1.科学技術の投資戦略 1.基礎研究の推進

 科学技術は、基礎研究から実用化に近い研究開発まで、研究の発展段階や特性に応じて、投資の考え方や期待される成果が異なる。基礎研究は、新たな発見や大きな飛躍による先導性を追求する上で欠くことができないものである上に、社会の安全を確保する上で偶発的な事態に即応できる知的な体制を保持するためにも、その多様性を確保することが必須である。一方、実用化に近い研究開発では、必要な資源投入量が増加するとともに、社会への実装に向け、国民の目に見える成果をあげるため、資源の選択と集中が欠かせない。
 「知の世紀」といわれる21世紀の初頭を迎え、あらゆる面で加速の度合いを増す国際競争の中で、我が国は独自の工夫と努力によって自らの道を切り拓いていかねばならない厳しさに直面している。我が国が自らの研究成果を、国民の生活水準の向上や社会の課題解決の基盤とし、自らの競争力確保に結び付けていくためには、科学技術を俯瞰的に捉えた上で、投資の効果を全体として向上させるべく、研究の発展段階や特性に応じた明確な方向性に基づく研究開発投資戦略を確立する必要がある。

1.基礎研究の推進

 新しい法則・原理の発見、独創的な知見の獲得、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究は、人類の知的資産の拡充に貢献し、同時に、世界最高水準の研究成果や経済社会を支える革新的技術などのブレークスルーをもたらすものである。このような基礎研究を一層重視し、幅広く、着実に、かつ持続的に推進していく。
 基礎研究には、研究者の自由な発想に基づく研究(自由発想研究)と、特定の政策目的に基づく基礎研究(政策目的基礎研究)があり、それぞれの意義を踏まえ推進する。

(1)研究者の自由な発想に基づく研究-多様性の確保-

 大学を中核として研究者が自由な発想に基づいて取り組む萌芽段階からの研究は、科学の発展及びイノベーション(※1)の創出双方の源泉である。萌芽段階からの多様な研究を長期的視点から推進し、国全体として、いわば「多様性の苗床」として新しい知を生み続ける重厚な知的蓄積を形成・確保することが必要である。
 このため、大学において、研究計画を立案し競争的資金の獲得に至るまでの構想段階の研究を保障することがまず重要となる。また、大学の重要な使命である優れた人材養成には、研究活動と一体となって教育活動が安定的に行われることが極めて重要であり、このような教育研究活動を支える大学の基盤的経費は確実な措置が必要である。
 その上で生み出される優れた研究は、主に個人や比較的小さいグループで取り組むものについては、競争的資金により優先的・重点的に研究費を助成し、組織的又は長期的な取組が必要な分野については大学において基盤的経費等を充てることにより、更なる研究の発展を確保することとなる。従って、大学においては、基盤的経費の確実な措置と、競争的資金との二本立て(デュアルサポートシステム)によって研究体制を構築することが重要である。
 また、科学の発展を目指す研究は、萌芽段階からの多様な研究を土台として、成長期、発展期の段階に至っていくが、その中でも、特に大きな資源の投入を必要とする大規模研究については、研究者の発意を基に、国としても判断を行い推進する。大規模研究は、従来の科学の概念を変えるほどの画期的な成果が期待される上、我が国が世界的にみても独自の施設を整備し、国際的な拠点を形成することによる国際的なリーダーシップの発揮、国際協調・国際共同による世界の科学の発展への貢献や、優れた研究者や技術者の養成などの波及効果も極めて大きい。このことから、厳格な評価の下、大規模研究を今後とも着実に推進する。

※1 イノベーションは、一般に、新たな価値を創造する革新を指すが、本とりまとめにおいては、経済的価値及び社会的・公共的価値を創造する革新を指す。

(2)特定の政策目的に基づく基礎研究

 国家的・社会的課題への対応を念頭に、特定の政策目的に基づき政府が目標・目的等をあらかじめ示して行われる基礎研究は、萌芽段階からの多様な研究を土台として発展し、その成果は、より具体的な応用や用途を想定した研究開発や社会の課題解決に対して、多様な選択肢を提供することとなる。
 この段階の研究は、国家的・社会的課題に対応した研究開発としても位置付けられ、中長期的に知的資産の増大・経済的効果・社会的効果への高い寄与が見込まれる分野や領域に重点的に資源配分を行う。

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科学技術・学術政策局計画官付

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