第3章 科学技術システム改革

1.人材の育成、確保、活躍の促進

 日本の科学技術の将来や国際競争力の維持・強化は、我が国に育まれ、活躍する「人」の力如何にかかっており、新しい時代に的確に対応する機関において若手研究者や女性研究者、更には外国人研究者、優れた高齢研究者などの多様多才な個々人が意欲と能力を発揮できる環境を形成するとともに、初等中等教育段階から研究者育成まで一貫した総合的な人材育成施策を講じ、少子高齢化が進展する中で、人材の質と量を確保する。

(1)個々の人材が活きる環境の形成

1.公正で透明性の高い人事システムの徹底

 自由な創意工夫により新たな価値を生み出すためには、人事における健全な競争の促進と公正さの担保が必要であり、我が国の科学技術活動において人材の競争性・流動性・多様性を高めることを原則とし、能力主義に基づく公正で透明性の高い人事システムを広く徹底させる。
 具体的には、研究者の採用において、公募等の開かれた形で幅広く候補者を求め、性別、年齢、国籍等を問わない競争的な選考を行う。また、研究者の処遇において、能力や業績の公正な評価の上で、優れた努力に積極的に報いる。
 大学や公的研究機関は、それぞれの特性を踏まえつつ、人事システムを自己点検評価に適切に位置付け、改革・改善を実施することが求められる。また、大学や公的研究機関について実施する第三者評価においても、人事システムの改革・改善が徹底されるよう適切に対応することが望まれる。さらに、国は、組織に対する競争的な支援制度において、制度の趣旨に応じ人事システム改革の状況を審査の一指標とすること等により、大学や公的研究機関の取組を促進する。

2.若手研究者の自立支援

 公正で透明な人事評価に基づく競争性の下、若手研究者に自立性と活躍の機会を与えることを通じて、活力ある研究環境の形成を指向することとし、特に、世界的研究教育拠点を目指す大学等においては、人材の流動性向上、分野の事情等に配慮しつつ、テニュア・トラック制(若手研究者が、厳格な審査を経てより安定的な職を得る前に、任期付きの雇用形態で、自立した研究者としての経験を積むことができる仕組み)をはじめ、若手研究者に自立性と活躍の機会を与える仕組みを導入することを奨励する。また、大学においては、若手研究者の活躍を一層促進するため、助教の確保と活躍の場の整備がなされることが望まれる。
 国は、このための環境整備(スタートアップ資金の提供、研究支援体制の充実、研究スペースの確保等)に組織的に取り組む大学等を支援するとともに、大学等の取組状況を組織に対する競争的な支援制度の審査の一指標とする。また、若手研究者が研究スペースを確保できるような大学の施設マネジメントを促進する。
 さらに、競争的資金の拡充を目指す中で、若手研究者を対象とした支援を重点的に拡充するとともに、競争的資金全般における若手研究者の積極的な申請を奨励する。その際、スタートアップ時期に配慮したプログラムの設置や、若手研究者自らが研究組織を率いて研究を遂行できる金額が支給されるプログラムの拡充に配慮する。これらの取組を通じて、若手研究者への研究資金配分を相当程度高めることを目指す。

 なお、ポストドクター等1万人支援計画が達成され、ポストドクターは今や我が国の研究活動の活発な展開に大きく寄与しているが、ポストドクター後のキャリアパスが不透明であるとの指摘がある。このため、研究者を志すポストドクターは自立して研究が行える若手研究者の前段階と位置付け、若手研究者の採用過程の透明化や自立支援を推進する中でポストドクター支援を行う。また、ポストドクターに対するアカデミックな研究職以外の進路も含めたキャリアサポートを推進するため、大学や公的研究機関の取組を促進するとともに、民間企業等とポストドクターの接する機会の充実を図る。
 また、若手研究者やポストドクターの時期から国際経験を積み海外研究者と切磋琢磨できるよう、海外の優れた研究機関での研究機会や海外研究者との交流機会を拡大すべく引き続き施策の充実を図る。

3.人材の流動性の向上

 研究者の流動性を向上し活力ある研究環境を形成する観点から、大学及び公的研究機関は任期制の広範な定着に引き続き努める。また、任期付きの職を経てより安定的な職に就いた場合には、落ち着いて研究活動等に専念することが期待されるが、その活動の活性化を維持するため、例えば、再任可能な任期制や、適性や資質・能力の審査を定期的に行う再審制による雇用を行うことを奨励する。任期制の拡大に当たっては、分野により事情は異なるものの、民間も含めた研究者全体として流動性が高まっていくことが必要であるため、例えば、複数の大学が同時に任期制へ移行することや、民間の研究機関における流動性の向上などが望まれる。
 また、研究者をより安定的な職に就ける際には、出身大学学部卒業後に、大学等の機関又は専攻を、公正で透明性ある人事システムの下で少なくとも1回変更した者を、選考することが望ましい(「若手一回異動の原則」の奨励)。

4.自校出身者比率の抑制

 多様な人材が互いに知的触発を受けながら、創造性を発揮し切磋琢磨する研究環境を形成することは、新しい研究領域の創生や研究組織の活力を保つためには不可欠である。このことに鑑みれば、真に優秀な人材を公正にかつ透明性を持って採用した結果として教員の自校出身者比率(自校学部出身者比率)が高くなることがありうるとしても、それが過度に高いことは、概して言えば望ましいことではない。このため、各大学においては教員の自校出身者比率に十分な注意を払うとともに、その比率が過度に高い大学にあってはその低減が図られることを期待する。国は、各大学の教員の職階別の自校出身者比率を公表する。

5.多様で優れた研究者の活躍の促進

 人口減少が見込まれ、少子高齢化が進展する中で、優秀な研究者の確保や多様性の向上によって、我が国の研究活動に広がりや活力を与えるという観点から、女性研究者や外国人研究者等がその能力を最大限発揮し活躍することを促進する。

(女性研究者の活躍促進)

 女性研究者がその能力を最大限に発揮できるようにするため、男女共同参画の観点も踏まえ、競争的資金等の受給において出産・育児等に伴う一定期間の中断や期間延長を認めるなど、女性研究者の活動に配慮した措置を拡充する。
 大学や公的研究機関等においては、次世代育成支援対策推進法に基づき策定・実施する行動計画に、研究と出産・育児等の両立支援を規定し、環境整備のみならず意識改革を含めた取組を着実に実施することが求められる。国は、他のモデルとなるような取組を行う研究機関に対する支援等を行う。
 大学や公的研究機関は、多様で優れた研究者の活躍を促進する観点から、女性研究者の候補を広く求めた上で、公正な選考により積極的に採用することが望まれる。また、採用のみならず、昇進・昇格や意思決定機関等への参画においても、女性研究者を積極的に登用することが望ましい。
 女性研究者の割合については、各機関や専攻等の組織毎に、目標や理念、女性研究者の実態が異なるが、当該分野の博士課程(後期)における女性の割合等を踏まえつつ、各組織毎に女性の採用の数値目標を設定し、その目標達成に向けて努力するとともに達成状況を公開するなど、女性研究者の積極的採用を進めるための取組がなされることを期待する。現在の博士課程(後期)における女性の割合に鑑みると、期待される女性研究者の採用目標は、自然科学系全体としては25パーセント(理学系20パーセント、工学系15パーセント、農学系30パーセント、保健系30パーセント)である。
 国は、各大学や公的研究機関における女性研究者の活躍促進に係る取組状況や女性研究者の職階別の割合等を把握し、公表する。
 さらに、理数好きの子どもの裾野を広げる取組の中で、女子の興味・関心の喚起・向上にも資する取組を強化するとともに、女性が科学技術分野に進む上での参考となる身近な事例やロールモデル等の情報提供を推進する。

(外国人研究者の活躍促進)

 科学技術活動においては、世界一流の研究者をはじめとする優秀な人材が、国籍を問わず数多く日本の研究社会に集まり、活躍できるようにする必要がある。
 大学や公的研究機関において、優れた外国人研究者の招へい・登用を促進するため、国は、研究環境のみならず住宅確保等の生活環境にも配慮した組織的な受入体制の構築を支援する。また、世界的研究教育拠点を目指す大学や公的研究機関は、外国人研究者の活躍促進を図るための行動計画を策定することが期待され、国は、その取組状況を把握し、公表する。
 さらに、外国人研究者の受入れの円滑化を図るため、出入国管理制度や査証発給のあり方に係る必要な見直しや運用改善等を一層推進する。外国人研究者の住宅確保等については、大学や公的研究機関と地方公共団体等との連携により外国人研究者の身元保証を行うこと等の充実が期待される。
 一方、優れた外国人留学生の我が国への定着に資するため、我が国で博士号を取得した留学生が外国人ポストドクター招へい制度に円滑に応募できるよう運用改善を行う。
 なお、大学や公的研究機関は、研究者の採用の際、英語での告知を徹底し英語での応募を認めるなど、外国人研究者が応募しやすい環境を整備することが期待される。

(優れた高齢研究者の能力の活用)

 研究活動において年功主義を残し、能力主義を徹底しないまま安易に雇用期間の延長等を行うことは、若手研究者の登用の機会を奪い、研究現場の活力を失わせる恐れがある。
 一方、国際的に見て真に優秀と認められる研究者が年齢を問わず活躍し成果をあげていくことは、我が国の科学技術水準の向上にとって重要であり、定年後も競争的資金や外部資金等の活用により何らかの形で研究を継続できるよう、大学に促す。また、定年後の研究者が、研究職以外の立場で広く科学技術振興のため活躍できるよう、その能力や知見を十分活かす取組を促進する。

(2)大学における人材育成機能の強化

1.大学における人材育成

 知の創造と活用において、創造性豊かで国際的にリーダーシップを発揮できる広い視野と柔軟な発想を持つ人材を育成するため、その要である大学における人材育成機能の強化を推進する。
 各大学の学部段階では、それぞれの個性・特色を明確化し、教養教育の充実とともに教養教育と専門教育の有機的連携を確保した多様で質の高い教育の展開が期待される。その際、課題探求能力の育成を重視し、主専攻・副専攻を組み合わせた特色あるカリキュラムの構築や、実践との関わりから深く学ばせる教育方法の導入など、確実な基礎の上に広い視野と柔軟な思考力を培う教育が望まれる。
 また、各大学は、教員の教育・研究指導能力の向上に努めるとともに、研究活動に関する評価のみならず、教育活動に関する評価を積極的に導入することが期待される。

2.大学院教育の抜本的強化

 これまでの大学院の整備により10年間で大学院生数は2倍を超える伸びを示すなど量的な整備は順調に行われてきたが、今後は、大学院教育の質の抜本的強化に取り組む。
 各大学院において、課題探求能力の育成を重視した教育を基礎として、高い専門性と広い視野を得られる大学院教育を目指し、高度の専門的知識の修得に加え関連する分野の基礎的素養の涵養を図り、学際的な分野への対応能力を含めた専門的知識を活用・応用する能力を培う教育が望まれる。
 また、各大学院において、教育の課程を編成する基本となる単位の専攻組織のレベルで、社会ニーズを汲み取りつつ自らの課程の目的を明確化した上で、体系的な教育プログラムを編成して学位授与へと導くプロセス管理を徹底していけるよう、教育の課程の組織的展開の強化を図ることに焦点を当てた改革を進める。国は、魅力ある大学院教育の組織的取組への競争的・重点的な支援制度を本格的に展開するとともに、優れた取組の事例を広く社会に情報提供し大学院教育の改善に供する。

3.大学院教育の改革に係る取組計画の策定

 大学院教育の改革に当たっては、世界的拠点の形成、大学院評価の確立、財政基盤の充実等も含めた総合的な取組が必要であり、国は、中央教育審議会の意見を踏まえ、大学院における今後5ヵ年程度の体系的・集中的な取組計画(大学院教育振興プラットフォーム(仮称))を策定し、これに基づいた施策展開を図る。この計画は、教育の体系的位置付けを踏まえた大学院の構造改革の一環として策定されるべきものであるが、高度な科学技術関係人材育成の中核機関であり研究活動の主要な担い手でもある大学院は科学技術の振興の重要な基盤をなすことから、科学技術基本計画との整合性にも留意して策定する。

4.博士課程在学者への経済的支援の拡充

 優れた資質や能力を有する人材が、博士課程(後期)進学に伴う経済的負担を過度に懸念することなく進学できるようにすることは、優れた研究者を確保する観点から必要であるとともに、博士号取得者の多様なキャリアパスの拡大に資する。
 このため、大学院生の約4割が生活費相当分の支援を受けているとされる米国を参考とし、博士課程(後期)在学者を対象とした経済的支援を拡充する。具体的には、優秀な人材を選抜するという競争性を十分確保しつつ、フェローシップの拡充や競争的資金におけるリサーチアシスタント等としての支給の拡大等により、博士課程(後期)在学者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す。また、人材育成の観点からも重要な役割を果たすことが期待される奨学金貸与事業については、各大学からの適切な推薦に基づき、特に優れた業績をあげた者に対して返還免除を行う制度の効果的な運用を推進する。さらに、個々の学生が進路選択に当たり、博士課程(後期)受験前など可能な限り早い時期に、経済的支援が受けられるか否かを判断しうるよう適切な措置を講じる。

(3)社会のニーズに応える人材の育成

1.産学が協働した人材育成

 大学や大学院における教育の質の向上は、産業界にとって直接の恩恵をもたらし、また、大学教育よりも採用後の社内教育を重視する人材育成の自前主義には限界が存在することから、今後はこれまで以上に、産学が協力関係を築いて人材の育成に取り組むことが必要である。
 このため、工学系を中心に、産学が協働して新たに大学院段階における単位認定を前提とした質の高い長期のインターンシップ体系を構築することを支援し、その普及を促進する。また、大学を拠点とした産学協働による教育プログラムの開発・実施や、産業界との共同研究等に大学院生やポストドクターが指導教員の適切な指導・監督のもと一定の責任を伴って参画する機会の拡充等を進める。
 このような取組や産学の直接の対話を通じて、今後、産業界においては、大学や大学院に対する自らのニーズを具体化することが求められ、大学や大学院においては、そのようなニーズを的確に踏まえた教育プログラム等の不断の改善が求められる。

2.博士号取得者の産業界等での活躍促進

 博士号取得者は、社会の多様な場で、高度な知識基盤社会をリードし、支え、活躍すべき存在であるとの観点から、大学院教育の改革や人材育成面での産学連携を推進し、社会の多様な場で活躍しうる博士号取得者の育成を強化する。産業界においては、優れた博士号取得者に対し、弾力的で一律でない処遇を積極的に講じることが求められる。
 また、学生はもとより、大学、産業界等が、博士号取得者はアカデミックな研究職のみならず社会の多様な場で活躍することが望ましいとの共通認識を持つことを期待する。
 なお、各大学が、博士課程修了者の進路等の情報を把握し自らの教育の質の向上に活かすことが極めて重要であるため、各大学がこれら情報の継続的な把握に努めることが望まれる。

3.知の活用や社会還元を担う多様な人材の養成

(知的財産・技術経営等に係る人材の養成)

 科学技術の成果を知的財産として戦略的に取得・活用できる人材や、技術と経営の双方を理解し研究開発を効果的に市場価値に結実させる人材など、我が国のイノベーション創出を支える人材が質・量ともに求められており、知的財産や技術経営教育等に係る各大学等の自主的な取組を促進する。特に、我が国の経済社会を牽引する高度で専門的な職業能力を持つ人材を養成する観点から、専門職大学院の教育の質的向上を支援する。

(科学技術コミュニケーターの養成)

 科学技術を一般国民に分かりやすく伝え、あるいは社会の問題意識を研究者・技術者の側にフィードバックするなど、研究者・技術者と社会との間のコミュニケーションを促進する役割を担う人材の養成や活躍を、地域レベルを含め推進する。具体的には、科学技術コミュニケーターを養成し、研究者のアウトリーチ活動の推進、科学館における展示企画者や解説者等の活躍の促進、国や公的研究機関の研究費や研究開発プロジェクトにおける科学技術コミュニケーション活動のための支出の確保等により、職業としても活躍できる場を創出・拡大する。

(新たなニーズに対応した人材養成)

 ソフトウェア・セキュリティ技術等の情報通信分野、新興・再興感染症・テロリズム対策等の社会の安全に資する科学技術分野、デジタルコンテンツの創造等の自然科学と人文・社会科学との融合分野など社会のニーズが顕在化している分野や、バイオインフォマティクス、ナノテクノロジーなど急速に発展している分野において、機動的な人材の養成・確保を推進する。

(技術者の養成)

 我が国の技術基盤を支え高い専門能力を有する技術者は、我が国が高い付加価値を創造するものづくりや技術に立脚した持続的な発展を遂げていく上で、重要な役割を果たしている。しかし、近年、熟練した技術者の高齢化や若年層のものづくり離れといった問題が懸念されるとともに、製造分野においてはアジア諸国の台頭を含めた国際競争が激化しており、特に2007年以降は団塊世代が順次定年を迎えていくことから、製造現場や建設現場などにおいて、団塊世代が有する知識やノウハウによって培われてきた製造中核技術を維持・確保していくための技術者の養成が喫緊の課題となっている。
 このため、民間企業においては、製造現場等で必要とされるものづくり人材や高い付加価値を創造するものづくり人材の確保のために、人材投資促進税制などの制度を活用した積極的な人材養成を進めるとともに、関連する産業群が一体となり、学校における教育とも連携を取りながら、卓越した技能を持ちながら定年を迎える人材の活用等により、円滑な技能の継承・普及を図ることが期待される。国は、設計・製造プロセスに係る要素技術や過去の事例等を、知識あるいはデータとして整理し広く提供することにより、技術者の知的生産活動を支援する。
 大学、高等専門学校、専修学校等においては、将来のものづくり人材を含めた技術者養成のための実践的教育を進める。また、技術士等の技術者資格制度の普及拡大と活用促進を図るとともに、社会人の学習意欲の高まりに対応した再教育の機会を一層充実するため、様々な主体による技術者の継続的能力開発システムの構築、インターネット上での学習が可能な教材の開発・提供、社会人の大学院等への進学・再入学等を促進する。
 また、小・中・高等学校や社会教育施設等におけるものづくりに関する体験的な学習等の充実など、ものづくり技術に係る学習の振興を図るとともに、工業高校や高等専門学校等において地域の企業等と連携した取組を進める。

(4)次代の科学技術を担う人材の裾野の拡大

1.知的好奇心に溢れた子どもの育成

 理科や数学が好きな子どもの裾野を広げ、知的好奇心に溢れた子どもを育成するには、初等中等教育段階から子どもが科学技術に親しみ、学ぶ環境が形成される必要がある。
 このため、優れた研究者等が学校に出向いて子どもや親に語るなど、研究者等の顔が子どもに見える機会を拡大するとともに、意欲ある教員・ボランティアの取組や大学・公的研究機関・企業・科学館・博物館等と学校の連携を支援することで、観察・実験等の体験的・問題解決的な学習の機会を充実する。不足や老朽化が著しい小・中・高等学校等の実験器具等の設備については、その充実・更新を積極的に進める。さらに、子どもが分かりやすいデジタル教材・番組の開発・提供を進めるとともに、様々な主体による科学技術コンテスト等の開催を促進する。
 また、高度・先端的な内容の理科・数学等の教科を分かりやすく教え、魅力ある授業を行うことができる教員の養成と資質向上のため、教員養成系大学を中心として、大学における教職課程の教育内容・方法の見直しと充実を図る。さらに、教員の専修免許状の取得のための取組を推進するとともに、高い専門性と実践的な指導力を発揮できる教員の養成を行うことができるよう、教員養成における専門職大学院制度の活用やそのあり方を検討する。また、幼稚園から高等学校に至る教員養成系大学附属学校において、教育内容・方法について大学の研究成果を取り入れた理数教育を行うなど、大学と連携した実践的な取組を継続的に実施する。

2.才能ある子どもの個性・能力の伸長

 効果的な理数教育を通じて理科や数学に興味・関心の高い子どもの個性・能力を伸ばし、科学技術分野において卓越した人材を育成していく必要があり、理数教育を重視する高等学校等に対する支援制度を拡充するとともに、才能ある子どもの各種の国際科学技術コンテスト等への参加を促進する。
 また、大学入学者選抜の影響に関わらず才能ある児童生徒の個性・能力の伸長を図ることができるよう、高等学校と大学の接続、いわゆる高大接続の改善を進める。具体的には、高等学校段階において顕著な実績をあげた生徒がアドミッション・オフィス(AO)入試等の方式により適切な評価が得られるようにすることや、大学の協力を得ながら科学技術関係人材育成のための特別な教育課程を高等学校が編成すること、さらには、高校生を科目等履修生などとして大学に受け入れたり大学の教員が高等学校に出向いて授業を行うなど高校生が大学レベルの教育研究に触れる機会を提供する取組を行うことなど、工夫・改善を促進する。

2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

 科学技術に関する資源を効果的に機能させ、科学の発展によって知的・文化的価値を創出するとともに、研究開発の成果をイノベーションを通じて社会的・経済的価値として発現させる努力を強化し、社会・国民に成果を還元する科学技術を目指す。その際、研究開発システムの改革のみならず、円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消に取り組むことが重要である。

(1)競争的環境の醸成

 競争的資金については、第2期基本計画において目指すこととされていた倍増には至らなかったものの、その拡充が相当程度進むとともに、制度改革の進捗ともあいまって、競争的環境の醸成に向けた取組には着実な進展があった。今後、より多様な局面で競争原理を働かせることにより研究活動を活性化させるためには、更なる取組を進める必要がある。

1.競争的資金及び間接経費の拡充

 研究者の研究費の選択の幅と自由度を拡大し、競争的な研究開発環境の形成に貢献する科学研究費補助金等の競争的資金は、引き続き拡充を目指す。競争的資金を獲得した研究者の属する機関に対して研究費の一定比率が配分される間接経費については、全ての制度において、30パーセントの措置をできるだけ早期に実現する。
 間接経費は、研究の実施に伴う研究機関の管理等に必要となる経費に充てるものであり、機関の自主的判断のもと活用されることが基本であるが、その中でも、競争的資金を獲得した研究者の属する部局等の研究環境の整備や、当該研究者に対する経済面での処遇、研究者による円滑な申請等を支援する事務体制の強化などに活用することが期待される。

2.組織における競争的環境の醸成

(競争による研究活動の活性化)

 競争的資金は、研究者間の競争促進はもちろん、間接経費の措置により、研究者の属する組織間の競争を促す効果を持つ。これにあわせて、人材に係る競争性・流動性を高め、大学等の人材確保に係る競争を促進することも必要であり、これらがあいまって、研究活動の一層の活性化が期待される。
 世界一流の研究機関で行われているように我が国においても、大学等は、魅力ある研究環境の構築や研究者の処遇に努めることにより優秀な研究者を確保しつつ、これら優秀な研究者が獲得する競争的資金の間接経費等を研究環境の改善等に充当し、優秀な研究者を惹きつけるという好循環が形成されることが望まれる。

(大学における基盤的資金と競争的資金の有効な組合せ)

 我が国の大学においては、基盤的資金(国立大学法人運営費交付金、施設整備費補助金、私学助成)が教育研究の基盤となる組織の存立(人材の確保、教育研究環境の整備等)を支えることに重要な役割を果たすとともに、競争的資金が多様な優れた研究計画を支援するという研究体制が構築されている。このように、基盤的資金と競争的資金にはそれぞれ固有の機能があり、それぞれ重要な役割を果たしている。
 このため、政府研究開発投資全体の拡充を図る中で、基盤的資金と競争的資金の有効な組合せを検討する。
 なお、国立大学法人運営費交付金は、その全てが各大学の教員数等に比例して配分されるべきものではなく、また配分された経費については各大学の自主的・自律的な学内配分を尊重しつつ、学長裁量配分なども含め、競争的環境の醸成等の観点に立って、競争的資金や外部資金とあいまって最も効果的・効率的に活用されることが重要であり、国はこのような取組を促進する。

3.競争的資金に係る制度改革の推進

 各競争的資金制度の効果を最大限に発揮させるため、それぞれの制度の趣旨や目的を明確化するとともに、研究費の規模、研究期間、研究体制、評価方法、推進方策等が、その制度の趣旨に応じ最適化されるよう、制度改革を進める。

(公正で透明性の高い審査体制の確立)

 競争的資金の配分に当たっては、研究者の地位や肩書きによらず、申請内容と実施能力を重視した公正で透明性の高い研究課題の審査が不可欠であり、審査体制の抜本的強化に取り組む。各制度においては、審査業務の合理化を図りつつ、審査員の増員、研究計画書の充実、審査基準の見直し等の改革を進める。特に審査員の増員については、研究者コミュニティが自らの責務として積極的に協力することを期待する。また、各制度においては、多様な観点からの審査による公正さを担保するため、若手研究者や外国人研究者などを審査員に登用するよう努める。

(審査結果のフィードバック)

 審査結果の内容や審査の際の意見等をできる限り詳細に申請者に伝えることは、審査の透明性を確保し研究の質を向上させるとともに、若手研究者をはじめとする研究者の資質向上に寄与すると考えられ、競争的資金に係る各制度において、審査結果が研究者に適切にフィードバックされるよう、その詳細な開示を推進する。

(配分機関の機能強化)

 競争的資金の配分機能を独立した配分機関へ移行させることを基本とし、方針が定まっている制度は着実な移行を進めるとともに、方針が定まっていない制度は実態を勘案しつつ早期に結論を得て適切に対応する。
 各制度を支えるプログラムオフィサー(PO)、プログラムディレクター(PD)について、制度の規模に見合う人数で、これらの職に適切な資質を備えた者を確保できるよう、処遇に配慮する。また、大型の制度を中心として、できるだけ早期にPO・PDを専任へ転換していく。さらに、PO・PDが研究者のキャリアパスの一つとして位置付けられるよう、研究者コミュニティ全体が、PO・PDの職務経験を適切に評価することを期待する。
 配分機関においては、PO・PDのみならず、その活動を支援するための調査分析機能や、審査・交付・管理等に係る実務機能の充実・強化が不可欠であり、競争的資金の一定割合を確保すること等により、着実にその体制整備を行う。また、配分機関において、海外研修、国 内セミナー等を充実させ、優秀なPO・PDの養成に努める。
 なお、競争的資金の配分に当たっては、年度間繰越や年複数回申請など競争的資金の効率的・弾力的運用を可能とするため、競争的資金の趣旨・目的を考慮しつつ適切に予算措置を講じる必要がある。

(2)大学の競争力の強化

 新たな知の創造と活用が格段に重要性を増す時代においては、大学の国際競争力の強化が極めて重要であり、世界の科学技術をリードする大学を形成する。また、地域における大学も含め、国公私立を問わず、個々の大学が、その個性・特色を活かして競争力を強化していくことが不可欠な時代になっている。このような認識の下、教育研究の基盤を支える基盤的資金は確実に措置する。

1.世界の科学技術をリードする大学の形成

 国際競争力のある大学づくりは、大学間の健全な競争なしには成し遂げられない。このため、国公私立を問わず、大学における競争的環境の醸成や人材の流動性の向上等を一層推進する。
 また、世界に伍し、さらには世界の科学技術をリードする大学づくりを積極的に展開するため、世界トップクラスの研究教育拠点を目指す組織に対して、競争原理の下での重点投資を一層強力に推進する。
 現在、国公私立大学を通じた大学の構造改革の一環として、21世紀COEプログラムが展開されているが、この評価・検証を踏まえた上で重点化を図り、より充実・発展した形で更なる展開を図っていくことが適当である。その際、大学の本来的使命としての優れた研究者育成機能の活性化や基礎研究水準の向上等の視点を確保することが重要であり、特定の研究領域等に偏するのではなく、基礎研究の多様性の確保や新興領域の創生等の観点から、幅広い学問分野を範囲とするとの基本的な考え方は維持することが適当である。
 このような基礎研究の多様性の確保等を旨とする施策を展開する一方、イノベーション創出に向けては、世界を先導しうる研究領域を生み出すとの視点から、産業界の協力も得ながら、特定の先端的な研究領域に着目して研究教育拠点の形成のための重点投資を行うことも極めて有効であり、その具体化を図る。
 これらの取組等を通じて、我が国の大学において、研究活動に関する各種評価指標により、世界トップクラスとして位置付けられる研究拠点、例えば、分野別の論文引用数20位以内の拠点が、結果として30拠点程度形成されることを目指す。

2.個性・特色を活かした大学の活性化

(地域に開かれた大学の育成)

 地域における大学は、国公私立を問わず地域にとって重要な知的・人的資源であり、地域に開かれた存在として地域全体の発展に一層寄与すべきである。また、地方公共団体等は、このような大学をパートナーとして捉え活用していくことが地域再生に不可欠と認識し、積極的に支援していくことが期待される。例えば、地場産業・伝統産業の技術課題や新技術創出に大学が取り組む地域貢献型の産学連携や、それら産業と連携した人材育成の推進など、地域が大学と連携し、国の支援とがあいまって、地域の大学を核とした知識・人材の創出と地域活力の好循環を形成していくことが望ましい。
 地域の大学の活性化・活用による地域再生の一環として、文部科学省、地域再生本部、総合科学技術会議等が連携し、大学と連携した地域の自主的な取組に対する支援措置や環境整備を盛り込んだ「地域の知の拠点再生プログラム(仮称)」を推進する。

(私立大学の研究教育機能の活用)

 私立大学は、これまでも独自の建学の精神に基づき、多様で特色ある教育研究活動を展開してきたところであり、国としても私立大学の有する人材育成機能、研究機能を一層活かしていくことが、我が国全体の科学技術の水準向上や多様性の確保の観点から不可欠である。一方、世界的研究教育拠点を目指す私立大学であっても、その研究環境が人的にも施設・設備的にも国立大学に比して不十分なところもあり、これを改善していく必要がある。
 このため、このような私立大学については、研究機能を強化する観点から重点的に助成の充実を図るとともに、競争的資金の運用に当たって、まず全ての制度について間接経費30パーセントの措置をできるだけ早期に実現した後、さらに私立大学に対する間接経費を優遇するなど私立大学への配慮に努める。また、多様な民間資金の導入を促進するための所要の条件整備を行う。

(3)イノベーションを生み出すシステムの強化

 大学や公的研究機関等で生み出される優れた基礎研究の成果をはじめとする革新的な研究開発の成果をイノベーションに次々と効果的につなげていくため、産学官が一体となって、我が国の潜在力を最大限発揮させるべく、イノベーションを生み出すシステムを強化する。

1.研究開発の発展段階に応じた多様な研究費制度の整備

 研究開発の発展段階や特性に応じて、各研究費制度の趣旨、期待する成果、評価方法、推進方策等を一層明確化し、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの多様な制度を適切に整備・運用する。

(基礎研究におけるハイリスク研究への取組)

 これまでの競争的資金制度の改革等により、基礎研究を支える制度は質・量ともに充実しつつあり、研究水準は着実に向上している。基礎研究を支える競争的資金制度においては、いわゆるピアレビュー審査が基本であり、その改善を徹底する。
 一方で、ピアレビュー審査を画一的に運用するのみでは、ハイリスク研究(研究者の斬新なアイディアに基づく革新性の高い成果を生み出しうる研究)は見出しにくい恐れがある。このため、基礎研究を支える制度の一部において、研究者個人のアイディアの独創性や可能性を見極めて柔軟に課題選定を行う仕組みを設けることなどにより、ハイリスク研究に配慮する。

(イノベーション創出を狙う競争的研究の強化)

 社会・国民への成果還元を進める観点から、基礎研究で生み出された科学的発見や技術的発明が、単に論文に留まることなく社会的・経済的価値創造に結びついていくよう、革新的技術を生み出すことに挑戦する研究開発を今後強化する必要がある。これには、研究者の知的好奇心の単なる延長上の研究に陥ることのないよう適切な研究のマネジメントが必要である。
 このため、新たな価値創造に結びつく革新的技術を狙って目的基礎研究や応用研究を推進する競争的資金については、例えば、イノベーション志向の目標設定や研究進捗管理等を行う責任と裁量あるプログラムオフィサー(プログラムマネージャー)を置くなどにより、マネジメント体制を強化する。

(先端的な融合領域研究拠点の形成)

 イノベーションは新たな融合研究領域から創出されることが多いが、そのような領域は経済社会ニーズに基づく課題解決に向けた積極的な取組により効果的に形成される。
 このため、国は、産業界の積極的な参画を得て、我が国が世界を先導しうる先端的な融合研究領域に着目した研究教育拠点を大学等において重点的に形成する。この拠点(先端融合領域イノベーション創出拠点(仮称))の形成に当たっては、1真に産学協働による研究拠点、人材育成拠点であること、2実用化を見据えた基礎的段階からの研究を実施すること、3国の内外に開かれた拠点であること、4研究資源の提供など産業界の明確なコミットメントがあること、5これらを円滑にする斬新な組織運営やシステム改革を行うことなどに留意する。

(府省を越えた研究費制度の改革)
-多様な制度に応じた適切なマネジメントの強化-

 多様な研究費制度に応じて適切なマネジメントを行ってこそ、国民の目に見える成果を生み出していくこととなる。
 このため、国は、競争的資金やプロジェクト研究資金など各種の研究費制度について、対象となる研究開発の発展段階や特性に応じて、期待する成果を踏まえた適切な制度設計や運営がなされているかどうかを確認し、成果を創出するためのマネジメント強化を推進する。

-府省を越えて優れた研究成果を実用化につなぐ仕組みの構築-

 各府省の研究費制度や産学官の研究機関における研究開発は、基礎的段階から実用化段階まで広範にわたっているが、優れた成果を出しつつあり、かつ、イノベーションの創出へ発展する可能性がある研究について、制度や機関を越えて切れ目なく研究開発を発展させ、実用化につないでいく仕組みの構築に努める。総合科学技術会議は、このような各府省の取組を促進する。
 次の段階へ研究をつなぐことが期待される研究費制度においては、研究終了前の適切な時期に評価を実施し、優れた課題は切れ目なく研究が継続できる仕組みを導入する。
 さらに、研究費制度や産学官の研究機関間の連携に、府省を越えて取り組む。具体的には、各研究費制度における中間評価・事後評価結果の迅速な情報発信と他制度・機関での活用、配分機関や研究機関の間でのワークショップ等の開催を通じた先端研究動向・成果や研究開発戦略・ロードマップ等についての情報共有、成果の応用可能性の情報を抽出・集約したデータベースの構築、配分機関や公的研究機関において研究開発の立案時に広く他の研究成果を調査する機能の強化などの取組を促進する。

2.産学官の持続的・発展的な連携システムの構築

 厳しい国際競争の中、独自の研究成果から絶えざるイノベーションを創出していかねばならない我が国にとって、産学官連携は、その実現のための重要な手段であり、持続的・発展的な産学官連携システムを構築する。

(本格的な産学官連携への深化)

 今後、より本格的な産学官連携へ深化を図るべきであるとの観点から、大学等の優れたシーズを活かした従来型の共同研究や技術移転に加え、産学官が研究課題の設定段階から対話を行い、長期的な視点に立って基礎から応用までを見通した共同研究等に取り組むことで連携の効果を高めていくような戦略的・組織的な連携を促進する。そのような連携の一環として、産学官連携の下で世界的な研究や人材育成を行う研究拠点の形成を目指す。
 また、地域の競争力向上や大学や公的研究機関の地域貢献の促進の観点から、中小企業を含めた地域産業の技術課題や新技術創出に大学等が取り組む地域貢献型の共同研究を促進する。
 これらの取組を通じ、大学等における民間企業からの研究費受入額の大幅な増加を目指す。

(産学官連携の持続的な発展)
-産学官の信頼関係の醸成-

 持続的な産学官連携のためには、企業及び大学等の相互理解が不可欠であり、例えば、共同研究成果の帰属、企業ニーズへの柔軟かつ迅速な対応、守秘義務に対する認識の徹底、共同発明に係る不実施主体である大学等の特性への配慮などについて、双方が立場の違いを理解した上で十分に話し合い、問題の解決を図り、信頼関係を醸成していく必要がある。国は、双方が対話する場や成功事例情報等を提供するとともに、必要に応じてガイドライン等を示し自主的ルール作りを促す。
 なお、大学や公的研究機関において、企業との共同研究や委託研究に関して必要となる間接経費は、双方の十分な話し合いのもとに、当該研究費の中で確保されることが重要であり、国は適切に措置されることを促す。

-大学等の自主的な取組の促進-

 大学等は、産学官連携を含めた社会貢献を教育や研究とともに重要な使命として捉え、産学官連携活動をそれぞれの運営方針の中に適切に位置付けるとともに、自ら主体的に連携活動に取り組むことが望まれる。また、大学等は、産学官連携活動に積極的に取り組む研究者の業績を適切に評価することを期待する。なお、連携活動の進展に伴い生じる、いわゆる利益相反状態を適切にマネジメントする仕組みの整備も併せて行うことが必要である。国は、産学官連携活動に積極的に取り組む大学等へのインセンティブ付与に努める。

-大学知的財産本部や技術移転機関(TLO)の活性化と連携強化-

 産学官連携活動が十分な成果をあげていくためには、大学知的財産本部やTLOの活動を一層活性化し、効果的なものとすることが必要である。
 大学における知的財産の戦略的な創出・管理・活用を行う知的財産本部は、研究成果の社会還元という大学の使命を果たす上で極めて重要な存在であり、国は大学の主体性及び経営努力を求めつつ、その取組を支援する。また、民間への技術移転事業を実施するTLOについては、国はその立ち上げ支援を行うとともに、優れた実績をあげているTLOの成功要因の普及を図ること等によって、他のTLOや大学等の技術移転体制の強化を図る。
 大学は、自らの知的財産本部とTLOとの関係を明確にし、対外窓口の明確化を進めるとともに、TLOに蓄積された技術移転に関する知見・ノウハウを最大限活用する観点から、知的財産本部とTLOとの連携を一層強化する。

-知的財産活動の円滑な展開-

 大学等において、特許出願経費などの知的財産活動のための費用が、機関内で適切に確保されるよう機関の取組を促す。その際、競争的資金における間接経費の積極的な活用が期待される。また、国は、大学等で生まれる研究成果の社会還元を促進するための競争的な研究開発支援を充実するとともに、我が国の国際競争力強化の観点からも海外特許出願経費を適切に支援する。

3.公的部門における新技術の活用促進

 公的調達を通じた新技術の活用促進は、公的部門の活動の機能の充実や効率性向上等のみならず、研究成果の社会還元の促進の観点からも重要である。
 このため、安全に資する科学技術分野や先端的機器開発等の研究開発において、公的部門側のニーズと研究開発側のシーズのマッチングや連携を促進する。安全に資する科学技術については、研究情報等のネットワーク構築に努める。
 また、低公害自動車の導入等に見られるように、技術的要求度の高い新技術や市場規模が小さい段階に留まっている新技術について公的部門が先進的な初期需要を創出することは、各部門の政策目的に資するのみならず、新市場を形成し民間のイノベーションを刺激するなど意義が大きい。公的部門は、透明性及び公正性の確保を前提に随意契約を積極的に活用することや、総合評価落札方式等の技術力を重視する入札制度を活用すること等により、新技術の現場への導入を積極的に検討することが期待される。
 なお、研究開発型ベンチャーにとって、製品等が公的部門によって調達されることは、企業の信用力を高めるとともに創業段階での収入確保のためにも重要であり、公的部門の新技術導入においては研究開発型ベンチャーからの調達に配慮する。

4.研究開発型ベンチャー等の起業活動の振興

 大学発ベンチャーをはじめとする研究開発型ベンチャーは、イノベーションの原動力として、新産業の創出や産業構造の変革、大学等の研究成果の社会還元に重要な役割を担うべき存在である。このため、起業活動に係る環境整備を推進するとともに、技術面、資金面、人材面、需要創出面など包括的な研究開発型ベンチャー支援策の強化を図る。特に、大学発ベンチャーについては、その創出支援を引き続き行うとともに、創出されたベンチャーが成長・発展するよう競争的に支援する。
 また、研究開発型ベンチャーは新事業への挑戦意欲が高く発注側の要求にも機動的に対応できるため、イノベーション創出を狙う競争的資金により行う研究開発や、国や公的研究機関が委託等により行う研究開発においては、能力ある研究開発型ベンチャーの活用を積極的に検討する。
 さらに、ファンド出資を活用した創業支援型ベンチャーキャピタルの育成、エンジェル税制の活用拡大など個人投資家の投資活動の促進、政府系機関の出資制度の効率化などを通じて、ベンチャーへのリスクマネー供給の円滑化に努めるとともに、ベンチャー支援者間のネットワーク形成を支援する。
 なお、我が国の起業家精神が国際的に見ても弱いとの指摘があるが、本質的な起業活動の振興には、挑戦する意欲や事業化への道筋を構想しうる人材(いわば潜在的な起業家)の分厚い層の形成が不可欠である。このため、大学において、学生等の起業活動の支援、人的交流による起業機会の創出、起業関連科目等の質の向上といった起業活動振興の取組を促進する。

5.民間企業による研究開発の促進

 研究開発や産学官連携の成果から新しい製品等の形で市場価値を創造し、最終的にイノベーションの実現につなげていくのは民間企業であることから、民間の研究開発を活性化させることが重要である。国としても、民間の自助努力を基本としつつ、その意欲を高めるため、研究開発活動促進に資する税制措置や、事業化に至るまでの研究開発のリスクを軽減する技術開発制度の充実を図る。なお、我が国の産業競争力の基盤を支える中小企業については、財政基盤・経営資源の脆弱性も勘案した上で、ものづくり技術の強化や高度化に向けた取組を支援する。
 また、外部の研究開発能力や成果を活用し自社製品等を作り出す傾向が高まる中、国全体としてイノベーション創出を加速するため、民間企業には、長期的視点から大学や公的研究機関をイノベーションのパートナーと位置付け、相互に持続的に発展していく協働関係の構築が求められる。

(4)地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり

 地域における科学技術の振興は、地域イノベーション・システムの構築や活力ある地域づくりに貢献するものであり、ひいては、我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力を強化するものであるので、国として積極的に推進する。また、地域住民の安全・安心で質の高い生活の実現や、創造的で魅力ある地域社会と文化形成などにも寄与するものとして、広がりのある活動を振興する。

1.地域クラスターの形成

 地域クラスターの形成には、産学官連携による研究開発だけでなく、金融の円滑化、創業支援、市場環境整備、協調的ネットワーク構築などの様々な活動が必要であり、地域の戦略的なイニシャティブや関係機関の連携の下で長期的な取組を進める。
 国は、地域のイニシャティブの下で行われているクラスター形成活動への競争的な支援を引き続き行う。その際、クラスター形成の進捗状況に応じ、各地域の国際優位性を評価し、世界レベルのクラスターとして発展可能な地域に重点的な支援を行うとともに、小規模でも地域の特色を活かした強みを持つクラスターを各地に育成する。

2.地域における科学技術施策の円滑な展開

 地域科学技術施策の推進にあたっては、府省間の縦割りを排し府省連携を強化する。
 地域における産学官連携の推進には、コーディネーター機能の強化が重要であり、その支援体制の充実やコーディネーター間のネットワーク形成等を支援する。また、インターンシップなど地域の大学と地域産業との連携による人材育成を促進する。
 また、地域における国の公的研究機関は、自らシーズを創出・発信するとともに、地域の大学等と連携しつつ、地域産業のニーズにも対応していくことが期待される。地方公共団体の公設試験研究機関は、地域産業・現場のニーズに即した技術開発・技術指導等を行っているが、これまでの活動成果の検証等を踏まえて、それぞれの特色や強みを活かした業務への選択と集中、更には地域間の広域的な連携等を図りつつ、地域の産学官連携に効果的な役割を果たすことが期待される。

(5)研究開発の効果的・効率的推進

1.研究費の有効活用

(研究費配分における無駄の徹底排除)

 研究費配分の不合理な重複や、研究者個人の適切なエフォート(研究に携わる個人が研究、教育、管理業務等の各業務に従事する時間配分)を超えた研究費の過度の集中は、排除を徹底する必要がある。
 このため、電子政府構築計画に基づき、できるだけ早期に、府省横断的に競争的資金制度間で情報を共有し重複等のチェックを実施するための府省共通データベースを構築する必要がある。
 一方、競争的資金以外も含めた研究費全体の配分状況について、全体像を把握し、重複排除等の効果的・効率的な資源配分に資するため、総合科学技術会議は、政府研究開発データベースを構築し、プロジェクト研究資金などの競争的資金以外の研究費についてもデータ整備を進める。府省共通データベースと政府研究開発データベースとは、十分な調整を図った上で、府省横断的な活用を推進する。各府省は、その活用により重複等のチェックを実施し、配分決定に係る説明責任を適切に果たすとともに、研究者自らによるデータ入力が可能となる仕組みを導入し、データベースの充実を図る。
 なお、研究費の不正受給や不正使用については、研究者に申請資格の制限を課す等厳格に対処する。

(大学や公的研究機関による研究者のエフォート管理)

 大学や公的研究機関は研究者のエフォートを管理し、研究者が外部から獲得した研究費による研究開発の実施に割く時間を確保すべきであり、特に、世界的研究教育拠点を目指す大学等においては、適切なエフォート管理の早期の定着に努める。また、競争的資金やプロジェクト研究資金等の研究費制度の申請において、機関の了解の下で研究者のエフォートを申請書に記載することを徹底する。

2.研究費における人材の育成・活用の重視

 研究開発に携わる中で人材が育成されることの重要性や、研究開発の重点化に伴い人材の重点化も進むべきことに鑑みれば、競争的資金等の研究費において、人材の育成や活用を行うことが一層重視されるべきである。
 従って、各研究費制度において、研究費が人材の育成・活用に充てられるよう努めることとし、必要な制度改善を行う。これにより、博士課程在学者への生活費相当額程度の支給により若手を育成することや、ポストドクター・研究支援者・外部研究人材等への人件費の措置によって若手研究者が自立して研究組織を編成すること等を促進する。
 同時に、汎用の研究機器の共同利用を前提にした申請を徹底することや、共用スペースの利用を促進することなどにより、全体として施設・設備の有効活用を極力進める。

3.評価システムの改革

 研究開発評価は、国民に対する説明責任を果たし、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発環境の創出、研究開発の重点的・効率的な推進及び質の向上、研究者の意欲の向上、よりよい政策・施策の形成等を図る上で極めて重要であり、大綱的指針及び大綱的指針に沿って各府省等が評価方法等を定めた具体的な指針等に則って実施する。
 なお、更に我が国の評価システムの一層の発展を図る観点から、研究開発評価の実施状況等を踏まえ、必要に応じ大綱的指針の見直しを行う。

(改革の方向)

 創造への挑戦を励まし成果を問う評価となるよう、評価の観点として、評価が必要以上に管理的にならないようにすることや、研究者が挑戦した課題の困難性も勘案し意欲喚起を図ること、独創的で優れた研究者・研究開発を見いだし育てることのできる資質を持つ評価人材を養成・確保すること等に努める。
 世界水準の信頼できる評価となるよう、評価の実施に当たって、評価対象や評価時期、評価目的等に応じて適切な調査・分析法及び評価法を選択すること、評価手法の開発・改良を進めること、若手を含む評価人材(評価に精通した個別分野の専門家、府省や機関等の職員、評価を専門分野とする研究者等)の養成や評価能力の向上を図ること等に努める。
 活用され変革を促す評価となるよう、評価が戦略的な意思決定を助ける重要な手段であることを十分認識し、誰がどのように評価結果を活用するかをあらかじめ明確にした上で、評価目的を明確かつ具体的に設定すること等に努める。
 なお、評価対象の観点からは研究開発施策の評価について、実施時期の観点からは追跡評価について、その実施状況に鑑み、一層の定着・充実を図っていく。

(効果的・効率的な評価システムの運営)

 評価の不必要な重複を避け、評価の連続性と一貫性を保ち、全体として効果的・効率的に評価システムを運営していく観点から、研究開発を実施する府省や機関等は、評価システムの運営に関する責任者を定め、評価の相互連携・活用や評価のための体制・基盤の整備等を行うことにより、評価システムの改善を図る。その際、評価のための予算の確保、評価人材の養成・確保、データベースの構築・管理等を進める。

(政策目標を踏まえた評価の推進)

 評価は、研究開発の特性に応じて、適切な評価項目及び評価基準を設定し実施するが、その際、社会・国民への成果の効果的還元が図られるよう、当該研究開発に係る政策目標を踏まえた評価項目・評価基準の設定に努める。

(6)円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消

 科学技術の振興に当たっては、人材の活発な交流、研究活動の円滑な実施、産学官連携の促進、さらには研究成果の社会への円滑な還元などを支える制度的な環境を整備することが、科学技術に対する人的・物的投資の効果を高める重要な鍵である。これまでも研究交流制度、研究者の任期制、独立行政法人制度、国立大学法人制度、知的財産制度など各方面において顕著な進展が見られたところであるが、未だ様々な制度的隘路が存在しているとの指摘は多い。例えば、外国人研究者の出入国管理、出産・育児における女性研究者の勤務環境、異動に伴う年金・退職金の扱い、研究費の繰越明許の活用促進、治験薬の臨床研究環境、研究支援者等の雇用環境、各種税制などが考えられる。
 このため、総合科学技術会議は、今後科学技術政策と他の政策との境界領域への関与を積極的に深めることとし、科学技術の振興上障害となる制度的隘路の解消や研究現場等で顕在化している制度運用上の諸問題の解決のため、関係府省や審議会等と連携してこれに取り組む。また、必要に応じ意見を具申し、その実施状況についてフォローアップを行う。

3.科学技術振興のための基盤の強化

(1)施設・設備の計画的・重点的整備

 世界一流の優れた人材の育成や創造的・先端的な研究開発を推進し、科学技術創造立国を実現するためには、大学・公的研究機関等の施設・設備の整備促進が不可欠であり、公共的施設の中でも高い優先順位により実施される必要がある。
 その際、特に大学には次世代をリードする研究者など優れた人材の輩出が要請されていることから、創造的な学問、研究の場にふさわしい環境・雰囲気の醸成が求められる。

1.国立大学法人、公的研究機関等の施設の整備

 国立大学等施設緊急整備5か年計画により、優先的に取り組んできた施設の狭隘解消は計画通り整備されたものの、老朽施設の改善は遅れ、その後の経年等による老朽改善需要とあいまって、老朽施設は増加した。また、平成13年度以降新たに設置された大学院への対応、若手研究者の教育研究活動スペース確保への対応、新たな診断・診療方法の開発に伴う研修・実習への対応など、新たな教育研究ニーズも発生している。
 1960年代から1970年代にかけて大量に整備されてきた国立大学法人等の施設の老朽化が深刻化しており、機能的な観点から新たな教育研究ニーズに対応できないだけでなく、耐震性や基幹設備の老朽化など安全性の観点からも問題があるため、国は、老朽施設の再生を最重要課題として位置付け、長期的な視点に立ち計画的な整備に向けて特段の予算措置を講じる。
 国立大学法人等において必要な整備面積は約1,000万平方メートルに達している。国は、このうち、卓越した研究拠点、人材育成機能を重視した基盤的施設について、老朽施設の再生を最優先として整備する観点から、第3期基本計画期間中の5年間に緊急に整備すべき施設を盛り込んだ施設整備計画を策定し、計画的な整備を支援する。
 また、長期借入金等により整備を進めている大学附属病院や国立高度専門医療センターについては、引き続き、先端医療の先駆的役割などを果たすことができるよう、着実に計画的な整備を進めることを支援する。
国立大学法人等は、全学的視点に立った施設運営・維持管理や弾力的・流動的スペースの確保等の施設マネジメント体制を一層強化するとともに、産業界・地方公共団体との連携強化、寄付・自己収入・長期借入金・PFIの活用など、自助努力に基づいた新たな整備手法による施設整備を推進することが求められる。国は、国立大学法人等のこのような改革への取組を促進するために、必要な制度の見直しを行うとともに、国立大学法人等の取組を積極的に評価した上で、優先的な資源配分を行う。
 独立行政法人等の公的研究機関においても、優れた人材を育成するとともに卓越した研究開発の成果を生み出すため、時代の要求に対応した施設の整備・充実を図る。特に、昭和中期以前に設立された公的研究機関においては、著しく老朽化した施設が多数存在していることから、優先的かつ計画的に施設の再生・改修等を行う。
 また、筑波研究学園都市の公的研究機関のように、今後、同時期に老朽化問題が発生する恐れのある施設を有する公的研究機関は、各機関毎に長期的な整備計画を検討する。

2.国立大学法人、公的研究機関等の設備の整備

 基礎研究の進展等により、実験設備や先端研究設備の重要性が著しく増大し、理論研究面でもその利用が大きな要素となってきているため、国は、国立大学法人等において、長期的な視点で大型設備をはじめとする研究設備が計画的に整備されるよう支援する。
 国立大学法人や公的研究機関等においては、機関内での設備の共同利用等に積極的に努めるなど既存設備の有効活用を進めるとともに、機関の枠を超えた共同利用、競争的資金等による研究終了後の設備の再利用など、研究設備の効果的かつ効率的な利用を促進する。

3.公立大学の施設・設備の整備

 地域における教育研究の拠点として大きな役割を果たしている公立大学の教育研究施設・設備については、設置者である地方公共団体の判断に基づき、財政措置の充実が図られることが望まれる。

4.私立大学の施設・設備の整備

 我が国の研究能力を高め、教育研究の高度化を進める上で、私立大学の研究施設・設備の重点的な整備が重要であるが、私立大学の施設・設備の整備は必ずしも十分とはいえない状況にあることに鑑み、国は、私立大学において研究施設・設備の整備が積極的に進められるよう、研究施設・設備の整備に対する補助率の引き上げ、設備維持費等の予算の拡充など、私学助成の充実を図る。

5.先端大型共用研究設備の整備・共用の促進

 超高速スーパーコンピュータや次世代放射光源のような最先端の大型共用研究設備は、整備・運用に多額の経費を要し、広く共用に供することが世界最高水準の成果の創出につながるものであるため、特定の研究機関の事業としてではなく国が責任を持って整備・共用を推進すべきであり、産学官の様々な組織から最も適した組織を選択し、公平で効率的に整備・共用を実施する。
 このため、共用を促進するための法整備を含めてこれら設備の整備から運用まで一体的に推進するための仕組みを構築する。また、国は、具体的な先端大型共用設備の選定にあたっては、厳格に評価を行った上で、大学共同利用機関等の大型研究施設・設備も含めて優先順位を付け、計画的かつ継続的に整備を行う。

(2)知的基盤の整備

1.知的基盤の戦略的な重点整備

 研究開発活動が高度化し、経済社会活動全体の知識への依存度が高まる中、これら活動全般を支える知的基盤(生物遺伝資源等の研究用材料、計量標準、計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器、関連するデータベース等)について、量的観点のみならず、利用者ニーズへの対応の度合いや利用頻度といった質的観点を指標とした整備を行うよう計画を見直し、選択と集中を進めつつ、2010年に世界最高水準を目指して重点整備を進める。
 なお、先端的機器については、機器開発そのものが最先端の研究を先導する性格を持つことを踏まえ、重要な分野の研究に不可欠な機器や我が国が比較優位を持ちつつも諸外国に追い上げられている機器について、鍵となる要素技術やシステム統合技術を重点開発する。

2.効率的な整備・利用を促進するための体制構築

 利用者の利便性向上や各種知的基盤の統合的運用を目指し、知的基盤の各領域について、公的研究機関等を中核的なセンターに指定し育成することにより拠点化を図る。中核的センターにおいては、利用者ニーズを把握し、知的基盤の整備・運用に反映することが求められ、その共通的な機能としては、関係諸機関との連携、知的基盤の所在や技術情報の集積・発信、知的財産等に関する検討等がある。
 公的研究機関や大学は、知的基盤整備の一翼を担う専任人材の確保等により必要な体制を構築するとともに、研究者・技術者の知的基盤整備への貢献の度合いを評価しうるよう、それぞれの運営方針に適切に位置付けることが望まれる。国は、知的基盤整備に貢献した研究者・技術者への表彰等により、この分野の社会的注目度を高めるよう努める。
 また、公的研究機関や大学は、研究開発成果を蓄積するためのデジタルアーカイブ化や研究用材料の保存等の重要性をそれぞれの運営方針に明確化するとともに、競争的資金等の研究費の獲得に当たっては、これらに必要な経費を含めて研究計画を立案するなど、その計画的な蓄積に努めることが期待される。
 今後、研究用材料等の授受がより頻繁に行われると考えられることから、国は、公的研究機関や大学とともに、知的財産等に関するルール整備に引き続き取り組む。その際、上記の中核的センターは、検討結果を他の機関と共有することを通じて、我が国の知的財産等に関する問題への対応能力の向上に貢献することが期待される。
 また、計量標準等の整備に係る国際的取組に引き続き主導的に参画し、特に、アジアにおける計量標準整備や生物遺伝資源整備に積極的に参加していく。

(3)知的財産の創造・保護・活用

 独創的かつ革新的な研究開発成果を生み出しそれを社会・国民に還元していくためには、知的創造活動を刺激・活性化し、その成果を知的財産として適切に保護し、それを有効に活用する、知的創造サイクルの活性化が不可欠である。我が国の科学技術の振興、国際競争力の強化に向けて、知的財産の創造、保護、活用に関する施策を推進する。

(大学等における知的財産体制等の整備)

 大学等においては、発明等の機関一元管理をはじめ、知的財産に関する体制の整備やルール作りが進められてきた。国は、今後の本格的な知的財産活動の展開に向けて、大学知的財産本部やTLOの体制整備を支援するとともに、知的財産の管理・契約に伴う様々な問題に対応し、迅速かつ柔軟な実務運用を行うための取組を促す。
 また、大学等が関係する知的財産に関する紛争が顕在化しつつあり、こうした紛争の解決に適切に対応できるよう大学等における体制整備を支援する。

(知的財産活動の推進)

 国際競争力の源泉となる優れた研究開発成果は、特に基本特許として国内外で効果的に権利取得し活用することが重要である。
企業に対しては、質の高い基本特許の取得につながるよう、量から質への特許戦略の転換を促す。大学等は、優れた知的財産について国内外を問わず適切に権利を取得し活用していくことが重要であり、国は大学等の戦略的な取組を支援する。また、質の高い優れた研究成果が得られるよう特許情報等の検索システムの整備を行う。
 また、大学等での試験研究における他者の特許の円滑な使用など、ライフサイエンス等の先端技術分野が抱える知的財産の諸問題について、大学等における研究の自由度との適切なバランスにも配慮した検討を行い、必要に応じて知的財産制度やその運用の整備を図る。

(知的財産による地域の振興)

 知的財産の創造拠点たる大学等は、地域の核として、地域の振興につながる新たな知的財産を生み出すことが期待される。大学等と地域企業、地方公共団体、地域の研究機関との連携強化や、地域における知的財産に関するアドバイザー等の確保、活用を奨励し、地域のニーズにマッチした知的財産の創造や活用を推進する取組を支援する。

(4)標準化への積極的対応

 研究開発成果の普及には標準化への積極的な対応が重要であり、産業界が主体的に標準化活動を担う中で政府をはじめとする関係機関は効果的な支援を行う。
 国や公的研究機関は、研究開発プロジェクトを実施するに際し、研究開発計画の中に知的財産戦略のみならず標準化戦略を明確に位置付け、標準化活動に取り組む。
 また、日本発の国際標準を戦略的に獲得するため、技術的優位にある分野につき国際標準化案の作成等によって主導性を発揮するとともに、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)、国際電気通信連合(ITU)等の国際標準化機関の活動に対しては、関係府省間の連携及び産学官の連携を一層強化し、一貫性を持って迅速かつ効果的に参画する。さらに、国際標準化を目指す際、戦略的に国内規格を国際標準へのステップとして活用できるよう、国内規格の審議の迅速化を図る。
 さらに、国際標準化活動で国際幹事等を担うなど、標準化活動に的確に対応できる人材の重要性が増しており、標準化に関する教材の作成を含めた研修・教育プログラムの整備、公的研究機関の専門家の活用、国際標準化活動への参加支援の充実などを通じて、標準化専門家を養成する体制を強化する。

(5)研究情報基盤の整備

 研究情報基盤は、研究活動に不可欠ないわばライフラインとしての性格を有しており、特に、大型コンピュータや高速ネットワークなどは最先端の情報通信技術や国際動向に常に先行して整備していく。また、研究機関において不可欠な論文誌などの研究情報の体系的収集・保存、効果的発信並びに研究者・研究機関間の連携や協力を促進することにより、研究情報基盤の効果的かつ効率的な運用を進める。
 具体的には、最新技術の導入による柔軟かつ効率的な研究情報ネットワークや使いやすい計算機環境を実現するとともに、国際的な連携を強化する。また、ハードウェアやその有機的連携を強化する基盤的ソフトウェアの整備について、それらを包含する制度の構築や人材確保等を含め、総合的かつ戦略的な取組を進める。
 また、研究情報の利用環境の高度化を図るため、最新の情報通信技術の導入を進めつつ、論文等の書誌情報と特許情報の統合検索システムの整備、論文誌等の収集・保存体制の強化、大学図書館・国立国会図書館等の機能強化や連携促進を進める。
 さらに、我が国の研究情報の蓄積を資産として国の内外に発信できるよう、論文誌等の電子アーカイブ化支援を進める。
 なお、研究者が公的な資金助成の下に研究して得た成果を公開する目的で論文誌等で出版した論文については、一定期間を経た後は、インターネット等により無償で閲覧できるようになることが期待される。

(6)学協会の活動の促進

(学協会の役割)

 学協会は、研究成果の発表、知識の交換、研究者相互及び国内外の学協会との連絡提携の場として、大学等の研究機関を越えて我が国の研究活動を支える存在であり、我が国の科学技術の国際的地位を向上するためには、これら学協会の自助努力による改革を促し、機能を強化する必要がある。  また、学協会には、その社会的役割を意識しつつ、科学技術に関する社会との積極的なコミュニケーション活動、児童生徒の国際科学技術コンテストへの参加支援、技術者の継続的能力開発への貢献など広がりのある活動が期待され、国としても、これらの活動が活発に行われるよう積極的に支援する。

(学協会の国際競争力の強化)

 論文誌による研究情報の発信・流通がインターネットの普及等により急速にグローバル化し、我が国の学協会は、資本力等で勝る欧米学協会に対し情報発信力が相対的に低下しており、研究成果の発表における国内学協会離れ等が懸念される。  このため、学協会は、情報通信技術等を用いて研究情報の収集・分析・発信・流通の能力を高めるための基盤整備を行うとともに、海外研究者の招へいなど人材の活発な交流や情報通信技術の利用による情報発信の強化等により、研究集会の活性化を図ることが期待される。さらに論文誌の国際競争力強化の観点から、関連分野の論文誌との統合も含め、自立・発展への自助努力の下、論文誌の編集・査読における国際化や情報通信技術の活用を進めることなどが期待される。国は、これら学協会の改革を促し、その機能を強化するため、競争的かつ重点的な支援を行う。

(7)公的研究機関における研究開発の推進

 公的研究機関は、政策目的の達成を使命とし、我が国の科学技術の向上につながる基礎的・先導的研究や、政策的ニーズに沿った具体的な目標を掲げた体系的・総合的研究を中心に、重点的な研究開発を行う。その際、大学や産業界との連携を強化しつつ、イノベーションを生み出す潜在力を最大限発揮させ、創出された研究成果を効果的に普及・実用化し社会に還元するよう、機能を強化することが求められる。
 多くの公的研究機関が独立行政法人に移行しているが、各法人は、その長の裁量の下、自らの経営努力により、研究資金の柔軟かつ弾力的な運用や、公正で透明性の高い競争的な人事・給与システムの導入など、自律的・自発的な運営・改革に取り組むことが期待される。また、機関の機能を高めるという観点から、競争的資金等の獲得により研究開発を行うことも奨励されるが、機関の使命達成のために必要な経費が運営費交付金等により確実に措置されることがまず重要である。
 さらに、競争的資金の拡充及び戦略重点科学技術の推進を図っていくため、競争的資金の配分機関たる法人や戦略重点科学技術を担うに適切な法人については、独立行政法人であるがゆえに、直ちに予算上の制約が課されることのないようにする。
 筑波研究学園都市や関西文化学術研究都市においては、域内に複数の公的研究機関が集積しているという利点を活かした研究開発の連携や融合に取り組む。

4.国際活動の戦略的推進

 今後我が国は、科学技術活動を単に国際化するという視点にとどまることなく、これを戦略的に進めることが必要であり、その際、国際動向の十分な調査分析を踏まえて、相手国や状況に応じて、競争と協調、協力、支援のアプローチを使い分けつつ、以下の目標達成に向け努力する。

  • 我が国の科学技術力を活用して、国際共通的課題の解決や他国からの国際的要請・期待に応え、我が国への信頼を高める。
  • 我が国のイニシアティブにより、科学技術に関連する国際標準やルール形成に貢献する。
  • 我が国の研究者を世界に通用する人材に育むとともに、優秀な外国人研究者の受入れにより研究の多様性や研究水準の向上を図ることにより、我が国の科学技術力を強化する。

(1)国際活動の体系的な取組

 科学技術の国際協力活動における二国間、多国間の枠組みについて、我が国と相手国との科学技術活動の相互補完性や共通課題の存在などに留意しつつ、科学技術の国際活動に対して体系的な取組を行う。
 その取組の中で、1多層的なネットワーク形成(政府、研究機関、学協会、研究者)、2我が国を含め共同で取り組むべき共通課題の抽出とその課題解決のための研究開発、技術開発の実施、3新たな国際協力の苗床形成などを推進する。また、これらの国際活動を担う人材の養成にも努める。

(2)アジア諸国との協力

 これまでの国際的な枠組や欧米諸国との協力・連携を引き続き充実させるとともに、地理的・自然環境的な近接性、科学技術水準の急速な向上、経済関係の緊密化等の国際情勢にも鑑み、内外から日本に期待される役割を果たしていくため、アジア諸国との間で科学技術の連携を強化する。このため、既存の政府間対話や研究者による交流を踏まえながら、アジア諸国との科学技術政策に係る閣僚級を含むハイレベルでの政策対話「アジア地域科学技術閣僚会議(仮称)」等を実施する。
 これと並行して、アジア諸国との研究者の交流を促進し、ネットワーク形成やアジア地域における共通課題への対応等を通じて、アジア諸国との科学技術コミュニティの強化を図る。

(3)国際活動強化のための環境整備と優れた外国人研究者受入れの促進

 国際活動を強力に推進するため、大学、公的研究機関等において国際活動を担う事務体制の強化、関係機関の海外拠点活動の効果的推進及び連携促進、海外の科学技術動向を体系的に収集・分析する体制の整備など、国際活動を支える基盤の強化を図る。また、我が国の科学技術活動の国際的評価・認知度の向上のため、海外拠点を中心とした、研究成果・研究者・研究機関に関する情報の積極的な海外への発信、日本での研究経験を有する者等の関係者のネットワークの形成を支援する。また、筑波研究学園都市及び関西文化学術研究都市について、内外に開かれた国際研究開発拠点として引き続き育成・整備を図る。
 外国人研究者の受入れの促進・活躍の拡大を図るため、出入国管理制度や査証発給のあり方に係る必要な見直しや運用改善等を一層推進する。具体的には、外国人研究者に関する在留期間の伸長や永住許可要件の緩和、数次有効の短期滞在査証の発給要件の緩和、諸手続の簡素化・迅速化等に向けた取組を進めるとともに、アジア太平洋経済協力(APEC(エイペック))ビジネス・トラベル・カード(ABTC)の研究者への交付についてAPEC(エイペック)関連会合で提案していく。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)