2 不正行為に対する基本的考え方

1 研究活動の本質

(1)研究活動とは

 研究活動とは、先人達が行った研究の諸業績を踏まえた上で、観察や実験等によって知りえた事実やデータを素材としつつ、自分自身の省察・発想・アイディア等に基づく新たな知見を創造し、知の体系を構築していく行為である。研究活動は、一般的には研究の立案・計画・実施・成果の取りまとめの各過程を経て行われるが、競争的資金等の支援を受ける場合は、これらに経費支援申請や経費支援者への報告が加わることになる。

(2)科学研究の意義

 科学研究には、研究者の自由な発想に基づく研究と政策目的などの一定の目的を達成するために明確な成果目標・目的を掲げて行う研究とがある。
前者の研究の中核である大学等を中心に行われている学術研究は、個々の研究者の自由な発想と知的好奇心・探究心に根ざした知的創造活動であり、優れた知的・文化的価値を有する。また、学術研究は人類共通の知的資産を築くものであり、その知的ストックは、人類の幸福、経済・社会の発展の源泉になるなど崇高な営みである。このような研究活動は次世代の価値を創造するという研究者の強い使命感に支えられている側面がある。
 後者の研究については、明確な成果目標や目的のもとに行われることから、社会の期待に対応しやすく、成果がわかりやすいことが多い。また、その成果は多くが直接的かつ比較的短期的に、経済や医療、安全などにつながる重要な活動である。
 これらの研究があいまって知の創造と蓄積が行われ、人類の幸福、経済・社会の発展を支えている。

2 研究成果の発表

 研究成果の発表とは、研究活動によって得られた成果を、客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ、研究者コミュニティに向かって公開し、その内容について吟味・批判を受けることである。科学研究による人類共通の知的資産の構築が健全に行われるには、研究活動に対する研究者の誠実さを前提とした、このような研究者間相互の吟味・批判によって成り立つチェックシステムが不可欠である。研究成果の発表は、このチェックシステムへの参入の意味を持つものであり、多くが論文発表という形で行われ、また、論文の書き方(データ・資料の開示、論理の展開、結論の提示等の仕方)に一定の作法が要求されるのはその表れである。

3 不正行為とは何か

 不正行為とは、研究者倫理に背馳し、上記1、2において、その本質ないし本来の趣旨を歪め、研究者コミュニティの正常な科学的コミュニケーションを妨げる行為に他ならない。具体的には、得られたデータや結果の捏造、改ざん、及び他者の研究成果等の盗用に加え、同じ研究成果の重複発表、論文著作者が適正に公表されない不適切なオーサーシップなどが不正行為の代表例と考えることができる。こうした行為は、研究の立案・計画・実施・成果の取りまとめの各過程(競争的資金等の支援を受ける場合は、この他に経費支援申請や経費支援者への報告がある。)においてなされる可能性がある。なお、科学的に適切な方法により正当に得られた研究成果が結果的に誤りであったとしても、それは不正行為には当たらない。

4 不正行為に対する基本姿勢

(1)不正行為に対する基本姿勢

 不正行為は、研究活動とその成果発表の本質に反するものであるという意味において、科学そのものに対する背信行為であり、また、人々の科学への信頼を揺るがし、科学の発展を妨げるものであることから、研究費の多寡や出所の如何を問わず絶対に許されない。また、不正行為は、研究者の科学者としての存在意義を自ら否定するものであり、自己破壊につながるものでもある。
これらのことを個々の研究者はもとより、研究者コミュニティや大学・研究機関、研究費の配分機関は理解して、不正行為に対して厳しい姿勢で臨まなければならない。

(2)知の品質管理

 不正行為の問題は、知の生産活動である研究活動における「知の品質管理」の問題として捉えることができる。すなわち、まず第一に各研究者自身がその研究成果を、偽りをまじえることなく研究者コミュニティの前に提示し、その精査を受けて、人類の知的資産となりうるものとする責任を負っている。その意味で、公表した研究成果に誤りがあることが判明した場合には、研究者自らこれを可能な限り速やかに研究者コミュニティに公表し、当該研究成果を取り下げることが必要である。さらに、公表した研究成果に不正行為が関わっていたことに気づいた場合に、当該研究成果を直ちに取り下げることも、その研究について責任ある立場にある者の義務といえる。
 このような研究者の自己規律を前提としつつ、研究者コミュニティは全体として、各研究者から公表された研究成果を厳正に吟味・評価することを通じて、人類共通の知的資産の蓄積過程に対して、品質管理を徹底していくという、極めて重い責務を遂行しなければならないのである。

5 研究者、研究者コミュニティ等の自律・自己規律

 不正行為に対する対応は、研究者の倫理と社会的責任の問題として、その防止とあわせ、まずは研究者自らの規律、並びに研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされなければならない。
 自律・自浄作用の強化は、例えば、大学で言えば研究室・教室単位から学科・専攻、さらに学部・研究科などあらゆるレベルにおいて重要な課題として認識されなければならない。
 その際、若い研究者を育てる指導者自身が、この自律・自己規律ということを理解し、若手研究者や学生にきちんと教育していくことが重要であり、このこと自体が指導者自身の自己規律でもある。このように指導者及び若い研究者、学生が自律・自己規律を理解することは、研究活動を通じた人材育成・教育を行う上での大前提になることをすべての研究者は心に銘記すべきである。

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