等な立場で協働していくということで、最終的に地域イノベーション・システムの強化を国家戦略として推進していくことが必要だということです。
 6ページ目になりますが、クラスターもかなり第2期まで進んでおりますが、やはり国際競争力のあるイノベーションクラスターの形成をするためには、まずその成功、あるいは失敗というものは、地域が情熱を持って主体的に取り組むことが基本です。国は、このような取り組みを手伝うというポジションをしっかりとっていくということ。それから、2つ目に書いてあるように、知的クラスターの創生の第2期にいっている非常に大きなクラスターについては、最終的に地域が自立してプロジェクトを発展させるということが重要ですので、その環境整備を国が行っていくということ。それから、3つ目は、都市エリアの小さいクラスターについても、既に80以上が実施されておりますので、この中で特にグローバルレベルになるようなものをしっかり厳選して、中規模なクラスターに育成していくことも重要であるということです。
 このためには、関係府省間の連携強化、それから、機能を特化した重点的な支援。これまでかなり幅広い支援をしておりましたが、例えば、人材育成とか事業化支援というソフト的な対応をしっかり特化した形で支援していくことも重要だということです。それから、やはり複数の自治体による広域的な取り組みの促進ということも、今後のクラスター形成にとっては重要だということです。
 7ページ目になりますが、今後の新たな展開という方向では、先ほど来申し上げましたように、地域の知の拠点である大学、特に地方の大学の地域貢献力の強化に着目した施策をしっかりと打ち出していくことが必要だということ。2つ目につきましては、これは新たな軸ですが、地域をフィールドとした、従来型の産学官の連携だけではなくて、市民も加えた連携による新たな研究開発システムということです。先ほど来、課題解決型研究の話がありましたが、やはり低炭素社会とか、健康長寿のような国家的な課題につきましては、国が大きな目標として設定して、地域が主体となって、また地域では単独で実施できないようなシステムの構築を目指すと。具体的には、環境・エネルギー、あるいは医療福祉、防災など、そういう分野についての課題を設定いたしまして、単に研究開発、技術実証だけではなくて、最終的に社会還元まで一貫して地域をフィールドに行うシステム。また、この結果がその特定の地域だけではなくて、他の地域に波及するような仕組みも検討しなければならないということです。
 最後のページ、8ページでが、3つ目としましては、国を挙げた体制整備ということで、地域が効率的にクラスターを進めるという観点では、やはり国はばらばらとした施策ではなくて、地域が各施策を総動員して1つのプロジェクトとして機能させるような環境整備ということも重要だということです。
 最後になりますが、地域科学技術委員会の総意といたしまして、やはり国と地域との新たなパートナーシップの構築という観点から、第4期の科学技術基本計画における地域科学技術振興の部分については、特に地域の意見を的確に把握して、的確に新しい基本計画に盛り込めるような仕組みを導入していくことが重要ではないかという意見でまとめております。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 以上の審議報告を踏まえまして、科学技術イノベーションのためのシステム改革のうち、産学官連携、知的財産戦略、地域イノベーション・システム及び研究開発成果の社会実装に関しまして、第4期科学技術基本計画における重要事項について審議を行います。まず事務局から説明してください。

【柿田計画官】
 ただいまご報告のありました産学官連携及び地域科学技術の今後の推進方策に関する提言内容等をもとに、本特別委員会において、第4期科学技術基本計画に向けた研究開発システム改革についてご議論いただくために、基本的な認識を記した資料といたしまして、資料5-1及び5-2を用意しております。
 まず、資料5-1の目次をご覧いただきますと、「産学官連携の強化」、「知的財産戦略」、「地域イノベーション・システム」及び「研究開発成果の社会実装」、この4項目にまとめております。1ページからは、産学官連携活動等の現状及び課題をまとめておりますが、内容については、資料5-2によりまして、データを中心にご覧いただきたいと思います。
 資料5-2の2ページですが、我が国の企業における技術獲得方法として、外部から技術を獲得する傾向がどのようになっているかを調べた結果です。他の企業、大学、公的機関、それぞれとの共同研究、あるいは受託研究を今後増やし、そういった活動を通じて技術を獲得していくという傾向が出ております。
 また、3ページは、我が国の大学における共同研究・受託研究のこれまでの実績の推移です。先ほども出ておりましたが、いずれも増加傾向にあり、産学連携による活動が進展しているということが、数値の上では明らかになっております。他方、4ページのデータでは、大学と企業との共同研究の1件当たりの金額規模は、ここ数年、250万円程度で推移しているということが分かります。
 5ページでは、産学での共同研究の際に大学等が重視する項目の変化について、左側が2003年、右側が現在を示しておりますが、現在では産学のニーズとシーズのマッチングを最も重視しているということが分かります。このように、今後とも産学連携を強めていく必要性とともに、マッチングを図るなど、連携を深めていくための取り組みが重要になっていると考えられます。
 一方、9ページのように、海外の例ですが、欧州には産学官連携のための場として、欧州委員会が主導で設置した欧州テクノロジー・プラットフォーム(ETP)というものがあります。ここでビジョンを作成し、その実現のために必要な長期的な研究戦略を作成。そして、その実現に向けて、欧州の企業を中心に学術研究会と政府など、官サイドからのステークホルダーも結集したプラットフォームで、欧州内での研究開発環境の整備と研究開発の実施を進める1つの組織として機能しているということです。
 また、11ページには、同じくヨーロッパ、ベルギーのIMECですが、これはナノテクノロジー分野における世界的な共同研究拠点です。研究活動の主なものとしては、大学における基礎研究と、産業界の技術開発の橋渡しを行うことです。世界中の企業が、IMECとの共同研究を行っていますが、非競争領域、また競争領域という2段階に別け、オープン、あるいはクローズドな形での研究開発の巧みな使い分けが行われるシステムがあります。
 海外では、このような産学連携の新たな仕組みが設けられております。
 また、13ページは、大学発ベンチャーの関係ですが、これは、近年設立件数が減少傾向にあります。この原因としては、13ページの右側の下方に表がありますが、人材の確保、販路・顧客の確保、資金調達が困難であるということが課題として明らかになっております。
 20ページをご覧いただきたいと思います。国際的な産学連携の関係では、我が国の大学と外国企業との共同研究、受託研究の件数、金額ともに増加傾向にはありますが、外国由来の研究費の割合を諸外国と比較すると、かなり低いという現状にあります。
 また、21ページには、我が国企業の研究開発費の支出先ですが、年々海外への支出が増えております。
 また、22ページは、大学等における特許のグローバル出願、国外出願の率ですが、我が国の場合は、近年減少傾向にあるとともに、他国と比較しても、グローバル出願の割合は低いという状況です。
 さらに特許関連のデータですが、33ページのグラフのように、大学による特許出願件数は近年横ばいで推移しておりますが、実施件数は増加の傾向にあります。また、34ページのグラフのように、実施に伴う収入も同様に増加の傾向にあり、知財の利活用が進んでいる傾向にあると言えると思います。
 一方、35ページのグラフのように、大学等が所有する特許権の全体の中で使われていない特許権の割合、未利用件数が全体として非常に高いということも課題として明らかになっております。
 次に、地域科学技術の関係です。先ほども増子戦略官より説明がありましたが、42ページのグラフを見ていただきますと、地方自治体における歳入・歳出の規模が年々減少傾向にあります。43ページ、さらに内訳を見ますと、科学技術に関する予算が減少し、ちょうど丸で囲んでいるところですが、中でも公設試験研究機関に対する予算が大きく減少傾向にあります。
 また、44ページでは、大学と中小企業との共同研究の件数等の推移が、全体としては拡大傾向にある中で、大学と同一県内の中小企業との共同研究の割合は、相対的に小さくなっているということがデータとして上がっております。
 最後に、研究開発成果の社会実装の関係では、前回の委員会でもご議論いただきましたが、48ページのように、いわゆる隘路となる外部要因として、規制、公共調達、あるいは研究に関わる周辺環境の国際化の問題が存在しており、これらへの対応が必要になっています。
 調達の関係では、50ページの右側ですが、独立行政法人の調達実績では、設立年数が21年以上という実績のある企業からの調達件数が全体として多くなっているということがわかります。新技術を有するベンチャー等にとって、この調達を取り巻く現状というのは厳しいという状況にあります。
 そこで、資料5-1に戻りますが、1ページから4ページまでが、ただ今ご説明いたしました現状です。
 5ページをご覧下さい。今後の研究開発システム改革はどうあるべきかということについて、基本的な考え方としては、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(研究開発力強化法)」でも謳われているとおり、研究開発の推進と、その成果をイノベーションに結びつける仕組みも含めた研究開発システムの改革が重要です。中でも産学官連携については、共同研究の増加など、これまで着実に進展してきておりますが、産学におけるシーズとニーズのマッチングや、知的財産の活用促進等に向けて、一層連携を深化させるための仕組みづくりが必要であると考えられます。
 6ページですが、イノベーションの創出に当たって、地域が持つ多様性や特色を生かした地域科学技術の振興は引き続き重要で、各地域の自立的・主体的な地域イノベーション・システムの構築に向け、国としても施策を講じていくことが必要であると考えられます。さらに科学技術を社会・公共政策の一環として進めていく中で、研究成果の社会実装や、隘路の解消に向けた取り組みを強化していくことが必要であります。以上の考え方のもとで、(1)から(4)の4つの項目について、今後講じるべきと考えられる事項について整理をしております。
 7ページの産学官の持続的・発展的な連携の強化についてですが、産学官連携は、大学等で創出された研究成果を産業化等を通じて社会に還元するための手段であり、また研究開発活動の活性化にも大きな役割を果たすものです。これまでの政策に基づき、その活動は活発化してきておりますが、今後はイノベーション創出を促進する観点から、産学官連携をより深化させるための取り組みなどを進めていくことが必要であると考えられます。
 9ページをご覧下さい。1つ目に、産学官連携の深化に向けた場の形成を挙げております。これまでも産学官で共同研究等は進められてきておりますが、産学官で取り組むべき課題の設定から、具体的な研究開発の推進に至るまでの新たな産学官共同の仕組みを形成していくことが必要ではないかと考えられます。具体的には10ページに示しますように、i)イノベーション共創プラットフォーム(仮称)ですが、欧州のETPの例も参考にしながら、産学官共同による研究開発の推進体制を構築していくことが必要ではないか。ii)産学官がオープンイノベーションにも対応する形で、中核機関と参画機関が競争と協調の関係を使い分けながら、研究開発を進めることができる仕組みの構築。その際には、中核的機関として、公的研究機関等の活用が考えられるのではないかと思われます。
 11ページ、2点目です。研究成果の事業化支援の強化としまして、特に大学発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャー等に対する支援の充実と併せて、大学等における専門人材の育成・強化等が必要であると考えられます。具体的には12ページの、i)の事業化までの切れ目ない支援として、技術の目利きのための人的支援等により、事業化につながるシーズ発掘の促進、また研究成果の創出から事業化までの切れ目ない支援の強化や、ii)の大学等における事業化支援体制を強化していくというようなことが必要になると考えられます。
 また、3点目は13ページ、国際化をはじめ、産学官連携活動を支える体制の整備です。ビジネスや科学技術のグローバル化といった中で、産学官連携を国際的に展開していくことは、大学等の教育・研究活動の活性化、また我が国の国際競争力を高めていく上で重要なことであると考えられます。また、大学等の自立的な産学官連携のためには、個性や特色を生かした多様な取り組みを促進していくことが重要と考えられます。
 このために、14ページに具体策ですが、i)国際的な産学官連携活動の推進のために、大学等における海外特許の取得の支援、また大学等による海外への情報発信や、海外の情報収集、あるいはネットワーク構築等を進める。またii)大学等における産学官連携体制の強化を進めていくというようなことが重要であると考えられます。
 15ページは、国際競争力強化のための知的財産戦略の推進であります。今後とも我が国が持続的に成長・発展していくためには、研究開発活動を通じて独創的・革新的な知的財産を生み出し、それらを効果的・効率的に経済活動等の創出に結びつけるための知的財産戦略が重要になります。このために、知財の利活用の促進、グローバル化、オープンイノベーションに対応する取り組みを推進していくということで、17ページのような知財制度の運用をオープンイノベーションにも対応する観点から見直していくということですとか、利活用の促進に向けて、先ほどのリサーチ・パテントコモンズのような枠組みを構築していくということが必要であると考えられます。
 また、21ページですが、地域イノベーション・システムの強化につきましても、これまで様々なクラスター形成等の振興施策が進められてまいりましたが、特に今後は、国際競争力のあるクラスターを形成に向け、単独の自治体ではなく、複数の自治体との連携や、小規模のクラスターについても特徴ある技術などを核として、競争力のある中規模のクラスターに発展させていくといったこと、また、大学等における地域貢献機能を強化していく。さらには22ページのような、地域の特色を生かしたイノベーション・システムの構築ということで、国家的・社会的な課題について地域を「場」として研究開発から技術実証、社会還元まで行うようなシステムを、地域に形成していくということを検討していくことも重要ではないかということです。
 23ページからは社会実装の関係ですが、ここは前回の委員会でもご議論いただいた部分で、やや具体例を入れながら記載してありますが、説明は省略させていただきます。
 以上、データ等をもとに、現状を踏まえた上での基本認識でございます。

【野依主査】
 ありがとうございました。それでは、ただいま3件の説明がありましたが、これらを踏まえて、今後の産学官の連携等の進め方についてご議論いただきたいと思います。

【冨山委員】
 ありがとうございました。特に大学発ベンチャーのところに絡むと思うのですが、9ページ目、産学連携の進化に向けた場の形成のところに関してのコメントですが、この方向性は、私自身は大変賛成です。そこで幾つかもう少し具体的な課題、私自身が気付いている点を申し述べます。1つは、ご存じのように、大学発ベンチャーって沢山作ったのですが、大半が駄目になっています。そことの関わりなのですが、1つはテクノロジー・ロールアップをどうするのかという問題です。というのは、ほとんどのベンチャーが、私もそれを実際多く見てきているのですが、いわゆる「物質1個だけで会社つくっちゃった」みたいな、一本足打法ベンチャーがたくさんあります。これだと事業にはならないわけで、それをどうロールアップしていくかという機能をどこかで持たせないと、そこはうまくいかないという問題が1つ。
 おそらくこういう場というのは、それをしていくチャンスなのかなと思うので、そこに期待したいということ。
 それから、知財の問題。さっきの説明にあった特許がどれだけ生かされているかという問題ですが、知財は、今日は野間口主査代理はじめ専門の方々がたくさんいらっしゃるので釈迦に説法も甚だしいのですが、知財って誰がどう持つかによって全然価値が変わってきます。したがって、これを例えば大学横断的に戦略的に集積してマネジメントするという機能をどこかで持っておかないと、これもある意味一本足打法の問題と同じで、うまく戦略的にマネジメントしないと実は価値を持ってこないという問題があります。この機能を、どこで誰が持つのかという話。
 それから、さっきの一本足打法と少し重なるのですが、日本の大学発ベンチャーは、はっきり言って余りにも早い段階からVC(ベンチャーキャピタル)を使い過ぎです。何でこんな段階でベンチャーキャピタルなんかに使っちゃったのというケースが非常に多いのです。もっと研究助成金とかで成熟度を上げるべきだろうというケースが多い。その意味でどの段階でVCを使うかが問題です。あるいは、最終的な出口としては、アメリカのベンチャーはほとんど90%が大企業にM&Aエグジットです。ということは、それをかなり早い段階から想定して、いろいろなものを組み込んでおかなきゃならないんですが、これがでたらめに行われてしまうせいで、例えば、三菱電機さんが買収に出て行こうにも出ていけないような代物になってしまっているケースが多いんです。したがって、要はVCや大企業を使うスキルというのも必要になってきますが、要は、これはVCの人に期待するのは利益相反で違う立場になりますので、これをどうするのかという問題があります。
 そういったもろもろのものを、例えば、先ほど東委員からもありましたが、シリコンバレーであれば、エリアとしてエコシステムでもっているモデルになります。ただ、これを自然発生的にエコシステムで日本で形成されるのを待っていると、100年ぐらいかかる。100年かかってもちょっと厳しいかなと思っている部分があって、これはさっきのヨーロッパの取り組みもそうですが、優れて国が主導的・能動的にプラットフォームをつくっていくということをやっていかないと、この仕組みはでき上がらないと思うので、そういうものになっていったら素晴らしいなという点が1つ。
 それから、もう1点、今後を担う人材の問題です。今申し上げたような機能であるとかスキルであるというのは、ある種の触媒型の人材ということになるんですが、文系的好奇心のある理系の人とか、理系頭な文系の人とか、そういうタイプの人材がこれを担っていくことになるんですが、そういった人材を、プラットフォームのあたりでどういうふうに集積していけるのか、あるいは、育てていけるのか。これはなかなかアメリカの手法を日本で真似てもしようがない部分がありますが、例えば、シリコンバレーであれば、Ph.DとMBAを持っている人なんてごろごろいるわけです。あるいは、Ph.Dを持っているローヤー(lawyer)もごろごろいるわけです。ローヤー、MBA両方とも持っている人間もごろごろいるわけです。
 実は、今申し上げた機能というのは、そう簡単な話ではないので、そういったかなり尖った、本当にハイレベルの人材が、プラットフォームの辺りにいるようにしていかないと、今申し上げたようなことは結局できないので、その辺をぜひ考えていただけたら嬉しいなと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。他にご意見はありますか。
 では私から、資料5-2の21ページ、企業の開発研究費の支出先について。これは前から言われていますが、我が国の民間企業が、海外の研究機関に約3,000億円を支出しているのに対し、国内の大学には1,000億円も支出していないという状況が示されています。逆に、日本の研究機関が海外から獲得している資金に関するデータはありますか。

【柳研究環境・産業連携課長】
 外国企業から、日本に入ってくるという事例につきましては、20ページです。平成16年度から20年度にかけまして、外国企業との共同研究、受託研究で、我が国に入ってきた金額をまとめてありますが、金額ベースでいきますと一番右の欄、共同研究といたしましては7億3,500万円程度、受託研究としては4億5,900万円程度と、合わせて12億円程度ということで、非常にそこはアンバランスがあるということかと思います。

【野依主査】
 我が国の民間企業の研究費支出とは、共同研究などを意味しているのですか。

【柳研究環境・産業連携課長】
 実は先ほどご指摘いただきました21ページにつきましては、総務省統計局の資料で、詳細な中身については確認中ではございますが、外国から日本に入ってきているものは大学等の共同研究ということに対して、完全に同じものを拾っているかというと、多少のずれはあろうかとは思いますが、傾向として大きなギャップがあるということは言えようかと思います。

【野依主査】
 3,000億円と12億円ではまったく比較にならない。
 東委員、中村実行委員長、やはり、民間企業は十分なリターンがあるからこそ海外に出資しているということですね。

【東委員】
 リターンについては、中長期的に遡及すると、あると思います。ということは、やはり5年、あるいは10年のスパンでどれだけ企業が利益を上げているか。その利益が、全体をトータルして黒字であるならば、そこで行なった施策は、それほど間違っていないというのが大まかな話です。各論でいうと、例えば、この資料の40ページを見て下さい。ISO・IECへの参画状況というのがあります。これを見ると日本は極めて数が少ないんです。この国際標準を、日本がかなり優秀な技術を持っていても、なかなか標準化のところでイニシアチブを獲れない。その結果、ある事業を実行するには多額のロイヤリティーを支払わないと継続できないのです。
 事業を成立させるための研究開発費は、例えばアメリカだったら、大学だけじゃなくて、かつてはベル研など研究機関に投資せざるを得ない。それによって、国際標準の中に加われるということは事実です。先ほどIMECの例がありましたが、ヨーロッパの半導体や、アメリカにも最先端の半導体の拠点があります。アメリカ、ヨーロッパはプラットフォームをつくるのが非常にうまいので、そういうところに研究開発資金が使われています。トータル的にはリターンがあるということは、このような例からご理解いただけると思います。

【中村COCN実行委員長】
 東委員のご説明に尽きると思うんですが、私も産業界の人間としての立場で申し上げますと、損をするような投資は企業では出来ませんので、これはまさに期待値も込めて、海外からリターンがあるということを意味しているのではないかと思います。
 ただ、分野別にもう少しブレークダウンして検討してもらえればいいんじゃないかと思います。私の知る限りでは、日本の製薬企業というのは、ほとんど治験を海外でやっていると思います。そういうものがかなりこの数値を占めているんじゃないかと想像するのです、そういう解析をやっていただいたらどうでしょうか。

【伊地知委員】
 資料4-2の21ページの図は、私の専門のところなので知っているところで補足申し上げたいと思います。(21ページの図で)凡例で「海外研究機関」となっていますが、(その部分は、この図の出典である)この「科学技術研究調査」では、調査票上は、企業が「外国」に支出しているということだけです。その内訳は「自己資金から支出した研究費」がどれだけだということなので、相手先の(「外国」の中でさらに細分された)セクターについては把握されていません。ですから、同じ企業グループ間のやりとりとかも、かなり含まれている可能性があり得るわけです。
 あと関連することを申しますと、今日の地域に関係するプレゼンテーションにもあったことです。欧州の同様な地域科学技術政策の資料を見ますと、地域レベルで研究開発にいったいどれだけ投資されているかというのは、きれいに色分けされて出てきます。でも日本の場合は残念ながら、地域レベルで把握できるような仕組みになっていないわけです。(より細分化されたデータを把握しようとすれば、調査への)企業や研究機関等の回答負担が増えるかと思うのですが、今のところはわかる仕組みにはなっていないということなので、ここのところの数字について議論をするということは、ちょっと難しいのではないかなと思います。そうであるからこそ、例えば、地域科学技術政策等では、アドホックにいろいろな情報を集められていると思います。セクター間でどういったお金の流れがあるかとか、地域の中でどういうふうになっているか、これは一例ですけれども、それが(現状では)定常的に把握できるような状況にはなっていないということを、ちょっと情報として提供させていただきたいと思います。

【野依主査】
 私は、大変なインバランスが存在するという印象を受けました。日本の研究機関が海外の企業から資金を1,000億円獲得するといったことを、第4期科学技術基本計画の目標に挙げることができないかとまで考えます。イノベーションを創出するためには、国際関係が双方向でなければなりません。正確な額でなくとも、大きなインバランスがあることは事実でしょうか。

【伊地知委員】
 そこは分からないのです。つまり、外国は全て「外国」なのです。外国の似たような企業に支出されているものも多くあり得、ここ(21ページの図)では「海外研究機関」と書かれていますが、調査票上は、単に「外国」なのです。

【野間口主査代理】
 私は、このデータも非常にいいけれど、野依主査の指摘も素晴らしい、東委員と中村委員長の答えも、産業界側の答えとしては、私は、非常に良かったなと思います。今までは、こういう説明が産業界側からなされていなかった。経団連の中で議論しているだけで、文部科学省まで届いてなかった。だから、こういう場はぜひつくっていただきたいなと思います。
 伊地知委員から、このデータの性質について説明がありましたが、そのとおりだと私も思います。中村委員長からご指摘がありましたけれども、創薬分野はそれ以外の製造業などとはがらっと違います。その辺を踏まえて数値についてはコメントしないと、間違った方向に行ってしまいます。私個人的には、インバランスはかなりあると思います。絶対値としてこれほどの差はないと思いますが、それでもかなりあると思います。
 それは例えば、外国企業から日本の大学に依頼しようとした場合に、不実施補償の問題とか、あるいは、外国企業が日本に研究所をつくって、日本の優秀なドクターを採用して色々やろうと構想する時の、職務発明の制度の問題とか、日本としてグローバルな制度設計が未熟な分野はまだ結構あるんです。それらを可視化して、第4期科学技術基本計画に向けてこうしなければ、外国からの投資が呼び込めないよ、というように議論を進めたらいいのではないかと思います。

【野依主査】
 第4期科学技術基本計画に向けて、他省庁でもこの問題は検討されると思います。もう少し詳細な分析が必要です。

【永井委員】
 今の問題に少し関わりがあるのですが、私が昔一緒に育てた大学院生がアメリカへ行って10年たつのですが、そろそろ一人前になったという頃に、日本の企業が多額の基礎研究費を彼に与えていまして、それはもちろん彼の研究の成果によるのですが、彼のラボに非常に国際性をもって色々な人が集まって頑張っているということに日本の企業が賭けたのではないかと思います。
 そういう点で、今回のまとめを見ますと、もちろん背景に少子・高齢化の問題が日本にありますけれども、研究者も人材が少なくなっているわけです。この部分をどうやって補うかが重要です。私は、人材育成をもっと国際化する必要があると考えます。参考資料の49ページに、優秀な研究者を受け入れるよということが書いてありますが、実際大事なのは、優秀かどうかではなく、とにかく研究をしたいという若者をいかに国際的に受け入れるかというシステムではないかと思います。その辺をもっと強調して、大学院生とかポスドクの国際化を強調されたらどうかと思います。

【野依主査】
 「優秀な」というより「意欲のある」学生であることが必要です。

【永井委員】
 その通りですね。
 最後に今の治験の問題ですが、これはまとめの最後のページ、25ページの下から2行目にありますが、いわゆる臨床研究・実証研究において発生する関連費用について、国による支援の実施が必要であると書いてありますが、もう少し具体的に、例えば、患者さんが臨床研究で被害を受けたときの補償であるとか、あるいは、今、先進医療は患者の部分的な自己負担で、つまり混合診療が行われていますが、そういう患者さんの経済的な負担を軽減するという意味での国の支援が必要であるということを、もう少し具体的に書いていただいたほうがよいのではないかと思います。

【二瓶委員】
 参考資料22ページの図を見ていただきながら、大学からの特許出願に関する、特許の活用を事業としている我が国の研究者からのコメントをご紹介します。日本の大学が知財を重視するということで、大学人がここ20年にわたって大変努力をしたというのは事実であります。ただ、よく言われることですが、大学発の出願特許が、その道の専門家から見ると、必ずしも熟していない。つまり、十分ではない形で出願され、それが格好の先端研究の知見として、外国の諸企業が利用しているという現状が多々あるということです。これは重要な指摘でして、大学としてどう応えるべきかと言えば、大学人の知財出願のレベルを上げるということ。すなわち、企業の皆さんが行っているように、専門家のサポートをきちんと受けて、より完全な、より有効な特許出願をすべきだということになるわけです。
 もう一つは、ここに出ているようにグローバル化の問題ですが、日本の大学の出願は、国内出願のみが圧倒的に多く、外国出願が少ない。この理由の1つは、やはり大学の予算の問題がある。要するに、徐々に特許出願件数が増えると負担も増えるが、その経費が負担出来ない。もちろん量から質への転換を図っているのですが、外国出願までには十分に財源が回らない。このような現状を見ますと、グローバル出願率が落ちるのは当然なのです。ですから、これは先ほどのベンチャーの議論と同じように、ぜひ国のてこ入れが必要ではないかと思います。国際共同研究の推進は、知財の確保が大前提で、それがないうちに外国からの引き合いに安易に乗っていいのか、極めて危ういことだと思います。より効果の高い、優れた外国特許を確保した上で共同研究を推進しないと、結局、国益につながらない。そのことを強調したいと思います。

【安西委員】
 1つは、経団連からの報告があったというのは、先ほど野間口主査代理も言われましたが、これは画期的なことで、私はこのことは、やはり歴史に名をとどめることだと思います。本当にありがとうございます。
 それから、海外からの研究開発投資が少ないということについて、日本の大学は本当に見すぼらしいと思いますし、内容がついていっていないと思います。これは大学側の責任が非常に大きいと思います。もちろん一方で、大学の財政、予算の問題がありまして、これも見すぼらしいので、そこに理由を持っていくことが大半だとは思いますが、一方でやはり大学側も、海外からの共同研究については、もう国内、国外を問わず、そういう垣根なしに考えていく時代にきていると思います。どこの大学でもおそらく外国からの産学連携の話があると、むしろ担当部署が困るのではないかと思うぐらいです。
 そういう中で、オープンイノベーションという言葉がかなり出てきておりましたが、ただ私が見ているところでは、企業の方はそう思われるのではないか、東委員なんかはそう思われるんじゃないかなと思うのですが、申しわけないのですが、やはりこのお役所のレポートは生煮えの感が正直いってあります。オープンイノベーションというのは、さっきから出ておりますように、かなり多様で、分野によっても非常に違いますし、企業それぞれでもやり方が違います。そういうことをもう少し文部科学省側でも勉強していただきたいなと思います。今後、「オープンイノベーションをやっている大学は国立大学で何校」といったような統計を出されると、それはオープンイノベーションの本質とは非常に違う話になってしまいます。「オープンイノベーションをやっている」と一括りにするのではなく、一つ一つが違うのだということをベースにして、ではどういう支援ができるかというスタンスに変えていっていただきたいと思います。これまでの、例えば「大学発ベンチャーが何件出来た」、そういう統計にも私は異論がありますが、オープンイノベーションということになりますと、もっと個別のことになりますので、個別にそれぞれの企業、あるいはそれぞれの大学等、あるいは連携のプロジェクトが伸びていくことを、それを総括して、どういうふうに支援できるのかということが非常に難しい課題です。ただ、そこへ持っていくということは非常に大事だと思いますので、ぜひ勉強を重ねていただきたいと思います。

【本藏委員】
 今日のお話を伺っていて、我々の防災科学技術関係についても、産学連携という観点からも非常に遅れているなと、今日は大いに勉強させていただきました。それに関してちょっと発言させていただきたいと思います。
 皆さんご承知のとおり、我が国は、特に地震防災で、研究レベルとしては非常に世界のトップレベルにあります。特に注目されているのは、最近になって実用化が進んでおりますけれども、緊急地震速報という、これは世界からも注目を浴びている技術が開発されてきています。それが具体的に社会に還元されているかどうかという点については甚だ弱いということで、我々はちょっと反省を込めて、どこに問題があるのかということについて、日ごろ考えていることを説明したいと思います。
 その点に関しては、先ほどご説明がありました地域クラスターの重要性について、我々はもっと認識をすべきではないかと考えているわけです。というのは、我が国の世界最先端の地震防災科学というものが、特に国のバックアップのもと、地震調査研究推進本部という強力な機関があって、関係省庁が本当に連携をして取り組んでおり、その成果は具体的には出来てきているわけです。主なものとしては、日本列島全域を対象とした強震動の予測地図。将来どの地域がどのような地震動を受けるかということの全国版の地図ができております。それから、海溝型の巨大地震、あるいは、内陸の直下型の地震などでは個別の地震発生確率というのも公表されております。緊急地震速報については、先ほど申し上げたとおりであります。
 こういった世界からも注目されるような成果があるのですが、それが社会に還元されるメカニズムが弱い。ですから、調査研究の成果が生かされていない。そのギャップをどうやって埋めていくのかということを、我々は考えないといけないわけですけれども、1つは、今日のお話を伺っていますと、やはりこういう防災というものは、地域の特性に応じた細かい対応が必要になりますし、それに対する対策の技術等についても、きめ細かいものが必要になる可能性が高いということで、地域の役割が非常に大きいだろうと思います。したがって、先ほどご説明がありましたような地域のクラスターのような仕組みというものが、実は極めて重要だと思います。
 そういう中で、ただ我々としては、調査研究成果というものが出ているわけですが、それが社会実装につながらない。その間を埋めていくものとしては、やはり産学連携の役割は非常に大きいだろうと思います。その部分が、今、決定的におくれている。そこを強化する必要があるだろうと思っております。そうしますと、例えば、緊急地震速報にしても、単独だけも相当意味があるものですが、もっと付加価値を相当つけられるはずのものでありまして、そういう技術はもっともっと我々としては発展させなければいけないと思っているわけであります。こういったギャップを埋めることによって、こういう我が国が得意とする分野を、さらに我が国だけではなくて、アジア中心とした諸国との共同研究、あるいは、産学連携をさらに進める契機になるのではないかと思っています。
 現在、JST/JICAの地球規模課題対応科学技術国際協力事業の防災分野で、インドネシア、フィリピンなどで地震、火山、津波防災に向けた総合的取り組みが始まっています。最近テレビでニュースになっていますが、インドネシアにおいてはジャワ島南部で地震が発生し、昨日はスマトラ西部で地震が発生し、大きな被害が出ているわけですが、そういうところも具体的に調査研究地域に既になっているわけですが、調査活動がまだ始まったばかりなので、まことに残念ですが、具体的防災につながっていない。ただし、この場合においても、調査研究の基礎的成果だけで社会実装にそのままつながるわけではなくて、現在進んでいるプロジェクトでは、社会実装の道筋までは描くという形をとっておりますが、具体的にそこから先、どういうものに具体的につなげていくのかということについては、やはり産業界、企業との協働なくしては、多分現在の研究グループだけでは無理です。ところが、そのメカニズムが欠けているということで、そういうところをやはり強化しなければいけないということで、我々は非常におくれている分野で反省しておりますが、そういう展望を持って今後進める必要があろうかと思います。

【大隅委員】
 ありがとうございます。資料5-2の48ページのところがちょうどいいと思いますので、これを使って少しコメントさせていただきたいと思います。今日のお話の中でも、それから、またこれまでの議論の中でも非常に重要なキーワードとしては、国際対応、国際化ということではないかと思います。結局のところ、それが例えば産学連携を進めるものであると思います。
 例えば、産学連携をグローバルに進めようといった時にも、国際的なことに対する対応が、日本の中で非常に遅れているという現状があります。ここにちゃんと書かれていますが、マネジメント、給与、事務の国際化等々、さらにもっと大事なことは、下のところに書かれているんですが、例えば、子どもや配偶者など、外国人の研究者の家族にとっても住みやすい環境となっているかどうか。これによって優秀な人材を、さらに海外から日本に連れてこられるかというところに関わってくると思います。また、今日の論点ではございませんが、例えば、育児や介護と研究の両立といった、これは女性の問題だけではないと私は思っていますので、そういったところにもつながってくるということで、非常に重要なのではないかなということで指摘させていただきました。以上です。

【益田委員】
 大学の教員にとって、一番重要なのは教育と研究、次が社会貢献で、今日話題の知財、産学連携等は社会貢献の部類に属するわけです。教育と研究に関しては、当然全教員がやる。最近は、教育の評価というものもしっかりなされるようになっています。また、教員にとってもっとも関心の高い昇格人事は、基本的には研究をベースにしてなされますが、最近は教育の要素もかなり入ってきています。その意味で、全教員にとって、教育と研究は動機付けが明確です。
 これに対して、知財、産学連携等の社会貢献は、これからの大学にとって、財源確保の視点からも極めて重要ですが、一般の教員にとっては、教育、研究に比較して、その動機付けが必ずしも明確ではありません。大学のマネージメント体制が、どのようにしてこのような社会貢献への教員の関心を高めるか、あるいは、教員に動機付けを与えるかも重要です。私が以前いた工科系大学でも、知財、産学連携といった社会貢献に関心を持つ教員の比率は、数割程度だったと思います。その比率を上げるために、大学として、知財、産学連携等に貢献する教員をどのように積極的に評価するか、その結果を教員個人に対してどのようにフィードバックするかも考えるべき課題かと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。私は、研究に関しては、先程東委員が仰ったように、個人の力が一番大きいと思います。しかし、社会貢献の問題については、もちろんプレーヤーである各研究者が関わることはあっても、大学全体、あるいは機関全体のフロント業務やマネジメントによるものです。今の大学や研究機関は、特にそのフロントの能力が欠けているのではないかと思います。社会的問題を研究者に押し付けては気の毒です。

【益田委員】
 先ほど丸本委員が仰いましたが、そういうイノベーションの芽はたくさんあるわけですから、しっかりマネジメントをして摘み取る仕組みを考えないといけない。

【野依主査】
 先ほど大隅委員がおっしゃった国際化の問題についても、研究者個人は、あるいは教官個人は国際化されていても、マネジメントが全く国際化されていないという問題があります。

【西尾委員】
 産学連携の多様性に関する、10ページの多様な産学連携拠点の形成という記述において、企業内研究室の設置ということが書いてあります。これは企業の内部に大学関連の研究室を置くという話だと思いますけれども、逆に大学内に、企業と大学が全く対等な立場で産学連携ができるような共同研究講座を持つということが非常に大事かと思います。というのは、先ほど東委員と中村実行委員長のご意見をお伺いすると、最終的なところは、非連続性、パラダイムシフトが重要であり、それを実現するのは多様性と異分野融合であると言えると思います。ところが、大学の中だけで多様性、異分野融合と唱えてもなかなか促進されません。そこで、例えば課題解決型でも良いのですが、企業の方々との対等な形での共同研究を大学内で推進する体制を構築すれば、必然的にそこでは多様性、異分野融合が促進されると思います。したがって、大学内に企業の方々に積極的に来ていただくことは重要であり、双方向の形態が必要だと思います。
 もう一つは、地域の特色を生かした地域イノベーションという時に、やはりコーディネーターの方のお力というのは今まで以上に大事になると思います。幅広い知識と多様性を備えてご活躍いただけるコーディネーター、特に、大学が要求しているコーディネート機能とマッチングするような能力を備えたコーディネーターをいかにどう育てるかは重要だと思います。以上です。

【森委員】
 前回、イノベーション創出のところで、知の創造ということをおっしゃられて、その言葉が加わったのは大変ありがたいです。つまり、5ページの下から2行目で、「知の創造や成果の適切な保護・権利化とともに」という文言のところですが、こういう公の文書は、一言一句が非常に大事ですので、申し上げます。これを拝見すると、知の創造をどうするのかよくわかりません。つまり、成果は適切な保護・権利化をするけれども、知の創造を保護・権利化するというのは、研究者の私から見ると妙なので、表現を補っていただけるとありがたいです。

【野依主査】
 事務局で適切に修文して下さい。

【白井委員】
 2つだけちょっとつけ加えたいんですが、1つは野依主査からあった、出入がアンバランスじゃないかということなんですが、やっぱり日本の大学はほとんど外に働きかけをやったことがないんです。この2年間ぐらい文科省の政策もあって、国際化、産学連携というようなことで、実際に出向いている大学があります。例えば京都大学なんかです。確実にレスポンスはあるんですね。金額が大きいかどうかは別としても、とにかく成果を上げているし、京都大学の存在感すら上がってきているというふうにも聞いています。やっぱり今まで働きかけはほとんどやってきていないから、何も見えていないというのが正直なところかもしれないと思います。ただ、何もやっていないわけではないという状況でもあります。
 それから、もう一つは、本藏委員の言われた、社会科学からのそういうことは、すぐにでもこういった産業、防災のインフラをこういうふうに我々はつくるべきだということが共通の認識だとすると、第4期科学技術基本計画でも、それをどこまで達成するんだというような目標を立てると、猛烈にイノベーションにつながるんですよね。どんなシステムをつくらなきゃいけないか。そのための機器はどういうことを開発しなきゃいけないか、山ほど事業が出てくるのですが、私はやっぱり今回、具体的な我々のゴール、こういう社会にこういうものをつくるということを示す必要があると思います。例の「CO2マイナス25%」と言うだけじゃなくて、本当にそれがいいと思うんだったら、どうやって達成するということを示す必要があるのではないかと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。それでは、本日いただきましたご意見を踏まえて、事務局で整理をお願いします。
 最後に議題6「今後の本委員会の日程等」について、事務局から説明して下さい。

【柿田計画官】
 資料6に今後の予定を記載しております。次回は10月16日の金曜日、16時よりこの場所で行います。議題は、記載している内容を予定しております。
 また、本日の議事録案を後ほどメールでお送りさせていただきますので、ご確認いただきますようお願いいたします。また、資料につきましては、封筒に名前を記載して残していただければ、後ほどお送りいたします。以上です。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 以上で、科学技術・学術審議会第6回基本計画特別委員会を閉会します。

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

電話番号:03-6734-3982(直通)

(科学技術・学術政策局計画官付)