2.科学技術関係人材の養成・確保 1.優れた研究者の確保

(1)公正で透明性の高い採用選考・人事システムの構築

 研究者がその能力を最大限に発揮し活躍するためには、基本的な前提条件として、能力主義に基づく競争性・流動性を原則とした、公正かつ透明性の高い採用選考・人事システムが広く徹底されることが不可欠である。
 大学や公的研究機関における研究者の採用においては、年齢、性別、国籍等を問わず、原則公募の開かれた応募機会の中から競争的な選考が透明性高く行われるようにする。また、研究者の処遇においては、各人の能力や業績を公正かつ適切に評価し、処遇に反映させるようにする。
 また、多様な研究経験の蓄積を持つ者が多様な価値観を背景に切磋琢磨しながら創造的な研究活動を行う環境を醸成する観点及び人材流動性の素地を形成する観点から、研究者を任期を付さない職につける際には、出身大学学部卒業後に、大学等の機関(もしくは専攻組織や研究室)を少なくとも1回変更した者を選考することが望ましい(「一回異動の原則」の奨励)。
 大学や公的研究機関においては、それぞれの特性に応じた自主的・自律的な検討に基づき、採用選考・人事システムの改革を図っていくことが前提であり、同時に、これらの取組に関する考え方などを社会に向けて明らかにしていくことが必要である。従って、大学や公的研究機関が行う自己点検・評価において、採用選考や人事の方針についても、評価・改善を実施し、結果を公表していくことが望まれる。また、大学や公的研究機関が受ける第三者評価においても、その趣旨が生かされるよう適切に扱われることが望まれる。
 国は、大学や公的研究機関における採用選考・人事システムの改革の取組の状況を把握し公表するとともに、組織に対する競争的・重点的な支援制度の審査において、制度の目的に応じ、採用選考・人事システム改革や整備の状況を審査の一指標とすること等により、大学や公的研究機関の取組を促進する。

(2)若手に自立した活躍の機会が与えられる仕組みの整備

 活力ある研究環境を形成し、能力ある若手研究者の意欲を高める観点から、任期制の普及とともに若手が自立して裁量ある研究を行える「テニュア・トラック制」の導入を促進すること等により、研究暦が浅いが将来性のある優秀な若手研究者に活躍の機会が与えられる仕組みをつくりあげる。

1.任期制の広範な普及

 世界的研究・教育拠点を目指す大学や公的研究機関において、研究者の流動性の向上により研究活動の活性化を図る観点から、後述の「テニュア・トラック制」の導入との整合性を図りつつ、任期制の広範な定着に引き続き努める。特に、若手研究者については、任期制が広く普及することが望まれる。なお、任期制の導入に当たっては、民間も含めた研究者全体に一定の流動的な市場が存在することが必要であるため、例えば、複数の大学等の相互協力等による同時実施の枠組みの構築や、民間の研究機関における任期付きの職の拡大などが求められる。

2.若手が自立して裁量ある研究を行えるテニュア・トラック制の導入

 若手研究者に活躍の機会を与え、優秀な人材を適切に確保するため、世界的研究・教育拠点を目指す大学や公的研究機関においては、任期制等により一定期間、若手研究者が裁量ある自立した研究者としての経験を積んだ上で、厳格な審査を実施し、その間の業績や研究者としての資質・能力が高いと認められた場合には、任期を付さずかつ一般に上級の職を与える仕組み(いわゆる「テニュア・トラック制」※2)の導入を奨励する。特に、世界的研究・教育拠点を目指す大学においては、それぞれの教員組織の実情や分野の特性に応じて、准教授、教授へ繋がるキャリアパスの一段階としての「助教」の活躍の場を整備するとともに、その新規採用の際は原則テニュア・トラック制を適用するなど積極的な導入が望まれる※3。
 テニュア・トラック制を導入する大学や公的研究機関においては、速やかに研究を開始できるようなスタート・アップ環境の整備、研究支援体制の充実、研究スペースの確保などにより、テニュア・トラックにある若手研究者が、資質・能力を十分に発揮できるよう研究に専念できる体制を確保していくことが不可欠である。その際、大学は、組織としての教育研究機能が十分発揮されるよう、職務の分担及び連携の組織的な体制を確保することが重要である。

 国は、大学や公的研究機関における任期制やテニュア・トラック制導入に係る取組状況を把握するとともに、
 ● テニュア・トラックにある若手研究者の活躍を確保しスタートアップも含めた環境整備(研究費、設備の確保等)を行うため所要の支援を行う。
 ● テニュア・トラックにある若手研究者を対象とした競争的資金を重点的に拡充する。
 ● 21世紀COEプログラム等の組織に対する競争的・重点的な支援制度の審査において、制度の目的に応じ、テニュア・トラックにある若手研究者が活躍できる環境づくりの取組を審査の一指標とする。
 ● テニュア・トラックにある若手研究者の研究スペースが確保されるよう大学の施設マネジメントの取組を促進する。

 なお、ポストドクター等1万人支援計画は、その達成により優れた若手研究者の養成に大きく寄与してきた。今後は、ポストドクター後のキャリアパスを明確にするため、研究者を志すポストドクターをテニュア・トラックの前段階と位置づけ、ポストドクター終了後の研究者の実態等を踏まえ、フェローシップの支給や競争的資金による雇用等の支援を充実しつつ各施策の質的改善を推進する。
 また、若手研究者が早い段階で海外での研究活動を経験し、自己研鑽する機会を充実させる。各大学等では、テニュア・トラックにのる研究者の採用にあたり、ポストドクターや海外での研究活動による、自己研鑽の経験を適切に評価することが期待される。

※2 任期を付さない職(米国等に見られるようなテニュアに相当する職)の取得に向けて経験を積む一定期間の職をここでは「テニュア・トラック」と呼ぶ。

※3 「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月、中央教育審議会答申)において、今後の大学教員の基本的な職としては、教育・研究を主たる職務とする職として、教授、准教授及び助教の3種類を置くことが提言された。この答申等を踏まえ、助教授・助手に関する制度の見直しを行う「学校教育法の一部を改正する法律案」が第162回国会に提出されている。

(3)多様で優れた研究者の活躍の促進

 優秀な研究者の確保や多様性の向上によって我が国の研究活動に広がりや活力を与えるという観点から、女性研究者や外国人研究者など多様な研究者がその能力を最大限発揮し活躍することを促進する。

1.女性研究者の活躍促進

 優れた研究者がその能力を最大限発揮することができるようにするため、国は引き続き競争的資金等において、出産・育児に伴い受給の一定期間の中断や期間延長を認めるなど出産・育児に配慮した措置を拡充する。
 大学や公的研究機関等においては、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画に研究と出産・育児等の両立支援について規定し、環境整備のみならず意識改革を含めた取組を着実に実施することが求められる。
 また、大学・公的研究機関における採用について、特に女性の活躍が少ない分野においては、多様で優れた研究者の活躍を促進する観点から、女性研究者の能力や業績を公正・適切に評価して積極的に登用することを期待する。また、採用のみならず、昇進・昇格や意思決定機関等への参画においても女性研究者を積極的に登用することが望ましい。
 女性研究者の割合については、各機関や専攻等の組織毎に、目標や理念、女性研究者の実態が異なるところであるが、女性研究者の積極的採用を進めるため、各組織毎に当該分野の博士課程における女性の割合等を踏まえつつ、各機関において女性の採用の数値目標を設定し、その達成状況を公開するなどの取組がなされることを期待する。国は、各大学や公的研究機関における取組状況を把握し、公表する。

2.外国人研究者の活躍促進

 世界的研究・教育拠点を目指す大学や公的研究機関が、世界水準の研究が遂行されるよう、優れた研究実績をあげている外国人研究者を積極的に登用することを促進するため、登用に伴い必要となる経費等を競争的な支援として一定期間支給する等の取組を行う。
 また、我が国で成果を挙げた若手外国人研究者の定着を図るためにも、大学や公的研究機関は、研究者の国籍を問わず、その能力や業績を公正・適切に評価し、研究者の登用や処遇への反映を図ることが求められる。
 世界的研究・教育拠点を目指す大学や公的研究機関は、各機関や専攻等の組織毎に、国際戦略が異なるところであるが、外国人研究者の活躍の促進に係る取組を明確にするため、当該分野の博士課程における留学生の割合やポストドクターに占める外国人の割合、国際動向等を踏まえつつ、外国人の採用の数値目標の設定を含めた外国人研究者の活躍促進に係る行動計画を策定し、その達成状況を公開するなどの取組がなされることを期待する。国は、各大学や公的研究機関における取組状況を把握し、公表する。
 また、我が国で博士号を取得した留学生が我が国でポストドクターとして研究を行う機会を明確な形で提供する。このため、外国人向けポストドクター招へい制度に対する、留学生の応募可能性を明確化する。
 このような取組を通じて、優れた外国人研究者の我が国におけるキャリアパスの構築を図っていくことにより、優れた留学生、ポストドクター等の来日促進及び来日後の我が国への定着に資する。

3.優れた高齢研究者の能力の発揮

 研究活動においては、創造性や柔軟性豊かな若手研究者の活躍を促進することが基本であり、年功主義を残し、能力主義を徹底しないまま安易に雇用期間の延長等を行うことは、若手研究者の登用の機会を奪い、研究現場の活力を失わせるおそれがある。一方、国際的に見て真に優秀と認められる研究者については定年後も競争的資金や外部資金等の活用により何らかの形で研究を継続できるようにすることや、定年後の研究者が研究職以外の立場で、その能力や知見を活かして活躍できることも重要である。このため、各機関における適切な取組が期待される。

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