2.検討の前提(前提となるビジョン)

(1)我が国の科学技術政策は、真の科学技術創造立国を目指して平成7年に制定された科学技術基本法と、同法に基づいて策定された基本計画によって推進されている。これによって、今日までに我が国の研究開発水準は着実に改善され、政府による有望分野への重点投資が進展するとともに、優れた研究開発成果を生み出し、還元するための仕組み(科学技術システム)の改革も進められている。

(2)他方、我が国を取り巻く状況は、現在の第2期科学技術基本計画が策定された当初から劇的に変化した。我が国において少子高齢化が現実の問題として直視されるようになり、労働力人口の減少、社会保障支出の増大などへの懸念から「日本の先行き」に不安を覚える人が急速に増えていること、韓国・中国の経済躍進など国際社会のパワーバランスが大きく変貌していること、地震・台風といった自然災害の頻発、新興感染症への対応などを契機として、国民が切実な思いで安全・安心な社会の実現を求めるようになっていることなどが、その例である。

(3)このような状況の変化に伴い、これからの科学技術政策に求められるものも大きく変化している。とりわけ、第1期・第2期の基本計画を経て、我が国の研究開発環境がよりよい方向に向かっていることなどを踏まえ、科学技術政策による「目に見える成果」を期待する声が高まっている。細分化され、複雑化した領域ごとに得られた「知」を、「我が国のあるべき姿」(以下、「ビジョン」という。)の実現に向け国家レベルで構造化することに取り組むなど、今後はこれまで以上に具体的かつ効果的な戦略が強く求められるようになるだろう

(4)委員会では、国としてとるべき具体的かつ効果的な戦略を明らかにするために、まず委員の間で議論の前提となるビジョンを共有することが不可欠であるとされた。なお、掲げるべきビジョンとしては、「尊敬」、「信頼」、「魅力」、「活力」、「たくましさ」、「品格」といったキーワードを含むものを検討してはどうかとの意見があった(別添1)。

(5)他方、議論の前提となるビジョンを、現行基本計画に掲げられた1「知の創造と活用により世界に貢献する国」、2「国際競争力があり持続的発展ができる国」、3「安心・安全で質の高い生活のできる国」としてはどうかとの意見も出された。これらは第2期基本計画期間後もなお、その達成に向けて取り組むべきものと考えて差し支えないという意見が大勢であったことなどから、委員会としては、前述のキーワードも十分に意識しつつ、この3つを議論の前提として共有し、以後の議論を行うこととした。

(6)また、委員会ではビジョン実現に向けて考慮が不可欠な、我が国を取り巻く今日的な課題についても議論を行った。その結果、委員会では、特に以下の課題について考慮することが不可欠である旨を確認するとともに、これら今日的な諸課題の解決のために科学技術の役割は益々重要性を増しているとの認識を共有した。

- 産業の国際競争力の強化に関する取組みが奏功しつつある韓国、中国などの参入により世界的な競争が一層激化する中、世界に類を見ない少子高齢化社会への移行に直面する我が国が、国際社会における発言力や存在感をどのように維持し、向上させていくか。

- 著しい経済成長を遂げる国と、貧困にあえぐ国との格差が広がり、世界全体の平和の維持や持続的な発展のための有効な方策が求められている中で、我が国がどのように貢献を果たしていくことができるか。

- 地球的規模での人口の爆発的な増大が進展することに伴い、水や食料、資源・エネルギーの不足、地球温暖化などの地球環境問題といった人類の生存、国家の存続に係る問題に対して、我が国がどのように迅速かつ適切な対処をしていくことができるか。

- 近年、地震・台風などの自然災害の頻発や、新興感染症などの問題が顕在化する中、国民の生命と財産を守るという政府の役割をどのように果たしていくのか。

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