4.科学技術システムの基盤強化 1.知識基盤社会の時代における大学の改革

 知識基盤社会においては、知識は日進月歩で、競争とイノベーションが絶え間なく生まれるという特質があり、新たな知の創造・継承・活用が社会の発展の基礎となる。その中で、高等教育は、個人の人格の形成とともに、社会・経済・文化の発展・振興や国際競争力の確保等の国家戦略の上でも極めて重要である。特に、人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって、優れた人材の養成と科学技術の振興は国の持続的発展のための両輪として不可欠なものである。国際競争が激化する今後の社会では、国の高等教育システムそのものの総合力が問われることとなり、国は、将来にわたって責任を負うべきである。また、高等教育機関の側が自らを厳しく変革しつつ積極的に社会の発展に寄与するとともに、社会の側が積極的に支援するという双方向の関係を構築することが不可欠である。
 大学は、知の創造と継承の中心として深く真理を追求し、専門の学芸を教授研究することを本質とするものであり、その活動を十全に保障するため、伝統的に一定の自主性・自律性が承認されていることが基本的な特質である。
 大学が有するこうした特質を踏まえつつ、その使命を十全に果たすために、これまで約15年以上にわたって、大学改革を推進しており、教育研究の高度化、高等教育の個性化、組織運営の活性化などに取り組むとともに、特に、近年においては、国立大学法人化等の運営システム改革、大学の質の保証と向上のための制度改革、大学の国際競争力の強化、知的財産戦略・産学官連携の推進等の諸改革も実現してきている。
 一方、大学におけるこのような諸改革に基づき展開されている教育研究活動を更に充実させるためには、まず第一に、今後、我が国において、欧米諸国の約半分である高等教育に対する公財政支出の対GDP(国内総生産)比を欧米諸国並みに近づけていくよう最大限の努力が払われる必要がある。併せて、民間資金の積極的導入を図ることや、民間企業を含めた研究開発のための公的資源配分を大学等にも開放していくことが必要である。
 また、これまでの高等教育への国からの財政的支援の在り方については、国立学校特別会計や私学助成による機関運営経費の措置と助成、科学研究費補助金や各種の委託研究費等の研究活動助成、育英奨学等の学生支援経費が中心であった。また、これらの支援とともに、21世紀COEプログラム等の国公私を通じた競争的・重点的支援、競争的な研究資金の間接経費や国立大学法人に対する特別教育研究経費の措置、ティーチング・アシスタントやリサーチ・アシスタントへの支援、日本学術振興会特別研究員事業等が行われており、支援の形態の多様化が進められてきた。
 高等教育への公財政支出を拡充するとともに、今後の高等教育への財政的支援は、国内的のみならず国際的な競争的環境の中にあって、高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形に移行し、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費助成と競争的資源配分の有効な組み合わせによること(デュアルサポートシステム)が重要である。
 なお、大学には、その知的資産を活用して、国・地方公共団体のプロジェクトや産学連携等に積極的に参画し、社会的要請に応えることが期待されているが、プロジェクトを委託する側である国の各府省、独立行政法人や地方公共団体は、大学に過度な財政的負担を強いることのないよう、委託経費に間接経費をあらかじめ組み込むものとする。また、産学連携においては、企業等との間における受託研究や共同研究に伴い必要となる間接経費の確保を促進する。さらに、大学が自ら財政基盤の強化を図るとともに、教育研究活動を確実に実施できるよう、大学に対する寄付金控除額を米国並に高めることを目指す。
 なお、今後の大学改革は、「我が国の高等教育の将来像(答申)」(平成17年1月、中央教育審議会)や、中央教育審議会における関連の審議に基づいて実施していく必要がある。

(1)世界最高水準の大学院の形成

 大学院は、学校教育の最高段階の教育研究を行う場として、我が国が国際競争力をもって世界をリードし、また、国際社会に貢献するための基盤となる高度な人材の養成の中核を担うことが求められる。
 これまで、大学の教育研究の高度化・個性化・活性化という観点から、大学院の量的整備、制度の弾力化などを行ってきたが、今後は、大学院教育について、教育の課程の組織的展開の強化(大学院教育の実質化)、国際通用性・信頼性の向上等を通じ、国際競争力の強化を図ることを重要な観点として、世界最高水準の大学院の形成を推進する。
 このため、以下に掲げるように、各般の取組を推進するとともに、これらを総合した5か年程度の「大学院振興計画(仮称)」を策定し、体系的・集中的な取組を進める。

1.大学院教育の改革

 大学院教育は、学部段階からの課題探求能力の育成を重視した教育を基礎として、高度の専門的知識の修得に加え、コースワークにより関連する分野の基礎的素養の涵養を図り、学際的な分野への対応能力を含めた専門的知識を活用・応用する能力(専門応用能力)を養うことが重要である。
 このため、各大学院において、教育の課程を編成する基本となる単位の専攻組織のレベルで、自らの課程の目的を明確化した上で、体系的な教育プログラムを編成して学位授与へと導くプロセス管理を徹底していけるよう、教育の課程(博士課程・修士課程・専門職学位課程)の組織的展開の強化(大学院教育の実質化)により、教育内容・方法の充実を図ることに焦点を当てた改革を進める。
 また、大学院教育の実質化を通じて、国際的にも魅力ある教育を展開するとともに、実効性ある大学院評価の確立による大学院教育の質の確保等を通じて、大学院教育の国際通用性・信頼性の向上を図る。
 なお、大学院における研究者養成機能の充実・強化のためには、高度な研究環境を幅広く活用することが重要である。とりわけ、基礎研究の中核的拠点である大学共同利用機関や、大学の研究面において重要な役割を果たしている附置研究所等と大学院との緊密な連携協力を促進する。

2.高度専門職業人の養成機能の充実

 平成15年度に専門職大学院制度が創設されたが、今後、社会の各分野において国際的に活躍する高度で専門的な知識・能力を有する人材が一層必要とされることから、社会や産業界のニーズを的確に把握しつつ、知的財産や技術経営(MOT)教育など多様な分野での専門職大学院の創設・拡充を推進するとともに、教育内容・方法の充実を積極的に支援する。また、専門職大学院が、社会が求める高度で専門的な人材の養成を的確に行っていくため、専門職大学院の質の保証の仕組みを整備する。
 また、専門職大学院は特定の職業を担う人材を養成するものであることに鑑み、大学、産業界、職能団体などが共同で基礎となる教育プログラムを策定・普及するなど、理論と実践を有機的に連携させた「プロセス」としての教育機能を果たしていくことが求められる。

3.国際競争力の強化

 国際競争力のある大学づくりを推進し、世界に伍する教育研究を積極的に展開するため、卓越した教育研究拠点に対する競争的・重点的支援を一層強力に推進する。
 これについては、現在、大学の構造改革の一環として、国公私立大学を通じて、世界的な拠点形成を重点的に支援する21世紀COEプログラムが展開されているが、さらに今後、大学の構造改革全体の促進、世界的な教育研究拠点(人材養成の場としてのCOE)としての国際的にも真に評価される拠点の確立、大学院教育の実質化の推進などの観点も踏まえ、平成19年度以降のいわゆる「ポスト21世紀COE」の計画を検討し、より充実・発展した形で具体化する。

4.優秀な若手研究者の活躍

 大学院における教育研究活動を活性化し、若手の大学教員がキャリアパスについての見通しを持てるようにする観点から、各大学院において、准教授、教授へ繋がるキャリアパスの一段階としての「助教」(※8)を積極的に活用するとともに、その新規採用の際は、原則テニュア・トラック制を適用することが望まれるが、国としても、テニュア・トラックにある若手教員の活躍を確保しスタートアップも含めた環境整備(研究費、設備の確保等)を行うための所要の支援、若手教員が利用できる競争的資金の拡充、若手教員の研究スペースに配慮する大学の施設マネジメントの促進等を行う。
   
※8 「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月、中央教育審議会答申)において、今後の大学教員の基本的な職としては、教育・研究を主たる職務とする職として、教授、准教授及び助教の3種類を置くことが提言されている。

5.博士課程在学者への経済的支援の拡充

 優れた資質や能力を有する人材が、博士課程進学に伴う経済的負担の懸念なく進学する動機を保てるよう、優秀な人材を選抜するという競争性を十分確保しつつ、博士課程在学者を対象とした経済的支援を拡充する。具体的には、フェローシップを充実するとともに、トレーニーシップ的なグラントを創設する。また、学生の進路選択に当たって、大学院受験前など可能な限り早期に経済的支援が受けられるか否かを判断する措置を講じる。

6.大学院教育改革を推進するための計画の策定

 大学院教育の改革の推進に当たっては、上記の取組の他にも、大学院における教育研究指導の在り方や、課程の修了要件、教員組織の適切な在り方、施設・設備の整備を含めた財政基盤の充実などが相互に連係しており、今後の高度な知識基盤社会、社会における人材養成ニーズに積極的に対応することを基本とした総合的な取組の視点が必要である。このため、世界最高水準の大学院の形成を目指し、文部科学省において、今後の大学院教育の基本的な在り方や制度改革の方向性、財政支援等を含めた、今後5か年程度の取組計画「大学院振興計画(仮称)」(※9)を策定し、体系的かつ集中的な取組を進める。

※9 我が国の科学技術の発展にとって重要なものとして、中央教育審議会において策定が提唱されているもの。

(2)各高等教育機関の特色に応じた人材養成

 今後、高等教育機関は、各学校種ごとにそれぞれの位置付けや期待される役割・機能を十分に踏まえた教育や研究を展開するとともに、各学校種の中においても、個々の学校が個性・特色を一層明確にし、人材養成機能を発揮していかねばならない。

1.特色ある大学教育へのきめ細やかな支援

 各大学は、その個性や特色を明確化していく観点から、例えば、課題探求能力を育むために、教養教育の充実や、教養教育と専門教育の有機的連携の確保など、その人材養成の目的に応じた特色あるカリキュラムの構築、教育方法の改善に取り組んでいくことが必要である。また、これらの特色ある教育取組については、広く社会に情報提供することで、その普及を図っていくことも重要である。このような各大学の取組を積極的に支援するため、国公私立大学を通じた競争的な環境の下での財政支援を充実する。
 また、我が国の科学技術や産業を先導する高度な研究者・技術者を養成するため、大学・大学院において修得する理論を現実の課題に適応することで、問題を自ら設定し、解決できる能力を涵養することが必要である。このため、インターンシップをはじめとする産学連携を活用した人材養成の取組を強化する。
 なお、大学において、教員や事務職員の別を問わず、法務・財務、労務管理、病院経営、入学者選抜、学生生活支援、産学官連携・技術移転等の分野で活躍する専門的人材の内部育成や外部登用を支援し、大学運営に関して幅広く厚みのある人材層を形成する。このことにより、大学における事務処理の業務の高度化を推進するとともに、事務組織と教員組織との連携協力の関係を確立する。

2.高等専門学校における技術者養成機能の充実

 高等専門学校においては、5年一貫による実践的な専門教育機関としての特色を活かし、ものづくり基盤技術等を支える中核技術者教育を推進する。特に、国立高等専門学校の独立行政法人化による一元化を契機として、各高専間の相互補完・連携を一層推進するとともに、全国的視点から中核技術者に求められる実践的教育カリキュラム等の検討や、各地域の個性・特色に根ざした地域密着型の連携協力の推進を図る。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)