3.基幹技術についての概念整理

(1)ビジョンの実現を目指した取組みを効果的かつ効率的に進めるためには、科学技術政策をこれまで以上に戦略的に推進していく必要がある。とりわけ、次期基本計画期間における資源配分にあたっては、ビジョンの実現に対して、いかに効果的であるかという視点に重きを置いた「目的達成志向の研究開発」への重点化が不可欠である。

(2)このような認識を踏まえ、委員会では、資源配分方針に示された3つの概念との対応も考慮しつつ、まずビジョンを実現するために取り組むべき戦略目標(ターゲット)を設定することとした。具体的なターゲットの設定にあたっては、「どのような研究開発に取り組むべきか」ということを具体的にイメージすることができるように考慮することとした。委員会では、数名の委員に外部有識者を加えて検討を行い、以下の3つのカテゴリに属する6つのターゲットを設定した。

【競争力の維持・強化】
 我が国の活力や国際社会における我が国の存在感の源泉は、「強み・良さ」を生かした産業の国際競争力にあると言っても過言ではない。「価値創造型のモノづくり」という我が国の強みを維持しつつ、さらにこれまで以上に伸ばしていくことは、質の高い国民生活の実現はもとより、創造される価値によって国際貢献を果たし、国際社会における我が国の存在感を示していく上で極めて重要である。このような観点から、我が国の競争力の維持・発展について以下のターゲットを設定する。

  1. 高い競争優位性を有する領域の維持・発展
  2. 波及効果の高い基盤的・根源的領域における先導性の追及

1 総合科学技術会議は、「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で、国の持続的発展の基盤となる重要な科学技術の精選・推進を図ることとし、次に該当するものを対象とするとしている。1今日我が国が比較優位にあり、長期的にも国際的な競争の中で確保していくことが必要な科学技術であって、我が国の国際競争力の強化のために不可欠な基盤となるもの、2国際社会で我が国がリーダーシップを維持するため必要な科学技術であって、科学技術創造立国を内外に強くアピールする上でも、国として着実に推進していくことが必要なもの、3幅広い分野に波及効果をもたらすことのできる科学技術であって、国が一体となって推進していくことにより、社会の発展に貢献するもの。

【自立性・自律性の確保】
 我が国が持続的に発展していくためには、国家としての基本的な機能(セキュリティの確保、ナショナルミニマムの保障など)を確実に果たしていくことが大前提である。あらゆる分野で急速にグローバル化が進展する中で、他の国々との適度な共存を志向しながら、真に重要な部分で我が国の自立性・自律性を確保することは、国の存立基盤を確固たるものにするばかりか、産業の国際競争力の維持・発展、安心・安全な社会の実現にも大きく寄与する。このような観点から、我が国の自立性・自律性の確保について以下のターゲットを設定する。

  1. 国民の生命・財産、我が国が有する社会インフラの保護
  2. 資源、エネルギー、食料などの安定的な確保

【存在感・魅力の発揮】
 今や「国の品格」は国力の一つと捉えられることが一般的である。特に、大きな変貌を遂げつつあるアジア地域において、我が国が有する高い技術力を最大限に活用して目に見える貢献を果たし、尊敬に値する活動を展開することは、我が国の品格を高めるだけでなく、同時にアジア地域全体、ひいては全地球的な規模の利益とともに、国民の科学技術に対する理解の促進にもつながるものと言える。このような観点から、存在感・魅力の発揮について以下のターゲットを設定する。

  1. 地球的な規模の問題への適切な貢献
  2. 先端技術の保持・活用によるリーダーシップの発揮

(3)また、委員会は、上述の6つのターゲットに対応して、必要な「知」や「技術」を統合して実施する大規模な研究開発計画(プロジェクト)の候補を挙げた。別添2に挙げたプロジェクトは、「国として戦略的に推進すべき基幹技術」の候補としていずれも適切であると思われるが、今後、他の候補などについて更に検討を進めることが適当である。

(4)なお、各プロジェクト候補については、以下の4つの戦略性に係る視点から評価を加える。委員会は、このような手法で行った評価の結果で極めて戦略性が高いと認められるプロジェクトに対し、資源を重点配分し、早期に適切な成果・効用をもたらすことができるよう強力に推進すべきである旨提案したい。
○ 期待される効果・効用(アウトカム)が大きいかどうか。また、革新的であるかどうか。
○ 日本ならではの視点があるか、他国では成り立たない戦略かどうか、他国との差別化がなされているかどうか。
○ 国が取り組むべきビジョン達成志向の取組みかどうか。
○ 今着手しなければならない必然性があるかどうか。

(5)また、「知」や「技術」をプロジェクトに統合する「統合化技術」についても十分に考慮すべきである。

(6)言うまでもなく、プロジェクトに対して資源を重点配分するだけでビジョンが実現するわけではない。国民の支持と理解を得て、研究開発の成果を実用化につなげたり、実社会の仕組みとして組み込んだりする努力などが相まってビジョンが初めて実現されることになる。今後、委員会では、この点についても引き続き議論を行うこととするが、広く関係者においても大所高所からの広範な議論を期待したい。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)