4.科学技術システムの基盤強化 3.科学技術の国際活動の戦略的推進

 人材・技術などを巡る国際競争や他国と協力して解決すべき課題に直面する中で、科学技術活動を単に国際化するという視点に留まることなく、優れた人材を我が国に惹きつけるための活動を含めて国際活動を戦略的に進める。
 特に、我が国の研究活動を活力あるものとしていくため、国際的に魅力ある研究拠点の形成など、国内外の優秀な人材に選ばれる環境を実現していくとともに、外国人研究者を我が国の重要な研究人材と位置付け活躍の拡大を図る。また、東アジアにおける科学技術コミュニティの構築に向け、イニシアティブを発揮する。

(1)国際活動を担う人材層の充実

1.外国人研究者の活躍の拡大

(a)優れた外国人研究者の登用

 世界的研究・教育拠点を目指す大学や公的研究機関が、世界水準の研究が遂行されるよう、優れた研究実績をあげている外国人研究者を積極的に登用することを促進する。

(b)外国人研究者のキャリアパスの拡大

 世界的研究・教育拠点を目指す大学や公的研究機関は、各機関や専攻等の組織毎に、国際戦略が異なるところであるが、外国人研究者の活躍の促進に係る取組を明確にするため、当該分野の博士課程における留学生の割合やポストドクターに占める外国人の割合、国際動向等を踏まえつつ、外国人の採用の数値目標の設定を含めた外国人研究者の活躍促進に係る行動計画を策定し、その達成状況の公開するなどの取組がなされることを期待する。国は、各大学や公的研究機関における取組状況を把握し、公表する。
 大学・公的研究機関では、研究者の公募に当たって、英語による公募情報の告知を徹底し、英語での応募を認めるなど、外国人研究者が応募しやすいような環境を整備することが期待される。
 企業においても、優れた外国人研究者や留学生等(学位取得直後の者を含む)を登用することや、インターンシップ活動において留学生等の外国人が従事する機会を提供することが期待される。なお、留学生については、社会全体でその活用を図っていくことが重要である。

(c)外国人研究者招へい制度の充実

 我が国で博士号を取得した留学生が我が国でポストドクターとして研究を行う機会を明確な形で提供する。このため、外国人向けポストドクター招へい制度に対する、留学生の応募可能性を明確化する。
 また、招へい制度の後、帰国した外国人研究者とのネットワークを構築・維持するための取組を強化する。
 優れた外国人研究者を早い段階で確保する観点からも大学院段階における国際共同教育プログラムを推進し、相手機関との間で大学教員・学生双方の交流を強化する。

(b)外国人研究者の受入れのための環境整備

 外国人研究者の受入れの円滑化を図るため、出入国管理及び難民認定法等について、経済界等からの要望も高い次のような事項の見直しや運用改善等について、今後関係機関において議論を深める。

  • 在留資格認定要件緩和
  • 在留期間の延長
  • 在留資格変更要件の緩和
  • 永住権取得要件の緩和
  • 在留資格認定手続きの簡素化・迅速化
  • 研究者向け短期滞在査証取得手続きの簡素化・迅速化

 また、留学生や外国人研究者が住居を賃貸契約する場合の連帯保証人制度の改善など地方公共団体による外国人研究者向けサービスの充実が重要である。さらに、研究者の国境を越えた異動に係る年金の取扱いに関して関係機関において議論を深める。

2.海外での研究経験を通じた国際的に優れた人材の確保・養成

 海外の競争的環境下で優れた研究実績を挙げている日本人研究者を、我が国の大学や公的研究機関が積極的に登用することを促進するため、登用に伴い必要となる経費等を競争的な支援として一定期間支給するなどの取組を行う。
 また、日本人研究者について、海外での研究経験を通じた人材養成を充実する。
 このような取組を通じて、優れた大学院生、ポストドクター等が、積極的に海外で自己研鑽しようとする意欲の向上に資する。

3.国際的環境における知の触発と人的ネットワークの構築

 日本学術振興会等において実施している短期研究交流事業など「知の出会い」の場を充実する。

(2)国際プロジェクト等の重点的推進

 国際活動の戦略的推進には、一様な国際化ではなく、国際動向の十分な調査分析に基づき、状況に応じて「競争と強調」「協力」「支援」のアプローチを使い分けることが必要であり、この観点に留意しながら国際プロジェクト等を機動的、重点的に推進する。

1.国際戦略立案・実施のための体制整備

 国際動向の調査分析機能の向上のため、日本学術振興会等の海外拠点を核に、大学・公的研究機関が各国に設けている海外拠点との連携を推進する。また、大学等における国際戦略の立案やその実施のための取組を支援する。

2.機動的に対応すべき国際プロジェクトの重点的推進

 萌芽的な段階での国際交流、研究者交流で醸成された協力・連携関係を、国際的なプロジェクト研究へと機動的に展開すべく、成長段階にある国際科学技術活動を重点的に支援する仕組みを整備する。

3.国際科学技術協力の着実な推進

 多国間や二国間の枠組みを一層積極的に活用しつつ、我が国から生み出される独創的な研究成果を核に、我が国のイニシアティブの下で国際的な科学技術協力を提案し推進する。

(3)アジアにおける科学技術コミュニティの構築

 中国や韓国などのアジア諸国は科学技術分野でも急速に成長しており、オープンで対等なパートナーシップをアジア諸国にも拡げ、アジア地域全体の科学技術の発展を先導していくことが必要である。特に、地理的にも近接した東アジア諸国において、中長期的には、米、欧と並ぶ第3の科学技術の極を形成していくことも視野に入れつつ、「東アジア共同体」構想を先導すべく、東アジア科学技術コミュニティの構築を指向する。その際、交流実績が厚い中国、韓国との間での連携を強化するとともに、並行してASEAN(アセアン)諸国等との連携協力を推進する。

1.研究者交流の推進

 アジアにおける科学技術コミュニティの構築の出発点として、将来のアジアにおける科学技術コミュニティを担う人材を養成していくことが重要である。このため、日本学術振興会等における研究者交流制度や共同研究支援制度の充実等を通じ、東アジア科学技術コミュニティを担う研究者層の蓄積・養成を図る。
 頻繁に研究交流を行う研究者について、研究交流の一層円滑な推進を図るため、APEC(エイペック)ビジネストラベルカードのような先駆的取組を参考としつつ、短期滞在査証取得手続を簡素化、迅速化するなどの措置について、関係機関において議論を深める。
 また、帰国後の外国人特別研究員や留学生など、知日派研究者の同窓会活動等によるネットワーク化を推進する。さらに、国内のアジア研究者(大学院への留学生など)が我が国で更に能力を発揮できるよう、こうした人材に関する求人情報、求職者情報の提供等を推進し、東アジア科学技術コミュニティを支える将来の研究リーダー間のネットワークを構築する。

2.地域共通課題への挑戦

 我が国と他のアジア諸国は、地理的な近接性に由来して、環境問題、自然災害の防止や被害の低減、新興・再興感染症対策等の課題を共有しており、これらの課題に機動的に対応し国際プロジェクトの重点的推進を図るための資金制度を充実する。

3.科学技術プラットフォームの構築

 アジアにおける科学技術コミュニティの形成・発展のためには、各国が科学技術に関するシステム、文化、情報といったコミュニティの基盤を共有することが必要である。
 このため、行政機関間、大学・公的研究機関間、資金配分機関間、アカデミー間等の多層的な交流枠組みを整備する。また、大学・公的研究機関による主体的な研究成果情報の発信機能等を強化する。さらに、アジア発の独創的な科学技術に基づくイノベーションの創出をアジア地域で展開する上で、知的財産権の取扱いや産学官連携、研究者の評価・登用など、科学技術に関するシステムや文化といった基盤を共有することが有益であるため、アジア地域における行政官や専門家の交流等を推進する。

4.アジア諸国共同の枠組みづくりへのイニシアティブの発揮

 持続的なアジア諸国共同の枠組みとして、例えば、EUが実施しているフレームワークプログラムにおける研究者交流や国際共同研究の促進の取組も参考にしつつ、東アジア科学技術コミュニティ構築に向けてのプログラムを創設することを目指し、アジアにおいて我が国がイニシアティブを発揮する。

(4)国際活動基盤の強化

1.大学における特色ある組織的な国際活動に向けた取組の推進

 大学における国際活動に関する組織的な取組の強化が必要であり、外国人の教育研究・生活環境への組織的な支援、海外の機関等との連携、情報発信・収集力の強化等、国際活動を戦略的に進める大学の取組を支援する。

2.海外拠点を核とした交流の総合的展開

 日本学術振興会等国内諸機関の海外拠点をベースとしながら、研究者の交流プログラムの実施や我が国の研究者の海外での研究活動支援などを総合的に展開する。
 また、我が国の大学・公的研究機関の海外拠点が近年増加していることから、これらの拠点がそれぞれの特長を活かして連携し、関係機関のノウハウを活用しながら、大学・研究機関間の国際活動の連携を強化することを推進する。その際、これら機関の活動が全体として国の政策との整合性を保ちつつ進められるよう配慮する。

3.地域を主体とした国際活動の推進

 宿舎探しをはじめとする生活支援など外国人研究者の受入れ・滞在の支援に対して、地域が主体的・積極的に大学や公的研究機関と連携しつつ取り組むことが重要である。
 また、国境を越えたクラスター間が留学生、研究者、起業家を中心とした人材交流、企業間の連携によって発展する事例も増加していることも踏まえ、内外の大学・公的研究機関間による知識の共有や人材交流などが、地域間の連携の基盤として機能することを各主体がともに意識し、地域レベルでの科学技術振興に関して戦略的ビジョンを持った国際活動がなされることが重要である。

4.研究成果の国際的情報発信力の強化

 我が国の優れた研究成果を世界に向けて発信することは、国際活動を進めていく上での重要な基盤となる。しかしながら、我が国においては、論文誌の発行・頒布により情報流通の主な担い手となっている学協会の経営基盤が弱体である等の理由により、研究開発活動の成果の公開、発信、保存のための基盤が脆弱なものとなっている。その結果、研究成果の創出と発信の不均衡が深刻化しているとの指摘もある。
 このため、学協会と連携しつつ、我が国の論文誌の国際的な流通を推進する。また、我が国の国際的な情報発信の中核として、学協会の活動がより活性化するための環境整備を推進する。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)