参考資料2 研究活動の不正行為への対応に関するこれまでの意見(未定稿)

論点別考え方(案)記述〔第2回:平成18年4月7日〕 各委員からの意見
1.本特別委員会の任務(総論)
○ 我が国では昨今、科学研究において、データの捏造等の不正行為が指摘されるようになってきているが、このような不正行為は本来あってはならないものである。 また、2期にわたる科学技術基本計画のもと、公的資金による研究費支援が増加しているが、第3期科学技術基本計画が開始される状況の中で、公的資金を効果的に活用することがより一層求められている。
○ 本特別委員会においては、研究活動における不正行為(以下単に「不正行為」という。)に対する研究者や研究者コミュニティ、大学・研究機関の取り組みを促しつつ、国あるいは公的な研究資金の配分機関による研究支援を受けている研究者による不正行為への対応(告発等の受付から調査・事実確認、措置まで)について、文部科学省や資金配分機関、大学・研究機関が構築すべきシステム・ルールを検討し、ガイドラインとして示すことを主眼とする。
○ 不正行為への措置の検討においては、例えば以下のことに留意する。
  • 措置の対象となる不正行為
  • 措置の内容と決定手続
  • 研究者が複数の機関に属しているときの対応や認定の取扱い
  • 司法手続継続中の取扱い
● 本委員会の使命は、公金の支援を受けて行われている研究において、あるいはそれに関して不正行為があった場合にどのような措置をとるのかということが主たる課題であるが、単なる対応策だけを議論するのでは不十分。
● 不正行為というものは、決して少数の不心得者が起こした問題というようなことで根本的な解決を求めることが難しい。いわば構造的な問題というものがあり、それについて議論をする必要。このような根本的な問題を踏まえ、さらに研究成果の発表、あるいはその発表に向けてのさまざまな研究活動、さまざまな次元における基本的な原理原則に則って、あるいはそこから出発して問題を考えていくことが必要。
● 構造的な問題としての我々の使命は、不正行為があった場合にファンディングをどうするかということがあるが、その前提として不正行為とは何かということに重大な関心を持たざるを得ない。
● ガイドラインは、どこからお金が来ようと、どんな研究であろうと、内容に一定のものがあるので、競争的資金という各論に落とす前に、一度きちんと議論しておくべきではないか。
● この委員会としては、背景はもちろん、論文の中には誤りもあること、ネイチャー、サイエンスといえども全く参照されないものが半分以上あるというようなこととして受け止めている。ある意味冷静に論文捏造を受け止めることが大事。色々な課題がある中で罰則だけに着目するのはどうか。まずこの委員会としては全体像を、少なくとも問題の所在等を指摘をした上で、個々の対応を考えるというような構造の方が良いのではないか。
● 本委員会は何をどこまでやるかということ自体については、オープンで議論を進めながら、重要なものとして認識されたものについては、少し深く議論していきたい。
● 不正行為は許されないが、一方で、色々と大胆な研究や成果を発表していくことも必要。研究を萎縮させないという意味では、余り強い罰則が先行することはどうか。研究者の多くは良い研究ができたと思って勢い余って間違えていたというのは結構多い。そういうチャレンジも場合によっては大事であり、また、レフェリーが見落として論文として出てしまうということあることを認識しておくことが必要。
● 全体のバランス、研究活動をエンカレッジし、その中で不正行為が起こらないようになっていくためには、どこかを押されたらすぐに解決するわけではなく色々な課題がある。そのため、構造をまず明確にした上で、きちんとした即効性のある対応が必要であり、一部の対症療法だけでは問題。
● ガイドラインとしては、その機関あるいは研究者に対して、不正行為は何なのか、機関はどういう認定、あるいは対応をするのかということも含めて検討すべき。
● ファンディング・エージェンシーの立場から不正にどう取り組むかということと、日本学術会議のような同業者団体としてどう取り組むかということとは、おのずと立場が違う。その辺の役割分担を見通しのいい形にしておいた方が良い。重複ということではなくて、混乱があると非常によくない。その辺の見取り図のようなものを初期設定の段階できちんとつくっておいた方が良い。
● 不正が起こったときにどうするかということをきちんと決めることは重要であるが、学問の立場からすると、当たり前に戻るだけであり、それだけでは十分ではない。我々は当たり前の先に行きたいわけで、例えば、質の高い仕事をしたいと、そういう知の品質管理が我々には課されていると思う。
● 例えば、科学研究費補助金を受けている研究者が、別の資金で行った研究で捏造問題起きた場合どうするのか。
● 複数の機関に所属している研究者が不正行為を行い、それぞれの機関がさまざまな認定や処分を実施した場合、一体どうするのか。
● 当事者が認定や処分等に納得できず裁判所に訴えを提起するなど、司法手続が継続している間はどうするのか。
● 現実に研究費の審査をしていると、申請書自体に、例えば論文の引用で間違いや虚偽が問題になる場合がある。これはある種の非倫理的な行為だと思われるが、そういうものは本特別委員会では扱う必要はなく、どう処理するかということをどこかにまとめれば良いと思う。
● 研究者が複数の機関に属しているときの対応や認定の取扱いにおいて、論文が公表されたときに、その論文の内容の責任を負うコレスポンデンスオーサーの議論をしておく必要がある。
● 論文にシリアスな間違いやFFPに係ることがあった場合、ピアであっても、おかしいということは論文の雑誌に出た後すぐに分かるケースはほとんどないと思う。その論文を世の中に出そうというときに誰が責任が重いのかというと、その中身をきちんと理解してコレスポンデンスオーサーがその責任をとるのがあるべき姿だと思う。
● オーサーシップは分野、学部で異なり、大学間でも違うこともある。誰が責任者で、誰がファーストオーサーで、誰がコレスポンデンスオーサーであるかは不規則だと思う。
● 立法はそれぞれの機関が行うべきであり、この委員会はそれを促し、かつその立法に際して注意すべきこと、カバーすべき事項を提示することが重要。非常に技術的な問題であるが、背後にあるそもそも研究とは何か、研究発表とはどういうことかということが広い意味での倫理の問題。誰が責任をどこまで負うべきかということを判断する際の一つの材料として非常に重要な意味を持つ。
● 司法裁判が始まるとその司法裁判との関係をどのように考えるのか。恐らく司法裁判の結論が出ればそれは最終的な判断とならざるを得ないと思うが、それとの手続的なことがわかりにくい。
● この委員会で何ができるかということと同時に、この委員会で何かできないのかということを明確にしておく必要がある。最終的には科学的な知の品質管理という責任を研究者はみんな背負っている。そこに対してどこまで届いた議論あるいは届いていない議論なのかということを明確にする必要がある。
2.不正行為に対する基本的考え方
(1) 研究活動の本質
 ○ 研究活動とは、先人達が行った研究の諸業績を踏まえた上で、自分自身の発想・アイディアに基づく新たな知見を創造することである。
(2)研究成果の発表
 ○ 研究成果の発表とは、研究活動によって得られた成果を、客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ、研究者コミュニティに向かって公開し、その内容について吟味・批判を受けることである。
● 研究の発表、成果の発表は、その根拠を研究者自身が学会に対して、あるいは研究者コミュニティや社会に対してきちんと根拠を示すことが大前提。根拠を示すことができないような研究成果というものは、真の意味で研究成果とは言えない。
(3)不正行為とは何か
 ○ 不正行為とは、上記(1)、(2)に反する行為に他ならない。この意味から、不正行為は、科学研究の論文等において、得られたデータや結果の捏造、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用に加え、同じ研究成果の重複発表、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップ、実験・観察ノートを作成しないことなども含めた、科学研究の上での非倫理行為と考えることができる。
● 不正行為の定義を明確して、限定することが必要。
● データの「捏造」、「改ざん」、「盗用」と定義してよい。ただし、その他にも得られたデータの中で「意図的に」自分に都合が良い部分だけを取り上げて、他を切り捨てる行為、あるいは論文の中でも、自分の仮説に都合の悪い他の研究者の論文を「意図的に」無視するなどの行為も、広義には「不正行為」といえないこともないだろう。しかし、これらの多くは論文審査の段階で防止することができるものであり、当面は不正行為に含めないでよい。
● 競争的資金と不正との関係という意味では、申請書に、正しい内容(成果)が書かれていない場合、あるいは、正しく論文が引用されていない場合がある。論文の引用が正しくない場合は、単なる雑誌名、年、巻号、ページなどの記載間違いか、意図的な不正かという問題があるが、いずれにしても、研究費(計画書)の審査時に、こうした不正(あるいは不正確)は、審査をミスリードする場合がある。この取扱いを、論文発表の改ざんなどと同じ扱いで議論するのかどうか最初に議論すべき。
● 不正行為とは、直接には改ざん、捏造、盗用。その背後にある実験、観察ノートや研究資料、試薬等の保存の必要など、いわば研究の作法、研究者として守るべき常識のようなものがあるのではないか。それがきちんとなされていないということは既に広い意味での不正行為と考えられるのかもしれない。
● 自分は知らない、助手が勝手にやったこととして済むのかどうかというような問題も含め、不正行為とは何かということについて少し幅広に議論をする必要がある。
● 非倫理的行為という表現について、研究にとって不正行為をするということは非倫理的であると同時に自己破壊の営みになると思うのでもう少し広がりのある問題の設定の仕方ができると思う。
(4)不正行為に対する基本姿勢
 ○ 不正行為は、研究活動とその成果発表の本質に反するものであるという意味において科学そのものに対する背信行為であり、研究費の多寡や出所の如何を問わず許されない。個々の研究者はもとより、研究者コミュニティや大学・研究機関、研究費配分機関は不正行為に対して厳しい姿勢で臨むべきである。
● 「予防のための指導あるいは指針」と言う形で、背景になっているものを指摘する必要があるのではないか。ただし、そうなるとかなり間違いのないものに絞ることになる可能性はある。何らかの罰則規定は必要。
● 研究内容の不正はあってはならないことであり、やむを得ない理由はない。不正が判ったら罰則を課すことは当然。
● 不正が判ったら罰を与えるべき。ただし、悪意のある告発(不正告発)には注意すべき。
(5)研究者、研究者コミュニティの自律
 ○ 不正行為に対する対応は、研究者の倫理と社会的責任の問題として、その防止も含め、まず研究者自らの、あるいは研究者コミュニティの自律に基づく自浄作用としてなされなければならない。
 ○ 自律・自浄作用の強化は、研究室・教室単位から学科・専攻、さらに学部・研究科レベルでにおいても重要な課題として認識されなければならない。
● 研究者コミュニティの自律を機能させるための制度設計は至難。
● 研究者コミュニティは不正行為のような問題に弱い。この委員会での議論の進み具合を日本学術会議の委員会の方に伝えても良いのではないか。
● 研究は一人で進めるのではなく、必ず議論をしているはずであるが、これらの集団の中で研究についての議論ができる状態となっているかも問題。研究者コミュニティの自浄作用を強化すべき。
● 研究室・教室単位から学科・専攻、さらに学部・研究科レベルにおいても重要な課題として認識されることは良いが、ここが責任をとれるかというと難しい。認識することは大切だが、これらの責任の認識というところまで発展させない方が良い。
(6)大学・研究機関、学協会、日本学術会議の不正行為への取り組み
1 行動規範や不正行為への対応規程等の整備
 ○ 不正行為への対応のために、日本学術会議が科学者の行動規範の策定に向けて取り組んでいるが、大学・研究機関や学協会においても、研究者の行動規範や、不正行為の疑惑が指摘されたときの調査手続や方法などに関する規程等を整備することが求められる。
● 一部を除いてほとんどの研究機関や学協会では、的確な情報を持っていないのみでなく、不正行為の問題について話し合う余裕もないと思われる。
2 防止のための取り組み
 ○ 大学・研究機関においては、実験・観察ノートの作成・保管や実験試料・試薬の保存等、研究管理に関する規程等を定めたり、研究活動やその公表に関して守るべき作法について、研究者や学生への徹底を図ることが求められる。
 ○ 不正行為が指摘されたときの対応のルールづくりと同時に、不正行為が起こらないようにするため、大学・研究機関や学協会においては、研究者倫理に関する教育や啓発等、研究者倫理の向上のための取り組みが求められる。
● 研究機関及び研究者コミュニティが不正防止のための倫理教育その他の方策を行う必要があるのは当然と思う。
● 不正が起きないようにすることを、行政的な対策で行うのは困難。それは科学者コミュニティが、研究者倫理の徹底、あるいは、教育によってなすべきことであるが、該当する機関に、行政的に、不正が起きないような対策を立てるように色々な要望を出すことは必要。
● 研究者の実験記録・ノートの保存ポリシーの最低限のガイドライン策定は必要ではないか。これらの記録が研究機関に帰属するのか、研究者個人の情報なのかは大学では必ずしも明解に棲み分けができていないため、問題が起起きた場合の検証が難しい一因になっていると思われる。
● 学会等研究者コミュニティ、日本学術会議の役割がどれだけ重要であるか、どういうことを期待すべきか。
● 研究者倫理に関する教育や啓発等、研究者倫理の向上のための取り組みが求められるという部分は抽象的な気がする。具体的に書くことがあれば書いても良いのではないか。
● 強調しなければならないことは、教育、特に指導者の教育である。
● 教育ということでは、自ら律するということをきちんと教えることが前提。教授が学生も含めて、研究者に仕立てていこうとする場合にきちんと教えるということ自身が、その教授にとっての自律でもある。
● 研究者倫理と言うと、研究者個人の問題に帰着させておけばそれで問題は済むような感じを受ける。研究者倫理は大事な問題であるが、同時に研究者と研究活動そのものの仕組みをきちんと適正に保つという両面があってしかるべきではないか。
● 多種多様な研究者が増えてきて、ある研究機関にいる人が何年か経って別の機関に移るという現状を考えると、実験・観察ノートの作成・保管というのは当たり前のことだが、現状では、最低これだけはきちんとやってくださいと書かざるを得ない状況になっている。自分を守るためにこれが必要なんだということをきちんとガイドラインに明記することが必要。
● 研究の本質とそれに基づく作法・研究者倫理というのはどういうものかということを学生や研究者、場合によっては教える側も十分教育を受けていないということもあるが、そもそも研究というのはどういう営みなのかということをきちんと教えられていない。教育システムの中に組み込むという発想があっても良い。
(7)文部科学省における競争的資金に係る研究活動の不正行為への対応
 ○ 文部科学省においては、公的資金を研究費として配分している立場から、適正な研究費の活用に意を用いる必要がある。特に特定の課題に対して配分する競争的資金等に係る研究活動の不正行為への対応について、早急に文部科学省におけるルールづくりを行うとともに、資金配分機関や大学・研究機関に対する対応のガイドラインを提示し、各機関における不正行為への対応のルールづくりを促進することが必要である。
 ○ 不正行為への対応の取り組みは、学問の自由を侵すものとなってはならないことはもとより、研究を萎縮させるものとなってはならず、活性化させるものとなるように留意する必要がある。
● これまでの内外における不正行為への対応例も検討の参考になるのではないか。
3.不正行為が起こる背景
(1)研究現場の現状
 不正行為が起こる背景としての研究現場の現状については、例えば以下のことが考えられる。
 ○ 世界的な知の大競争時代にあって、研究成果を少しでも早く出すという先陣争いが強まっている。
 ○ 競争的資金の増加とともに、多額の研究費が獲得できる研究が優れた研究と評価され、また、成果が目立つ研究でなければ、研究費が獲得できない傾向など研究費獲得競争が激しくなっている。
 ○ 研究者の任期付任用の増加に伴い、ポスト獲得競争が激しくなっており、特に若手研究者にとっては優れた研究成果を早く出す必要性に迫られている。
 ○ 研究組織の中で自浄作用が働きにくい。また、正常な自浄作用か相手を陥れる行為か、が容易に判断しにくい場合があり、重症に陥るまで放置されることがある。
● データの実物を見ながら討論していない場合、不正が起こり易い。
● 教授や主任研究者と大学院学生やポスドクが1対1で研究する場合は、同じ研究室の人といえども競争相手であるので、不正が起こりやすい。
● グループ同士であっても、あまりに競争が過熱すると不正が起こりやすい。
● 研究現場は次第に競争社会、差別社会となりつつある。多額の助成により目立つ研究をしないと上に行けず、目立つ研究が高く評価される傾向になってきている。この傾向が甚だしくなってくると研究者としてのモラルを超えてしまう可能性が出てくると思われる。
● 不正行為には、お金を取る、取りたくなるような背景、あるいは価値観があるのではないか。不正に対する罰則をどうするかの前に、お金がすべてというような、ある意味では環境があるのではないか。
● 目立つ研究でないとお金が来ない、目立ったことをしないと良いポジションが得られないというような傾向があり、それがある一線を越える可能性を引き出しているのではないかと思う。そこが今の研究社会の一番の問題点ではないかと思う。
● 研究は個人でというのが原則であるが、最近は複数で行っているケースが多い。研究自体、研究室の中で、研究グループの中で、学会の中で議論され、今まで不正行為は淘汰されてきたのではないかと思う。その機能が何かうまく働かなくなってきているのではないか。研究者コミュニティ、グループの中の自浄作用をもっと強化する必要がある。
● 背景で少し気になるのは、若者の研究者離れが非常に世界的に進んでいる。全体として多分成功者モデルが足りない。それから研究者に対する尊敬が足りない。この中のトーンとしては研究者も良いなという感じが少し見えると良い。
(2)研究者の意識
 一方、研究者や指導者の意識や姿勢については、以下のことも考えられる。
 ○ 大学等を中心に行われる学術研究は、本来、研究者の自由な発想と知的好奇心・探究心に基づき行われるものであるが、生活の糧として研究をするという意識を研究者が持つようになってきているのではないか。
 ○ 若くして主任研究者になった場合、長期間研究費を獲得し続けることが必要になり、常に目覚しい研究成果を出すことに追われ、焦りが生じたり、研究室のポスドク等への圧力が強くなる可能性がある。
 ○ 研究評価の進展に伴い、インパクトファクターが研究評価の上で重視されるにつれて、評価者や研究者が著名な科学雑誌に論文が掲載されることを過度に重要視している。
 ○ データ処理や論文作成のスピードが早まること等により、研究グループ内で生データを見ながら議論をして説を組み立てていくという、研究を進めていく上で通常行われる過程を踏むことを、おろそかにする意識が一部にある。
 ○ 指導者の中には、成果至上主義に傾き、研究者倫理や研究のプロセスを十分に理解していない者が存在する。
 ○ 学問(研究活動)の本質とそれに基づく作法・研究者倫理とはどういうものかということについて、学生や若手研究者が十分教育を受けていない。
● 若くして主任研究者にプロモートされた場合は、長い期間にわたって研究費を持続的に獲得しなければならないので、焦りが生じる可能性が高い。
● インパクトファクターに振り回される。これは自分がインパクトファクターの高い雑誌に投稿したい、そのために良い結果を出したい、と思うのみならず、インパクトファクターの高い雑誌の論文を絶対視する悪い傾向が生じる。
● 研究はどういうものかについて教えきれていない傾向。研究は結果だけが大切なのではなく、研究プロセスも財産であることをしっかり教えるべき。また実験だけができることが良いのではなく、何をして良いのか悪いのかという社会常識も合わせて教えるべき。
● 論文の捏造等で最近話題になっているものの多くは、ネイチャーやサイエンスに関わるような論文。研究による社会への貢献は、ネイチャーに論文を出すこと、あるいはインパクトファクターの多い論文誌に掲載することだけではないのに、そこだけが強調されて、そのために金を取ることが大事だというような環境がある。
● 研究はただ成果だけを上げれば良い、実験だけできれば良いというような研究者が生まれているのではないか。教育の問題でもあるが、責任者がきちんと研究とはどういうものか、成果だけが財産ではなく、プロセスが一番の財産であるということをきちんと教えないといけない。研究者である前に人間としての常識を備えさせる教育をすることが大切だと思う。
● 非常にインパクトファクターの高い論文誌に出ることだけが評価ではないというような仕組みが必要なのではないか。個々の研究者は、若手も含めて目立ちたい、研究費が欲しいと思うのは当たり前であり、そういう中で余り突出した評価、偏った評価をすることで、不正がエンカレッジされるようなことがないようにすべき。
● 生活の糧として研究をするという文言は不適当。現在では科学者はほとんどが職業科学者であり、生活の糧はその中で得ている。
● 生活の糧として研究をするという意識を多くの研究者が持つようになってきているのではないかとあるが、こういう意識と対応するような研究現場の客観的状況というのが存在するということはきちんと盛り込んでおいた方が良い。
● 評価システム、ファンディングシステムの問題かもしれないが、役に立つということが非常に重視されている部分がある。基礎研究というのは今日明日役に立つかわからない。わからないからやってるわけで、わかったらやる必要はない。基礎研究もそうでない研究も同じ評価システムで対応するという考え方が良くない。基礎研究の結果は長期的な視点が重要。短期的に成果を出さないと予算がつかないということになるとどうしても成果を急ぐ。それが極端に不正につながる背景となると思う。
● 大学等を中心に行われる学術研究の部分は、ぜひ書く必要がある。学術研究というのは自由な発想に基づいて、次の世代の価値をつくるという使命があり、その使命感が最近希薄になって、単に生活の糧となっているというところが問題ではないかと思う。
● 上の人が色々なことを見逃していくと、下の人間はみんな見て真似をする。それがまた下へいってまた下へいってという形で連鎖が繰り返される危険性があるということをどこかで指摘できないか。
4.不正行為への対応の具体的検討事項-不正行為への対応のガイドラインにおける要点と対処の基本的考え方案
(1)ガイドラインの対象範囲
 ○ 不正行為は研究費の出所や金額の多寡の如何に関係なく許されないことから考えると、不正行為への対応は、本来研究費の如何を問わず対象とするべきである。
 ○ しかし、公費による研究資金の効率的な活用の観点や不正行為が行われた場合の行政的な措置の観点から、行政としての対応は以下のように考えることができる。すなわち、競争的資金は研究費と研究活動及び研究成果との対応関係が明確であり、研究活動の不正行為においても、研究費との対応関係が明確である。また、資金配分機関と研究者の関係をルール化する必要性もあることから、ガイドラインの対象となる不正行為は、国費による競争的資金を活用した研究活動における捏造、改ざん、盗用とすることが適当である。
 ○ プロジェクト型研究については、競争的資金によって行われてはいないが、研究費と研究活動には一定の対応関係があり、求められる成果が不正行為により得られなくなる場合もあることから、競争的資金を活用した不正行為への対応の制度化を踏まえ、これに準じた制度を導入することが望まれる。
● 不正行為のガイドラインを作るとすれば、助成金がどこから来ようと、どこで研究が行われようとも、あらゆる研究すべてに統一したガイドラインが必要。
● 「研究」の範囲を明らかにして議論することが必要。基本的には、国内の研究であって、文部科学省の所轄する競争的資金を獲得して行われた研究における不正行為に限定することが望ましいのではないか。研究者のマナーに属する領域まで対象とするのはふさわしくない。
● 一つの論文の研究資金として、いくつかの研究費が投じられている場合や、研究費を謝辞として書かれていない場合もあり、その論文がどの研究費によってなされたかを一義的に決めるのは、現実には相当困難。
● プロジェクト型研究という言葉の定義が良くわからない。
(2)告発等の受付
 ○ 不正行為が指摘される場合、告発や相談、報道などが考えられるが、告発等を受付けるため、文部科学省、日本学術振興会などの資金配分機関、大学・研究機関それぞれに窓口を設置することでよいか。
 ○ 告発等は、不正行為の内容や不正行為を行った者(グループ)が明確であり、かつ不正とする根拠が示されているもののみを受付ける。受付ける告発等は、実名に限定してよいか、あるいは匿名も含めるのがよいか。
● 告発を奨励するようなシステムは問題。
● 内部告発を制度化するというやり方は日本社会の理想とする組織原理と基本的に矛盾する側面があるのではないかと危惧。
● 告発は良いと思うがルールを作成すべき。
● 告発の受理は明確な物的証拠に基づくことを原則としないと、悪意に基づく告発であった場合、その立証による物的・時間的損失は計り知れない。
● 不正とする根拠として、具体的にはどのようなものを想定するか。
● 匿名の告発は、それが悪意に基づいたものであれば、後に告発者に対する処分などを考えるという本案の趣旨から考えると、匿名者の処分はできないので、告発を受付けることはできないということではないか。
(3)調査・事実確認
1 実施機関
 ○ 不正行為が指摘されたとき、不正行為かどうかの調査・事実確認は、原則として被告発者が所属する大学・研究機関が実施することでよいか。被告発者が複数の機関に所属している場合、不正行為が指摘された研究を主に行っていた大学・研究機関が実施するか、複数の機関が合同で実施することでよいか。
 ○ 調査・事実確認開始の時点で、被告発者が不正行為を指摘された研究を行っていた大学・研究機関に所属していないときは、現に所属している大学・研究機関と、指摘された研究を行っていた当時の大学・研究機関が合同で調査・事実確認を行うことが考えられる。このような場合、被告発者が調査・事実確認の時点でどの大学・研究機関にも所属していないときは、研究費を配分した機関が当時の大学・研究機関と合同で調査・事実確認を実施する。
 ○ 被告発者が大学・研究機関に所属していない場合や被告発者が所属する機関が調査・事実確認を行うことが著しく困難な場合は、不正行為に係る研究費を配分した機関が行うことでよいか。
 ○ 不正行為かどうかの調査・事実確認には多大の時間と労力が費やされることから、大学・研究機関等に代わり、外部の機関等がこれを行うことがあってもよいのではないか。この場合、不正行為の調査・事実確認を行う外部の機関等が方法・手段を蓄積したり、人材を養成することを可能とする方策が必要となると思いわれる。
● 調査実施機関としては当該機関内ではなく、その研究に中立的な機関を作り、利害を受けない人が責任者となるべき。
● 研究機関、あるいは学会などは、調査能力はあるであろう。しかし、研究費配分機関(文部科学省関係では、文部科学省本省、学術振興会、科学技術振興機構)には、独自の調査能力があるとは思えない。あるいは、機関ではなく、色々な機関の研究者などをその都度集めて、調査チームなどを発足させることになるのか。その場合の責任機関はどこになるか。研究費配分機関が独自にできる調査は何か。調査グループが調査結果を出すプロセスの正当性の検証ということになるか。
● 研究機関及び研究コミュニティが不正の調査に関して真に十分な機能を果たせるかどうかは疑問を感じる。「措置」を行うことを前提に、各機関における調査はどれも公正かつ慎重に行われることが要求される。しかし、いったん疑惑が出てきた場合、所属機関だけでは難しい問題も生ずる。例えば、当事者が退職していたり別機関に異動している場合などは調査が困難。また、研究者は一般に他人の過去の実験の確認をするような後ろ向きの研究に時間やエネルギーを割くことを本能的に嫌う。いくつかのものについては所属機関だけでは調査しきれず、専門家集団を有する第三者的上部機関(政府機関)による審査が必要になるのではないかと思われる。
● 不正問題についての告発があった場合の事実関係の調査と、調査の結論に基づく処理の問題とは、別の問題ではないか。
2 実施体制
 ○ 調査・事実確認を行う機関は、当該研究機関に属さない研究者や法曹関係者など第三者も含む調査委員会を設置する。調査委員の氏名は被告発者に対し、その求めに応じ開示される。 ● 調査委員会のメンバーに、例えば告発関係者、あるいは告発した研究団体、組織のメンバーが入っているような場合、公正性の問題をどう考えるか。
● 委員会に法曹関係者を入れる必要性は何か。事実関係の調査は、あくまでそれぞれの分野の学術的な見地での調査で、法律問題ではないのではないか。
3 実施方法等
 ○ 予備調査と本調査の2段階で実施する。予備調査は告発等を受け、指摘された行為が実体があるか、告発等が科学的根拠に基づくものであるかなどを調査し、本格的な調査をすべきものであるときは本調査を行う。
 ○ 調査を行う期間を設定することは難しいが、いたずらに長期化することを防ぐため目安として設定する(例えば、予備調査は1ヶ月、本調査は6ヶ月など)。
 ○ 本調査において、被告発者の弁明の機会を必ず設ける。
 ○ 本調査を行う場合、大学・研究機関は、告発等に係る研究に関して証拠となる資料等を保全する措置をとる。この措置に影響しない範囲であれば被告発者の研究活動を制限しない。
 ○ ただし、資金を配分する機関又は被告発者が所属する大学・研究機関は告発された研究に係る研究費の使用を一時的に停止する措置をとる。また、資金を配分する機関は不正行為かどうかの認定がされるまでは、当該研究に係る研究費の未交付分の交付停止や、既に別に被告発者から申請されている競争的資金の採択の決定あるいは採択決定後の研究費の交付を保留することができる。
● 純粋に学問的な正義感に基づく告発もあるが、告発者が被告発者に対して恨みや偏見を持っていることがあり、告発に基づいて直ちに行動するべきであるかどうかの判断は極めて困難。
● 不正問題が発生したとき(告発などで)、説明責任は、基本的には、研究者(発表者)側にあると考える。この際、もとのデータがないことは、不正かどうかの判断ができないということではなく、「不正である」としてその後の処理を行うという考え方が必要。再試験、追試験以前の問題。
● 再現性という意味で、最近の生物学的な研究では、ある種のキットと呼ばれる混合物を使うケースが多く、ロットの違いによって、結果が異なることはままある。また、一部を保存したとしても、保存状態によって、結果は再現できないことはある。こうした場合、単に試薬を保存すれば良いという指導が適切かどうか、疑問はある。また、研究者の実験技術力によって、結果が異なることも、良くあることであり、論文に書かれているとおりやったが、同じ結果とならなかったということだけで、不正の可能性があるということにはならないという微妙な問題がある。
● 「研究者は常に自分の研究発表に対して説明責任を持つ」という考えが「研究者は過去の研究結果に対してデータを再現する責任を持つ」というような意味に変化してはならない。あくまでねつ造・改ざんといった不正は、故意に事実と異なることを発表することであり、結果よりもプロセスの問題。データを捏造しても結論は正しい場合もあり、不正はなくても間違っていることは無数にある。研究者は困難な実験をぎりぎりの条件と技術で乗り越えていることが多く、たとえ自分自身であってもちょっとした条件の違いによって再現できなくなることもしばしばある。厳しすぎる責任を感じると、研究者は萎縮して思い切った仮説や実験ができなくなることを危惧する。不正問題の調査に当たって、この点は留意する必要がある。
4 不正行為の有無の認定
 ○ 不正行為であるかどうか、不正行為でない場合、悪意に基づく告発であったかどうかについて、本調査を踏まえ専門性に基づいて調査委員会が認定する。
 ○ 不正行為と認定する基準については、例えば以下のことが考えられる。
  • 被告発者が不正行為を認める。
  • 実験を行いデータを収集・整理した者が不正行為を認める。
  • 不正を指摘された論文の根拠となる実験に再現性がないことに正当な理由がない。 など
 ○ 不正行為と指摘された研究者は、潔白を主張する場合、自ら挙証責任を負う。このとき、生データや実験ノート、実験試料の不存在など、存在すべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合は不正行為とみなされるということでよいか。
 ○ 不正行為と認定された被告発者及び悪意に基づく告発と認定された告発者は、調査委員会に対し、理由を添えて不服申し立てを行うことができる。調査委員会は不服申し立てが妥当であるかどうか審査する。
● 不正行為の認定機関を国にすることは、大きな危惧がある。学問の国家統制につながりかねない。
● 研究者が属する機関が不正行為に関する認定を行うとしても、その認定の基準となるもの、法律学上で言えば実体法的なものが必要。
● 認定手続全体として、グレーゾーンの場合、あるいはグレーの段階における取扱いについてある種のガイドラインがあるべき。
● 認定手続に関する手続法的な問題、特に、告発を受けた人があくまでも否認した場合にどうするのか。法律学的には挙証責任は誰が負うのかという問題がある。
● 雪冤、要するに冤罪をそそぐ、免れる、そのチャンスをどのように、どれだけ保証するかということが極めて大事。
● 生データ、実験ノートなどの保存は必要であるが、無期限に保存すべきなのか、期限を限るべきなのか。
(4)調査・事実確認の妥当性の審査
1 妥当性審査の必要性
 ○ 大学・研究機関が不正行為との指摘について調査・事実確認を行い、不正行為とされた場合、不正行為を行った者に対して何らかの措置が行われるとすると、研究費を配分した機関が、大学・研究機関による調査・事実確認が適切に行われたかどうかについて審査することが適当と考えられる。 ● 「調査・事実確認の妥当性の審査」は余り必要でないように思われる。審査機関がきちっとした審査をすれば、時間がかかることもあり、審査のための審査はあっても簡素であるべき。
● 妥当性審査がいわば上級審に当たるものと考えてよいのか。そうすると、当初の不服申し立ての手続が調査委員会そのものに対してのものだけしか書いておらず、いわば上級審についての保証が全然ない。
● 不正行為の認定以外に不正行為ではないとの認定、悪意に基づく告発の認定があった場合にも妥当性審査が働くという書きぶりになっているが、そこに矛盾があるような気がする。
2 審査の主体・体制
 ○ 審査は不正行為と指摘された研究に係る競争的資金を配分した機関が行うことでよいか。このとき、複数の配分機関が該当する場合は、最も配分額が大きい機関が行うことでよいか。あるいは、どの機関が配分したかに関わらず、審査は文部科学省が行うことがよいか。
 ○ 審査は、不正行為と指摘された研究分野に識見がある研究者や法曹関係者など、第三者の有識者で構成される審査委員会を設置して行う。文部科学省においては、科学技術・学術審議会の下に置くことが適当と考えられる。
3 審査の実施方法等
 ○ 審査は、大学・研究機関が行った調査・事実確認について、受付、調査の体制とその手順や手法などについて、調査報告書や調査・事実確認を行った大学・研究機関からのヒアリング等によりその妥当性を審査する。また、この審査について期間を設定する。
4 審査結果の取扱い
 ○ 大学・研究機関が行った調査・事実確認の結果(不正行為の認定、不正行為ではないとの認定、悪意に基づく告発の認定)は、妥当性審査において調査・事実確認が適切とされることにより確定する。
 ○ 大学・研究機関の調査・事実確認を適切とし、不正行為が確定した場合、資金配分機関は速やかに不正行為を行った者に対して措置を講じる。または不正行為でないことが確定した場合、調査期間中にとった措置等を解除するとともに、所属機関に対し、名誉回復措置を講じるよう求める。
 ○ 大学・研究機関の調査・事実確認を不適切とした場合、審査をした資金配分機関は大学・研究機関に対し、不適切な点を指摘してそれに沿った再調査を求める。大学・研究機関は指摘された点に沿って調査・事実確認を行い、再度認定を行う。大学・研究機関は再調査の結果とともに、調査・事実確認の改善点を審査した資金配分機関に報告する。
● 妥当性審査は、裁判での上級審のような存在である必要はなく、事実関係は、研究者コミュニティが責任を持って可能な限り明らかにし、それに基づいて、各研究費配分機関は研究者、あるいは研究費をどう取り扱うかを決めればよい。研究費配分機関が、調査を差し戻すようなことはすべきではない。研究者コミュニティと、研究費配分機関(行政機関)は別のものであり、それぞれの立場は尊重すべき。
(5)告発者・被告発者の保護
1 不利益の防止
 ○ 告発者が告発したことによって所属機関等から解雇等不利益を受けないことが必要である。また、被告発者が告発されたことのみをもって全面的な研究活動が禁止されるなど不利益を受けないようにすることが必要と考えられる。
● 公益通報者の保護という観点で、公益通報制度との一部オーバーラップというものを考える必要がある。
2 情報管理
 ○ 告発者が告発したことによって所属機関等から解雇等不利益を受けないことが必要である。また、被告発者が告発されたことのみをもって全面的な研究活動が禁止されるなど不利益を受けないようにすることが必要と考えられる。
3 調査結果などの公表時期
 ○ 科学研究は既に発表された研究成果に影響されることから、調査・事実確認を行った機関が不正行為かどうか認定した後速やかに、不正行為と認定された者の氏名も含め調査結果等を公表することが適当である。 ● 実際に不正結果を元に研究を進めている人がいるため、被害を受ける研究者がでてくる。ある程度不正が認定できたら素早く公表すべき。行政措置の後の公表では遅い。不正行為とは犯罪であり、公表を遅らせる理由は何もない。
4 悪意に基づく告発の防止
 ○ 特定の研究者を陥れるなど悪意に基づく告発を防止するため、悪意に基づく告発を行った者に対する措置や告発には科学的根拠が必要なこと等を周知しておくことが必要である。 ● 不正でないと認定された場合には、程度によって告発者へのペナルティも課すべき。
● 研究者の属する組織に、研究の足を引っ張るために誣告が行われた場合、サンクションを恐れた組織が当該研究者の競争的資金の申請を念のために凍結する危険性があり、そのような危険がない制度設計にする必要がある。
(6)不正行為と認定された場合の措置
1 措置の決定手続
 ○ 不正行為の認定が確定した(調査の妥当性審査で適切とされた)後、速やかに当該不正行為に係る研究費を配分した機関は、不正行為と認定された者に対する措置を検討する委員会を設置する。
 ○ 検討委員会は利害関係を有しない第三者で構成される。調査・事実関係の妥当性を審査した審査委員会が兼ねることも考えられる。
 ○ 検討委員会において措置を検討し、結果を当該委員会を設置した機関に報告する。機関はこの報告に基づき措置を決定する。その際、不正行為の悪質性も考慮する。
 ○ 措置を行った後、大学・研究機関が行った不正行為の認定について訴訟が提起されても、認定が不適切である等措置を継続することが不適切であるような裁判所の判断が出ない限り措置は継続される。
 ○ 措置を行う前に、大学・研究機関による不正行為の認定とそれに基づく処分について訴訟が提起された場合についても、訴訟の結果を待たずに措置を行ってよいか。
● 挙証責任の問題も含め、グレーの場合、あるいはクロとは断定しきれない場合どうするのか。あるいは、そのプロセスの途上にあるときに一体どうするのかというような問題があるのではないか。
2 措置の対象
 ○ 措置は、研究代表者、研究分担者(共同研究者)、研究補助者の如何を問わず、次の行為を行った者を対象とすることが考えられる。
  • 不正行為を行った者及び不正行為と認識して積極的に加担、あるいは不正行為の相談を受け、助言をした者。
  • 積極的ではないが、上記の者の依頼を受けあるいはその意を汲み、不正行為と認識して協力した者。
  • 不正行為を行った者が不正行為を行っているということを知りうべき、かつ、不正行為を行った者を指導すべき地位にいながら、それを怠った監督者。
● 不正があったと結論された場合、その論文の共著者あるいは共同研究者の責任を明確化する必要があろう。基本姿勢としては、論文の共著者には共同責任があることを明確にし、共著者になるのならばデータそのものもチェックするほどの責任を持ってもらうように指導することも必要。
● 共同研究者は全員責任を持つべき。ただ責任の重さは各人により異なると思われる。本体、論文には、共同研究者一人一人がどう寄与するかも明確にすべき。
● 研究費配分機関がなす処分、研究者の所属機関がなす処分、司法などの行政がなす処分があると思われるが、本委員会で扱う処分というのは、研究費配分機関が行う処分ということで良いのか。もちろん、他の処分を見た上で、配分機関が処分を行うという関係はあるはずではあるが、それはそれぞれの機関が考えることで、本委員会がそのルールを作るわけではないという理解で良いのか。それとも、不正に関わる事実関係の解明は、色々な機関が協力して(分担して)行い、それに関する結論は一つにした上で、各機関のルールに基づいて、それぞれの立場で処分を行うということになるのか。それとも、事実関係の調査自体も、各機関がそれぞれ行うことになると考えるのか。
● 研究費の研究代表者、研究分担者、研究協力者、という概念と、論文の共著者の概念とは一致しない。また、すべての研究分担者が同じ責任を負うべきという話しにはならない。一方、論文の共著者をすべて同じように扱えという議論があるが、論文の共著者の位置づけも、それぞれの学問領域毎に異なる。著者のうち、誰がどういう役割をしたかが明らかになる必要がある。
● 指導すべき地位の人という概念は、誰が責任を追うべきかの判断では重要。学生やポスドクに対して、その雇用者あるいは指導教員という概念は明確であるが、スタッフについては、問題を整理する必要がある。今後、助教や准教授は、それぞれが独立した研究者として位置づけられるため、彼らを指導するということをどう定義し決定するかは、極めて曖昧。
● 誰が責任をとるのかということについては、さまざまな研究や組織の形態を勘案し、研究機関が考えることだろうと思う。このガイドラインでそこまでの問題点は指摘する必要があると思うが、個別個別に言う必要にはないと思う。
● 名前が載っているからには論文のどこに寄与したかがある程度明らかにならないといけない。関係ない人を名前に入れるということは不正。全員何らかの責任を持つべき。
● 若い方が不正を行った場合、意図的であろうとなかろうと、それを見過ごしてきた指導者としての責任は非常に大きいというニュアンスを出すべき。
3 不正行為の内容や認定された者の公表
 ○  不正行為との認定が確定した者への措置は措置決定後、氏名も含め速やかに公表することが適当である。
4 措置の内容措置の内容は以下の事項が考えられる。
 1)競争的資金の不交付・打ち切り
 ○ 2に挙げられる不正行為の認定が確定した者に対して、現に配分されている、あるいは配分が予定されているすべての文部科学省所管の競争的資金でまだ配分されていない研究費については、不正行為の認定が確定した後は交付しない。 ● 調査段階の研究費の取扱いが困難な課題。どの段階で研究費の使用や、配分を停止するのか。不当な(悪意による)告発などの防止のためには、重要な課題。
● 研究費を止める、返還を求めるということは、研究そのものの中止を求めることを意味する場合もあり、また、大学院教育の中断を求めることをも意味する場合もあり、微妙な問題。余程しっかり確認しないと人権問題にもなりうる。
● 不正が認定されたものは助成は中止されるべき。
 2)不正行為に係る競争的資金の返還
 ○ 2に挙げられる不正行為の認定が確定した者に対して、未使用の研究費の返還や契約後まだ届いていない機器等の契約解除などを求めることが考えられる。
 ○ 競争的資金を詐取するために、応募する際の根拠論文に故意に不正を行ったり、研究の当初から不正行為を行うことを意図していた場合など悪質な場合は、不正行為の認定が確定した当該研究に係る競争的資金の全額の返還を求めることが考えられる。
● 額はともかく、場合によっては助成の返還もあり得る。
● 返還を命ずる法的根拠をどのように構成するのか、誰が返還する責任を負うのか、共同研究者も連帯して返還する責任を負うのか、返還された研究資金で購入した物品等の所有権は誰に帰属するのか。
● 研究者個人が最終的に返還の責任を負うとすると、場合によっては莫大な借金を負う危険があり、研究資金の申請や共同研究に加わらないなど研究者をさせかねない。
● 競争的資金を詐取するために応募する際の根拠論文に故意に不正を行うという部分について、問題とすべきは、論文の内容自体であり、その後その論文がどう使われたかということは、別の問題。
● 全額の返還についてはさまざまな疑問が山のようにある。法律をつくらないとのことだが、行政処分ということなのか。民間機関の場合にはあらかじめ契約でもしておかないと無理ではないか。
● 返還を求めるところまで考えるとすれば、それがいかなる条件を整えたら可能なのか、妥当なのかということもその場合には考える必要がある。
 3)競争的資金の申請制限
 ○ 2に挙げられる不正行為の認定が確定した者に対して、その悪質性に応じて一定期間(例えば1年間から10年間)の文部科学省所管のすべての競争的資金の申請を制限する。
 ○ 他省庁の競争的資金を活用した研究活動に不正があった研究者による文部科学省所管の競争的資金の申請については、申請制限を適用することでよいか(国費適正使用の観点。なお、不正使用・経理と同じ手法)。
 ○ (競争的資金を活用した研究活動の不正行為への対応が検討の対象であるが、考え方の整理のために以下のことも検討すべきであるか。)競争的資金を活用しない研究活動に不正行為があった研究者による競争的資金の申請については、国費適正使用のみの観点から申請制限は適用されないことでよいか。あるいは研究者倫理の観点から申請制限を適用した方がよいか。
(7)不正行為と認定されなかった場合の措置
1 被告発者の名誉回復・不利益回復措置
 ○ 大学・研究機関は、調査対象となった研究活動の停止等の調査の際とった措置を解除するとともに、不正行為でなかった旨を周知するなど名誉回復措置を講じる。文部科学省又は資金配分機関がとった研究費交付の保留などの措置を解除する。
2 悪意に基づく告発者に対する措置
 ○ 告発が悪意に基づくものであると認定された告発者に対しては、氏名や行為の内容を公表とともに、大学・研究機関が刑事告発したり、告発者の所属機関が懲戒処分などを行うことが求められる。 ● 悪意に基づく告発を受けた側からの機械損壊などの損害賠償権に関する基本的考え方も明確にすべき。
● 専門を同じくした研究者の間では、業績の評価などについてある程度のコンセンサスがあり、そのような情報を集積する工夫はあっても良いのではないか。ただし、その情報が悪意に満ちている可能性もあり、その情報に接触できる者を限定した上で、システム構築するなどの可能性はあるのではないか。

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科学技術・学術政策局政策課

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(科学技術・学術政策局政策課)