1.科学技術の投資戦略 2.国家的・社会的課題に対応した研究開発の推進

 国家的・社会的課題に対応し、社会的・公共的価値及び経済的価値の実現を目指す研究開発については、第2期基本計画での重点化の考え方を基に、より効果的な重点化の対象の絞り込みを図るとともに、国民の目に見える成果を上げるための仕組みを設けて研究開発を推進する。

(1)重点分野における選択と集中

 厳しい財政事情の下、効果的・効率的な研究開発資金の活用を図りつつ、環境保護と経済発展の両立や国際競争力の維持・強化等、我が国が直面する国家的・社会的課題を克服していくための選択と集中を引き続き行っていく必要がある。
 これまで、第2期基本計画において、知的資産の増大・経済的効果・社会的効果への寄与を評価し設定された重点4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)に優先的に資源配分がなされてきたところであるが、重点4分野との大括りの分類に該当することのみをもって重要性の低い研究開発に優先投資されることを避けるとともに、より効果的・効率的な研究開発資金の活用を図るため、分野の中に更に重点領域を設定して重点化の対象の絞り込みを行う。
 その際、精緻な調査分析により、中長期的に知的資産の増大・経済的効果・社会的効果への高い寄与が見込まれる先端領域を的確に設定する必要がある。このようにして設定される重点領域における研究開発は、波及効果が高く、社会の様々な課題解決に資するイノベーションを生み出すことが期待される。
 科学技術政策研究所の調査分析結果等により文部科学省において抽出した重点領域の例は、ほとんどが重点4分野の領域及びこれらの融合領域となった。また、内閣府が行った有識者アンケートにおける受容度及び投資戦略の継続性等も勘案すると、引き続き、ライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、情報通信、環境の4分野を優先投資の範囲とするとともに、分野の中に重点領域を設定してより優先度の高い投資の対象として絞り込むことが妥当と考えられる。

 第2期基本計画では国家的・社会的課題に対応した研究開発全体を8分野に分類し重点4分野が設定されたが、8分野の分類自体は、ニーズとシーズの観点が混在するなど分類法の一貫性が保たれておらず、結果として、分野間の重複や分野の範囲の大きさに差異を生じるなど、必ずしも合理性があるものではない。また、フロンティアやエネルギーなどという形で重点分野以外の分野を掲げることにより、非常に重要な研究開発が、それに該当することをもって十分な評価なく低い優先度が与えられるとすれば、その弊害は大きい。このため、4分野以外の分野の明示はせず、今後は、選択と集中を旨としつつも4分野に属さない研究開発にも適切に配慮することが重要である。

 なお、重点領域は、社会のニーズや政策課題の変化を踏まえ、新興領域の発展など科学技術の進展や諸外国の動向等を反映して優先度を今後さらに検討すべきであり、またこれを適宜改定していくことも必要である。そのためにも、今後、科学技術政策研究所や科学技術振興機構等の有する調査分析能力を一層強化していくこととする。また、毎年度の資源配分方針の策定に当たっては、これら機関の能力や優れた研究者の知見を引き出し、これを活用していく仕組みを構築することが重要である。

(2)成果の社会への実装に向けた科学技術の推進

 重点4分野及び重点領域における研究開発は、波及効果が高く、社会の様々な課題解決に資するような、イノベーションを起こすことが期待される。一方、国家戦略や経済社会のニーズに基づいてテーマを設定する研究開発は、社会への実装に向け、国民の目に見える成果をあげるための仕組みを設けて推進することが必要である。
 このため、期待される効果・効用を踏まえた目標設定と適切な進捗管理(出口管理)が明確に可能な研究開発を精選して推進する。また、このような研究開発は、技術的予見を基にロードマップを作成し、必要に応じ柔軟な見直しを行いつつ推進することが効率的と考えられる。

国家基幹技術

 我が国における少子高齢化、アジアにおける中国・韓国等の台頭やBRICs諸国の成長等による国際社会のパワーバランスの変化と資源・エネルギー供給の逼迫化、地震・台風といった自然災害の頻発、温室効果ガス削減を国際約束とする京都議定書の発効、新興・再興感染症やBSE等の健康と食品の安全に対する不安等、現在我が国を取り巻く状況が、第2期基本計画が策定された当初より大きく変化している。この知の大競争時代に第一級の国家として持続的に発展し、世界をリードしていくためには、国の持続的発展の基盤であって長期的な国家戦略を持って取り組むべき重要な技術(「国家基幹技術」)を精選して推進することが不可欠である。もの創り基盤技術など国際競争力強化の基盤となる技術の開発を進めることも重要であるが、とりわけ「資源・エネルギー、環境、国土保全、災害監視等の国家の総合的な安全保障に密接に関わり、我が国の存立基盤を支える重要技術」や「科学技術の発展を強力に牽引し、先端的成果が得られる世界最高性能の研究設備を実現する技術」について、その技術体系の維持・強化を図っていくことが極めて重要である。
 これらの「国家基幹技術」は、国力を象徴する技術であることはもちろん、国益を守ることに重要な貢献を果たし、技術的ブレークスルーの原動力となるものである。世界の先頭に立って、これらの「国家基幹技術」の推進を進めることにより、我が国の活動の自在性を確保するとともに、他国のモデルとなるような技術体系の確立、世界の頭脳の集中による知の発信拠点化等により国際社会における我が国の存在感を高め、発言力を強めていくことにもなる。
 このような「国家基幹技術」としては、例えば、地球規模の統合観測・監視システム、宇宙輸送システム、スーパーコンピューティング、タンパク質解析等に係る技術といったものが考えられる。(章末に文部科学省が担うべき国家基幹技術の例を示すが、これらについては今後さらに議論を深めていくことが期待される。)
 その推進に当たっては、研究開発を計画的かつ効率的に推進するための仕組みを構築するとともに、期待される効果・効用を踏まえた目標設定と適切な進捗管理を徹底しながら、研究開発成果の社会への適用及び目標実現の評価を厳密に実施することが必要である。

課題解決型研究開発(安全・安心に資する科学技術、経済活性化に資する科学技術等)

 安全・安心に資する科学技術や経済活性化に資する科学技術等を対象として、経済社会が抱える課題解決に資する実用化に近い研究開発について、期待される効果・効用を踏まえた目標設定と適切な進捗管理(出口管理)が明確に可能な研究開発を精選して推進する。
 このため、経済社会のニーズを見極めて設定する課題に対し、適切な目標設定と研究管理システムを持つ研究開発施策を重視する。それぞれの研究開発施策は、例えば、研究代表者とは別に、資金配分側に責任と裁量を持つプログラムマネージャーを設けることなどによって、出口管理の徹底がなされることが必要である。
 このような研究開発は、文部科学省のみならず、むしろ、その他の業を所管する府省等に期待されるところが大きいが、各府省の関連する研究開発施策の連携効果を高め、効果的・効率的な課題解決に資するため、総合科学技術会議の科学技術連携施策群を発展させた仕組みの下でこれを推進することが有効と考えられる。総合科学技術会議と関係府省が協力して解決すべき課題を設定するとともに、その課題の下、ロードマップを作成しつつ、出口管理を適切に行う研究開発施策を精選して登録し、優先的に資源配分する。また、研究開発のみならず、総合科学技術会議と関係府省の適切な役割分担の下で、規制緩和、国際標準化、調達促進等の施策を総合的に推進することが重要である。

【課題例】犯罪・テロ防止(高感度センサー開発、センサーシステム構築)、新興・再興感染症対策、減災対策(人命及び財産損失軽減、災害リスクマネジメント)、環境保全・再生(生物多様性、都市再生、化学物質リスク評価、地球環境変動予測)、バイオマス利活用、水素利用・燃料電池 等

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)