(1)募集期間 平成18年7月8日(日曜日)~7月23日(日曜日)
(2)告知方法 文部科学省ホームページ
(3)受付方法 郵便、ファックス、電子メール
26通 (個人:23名、団体:3団体)
<内訳>
研究員(ポスドクを含む):6名
大学等教員:9名
大学職員:1名
国立研究所・機関職員:2名
独立行政法人職員:5名
30歳代:7名
40歳代:5名
50歳代:5名
60歳代:2名
不明:4名
男性:22名
不明:1名
大学:1大学
団体:2団体
研究成果、主に研究論文になるかと思いますが、だれを共著者とするかは重要な問題だと思います。重大な寄与がないにも関わらず、例えば同じ研究室に在籍しているから、立ち話程度でディスカッションをしたから等という理由で、共著にする場合をこれまで多く見てきました。これは、研究論文自体の不正ではないにしても、研究者個人レベルでは、業績のかさ上げであり、不正行為の一つではないかと感じています。研究者の業績評価や競争的資金の成果報告とが厳しくなるにつれ、モラルのない研究者は、重大な寄与がなくても、名を入れてあげたり、入れてもらったりということが横行している気がしています。そこで、わが国の研究者に、論文の共著者とする場合、謝辞にのせるべき場合など統一された基準が必要と思います。もはや、個人のモラルでは駄目だと思います。
ガイドラインには追加および変更を要する項目があると考えます。以下に、追加・変更についての意見と、具体的な根拠を述べます。
第2部、ガイドラインにおいて、「防止」の単語は1ヶ所にしか見出されず、しかもそれは第1部では数ヶ所登場する「不正の防止」ではなく、「告発の防止」です。発生した不正にどう対処するか、よりも、不正をいかに防ぐか、がより重要であることは言うまでもありません。その点については、本ガイドラインは、各大学・研究機関への丸投げの形であり、文部科学省としてのリーダーシップに欠けていると強く感じます。ガイドラインにより、省の方針を明確に打ち出すべきであると考えます。
不正の温床と指摘される競争の激化の中で研究者が求めるものは、研究費だけではありません。雇用機会や良い研究環境は動機付けとしてひとしく重要です。不正、または不正が疑われる国内外の私が知るいくつかの事例に限って述べれば、安定した職を未だ得ていない研究者や学生がすべてのケースで関与しています。そしてそうした事例は、おそらく外部の方々が考えるよりも、はるかに頻繁に発生しています。
以上の点を考える限り、研究費の停止や返還請求により措置を図るのは、予防措置として効果的でないと考えます。現場の研究者にとって、競争は不正を犯す少なからぬ人間との戦いでもあります。職を得るために不正を犯し、発覚した場合には研究費の停止、または悪くても懲戒処分や私費による弁済では、不正は割に合う賭けとなりかねません。したがって不正を犯した研究者は職を失うことを明確にすべきです。そうすることにより研究費の投資対効果も最大化されるでしょう。
また直接的に研究者を雇用する大学・研究機関が積極的に不正防止に努める動機付けが必要です。昨今の不正事件へのいくつかの大学の対応は手ぬるいとの批判が研究者社会内部にも存在します。大学・研究機関は研究者自身によって運営されている現実が「身内」への甘さにつながっていることは明白であり、研究者の不正に厳しく対処するためには、文部科学省やその他の資金提供者・監督者が規定した基準や、可能であれば、会計検査院のような独立した専門の第三者機関が必要です。この点は、本文の最後にも述べますが、研究者社会の自浄作用には限界があると考えますので、非常に重要です。
変更が必要と考える点:4の規定の大幅な緩和。
具体的には、
明白な根拠を求めないことで、当事者とは直接かかわりのない人間が告発者になることが可能です。個々の不正について告発可能な研究者の人数が増えます。したがって不正が告発される可能性が高まります。告発はできなくとも、親しい人間に不正の存在を打ち明けられた経験が私自身ありますし、そうしたうわさは静かに広まるものです。告発の有無にかかわらず日常的な検査を行えば、不正を犯した研究者は名誉侵害を理由とした調査への非協力が難しくなる一方、不正が具体的に確認されない時点では告発の存在についての秘密保持を徹底することで、悪意や誤解により不当に告発された研究者の名誉を守ることもできる二重の利点があります。
研究者社会は、一般社会に比較すればはるかに小規模の社会です。個々の研究者の専門性を考えれば、その中のさらに狭い世界で生きていることを念頭においていただきたいと思います。過去に資金流用などの不正が発覚した事例で、研究者が告発した事例が果たしてどれだけあったのでしょうか?おそらく秘書など、研究職以外の人間がほとんどなのではないでしょうか?報道されている程度の資金流用であれば、未だ発覚していない実例を私自身複数知っています。しかし、告発しようとは夢にも思いませんでした。私も狭い社会の中の一構成員です。
「4」の条件を満たす研究上の不正の告発がある場合、そのような情報を持つ研究者は少数に限定されますから、仮に匿名を本人が希望しても、ほぼ確実に告発者またはその情報源は特定されます。また過去の資金流用の実際の事例について、告発者への不当な中傷を実際に耳にした経験もあります。如何に政府や研究機関が制度として告発者を保護したとしても、研究者同士の親密な人間関係や、ひとつの巨額の資金に告発者を含む多数の研究者や学生やその家族が研究費と生計の双方の点で依存している現実などを考えれば、実質的に告発者の研究者生命は絶たれる可能性が高いのです。少なくとも告発者はそのリスクを意識せざるを得ませんし、良心を満たす以外のメリットがなくリスクばかり大きい行為を実行に移すのはほとんど不可能です。つまりガイドラインの基準では告発はまず期待できません。
したがって、社会が告発を必要とするのであれば、告発者の特定が実質的に不可能な制度に作り変える必要があります。無論、研究者は不当な告発からは守られる必要がありますが、それは告発者への制裁によらずとも制度的に担保可能なリスクですし、悪意による告発によって研究者に不利益が及ばないシステムを整備すれば、そのような告発はそもそも起こらないでしょう。不当な告発が研究者に不利益を与えることがないのならば、告発者に不正の立証義務を課す必要もありません。むしろ立証責任を調査機関が負うことで、告発を促すことが社会利益にかなうでしょう。
不正には、明らかな不正ばかりでなく、黒とも白とも言い切れない事例があまた存在します。研究者社会は、建前で言えば、性善説に立脚していますが、悪い言い方をすれば、ともすれば政治家や有権者を意識した大げさな成果発表が目に付く今日、黒とは言い切れない、または言い切る証拠のない不正を互いに見逃すことで立場を守り、結果的に政府の研究関連予算総額の増大を促している部分があります。不正は、悪意を立証しない限り、所詮研究上の失敗と同じ話ですから、見逃すこと自体は何の不利益も科学にはもたらさないのです。私の知る研究者社会では、自説を否定する成果でない限り、他者の成果への批判はほとんど目にしたことがありません。不正であれ失敗であれ価値のない「成果」は時間とともにただ淘汰され、そのような研究に無駄な税金が投入されたことを納税者は永遠に知らないままになるだけのことです。もちろん研究者全般がそのような悪意を持つわけではありませんが、疑うより信じることがひとつのモラルとして受け入れられる暗黙の損得勘定がここには存在します。重要なことは、このような批判に欠ける関係は研究監督者と末端の研究者の間にもしばしば見られるという点です。明白な根拠がなくとも相手を信頼することは人間としては美しき行為ですが、研究者としては問題であり、研究の質の低下に直結します。これは日本ばかりの問題ではありません。私の所属する研究室においても、最近、他大学において成果を捏造したとの告発がなされた有力な研究者が自発的に辞職したことを受け、このようなことが話し合われました。しかし正直なところ、現状は捏造はしようと思えばいつでもできる環境にありますし、日本にいた時に所属したいくつかの研究室でも残念ながら同様でした。
不正かそうでないかという判断、あるいはより当然のこととして、研究成果として発表するに足る信頼性があるかどうかという判断を現場に任せきりでは、それらの判断基準は一部の現場ではなし崩しに緩和され、結果的に他者から見れば明らかな不正がスキャンダルという形で発覚するという現状は続くでしょう。監督者が望まなくとも現場が不正を犯すかもしれませんし、誰もそれを望まなくとも、過去であればありえない誤った結論が導かれることも充分ありえる環境が存在します。日本発の研究の広い意味でのクオリティ・コントロールとして、第三者による日常的な監督により、適切な基準の維持を図ることこそが根本的な解決法と私は考えます。そしてそのリーダーシップは、いつか予期せぬスキャンダルにより日本の研究への信頼が失墜する前に、文部科学省こそが取るべきものであると私は考えます。
日常的な第三者による監督について、予想される反対意見としては、「研究者社会は相互の信頼に立脚しており、不正の存在を前提とした不特定多数の調査はなじまない」「競争相手への研究の秘密保持が図れない」などのものが考えられます。しかし、このようなガイドラインが作成されること自体、研究者の良心への信頼だけでは研究の質を維持できない現実を物語っており、そのような意見を退ける充分な根拠たりうると考えます。秘密保持については、利害関係のない研究者が行えばよいのですが、調査にかかる時間と労力の点や公平性も考慮すれば、第三者機関が最善の解決法かもしれません。
不正が起きる本質的な問題は、このガイドラインでも指摘している通り、成果を早急に求められることにあると思います。例えば、3年間のプロジェクトの場合は、1年目に論文が出なければ打ち切りということも十分考えられるプロジェクトもあるようです。このガイドラインの対策では、監視により研究者や研究機関に不正の防止を求めていますが、本質的に改善するためには、プロジェクトを評価する側も、中間評価での成果中心の無理な評価は慎む、等の対策をとる必要があると思います。監視を強化して本質的なところを改善しなければ、良くならないばかりか、かえって悪くなる危険もあると思います。なお、この意見は、成果では無くて内容で中間評価をすることや、終了時に成果に対する厳しい評価をすることについての批判は意味しておりません。
本調査のメニューには「再実験」があり、研究機関は求めに応じてこれを実施しなければならないとされているが、近年の厳しい予算状況の中では、高額な試薬等を用いる実験を反復して行うことは極めて困難となることが予想され、現実的でない。研究機関もこれに備えた予算の留保が求められると同時に、そのような場合に補助・融資等を行えるような基金制度が必要になると思う。
1) 第三者評価に関して、審査する側が(接待を受けたり)手ぬるいとの評判を学会で聞いたが(短大基準協会)、この審査をやはり厳しくすべきで、外部の目が厳しいという認識を持たせる。不正研究者を出した大学は、組織として第三者評価で、監督義務違反、不適格と評価する。
2) 大学不正110番の設置、これには大学に関連するあらゆる不正を含めるべきである。
3) 大学教員の免許制度。フランスのアグレガシオンではないが、資格審査を定期的に行い、不正を行ったり業績不足の教員は更新できないようにする。抑止力のため。小中学校だけが免許更新制ではなく、大学でもいろいろな意味で何かが不足している教員は、免許更新制で質を確保する。
研究活動の不正行為への対応ガイドラインの作成という重要で、かつ大変な作業を進めておられることに敬意と感謝の意を表します。
以下の2点について、意見を述べさせていただきます。
項(11ページ、3~4行目)に、「研究機関等はその責任者として例えば理事、副学長等適切な地位にある者を指定し」とありますが、なぜ「理事」や「副学長」が「適切な地位にある者」なのか理由がよくわかりません。また、「地位」で適切かどうかを判断するのもよくないと思います。科学者として真摯な人物であればよいと思います。「研究機関等はその責任者として適切な者を指定し」とし、地位や職名は省いた方がよいのではないでしょうか。
項(18ページ、1~2行目)に、「調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。」とありますが、不正行為が行われなかったと認定された場合も公表すべきだと思います。公表されなければ調査方法、手順などが本当に適切であったのか、さらにその認定が正しいのかどうか、第三者には判断できません。これでは、調査機関の一存で簡単に「クロ」を「シロ」と認定できてしまいます。私は以前、ある研究者による捏造・改竄を明確な客観的証拠を提示して学会や研究機関に訴えたことがありますが、研究機関は何の反証も提示しないまま「シロ」と判定し、その経緯は公表されませんでした。調査機関、すなわち問題の研究者が所属する研究機関は当然、所属の研究者による不正事件など起きてもらっては困るので、「クロ」を「シロ」と認定しようとすることは十分に予測できます。このような轍を踏まないためにも、不正行為の認定のあるなしに関わらず、調査結果を公表した方がよいと思います。また、「悪意に基づく告発」であっても、調査結果を公表し正確な情報を表に出すことで被告発者の名誉回復もなされやすくなると思います。
欧米では、不正行為は、犯罪と同じように、必ず起こるものであると考えられております。事実、不正行為はこれまで日本でも行われていましたが、日本での一般的な学問レベルが世界的に高くなかったために、その不正行為の内容自体が国際的に注目されず、また、不正行為を対処するルールもなかったため、うやむやにされ、大きな社会問題にはならなかったのだと思われます。欧米では、不正行為が起こった場合に対処するしっかりとしたルールが作られております。今回、日本でもこのようなルールが作られることは、研究環境がようやく国際的水準に達するものとして、高く評価できると思います。「研究活動の不正行為への対応のガイドライン」の原案を読ませていただきましたが、大変重要な点が明確に記載されておりませんので、その点を指摘したいと存じます。
不正行為には色々な事例があります。例えば、大学の場合では、
(1)教授が主犯で教授の指示のもとに学生が不正行為を行った場合
(2)学生が不正行為を行って、教授が気付かなかった場合
等やまた、
(a)一般に不正行為を行った本人が、自白することはないようですが、その研究室の誰かが不正行為に気付き、教授が公表した論文を自主的に訂正したり撤回する場合
(b)他のグループの研究者に指摘されて訂正したり撤回する場合
(c)他の研究者に指摘されても訂正したり撤回しない場合
等々があります。
欧米では、(a)と(b)の場合は、不正行為を行った研究者にはペナルティーが課せられますが、他の共著者にはペナルティーが課せられないことが多いようです。
その理由として、
(1)不正行為に気付いたり発覚したときには、速やかに公表した論文を訂正したり撤回して、他の研究者に迷惑をかけないことがもっとも大切なことであること。
(2)不正行為は教授もそう簡単に気付くことができず不可避であること。
(3)学生が不正行為を行うかもしれないと常に疑いながら学生を指導教育することは、現実的には不可能で、また教育上もよくないこと。
(4)不正行為に関与していない研究者がペナルティーを課せられると、誰もが自主的に公表した論文を訂正したり撤回しなくなり、結果的には学問の進展を遅らせること。
等があります。
今回のガイドラインでは「不正行為をすると、ペナルティーを課せますよ」ということが強調されすぎているように思います。この点をあまり強調しすぎると、逆に学問の健全な推進に悪く作用する可能性があります。例えば、研究を活発に行えば行うほど、学生と研究する機会が増えるわけですから、研究を活発に行わない方がよいと思う人が逆に増える可能性があります。また、あまり活発に研究を行っていない人が活発に研究を行っている人を監視して告発するという事例が増える可能性もあります。また、優秀な研究者が欧米に流出することも考えられます。
ガイドラインでは、「不正行為は不可避であり、不正行為に気付いたり発覚したときには、速やかに公表した論文を訂正したり撤回して、他の研究者に迷惑をかけない」という点を強調することが最も重要であると思います。法律も倫理の問題も先進国の間で大きく違うことは決してあり得ないことですので、そのような事態になったときに対する措置は欧米諸国と同じ考えに基づいて決めていくべきです。このガイドラインを欧米の一流の研究者が読んだ場合、日本の学問に対する考え方に対しても評価が得られるようなものにしていただきたくお願い申し上げます。
昨今の研究を取り巻く環境の変化は、誠に迅速であり、研究者間の競争がますます激化し、研究成果を急ぐ傾向が強まっておりますが、研究活動の不正行為が行われるのは補助金をめぐる不正利用だけではなく、研究の内容にも関わる総合的に重要な問題であると認識しています。このたびの一部研究者、特に研究指導者たるべき者の不正行為に鑑み作成された当ガイドラインは、綿密なる対処策であり、特に異論を挟む余地はないものと考えます。
しかし、これらにより、正常な研究活動が阻害され、多くの研究に停滞や後退が起こらないよう望むところであります。正常な研究活動を阻害させないで、不正行為への予防策や対処療法を有効に機能させることが必要で、研究の発展にとって不正行為への対応が「角を矯めて牛を殺す」ことにならないようにしなければなりません。
その点、ご主張のように告発等の方式は有効と思われますが、研究はチーム間や研究者相互の信頼に基づくところが大きいことから、むしろ外部評価のシステムの整備が不可欠であると考えます。補助金の不正行為に対する予防策として、個人研究者に対しては、徹底した研修を義務付け、補助金の管理や正常な処理に関する保証人を置くことも必要ではないかと思います。
また対処療法として、補助金をできれば仮払い又は後払い(当初は財団等から本人が一時的に借入)とし、成果の審査結果により段階的に研究費を支払うなどの方法も考えられます。特に研究成果については、申請時と同様の徹底した審査を行い、不正等の介在があった場合には次回申請に段階的にイエローカード、レッドカードのハンディを付けることも考えられます。また、この補助金が国民の血税であることを考えれば、不正行為のうち、明らかに了知していた確信犯は、詐欺罪として告訴するぐらいの対応が必要ではないでしょうか。
多年度に渡る持ち越し使用が自由であるような研究費の創設は、研究費の不正使用防止策の一つになりえると思います。研究費使用法の自由度の大きさは、効率的運用を促し、節約のincentiveにもなるはずです。
現在の規則では不正使用行為とされている事柄のいくつかは、「先行投資で研究を進めないと成果の世界競争だけでなく、国内の研究費獲得競争にも負けてしまう」「年度変わりに研究費の空白期間が生じる。一方で各年度予算は使い切らねばならない」「基盤研究費は減少し、一度でも競争的資金が途切れれば研究室継続は困難なのに、研究費獲得が毎年適うことはない」といった現実がその背景にあるのだと思います。この現実をそのままにして規則運営だけを厳密なものにしてしまえば本邦の公的科学研究を疲弊させると憂慮します。研究費の不正使用の防止には、現実の研究実態に適合する使い勝手のよい研究費にすることが重要と思います。
「盗用」について:定義をはっきりさせる必要を感じます。
小生、平均して年間に500件ほどの様々な研究計画書の審査をしております。
審査にかかわる研究者は皆同じ立場に立たされますが、研究計画書の中には当然新しいアイデアが含まれます。自分たちが進めている研究とよく似たものを見つけることは決して稀なことではありません。このような場合に自分たちの発表を盗用であるとクレームをつけられる可能性があります。また、あるときに浮かんだアイデアが以前に審査したものに影響されなかったかどうかを判断することは大変難しいものです。もしもこのようなことが「盗用」に当たると判断されるのであれば、今後審査員を探すことは難しくなるでしょう。
一方、以前には日本から送られた論文の内容が欧米の審査員によって盗まれるという噂話がありましたが、このよう場合には審査員が匿名である以上事実関係をつかむことは不可能です。こう考えると、研究費の審査等では審査員名を公開することで審査員の意識を高めたほうが公平な審査になるという考え方もできると思います。
競争的資金ばかりになったことが不正行為の原因と考えるのであれば、本当に研究者の発想で自由に研究が行える、「校費」あるいは「経常研究費」を充実させるべきであるが、現状は全く反対の方向を向いている様に思います。また、大学院生の研究費は存在しないといったほうが正しいように思います。この問題は表記の問題とは直接関係ありませんが、文部科学省としてはお考えいただくべき点であると感じました。
研究記録(ノート)の管理が厳密に行われることが研究の基本であることはその通りですが、これが変に利用される可能性について議論されていることをご存知でしょうか。それは、会計検査の時に実験ノートを詳細に検討して資金の流用を探る、と言う半ばジョークのようなものです。しかし多くの研究者があり得る話だと感じています。ある時ひらめいたアイデアを実験して研究を進め、その結果「研究費の流用」に問われる、笑えません。
また、再現性は科学の基本ですが、研究室の長は安心のために研究室内で競争をさせたり、ある研究者が得た結果を別の研究者に確認させるなど、人間関係に問題を生ずる場面が増えることも予想されます。
「不正行為には関与しなくともその論文の主たる著者」の定義は曖昧で、最終著者なのかコレスポンディングオーサーなのか、良く分かりません。不正行為に直接関与しなかった研究者が2年から4年間資金をとめられるというのは厳しすぎると感じます。もちろん全く責任がないというわけではありませんが、本気で行われた不正行為を見抜くことは誰であれ不可能に近いと思います。3)の後半で述べたような問題も起こります。
厳しすぎる罰則は全体を萎縮させると同時に、弊害が増えるであろうことは、研究費の不正使用の罰則強化の結果、何が起こったかを見れば分かります。自分の不注意のせいで他人に迷惑をかけることや、自分に責任のないことで連座性が適用されることを避けるため、研究費の申請時には共同研究者を設けない方が安心できる、と多くの研究者が感じています。研究現場では共同研究が減っていくことが予想されます。
○ 不正が発覚した場合、教員は解雇され、又は辞職し、その研究室は解散になるというケースもあろうが、その研究室に在籍する学生が不利益を被らないための措置についての記述も必要ではないか。
○ 資金配分機関は多数存在するが、個々にガイドラインを作成するのではなく、統一したものを用意してほしい。
今日の科学研究をめぐる状況の中で、研究活動における不正行為への対応のあり方を検討することは喫緊の重要課題となっており、本報告書の第1部に示された基本認識や基本的な対応姿勢に賛意を表するものです。あわせて、以下のとおり意見を申し上げます。
(1) 第1部の「研究活動の不正行為に関する基本的考え方」の「1 はじめに―検討の背景」の(5)(9頁)に指摘されているように、今日の科学研究は極めて複雑かつ多様な研究方法・手段を駆使して行われています。基礎研究においても、たとえば、物理系、化学系、生物・生命系では大きく異なった研究方法・手段が使われます。このガイドラインを拝見すると、全体が、生物・生命系および化学系の分野を想定した(ないしはその分野によりフィットする)形のものになっているように思われます。これは、最近のねつ造などの不正事件が生命系の分野で多く発生したことが背景にあると思われますし、このようなガイドラインを現段階でもっとも必要としているのがこの分野であることを考えれば致し方のないことと考えます。従って、研究方法・手段が分野によって大きく異なっており、それゆえ、不正行為の認定の手続きや調査にあたっては個々の分野の特性や慣行に十分に配慮することが必要になることを、このガイドラインにおいて適切な形で明示いただければと思います(13頁2(1)1等に若干の関連記述がありますが、一般原則的な考え方として明示いただくことが適切と考えます)。
(2) 上記の観点からすると、この報告書は「ガイドライン」にしては細かなところまで書きすぎている観があることは否めません。文科省のガイドラインですので、「5 告発者及び被告発者に対する措置」や「6 不正行為と認定された者に対する資金配分機関の措置」(19頁)の部分が細かく記載されるのは当然ですが、それ以前の、各研究機関が行う調査に対する部分がいささか詳細にすぎているように思われます。研究機関が調査を行う際にはある程度の自由度が許されるようなガイドラインの作りになっているほうが、実際の調査はやりやすいという気がします。もちろんこれは「ガイドライン」ですから、一言一句が重要ではないはずのものですが、世の中は得てしてそのようには動かないことは経験上ほぼ確かと思われます。したがって、これはあくまで「ガイドライン」であり、調査のやり方など具体的な点については研究機関の実情に応じて合理的な範囲の自由度は認められるという文科省の姿勢をどこかに明示して頂くことが必要ではないかと考えます。
(3) (2)に関連してもっとも危惧するのは、予備調査と本調査に対するガイドラインの考え方は、実際の現場と整合性が悪いのではないかと考えられることです。ガイドラインでは、予備調査は内部的なもので、データや実験ノートなどが決められた保存期間の間保存されているかどうかなどの「外形的なチェック」で、あくまで本調査を行うべきかどうかを判断するための調査と位置づけられているように見えます(従って調査期間の例示も概ね30日と短い)。各種資料の精査や関係者のヒアリングなどは予備調査の結果が出てから後の本調査で行うという仕組みになっています。しかし、現場の感覚からすると、このように両者を明確に仕分けすることは至難の業です。本調査を行うべきか否かの判断にこそもっとも本質的な調査が必要です。つまり、本調査をするとなった案件は、限りなく「黒」に近いものに限定すべきです(そうでないと、このガイドラインにある、不服申し立てなどなど事後の手続きが山のように連鎖して、調査委員会の委員を含め関係者は研究どころではなくなります)。そのためには、予備調査の段階で、資料の精査や関係者のヒアリングも行うことが当然必要であると考えています。そのような詳しい調査の結果に基づいてこそ、初めて「これは本調査すべき」という決断が下せるのです。逆に言えば、本調査では、予備調査のやり方が正しかったかどうか、未調査のものはないかなどをチェックし、被告発者の弁明を聞いて、白黒の最終判断をするということが主な任務になると思います。
もし、「上記のようなやり方は『ガイドライン』に反している」という判断になるくらい、このガイドラインの「拘束力」があるのだとすれば、この点は、是非再検討をお願いします。このまま適用するときっと将来大きな問題を引き起こすと思います。
(4) 「生データ・実験・観察ノート、実験資料・試薬」があちこちに、「本来存在するべき基本的な要素」の例示としてあげられています。それはそれでよいのですが、「生データ」、「実験・観察ノート」、「実験資料・試薬」の具体的な形態や保存期間などは、前述のように分野ごとに極めて多様です。とくに、「実験・観察ノート」と明記されることによって、そのうちに、「文科省標準ノート」が大学生協の店頭に並んで、「これを使っていないと不正になる」というような事態にならない事を願っています。つまり、「本来存在するべき基本的な要素」についても分野ごとの多様性があることを前提として頂きたいのです。「実験ノートがないから直ちに不正」などという判断は現場では決してできないと思います。
(5) 「3 告発等の受付」「3 告発者・被告発者の取り扱い」5(12頁)。
「研究機関等は、単に告発した事を理由に告発者に対し…行ってはならない」という部分は「研究機関等は、悪意でない告発者に対し、単に告発した事を理由に…行ってはならない」とするのが良いと思われます。なお、この箇所に限らず全体にわたって、この制度において告発の濫用がなされる危険がないかどうか、十分に仕組みを点検しておく必要があると考えます。
(6) 「4 告発等に係る事案の調査」の「2 告発等に対する調査体制・方法」の(2)の「3調査方法・権限」のイ(14頁)
「再実験の期間及び機会(機器、経費等を含む)が調査機関により保障されなければならない」とありますが、現実的には不可能なケースもあるのではないでしょうか。
(7) 「4 告発等に係る事案の調査」の「3 認定」の(2)の2と(3)(15頁)
「本来存在すべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合」は不正行為と認定されるという書き方は、上記(4)で指摘した点を考えると、とても心配です。ただし、「本来存在すべき基本的な要素」があることはどの分野にも共通のことであり、コミュニテイで暗黙の内に合意されている「本来存在すべき基本的な要素」がない場合には、不正と判断されてもやむを得ないことでしょう。従って重要なことは、「本来存在すべき基本的な要素」に対して、極めて柔軟に分野ごとの多様性を認めるという姿勢を明文化して頂くのがよいと思います。
(8) 15頁3(1)1の2~3行目 「不正行為と認定されるた場合」という部分は、「不正行為と認定された場合」の誤植と思われます。
不正行為が明らかになった際の研究費の返還(p21~22)について、
上記についてガイドライン中に明示していただきたい。
本ガイドラインの対象となる競争的資金中、科学研究費補助金に基づく研究は、研究者が主体となって行うもので、研究機関は経理事務の代行及び諸事務の窓口であるのに対し、科学技術振興調整費は国(MEXTもしくはJST)から研究機関への委託契約により研究を実施することから研究機関が主体となって行うものであるなど、競争的資金によって研究機関の役割・関与が異なるため、研究機関の研究費返還に係る責任を明確にしていただく必要がある。
また、上記いずれの競争的資金であっても、一般管理費もしくは間接経費が含まれる場合があり、当該経費は研究機関自身の諸経費に用いられ、不正を行った研究者自身が一切関与しない場合があるため、当該経費中、使用済みの経費を返還する必要がある場合の取扱いについても研究者自身に返還義務があるとする場合にはこれを明確にしていただく必要があるため。
○ 本ガイドラインの対象は、文部科学省の競争的資金を活用した研究活動とされているが、研究機関の側からみれば、府省庁毎に別々のガイドラインが適用されるのでは極めて煩雑であり、政府全体のガイドラインとして策定すべき。
○ 再実験等による再現性について、調査委員会の求めによる場合だけでなく、被告発者が自らの意思により申し出た場合にも、再実験等に要する期間及び機会が調査機関により保障されなければならないとしているが、再実験等に相当の長期間を要する場合や巨額の経費を要する場合も想定され、一律に調査機関に再実験保障を義務付けるのは適当ではない。
被告発者が時間稼ぎのため再実験等を申し出る場合も考えられ、また、場合によっては再実験等の実施そのものが困難な場合もあり、再実験等の必要性はあくまで調査委員会が判断すべきものである。
従って、P14の14行目の「、あるいは自らの意思によりそれを申し出た場合は」は削除すべき。
○ 「不正行為への関与は認定されていないが、不正行為が認定された論文等の主たる著者」については、不正行為に係る競争的資金の使用中止、配分の打ち切りのみならず、全ての競争的資金の申請の不採択、申請制限等のペナルティが課さととなるが、不正行為に関与していないのにペナルティを課すのは過酷ではないか。
なお、当該主たる著者は、被告発者でない限り、本調査の実施の通知、調査委員会への異議申立て、弁明、調査結果の通知、不服申立てなど、不正行為の認定に係る一連の行為について関与する仕組みとなっておらず、手続き面からも不公平である。
調査委員会の委員の誠実性・公正性について記述がない。4 2(2)2調査体制で記述されている「直接の利害関係を有しない者」、4 3(5)3不服申し立てで記述されている「公正性」についての記述のみでは不十分ではないか。
捏造、改ざん、盗用(特に前2つ)の定義が不十分ではないか。改ざんの定義の内「研究資料・機器・過程を変更する操作を行うこと」との表現は、通常の研究活動の一連の過程において実施することも指しうるため、誤解を招くおそれがあるのではないか。
7 告発の意志がない相談者に関する調査関係者の秘密保持について記述がない。告発者と同様に保護対象とすべきではないか。
4 氏名の公表や、懲戒処分、刑事告発まであり得るのであれば、「悪意」と判断するためにも不正行為の認定と同様なプロセス・認定基準が必要ではないか。
告発等に対する調査体制・方法において個別に説明がなされているが、流れが分かり難いため、告発→受理→予備調査→本調査→処置の一連の流れを、最初に説明した方がわかり易いのではないか。
1 予備調査では「内部的に調査」とされているが、その定義がなされておずあいまいである。4-2(2)5「証拠の保全措置」において「本調査にあたって、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる」ことやこの文意から「データ等の内容についての調査を行わない、被告発者からの意見聴取を行わないで行う調査」と読めるが、明確に記述すべきではないか。
1-イ2(1)-1において行われた予備調査では告発の合理性を判断しているに過ぎない。データ等の内容に踏み込んでおらず、本ガイドラインで規定している研究資金に関わる不正行為かどうかが明確になっていない時点で、資金配分機関に通知する必要はないのではないか。告発者・被告発者等の情報は調査関係者以外には漏らさないとされている。調査関係者の定義があいまいであるが、不当に被告発者の権利を侵害しないか。
6 調査の中間報告についての記述であるが、調査途中の時点では不正が行われた可能性およびその範囲が定まっていないこともあり、どの資金提供機関が不正に関係する機関なのかが定まっていない場合もありうる。このため本来関係のない機関に情報を与えることにもなりかねない。義務づけは、「競争的資金に関わる可能性が確認された時点」以降とすべきではないか。
生データ等の基本的な要素の不足により論拠が示せない場合には一律に不正行為と見なされる。この記述に従えば、再実験の機会を保障し、再実験においてどのような結果がでても不正行為とみなされることにならないか。
保存期間を過ぎた場合等では、生データ等が不足しても、不正行為と見なさないと読める記述があり、この保存期間が提示されていない。その長短は各機関により異なる。保存期間に対する考え方が示されるべきではないか。
必ず調査委員の氏名・所属を公表するとした場合、調査委員の選定範囲を狭めてしまう可能性があるのではないか。
「3 措置の対象者 1で(共著者を含む。以下同じ)を削除し、不正行為を行った者に限定すべきである。」
大阪大学蛋白質研究所は全国共同利用研究所として、タンパク質に関わる研究を国内外の様々な分野の研究者の要請に応えて共同研究を行っている。共同研究相手の研究分野は生物学、医学はもとより化学、物理学、薬学、農学、工学など多岐に渡っている。こうした他分野との広範な連携による研究が画期的な研究を生み出している。近い分野だけの連携に止まらず、従来関連性が見いだせなかった分野とも新しい共同研究が出てきている。こうした連携を強めることは科学の発展にとって推奨されるべきである。
離れた研究分野の共同研究者間では互いの分担研究を完全に理解、吟味することは困難な場合もしばしばある。そういう場合でも大胆に、互いに科学者としての倫理観を確認しつつ、共同研究を推進したい。それぞれが分担する創造的な研究についてはそれぞれが責任を持ち、互いに信頼することによって共同研究が成り立つ。それでも、不正行為に遭遇した時にどう対処するかということを問題にしている。本報告書の見解は、共同研究者の一方がデータねつ造等の不正行為を働いたときに、他方の研究者はそのことを見つけ出す責務があるということであろう。これは、共同研究に関するあらゆる事項を同等に理解することの出来る共同研究者間でのみ成り立つことである。
もし、こうした連帯責任を負わせられることになれば、異分野との連携による共同研究は慎重になり過ぎて縮小し、研究の発展を大きく阻害することになる。とりわけ広く国内外の研究者との共同を使命としている当研究所にとっては、研究所外からの広範な要請にも応えられなくなることが危惧される深刻な問題である。真実を追究する科学者の倫理観を互いに確認して、互いの専門性を活かした共同研究を推進することが求められている。異分野との連携を萎縮させてはならない。誤りを正すことが最優先されるべきで、多様な学問の発展の道を閉ざしてはならない。
以前から不正行為の噂は以前から存在し、実際に日本からのいくつかの論文が不正なものと認定されています。しかし、最近の状況は目に余る状態です。このような時期に文部科学省での「研究活動の不正行為への対応に関してガイドライン」作製のための御努力されていることに敬意を表します。先週、NatureのEditorと話しをする機会がありましたが、つい最近も日本からNatureに投稿された論文に改竄があることを論文のrefereeが見つけたとのことです。“日本ではdataを出さなければならないとのpressureが強いのか。なぜこのように多くの捏造論文が日本からでると思うか。”と聞かれ、困ってしまいました。早急にガイドラインが作製されることを期待します。
今回のガイドラインの案を拝見させて頂き、いくつか気になった点を列挙させて頂きます。
本案20頁「3措置の対象者」に関して次の意見があります。研究活動の不正行為が明らかになった過去の事例において、その発端の多くは内部告発であると認識されます。したがって、内部告発しやすい環境をつくることが不正行為の抑止力になるものと考察できます。この点で、本案20頁「3措置の対象者」の項目に記載の内容は工夫の余地があるものと考えます。すなわち、同項目の第1号と第3号に記載のように、「不正行為に関与したと認定された」者について措置の対象者とするのは当然でありますが、第2号に記載の、「不正行為に関与したと認定されていないものの、不正行為があったと認定された研究論文に係る論文等の主たる著者」については、同号前段の「不正行為に関与したと認定されていないものの」という部分が内部告発を妨げかねません。第2号を削除して内部告発を促す環境をつくって不正行為情報をまずは調査委員会に集め、論文等の主たる著者の責任については、調査委員会で精査して「不正行為に関与した」と「不正行為に関与しなかった」の区分作業を厳格に行わせたのち、本案同項第1号対象者か否かの認定をさせればよいと考えます。
不正(捏造・改竄)が罷り通る背景として、科学技術系には文系のような研究を比較研究する分野がないことがあると思います。
文系の研究では、他の人の著作や研究論文を分析・研究することが結構盛んですが、科学技術分野ではオリジナルな発案・研究・開発のみしか研究として評価されないので、高いレベルで他研究者の論文・データを分析・比較する人は殆どいません。研究内容が自分に近くて影響の大きいような場合には多少はチェックしますが、最近は研究が細分先鋭化されており、必ずしも近い内容の研究者がいない場合も多く、余程大きな成果が報道されたりしなければチェックされないまま見過ごされるケースは少なくありません。
文系のように他者の研究を比較分析することも研究として評価することも必要な時期に来ていると考えられます。
「博士」とは元来ある分野のことに広く深い見識を持った人を指していた言葉の筈ですが、現在ではオリジナリティ優先で、狭い先鋭化した分野で僅かな?オリジナリティを有する人にのみ授与されるようになってきています。
標記の報告書(案)は時宜にかなったものと考えます。
(1) 昨今の研究活動に関わる不正行為について、本来求められるべきは不正行為の防止であって、そのための手段として「予防措置」(自己規律、倫理教育の実施など)、「防止のための取り組み」、「不正行為への対応」が必要となると考えられる。
本報告書第1部では、「科学研究の意義」に始まり、不正行為が起こる背景、不正行為に対応する諸機関の取組みに至るまで、研究活動の不正行為について包括的な論及がなされている。他方、第2部「不正行為対応ガイドライン」は、不正行為を告発・調査・認定・措置する仕組を各研究機関及び研究費の配分機関において制度化するためのガイドラインを示すもの、換言すれば、緊急に必要と考えた不正行為対応のための手段の1つを示したものと読める。
したがって、第1部の包括的議論と第2部の限定された範囲のガイドラインとの間に不整合性があり、違和感を禁じえない。
(2) 本報告書を、第1部と第2部の二部構成としたままで、第2部「ガイドライン」は当面、緊急に必要と考えた不正行為対応に限定したものとするには、後述のように、第1部、第2部を包括する「はじめに」の1文を設け、両部分の関係と「ガイドライン」の趣旨を明確にすべきである。その場合、本報告書の標題は「研究活動の不正防止のガイドライン-とくに競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応について」とするのが的確である。
あるいは、本報告書の重点を第2部に置くとするなら、第1部の叙述をより簡潔にし、第2部「ガイドライン」の限定された趣旨が明確になるように書き改めるべきである。また標題も、その内容に相応しく、第2部の重点を明示して、「研究活動の不正防止のガイドライン-とくに競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応について」、あるいは「競争的資金に係る不正行為の告発・調査・認定・措置のガイドライン(について)」とするのが適切である。
(3) 本報告書第1部には、告発された不正行為への対応のみならず、不正行為の防止・抑止の必要性についての言及がある。たとえば、1-(7)には「不正行為の抑止」(2ページ)、2-5には「不正行為に対する対応は、研究者の倫理と社会的責任の問題として、その防止とあわせて、まずは研究者自らの規律、あるいは研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用として…」(4ページ)との記述、また4-1-(2)には「2防止のための取り組み」とある(7ページ)。さらに、4-2-(1)には、「このことから、文部科学省においては、研究費の配分の観点を中心に不正行為防止も含め、不正行為への厳正な対応に取り組んでいくことが必要である」(7ページ)と書かれている。
研究活動に関わる不正行為の防止には、本ガイドラインが示す「不正行為対応」に加えて、「予防措置」(自己規律、倫理教育の実施など)、「防止のための取り組み」があわせて必要になるが、このような側面に関わるガイドラインの策定について、今後の計画を示す必要があると考える。
(4) 第2部ガイドラインが対象とする不正行為は、(1)捏造、(2)改ざん、(3)盗用に限定されている(9ページ)。しかし、研究活動の不正行為のひとつとして、公的資金の不正使用(流用、目的外使用、私物化など)を看過することはできない。この点に触れなければ、社会的には研究者に甘いガイドラインと指弾されるであろう。
ガイドラインを当面、不正行為の告発・調査・認定・措置の仕組みに限定して提示するとしても、対象とする不正行為に(4)公的資金の不正使用を加えるべきである。不正使用の告発・調査・認定までの3つの過程については、本ガイドラインの仕組みを有効に使えるものと思われる。
(5) 本ガイドラインには、告発・調査・認定の3つの過程を踏んでなされる行政処分としての「措置」が示されているが(21~22ページ)、不正使用の場合は措置に替えて、刑事告発により訴訟となり、刑法が適用される。第2部-6-5「措置と訴訟との関係」(22ページ)に新たな項を設け、告発・調査・認定の3つの過程の後の措置に言及すると同時に、刑事告発へつなげる道を明示するほうが良い。
(6) 本ガイドラインは、対象となる競争的資金を文部科学省において競争的資金の範疇に数え上げられている」13の制度(10ページ)に限定している。しかし、不正行為は、基盤的研究費や他府省の競争的資金、あるいは民間から導入された研究資金による研究活動においても生じる可能性がある。
したがって、当面は上記13の制度に対象を限定するとしても、文部科学省のイニシアチブにより、他の資金によるものを含めた包括的なガイドラインの提示が必要であろう。
(1) 「はじめに」の掲載について
全体としてあまりにも長文であり、第1部と第2部のつながりが明瞭ではなく、また目次が詳細すぎる。目次を精査して1ページ以内に納める(部、2、3のレベルまでを掲げ、(4)、5のレベルは掲げない等)とともに、第1部と第2部の強調点をA4版2ページ程度にまとめて「はじめに」とし、これを目次の前に掲げていただきたい。
その中で、本ガイドラインにより各研究機関及び資金配分機関がそれぞれの責任において不正防止及び不正行為対応の規程などを整備するよう呼びかける必要がある。また各研究機関においては、機関としての規程の中で不正防止に努めることを表明し、また所属研究者全員が不正行為を行わないむねの誓約書にサインするなどにより、自制を促す仕組みを作ることを呼びかけに含めてはいかがか。
(2) 第1部の標題「研究活動の不正行為に関する基本的考え方」(1ページ)及び第1部-2の標題「不正行為に関する基本的考え方」(2ページ)のなかの「不正行為」は、「研究活動の本質」や「科学研究の意義」などの記述内容からみて、「不正行為」ではなく「不正防止」とするのが適切である。その上で4の標題「不正行為が起こる背景」に連続させれば、いっそう正しい理解が得られる。
(3) 第1部-4-1及び2(6~8ページ)には第2部を導く重要な論点が書かれている。そのさい研究者コミュニティや大学・研究機関(以下「研究機関」とする)と研究費の配分機関(以下「資金配分機関」、具体的には10ページにある通り、文部科学省、独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人日本学術振興会の3者)の両者を明瞭に分けて論じ、その上で両者の関係を論じ、それぞれの対応を考える必要がある。具体的には、
(4) 「知の品質管理」(3~4ページ)は「個々の知見の品質管理」の意味であろうが、不適切な表現である。そもそも知は管理し得るものではない。このままの表現では、憲法違反の思想統制と誤解されかねない。不用意な表現は改めるべきである。
具体的には、第1部-2-4を(1)と(2)に分ける必要がないので標題を「不正行為に関する基本姿勢」に1本化し、「(2)知の品質管理」を削除、また3ページの下から9行目~8行目の1文を削除、さらに4ページ3行目の「品質管理を徹底していくという、」を削除する。
(5) 「対象とする不正行為等」(捏造、改ざん、盗用)について、「故意によるものではないと本人によって明らかにされたものは不正行為には当らない」の1文(第2部-2-1、9ページ)は安易に過ぎる。故意と過失を区別することはきわめて難しく、この判断を本人の表明だけに拠ることはできない。後続の「不正行為か否かの認定」(第2部-4-3-(3))のなかで、さらに言及しておくべきである。
(6) 不正行為の「告発」とそれに伴って起こり得る名誉毀損や風評被害の防止とをバランスよく考慮すべきである。具体的には、第2部-3-3-4(12ページ)を補強するとともに、「告発は原則顕名によるもののみ受付ける…」のうち「原則」を削除して顕名に限定し、その理由を書き加えていただきたい。その上で、別の項目5を立てて、匿名による告発を特例として認める理由及び参考事例を掲げ、その判断を「調査を行う機関」(第2部-4-1)に委ねるむねを書き加える。
(7) 「調査を行う機関」(12ページ、第2部-4-1)及び「調査体制(=調査委員会の委員)」(13ページ、第2部-4-2-(2)-2)に記載されている通り、当然に「利害関係を有しない者で構成」すべきである(=利害関係者の排除)。しかし専門領域の研究者数が少ない中小の研究機関が多くあるため、当該研究機関の内部から適任の委員を選任できない場合があり得る。そこで、当該研究機関の自主的判断により、他の研究機関の支援を受けて委員を任命できる仕組みを積極的に提示すべきである。
(8) 「措置の対象者」(20ページ、第2部-6-3)の2は、表現が曖昧で恣意的な拡大解釈の恐れがあるので、削除するほうが良い。当該競争的資金の分野においては、多くの論文が共著で発表され、主たる著者が複数あり誰が主たる著者であるかを確定しえない場合もあり、無用な混乱を生むからである。なお2の削除に伴い、3を2とする。
(9) 「措置と訴訟との関係」(22~23ページ、第2部-6-5)は、裁判の確定まで相当期間が予想されるので、訴訟の取り下げや和解、また被告発者(=訴訟提起者)の死亡による名誉保持など、経過的な措置にも言及しておく方が良いと思われる。
(10) 字句修正について
正確を期して下記の字句を修正されるよう提案する。下線部が修正案。
● 第1部-1-(7)の4行目にある「不正行為の抑止」(2ページ)は「不正行為の防止」とする方がよいと思われる。
● 第1部-2-5「研究者、研究コミュニティ等の自律・自己規律」(4ページ)のうちタイトルの「自律・自己規律」を「自律的自己規律」とし、また「…まずは研究者自らの規律、あるいは研究者コミュニティ…」のうち「あるいは」を「ならびに」とする。
● 第2部-3-1(10ページ)の下から7行目。
「…告発等の窓口(以下「受付窓口」という。)を…」を
「…告発等を受付ける窓口(以下「受付窓口」という。)を…」とする。
(1) 競争的資金(13制度)の配分に当たる審査委員の構成については、国公私立大学等のバランスを十分に考慮するとともに、資金の対象が理工系・医療系であっても人社系の委員を適宜配置するなど、公正な倫理的判断を可能とする仕組みづくりに努力されたい。
(2) 競争的資金獲得の個人別データの作成と公表について
第1部-3-1「研究現場を取り巻く現状」(4ページ)などに記載があるように、「先陣争い」と「研究費獲得自体がいわば一つの評価指標と化して」いる現状の背後には、競争的資金の配分基準や配分決定機関に対するある種の不信感があるものと思われる。その透明性と公平性を高めるためには、競争的資金を獲得した研究者の個人別データを作成し、次の配分時の参考にすると同時に、これを広く公開することにより、獲得資金とその研究成果との関係を広くピアレビューする材料とすべきである。
【文案】 研究上の不正行為は、公務員が行った場合、公務員法に規定される「信用失墜行為(国公99条、地公33条)」に該当しうる。
【理由】 研究公務員による不正行為はまさに「その職の信用を傷つけ、又は職員全体の不名誉となるような行為(法律用語事典)」に他ならないが、「信用失墜行為は、利害関係者からの金品の授受等を指すのであって研究上の不正行為は前例が無い」といった見解がある。ガイドラインにおいて、研究上の不正行為は、研究公務員の場合、信用失墜行為に該当しうることを一言明言すべきだ。
【文案】 3対象となる研究者及び研究機関「対象となる研究者は、対象となる競争的資金の配分を受けて研究活動を行っている研究者である」の後に次の文言を挿入する。「ただし、捏造、盗用については対象となる競争的資金を受けていない者も含め全ての研究者に適用する」
【理由】 不正行為3種(FFP)のうち、改竄は現にデータがあることが前提だが、捏造と盗用は全くの無から作りだすことが可能。ガイドライン案の適用範囲では、全く研究費を受けずに、データをまるまる捏造したり、他の研究者の業績をまるまる盗用して論文投稿をくりかえす研究者に対しては何の措置もとれない。現にこれまで発覚した大スキャンダルは、検査デー夕の一部を書き換える、といった程度ではなく、他人の論文のまるまるコピーしたり、存在しないデータや図表をまるまる偽造する、といった大胆なものがほとんど。それゆえ捏造と盗用については全ての研究者を対象にすべき。
【文案】 「1対象とする不正行為」中(1)捏造(偽造)…存在しないデー夕、研究結果等をつくりだすこと、(2)改ざん(虚偽記載)…真正な数値や事実に意図的に変更を加えたり、真正とは異なる数値や事実を記載すること。
【理由】 研究上の不正行為はあいまいなので言葉の定義で争いになる恐れ大。たとえば改ざんは「変更する操作を行うこと」では、最初から虚偽の数値を記載すければ改ざんにあたらない、と強弁する者もでてくる。見解の相違がでないようなシンプルでストレートな定義がベター。
【文案】 他の研究者のアイデア…に「データ」を追加。
注) 意見については、原則として提出されたものをそのまま記載していますが、特定の個人及び団体に関する箇所については、省略又は一般名詞に置き換えています。
科学技術・学術政策局政策課