資料3 知の創造と活用の好循環によるイノベーションの創出

科学技術・学術審議会
基本計画特別委員会(第4回)
平成16年11月25日

 我が国がより高度な知識基盤社会へ移行し、持続的な発展を遂げていくためには、大学や公的研究機関における研究活動により創造された「新しい知」が社会で活用されることにより、経済的価値や社会的・公共的価値を創出するとともに、更なる知の創造活動への投資を導くという国全体における好循環を形成していくことが必要である。

 このため、産学官連携施策においては、共同研究等による連携から新たな「知」を得ること、特許化支援等により大学・公的研究機関からの「知」を社会につなげていくことが重要となる。

  1. 産学官の持続的・発展的なパートナーシップの確立(資料3-1(PDF:416KB))(※下記参照)
    -大学・公的研究機関と企業による組織的な連携活動を促進するとともに、産学官が早い段階から共同で社会ニーズをしっかりと把握し、基礎的な段階から戦略的に取り組む共同研究を推進するなど、多様な形態での産学官連携を推進する。
    -産学官のそれぞれが主体的かつ持続的に産学官連携活動に取り組んでいけるような体制を整備する。
  2. 研究成果の社会還元の促進(資料3-2(PDF:270KB))(※下記参照)
    -研究成果の社会への還元を促進するため、研究成果の管理・活用体制の整備、特許化支援(知財戦略)、研究開発型ベンチャーの振興に取り組む。
    -起業マインドを持った人材の人的基盤が形成されるよう環境整備を促進する。
    -産学官の連携により研究成果の社会還元を担う人材を養成する。
    また、公的部門の公共サービスの課題解決や高度化・生産性向上及び調達までを見据えた取組みが重要となる。
  3. 公的部門における新技術の活用促進(資料3-3(PDF:120KB))(※下記参照)

1.産学官の持続的・発展的なパートナーシップの確立

■ 第3期基本計画において採るべき主要な方策(案)

○ 出口(社会ニーズ)を踏まえた戦略的・組織的な共同研究の推進

 産学官連携のための法制度面の整備等が進み、その活動は極めて活発に行われている。例えば国立大学と企業との共同研究は、ここ5年間で契約件数で2.6倍と急激な伸びを示し、金額もそれにほぼ比例(2.7倍)して増加しているが、共同研究1件当たりの額は増加していない。これは、種々の制度改革等により、参加する企業が増え全体の裾野は広がったものの、イノベーションの創出を目指すような大規模かつ本格的な共同研究は必ずしも多くはないことを示しているのではないかと考えられる。
 このため、今後は、このような共同研究の大幅な増(○○%増)を目標に、従来型の共同研究のみならず、イノベーションの創出を目指した戦略的・組織的な共同研究などの多様な形態の産学官の連携活動を推進する。

  1. 従来より活発に行われている研究者個人と企業の一部署との間での共同研究や、「学・官」がシーズを生み出し「産」のニーズとマッチングさせるという従来型の共同研究・技術移転に加え、産学官が、長期的な観点に立ち、社会ニーズの把握や基礎的な研究課題設定の段階から積極的に対話を行い、基礎から応用までを見通した一貫した共同研究に取り組んでいくことが求められており、そうした長期的戦略的な産学官連携(協働研究型)の取組みを推進する。
  2. さらに、10年先をにらんだ学際領域や新規融合領域等において、産学官が協働して研究を推進していくため、大学・公的研究機関・企業が協働で取り組むシステムの構築を目指す。
  3. 一方で、大学や公的研究機関の「知」により地域経済の活性化を図るとともに、大学等の地域貢献・社会貢献を進めるため、地域の中小企業との間で、具体的な技術課題の解決や商品化のための応用研究などに大学や公的研究機関が機動的に取り組む地域貢献型の共同研究活動を推進する。

○ 持続的な産学官連携を進めるための体制整備1

 産学官連携の取組を一過性のものに終わらせること無く、産学官が相互に主体的かつ持続的に産学官連携活動に取り組んでいけるよう、大学・公的研究機関の自主性を尊重した環境整備を進めるとともに、企業の積極的な取組みを促す。

(1)大学・公的研究機関の主体的な取組の促進
  1. 持続的な産学官連携を進めるためには、大学や公的研究機関自身が、自ら主体的に産学官連携活動に取り組むとともに、そうした姿勢を産業界に対して積極的に発信していくことが不可欠である。このため、各大学等の主体的な判断により、中期計画など大学の運営方針の中に産学官連携活動を適切に位置付けるともに、学内・機関内において産学官連携の推進に必要な資金が適切に措置されることが期待される。さらに、各大学等において、産学官連携活動に積極的に取り組む研究者の業績が適切に評価されることが望まれる。
  2. また、国は当面、そうした大学等の主体的な取組みを促進するため、産学官連携に積極的に取り組む大学等へのインセンティブの付与などの支援に努めるとともに、大学・公的研究機関が企業ニーズを踏まえつつ、学内・機関内の研究リソースを結集し、組織的に共同研究を推進できるよう、組織横断的な共同研究推進のための体制の整備を進める
(2)産学官連携に取り組む企業の活動の促進
  1. 産学官連携活動を持続的かつ本格的なものとし、産から学・官への研究開発投資を拡大していくためには、大学・公的研究機関に対する支援のみならず、参加する企業にとっても魅力的なものとしなければならない。特に、大学等との共同研究は、企業単独ではなしえないような新たなイノベーションを創出する独創的な研究であり、それゆえにリスクを伴うものも多い。
    企業の積極的な活動を促進し、イノベーションを創出していくため、共同研究税制の見直しなどにより、企業の積極的な投資・参画を促す。
  2. また、企業においても、産学官連携の窓口の整備や、経営方針や研究開発方針の中に産学官連携を柱の一つとして明確に位置づけるなど、大学や公的研究機関と積極的な連携を進めるための体制の整備が望まれる。

○ 持続的な産学官連携を進めるための体制整備2

(3)産学官相互の信頼関係の構築と人材交流の促進
  1. 持続的な産学官連携のためには、相互の信頼に根ざした関係の構築が不可欠である。企業には、共同研究に伴い必要となる間接経費の確保や、不実施主体である大学や公的研究機関の特性への配慮などが求められるとともに、大学・公的研究機関も企業ニーズへの柔軟な対応や、秘密保持の徹底を図るなど、双方が立場の違いを理解した上で、相互の信頼関係を構築していくことが必要である。このため、双方が対話・議論する場の提供や、自主的なルール作りを促す。
  2. また、産学官それぞれの事情に明るい人材の存在が不可欠であり、そのためにはそれぞれに所属する研究者の人材交流の促進が重要である。特に、企業から大学・公的研究機関に派遣され共同研究に取り組む例は多いが、今後は、大学・公的研究機関の研究者を企業に一定期間派遣し、共同で研究に取り組むなど、「学・官」から「産」への人材交流の促進を図る。

2.研究成果の社会還元の促進

■ 第3期基本計画において採るべき主要な方策(案)

○  研究成果の社会還元の促進

 大学や公的研究機関における研究成果の社会への還元を促進するためには、研究成果を適切に保護・活用するための体制整備を図り、既存企業への技術移転を促進するとともに、更なる研究開発の支援などにより新事業の創出につなげていくことが必要であり、国の支援の充実や各大学等の積極的な取組みを促進する。

(1)大学・公的研究機関の研究成果の社会還元促進のための支援
  1. 国立大学法人化を踏まえ、現在、各大学で知的財産本部が整備されつつあるが、研究成果の活用を促進する上で、知的財産を適切に権利化・管理する知的財産本部は研究成果の社会還元という大学の使命を果たす上で不可欠な存在であり、かつ、基本的にはコストセンターであることから、今後、より多くの大学で知的財産の管理・活用体制の整備を図るため、大学の主体性及び経営努力を求めつつ、知的財産サイクルが確立するまでの相当程度の期間、その取組みを支援する。なお、体制整備後の大学においては、研究成果の社会還元を促進するという目的を踏まえ、迅速かつ柔軟に対応し、知的財産の適切な管理・活用に努めることを期待する。
  2. また、知的財産本部とTLOとの連携をより一層強化し、円滑な技術移転の促進を図るとともに、対外窓口の明確化を進めることにより、産業界との連携を強化する。
  3. さらに、大学・公的研究機関の研究成果の社会還元を促進するため、競争的環境の下、技術移転を促進するための研究開発支援の充実を図る。
(2)知的財産活動の積極的な展開のための支援の充実
  1. 各大学や公的研究機関において、特許出願経費などの知的財産活動のための費用が、学内・機関内で適切に確保されるよう、各大学等の取組みを促す。また、競争的資金における間接経費の拡充を図るとともに、その積極的な使用を促す。
  2. 大学や公的研究機関で生まれる特許等の知的財産が海外においても適切に保護されるよう、海外特許出願経費の支援を進める。
(3)研究成果に基づく起業活動の振興
  1. 起業活動を取り巻く制度整備が進み、大学発ベンチャーが増加したが、その活動が必ずしも経済社会の変革にまではつながっていない。このため、大学や公的研究機関の研究成果を社会に還元し、イノベーションの創出につなげていくため、大学発ベンチャーが大学等発の基本技術を研究開発により更に発展・改良し、事業化に結びつけていく取組みを支援する。
  2. 各大学のインキュベーション施設やベンチャービジネスラボラトリーなどを中心に、起業活動に取り組む学生に対し、研究活動への支援のみならず、会計や財務、マーケティング、法務等の経営に関するアドバイスなど、大学の有するリソースを結集した支援がなされることを期待する。

○ 起業マインドの醸成

 イノベーションの創出のためには、起業マインドを持った人材を養成していくことが重要であり、大学におけるアントレプレナーシップ活動の振興など、起業マインドが醸成される環境整備を促進する。

  1. 大学発ベンチャーは確実に増えてはいるが、その数は諸外国と比較すると極めて少なく、また、起業家精神は世界的にも低く、起業活動への挑戦が社会に広く浸透するに至っていない。本質的な起業活動の振興には、挑戦する意欲や事業化への道筋を常に抱くような人材(いわば潜在的な起業家)の人的基盤が形成されるとともに、挑戦する人材を積極的に評価する社会的基盤の醸成が重要である。さらに、人材個々の視点に立てば、ネットワーキングや人脈を基に、起業を志したり、意気投合する人や支援者を見出したりするチャンスが存在するかが、起業化の際の大きなポイントである。
  2. このため、大学においては、起業関連科目等の充実や学内ビジネスプランコンテスト等の取組みにより、学生の起業家精神を刺激するとともに、研究者、学生、社会人も含めた先端技術紹介セミナー・起業セミナー等による人的交流の促進や起業に係るアドバイス支援といった、大学が起業チャンスを生む起点となるような活動が総合的に促進されることが重要である。また、大学・研究機関・民間企業等と教育現場との連携・協力の一環として、社会人等による中学校・高等学校等の生徒の起業家精神を刺激するような取組みが期待される。

○ 産学官連携による研究成果の社会還元を担う人材の養成

 創造された「知」を経済社会に生かし、持続的な発展を遂げていくため、「知」の活用や社会還元を担う人材養成に向けて、産学官それぞれの特徴や役割を踏まえた連携を一層強化することが重要。このような観点から、産学官連携による人材養成や、産学官連携等を推進する人材や技術者など多様な人材の養成・確保に向けた取組みを推進する。

  1. 産学官連携を推進する人材養成のため、知的財産やMOT教育等に関する各大学等の自主的な取組み等を促進する。特に、我が国の経済社会を牽引する高度で専門的な職業能力を持つ人材を養成する観点から、専門職大学院の教育の質的向上を支援する。
  2. 地域において、大学等の知恵を活用した産学官連携を推進することは、革新技術・新産業の創出等による地域の活性化に大きな役割を果たすため、地域の産学官連携を牽引するコーディネーターやプログラム・マネージャー、TLOや知的財産本部で活躍できる「知」の活用を担う目利き人材などの養成の取組みを推進する。
  3. 大学や産業界が、イノベーションの創出に向け、社会の様々な分野において活躍する人材を養成する観点から、社会ニーズの変化に対応した人材養成に取り組むことが求められる。このため、研究開発面だけでなく人材養成の面においても産学官連携を進め、産業界への学生の比較的長期のインターンシップ(長期派遣型産学共同研究)の充実、大学を拠点とした産学の集約型共同教育や産学官共同研究への大学院生やポストドクターの参加の促進、大学教員自身の企業体験の充実、技術者や知的財産に関する業務経験者の人材交流等を推進する。

 【※人材養成については第3回委員会でも検討】

3.公的部門における新技術の活用促進

■ 第3期基本計画において採るべき主な方策(案)

 知を基にしたイノベーションの創出に関し、国や地方公共団体、公的事業者等の公的部門が行う公共サービス(例えば、治安、防災、交通、情報インフラ、医療・福祉、環境、教育、文化等)に関連して必要な新技術が創出・活用され、公共サービスの課題解決や高度化・生産性向上に結びついていくことが重要であり、出口である調達までを見据えた取組みが必要。このような公的部門の新技術活用の取組みは、経済的価値の創出の観点からも意義が大きい。

  1. このため、大学や公的研究機関等のシーズ供給側と公的部門の連携を促進することが重要である。特に、安全・安心な社会を構築するための科学技術の分野において、両者の情報交換や研究連携を促進する取組みを進める。また、研究開発の実施にあたっては、新技術の活用が想定される公的部門との密接な連携を確保し、現場の要件に立脚した研究開発を進めることが重要である。
  2. その際、研究開発の成果たる新技術が最終的に公的部門によって調達されることは、研究開発成果の社会還元の観点からも重要であることから、シーズ育成段階から出口を見据えるとともに、事業化に近い段階においては、公的部門のニーズや現場要求を踏まえて技術的要件や経済性等の目標を設定し、その実現に努力することが必要である。そして、それが達成された場合には、公的部門は、最終的な事業化のための必要な開発が行われるよう積極的に取り組むとともに、新技術の現場への導入を積極的に検討すべきである。その際、調達手続の公正性、透明性及び経済性の確保に留意しつつ、総合評価落札方式等の技術力を重視する入札制度の活用も期待される。
     注)総合評価落札方式とは、入札価格に加え、性能、機能、技術等を総合的に評価し、国にとって最も有利な申込みをした者を落札者とする方法
  3. このような取組みに限らず、例えば低公害自動車等、政策需要に基づくより技術的要求度の高い新技術について、国が率先して先進的な初期需要者として機能することは、新技術に係る市場の形成や民間におけるイノベーションを刺激することとなり、イノベーションによる経済的価値の創出の観点からも意義が大きい。また、研究開発型ベンチャーにとって、その製品やサービスが公的部門によって調達されることは、調達実績を作り企業の信用力を高めるとともに、創業段階での収入確保のためにも重要である。特に、研究機器など特別な仕様に係る新技術については、技術力を持ち、要求に対して柔軟に対応できる研究開発型ベンチャーの能力が活かされるべき分野であり、その能力活用に取り組むことが重要であると考えられる。

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科学技術・学術政策局計画官付

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(科学技術・学術政策局計画官付)