3.知の時代を先導するイノベーションの創出 2.知の創造と活力の創出の好循環の形成

 大学や公的研究機関における研究活動により創造された新しい知が社会で活用されることにより、経済的価値や社会的・公共的価値を生み出し、社会の活力を創出するとともに、更なる知の創造活動への投資を導くという国全体における好循環の形成を目指す。

(1)産学官の持続的・発展的なパートナーシップの確立

1.社会のニーズを踏まえた戦略的・組織的な共同研究の推進

 第2期基本計画を踏まえて、産学官連携を推進するための法制度面の整備や様々な支援策が展開されたことなどを通じ、大学等と民間企業との間における共同研究が大幅に増加するとともに、技術移転機関を通じて大学等の研究成果の社会還元が大きく進展してきた。産学官連携に参加する企業や研究者の裾野は着実に広がるとともに、経済の活性化に繋がるような成果も生まれ始め、着実に科学技術システム改革が進んでいる。
 しかし、その一方で、共同研究1件当たりの研究費の額はこの5年間増加しておらず、全体の裾野は広がったものの、産学官の協働によりイノベーションの創出を目指すような本格的かつ大規模な共同研究は必ずしも多くないと考えられる。また、我が国企業の研究費の支出先を見ると、国内大学よりも海外の研究機関を選ぶことが多いという現状がある。
 このため、今後は、大規模な共同研究などが更に活発に展開されるとともに、民間との共同研究等における大学の受入額が5割以上増加することを目指し、研究者個人と企業の一部署との間での共同研究や、学・官がシーズを生み出し産のニーズとマッチングさせるという従来型の共同研究・技術移転に加え、産学官が、長期的な観点に立ち、社会のニーズの把握や基礎的な研究課題設定の段階から積極的に対話を行い、基礎から応用までを見通した共同研究に取り組むような戦略的・組織的な産学官連携(協働研究型)を推進する。
 さらに、10年先をにらんだ先端的な融合領域において、産学官が協働して研究を推進していくため、大学・公的研究機関・企業が協働で取り組む研究拠点の形成を目指す。
 また、大学や公的研究機関の知により地域経済の活性化を図るとともに、大学等の地域貢献・社会貢献を進めるため、地域の中小企業との間で、具体的な技術課題の解決や商品化のための応用研究などに大学等が機動的に取り組む地域貢献型の共同研究を推進する。

2.持続的な産学官連携を進めるための体制整備

 産学官連携の取組を一過性のものに終わらせることなく、産学官が相互に主体的かつ持続的に産学官連携活動に取り組んでいけるよう、大学・公的研究機関の自主性を尊重した環境整備を進めるとともに、企業の積極的な取組を促す。

(a)大学・公的研究機関の主体的な取組の促進

 持続的な産学官連携を進めるためには、大学や公的研究機関が、自ら主体的に産学官連携活動に取り組むとともに、そうした姿勢を産業界に対して積極的に発信していくことが不可欠である。このため、各大学等の主体的な判断により、中期計画など大学等の運営方針の中に産学官連携活動を適切に位置付けるともに、機関内において産学官連携の推進に必要な資金が適切に措置されることが期待される。さらに、各大学等において、産学官連携活動に積極的に取り組む研究者の業績が適切に評価されることが望まれる。
 また、国は当面、そうした大学等の主体的な取組を促進するため、産学官連携に積極的に取り組む大学等の意欲を高める支援に努めるとともに、大学・公的研究機関が、企業ニーズを踏まえつつ機関内の研究能力・資源を結集し、組織的に共同研究を推進できるよう、組織横断的な共同研究推進のための体制整備を進める。

(b)産学官連携に取り組む企業の活動の促進

 産業界には、国内の大学を研究開発投資の対象として一層積極的に活用することが期待されるものであり、産学官連携活動を持続的で本格的なものとし、産から学・官への研究開発投資を拡大していくためには、参加する企業にとっても魅力的なものとしなければならない。特に、大学等との共同研究は、企業単独ではなし得ないような研究であり、それゆえにリスクを伴うものも多い。このため、共同研究税制の見直しなどにより、企業の積極的な投資・参画を促す。
 また、企業においても、産学官連携の窓口の整備や、経営方針や研究開発方針の中に産学官連携を柱の一つとして明確に位置づけるなど、積極的な連携を進めるための体制の整備や、企業ニーズの積極的な発信が望まれる。

(c)産学官相互の信頼関係の構築と人材交流の促進

 持続的な産学官連携のためには、相互の信頼に根ざした関係の構築が不可欠である。企業には、共同研究に伴い必要となる間接経費の確保や、不実施主体である大学や公的研究機関の特性への配慮などが求められるとともに、大学・公的研究機関も、企業ニーズへの柔軟な対応や秘密保持の徹底を図るなど、双方が立場の違いを理解した上で、相互の信頼関係を構築していくことが必要である。このため、双方が対話・議論する場を提供するとともに、自主的なルール作りを促す。
 また、産学官それぞれの事情に明るい人材の存在が不可欠であり、そのためには、それぞれに所属する研究者の人材交流の促進が重要である。企業から大学・公的研究機関に派遣され共同研究に取り組む例は多いが、今後は、大学・公的研究機関の研究者を企業に一定期間派遣し、共同で研究に取り組むなど、非公務員化が進んでいることを生かした学・官から産への人材交流を促進する。

(2)研究成果の社会還元の促進

1.大学・公的研究機関の知的財産活動と研究成果の社会還元

 国立大学法人化を踏まえ、現在、各大学で知的財産本部が整備されつつある。研究成果の活用を促進する上で、知的財産を適切に権利化・管理する知的財産本部は、研究成果の社会還元という大学の使命を果たす上で不可欠な存在であり、かつ、基本的には利益を生み出すことを目的とした部門ではない。これを踏まえ、今後、より多くの大学で知的財産の管理・活用体制の整備を図るため、大学の主体性及び経営努力を求めつつ、知的財産サイクルが確立するまでの相当程度の期間、その取組を支援する。なお、体制整備後の大学及び公的研究機関が、研究成果の社会還元を促進するという目的を踏まえ、特許権等の実施許諾以外に、出資、寄託等を含む多様な方法により、知的財産の迅速かつ柔軟な管理・活用に努めることを期待する。
 また、知的財産本部と技術移転機関(TLO)との連携をより一層強化し、円滑な技術移転の促進を図るとともに、対外窓口の明確化を進めることにより、産業界との連携を強化する。
 さらに、大学や公的研究機関の研究成果の社会還元の促進の一環として、技術移転を促進するための競争的な研究開発支援を充実する。

2.知的財産活動の積極的な展開のための支援の充実

 各大学や公的研究機関において、特許出願経費などの知的財産活動のための費用が、学内・機関内で適切に確保されるよう、各大学等の取組を促す。その際、競争的資金における間接経費の積極的な使用を促進する。
 大学や公的研究機関で生まれる特許等の知的財産が海外においても適切に保護されるよう、海外特許出願経費の支援を進める。

3.研究成果に基づく起業活動の振興

 起業活動を取り巻く制度整備が進み、大学発ベンチャーは確実に増えているが、諸外国と比較すると数的に極めて少なく、その活動が必ずしも経済社会の変革にまでは繋がっていない。大学発ベンチャーは、大学や公的研究機関の研究成果の社会還元を担う重要な主体であり、大学発ベンチャーの創出・発展を引き続き推進するとともに、大学発ベンチャーが、大学等発の基本技術を研究開発により更に発展・改良し、事業化に結びつけていく取組を支援する。
 また、我が国の起業家精神の広がりは世界的にも低く、起業活動への挑戦が社会に広く浸透するに至っていない。本質的な起業活動の振興には、挑戦する意欲や事業化への道筋を常に抱くような人材(いわば潜在的な起業家)の人的基盤が形成されるとともに、挑戦する人材を積極的に評価する社会的基盤の醸成が重要である。さらに、人材個々の視点に立てば、人的な交流を基に、起業を志したり、意気投合する者や支援者を見出したりする機会が存在するか否かが、起業化の際に重要となる。
 このため、大学において、起業家精神を持つ分厚い人材層の形成や起業に至る機会の創出に資する総合的な起業活動振興を促進する。例えば、起業関連科目等の充実や学内ビジネスプランコンテスト等の取組により、学生の起業家精神を刺激するとともに、研究者、学生、社会人も含めた先端技術を紹介する場や起業セミナー等による人的な交流を促進すること、インキュベーション(創業支援)施設等を中心に、起業活動に取り組む学生や研究者に対し、研究活動のみならず、会計や財務、マーケティング、法務等の経営に関する助言など大学の有する能力・資源を結集した支援を行うこと等が期待される。
 また、大学・公的研究機関・企業等と教育現場との連携・協力の一環として、社会人等による中学校・高等学校等の生徒の起業家精神を刺激するような取組が期待される。

(3)公的部門における新技術の活用促進

 国や地方公共団体、公的事業者等の公的部門が行う公共サービス(例えば、治安、防災、交通、情報、医療・福祉、環境、教育、文化等)に関連して、必要な新技術が創出・活用され、公共サービスの課題解決や高度化・生産性向上に結びついていくことが重要であり、出口である調達までを見据えた取組が必要である。
 このため、大学や公的研究機関等のシーズ供給側と公的部門の連携を促進することが重要であり、特に、安全・安心に資する科学技術の分野において、両者の情報交換や研究連携を促進する。また、研究開発の実施に当たっては、新技術の活用が想定される公的部門との密接な連携を確保し、現場の要件に立脚した研究開発を進める。研究開発では、基礎研究の段階から具体的な応用や用途を見据えるとともに、実用化に近い段階においては、公的部門のニーズや現場要求を踏まえて技術的要件や経済性等の目標を設定し、その実現に努力することが必要である。そして、それが達成された場合には、公的部門は、最終的な実用化のための必要な開発が行われるよう積極的に取り組むとともに、新技術の現場への導入を積極的に検討すべきである。その際、調達手続の公正性、透明性及び経済性の確保に留意しつつ、総合評価落札方式等の技術力を重視する入札制度の活用も期待される。
 このような取組に限らず、例えば低公害自動車等、政策需要に基づくより技術的要求度の高い新技術について、国が率先して先進的な初期需要者として機能することは、新技術に係る市場の形成や民間におけるイノベーションを刺激することとなり、社会的・公共的価値の創出のみならず、経済的価値の創出の観点からも意義が大きい。
 また、研究開発型ベンチャーにとって、その製品やサービスが公的部門によって調達されることは、企業の信用力を高めるとともに、創業段階での収入確保のためにも重要である。例えば、研究機器など特別な仕様に係る新技術については、技術力を持ち、要求に対して柔軟に対応できる研究開発型ベンチャーの能力が活かされる分野であり、その能力活用に政府として取り組むべきである。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)