資料6‐1 地域イノベーション・システムの構築と豊かで活力ある地域づくり

科学技術・学術審議会
基本計画特別委員会 (第4回)
平成16年11月25日

■第2期基本計画のポイント

【地域における科学技術振興のための環境整備】

 地域の研究開発に関する資源やポテンシャルを活用することにより、我が国の科学技術の高度化・多様化、ひいては当該地域における革新技術・新産業の創出を通じた我が国経済の活性化がはかられるものであり、その積極的な推進が必要。このため以下の取組を行う。

(1)地域における「知的クラスターの形成」

 地域のイニシアティブの下での知的クラスター形成を、効果的・効率的に実現するため、国は共同研究を含む研究開発活動の推進、人材の養成・確保、技術移転機能等の充実を図る。

(2)地域における科学技術施策の円滑な展開

 地方公共団体のイニシアティブの下で進める科学技術振興に際して、地元の国立大学等の公的研究機関と地方公共団体とが一層の連携・協力を進められるように努め、地域主導の産学官連携の更なる推進を図る。

■第2期基本計画の進捗状況

○ 知的クラスター創成事業の実施(平成14年度より開始、全国18地域で実施、約5億円×5年間)
 地域のイニシアティブの下、国際競争力のある技術革新のための集積の創成を目指し、産学官共同研究等を実施

○ 都市エリア産学官連携促進事業の実施(平成14年度より開始、全国37地域で実施、約1億円×3年間)
 地域のイニシアティブの下、個性ある地域産業の育成・発展を目指し、産学官共同研究等を実施

○ 科学技術振興機構の地域研究開発事業の実施(RSP事業、地域結集事業に加え、研究成果活用プラザ事業を開始)

○ 産学官連携コーディネータ等の配置

■総合科学技術会議フォローアップ(平成16年5月)

○ 今後、地域クラスターを形成するための事業については、施策の効果が問われる段階へと移行する中で、地域におけるイノベーションの自律的発展の状況について検証を行い、施策の進展状況に応じた支援の重点化を図っていく必要がある。

○ 知的クラスター創成事業、産業クラスター計画のみならず、各省庁の地域科学技術振興施策の実施に当たっては、関係府省及び地方公共団体等の連携が有機的に行われるような仕組みを構築していく必要がある。

■地域科学技術施策推進委員会中間報告のポイント

○ 人材の育成・確保
 能力のある研究者の環境整備、人材養成面における産学官の連携強化

○ コーディネート活動の支援
 コーディネータの組織や地域を超えた連携・活動のためのネットワーク形成等の支援

○ 関係府省の連携
 シーズ探索から実用化までの一貫した計画を立て得る連携体制の整備等

○ 地域科学技術施策の戦略的な推進
 我が国の研究開発システムの要素を全国にどう配置するかという戦略的視点、クラスター形成のための中長期的視野に立った戦略的取組

○ 知的クラスター創成事業
 クラスター形成活動のネットワーク化・広域化、国際的な活動への支援

■科学技術基本計画ヒアリングでの主な意見

<地域科学技術一般>

○ いい地域だけに資金を投入する「選択と集中」が必要

○ 地域は、他地域との横並び意識が強く、個性が発揮されていない。

○ 地域に対する産学連携の補助金は、地域の自主性に任せるべき。
 また、自治体の取組とリンクさせるべき

○ 国立大学法人化により、地方の国立大学は地方の産業と結びつかないと生き残れない。

○ 今後、特に地域の産学連携を拡大する上で、各都道府県の公立研究所が重要な役割を果たす。○ 地域ならではの特色ある研究を対象とした競争的資金の創設

<知的クラスター関係>

○ 知的クラスター創成事業の数と予算を増強すべき。

○ 都道府県単位の狭い地域での地域クラスター形成は、ポテンシャルを分散させるだけで意味がない。分野ごとのクラスターを作るか、地域を拡大して、クラスターのポテンシャルを高めることが必要。

○ 知的クラスター創成事業の分野特化が大雑把すぎる。

■ 第3期基本計画における論点と採るべき主要な方策(案)

【論点1:総論-1.地域科学技術振興の意義と目的】

 第2期科学技術基本計画では、地域経済活性化のための新産業創出等を目指す産学官連携施策に特化されているが、地域における科学技術振興の意義や目的を根本から議論して施策のスコープを定めることが必要。

○ 地域科学技術振興の意義と目的

  1. 地域における科学技術振興は、当該地域特有の高い研究開発ポテンシャルを活用した先端的な研究開発、将来ブレークスルーをもたらし得る独創的・革新的な研究開発又は地域の特色や資源を活かした多様な研究開発の実施により、我が国全体の科学技術の高度化・多様化を実現するものである。
  2. また、地域における科学技術活動は、技術革新を通じた産業の国際競争力の強化による地域経済の活性化、地域住民の質の高い安全・安心な生活の実現及び創造的で魅力ある地域社会と文化形成に寄与するものである。
  3. さらに、地域の大学、研究機関や企業といった科学技術活動主体と地域住民との対話の促進や、産学官連携活動による研究開発成果の地域社会への還元を通じ、「社会のための科学技術」の政策展開にとっても重要な役割を果たすものと考えられる。

【論点1.総論-2.国と地方の役割分担】

 地方分権の流れと地球規模のボーダレス化の中で、国と地方公共団体との役割分担及び協力関係を明確にすることが必要。

○  国の役割、地域との関係

  1. 市町村合併の進展や道州制導入に関する議論の本格化など、国と地方公共団体の関係が見直されつつある。科学技術基本法において地方公共団体の科学技術施振興に関する責務が明示されて以来、地方公共団体は独自の科学技術政策を策定し、そのポテンシャルを向上させている。また、技術革新を通じた新産業の創出や地域住民の生活向上のために科学技術を活用する動きが広がっており、今後、地方公共団体には、より自主的、主体的な科学技術活動の展開が求められている。科学技術の分野においても、国は地方公共団体の自主性や主体性をより重視した施策を講ずることが必要である。
  2. 経済社会のボーダレス化に伴い、地域は、国家を介さず直接海外との結びつきを持たざるを得なくなっている。一方、それを積極的に活用して地域の活性化を図ることも可能になっている。地域においては、国の外交活動を通した政府間の協力とは別に、当該地域の産業競争力の強化などを目的として、直接海外の地域や組織との協力関係を模索する動きが増加している。一方、個々の地域の国際競争力の総体は我が国全体の国際競争力に直結するものである。国は、国際競争力の強化につながる地域独自の戦略的な活動を積極的に支援することを通じて、我が国全体の競争力強化を図っていく必要がある。
  3. 上記のような視点から、国は、我が国全体の科学技術の高度化・多様化を図るため、地域のポテンシャルを活用した研究開発等を地方公共団体と協力して実施していく必要がある。また、地方公共団体の枠組みを超えた地域間の協力の必要性、広域的な連携の必要性が高まっているが、これらについて推進・調整することも求められている。地域の科学技術水準が向上している今日、国と地域の協力関係が構築される局面は様々であり、国から地域への支援という関係を越えて、国と地域が各々の目的を達成すべく協力する又は相互に補完し合うという関係が一層重要性を増していくものと考えられる。

【論点1.総論-3.地域科学技術振興の戦略的な推進】

 現在、様々な形で実施されている地域科学技術施策は、主として地域のニーズ及び研究開発資源に基づいて実施されている。一方、「選択と集中」の観点からは、我が国の研究開発システムの要素を全国にどのように配置するか、どのようにして国全体の技術革新システムを構築するのかという戦略的視点から地域科学技術施策を講じていくことが必要。さらに、地域の科学技術水準が向上してきている中、重点4分野をはじめとする各分野の研究開発戦略上、地域事業を位置づけていく、又は考慮していくことが必要。

○ 地域科学技術振興施策の戦略的な推進

  1. 国は、地方公共団体と協力して地域科学技術の振興を図っていく上で、地域のポテンシャルを活用した重点課題の研究開発の実施や技術開発の多様な選択肢の確保など各分野の研究開発戦略との整合性を確保するとともに、我が国全体の技術革新システムを構成する重要な要素の一つと認識して施策を講じていく必要がある。
  2. なお、国際的な競争が避けられない技術分野等については、研究成果の実用化にあたって、国や地方自治体がユーザーとして初期の市場を提供するなど、研究から実用化・普及までの一貫した戦略をもって、地域における研究開発に取り組んでいくことが重要である。

 筑波研究学園都市については、多額の国費が学園都市内の研究機関等の活動のために投入されており、国立試験研究機関等の法人化、地方公共団体との関係等を踏まえた上で、国として、筑波研究学園都市のあり方や今後のビジョンについて方針を示す必要がある。

【論点2.具体的施策-1.「知的クラスター」の今後の展開】

 文部科学省では、地域の目指す「知的クラスター」の育成段階を支援するための「知的クラスター創成事業」を全国18地域で実施している。一方、経済産業省では産業政策として「産業クラスター計画」(全国19プロジェクト)を実施している。両者は密接な連携を図りつつあるが、両者の更なる融合化を目指す必要があるのではないか。現行基本計画中に定義されている公的研究機関等を核とする「知的クラスター」を第3期基本計画でも引き続き記述することが適当か。地域の実情や得意分野によって、様々な形態の技術革新型クラスターが考えられるが、科学技術政策のターゲットとしてどこまでを対象とするのか。

○ 技術革新型クラスターの育成

 我が国全体のイノベーション創出を促進するために、知的クラスターをはじめとする国際競争力のある技術革新型クラスターの育成を図る。このため、国は、地域のイニシアティヴの下で行われているクラスター活動を競争的環境の下で支援するとともに、一定期間が経過した後、各地域の国際優位性を評価し世界レベルのクラスターとして実現可能な地域に戦略的・重点的な支援を行っていく必要がある。また、世界レベルのクラスターを補完し、地域の科学技術活動の活性化を図るため、小型でも地域の特性を活かした強みを持つクラスターを各地に育成していく必要がある。その際、人材育成、基礎研究から技術移転、事業化に至るまで、地方公共団体と関係府省が施策の協調を図るとともに、クラスター形成活動の広域化・多重化や海外も含む地域同士のネットワーク交流等を積極的に促進する必要がある。なお、クラスターの形成・発展は長期間を要することに鑑み、その持続性に重点を置いた施策の実施や評価を行うよう留意する必要がある。

【論点2.具体的施策-2.関係府省の連携強化】

 地域科学技術施策の企画・実施にあたり、関係府省及び国の関係機関同士の連携が不十分ではないか。

○ 関係府省の連携強化

 地域科学技術振興施策の企画・実施にあたっては、効率性の観点から府省間の無用な重複を排除するとともに、府省間の縦割りを排除し、施策間の連携を図り、人材育成、基礎研究から実用化、普及までの一貫した施策を展開することが必要である。また、研究開発の実施のみならず、公的市場の提供や規制緩和、標準化等を視野に入れた施策の展開が重要である。さらに、地域の研究機関や企業等の関係者がそのニーズに応じて適切な施策の選択ができるよう、利用可能な施策の全体像を示すとともに、関係府省の地方機関間の連携の強化や関係府省が地域に展開している研究開発資源を活用することも重要である。

【論点2.具体的施策-3.大学が行う地域貢献活動への支援のあり方】

 大学の地域貢献や地域の特色ある基礎研究の実施を競争的環境で支援することにより、各大学の活性化が図られ、結果として、我が国の科学技術の多様性の確保につながるのではないか。

○ 大学の役割

  1. 大学は、その教育及び研究活動を通じて、地域の科学技術の発展に貢献する大きなポテンシャルを有する機関である。大学において、新産業の創出を含めた将来の糧となる優れた技術シーズを生み出すための基礎研究や特色ある研究を実施することは地域の科学技術振興の基盤となる。近年、国立大学法人化や少子化を背景として、大学の地域貢献に対する関心が高まっており、特に、理工系学部においては、産学官連携による地域経済活性化への貢献に対する期待が大きくなっており、大学が地域の知的財産戦略や新産業創出活動の中心としての役割を担ったり、教員を地方自治体の職員として派遣するなど、大学の地域連携活動が活発化しつつある。
  2. 地域科学技術の振興にあたっては、こうした国公私を通じた大学の活動やポテンシャルを活用することが効果的であり、知的クラスター創成事業等の各種地域科学技術施策も大学の「知」の資源の活用を中心として実施されている。また、大学知的財産本部への支援やコーディネーターなど産学官連携専門人材の派遣も大学の地域連携機能の強化につながっている。今後とも大学のポテンシャルを活用した施策や大学の地域活動に対する支援を行うことにより、大学が人材育成を含めた地域科学技術の振興のためにその役割を積極的に果たしていける環境を整備していくことが重要である。

【論点2.具体的施策-4.地域の研究開発資源の活用と充実】

 国の科学技術関係経費が増加する一方、地方公共団体の科学技術関係経費は減少している。その中で公設試験研究機関の予算は減少し、活動も停滞気味と言われている。しかしながら、全国の公設試には1万5000人の研究者がおり、これを活用していくことが望まれる。

○ 地方公共団体における科学技術活動

  • 地方公共団体による科学技術関係予算の確保や科学技術活動の積極実施を促す。
  • 公設試験研究機関は、地域産業・現場のニーズに即した技術開発・技術指導等に重要な役割を担っている。地方公共団体が、公設試と大学との連携、公設試間の連携等を図るとともに、公設試を活性化する施策を講ずることを期待する。

【論点2.具体的施策-5.コーディネート機能の強化】

 各種のコーディネーターが全国各地に配置されているが、質、量ともに不足しているとの声が多い。また、若手のコーディネーター人材が不足している。さらに、コーディネーターが所属する組織の縦割りの弊害がニーズとシーズの最適なマッチングを阻害している。

○ コーディネート機能の強化

 コーディネーターによるニーズとシーズのマッチングや研究成果育成のための活動は、産学官連携の成否の鍵を握るものであり、その活動を支援する体制の強化や次世代を担う若手人材の育成・確保を図っていくことが必要である。研究開発シーズと企業化ニーズのマッチングは、研究者と企業家双方から信頼を得たコーディネーター個人の仲介により行われるケースが多く、コーディネーターが所属する組織の枠を超えて連携し、地域内外を自由に活動できる環境を醸成するとともに、コーディネーター間の連携を促進するためのネットワークの形成活動を支援していく必要がある。

【論点2.具体的施策-6.地域の科学技術人材の育成・確保】

 地域において科学技術活動を展開するにあたって、人材不足を指摘する声が多い。

○ 地域の科学技術人材の育成・確保

 近年の急速な技術革新の進展、産業構造の変化に伴い、求められる能力が高度化・多様化する中、科学技術の振興による地域の活性化等を図っていくためには、その基盤となる人材の育成・確保に向けた取組を強化して行くことが重要である。そのためには、研究開発を担う能力のある研究者が十分に活躍できる研究環境を整備するとともに、社会・産業ニーズに沿った人材を養成するため、人材育成に係る地域産学官の連携を強化する必要がある。このため、国はインターンシップやリカレント教育等の人材育成の取組みを含めた地域の幅広い産学官連携活動を支援するとともに、地域の産学官連携を牽引するコーディネーターや研究者などの育成・確保のための取組を推進する。また、次世代を担う地域の科学技術人材を育て、住民と科学者の対話を促進するため、地域における理解増進活動を推進する。

【論点2.具体的施策-7.地域-地域間の戦略的な国際協力の推進】

 ボーダレス社会では、クラスター形成をはじめとする地域科学技術活動は国際的な活動が不可欠であるが、我が国においては地方公共団体の科学技術活動における国際的な活動度は未だ低いレベルにある。

○ 戦略的な国際活動の推進

  • クラスター形成活動をはじめとする地域の科学技術活動の国際化を推進する。
  • 国は、国際競争力を高めるための戦略的な地域間協力を支援する。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

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(科学技術・学術政策局計画官付)