3.知の時代を先導するイノベーションの創出 1.研究の発展段階に応じた研究開発資金制度の整備

 科学の発展やイノベーションの創出を支えるための様々な研究開発資金制度は、研究の発展段階や特性に応じて、適切に整備されることが必要である。

(1)研究の発展段階に応じた各制度の趣旨等の明確化

 研究開発は、研究の発展段階や特性、求めるべき効果・効用の明確化の度合いに応じて、何を成果として求めるか等が異なるため、各種の研究開発資金制度(特に外部研究開発資金制度)は、それらを踏まえて、制度の趣旨、評価法、推進方策等を一層明確化すべきである。その上で資金配分側は、その制度の趣旨等を研究実施側に明確に伝え、研究実施側はそれをよく理解して研究開発に取り組むことが重要であり、それによってこそ所期の優れた成果が創出されることとなる。
 例えば、競争的資金には様々な制度が存在するが、同分野の専門家により科学的・技術的な観点を専ら重視した評価を行う、いわゆるピアレビューを行う制度が多い。このようなピアレビューを主体とした競争的資金制度は、基本的に、基礎研究に適する制度である。一方、より具体的な応用や用途を想定する研究開発には、それに適した評価法や推進方策が必要である。

 なお、基礎研究を支える競争的資金において、研究者の斬新なアイディアに基づく研究であって、失敗の可能性はあるが革新性の高い成果を生み出しうる研究を推進する場合、研究計画の書類審査のみではなく、研究者個人のアイディアの独創性や可能性を見極める審査が重要となることがある。そのため、配分機関は、適切な審査基準を設け、制度の趣旨に応じ責任と裁量を持って課題を選定することも有効であることに留意する必要がある。
 また、競争的資金以外の外部研究開発資金制度であっても、配分先の選定に関する適正な手続きの確保や研究者の所属する研究機関への間接経費の措置など公正で効果的な実施のためのルールづくりが必要である。

(2)技術革新を狙う新しい制度の推進

 これまでの競争的資金の拡充等により、研究水準は着実に向上し、我が国の知の創造の基盤は充実しつつある。今後は、知の創造の基盤をより強固にしつつ、成果の社会への還元を進める観点からも、創出された科学的知見や技術的概念が、目に見える形となって経済社会で活用されるようにすることが必要である。
 一方、競争的資金制度を除く、我が国の外部研究開発資金の多くは、技術的予見を基にロードマップの策定が可能な範囲の比較的実用化に近い研究開発を対象としていると考えられる。我が国が自らの研究成果からブレークスルーとして全く新しい革新的技術を生み出し、自らの競争力確保に繋げていくためには、基礎研究と実用化に近い研究開発を繋ぐ研究開発、いわば、論文発表に留まらず目に見える形で技術革新を狙う研究開発の強化が不可欠である。
 このため、既存の制度の趣旨等の明確化を図りつつ、技術革新を狙う外部研究開発資金制度を、「技術革新型公募資金制度(仮称)」として再整理し、抜本的に拡充する。
 技術革新型公募資金制度(仮称)は、基礎研究の成果の蓄積から有用な革新的技術を生み出すものであり、

● 研究開発により、科学的・技術的ポテンシャルを高めるだけでなく、最終的には目に見える形で技術的成立性を検証する段階まで到達することを狙って推進する。
● 従って、期待される効果・効用(アウトカム)を踏まえた明確な目標設定や適切な研究進捗管理を行う必要があり、科学的・技術的観点のみならず、社会的観点、経済的観点を重視した評価が行われる。
● 典型的には、研究代表者とは異なる立場で設置される、責任と裁量あるプログラムマネージャーがアウトカム志向で可能性を発掘する段階から、課題の選定、研究者・研究組織との調整、研究進捗管理等の段階までを一貫して担う制度が考えられる。
 技術革新型公募資金制度(仮称)としては、1既存の研究成果等と具体的な応用や用途を結びつけ、技術革新を狙って技術的成立性の検証に至る制度、2高い応用可能性のポテンシャルが想定される技術の種を基礎研究の段階から育てるに留まらず、研究の進展に合わせてより具体的な応用や用途への適用を行い、技術的成立性の検証に至る制度(基礎的段階から技術革新を明確に狙う制度)が考えられる。
 また、上記2の一形態として、「先端融合領域拠点形成事業(仮称)」を推進する。この事業は、大学や公的研究機関等を中核とした研究拠点の形成を目指し、計画段階から内外の英知を結集して、経済社会ニーズや課題を踏まえた先端的な融合領域であって重要な研究領域を設定するとともに、優秀な人材の結集による積極的な分野融合を図った時限的・弾力的な組織編成を行い、優れた研究、人材養成が行われる場を設けることによって、技術革新を狙って基礎的段階からの研究を展開するものである。その際、産学双方にとって魅力ある領域の研究拠点の形成となるよう、計画段階から運営段階まで産業界の積極的な関与が望まれる。このような方式は、本格的な産学官連携による研究の推進、産学の垣根を超えた人的交流や、先端的で実践的な研究に触れることを通じた優れた研究人材の養成など科学技術システム改革にも大きく寄与すると考えられる。

●  技術革新型公募資金制度(仮称)の類型

技術革新型公募資金制度(仮称)の類型の図

(3)研究成果を繋ぐ仕組みの構築

 競争的資金等の様々な研究開発において生み出された研究成果のうち、次の段階にある制度や公的研究機関等の研究開発に活用されることにより、イノベーションの創出が加速される可能性があるものが少なからず存在すると考えられるにも関わらず、既存の研究成果の活用については、研究開発プロジェクト立案時の単発的な技術調査や学会における情報交換等といった研究者の自発的な取組に専ら依存している場合が多いと考えられる。研究成果をより積極的に繋ぐ仕組みが存在しないため、優秀な成果が死蔵されてしまうことも懸念される。
 従って、基礎研究からイノベーションの創出まで切れ目なく研究開発を支える各種制度を確保した上で、イノベーション創出を更に強力に推進するため、大学や公的研究機関の研究成果や、ある制度で生み出された研究成果が、適切に次の制度等で活用されるような、繋ぐ仕組みの構築を推進する。例えば、事後評価を活用した仕組みや各制度の研究成果から更なる応用可能性の情報を抽出・集約したデータベースを構築するとともに、種々の制度や公的研究機関のプロジェクトの立案時にはデータベースをはじめ広く大学や学会等の研究成果を調査する機能を強化するなどの取組を検討し、具体化する。

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