基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)(第3回) 議事録

1.日時

平成21年7月27日15時~17時30分

2.場所

東海大学校友会館 阿蘇の間 (霞ヶ関ビル35階)

3.議題

  1. 海外諸国の国際戦略について
  2. 科学技術の国際活動の推進に関する今後の重要課題について(中間とりまとめ) (科学技術・学術審議会 国際委員会)
  3. 科学技術・イノベーションの国際戦略
  4. その他

4.出席者

委員

野依主査、野間口主査代理、東委員、有川委員、安西委員、伊地知委員、大垣委員、大隅委員、長我部委員、河内委員、門永委員、黒田委員、小杉委員、小林傳司委員、佐々木委員、白井委員、菅委員、立川委員、フクシマ委員、冨山委員、西尾委員、二瓶委員、原山委員、本藏委員、益田委員、丸本委員、元村委員、森委員

文部科学省

(大臣官房)森口文部科学審議官、土屋総括審議官、西阪文教施設企画部長、奈良総務課長、藤原会計課長、坪井政策課長、岡文教施設企画部技術参事官、菱山文教施設企画部計画課長
(高等教育局)加藤審議官、義本高等教育企画課長、藤原大学振興課長
(科学技術・学術政策局)泉局長、小松科学技術・学術総括官、中岡政策課長、佐藤調査調整課長、川端基盤政策課長、柿田計画官、森田国際交流官、岡谷科学技術・学術戦略官(推進調整担当)
(研究振興局)磯田局長、倉持審議官、山脇振興企画課長、柳研究環境・産業連携課長、舟橋情報課長、勝野学術機関課長、山口学術研究課長
(研究開発局)藤木局長、土橋開発企画課長、鈴木地震・防災研究課長、千原研究開発戦略官
(科学技術政策研究所)桑原総務研究官
他、関係官

オブザーバー

相澤総合科学技術会議議員、今榮総合科学技術会議議員、金澤総合科学技術会議議員、永野科学技術振興機構研究開発センター上席フェロー

5.議事録

【野依主査】
 科学技術・学術審議会第3回基本計画特別委員会を開催します。
まず、事務局に人事異動がありましたので、紹介して下さい。

【柿田計画官】
 7月14日付けで人事異動がございましたので紹介させていただきます。
まず、森口文部科学審議官でございます。

【森口文部科学審議官】
 森口でございます。よろしくお願いいたします。

【柿田計画官】
 西阪大臣官房文教施設企画部長でございます。

【西阪文教施設企画部長】
 よろしくお願いいたします。

【柿田計画官】
 加藤大臣官房審議官高等教育局担当でございます。

【加藤審議官】
 加藤です。よろしくお願いいたします。

【柿田計画官】
 小松科学技術・学術政策局科学技術・学術総括官でございます。

【小松科学技術・学術総括官】
 小松でございます。よろしくお願いします。

【柿田計画官】
 以上でございます。

【野依主査】
 それでは、事務局から配付資料の確認をお願いします。

【柿田計画官】
 配付資料の確認をさせていただきます。
 座席表、特別委員会委員名簿、議事次第、資料1は海外諸国の国際戦略、資料2-1は科学技術の国際活動の推進に関する今後の重要課題についての中間とりまとめの概要、資料2-2は中間とりまとめの本文、資料3-1は科学技術・イノベーションの国際戦略、資料3-2は科学技術・イノベーションの国際戦略(参考資料)、資料4は今後の予定です。また、参考資料1として、前回の委員会における主な意見をまとめたものをお配りしております。それから、国際委員会の委員名簿がございます。また、科学技術振興機構研究開発戦略センターよりパンフレットと科学技術・研究開発の国際比較(2009年版)の概要版を配布させていただいております。その他、参考資料として、机上に2種類のファイル資料を用意させていただいております。
 不足等ございましたら、事務局までお申しつけ下さい。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 前回までの2回の審議では、主に科学技術を取り巻く諸情勢の変化、これまでの成果、さらに今後の科学技術政策において目指すべき国の姿についてご審議いただきました。今回からは、前回ご議論いただいた論点整理に基づいて、個別のテーマごとに審議を進めていきたいと思います。
 本日のテーマは「科学技術・イノベーションの国際戦略」です。
 まず、議題1「海外諸国の国際戦略」について、科学技術振興機構研究開発戦略センターの永野上席フェローにご説明いただきます。

【永野上席フェロー】
 永野と申します。よろしくお願いいたします。貴重な時間ですので、早速説明に入らせていただきます。
 資料1ですが、タイトルとして「海外諸国の国際戦略」としてあります。今日は科学技術外交や、頭脳サーキュレーション、国際活動の基盤強化についてご議論されるということで、それらに関係のするものをご紹介させていただきます。
 まず、私が所属しております科学技術振興機構研究開発戦略センターでは、社会ビジョンや社会ニーズの分析を行い、海外の動向も調べながら、様々な研究開発領域の俯瞰マップを作成し、その中から重要領域・課題の候補を抽出し、今後重要となる研究開発領域、課題、その推進方策を戦略プロポーザルとして提言しております。これまで50余りのプロポーザルを刊行しております。野依主査にも首席フェローとして会議にご出席いただいております。5年前に出来ました組織ですが、以前テキサス・インスツルメンツの社長をしておりました生駒がセンター長を務めておりましたが、今年からは元東大総長の吉川先生がセンター長を務めております。
 3ページですが、今年度に取り組んでいる主な項目です。それから、下のほうに新興・融合分野の推進方策です。ファンディングの機能の分析、新しいファンディングシステムの提案が出来ないかということや、人文社会科学との連携などにも取り組んでおります。
 4ページですが、海外の動向も把握しておく必要があるということで、私が担当して、海外動向について様々な調査報告を刊行したり、毎日情報を発信したりしておりますが、全てオープンにウェブで見られるようになっております。国際的な科学技術力の比較についても議論しております。これについては、分野毎に報告書を出しておりますが、全部をまとめた概要版を本日は参考として机上配付させていただいております。これについては今日の委員会の議題とは違いますので、説明は省略させていただきます。
 5ページから本題ですが、まず中国です。中国では15年の中長期計画や5年計画という基本計画のようなものを作っておりますが、その5ヶ年計画に基づいて国際協力についても実施綱要を作っております。その中の基本方針というのは非常に妥当なことが書いてありますが、結果として、国際科学技術組織における発言力・国際的な影響力を強化しようということを明確に言っております。企業・研究機関の海外進出、途上国も含めた世界の科学技術資源の活用、それから途上国も含めた輸出の拡大などを盛り込んでおります。
 次の6ページですが、人材の国際流動については、以前は帰国奨励策ということで色々なものが知られておりますが、最近はグローバルな「知」のネットワークの構築に非常に意欲的に取り組んでおります。一番下は、ハイレベルの大学院生を毎年5,000人程度公費で海外に出そうというものです。日本にも送りたいという話があったようです。
 このように、中国の場合はキャッチアップ中なので分かりやすいと思われるかもしれませんが、隣国でこのようなことが起きていて、世界とのネットワークが確実に作られつつあるというのが現実だろうと思います。
 次に、9ページの韓国でございます。韓国も今の李明博(イ・ミョンバク)大統領は非常に活発です。例えば上のほう、2012年までに10の海外先端分野の研究所を誘致しようということや、面白いのは、国際共同研究は従来、二国間・小型課題中心の協力が多かったのですが、非効率なのではないかということで、多国間協力に重点を置くようになっており、本年6月、韓国は非欧州国で初めてEUREKAの準加盟国になっております。
 10ページのシンガポールです。時間も限られておりますので、シンガポールについては、国策として色々なことをやっているという事実だけをご紹介させていただきます。小さい国だからできるのだろうという話もありますが、もしかすると、日本よりも先進的な施策もとっているのではないかという印象もあります。
 11ページのEUですが、EUには基本的な目標として移動の自由を実現するということがありまして、商品の移動の自由などに次いで、5番目の自由として、研究者・知識・技術の移動の自由を2020年までに実現しようと言っております。それから、ERCというのはEU諸国の優秀な研究者の個人へのグラントですが、これはそもそも優秀な研究者にグラントを出すことが目的で、研究者の移動とは関係ないとのですが、グラントをもらった人はEU内であればどこへ行ってもいいということですので、結果的には研究者の流動化に非常に貢献しているのだと思います。
 13ページのイギリスです。イギリスは非常に色々なことをやっていますが、2005年につくられたGSIF(Global Science and Innovation Forum)、これは主席科学顧問が議長で、複数の関連省庁で国際協力のためのグローバル化についての施策をまとめて議論しています。国際連携戦略と下に書いておりますが、7つの提言を示しています。7つの提言の中で興味深かったのは、2005年に確立したアメリカとの大学連携のモデルを中国、インドにも拡大しようというものです。
 14ページのSINです。これもイギリスですが、これについては委員の方々には東京にあるイギリス大使館からシンポジウムなどのお誘いがあるのではないかと思います。イギリスの外務省とイノベーション省が共同で運営しておりまして、主席科学顧問をヘッドとして、世界的レベルで様々な情報を一括的に集めるという、まさに国際協力の基盤づくりを行っております。
 15ページにいきまして、途上国との研究協力、イギリスですが、DFID(国際開発省)による研究開発協力ということで、近年、研究を重視しておりまして、R&D支出額は過去20年間で5倍と、非常に積極的やっております。
 16ページのアメリカです。クリントン国務長官やオバマ大統領が色々と発言されていまして、アメリカのことは比較的ニュースになりますので、よく御存じだと思います。最近、議会でも、国家科学技術会議に国際科学技術委員会を再設するという案を含む法律が下院を通って、上院でこれから審議されるところです。
 最後に18ページのまとめです。国際社会での生き残りをかけて、世界を視野に入れた政策の立案と実行がどの国にも求められる状況に突入していますが、実際に次のようなことが様々な国で行われています。
1. 国際的なネットワークの一員であることを認識した上での施策立案。これはイギリスやEUです。
2. 人材につきましては、中国、シンガポール、アメリカ、EUなどが様々な施策をとっています。
3. 海外の情報収集・ネットワークの構築については、イギリスが目に見える形で活発に行っています。
4. 多国間のファンディング。日本もヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムなどを作りましたが、EUは色々な施策をとっています。
 それから、5. ですが、国外研究者が獲得可能なファンディング。NSFのファンディングは今まで国外研究者には取りにくいような感じだったのですが、最近、途上国の人がうまく取れるシステムを作っています。
 6. 国際組織の誘致。これは今説明いたしませんでしたが、ドイツは地球温暖化など気候変動を念頭に入れて気候変動枠組み条約の事務局を招致しました。更に、再生可能エネルギーについての国際機関を作る条約をドイツが主導して作って、日本はまだだと思いますが、批准する国も出てきております。これも国家戦略に基づく国際的な動きであると認識しています。

【野依主査】
 ありがとうございました。ただいまの説明につきましてご質問はありますでしょうか。
 ないようですので、次にまいります。
 議題2「科学技術の国際活動の推進に関する今後の重要課題について(中間とりまとめ)」です。本件については、科学技術・学術審議会国際委員会において審議が行われ、先日、中間取りまとめが行われたところです。
 まず、国際委員会の主査である大垣委員からご説明いただき、その後、事務局から補足説明をしていただきます。

【大垣委員】
 大垣でございます。資料は資料2-1と資料2-2、それから机上に配付した国際委員会の委員名簿です。
 最初に、事務局の森田国際交流官より資料2-1に基づいて説明をしていただきます。

【森田国際交流官】
 それでは、国際委員会の中間とりまとめの概要について、資料2-1をご説明申し上げます。
 中間とりまとめの前半は、科学技術における国際活動の意義と基本的視点です。グローバル化の進行、世界の多極化をはじめとして、まず記載のような科学技術を取り巻く世界の状況について指摘がなされております。その上でこれからの我が国の役割として、「人々、社会の持続的な発展に真に役立ち、相手国と相互に有益な分野を見きわめ、そうした分野で重点的に科学技術協力に取り組むこと」、また「強みを有する分野の科学技術力を生かして、国際社会で特色ある国家になること」の2点を指摘しております。
 基本的視点として、科学技術外交の視点が重要であることを述べております。我が国の科学技術力を我が国及び世界のために活用し、地球規模の課題、相手国の問題の解決・改善に導き、我が国への信頼を構築するという視点を示しております。
 2枚目のスライドですが、第2部は第4期科学技術基本計画に向けて取り組むべき重要課題として、大きく3つの中身になっております。
 1つ目は科学技術分野における国際協力の推進として、科学技術外交の観点から多様で重層的な科学技術国際協力を強力に推進する必要があるというご提言をいただいております。
 (1)は先端研究分野での協力の推進として、主に先進国等との協力の在り方について述べております。
 (2)はODAとの連携等による地球規模課題対応等の分野での協力の推進でございます。この部分は、ODAとの連携等によるアジア・アフリカ諸国等の国際共同研究を通じて地球規模課題の解決、そして我が国及び相手国の科学技術水準の向上、人材育成に資するという観点から、こうした国際共同研究は科学技術外交の推進上も極めて重要であり、これを拡充していくことが重要であるというご提言をいただいております。
 (3)ではアジア・アフリカ諸国等と対等なパートナーシップで取り組むべき協力の推進として、中国、韓国、シンガポール、インド等科学技術力を高めている新興国を中心とした国々等との協力については、将来を見据え、我が国としてこれらの国々との協力、共同研究を強化していくことが必要であるということが強調されております。特にアジア地域との関係の構築・強化が重要であることが提言されております。
 (4)では二国間、多国間の枠組みの有効な利用ということで、特に多国間の枠組みをこれまで以上に重視することが提言されております。
 (5)では国際共同研究を留学制度に結びつけるなど、相手国の人材育成に資するようにすることが重要であることが提言されております。
 2番目は国際的な人材流動の促進、国際研究ネットワークの強化です。我が国が研究・人材ネットワークの確固たる一員として、世界の頭脳循環の中で重要な一角を占める必要があること、そのためにネットワークの核となる人材を育成することが極めて重要であることが提言されております。
 具体的には、(1)は日本からの研究者等の海外派遣の拡充についてです。今年度補正予算で始まる若手研究者海外派遣事業をはじめとして、各種の支援策によって目的意識の明確な若手研究者等を積極支援する必要があるということ。また、若手研究者に指摘されております内向き志向の背景として、若手研究者のポストの数が少ないという問題があること。助教等若手研究者のポストの拡充が重要であること。それから、我が国の研究所の海外進出を推し進める必要があること。そのための制度面の課題整理について、国で調査研究を行う必要があることが提言されております。
 (2)では外国からの研究者の受入れの拡充についてです。外国からの研究者の受入れのための支援措置を我が国からの派遣と同等に重視して、支援措置を拡充する必要があること。それから、外国の研究生の受入れに当たって、特に家族のいる研究者の受入れに当たっては子どもの教育、配偶者の処遇など、家族のケアが重要であることが強調されており、研究機関の集積している都市においては自治体と連携し、特区のような形で重点的に環境整備することなどが提言されております。
 最後のスライドは、これらの科学技術の国際活動を推進する基盤の強化について、4つの項目が挙げられております。
 1つ目は海外動向情報の収集・分析体制の充実。2つ目は、研究者以外の科学技術アタッシェをはじめとして、科学技術の国際活動を担う体制の強化。3つ目は我が国発の科学技術の普及・国際標準化に向けての取り組み。4つ目は機微技術、安全保障関連技術の扱いを適正にすることが重要であることなどが提言されております。
 特に、大学と研究機関、あるいはそれらの海外拠点において、国際関係業務を担当する専門人材の体制の強化について、取り組みを強化する必要があることが強調されております。
 概略は以上です。

【大垣委員】
 まとめますと、今の4枚目のスライドの一番下の紫色のところに書いてあります3点で、1番目は分野や相手国に応じた多様な重層的な国際協力の推進が必要であるということ、2番目の世界規模の頭脳循環の中での研究・人材ネットワークの確固たる取り組み、3番目の科学技術のグローバル化に対応した我が国の科学技術基盤強化が重要、ということになります。委員会の中で特に議論となりました点を申し上げますと、1番目は頭脳循環、ブレイン・サーキュレーションと呼ばれる状況が急激に拡大しているおり、全てがグローバル化している中で日本は少し危機感が欠如しているのではないかということで、この危機感をまず認識しないといけないという意見が強く委員から出ました。
 2番目は、先ほどの森田国際交流官からの説明にもありましたが、科学技術外交と称していますが、科学技術の国際活動のレベルには様々なものがあり、先ほど永野上席フェローからの説明にもありましたように、英国の大使館のような大使館レベルでの活動や、国外研究者への戦略的なファンディングなど、様々なレベルの施策を有機的に結びつけた対策が必要であるということです。
 3番目は、先ほどの森田国際交流官からの説明にもあったとおりですが、国内の体制、すなわち若手の助教や国際活動そのものを担う人材の確保が重要で、この面でも国内組織が脆弱化しているのではないか。その強化が国際活動のためにも必要である。
 この3点です。

【野依主査】
 ありがとうございました。今のご説明につきましては、次の議題である「科学技術・イノベーションの国際戦略」と関連しますので、後ほどまとめて議論したいと思います。
 それでは、議題3「科学技術・イノベーションの国際戦略」について、事務局から説明して下さい。

【柿田計画官】
 それでは、資料3-1及び資料3-2に基づきましてご説明いたします。
 ただいまの国際委員会の中間とりまとめで提言いただいた内容をもとに、本特別委員会において第4期基本計画に向けた国際戦略をご議論いただくための資料として、資料3-1及び資料3-2を用意しております。資料3-2は関連するデータ集ですが、必要に応じて参照させていただきます。資料3-1については、先ほど森田国際交流官の説明に重複する部分もありますので、適宜重複の部分は省略しながら説明させていただきます。
 まず、資料3-1の1ページをご覧下さい。科学技術に関する国際活動の現状及び課題をまとめております。
 (1)では科学技術外交に係わる事柄として、G8科学技術大臣会合やサミットにおいて、地球規模課題の解決や開発途上国との協力の必要性の高まり、その一方で、新興国の台頭による世界の多極化とともに、我が国を含む先進国の相対的地位の低下が挙げられます。
 資料3-2、データ集の1ページ及び2ページにGDP及び国際競争力の各国比較を示しておりますが、GDPについては将来的に我が国の伸びは期待できない一方で、中国が大きく伸び、またインドも伸びるという推計がなされております。IMDの国際競争力比較について、2000年と2008年を比較しますと、我が国は21位から22位と横ばい、中国は24位から17位、インドは41位から29位という状況で、中国やインドが躍進する一方で、我が国や欧州の主要国が伸び悩んでいる状況にあります。
 また、科学技術活動のグローバル化の関係では、インターネット等による知識等の伝搬加速や国際共著論文が増えております。
 データ集の9ページに国際共著論文の割合が世界的に増加傾向にあるというデータを示しております。左側のグラフは、青い線が日本、赤い線が世界、それぞれにおける全論文数に占める国際共著論文のシェアですが、ともに増加の傾向が続いています。
 資料3-1の1ページの一番下ですが、科学技術の進展に伴い研究プロジェクトも大規模化し、大規模研究プロジェクト等における国際協力の重要性が増している状況にあります。
 2ページですが、科学技術外交については、総合科学技術会議により基本的方針や具体的な課題、さらに戦略的な展開に向けての基本的考え方についての提言が取りまとめられ、様々な取り組みが進められるとともに、一層の推進が求められております。
 データ集の5ページから8ページにかけまして、文部科学省における科学技術外交の取り組み状況を示しております。このうちODAと連携し、日本と開発途上国との共同研究を実施する地球規模課題対応国際科学技術協力事業については、環境・エネルギー、防災及び感染症の3つの分野において、これまで合計33件の国際共同研究が推進されておりまして、そのうち、7ページには21年度採択課題を示しております。
 資料3-1の2ページ、(2)の頭脳循環の促進の関係ですが、まず我が国から海外への留学生総数は近年横ばい傾向にある中で、欧米への留学生数は大幅な減少傾向、また米国において博士号を取得した人数も全体に占める割合が低下の傾向にあります。
 データ集の11ページに、留学生の地域間移動の2006年のデータがあります。対米国について見ますと、中国からは9万人以上、インドから約8万人、韓国から6万人が留学する中で、日本からは4万人という状況です。
 また、12ページにはOECD諸国の高等教育修了者の国際的な人材流動の動きを示すデータがありますが、左側の棒グラフが他国への流出、右側の棒グラフが他国からの流入の割合ですが、日本は他国への流出も、他国からの流入も、その割合が非常に低い状況です。
 また、13ページは米国で博士号を取得する外国人の数の推移です。左側と右側のグラフはスケールが違うのですが、最近のデータでは中国は4,000人を超え、インドも約1,500人と桁違いに多く、また伸び続けているのに対し、日本は年間200人程度で推移している状況です。
 海外への派遣研究者数についても、14ページのグラフにあるように、派遣者総数は増加傾向にありますが、30日を超える長期派遣者数は減少傾向で、エリア別に見ますと、15ページの右側のグラフに示すとおり、欧州や北米への人数が大きく減少し続けております。
 一方、海外からの受入れ研究者数ですが、16ページのグラフのとおり、短期受入れ者数は増えていますが、30日を超える長期は減少傾向で、17ページの右側のグラフに示すとおり、アジア、欧州、北米のすべての地域で減少傾向にあります。
 このような現状の原因の一端を示すデータとしまして、19ページには若手研究者が海外の大学、研究機関に就職、あるいは研究留学しない理由として、マル4あるいはマル5の帰国後の就職先、ポジションに対する不安が大きな要因であることが挙げられております。
 また、20ページのデータでは外国人研究者の受入れに当たっての課題として、子どもの教育など生活面に関する支援が不十分等の現状が明らかになっております。
 さらに、24ページには、東京大学におけるデータですが、外国人研究者が家族と日本で滞在する上で苦労している点として回答が多いものが家族の日本語の習得、病気になった時の対応、配偶者の職探し、雇用確保、子どものための保育園・幼稚園の問題等が挙げられております。
 資料3-1の3ページですが、前回の会議でもご紹介しましたように、総合科学技術会議の「第3期基本計画のフォローアップ」においても、このような頭脳循環に対応する上で家族へのサポート等の周辺環境の整備等の必要性が指摘されております。
 (3)科学技術の国際活動の基盤強化の関係では、海外の科学技術動向の収集・分析の体制強化等の必要性が高まっており、対応が必要な状況にあります。
 続いて5ページ、6ページの今後の国際戦略についての基本的考え方ですが、まず前回までの会議でご議論いただいた科学技術の政策目標として目指すべき国の姿にもあるように、地球規模の課題解決に向けて我が国は先導的な役割を担う観点から科学技術の国際活動を進めていくということで、その際には我が国が強みを有する領域等での協力、また他国と相互に有益な関係を構築しつつ協力を進め、我が国に対する確かな信頼を築いていくということが重要であると考えられます。
 6ページは、我が国及び世界をめぐる大きな諸情勢の変化に対応し、今後の科学技術外交の強化やブレイン・サーキュレーションへの対応等、国際に関するさまざまな課題に対してより戦略的な対応が必要になると考えられ、総合科学技術会議を中心に、国家戦略として「科学技術・イノベーション国際戦略(仮称)」といった包括的・総合的な国際戦略を策定することも検討することが必要ではないかと考えられます。
 続いて7ページですが、先ほどの国際委員会の中間まとめで示された第4期基本計画に向けて取り組むべき重要課題の3つの柱について、主な推進方策をまとめております。
 1つ目として、科学技術外交の戦略的推進です。我が国の科学技術力を外交と組み合わせて、地球規模の課題解決等を進める取り組みを体系的・総合的に進めるに当たって、具体的には8ページのマル1、先端科学技術分野での協力、例えば我が国が強みを有する環境技術や省エネルギー等の領域について、技術の世界的な普及も視野に、イノベーションの創出等を目指した協力を推進する。
 またマル2、地球規模課題に対してODAとの連携等による途上国との協力を、人材育成の観点も含め一層推進する。
 さらに、9ページのマル3、アジア・アフリカ諸国等との協力については、対等なパートナーシップによる共同研究の推進とともに、特に発展著しいアジア地域との協力については、将来的な市場も視野に、新興国の先進的な部分を柔軟に取り入れ、イノベーション創出を加速させるための仕組みの整備、さらに中国、韓国等の急激な発展を続けている国との間では、現状分析をし、将来を見据えた上で、どのような協力を進めていくべきか、戦略を持って対応していくことが必要であると考えられます。
 いずれにしても、域外にも開かれた形で相互利益の関係構築を目指し、協力関係を発展させていくことが重要であると考えられます。
 10ページのマル4、二国間、多国間の枠組みの活用ですが、国際委員会の提言に加えて、下から2つのパラグラフですが、IPCCや世界水フォーラム等の場において、議論の初期段階から、我が国の科学技術の成果を積極的に提供し、国際的な合意形成や新たな枠組みづくりといった世界のスタンダードの形成に我が国の科学技術で貢献する、またリードすることに力を入れることが重要と考えられます。また、科学技術閣僚会議等のハイレベルでの政策対話を充実していくことが重要であると考えられます。
 次に11ページですが、2つ目の柱として、頭脳循環への対応です。科学技術はもとよりグローバルな活動であり、人材が自らの能力を発揮できる場を求めて、国境を越えて流動する頭脳循環の流れが世界的に起こっています。このような世界規模の動きが加速する中で、我が国の研究者も国際的な流動性の向上を図り能力を高めるとともに、国際的なネットワークに連なっていくということと、海外からは我が国が能力を発揮し得る魅力ある場所として位置づけられ、すぐれた研究者を呼び込む国となることが重要だと考えます。さらに、海外からの留学生や研究者を受け入れ、世界で活躍する人材として育て輩出し、世界に貢献することを通じて、我が国が世界のブレイン・サーキュレーションの中で確固たる一員になるための取り組みを強化する必要があります。
 具体的には、12ページのマル1、日本の研究者の海外派遣の拡充方策については、まず初等中等教育段階、高等教育段階を通じて様々な機会の充実を図る。また、海外に行くことのインセンティブを高める取り組みとして、大学や公的研究機関における研究者の採用時において、海外経験が適切に評価されるシステムの構築。さらに、海外に行くことをためらう理由として帰国後のポストに不安を感じるケースが多いことも踏まえ、若手研究者のポストを拡充していくための方策を検討する。加えて、13ページですが、国内のポストを確保したまま海外に行ける制度の確立や機関において海外派遣を促進するために、組織的な取り組みに対する評価や支援の在り方を検討していくことが必要であると考えられます。
 次にマル2、海外からの研究者等の受入れの拡充については、各種の受け入れプログラムの充実とともに、受け入れ促進のための組織的な取り組みに対する評価や支援の在り方の検討、また14ページの周辺環境の整備の問題、これは我が国が英語圏の国々とは異なり、研究環境に加えて、むしろそれ以外の周辺環境の問題の解決が急務となっております。このような社会と科学技術との隘路を解決するための具体的な施策を講じることが必要となっております。
 最後に、15ページ以降が3つ目の柱、科学技術の国際活動の基盤強化です。国際委員会の提言にあったとおりですが、16ページの海外動向情報の収集・分析体制や人材育成を強化していくことと、17ページのマル3、我が国発の科学技術の普及・標準化については、科学技術の成果から経済的・社会的価値の創出というイノベーションの観点から大変重要なことですが、研究成果の普及・標準化の獲得につなげていくために、国際的なネットワークの中で共同研究等を進めることと、標準化に関して官民の取り組みに加えて、大学等、研究機関や研究者がこれらの取り組みと連携・協力を深めて、積極的な役割を果たしていくことが必要と考えられます。
 18ページのマル4には、国際交流等を進める際の機微技術等の扱いに関わる支援について記載しておりますが、このような事柄についても今後の重要な課題であると考えられます。

【野依主査】
 ありがとうございました。国際委員会の中間取りまとめ及び事務局から説明がありました資料を踏まえて、今後の我が国の科学技術・イノベーションの国際戦略について審議いたします。

【益田委員】
 科学技術・イノベーションの国際戦略を推進するに当たって、ご説明があった今後の重要課題はいずれも妥当で、是非その方向に進んでほしいと思います。
 ただ、これらを進めるに当たって、日本の大学には根本的に欠けていることがあると思います。外に開かれたさまざまなレベルでの流動性です。学生、教員、あるいは、学長の流動性、いずれも欠落しています。ご説明の中で若手研究者の内向き志向についても言及がありましたが、若手研究者の内向き志向というより、日本のトップレベル大学のきわめて強い内向き志向というか、閉鎖性こそが大きな問題だと思います。それが結果として、若手研究者、学生の内向き志向にも繋がっています。特に、国立大学、それもトップ5、あるいは、トップ10の国立大学の強い閉鎖的状況が関係していると思います。
 たとえば具体的に、東京大学を例にとって申しますと、教員の圧倒的多数は東京大学の出身です。大学院学生の中核はやはり東大の学部出身者です。こういった閉鎖的環境を保持したままで、どんなに国際戦略を立てても、諸外国の際立って優秀な若い学生や若い研究者が魅力を感じて集まってくることはあり得ないと思います。あるいはこういった組織の殻を破って、若い日本人学生や研究者が将来の職の不安を感じながら外に飛び出すかというと、それも考えづらいと思います。「外国人教員の割合をどれぐらいにする」とか、「留学生をどれぐらいとる」という話はよく聞きますが、そういうことではなく、もっと根本的に大学の閉鎖的状況を正さないといけないと思います。
 日本のトップ5、トップ10の国立大学が本当に国際化をしようと思ったら、20年後には自大学出身の教員の比率を例えば30%以下にするといった目標を立て、それに向けて進む、あるいは、何年後からは大学院学生は自大学からはとらない、留学生を含め、原則他大学からとるといった目標、合意が必要です。あるいは、国際化を進めるトップ5、トップ10の大学では学部と大学院を完全に切り離し別の組織とするようなことも考えるべきです。こういったことはすぐにはできないかもしれませんが、大学の国際化を進行させるための長期的な方向性として、第4期の基本計画特別委員会では取り上げてほしいと思います。日本の上位国立大学のこのような閉鎖性がアメリカの大学とは根本的に違うところで、いままさに改めるべき問題ではないかと思います。今日のご報告にもありましたが、中国の大学はアメリカに近いモデルとなっています。日本の大学の現在のような閉鎖的状況が将来も続きますと、たとえ留学生を30万人集めようと、日本の大学の国際化というのはあり得ないのではないかと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。学生や若者たちの内向き志向ではなく、環境がそうなっているというご意見でした。日本は純血主義、純粋培養、家元制度に近い形になっており、外から見ると極めて排他的になっているという気がします。外国人がとけこみ難い、居心地が悪い。海外経験をお持ちの委員も大勢おられます。どのようにして日本社会の今の状況を変えるか、フクシマ委員ご意見をお願いします。

【フクシマ委員】
 多様な人材を育成するという観点から国内を多様化するということと、海外へもっと日本人が出ていくという両方を議論していると思います。今の益田委員のご発言のように、自分たちの馴れ親しんだ人たちだけでやるということではなく、外から色々な刺激を入れることの重要性、これは多くの方が指摘されていると思います。
 ただ、同時に考えなければいけないことは、日本の社会というのは、インフラ的にそのように多様な人材を活用できる形がまだ整っていないということです。例えばこれは警察・治安維持の案件ですが、安全・安心を守るといった観点で、日本は世界の多様な人材が入ってくる一方で、かつ安全・安心を提供できるインフラを提供する社会の仕組みが十分にできていないところも大きなポイントではないかと思います。このような例を挙げますと、今回の科学技術における国際化よりもさらに対象範囲が広がってしまいますけれども。
 国際委員会のまとめを見ていて、門永委員が最後のまとめのところで一言おっしゃっていらっしゃる、「多様化する中でどうやって日本人が様々な価値観を持ったり、様々な社会での全く違う労働基準、感じ方などを持った人たちとやっていけるか」というところが重要だとおもいます。マッキンゼーさんは非常にいい例として門永委員からご指摘がありますが、異なった人たちと仕事をする中で一番大事なことというのは、どれだけ共通のことをルールとして透明化して、みんなが理解できる、多様な背景、価値観を持つ人に「納得性のあるシステム」を作れるかということだと思います。
 科学技術に関していえば、大学間で多くの人が交流した場合に、国籍等の用件にかかわらず「必ずこういう基準で評価される」という評価軸を明確にすることが非常に重要です。これは企業も全く同じですが、多様な国の集合である世界、グローバルでどのような評価基準で評価を受けるかということを明確化する。それが非常に重要になると思います。
 日本の場合はそこがとても曖昧なので、私は大学のことはよく分からないので企業という軸からお話をしますが、外から見ても何で評価されているか分からないし、中の人間も何で評価されているか分からないということになると、納得感がないと思います。多様な価値観の人が一緒に働く時に、どれだけ多くの人たちを幅広く納得させることができるかという、その納得感が大変キーになるかと思いますので、一つの明確化した軸のようなものが必要であるということを、科学技術基本計画のどこかにお入れいただきたいと思います。

【野依主査】
 評価基準をしっかりしなければならないということだと思います。

【フクシマ委員】
 現在の大学なり、科学技術なりの評価基準は門外漢の私には評価出来ないのですが、意見の同じ同質の人たちとずっと20~30年間、日本の企業で仕事をしていますと、阿吽の呼吸で分かっている部分、大体あの人が出世するのは何となく周りに納得感があるという基準ができていると思います。しかし、それは外の人には分かりません。ですから、私どもの会社でもグローバルのパートナーに昇進をする時には、かなり選任基準を明確にして、数字はここまでいってないと駄目、人物評価はここまでいってないと駄目というように明確にしませんと、皆に納得感があるものが出来ません。
 ただ、気をつけなければいけないのは、グローバル、グローバルと言われて、皆あまりに海外の基準に合わせようとし過ぎているというご批判もあると思います。本当に言い古された言葉ですが、”Think global, act local.”という言葉が私は大好きです。なぜかといいますと、例えば社員満足度等の評価をした場合に、日本人は一般的に自分に対して大変厳しい評価をしますので、全世界のオフィスで評価をすると、どの会社でも日本人のスコアが最低になります。では、その企業の日本人社員が他のオフィスと比べて満足していないかというと、必ずしもそうではありません。逆に、例えばラテンアメリカのようにお互いに褒めちぎって、そんなに完璧ないい会社があるのかと思うぐらい大袈裟に言う社会もあります。そのあたりはアクトローカルで調整していかなければいけません。ただ、誰にでも分かり、納得性のある評価軸というのは必要だと思います。

【野依主査】
 企業の場合には人は社内で評価されますが、科学技術、特に大学等では評価はグローバルに行われます。したがって、比較的分かりやすいはずですが、それでもうまくいかない面もあります。ありがとうございました。

【門永委員】
 今、フクシマ委員がおっしゃったことには全面的に賛成で、私も”Think global, act local.” いうのは非常に理にかなっていると思います。異なる文化、背景を持った人たちが一緒に働こうとしたときに、細かいルールまで決めて評価をするというのは理論的に不可能です。したがって、基本的な考え方であるとかコンセプト、そこで一本きちんと筋を通して、それをどのようにローカルで運用するかはローカルに任せるというのが、企業では鉄則になっています。「グローバルに新しい評価基準を作らなきゃいけないのではないか。さらに、ローカルの事情が違うので、細々と決めないといけないのではないか。」と考えがちですが、それは逆で、グローバルでは非常に単純な3つ、4つのこと、「これだけは守ろうね」という価値観に近い部分を決めてやっていくのが民間企業を経営する時はコツです。そういう意味では全く同感です。

【菅委員】
 まず最初に、後ろ向きな話ではありますがも、アメリカというのは実は、決して国際化をしようとしている国ではないのです。あの国は英語という環境で、歴史的にイミグラントの頭脳で立国してきた国なので、そういうシステムができ上がっているというところで、非常に国際化しやすい国なのだと、私自身はアメリカに長い間住んでいて思っておりました。
 ただ、システムという意味では日本は随分遅れていると思います。例えば資料3-2の19ページの、「学生たちがどうして外国に留学しないか」というところを見ますと、例えば先ほどお話がありましたように、3や4に挙げられているように、帰国後にそれに見合う経済的リターンが期待できない、帰国後に就職先が見つからないことへの不安が大きいというのは、システムができていないということを示唆していると思います。
 一方、例えば5番のように「帰国後ポジションの保障がない」というところも要因に入っているということは、ある意味で行かない人の言い訳と読み取ることもできます。
 私自身が、今から二十数年前にアメリカに留学してドクターを取ろうと思ったきっかけは、当時、野依主査に行けと言われたということもありましたが、実は一番大きな理由としては、国内で私がやりたかった研究、つまり生物と化学の中間のようなことを、当時日本ではやっている先生があまりいなかったということ。それから当時はウェブのような情報がなく、非常に情報に乏しかったので、アメリカのようなところに行けば非常にいい情報が得られる、もしくはいい教育を受けられるという、日本にいるよりも向こうに行ったほうがいいという意識と、さらに、日本にいることに対する危機感があったから、ということがあります。
 今の状況を考えますと、国内の研究レベルが若干上がったということも留学しない理由の一つだと思いますし、科学技術政策の上で競争的資金が多く投入され、国内でのポスドクのポストも若干増えたということもあります。
 もう一つは、ウェブの情報が多くなったので、学生たちの危機感がかなり低くなったたという問題があると思います。
 私自身が非常に興味を持つのは、逆に留学した人がどうなのかということです。留学した人はどういう理由で留学することにしたのか。上のような1から6までの不安というのは当然あるでしょうが、それでもリスクを選択した理由がはっきり分かると、何を強化していけばそういう学生が増えるのかということが明確になると思います。もしデータをお持ちだったら提供していただければと思います。

【野依主査】
 今日は揃わないでしょうが、事務局の方で準備をお願いいたします。

【門永委員】
 柿田計画官に質問なのですが、国際戦略といった時にどこまで含めて考えていらっしゃるのですか。
 現状の課題を整理し、それぞれに対する課題設定と方向性をご説明していただいて、非常に分かりやすかったのですが、課題の範囲がどちらかというと周辺的で、外交はどうするか、流動性(モビリティ)の話、それからインフラはどうするかという内容であったと思います。これは全部重要ですが、国際戦略といった時に重要な中身があって、それをサポートするためのモビリティであり、インフラであり、外交であると思います。ここでいう国際戦略というのは中身まで踏み込んで作っていくのかという、定義をはっきりさせていただきたいと思います。

【柿田計画官】
 今、門永委員がおっしゃられた中身というご趣旨は、具体的な施策のイメージでしょうか。

【門永委員】
 戦略というからには、これとこれをやって、結果として例えば世界一になるとか、トップ3にいつもいるとか、そういう実際にやる中身というか、行動する中身というか、その辺をイメージして申し上げています。

【河内委員】
 よろしいでしょうか。今、ご指摘がありました点ですが、私は企業から見た国際戦略を考えると、経済的な面を含めて国際的な競争力をアウトプットとして考えるわけです。その時に、今後国として一番重要なのは、外国に負けない先端的、独創的な基礎研究をもとに、将来、新しい技術で技術立国として世界の中で勝ち残るのだということが一つ。
 それからもう一つは、今、日本の中の強みというのは産業の総合力だと私は見ています。ただ、昔に比べると、総合力として勝ち残っていける産業というのは、自動車のように非常に限られたものになってきていると思います。例えば、水に対する国家的なプロジェクトを立ち上げようとしていますが、あの話を聞いていて、技術力は非常に強いけれども総合力という面では非常に劣ってきたかなと感じます。
 今後重要なのは、国際競争力という面で見た時に、環境や安全、エネルギー問題などを含めて、いわゆる技術だけでは国際競争に勝ち残っていけない。そうすると、総合力としての強みを一体どうやって日本の中で作り上げていくのか。それを支える技術というのはものすごく幅広いのです。勝れた研究成果は勿論重要ですが、それを活かす為には非常に幅広い技術が要る。ところが、日本の大学は画一的になって、製造技術だとか、安全とか、そういったものを支える総合的な幅広い学問としての受け皿がだんだんなくなってきている。それが今後、日本の国力としては非常に重要なポイントになってくると思います。
 それを解決するのはやっぱり人材だと思います。だから、今後基礎研究を日本の体制の中で強化するために一体何が必要か、又、総合力を発揮できるための人材育成はどうあるべきか、ということを国際戦略という視点から検討していただけたらと思います。

【野依主査】
 ありがとうございます。先ほど菅委員から、どういう人が外国に行くのかというご質問がありました。私は長く化学分野で研究してきましたが、日本が大変貧しい時代、世界一級の研究ができるような設備が用意されていない時代に、意欲があって日本の社会の枠に収まり切れない人、若干やんちゃな人が海外に出て行ったように思います。そこで、アメリカ人が研究能力を率直に評価して、その結果、アメリカで人材が定着したということではないかと思います。
 我々の分野の半世紀を振り返ると、日本人の科学者がいなければ発展はなかったと言って良いと思います。菅委員がMITで師事された正宗教授もその一人かと思います。
 世界的に見て、世界中から人を集められる大学はアメリカ以外では多くありません。その一つがスイス連邦工科大学チューリッヒ校で、世界でもあまり例を見ない国立の大学です。明確に国家の意志として、この大学がなければ国は成り立たないとして、財政を含めて運営されています。他にもヨーロッパにはたくさん良い大学がありますが、それぞれに歴史的・文化的な風土があって、必ずしも研究能力だけで選ばれないところもあると思います。外国人にとっては居心地がよくない。そういう意味でも、世界のどこからでも研究者を集められる大学は少ない。
 その他、国家の意志で運営されている有力機関としてシンガポールに国立大学やA*STARがあります。この先どうなるのかは分かりませんが、現在、世界中から一流の人を相当集めています。
 したがって、日本が国立大学を今後とも続けていくのであれば、国が本当に科学技術創造立国で立つのだという明確な意志を持って、運営実行していくことが一番大事です。財政を含め適当に政策を決めて、あとはアカデミアに丸投げするということではうまくいかないと私は思います。

【白井委員】
 主査のご意見を伺っているといよいよ勇気が出て来ます。ここに書いてあるレポートも確かにそのとおりだし、今までのご意見も全く私は賛成ですが、ただ一つ、このレポートの中では、今主査が言われたような意味で、どういうふうに日本はこれらの政策を実現するのかということが、正直言ってほとんど分からない。それから、戦略性についてですが、GDPではどうせ抜かれてしまいます。研究費はアメリカの半分ぐらいですし、研究者の数ももちろんアメリカと比較すると人口に応じて少ない。
 それらの状況を踏まえると、一体どのぐらいのところを我々は狙って、本当にやっていくのか。そういう戦略がないと、どうにもならないですよね。できる限りベストを尽くしてやりましょうというレポートでは、この委員会で基本問題を議論している意味がない。みんなベストを尽くそうと思っておられるわけだから、「皆さん一生懸命やりなさい」と言えばそれでおしまいで、あまり長い時間をとる必要はない。
 そういう意味で主査が言われているように、どこにどのぐらいのことをやれば、我々の国力に合った、あるいは得意なところに合ったものが現実にできるのか。例えば、幾つかの立派な国立大学があり、内容は非常に不満かもしれないけれども、とにかくここに頑張ってもらわなきゃいけない。とすると、直すべきところはもちろん直してもらい、どのぐらいの費用や人を集積させ、どういうアウトプットを出してもらうのか。それはどういうステップを踏んでやるのかということを決めないと、戦略にならないと思います。
 それから、もちろん外交ということでは、どのような国と国との組み方をするとか、現実的には非常に難しいところに来ていると思います。中国がこれだけどんどん立ち上がっている中で、中国とどういうふうに付き合うのか。逆に、中国はあまり近づかず、アメリカと組む戦略だってもちろんあるでしょう。それは分野によっても違うかもしれない。そのようなことが現実的には非常に問題になる。外国とパートナーを組んでやるためには、我々の組織についても、人の配置はどのようにするかとか、そういう戦略が必要です。そういうことをある程度書かないと誰も実行できないと思います。
 2,700億円の基金じゃないけれども、それに応募して集まって、皆でベストでやりなさいと。それではちょっと無理ではないでしょうか。お金は使うけれども、アウトプットは出ないし、日本のためにならないと思います。

【原山委員】
 スイスの話が出たので、私も長年おりましたので、ちょっと補足情報です。
 スイスの中では州レベルの大学がメインであって、それにプラスして連邦政府が持っている大学というのが先ほど野依主査がおっしゃったETHです。ETHはチューリッヒ校とローザンヌ校、2つの分校の総称です。チューリッヒのほうがランクが上ですが、そこはまさに戦略的にやっているという感じがします。
 もう一つ考えなければいけないのは、スイスでは国籍というのは最後の最後でしか問題にならないのです。なぜかというと必然性の問題なのです。スイスというのはとても小さい国であって、日本と同じで資源がない国なので、何で生き延びるかと言うと、知で生き延びるしかない。それでもスイスの国内の人材だけでは限られているので、国籍に関係なく、色々なクライテリアで絞った上で人材を集める。最後には労働許可などの問題がありますから、そこで国籍が関係する場合もあります。国籍の問題とはそれだけなのです。
 逆に日本で考えると、国籍がかなり大きなウエートを占めているのが現状です。それをいかに乗り越えていくかということを考えなくてはいけなくて、その中に価値観の問題があります。それに対してはもちろん官フェーズでやれることもありますが、限定されているし、その前のレベルが重要です。ある分野の中で乗り越えるというのもありますが、色々な作業をする時に国境を乗り越えて、また国籍の違う方たちと一緒に共同する作業ということについて必然性を感じない限りは外国に出て行かない、外国から来た人も排除してしまう。その辺のところをいかに育てていくか。それは多分、政策だけでは限界があって、色々な機会を作っていかなくてはと思います。
 それから、いかに課題を現実的な施策に落とし込んでいくかという白井委員の話ですが、これまでも既にこのような課題というのは出てきていたのです。何年も前からやらなくてはいけないと手を打ったこともあり、実際に色々なファンドがあります。なぜそこで期待したことが実現できてないのか検証しなくてはいけない。そこの問題として考えられるのは、上のレベルである考え方があって、それは間違っていないのですが、それが具体的なインプリメンテーションになった時、公募をかけた時、途中で色々な解釈が入ってきて、最終的に行き着いたところでは元々の考えに合わないものができてしまうことが多々ある。その辺のねじれをどうやって直すかというのは、まさに政策のイノベーションだと思います。これは一つの解にはなりませんが、考える仕組みだと思います。

【立川委員】
 白井委員がおっしゃったことは全く同感で、ここに書いてある提言は大変ごもっともですが、文部科学省は全部自分で実施するとなった時に具体的な方法がないですよね。そろそろ具体的な提言をしないと、意味がないと思うのですが、国際委員会でもそういう具体的提案はなかったのかということを聞きたいと思います。
 例えば私の経験で言えば、日本の大学では対応できないということならば、一つの提案ですが、日本の国内に招こうとするのではなく、例えば立地条件のいいアメリカに日本の大学を作ってもいいのではないですか。あるいは研究所を作ったらどうですか。民間企業はみんな研究所を現地に作っています。国だから海外に大学を作ってはいけないというわけではないと思います。独法の研究所を作ってもいいのですけどね。そのようにして受け入れ体制ができれば、そこに日本人も行き、外国人も一緒になって研究して、成果が出ればいいと思います。そのような少し変わったアイデアも踏まえれば、二国間でやる場合と多国間でやる場合それぞれあって、多国間のものは、例えば宇宙ステーションは国際的共同研究ですよね。それから、原子力のITER。日本にいなくても、日本人が外国に出ていって成果を上げる。これも一つのいい方法じゃないかと思います。
 だから、もし二国間で科学技術外交をやるなら、もちろんどこかアメリカかヨーロッパのいい国を相手としてやる方法もあると思います。それから、アジアの国とやるならば、日本へ呼ばなくても、日本の成果を相手国に普及させることはできると思います。せっかくなら、少し具体的な戦略を示しながら提言していただいた方がいいという印象を持ちました。

【野依主査】
 外国での活動は色々な制約があります。例えば、外国に現地法人を作る上では制約があります。

【柿田計画官】
 今、既に幾つかの取り組みはなされております。野依主査が理事長をされている理化学研究所においてもイギリスや、アメリカに研究センターがあったと思います。今、細かくはお答えすることは出来ないのですが、色々な法制面上の課題があります。それは各研究機関からも意見として出てきているところではあります。いずれにしても、今後、我が国が大学や研究機関など、国内に立派な研究環境を整えていくとともに、多様な研究分野がある中で、海外に研究所を作れば良い場合もあると考えられます。そのような状況における様々な法制面上の問題については、まずきっちりと課題等を調査していくことが必要であるということを、今回、国際委員会の中間とりまとめの中でもご提言いただいております。

【大垣委員】
 国際委員会中間取りまとめの内容に関して色々ご意見がありますので、ご説明させていただきたいと思います。
 先ほど出ていました「中身」についてですが、例えばODAと連携した新しい科学技術の在り方等に関しては具体的に動いております。また資料2-1のスライドの2番にあるように、先進的研究の分野で国際的な活動をやることに対する具体的な記述や展開も示しております。
 それから、3ページの国際的な人材流動、国際研究ネットワークの強化についても、とりまとめの中では、例えば科研費に相当するような少額でいいからを海外に投資して、それをベースにネットワークを作るなど具体的な提案がありました。
 ただ、先ほどの白井委員のご指摘のように、定量的な解析は正直言ってまだ全くできておりません。時間的な制約もありますし、この政策を打つと幾ら予算がかかり、どれだけの人材が必要かというところの検討はこれからの課題と思っております。

【野依主査】
 大垣委員が言われた海外へのファンディングに関して、私は例えばヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムのグラント事業を、ライフサイエンスだけでなく、他の分野にも広げるのは大変有効ではないかと思います。

【大隅委員】
 若者がなぜ海外に出ないのかという理由の5項目に挙がっていない項目についてですが。
 私が見ていますと、平均的な英語力が落ちていると思います。なぜかというと、大学院の定員を増やしてしまいましたので、平均値は明らかに下がってしまったのだと思います。つまり、質問項目にもし、「語学力の不安」という項目がなかったら回答としては表れないでしょうし、また、このようなクエスチョナリーで聞いた場合、人は客観的に正しく答えるかというと必ずしもそうではないところがあって、本当は自分の英語力に不安があるのだけれど、それではカッコ悪いからそうは答えない、という可能性もないわけではない、と思いました。
 その問題をどう解決できるかというと、結局のところ、初等中等教育からどのように使える英語を教えていくのかという、また前回と同じように、この委員会の議論の枠を超えた話になってしまうのですが。また、大学・大学院の定員そのものを変えることも必要ではないか。それぞれの大学で自分たちが育てたいと思うような人たちを、その時の基準に合わせて採用するような柔軟な仕組みがないといけないと思います。定員を充足しないと運営費交付金に反映するのではないかという不安のもとに、大学はどうしても動きがちですので、問題の所在は簡単に国際化の部分だけではないということは指摘させていただきたいと思います。

【有川委員】
 若者が内向きになっているということに関して、例えば参考資料の19ページなどにありますが、私の印象に基づき、若干のデータもご紹介しながら話をいたします。
 国立大学が法人になる前までは文部科学省の在外研究員という制度があり、そして同時に学術振興会の方でも特定国派遣というプログラムがありました。研究者はそれらの制度を通して外国に大体1年派遣されるのですが、行った先でそれをまた1年ぐらい延ばして、結局2年ぐらい外国で研究して帰ってくる。そして、昇進していくという流れになっていたと思います。そこには競争が結構ありますから、手を挙げても大体10年ぐらい待たないといけないのですが、在外研究員を待つ間に学士院のプログラムで海外に行ったり、あるいは外国のファンドで行ったりと結構多くの人が外国に行っていたと思います。
 それで、九州大学の例を少し調べてみましたら、平成13~15年ぐらいにかけては、文部科学省在外研究員で派遣されている分が、期間は1年くらいだと思いますが、26~28件ぐらいあります。それが平成16年になると12件になり、平成18年、19年、20年については、5件、3件、4件になっています。これは制度が変わって、国立大学だけを対象にしていたものが国公私立大学へと対象が拡大されたこともあると思いますが、この辺にも少し要因があるのではないでしょうか。
 文部科学省の在外研究員に手を挙げておくと、海外に対して関心が向くわけです。ですから、最後にようやくこの制度で海外に行くというのは、どちらかというとあまりカッコいいことではないという風潮があったりもしたくらいです。ところが、今、こういう意識がほとんどなくなってきているように感じておりまして、統計データについては、その辺りに原因があるのかもしれません。
 学術振興会の派遣制度は非常に歴史があって、私もつい最近まで一つ担当させていただいていたのですが、拠点大学方式という制度があります。私の場合は韓国との間で次世代ネットワーク技術ということで4年やって、さらに4年やるのですが、これは近くの国ということもあり、若者80名ほどが頻繁に行ったり来たりしています。このような新しい動きも実はあって、いい方向に向かっているものもあると思います。しかし、昔あった制度が消えてしまったために、その影響が出ているということもあると思います。その辺についてデータをお持ちでしたら、教えていただきたいと思います。

【野依主査】
 時代が変わったということでしょうが、日本の国内で海外に行くための支援はすべきですが、若者たちは外国のファンドをどんどん取るぐらいの元気がないと駄目だと思います。昔は在外研究員制度はありましたが、枠が小さかったので、ほとんどの人は外国のファンドで、つまり欧米の主要な研究者の研究費で海外に行っていたと思います。

【東委員】
 議論を元に戻してしまって申し訳ないのですが、この資料の中の国際戦略の課題と戦略についてコメントします。先ほど野依主査がおっしゃった、これがなければ国が成り立たないというほどの強いメッセージを感じないのは、現実に産業の国際競争力が急速に弱くなりかけていることがバックグラウンドにあるのが、この文章からは読み取れないからではないかと思います。例えば、半導体については台湾が製造を世界からほとんど受け入れていますが、これは国策として半導体製造の国を目指した結果です。さらにパソコンも、現在、日本のメーカーが自社で作っているのは数%で、ほとんど台湾が受託生産しています。実際に工場があるのは製造コストが安い中国です。テレビについても同じ状況になりかけています。どうしてこういうことになるのかというと、技術がある程度成熟してきてコモディティになると、あとはコスト競争力だけの勝負になるからです。それから部品や材料の調達能力、つまりサプライチェーンマネジメントが企業経営の原動力になるわけです。そのようにコモディティ化すると、日本は戦場からはどんどん退かざるを得ない。医薬品は現在、世界の55%はアイルランドが受注生産しています。
 このように国単位での政策が非常に明確になっている中で、日本は特にそういうことは産業に対してはやっていません。したがって、日本が今後立脚するポイントは、先端を切り開かないと日本が将来生きていく道がない。そのために科学技術の国際化が大事なのである、という観点をまず前提に入れていただきたい。
 EUREKA(欧州最先端技術共同機構)に非欧州国で初めて韓国が加盟したというのは、多分、韓国としては、半導体もパソコンもテレビも携帯電話もサムスンを中心に、今、非常に強い。しかし、その次がなかなか見えないので、国として新しい手を打っているのです。
 ですから、日本も国としての危機感をまず立脚ポイントにするのだという、そのメッセージを入れれば、今日の委員会でお話になった提案の土台がはっきりするのではないかと思います。

【丸本委員】
 先ほどの有川委員の話とダブるところがあるかと思いますが、特にこういう戦略を立てていただく時に考えていただければと思いますのは、先ほどもありました旧帝大のような大きな大学の立場と、地方大学で若干異なる現象が起こっているということです。
 また、若手研究者の海外留学意欲というのがどんどん低下してきています。大学が法人化しまして、教育・研究以外の仕事がたくさん増えて、先生方が1、2年、自分の大学を留守にして海外に出ていくことが非常に困難になっているという現象があります。この辺も何らかの解決策が必要という気がしております。
 それから、大学院博士課程の進学率も少しずつ減っております。どういうことかと申しますと、旧帝大系が枠を増やしたので、地方大学からでも旧帝大系大学院へ行ったほうが自分のキャリアアップにもなるし、場合によっては授業料をほとんど払わなくていい、待遇関係も非常にいいということで、地方大学から優秀な学生がどんどん都会の大きな大学へ行くという傾向が強まっている。これについても国がきちっとした戦略を立てないと地方大学はどんどん疲弊して、最終的には国の総合的な力が落ちるという気がしております。そのように大学間格差が広がったということもありますが、大きな戦略として据えておかないと、最終的には一部の大学はどんどん進んでいくけれども、全体的な力は落ちてしまう、ということも起こり得るのではないかという心配をしております。
 それからもう一つは、先ほど学生が頑張っていこうという力がなくなっているという野依主査のお話がありましたが、確かに日本は以前より裕福になってきて、学生そのものにハングリー精神がなくなってきているのだろうと思います。山口大学にたくさん留学してきている韓国や中国の学生を見ると、日本人の学生は彼らに比較して勉強していないと思います。なぜこんなにチャンスがあるのに勉強しないのか。日本が全体的に裕福になってきたことによって、必ずしも外国に行かなくても十分日本の国内でやれるじゃないかという風潮も若い人たちの中には広まっている。その辺の戦略をもう一度立て直す必要があると思います。
 ですから、ここに書いてあるようなインセンティブを与える、あるいは帰ってきた後のフォローについても、もう少し国としてきちっとした方針を立てていただければ、学生もファイトがわくのではないかと思いますが、その辺の議論をしていただけるといいかと思います。

【野依主査】
 勉強をしないというのは、勉強しなくても卒業できたり、学位が取れるからではないですか。大学が厳しく学位の質の保証をしないといけません。

【丸本委員】
 それについては昔より相当厳しくなっております。出口の部分、「グラデュエーションポリシー」はどこの大学も厳しくなっておりますが、逆に、それさえクリアすれば、何とかなるという感じが学生にあることは確かだろうと思っております。

【野依主査】
 アメリカの大学院などは、講義についていくために、教科書以外に沢山の参考書を読まされます。夜中の2時、3時まで勉強しないと修了できません。丸本委員のところの学生はどうですか。

【丸本委員】
 大学院の学生は大変頑張っております。むしろ学部の時からそういう精神があれば、どんどん伸びていくのですが、そのような学部生は非常に少なくなってきているのではないかと考えています。

【西尾委員】
 先ほど東委員のおっしゃったことで、私も同感なので付け加えさせていただきます。
 8ページのところに、我が国が強みを有する領域での協力の推進と書いてあります。その中に「環境技術や省エネルギー技術等が強みを有しており」と書いてあり、それをベースに国際協力をしたらどうかということが記されています。私は、現在、日本はこれらの技術で強みを有していますが、米国ではオバマ大統領の政権になってから、これらの分野に関して莫大な研究開発費が投じられていることを考えますと、数年後、ひょっとしたら日本はこの分野でも優位性を保てなくなるのではないかと懸念しております。
 ですから、もちろん萌芽的な分野や新領域の開拓は大事ですが、一方では、強い分野をより強化することを継続的に推進しながら、強い分野に関してはきっちりとリーダーシップを発揮し、関連する国と連携しながら、標準化まで日本が主導するというところまで徹底しないと、国際戦略にはならないと思います。

【長我部委員】
 私も東委員の意見につけ加えて1点と、あと2点ほど別の観点から意見を言わせていただきたいと思います。
 台湾はファンドリー事業で成功をおさめましたが、今、無線の研究者を世界中、特にアメリカから300名規模で集めています。ロジックのICがコモディティ化したので、次はアナログや無線ということで、国として次にこれで食っていこうということを決めて、そこにお金をかけています。そのような志向が日本でも必要かなというのが補足です。
 それから、別の観点として、今、国家基幹技術として巨費を投じて色々な設備をつくっていますが、是非国際的な公共財としてそこに海外から人を集めるということを、ぜひ予算的なことも含めて、実施していただきたいと思います。例えば、私はJ-PARKの産業利用に関わっています。これは世界で有数の施設なのですが、海外から来ようとすると、茨城県東海村に国際級のホテルや宿舎がなくて、集まりたくても人が来られない状況です。そういう予算は、J-PARKをつくる予算と別立てになっていますが、そちらにもお金をかけて、世界に冠たる設備をつくったときには、ぜひ国際的に人が集まるような設備にしてほしい。
 それからもう一点、別の観点で標準化の話が書いてありますが、標準化やポリシーの国際的な決定というのは非常に政治的ですし、難しいところだと思います。技術の議論と比べて語学力的にも非常に高度なものが必要になります。そういう意味でここはただ連携というよりも、国内のバックアップ体制について、予算も含めてぜひ強力に進めないと、国際的には1人、2人が海外に出ていっても勝てないと思います。
 例えば私がやっている計測の分野では、アメリカのNISTが数年前に米国の計量のシステムを新たに作るということで、まず計測のイノベーションをやり、それを世界的に標準化して、それを産業基盤にしようということをNISTを挙げて取り組んでいました。それらをベースに色々な標準化の委員会に人が出ていく。だから、そのような強力な国の後ろ盾がないと、一人、一人が出てきても弱いので、単なる連携とか協力というよりも、そういう強力なバックアップ、予算の裏づけのあるものが必要ではないかと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。人材の確保については、その環境が大事です。これは省庁を越えた施策が必要です。総合科学技術会議の相澤議員には、よろしくお願いしたいと思います。

【伊地知委員】
 2点申し上げたいと思います。1つ目ですが、アネクドータル(逸話的)なことで恐縮ですが、私が普段隣で見ている社会科学系の分野に関することです。国際的なグローバルな研究ネットワークに研究者がいかに入っていくかということに関連しますが、国際学会への参加、プレゼンスが日本は少ないのではないか。ただ、この分野は日本の中でそれなりに研究成果を上げてはいるのですが、それが国際学会の中のプレゼンスに結びついていません。学会というのは単に発表する場であるだけでありません。特に若手大学院生、ポスドクにとってはジョブハントの機会であったりするわけですが、そこでは、例えばシンガポールや台湾、韓国、あるいは中国の人のアクティビティに比較すると、日本だけが著しく少ないのではないかと思われます。もしそういう分野が他でもあるのであれば、若手研究者がネットワークにまず入っていく機会を支えることがいいのではと思います。
 それから第2点、これはまた全然観点は違いますが、この資料を拝見していると、日本はバイラテラル(二者間)の場合の関係で、相手が一つの国ではなく、多国で構成されているような場合のおつき合いというのが、もしかしたらあまり得意ではないのではないか。私自身、OECDにもかかわっていますが、その脇に見えている、例えばEUやNATO(が挙げられます)。NATOというと、普通は軍事的に考えられるかもしれませんが、科学技術に関しては特に民生用の平和や安全保障といった活動をしていまして、もちろん日本はNATOのメンバーでありませんが、そういうところと協力していく種があると思います。バイラテラルで、相手が多国であるような場合についても、もう少しより積極的に取り組んでいく在り方を考えていいのではないかと思います。

【本藏委員】
 私も大学におりますので、国際性をどのように高めていくかということは常に考えているわけですが、その中でいろんな提言が今までもなされていますし、今回もなされていますが、具体的にどんな効果が上がっていくのかということについては、皆さんおっしゃるとおり、なかなか遅々として進まないというのが現実だと思います。
 その原因を考えてみますと、今、国際的に活躍する日本の人材の問題。国際学会等に行きますと優秀な人たちが大勢いますが、私が見ていますと、その人たちが活動する場のバックアップが非常に薄い。国際的な委員会を起こしても、例えば大垣委員もそういうことを色々されたと思いますが、その時に資金的な面で協力を求められることもありますが、そのようなことになるとたちまち動かなくなる。それはバックアップが足りないからです。
 それからもう一つは、色々な意味のバックアップをしっかりと作ることが、具体的には求められるだろうと思います。前々回の委員会で、テニュアトラック制度で国際性を高めようとして、国際公募で外国人を入れようとしたというお話をしましたが、色々なことをやってみると、そのような国際活動を盛んに進めていこうという動きに対するバックアップが少し弱いと感じます。腰砕けになりかけるということがあちこちで見られます。ですから、例えばCOEの国際版のようなものを作り上げて強力にバックアップするなど、具体的な施策が求められるだろうと思います。
 一つの例ですが、ODAとの連携による海外技術協力などについても、そのようなバックアップ体制を作ると、日本の研究者がどんどん外国に出ていこうとしますし、共同研究が積極的に組んでいます。その中で大学院生も当然参加していきますので、どんどん国際的に出ていくようになります。留学の必要は当然ありますが、もっと広く多彩な国際活動を担える人材を育成することを目指すべきではないでしょうか。
 それについて、語学力が不足しているということは、門永委員も前回、前々回の委員会で言われていますが、私も一般論として痛切に感じます。日本の大学院生も、多くの国際学会に出ているのは皆さんご存じのとおりですが、ディスカッションのリーダーシップはとれないですね。それは語学力が不足しているために、議論に参加していても、途中で激しいディスカッションになるとついていけなくなるからです。大学における英語力の強化という問題も昔から何度も言われていますが、なかなか進まない。これも本格的にやるべき時期に来ていると思います。
 そのことについて一つ提案ですが、学生は就職活動があるために、企業のニーズに対して極めて敏感です。日本全体がもっと国際的になろうとするときには、企業から「これからは国際的な人材を必要とする」という強力なメッセージを出していただくと、大学の学生も意識が変わってくるのではないかという期待があります。我々教員がいくら国際性は必要ですよ、コミュニケーション能力は必要ですよ、英語力は必要ですよと言っても、なかなか実感を持たない。日本としてそれが必要とされているという実感を持てば、これはかなり突破できるのではないかと思っています。

【元村委員】
 外国から色々日本の研究の様子を眺めていると、日本でこんな研究が行われているとか、こういうすばらしいファシリティがあるという情報はほとんど伝えられて来ません。例えば外国のメディアで伝えられている日本のことというのは、政治の話も経済の話もほとんどない。よくあるのがアニメと漫画という、いわゆるクールジャパンの分野の情報だけはたくさん来るのですが、研究の話もiPS細胞ぐらいしかニュースで読んだり聞いたりすることがない。これは日本の研究力が低いのではなく、日本の発信力が弱いのではないかなと思います。それは私たちメディアの発信力も含めてのことです。
 温暖化対策にしても何にしても、日本は自分でやっていることを外に出して批判を受けて、フィードバックして反省するということがあまり上手ではないらしく、全部がドメスティックな感じでいつも進んでいるような気がします。だから、人間の考え方も国内志向というか、「ここで恵まれているからいいや」と思いがちなところがあって、それはすごく危ないなと思います。
 一方で、CERNとかITERのように限られたファシリティがここにしかないという分野では、自然と学生さんも何も言わなくてもスイスへ行ったり、フランスへ行ったりしていますよね。同じ状況で高エネ研やJ-PARKには外国から大勢の人が集まっていて、自然とそこで国際活動が行われているわけです。あまり政府が尻を叩いて、行きなさい、行きなさいと言っても、多分それは難しいと思います。どちらかというと日本が上手に、こういうファシリティがあって、こんな先端の研究をやっていますという情報をきちんと届けるべきところに発信することで、まず外国から研究者を自然と呼び寄せるような仕組みというか、マインドを作ることが必要ではないでしょうか。
 もう一つは、海外にこんな研究があって、こんなおもしろいところがあるということを学生にきちんと伝えることによって学生の気持ちを起こさせるについては、やり方を工夫する余地があるかなと思います。学生が頑張らないとか、外に出たがらない理由は、英語力のこともあるのでしょうが、日本の大人が、やはり過保護なのだと思います。自分の研究の手足に学生さんを使っている先生にとっては学生がいなくなるのは不利なわけですから、送り出すほうのマインドも不十分だったり、送り出したいと思っても外国に知り合いの先生がいないなど、送り出す側の度量不足もあるかなということを、実感として、指摘したいと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。発信力の問題は、私も同じように思います。研究者たちは国際学会で発表したり、学術雑誌に投稿することで、ある程度発信していると思いますが、それだけでは一般に広く伝わりません。大学や研究所などの法人機関の発信力がない。政治家、官僚の発信力がない。元村委員のいらっしゃるマスメディアが全く科学技術に関して発信していない。商業出版社の脆弱さも問題です。総合的にみれば個人研究者ではなく、むしろ機関や特に非アカデミアの問題が非常に大きいです。

【森委員】
 この国際戦略ですが、私のような現場の研究者の感覚から見て、問題点が非常によく網羅されていて、ほとんどつけ加えることはないのですが、身の回りで起こったことを二つ三つお話ししたいと思います。
 以前、中国からの学生を受け入れるという話があった時、その学生の希望は修士から入ってきたいということでした。日本の場合、大学院については博士課程、つまり博士課程後期からはいろんな支援の仕方があるのですが、修士課程つまり博士課程前期は学生数が多いためなかなか難しい状況です。アメリカだと、修士課程、博士課程の区別がなくて、ドクターコース一本ですから経済的支援があり、結局、その人はアメリカに行ってしまいました。外国からの留学生を受け入れるのであれば、修士からのことも考えないと、外国と競争しようと思っても無理だと思います。特に留学生を30万人も受け入れようというのでしたら、そこから考えないと何ともならないと思います。
 もう一つ、外国人研究者を受け入れる、たくさん呼びたいということですが、国家戦略として呼びたいと言っているのに必要な部分がそれに対応していないというのを何回か感じたことがあります。例えば社会保険料についてです。これは細かい話かも知れませんが、アジア・アフリカの殆どの国やロシアなど多くの国の研究員が2カ月以上1年未満滞在する場合に、去年の4月から社会保険料を徴収し始めました。それは給料の約10%が徴収されるということです。日本の大学が給料を10%上乗せするということはできないですから、実質10%減ってしまいます。もちろん厚生労動省としては、最終的に日本に住めば、それは年金として支給するということでしょうし、あるいは何年か滞在する人については、申請すればお金は戻るという言い方をしますが、実際問題、例えば半年ぐらい滞在する人にとっては10%取られるだけです。
 そうすると、大学としては今までどおりお金を出しているのだけれども、研究者にとっては10%削られてしまっています。それは文部科学省の意図とは別に、厚生労動省が社会保険料として徴収してしまっているからです。何年か前から日本に毎年来ている研究者が私の研究所にはいるのですが、その人たちから見ると、国家戦略とは逆に、日本は研究者受入に消極的になってきたと感じるでしょう。
 全く別の話題で、内向きの態度だとして批判を浴びるかもしれませんが、色々な比較指標を見ていて、全ての指標を満たすように国を向けるというのは無理じゃないかという気がしています。例えば米国での博士号取得者数が減ったという話が出ています。この話は分野によると思いますが、私の分野ですと、どうしても米国に行かなくちゃいけないということはないです。例えば中国とかアジアの最優秀の学生は、米国に行くかもしれないが、日本の最優秀の学生たちは米国に行かないといけないとは思っていないです。
 だから、色々な指標を考える時に、例えば、米国での博士号取得者数を重視するあまり優秀な学生を全て外国に送ることになっては、国内のうまく機能している大学の空洞化を招いてしまいます。国際戦略の中にはそれは強調してないので、分かっておられると思いますが、このように、すべての指標について数値を上げようとすることには無理があると申し上げておきたいです。私としては、博士号取得後に外国に長期滞在するとか、取得前に短期滞在するとかというのはバランスのよいところかなと思っております。

【野依主査】
 ありがとうございました。修士課程の学生に対する経済支援については、今、文部科学省でも大臣の諮問委員会である基礎科学力強化委員会で議論されております。野間口主査代理をはじめ、この特別委員会のメンバーがたくさん加わっておられます。経済支援についてはその委員会の提言に入れる方向です。

【小林傳司委員】
 2点申し上げたいんですが、一つは海外から日本に研究者が来る時の問題ですが、これは自然科学の研究分野だけの問題ではなく、一般に知的人材がどうやって日本に来るかという問題だと思います。その時に確かに先ほど中国は大量にアメリカに行っているという話がありましたが、同時に孔子学院というものを作って、それを世界に展開し、そこで中国語教育をやっています。同じようにして、日本に知的関心を持つ人々に対して国際的に様々な場所、国にそういうものを展開しておかなければ、おそらく日本に人は来ないと思います。
 というのは、日本の社会がこれから普通の意味で英語化するということはほとんど不可能でして、大学の中は対応できても、家族とともに来る人々にとってはある程度日本語ができなければ、日本の社会で暮らしていけません。それらに日本国内で個別に対応すると同時に、海外に集団的に孔子学院に匹敵するようなものを日本も展開し、知的な人材に日本への関心を高めるような活動をするべきでして、文部科学省レベルで議論していただくべきことだろうと思います。
 この話は国語教育とか、日本語教育の問題という形で、文化庁の文化政策などの文系の議論になってしまうことが多いのですが、そうではないと思います。自然科学も含めて、日本にどうやって知的人材が来やすい環境を作るかという時に、海外にいても日本語に触れることができたり日本の情報がわかるということをする必要があります。その中には自然科学の情報も、アニメの情報も両方なければならない。そういう発信力を備えたものの展開を本気でやらないと、多分、海外から人は来ないと思います。
 それからもう一点、今日はまだあまり議論は出ておりませんが、科学技術アタッシェの整備の問題です。これは非常に大事だと思います。去年もOECDのグローバル・サイエンス・フォーラムに行きましたら、日本からもちゃんと文部科学省から派遣されている方がいらっしゃるのですが、そういう方々の肩書きを見ますと、日本から派遣されている方だけがミスターなのです。ヨーロッパとか、その辺の人はドクターです。
 その日本の方は、在職中でありながらイギリスで修士まで取っている。そして、日本に戻ってからもドクターを取ろうとしたのですが、日本の大学が対応をしなかったそうです。「ドクターが欲しければ、もう一回マスターからやり直して下さい」と言われたそうです。科学技術と社会に関する倫理のような問題を研究テーマに考えておられたのですが、そのような形で日本は国際プレゼンスを非常に落としている状況です。日本の場合は常にそういうタイプの人材がきちっと養成されていない。
 そして、もう一つの問題は、この報告書にも書かれていますが、人事異動のローテーションが短か過ぎるので、専門職としてそこで人脈ネットワークをつくるという形の継続性がなかなか出来ない。この部分は役人のシステムの中では難しいかもしれませんが、考えるべきポイントだと思っています。

【野依主査】
 最後のところは大変大事です。国際関係業務担当の人材の強化が必要です。今、小林傳司委員が言われたように、人の絆、信頼というのは長い人間関係の末に作られていくものなので、ぜひ文部科学省、JST、あるいはJSPS等で、スペシャリストとして長く業務を続けていただく仕組みを作って欲しいと思います。一過性では人間関係はなかなか築けません。

【大隅委員】
 国際社会における日本の科学技術は良いけれど、そのプレゼンスをどう高めるかということで、先ほど元村委員がおっしゃったことの続きになる部分ですが、野依主査もおっしゃったように、海外の学会には本当に若い人たちも含めて多くのサポートがあって、どんどん海外に行けます。この資料の数字の中でも、短期派遣者は非常に増えたというのがそれに相当すると思います。
 それは研究者としては海外に行っているということなのですが、例えばそれぞれの学会の事務局に相当するところの広報力が弱い。大きな学会にはだいたいプレスというものがあると思いますが、プレスにも人は全然行っていない。だいたいプレスは登録料を払わないでも行けるぐらいなのですが、そういったところでも日本が発信するチャンスをみすみす失っていることがあります。
 例えばの話ですが、ネイチャージャパンの中にどれだけ科学技術をわかって、日本語をちゃんと使いながら、外国語でもコミュニケートできて、科学的な素養を持った人が入り込んでいるかというと、全然足りない。日本から発信する記事は非常に変なバイアスがかかったものが多くて、本当に日本の良いところが紹介されてない。むしろジャパンバッシングをするような記事が本社から取り上げられるので、そういったものばかりが世の中に出ていっている。本当に国際戦略を考えるのだとしたら、そのようなところまできめ細やかに戦術の部分も考えてやっていく必要があります。こういうことは本当に少しの投資で大きな効果を上げることができると前々から思っているのですが、そういったところでの情報発信が大事ではないかと思っております。

【黒田委員】
 今日ずっとお聞きしていて、ほとんどの方の意見に賛成ですが、一点、今回の国際戦略全体の書き方として非常に重要な点は、戦略は必要ですし、具体性が必要ですが、何のために今、国際戦略をこうまでやらなきゃいけないのかということに対するちゃんとしたメッセージがうたわれてないということが一番弱いところです。ある意味で日本国民全体が極めて鎖国的な状態で、世界の動きが分かっていない状況です。それをどうやって国民全体に知らせるか、その中での科学技術をどう位置づけるかということが非常に重要だろうと思います。そのことについてのメッセージをぜひつけ加えていただきたいと思います。
 それからもう一点、先ほども出た話ですが、現在、日本のあらゆる統計に関してゆゆしき状態にあると思っております。国際的なOECDや国連の統計機関等々で色々な議論をする機会があります。そこに出ている日本の代表、各統計部局の役所から出てくる人が、ほとんど2年のローテーションで異動します。諸外国から来る人たちは全ての人がPh.Dを持っていて、かつ10年選手ばかりです。そこでは日本から来ている人は議論についていけないばかりか、現在、何が問題なのかも把握できないような状態で、ここ十数年来ている状態です。これは非常にゆゆしき問題で、国全体がどういう部分にPh.D人材をきちっと輩出すべきであるかということに対するはっきりしたコンセンサスを持って戦略を作っておかないと、この状態はいつまでたっても続くと思います。これは一人一人のお役人が悪いのではないし、お役人の能力がないのではなくて、日本全体のシステムとして必要だということに対して、何ら目が向けられてないということが一番問題なのではないかと私は思っています。

【小杉委員】
 今の黒田委員のお話に非常に共感する意見を持っておりました。結果的には産業競争力が非常に危機にある部分をきちんと打ち出して、なぜここで戦略が必要なのかということをはっきり打ち出してほしいというのが結論なのですが、最初に野依先生から「人を呼べる大学というのは文化風土がもともと違う」という話がありましたが、まさに日本の文化風土という話をしますと、内向きの生え抜き、特に官僚はそうですが、企業の中でずっと育っていくプロセスを持っています。
 そういう日本型雇用を背景にして、日本社会がドメスティック、内向きになっている。グローバル化された一部の企業の中では評価の透明化をして、グローバルな社会に合わせているところもありますが、多くの企業ではかなり内向きなものが残っている。そういう社会なのだろうと思います。
 そういう中で国際戦略を打ち出すためには、はっきりと、このままの状態だと競争力が落ちて厳しい状態なのだということを打ち出さない限り、日本全体の持っているドメスティックな文化風土はどうしようもないと思います。

【安西委員】
 まず、人材の問題ですが、何度か申し上げておりますが、これからの我が国では博士課程レベルの人材育成が必須だと考えられます。黒田委員の言われることは全くごもっともだと思います。
 大学での人材のイメージと、産業界から見た博士課程の人材のイメージにギャップがありまして、そこを埋めるためには、産業界と大学の世界の間のコミュニケーションをもっときちんと図っていただきたい。場合によってはサブコミュニティ等を作って、どういう博士課程の人材を育成すればいいのか、どういう分野ではどういう人材をどのぐらい育成すればいいのかということを、具体的に詰めていただけないかと思います。そうでないと、同じような議論をいつも繰り返すことになると思います。それが一点であります。
 それから、人材育成は一番肝心だと思いますが、国際戦略と言いつつ、先ほどから出ているように、「戦略」ということについて議論されているのかというと、あまりされていない。この資料を読みますと、競争ということであれば、戦略というのは考えやすいのですが、競争だけではなく、我が国の場合には国際協調、国際協力という言葉がどうしても出て来ます。国際協力、国際協調のための国際戦略をどのようにとるのかというと、普通考えられますのは、これからどういう国・地域とどのように具体的に協調していけばいいのか。それが我が国のこれからの道になるのかということが出てくると思います。そういうことを抜きにして、国際戦略ということが議論できるのかというのは非常に疑問があります。
 それからもう一つは、「強みを有する領域について頑張りましょう」と書いてありますが、どういう領域が強みを有するのかについての議論なしで出来るのか。この議論についてはいつも、一種のタブーになっています。環境あるいはエネルギーをこれからやるべきだと言うのなら、それをはっきり出して、強めていくことについて考えるべきだと思います。どうしても総花的になりがちだと思いますので、戦略という言葉を使う限り、具体的にどこに力を入れれば、どういうミッションが達成できるのかという議論にしていただければと思いました。

【野間口主査代理】
 ほとんど同じ趣旨の発言ですが、安西委員のご意見が静岡側から富士山を眺めた意見だとすると、私は山梨側から眺めた意見を言わせていただきます。
 先ほど野依主査のお話で出てきた基礎科学力強化委員会や、科学技術・学術審議会総会でもドクターコースの問題で、産業界の要求と育成するドクターの間でミスマッチがあるのではないかという議論が出てきました。
 この議論はこの種の会議で毎回出ておりまして、是非色々な審議会等の会議での横同士の情報共有をやっていただきたいと思います。基礎科学力強化委員会で報告したのですが、経団連の産業技術委員会が最近やったアンケート調査では、ドクターを採用している企業に対するアンケート調査ですが、採用しているところは非常に満足度が高いのです。しかも最近は年20~30人採用する企業が幾つもありまして、実際に採用して使ってみた結果の満足度は高い状況です。しかし、全体として非常にミスマッチがあることは私も認めます。それはドクターの育成方法に大いに問題があるのではないかということで、解決のためには、安西委員の意見とここは全く同じですが、コミュニケーションをする努力が足りないのではないかと思います。ぜひここのところは一度そういう場を作っていただいて、その上で色々課題の可視化をやると、いい方向性が見えるのではないかなと思います。
 それから、それ以外の意見ですが、全体的に国際戦略という点で、これは第4期科学技術基本計画へ向けての検討会だと思いますが、それなりに問題点も見えてきたような気がしますし、またこれまでと比べて前進した面もあると思いますので、3点述べさせていただきます。
 一つは、これはナショナルビジョンという点で、次期科学技術基本計画を作る上での哲学を示した上で、その中の国際戦略はどうあるべきかを論じられると思います。今日の説明では少し箇条書き的、各論的に書いてありますから、厳しい意見も出ましたが、それにめげずに国際戦略はこれから非常に大事ですので、肉づけをしていく必要があると思います。
 ただ、本文に一つ付け加えてほしいと思うのは、ブレイン・サーキュレーションを論じるのであれば、既に大学生、マスター、ドクター、あるいは研究者になった後のブレイン・サーキュレーションでは少し遅いと思います。もっと幼少の頃から世界における日本という面で考えて、リードしていく必要があると思います。
 ジョブに関しましては、つい最近、NHKで放送されていたかと思いますが、旧ソ連邦から独立した中央アジアの国で日本語ブームになっているそうです。日本語の弁論大会をやって、優勝者にはちょっとした賞品が出るそうですが、その賞品たるや現代の日本の我々から見たらささやかなものでした。そういう大会に参加して、決勝に残った人は日本に呼んで、もっと勉強させてあげる機会を作るぐらいの国としての取り組みがあってもいいのではないかと思いました。そのような視点を広く、今議論しているのは科学技術基本計画についてですが、日本語の理解者を増やすという意味で、英語教育も大事ですが、日本語の文化を理解する人を育てることも大事だと思います。
 二つ目ですが、これも先ほど申しました基礎科学力強化委員会等でも何度も議論が出たことですが、ポスドク、あるいは若手のポストの問題等は大学の教室の構造改革をやらずして、どんな議論を積み重ねても解決しないと思います。次のステップではぜひこの構造改革を、教授がドクターコースの学生を研究の助手に使うという構造から脱却できる大学を作っていく必要があると思います。そのためには、丸本委員から話が出たように、研究をしっかりやる大学と教育中心にやっていく大学の仕分けをするのも、これから必要かなと思います。
 それからもう一点、今回の説明で、大変心強く思ったのは、文科省の資料で初めて国際標準化の重要性がうたわれたことです。2~3年前から文科省でも知的財産の重要性を取り上げるようになりましたが、国際標準がこういう形で位置づけられたのは、初めてかなと思います。この国際標準は知財戦略の一端としてやるだけではなくて、先ほど来出ているように、ODAや、共同研究、科学技術会合、ブレイン・サーキュレーション、あらゆる考えを総動員する総合的な取り組みだと思います。世界の中で日本の存在感を増す意味で、世界貿易の中で国際標準というのは非常に重要性を増しておりますから、こういう取り組みを先進国とやるのは非常に意味がありますし、発展途上国も一国一票を持っていますので、同じ目線で仲間として一緒にやる上で非常にいいテーマです。このことはで具体的な展開をする段階になっても忘れないようにしていただきたいと思います。

【野依主査】
 今、野間口主査代理が、国際関係の大切さについて述べられました。国際関係がなぜ大事かは、科学技術を超えて日本国の、日本人の思想や哲学、価値観などの正当性を海を越えて理解してもらうためです。そして、日本国を信頼してもらうことが一番大事です。
 先ほど若い人たちの語学力の問題が話になりました。私は若者の技術的なコミュニケーション能力は相当あるのではないかと思います。我々の時代に比べると、英語は随分上手になっています。しかし、心が全く繋がっていないのではないでしょうか。科学的な内容は伝えることができても、日本人の心、文化、それらを伝える力がないのです。
 先日、柿田計画官と話しておりましたら、大学だけでなく文部科学省においても最近の若い人は自宅に外国人を呼んで夕食会、昼食会をやることはまずないそうです。これでは駄目だと思います。私どもが外国に行ったら、若い人たちも非常に気軽に家に呼んでくれて、一緒にビールやワインを飲んだり、手作りのスパゲッティを食べたりすることがあります。日本を代表する、これから日本を背負って立つ人たちがそういう気持ちでなければ、紙にいくら国際戦略と書いても、駄目だと思います。技術的な会話力も必要ですが、心を通わせることが一番大事なことです。

【冨山委員】
 ほとんど皆さんに言っていただいたので、1~2点です。今回の柱の一つはイノベーションという観点で国際化について考えると、先ほど河内委員でしたか、総合化してビジネスにしなきゃいけないという議論がイノベーションでは常につきまといますが、実はそこでは今日的イノベーションにとって人材の多様性、特に国際的多様性というのは決定的な意味を持っています。
 例えばiPodの例を一つとっても、ハードとしてはiPodと同じものを日本のメーカーはほとんど誰でも作れたはずです。ただ、あれはビジネスモデルとして作り上げているから、あのようになっているわけです。色々な人種、色々な文化がぶつかり合わないとああいうものは生まれてこないということになりますと、基本的には日本の領土の中でイノベーションが起きず、残念ながらこの日本国のGDPには大きくはね返ってこないわけです。iPodの磨きは確かに日本でやっていますけれども、富はほとんどシリコンバレーへ行ってしまいます。
 とすると、この地にどうイノベーションを起こすかという観点で言えば、今日の議論でいうと、先ほど小林傳司委員から話がありましたが、いかに多様な知的人材を世界中からこの日本に呼び寄せるか。とりわけアジアの多様性をこの地に取り込めるかということが鍵になる気がします。
 ただ、戦略というのは、私も戦略家だったのでストレートに言ってしまうと、日向と日影を作ること、メリハリを作ることが必要なわけです。戦略性を出せば出すほど、不満を持つ人、怒る人が出てくるはずなのですが、今日のこの文章を見る限り、これではまだ怒る人は出ない書き方になっています。より具体性があって、戦略性を増すほどきっと怒る人が出てきますが、そのような内容になった方がいいと思いますので、是非よろしくお願いいたします。

【大垣委員】
 国際委員会から、先ほどの野依主査の最後の取りまとめに関連しますので、黒田委員のご指摘に関してお答えします。
 資料2-2の15ページの(2)の2)の最後の3行ほどに、先ほど統計の専門家という話がありましたけれども、政府が国際的な人材を採用し育て、そのための給与体系など人事の在り方を考えないといけないという記述がここにあります。先ほど安西委員、野間口主査代理から、産業界との関係で博士課程の教育に関してコメントがありましたが、実は政府機関も博士人材をどう運用して、かつそれを国際的な場で活用するかを考えることが重要なのではないかという議論が国際委員会ではありましたので、コメントさせていただきます。

【野依主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは、本日いただいたご意見を踏まえて、事務局で整理を行ってもらいたいと思います。
 なお、委員におかれましては、今回ご議論いただいた国際戦略に関して、十分に言い尽くせなかった点、あるいは事務局資料に挙げられた論点以外にも考えられる点があるかと思います。
 このため、希望される方は、今後、我が国が科学技術・イノベーションの国際戦略を進める上で、特に取り組むべき事項、例えば国際化を阻む社会的・制度的な問題等につきまして、A4 1枚程度にまとめて、1週間後の8月3日(月曜日)までに事務局あてにご提出願います。私も提出させていただきます。委員の皆様にはたくさんお気づきの点があると思いますので、ぜひご提出いただきたいと思います。よろしくお願いします。
 最後に、議題4「その他」ですが、今後の委員会の日程等について事務局からお願いします。

【柿田計画官】
 ありがとうございました。事務連絡の前に、門永委員よりご質問いただいた点に関して、若干発言をお許しいただきたいと思います。今回の資料には十分出ていなかった、何のために国際活動をやるのかというところですが、野依主査が先ほどおっしゃったように、我が国に対する世界の信頼を築いていくためという観点が一つあります。また、人類益に貢献するということがもう一つあると思います。それらを通じて、人材も含めた様々な面での我が国の国力を高めていくために、国際的な活動を行うということかと思います。それら二つは対立するものではなく、相互に関連する部分もあると思います。そのように、何のために国際活動を進めるのかという理念をきちんと示した上で、具体的にメリハリをつけながら戦略を作っていく、具体策として何が必要かが見えるような最終的なとりまとめに向けて、整理させていただきたいと思っております。
 資料4の今後の予定ですが、次回は8月19日にこの同じ場所で行います。議題は、「科学技術・イノベーション人材の養成」を予定させていただいております。また、以降、第10回までの日程を記載しております。
 詳細な議題や、出欠の確認につきましては、追って事務局よりご連絡させていただきます。
 本日の議事録は、後ほど事務局より委員の皆様にメールでお送りさせていただきます。委員の皆様にご確認いただいた上で、文部科学省ホームページに掲載させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 また、資料につきましては、お帰りの際に封筒にお名前をご記入の上、机上に残していただければ、事務局より後ほど郵送させていただきます。

【野依主査】
 今日はこれで閉会とさせていただきます。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

電話番号:03-6734-3982(直通)

(科学技術・学術政策局計画官付)