4 告発等に係る事案の調査

1 調査を行う機関

  1. 研究機関に所属する(どの研究機関にも所属していないが専ら特定の研究機関の施設・設備を使用して研究する場合を含む。以下同じ。)研究者に係る研究活動の不正行為の告発があった場合、原則として、当該研究機関が告発された事案の調査を行う。
  2. 被告発者が複数の研究機関に所属する場合、原則として被告発者が告発された事案に係る研究を主に行っていた研究機関を中心に、所属する複数の機関が合同で調査を行うものとする。ただし、中心となる機関や調査に参加する機関については、関係機関間において、事案の内容等を考慮して別の定めをすることができる。
  3. 被告発者が所属する研究機関と異なる研究機関で行った研究に係る告発があった場合、所属する研究機関と研究が行われた研究機関とが合同で、告発された事案の調査を行う。
  4. 被告発者が、告発された事案に係る研究を行っていた際に所属していた研究機関を既に離職している場合、現に所属する研究機関が、離職した研究機関と合同で、告発された事案の調査を行う。被告発者が離職後、どの研究機関にも所属していないときは、告発された事案に係る研究を行っていた際に所属していた研究機関が、告発された事案の調査を行う。
  5. 上記1から4によって、告発された事案の調査を行うこととなった研究機関は、被告発者が当該研究機関に現に所属しているかどうかにかかわらず、誠実に調査を行わなければならない。
  6. 被告発者が、調査開始のとき及び告発された研究を行っていたときの双方の時点でいかなる研究機関にも所属していなかった場合や、調査を行うべき研究機関による調査の実施が極めて困難であると、告発に係る研究に対する研究費を配分した資金配分機関が特に認めた場合は、当該研究機関の同意を得て、当該資金配分機関が調査を行う。この場合、当該研究機関は当該資金配分機関から協力を求められたときは、誠実に協力しなければならない。
  7. 研究機関は他の研究機関や学協会等の研究者コミュニティに、また、資金配分機関は告発された研究の分野に関連がある研究機関や学協会等の研究者コミュニティに、調査を委託することもしくは調査を実施する上での協力を求めることができる。このとき、3 3 1から3及び4は委託されたもしくは調査に協力する機関等に準用されるものとする。

2 告発等に対する調査体制・方法

 各研究機関等は、調査の具体的な進め方について、この項を参考に、各研究機関等の実情等に応じて適切に定めるものとする。

(1)予備調査

  1. 4 1によって調査を行う研究機関等(以下、「調査機関」という。)は、告発を受付けた後速やかに、告発された行為が行われた可能性、告発の際示された科学的合理的理由の論理性、告発された研究の公表から告発までの期間が、生データ、実験・観察ノート、実験試料・試薬など研究成果の事後の検証を可能とするものについての各研究分野の特性に応じた合理的な保存期間、あるいは被告発者が所属する研究機関が定める保存期間を超えるか否かなど告発内容の合理性、調査可能性等について予備調査を行う。調査機関は、以下(2)2の調査委員会を設置して予備調査に当たらせることができる。
  2. 告発等がなされる前に取り下げられた論文等に対する告発等に係る予備調査を行う場合は、取り下げに至った経緯・事情を含め、不正行為の問題として調査すべきものか否か調査し、判断するものとする。
  3. 調査機関は、予備調査の結果、告発がなされた事案が本格的な調査をすべきものと判断した場合、本調査を行う。調査機関は告発を受け付けた後、例えば概ね30日以内に本調査を行うか否か決定するものとする。
  4. 本調査を行わないことを決定した場合、その旨を理由とともに告発者に通知するものとする。この場合、調査機関は予備調査に係る資料等を保存し、資金配分機関や告発者の求めに応じ開示するものとする。

(2)本調査

1.通知・報告

ア)本調査を行うことを決定した場合、調査機関は、告発者及び被告発者に対し、本調査を行うことを通知し、調査への協力を求める。被告発者が調査機関以外の機関に所属している場合は、これに加え当該所属機関にも通知する。告発された事案の調査に当たっては、告発者が了承したときを除き、調査関係者以外の者や被告発者に告発者が特定されないよう周到に配慮する。
イ)調査機関が研究機関であるときは、研究機関は当該事案に係る研究に配分された競争的資金の配分機関に本調査を行う旨通知する。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は当該通知を文部科学省に報告する。
ウ)本調査は、実施の決定後相当の期間(例えば概ね30日)内に開始されるべきものとする。

2.調査体制

ア)調査機関は、本調査に当たっては、当該研究分野の研究者であって当該調査機関に属さない者を含む調査委員会を設置する。この調査委員は告発者及び被告発者と直接の利害関係(例えば、不正行為を指摘された研究が論文のとおりの成果を得ることにより特許や技術移転等に利害があるなど)を有しない者でなければならない。
イ)調査機関は、調査委員会を設置したときは、調査委員の氏名や所属を告発者及び被告発者に示すものとする。これに対し、告発者及び被告発者は、あらかじめ調査機関が定めた期間内に異議申立てをすることができる。異議申立てがあった場合、調査機関は内容を審査し、その内容が妥当であると判断したときは、当該異議申立てに係る委員を交代させるとともに、その旨を告発者及び被告発者に通知する。
ウ)調査委員会の調査機関内における位置づけについては、調査機関において定める。

3.調査方法・権限

ア)本調査は、指摘された当該研究に係る論文や実験・観察ノート、生データ等の各種資料の精査や、関係者のヒアリング、再実験の要請などにより行われる。この際、被告発者の弁明の聴取が行われなければならない。
イ)被告発者が調査委員会から再実験などにより再現性を示すことを求められた場合、あるいは自らの意思によりそれを申し出た場合は、それに要する期間及び機会(機器、経費等を含む。)が調査機関により保障されなければならない。ただし、被告発者により同じ内容の申し出が繰り返して行われた場合において、それが当該事案の引き延ばしを主な目的とすると、調査委員会が判断するときは、当該申し出を認めないことができる。
ウ)上記ア、イに関して、調査機関は調査委員会の調査権限について定め、関係者に周知する。この調査権限に基づく調査委員会の調査に対し、告発者及び被告発者などの関係者は誠実に協力しなければならない。また、調査機関以外の機関において調査がなされる場合、調査機関は当該機関に協力を要請する。協力を要請された機関は誠実に協力しなければならない。

4.調査の対象となる研究

調査の対象には、告発等に係る研究のほか、調査委員会の判断により調査に関連した被告発者の他の研究をも含めることができる。

5.証拠の保全措置

調査機関は本調査に当たって、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる。この場合、告発等に係る研究が行われた研究機関が調査機関となっていないときは、当該研究機関は調査機関の要請に応じ、告発等に係る研究に関して、証拠となるような資料等を保全する措置をとる。これらの措置に影響しない範囲内であれば、被告発者の研究活動を制限しない。

6.調査の中間報告

調査機関が研究機関であるときは、告発等に係る研究に対する資金を配分した機関の求めに応じ、調査の終了前であっても、調査の中間報告を当該資金配分機関に提出するものとする。

7.調査における研究または技術上の情報の保護

調査に当たっては、調査対象における公表前のデータ、論文等の研究または技術上秘密とすべき情報が、調査の遂行上必要な範囲外に漏洩することのないよう十分配慮する。

3 認定

(1)認定

  1. 調査委員会は本調査の開始後、相当の期間(例えば概ね150日)内に調査した内容をまとめ、不正行為が行われたか否か、不正行為と認定された場合はその内容、不正行為に関与した者とその関与の度合、不正行為と認定された研究に係る論文等の各著者の当該論文等及び当該研究における役割を認定する。
  2. 不正行為が行われなかったと認定される場合であって、調査を通じて告発が悪意に基づくものであることが判明したときは、調査委員会は、併せてその旨の認定を行うものとする。この認定を行うに当たっては、告発者に弁明の機会を与えなければならない。
  3. 1又は2について認定を終了したときは、調査委員会はただちにその設置者たる調査機関に報告する。

(2)不正行為の疑惑への説明責任

  1. 調査委員会の調査において、被告発者が告発に係る疑惑を晴らそうとする場合には、自己の責任において、当該研究が科学的に適正な方法と手続に則って行われたこと、論文等もそれに基づいて適切な表現で書かれたものであることを、科学的根拠を示して説明しなければならない。そのために再実験等を必要とするときには、その機会が保障される(4 2(2)3 イ)。
  2. 1の被告発者の説明において、被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬等の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により証拠を示せない場合は不正行為とみなされる。ただし、被告発者が善良な管理者の注意義務を履行していたにもかかわらず、その責によらない理由(例えば災害など)により、上記の基本的な要素を十分に示すことができなくなった場合等正当な理由があると認められる場合はこの限りではない。また、生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬などの不存在が、各研究分野の特性に応じた合理的な保存期間や被告発者が所属する、または告発等に係る研究を行っていたときに所属していた研究機関が定める保存期間を超えることによるものである場合についても同様とする。
  3. 上記1の説明責任の程度及び2の本来存在するべき基本的要素については、研究分野の特性に応じ、調査委員会の判断にゆだねられる。

(3)不正行為か否かの認定

 調査委員会は、上記(2)1により被告発者が行う説明を受けるとともに、調査によって得られた、物的・科学的証拠、証言、被告発者の自認等の諸証拠を総合的に判断して、不正行為か否かの認定を行う。証拠の証明力は、調査委員会の判断に委ねられるが、被告発者の研究体制、データチェックのなされ方など様々な点から故意性を判断することが重要である。なお、被告発者の自認を唯一の証拠として不正行為と認定することはできない。
 被告発者が自己の説明によって、不正行為であるとの疑いを覆すことができないときは、不正行為と認定される。また、被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により、不正行為であるとの疑いを覆すに足る証拠を示せないとき(上記(2)2)も同様とする。

(4)調査結果の通知及び報告

  1. 調査機関は、調査結果(認定を含む。以下同じ。)を速やかに告発者及び被告発者(被告発者以外で不正行為に関与したと認定された者を含む。以下4において同じ。)に通知する。被告発者が調査機関以外の機関に所属している場合は、これらに加え当該所属機関に当該調査結果を通知する。
  2. 調査機関が研究機関であるときは、当該研究機関は、1に加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に、当該調査結果を通知する。告発等がなされる前に取り下げられた論文等に係る調査で、不正行為があったと認定されたときは、取り下げなど研究者が自ら行った善後措置や、その措置をとるに至った経緯・事情等をこれに付すものとする(上記1の後段の場合も同様とする。)。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は当該調査結果を文部科学省に報告する。
  3. 文部科学省以外の資金配分機関が調査したときは、当該資金配分機関は文部科学省に報告する。
  4. 悪意に基づく告発との認定があった場合、調査機関は告発者の所属機関にも通知する。

(5)不服申立て

  1. 不正行為と認定された被告発者は、あらかじめ調査機関が定めた期間内に、調査機関に不服申立てをすることができる。ただし、その期間内であっても、同一理由による不服申立てを繰り返すことはできない。
  2. 告発が悪意に基づくものと認定された告発者(被告発者の不服申立ての審査の段階で悪意に基づく告発と認定された者を含む。この場合の認定については、上記(1)2を準用する。)は、その認定について、1の例により不服申立てをすることができる。
  3. 不服申立ての審査は調査委員会が行う。ただし、不服申立ての趣旨が、調査委員会の構成等、その公正性に関わるものである場合には、調査機関の判断により、調査委員会に代えて、他の者に審査させることができる。
  4. 不正行為があったと認定された場合に係る被告発者による不服申立てについて、調査委員会(3ただし書きの場合は、調査委員会に代わる者)は、不服申立ての趣旨、理由等を勘案し、当該事案の再調査を行うか否かを速やかに決定する。当該事案の再調査を行うまでもなく、不服申立てを却下すべきものと決定した場合には、ただちに調査機関に報告し、調査機関は被告発者に当該決定を通知する。このとき、当該不服申立てが当該事案の引き延ばしや認定に伴う各措置の先送りを主な目的とすると調査委員会が判断するときは、調査機関は以後の不服申立てを受付けないことができる。
     再調査を行う決定を行った場合には、調査委員会は被告発者に対し、先の調査結果を覆すに足る資料の提出等、当該事案の速やかな解決に向けて、再調査に協力することを求める。その協力が得られない場合には、再調査を行わず、審査を打ち切ることができる。その場合にはただちに調査機関に報告し、調査機関は被告発者に当該決定を通知する。
  5. 調査機関は、被告発者から不正行為の認定に係る不服申立てがあったときは、告発者に通知する。調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。不服申立ての却下及び再調査開始の決定をしたときも同様とする。
  6. 調査委員会が再調査を開始した場合は、相当の期間(例えば概ね50日)内に、先の調査結果を覆すか否かを決定し、その結果をただちに調査機関に報告し、調査機関は当該結果を被告発者、被告発者が所属する機関及び告発者に通知する。調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は文部科学省に当該審査結果を報告する。
     調査機関が文部科学省以外の資金配分機関であるときは、その結果を被告発者、被告発者が所属する機関及び告発者に通知し、加えて文部科学省に報告する。
  7. 悪意に基づく告発と認定された告発者から不服申立てがあった場合、調査機関は、告発者が所属する機関及び被告発者に通知する。調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。
  8. 7の不服申立てについては、調査委員会(3ただし書きの場合は、調査委員会に代わる者)は相当の期間(例えば概ね30日)内に再調査を行い、その結果を調査機関に報告するものとする。調査機関は、この審査の結果を告発者、告発者が所属する機関及び被告発者に通知する。
     調査機関が研究機関であるときは、加えて当該事案に係る研究に対する資金を配分した機関に通知する。当該資金配分機関が文部科学省でないときは、当該資金配分機関は当該審査結果を文部科学省に報告する。
     調査機関が文部科学省以外の資金配分機関であるときは、その結果を告発者、告発者が所属する機関及び被告発者に通知し、加えて文部科学省に報告する。

(6)調査資料の提出

 資金配分機関は、調査機関に対して事案の調査が継続中であっても、当該事案に係る資料の提出または閲覧を求めることができる。調査機関は、調査に支障がある等、正当な事由がある場合には、これを拒むことができる。資金配分機関は、提出された資料について、下記5及び6のために使用する他に使用してはならない。

(7)調査結果の公表

  1. 調査機関は、不正行為が行われたとの認定があった場合は、速やかに調査結果を公表する。公表する内容には、少なくとも不正行為に関与した者の氏名・所属、不正行為の内容、調査機関が公表時までに行った措置の内容に加え、調査委員の氏名・所属、調査の方法・手順等が含まれるものとする。ただし、告発等がなされる前に取り下げられた論文等において不正行為があったと認定されたときは、不正行為に係る者の氏名・所属を公表しないことができる。
  2. 調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。ただし、公表までに調査事案が外部に漏洩していた場合及び論文等に故意によるものでない誤りがあった場合は、調査結果を公表する。公表する場合、その内容には、不正行為は行われなかったこと(論文等に故意によるものでない誤りがあった場合はそのことも含む。)、被告発者の氏名・所属に加え、調査委員の氏名・所属、調査の方法・手順等が含まれる。悪意に基づく告発の認定があったときは、告発者の氏名・所属を併せて公表する。

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科学技術・学術政策局政策課

(科学技術・学術政策局政策課)