4.科学技術システムの基盤強化 2.科学技術振興のための基盤の整備

(1)大学等の施設・設備の整備

1.大学等の施設整備

 大学等の施設は、科学技術創造立国を目指す我が国にとって、優れた人材と研究成果を生み出すための重要な基盤であり、21世紀にふさわしい社会資本として、その整備を促進する必要がある。
 このため、大学等の施設は、優れた人材と研究成果を生み出すため、施設の安全性、機能性、効率性、ユニバーサルデザイン等を確保するとともに、国内外の優秀な学生や研究者を惹きつける魅力ある世界水準の教育研究環境を確保することが必要である。
 大学や社会のニーズを踏まえ、第3期基本計画期間においては、以下のとおり、優れた研究成果を最大限に生み出す研究拠点の形成を行うとともに、大学の基本的な機能である人材養成機能を重視した基盤的施設の充実を重点的に行うことが重要である。特に、安全・安心な教育研究環境の確保については、日常の維持管理等の取組を行うとともに優先順位を付けつつ計画的に整備していくことが必要である。

○ 卓越した研究拠点の整備
(1)世界水準の独創的・先端的研究拠点
(2)地域・社会との連携協力を推進する研究拠点

○人材養成機能を重視した基盤的施設の整備
(1)大学院の基盤強化
(2)特色ある高等教育の基盤充実

○先端医療に対応した大学附属病院の整備
 ・先端医療や医学系人材養成の拠点である附属病院の再開発整備

○安全・安心な教育研究環境の確保
 ・耐震化、安全な実験環境、キャンパスのインフラ更新等

2.大学等の施設整備の実施方策

(a)国立大学法人等における施設整備実施方策

 大学等の施設は、長期間にわたって教育研究を支える基盤であり、また、国立大学法人等は、中期計画に基づき業務を行うことから、国は、国立大学等の施設整備5か年計画を引き続き策定し、重点的・計画的な整備を実施する。また、計画の実施のための所要の財源の確保に努め、以下の点に配慮して施設整備を進める。
● 国立大学等施設の老朽改善需要の増加や効率的な施設整備が求められている状況から、耐震性などの安全性の確保、教育研究ニーズに対応する機能の向上、既存施設の有効活用などの観点から、既存施設の改善による効果的・効率的整備を実施する。
● 施設整備計画の実施に当たっては、プロジェクト研究や新興領域・融合領域の教育研究等の新たな施設需要にも機動的に対応していく。
● 法人化後、国立大学等は教育研究に関し個性・特色ある取組を求められている。国はこのような取組に配慮するとともに、施設整備の目的・必要性、施設マネジメントの状況等を適切に評価し、施設整備事業の採択を競争的な環境の下で行う。
● 施設は大学等の諸活動の基盤であり、これを有効に活用し、適切に維持管理する施設マネジメントは極めて重要である。法人化後の国立大学等は、特に大学経営の一環として、全学的視点に立った施設運営、組織の枠を超えた施設利用の推進、弾力的・流動的に利用可能な共同利用スペースの確保と適切な運用、施設の維持管理の適切な実施などに取り組んでいる。第2期基本計画を受けた緊急整備5か年計画のシステム改革では、このような施設マネジメントを推進しており、整備面積のおよそ3分の1をプロジェクト研究等に対応した共同利用スペースとして確保するなど一定の成果が上がりつつある。国は、施設整備事業の採択に当たって大学の施設マネジメントの取組を評価するなどにより、更なる施設マネジメントの推進を図る。
● 国立大学等は、従来から国費のほか長期借入金や土地処分収入により施設整備を実施してきたが、法人化後は、業務の範囲内で、より一層多様な施設整備手法を行うことが可能となった。緊急整備5か年計画の実施により、大学等は、寄附等の自己収入の活用による整備をはじめとして、産業界・地方公共団体との協力など新たな整備手法による整備に積極的に取り組んでおり、第2期基本計画期間中、PFI(民間資金等活用事業)整備については、国の事業の半分以上を大学等において実施し、寄附についても第1期基本計画期間中の約4倍増となり、また、地方財政再建促進特別措置法施行令の改正により、地域産業の振興のための共同研究の場が無償貸与になるなどの地方公共団体との連携も進んでいる。国は、このような大学等の取組を支援するため条件整備や情報提供などを積極的に行う。
● なお、私立大学を含め、大学等の施設は、国の知的かつ公共的な基盤として最も重要と考えられるものであり、その整備については公共的施設の中で高い優先順位により整備する必要がある。

(b)私立大学における施設整備実施方策

 私立大学の施設については、原則として設置者である学校法人が整備することとされている。しかしながら、私立大学は、我が国の大学数の約8割を占め、多様な研究者を有するとともに、独自の建学の精神をもって多様で特色ある教育研究活動を実施している。私立大学が研究者交流等を積極的に推進しつつ、多様で高度な研究を実施できるようにするため、研究施設の重点的な整備を推進することは、我が国の研究開発能力を引き出し、国際的な競争力の向上と教育研究の高度化を進める上で重要である。
 一方、私立大学の研究環境は改善されてきているが、経営状況が厳しい中、研究施設の整備は必ずしも十分とは言えず、国としてその充実を支援することが引き続き求められている。
 このため、私立大学において、研究施設の整備を積極的に進められるよう、補助率の引き上げを含め国の財政支援の充実を図る。

3.大学等の設備整備

 基礎研究の発展において、実験設備の重要性が著しく増大し、理論研究面でも研究設備の利用が大きな要素となっており、科学技術振興の基盤整備のため、大学等における研究設備の充実が極めて重要である。
 大学等における研究設備について、学内での共同使用等に積極的に努めるなど、既存設備の効果的活用について自主的努力を促すとともに、大学の枠を超えた共同使用、重点配置、競争的資金等による研究終了後の再利用等の視点を踏まえながら、研究設備の高度化等を積極的に推進する。

(2)先端大型共用研究設備の整備・共用の推進

 先端大型共用研究設備は最先端の研究開発活動の基盤をなし、「国家基幹技術」としても重要である。所要の仕組みの見直しを行った上で計画的かつ効率的な整備を進めていく必要がある。
 超高速スーパーコンピュータや次世代放射光源のような先端大型共用研究設備は、世界ナンバーワンの共用設備として、我が国が得意とする精密機械技術、エレクトロニクス技術、製造技術等を駆使して、切れ目なく整備すべきものであり、その共用を通じ、基礎研究から産業技術開発までの広い分野において世界最高水準の成果を創出し、もって、我が国の国際競争力を飛躍的に向上させるものである。
 また、先端大型共用研究設備は、整備・運用に多額の経費を要し、基礎研究から産業技術開発まで我が国の研究組織をあげて広く共用することが大きな研究開発の成果に繋がるため、公平で効果的な共用を進める観点から、特定の研究機関の事業としてではなく、国が責任を持って整備・共用を促進すべきものである。
 さらに、先端大型共用研究設備を整備し、共用を促進するに当たっては、最高の装置により最大の効果をあげるため産学官の様々な組織から最も適した組織を選択し、公平で効率的に運用実施させることが必要である。
 このような観点を踏まえて先端大型共用研究設備を巡る諸問題を解決するため、国は、計画的かつ継続的に、先端大型共用研究設備の整備から運用まで一体的に推進するための仕組みの構築を検討する。また、国は、先端大型共用研究設備の整備・運用を行うに当たり、最も適した組織のポテンシャルを活用しつつ、設備の管理・運営を効率的に推進する仕組みの構築を検討する。

(3)知的基盤の整備

1.知的基盤の戦略的な重点整備

 研究開発活動の高度化や、経済社会活動全体の知識への依存度が高まる中、これら活動全般を支える知的基盤の重要性は一層高まっている。我が国が必要な知的基盤を確保することは、我が国における研究開発活動の自立性を確保する上で欠かせない、いわば研究開発活動の安全保障的な意味合いも持つ。また、近隣アジア諸国の急速な経済発展による国際競争の激化や我が国の生産拠点のアジア諸国への移転が進行する中、国際的な視点からの知的基盤整備の重要性も増してきている。従って、研究開発活動に対する資金だけではなく、研究開発活動の基礎をなす知的基盤の整備を、今後、一層戦略的、重点的かつ継続的に推進することが必要である。
 このため、現行の知的基盤整備計画を見直し、知的基盤の各領域において、2010年に世界最高水準を目指した戦略的な重点整備を進めるとともに、必要な体制構築、国際的対応を図っていく。重点整備に当たっては、今後は質的観点、すなわち、ニーズへの対応の度合いや利用頻度を指標とした整備、様々な研究開発への波及効果を踏まえた整備を進める。
 各領域においては、特に以下の視点を重視する。

● 研究用材料(生物遺伝資源等)
 ライフサイエンス分野における戦略的取組において不可欠で、かつ我が国独自の生物遺伝資源を中心に、その特性を踏まえ継続性のある整備・保存を進める。また、将来に向け、発展途上国等に存在する広範な生物遺伝資源の入手・整備も推進する。さらに、研究活動の進展に伴う研究用材料の多様化(例えば、創薬分野の研究を先導するための化合物等)に対応した整備を進める。

● 計量標準
 環境、バイオ、医療、食品分野の計量標準(物理標準・標準物質)の開発・整備を重点的に加速し、計測・分析技術の開発と連携して、独自性と信頼性の高い計測・分析データが効果的に取得、活用される基盤を整備する。官民連携の下、我が国の計量標準の供給を世界最高水準に引き上げるとともに、計測器の信頼性確保のため、アジア各国を含めた世界的な体制の構築に貢献する。

● 計測・分析・試験・評価方法及びそれらに係る先端的機器
 激しい国際競争が繰り広げられているライフサイエンス等の研究推進に不可欠な先端的機器については、外国企業のシェアが大半を占めかつ拡大の傾向にあるという現状を踏まえ、我が国が比較優位を持ちつつも諸外国に追い上げられている方法・機器、及び、我が国の最重要研究開発分野において欠かすことができないコアとなる方法・機器で、鍵となる要素技術、システム統合技術を重点開発し、世界最高水準の機器を多数実現させ、デファクトスタンダード化を目指す。

● データベース
 上記知的基盤3領域について、後述の各「中核的センター(仮称)」が中心となって、体系的で利用しやすいデータベース整備を進める。

● その他
 公的研究機関・大学における研究開発成果は潜在的に知的基盤としての価値を持ち得るものであり、これらをデジタルアーカイブ化することで、その利用価値を向上させる。

2.効率的な整備・利用を促進するための体制構築と国際的な取組への参画

(a)研究者・技術者の評価

 公的研究機関や大学は、様々な形で知的基盤整備の一翼を担っていくことが期待される。そのため、各公的研究機関・大学においては、例えば、専任の人材を確保するなどして知的基盤整備の体制を構築することが重要である。また、研究者・技術者の知的基盤整備への貢献の度合いを評価する仕組み・体制の整備を進めることが期待される。具体的には、例えば、知的基盤整備への貢献を研究者・技術者の評価の観点の一つとして捉えることや中期目標等に位置付けることが考えられる。これと関連し、国は、知的基盤整備に貢献した研究者・技術者を表彰することなどにより、この分野の社会的注目度を高めるように努める。

(b)利用者の利便性の向上

 知的基盤3領域について、利用者の利便性向上や各種知的基盤の統合的運用を目指して、「中核的センター(仮称)」を指定・育成し拠点化を図る。「中核的センター(仮称)」に求められる機能は、領域毎に異なるものの、共通的・基本的機能として、(1)関係諸機関との連携、(2)利用者ニーズの把握と整備への反映、利用度の把握、(3)知的基盤の所在や技術情報の集積・発信、(4)知的財産権その他法的問題に関する検討や情報蓄積等がある。

(c)研究開発成果の蓄積

 公的研究機関・大学は、知的基盤整備の体制を機関として構築していくことを目指し、主体的判断により、その中期目標・中期計画等において、研究開発成果のデジタルアーカイブ化や、研究開発成果としての研究用材料保存等の重要性を明確化し、研究費等の獲得に当たっては、成果の蓄積・整備を見据えた計画を立てるように努める。

(d)知的財産権等の法的問題

 今後、知的基盤整備が一層進み、研究用材料等の授受がより頻繁に行われるのに伴い、知的財産権に関するトラブルが多発する可能性がある。このため、国は、公的研究機関・大学と共に、法的問題に関する基本的ルール作りに引き続き取り組む。特に、「中核的センター(仮称)」においては、検討結果を他の公的研究機関・大学と共有することを通じて、公的研究機関・大学全体としての法的問題への対応能力向上に貢献することが期待される。
 特に、国際的授受の場合、特許性に関する考え方が国毎に異なるがゆえに問題が深刻化する可能性もあり、生物遺伝資源等の知的所有権を巡る議論に積極的に参加することで動向を把握しつつ検討を進め、国際的問題にも対応しうる体制を整備する。

(e)国際的な取組への参画

 計量標準等の整備に係る国際的取組に引き続き主導的に参画する。今後は、特に、アジアにおける計量標準整備や生物遺伝資源整備に積極的に参加していく。

(4)研究情報基盤の整備と学協会の活動の促進

 研究情報基盤は、研究開発活動に不可欠ないわば生命線としての性格を有するに至っている。特に、大型コンピュータと高速ネットワークからなる研究情報基盤はその国の研究開発環境を象徴し、常に最先端の情報通信技術や国際的動向に先行した見直しが必要である。また、研究情報基盤の効果的かつ効率的な運用は広範な研究の進展にとって極めて重要であり、研究開発情報の体系的収集、効果的発信並びに研究者・研究機関間の連携や協力を促進することにより、新たな価値創造や研究開発の効率性の向上等において大きな効果が期待できる。
 具体的には、世界の主要な研究情報基盤を凌ぐべく、最新技術の導入による柔軟かつ効率的な研究情報ネットワーク及び使いやすい計算機環境を実現するとともに、国際的な連携を強化する。また、コンピュータやネットワーク等のハードウェアはもとより、これらの有機的連携を強化する基盤的ソフトウェア、それらを包含する制度・人材等を含め、研究情報基盤の整備について総合的かつ戦略的な取組を進める。さらに、研究情報の利用環境の高度化を図るため、最新の情報通信処理技術の導入を進めつつ、研究情報及び知的財産のデータベース化、学協会が発行する論文誌等の電子化と保存体制の強化、並びに大学図書館等の機能強化・連携を推進する。

 学協会は、研究の進展と相互交流を図ることを目的として、大学等の研究機関を超えて同一分野の研究者が自主的に組織する団体であり、最新の優れた研究成果の発信や研究集会の開催等を通じて、研究上の情報交換、人的交流を行うほか、政策提言や研究システム改革の重要な担い手として期待されている。
 しかしながら、近年、日本人研究者の研究成果について、欧米論文誌への投稿の常態化により、学協会が発行する論文誌の国際競争力の低下やそれに伴う我が国の情報発信能力の低下とともに、欧米論文誌査読者の価値観に影響される恐れがあることによる研究成果の独創性の喪失に懸念が表明されている。
 我が国の優れた研究成果を世界に向けて発信することは、科学技術の国際活動展開の上でも重要な基盤であるが、これらのことから、学協会の連合や統合による国際競争力の強化、組織運営の活性化等が強く求められており、国レベルでの支援を検討する。
 また、学協会の研究集会の充実、論文誌(特に欧文誌)の発行・電子化等の活動が活発となるよう、積極的に支援する。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)