政府研究開発投資について

 我が国の財政事情は、公債発行残高がほぼGDP1年分に相当する規模であるなど、先進国のいずれの国と比較しても厳しい状況にある。政府は持続的な財政構造を構築するため歳出改革を行っている最中であり、活力ある21世紀の社会経済を築いていくためには、財政健全化は引き続き不可欠の課題となっている。

 このような厳しい財政事情の中、第2期基本計画期間中の政府研究開発投資の総額は約21兆円に達し、第2期基本計画で必要とされた24兆円には至らなかったものの、他の政策経費に比べて高い伸びを確保した。一方、我が国の政府研究開発投資の対GDP比率は、ほぼ一定で推移し、米国、仏国、独国を下回っており、以下の状況も踏まえると、更に政府研究開発投資の拡充を図っていくことが必要である。

 まず、「知の世紀」といわれる21世紀の初頭を迎え、世界的に見ても科学技術が国力の根幹であるとの認識が定着し、欧米主要国をはじめ成長著しいアジア諸国も科学技術への投資を強化していることに留意する必要がある。2000年代に入り、我が国の科学技術関係経費の伸びが鈍化していることとは対照的に、米国等の科学技術関係予算はそれまでの伸び率を数倍上回る伸びを示している。科学技術面においても急成長を遂げている中国、韓国の予算は特に伸長が著しく、毎年10パーセントを大幅に上回る伸び率を見せている。また、長らく政府研究開発投資の対GDP比率を低下させてきた英国は、昨年、今後10年間の科学技術投資の方針を初めて策定し、年率5パーセントを超える伸びにより対GDP比率を引き上げることを目標に、科学技術投資の抜本的強化に乗り出している。
 また、これまでの科学技術振興の努力により我が国の研究水準は着実に向上していると認められるが、科学技術投資の様々な面で我が国と世界の主要先進国との体力差は依然存在していることを指摘せねばならない。科学技術政策研究所の調査によれば、我が国の基礎研究への投資は2000年以降7パーセント増加しているが、米国はそれを上回る19パーセントの伸びを示しており、毎年の投資額は依然4倍強の開きがある。ライフサイエンス分野や環境分野への投資についても、米国の圧倒的優位は揺るがず、我が国が強みを持つナノテクノロジー・材料分野に関しては、近年米国は高い伸びを示し、投資額が追い抜かれている状況にある。欧米に大きく水をあけられている宇宙開発予算などその他の様々な面でも、主要先進国との隔たりは依然大きい。
 さらに、科学技術への投資が成果に結びつくには相応の時間を要することが一般的であり、絶え間ない知の創造とイノベーションを持続するには、投資の蓄積(ストック)の持つ意味が大きいことを改めて認識する必要がある。我が国の投資のフローは1990年代から大きく伸びているが、過去1970年代から90年代の投資の蓄積を見ると欧米主要国との間には、大きな蓄積の差が存在している。これに加えて欧米主要国は近年投資を強化しており、我が国が将来にわたってイノベーションを持続的に起こして競争力を保っていくためには、投資の更なる蓄積を引き続き重要視せねばならない状況が続くものと考えられる。
 科学技術基本法の制定以来、我が国は知の創造の基盤を着実に培ってきている。現在は、人材確保も含め知の創造の基盤をより強固にしつつ、科学技術振興のための持続的な努力を注ぎ込むことにより、科学技術の成果を経済社会の活力としてより強力に引き出していく段階にあると言える。さらに、知を巡っていよいよ先鋭化していく国際競争や上で述べたような各国の投資強化の動向に鑑みれば、第3期基本計画期間において、科学技術への投資の手を緩める状況にはない。

 政府研究開発投資については、欧米主要国の動向を意識し、かつこれまでの科学技術振興の努力を継続していくとの観点が重要であるが、上述の状況に鑑みると、第3期基本計画期間中、対GDP比率で少なくとも欧米主要国の水準を確保することが求められている。また、前章までに掲げた重要政策は、知の大競争時代を先導していくための科学技術戦略として欠かせないものであり、施策の効果的・効率的な実施を前提としてこれを推進するためにも、第2期基本計画を実質的に相当程度上回る政府研究開発投資が必要であり、基本計画にその総額の規模を明示して、施策の推進に必要な経費の拡充を図っていくことが必要である。

 なお、科学技術関係経費の算定については、従来、国立学校特別会計全体を対象に行っていたが、平成16年4月の国立大学等の法人化に伴い、国立学校特別会計が廃止され、授業料、病院収入などの収入は直接法人の自己収入として取り扱われ国庫を通らなくなった。第3期基本計画が始まる平成18年度からは、国立大学法人等に係る科学技術関係経費の算定方法を見直し、法人の自己収入分を除いた国費のみとすることが必要であり、第3期基本計画の政府研究開発投資の総額の検討に当たっては、これを踏まえて適切に対応していくことが必要である。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)