資料2 「新時代の産学官連携の構築に向けて」 (平成15年4月28日産学官連携推進委員会 審議のまとめ)概要

科学技術・学術審議会
基本計画特別委員会 (第4回)
平成16年11月25日

1.「審議のまとめ」の経緯

 科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会の下に置かれた「産学官連携推進委員会」(主査:末松安晴 国立情報学研究所長)において、大学等と社会の発展のための新たな産学官連携のあり方と関連方策を検討するため、平成13年5月から平成15年4月まで計21回の会議を開催。これまでの審議の結果を「審議のまとめ」として公表。

2.「審議のまとめ」の概要

1.産学官連携の意義―「知」の時代における大学等と社会の発展のための産学官連携

○ 知の創造と活用を図ることに価値が置かれる「知識社会」において、大学等の活性化と我が国・社会の発展のために産学官連携の一層の強化が必要。
○ 「産」「学」「官(公)」のそれぞれの基本的使命・役割の違いを理解し尊重しつつ、双方の活性化に資する相互補完的な連携が重要。
○ 産学官連携は、「知」の源泉としての大学等がその教育・研究を活性化させ、社会の信頼を得つつ発展するための有益な手段。
○ 社会貢献は大学にとって教育・研究に加えて「第三の使命」。「社会貢献」とは経済活性化だけでなくより広い意味での社会全体(地域社会・経済社会・国際社会等)の発展への寄与であり、産学官連携は社会貢献の一形態。各大学はそれぞれの個性・特色に応じて多様な方法で社会に貢献。

2.我が国の産学官連携の歩み

(1)これまでの我が国の産学官連携

○ 戦後の我が国において、特定研究室と特定企業との「あうんの呼吸型」や学会等での公式・非公式の情報交換等の「非契約型」の連携が主流。このことが我が国の産業界を国際水準に押し上げるのに貢献。

(2)我が国の関連施策と産学官連携の進展

○ 近年我が国の産学官連携は着実に進展。例えば、共同研究件数(5年間で2倍以上)やTLO(平成14年4月現在で32機関)による技術移転(実施許諾件数は14年12月末で約600件)、大学発ベンチャーの急増(14年8月現在で424社)等。
○  今後の基本的方向は、契約やルールに基づく組織的な連携への転換が必要。

(3)新たな課題

○ 国立大学法人化を控え、各大学の自律的判断に委ねる部分が増加(例えば、共同研究・受託研究契約モデルの提示、役員兼業承認権限の大学長への委任、発明補償金の上限撤廃など)。
○ 現在では、次のような新たな課題も。

  • 制度改善や規制緩和が相次ぎ、全体状況の把握が困難に
  • 大学発ベンチャーの成功事例が不足
  • 新産業創出につながるベンチャー起業支援システムが確立されていない
  • 企業側の大学改革の進展に対する意識や大学等の特性に対する理解が不十分で、契約中心の組織的連携の転換についての戸惑いも見られる 等

3.今後の産学官連携のあり方

(1)我が国の産学官連携における今後の方向性

1.個人の能力を最大限に活かした知的創造サイクルの確立

○ 「個人」の能力が最大限発揮でき、組織間の人材の移動を阻害しない環境整備とともに、個人の取組を組織的に支援するシステムを整備。社会における「知」の創造と活用のサイクルの確立とそれに伴う連鎖的な新産業や技術革新の創出を目指す。

2.大学等に期待される役割の公共性と産学官連携(利益相反・責務相反への対応)

○ 大学等は公的資金に支えられた公共性の高い機関。産学官連携のめざましい発展に伴って、特定企業との提携や秘密保持等と自らの役割の公共性とのバランスにも考慮を払うべき段階に至った(6.で詳述)。

3.国立大学法人における産学官連携のあり方

○ 国立大学の法人化後は、法人格取得に伴う研究成果の機関帰属への転換、非公務員化、出資制度等により、産学官連携の一層の活性化が期待。
○ 産学官連携は各大学の理念や特色に応じて多様であることが基本。各大学で明確な方針を持ち、主体的・戦略的に取り組むことが必要。
○ 各大学は、従来の制度や前例にとらわれず法人化のメリットを最大限に活かし、政府は各大学の自由度を最大限に認めるという原則を貫徹すべき。

4.産学官連携活動に対する評価

○ 産学官連携へのインセンティブ向上のためには、大学や教職員の産学官連携に関する功績について適切に評価することが必要不可欠。

○ 評価の手法については、共同研究件数や特許取得件数等の単純な数量的比較ではなく、実施料収入等の質的評価を目指すことが肝要。

5.大学等発ベンチャーの創出

○ 大学発ベンチャー創出のためにはインキュベーション業務の充実が不可欠。
○ ベンチャー創出の契機となる評価(目利き)について産業界に期待。
○ ベンチャー企業一般への支援として、研究開発資金等への支援、会社法制、証券取引・金融法制、労働法制、倒産法制等の見直し等、ベンチャー起業を促進する経済・社会環境の整備も併せて必要。

6.人文社会分野での産学官連携

○ 人文社会分野での産学官連携は必ずしも十分でない。今後は、人材交流、共同研究等に積極的な取組が必要。MOT(技術経営)等の人文社会系と自然科学系の融合分野における専門職大学院等の取組にも期待。

7.教育面における産学官連携

○ 産学官連携は大学の教育活性化にも資する。共同研究やインターンシップ、産学共同教育プログラム開発の推進も有効。
○ 起業家教育の充実も必要。

8.地域における産学官連携

○ 地域における技術革新・新産業創出のために、知的クラスターの整備等地域の関係機関の有機的連携が必要。各地域の特性を活かした地方公共団体の自主的な取組も重要。
○ 中小・ベンチャー企業との産学官連携に積極的に取り組むべき。

9.人的交流の促進

○  国の研究機関等は、任期制・公募制により人的交流を推進。研究開発型独立行政法人(公務員型)は、非公務員化の可能性も含めて人材流動促進策を検討すべき。
○  大学は、退職員の算定や給与の設定にあたって他機関との人事交流が不利にならないよう努める必要。

(2)我が国の産学官連携の将来像

○  今後我が国の大学は、国公私を問わず、競争的環境の中でそれぞれの個性や特色を明確にしながら全体として多様に発展。個々の教員が担う具体的な役割・機能も多様であり、また可変的。
○  小講座制による研究後継者養成から教員の流動中心のスタイルへ転換。
○  知的財産については機関帰属・機関管理の原則が定着。
○  各大学では知的財産管理体制を整備。外部人材を活用した知的財産本部の整備等により、内部人材のOJT効果や専門性に応じた高い処遇の新たな職種の任用が一般化し、ライセンス・アソシエイト人材層が形成。
○  TLOと大学の関係は、内部型、外部型(出資型・業務委託型)、地域型、専門型等多様に。各大学の個性・特色に応じて最も効率的・効果的な体制を選択。
○  大学と他の研究機関や企業との人事交流が活発化。国際化も進展。
○  時々の経済情勢・景気動向に左右されない恒常的な産学官連携の推進。

(3)産業界に期待される事項

 大学等が産業界側の要望や意見に真摯に耳を傾けると同時に、大学等から産業界に期待する事項も積極的に発信する必要。
○  自前主義の限界を強く認識し、企業外の知的資源の価値を十分に評価すべき。
○  企業側でも非契約型の連携からルールに則った組織的連携への積極的な転換を図り、横並び意識を排しつつ、市場原理・競争に根ざした目利き機能を適切に発揮して、大学等にとって心強いパートナーの役割を果たすことを期待。
○  企業の社外組織への研究開発投資額の3分の2以上が海外の大学等向けという状況から、国内大学へも積極的に投資(本年度に創設された税額控除制度の活用)。
○  各企業で、産学官連携を自社の経営方針に明確に位置づけ、外部経営資源としての大学を適切に評価。
○  TLOや大学への利益の還元など大学の特性に配慮した連携への理解。寄附講座や連携大学院の設置、経営人材・専門家の大学への派遣、教育プログラム産学共同開発への協力、インターンシップの受入等。
○  大学教員等を積極的に受入。年功序列型の給与制度の改善や年俸制の導入、退職金の算定方法の見直しや年金のポータビリティ確保といった雇用慣行の改善の工夫も必要。
○  早期の就職活動の弊害への対応、博士課程修了者の採用、期限付きポスドクの採用、技術系人材のライフステージに応じた大学・大学院教育と企業内昇進・転職・起業との有機的結合。
○  地域の産業関連団体や企業群による大学等支援グループの形成。
○  企業側の産学官連携窓口の明確化。

4.産学官連携のために今後取り組むべき施策

(1)ブレークスルーを目指した産学官連携による研究開発課題の発見と設定等

 → 経済活性化のための研究開発プロジェクトの推進やマッチングファンドの充実、先端計測機器等科学技術基盤の整備等

(2)研究成果の効果的な社会還元の推進

 →   特許化の資金的支援、研究成果の移転(「死の谷」克服支援)、大学知的財産本部整備事業の充実・強化等

(3)大学等発ベンチャー創出の促進等

 → インキュベーション施設整備、大学発ベンチャー創出を目指した技術開発支援・事業化支援、知的クラスター等の整備、起業家人材の養成(専門職大学院の活用)、最低資本金制度の見直し、証券取引法上の資金調達規制の緩和、画一的な労働時間規制の緩和等

(4)産学官連携を支える組織の強化と人材の養成

 → 共同研究センターや研究協力部課の充実、大学知的財産本部を通じた外部人材の活用、法科大学院・ビジネススクールやMOT等の専門職大学院の活用、企業側におけるキャリアパスの開発等

(5)人材養成・活用面での産学官連携の推進

 → インターンシップ、連携大学院、産学共同による教育プログラムの開発等

5.大学等における知的財産の組織的な管理・活用のあり方

―平成14年11月知的財産WG報告書より

(1)知的財産の取扱いに関する基本的考え方

○ 知的財産の取得・育成・管理・活用は大学の社会貢献の一つであり、大学の基本的役割。個人帰属原則のもとでは活用が不十分なため、今後は機関帰属を原則とし、各大学のポリシーのもと組織が一元的に管理・活用。

(2)知的財産等の帰属の見直しと制度の整備

○ 特許については、昭和52年の学術審議会(当時)答申以来個人帰属を原則としてきたが、社会貢献への要請の高まり、国民(納税者)の理解を得る必要性、大学の体制整備の進展等にかんがみ、職務発明に係る特許権等のうち大学が承継するものの範囲を見直し、機関帰属を原則とすることが適切。ただし、承継する権利の範囲の広狭等具体的なあり方は大学毎の合理的判断に基づく多様性を尊重。

○ 機関帰属(原則)への移行にあたっては、発明届出の徹底とともに、就業規則、発明規程、教職員との契約により原則大学が承継する旨を規定。教員への十分な対価を還元。

○ 特許の他、実用新案権、意匠権、育成者権(種苗法)、データベース及びプログラム著作権、回路配置利用権、研究開発成果たる有体物、技術情報やノウハウ等についても、権利の性質や各大学の事情に応じ、機関管理を行うことが適当。

(3)大学等のポリシーに基づく研究成果の組織的管理・育成・活用推進のあり方

○ 各大学が個性・特色に応じて知的財産の取扱に関するポリシーを定め公表。
○ 各大学では、外部人材の活用、TLOとの連携等により、知的財産の組織的管理・活用のための体制(知的財産本部機能等)の整備が必要。意思決定の迅速性・柔軟性の確保が重要。
○ 知的財産管理に従事する職員に対する高い専門性に応じた処遇、大学内での人材養成も重要。TLO等を活用した目利き機能の充実・強化に期待。
○ 知的財産の取得・管理に必要な経費について多角的な財源の確保が必要。機関帰属への移行期における体制整備への支援も必要。

6.外部連携活動のルール化と「知」の自律―平成14年11月利益相反WG報告書より

(1)大学等の役割の公共性と運営の自律性

○ 大学等の役割の公共性と企業の本質的な行動原理から、教職員が企業との関係で有する利益や責務と大学における教育・研究上の責務との調整・調和の問題(いわゆる「利益相反」「責務相反」)が生じる。大学の社会的信頼を維持し産学官連携の健全な推進を図るため、国による一律の規制ではなく、大学等が自律性を発揮して、多様性の中で適切に対応する必要。

(2)利益相反・責務相反への対応に関する基本的な考え方

○ 利益相反・責務相反には、大学が組織として対応する必要。リスク管理の一局面。意欲ある教職員が安心して産学官連携に取り組み、その能力を十分発揮できるような環境を整備するためのもの。特に、学生の教育に支障が生じないよう最大限の配慮が必要。
○  各大学毎にマネジメント体制を整備し、関連情報の学内での開示により透明性を確保し、社会への説明責任を大学が適切に分担することが必要。

(3)個人としての利益相反に対応するための学内システムのあり方

○ 個人の金銭的利益に関わる利益相反については、米国大学の例を踏まえ、1教職員が企業等から得る金銭的情報の学内での開示、2利益相反アドバイザーによる日常的な相談、3学内の利益相反委員会で対応策の決定、4可能な範囲での情報公開、といったモデルが参考となろう。

(4)責務相反等

○ 責務相反(教職員の大学での職務遂行責任と外部活動における業務遂行責任との調整。兼業の時間配分等)については、各大学で、教職員の大学での職務内容を産学官連携活動との関係で明確に整理した上で、各大学のポリシーに従ってどこまで弾力的に扱うかルール化し、就業規則や労働契約で対応。

(5)大学組織としての利益相反

○ 大学組織としての利益相反(例えば組織有特許の実施許諾の場面で、金銭的利害(株式保有、大型共同研究契約等)を有する企業との関係で生じ得る。)についても、各大学の取組を期待。

(6)大学の取組の促進

○ 産学官連携を推進する大学では、この課題に真摯に取り組むことを期待(セミナー開催、ポリシーの作成、事例集の作成等)。関係団体においても大学相互の情報交換に積極的な役割を果たすことを期待。

7.まとめ―新時代の産学官連携の構築に向けて

○ 我が国の産学官連携は今まさに新たな段階に。双方向的な「対話」の深化と進展による真のパートナーシップの構築が重要。
○ 我が国経済を取り巻く状況は引き続き深刻。経済活性化に向けた新産業の創出、大学の研究成果の社会還元を一層促進するためには、産業界の今一段の飛躍と挑戦が不可欠。
○ 本報告書の内容は、独り大学のみでなく、企業等関係者、弁護士・弁理士等の専門人材など幅広い関係者の参考となることを期待。
○ 文部科学省には、関係府省と連携を図りつつ、必要な措置を講ずるよう期待。
○ 本委員会では、必要に応じて関連施策の進捗状況をフォロー。

科学技術・学術審議会技術・研究基盤部会 産学官連携推進委員会委員名簿

(平成16年11月1日現在)

【委員】

川崎 雅弘 科学技術振興事業団顧問
末松 安晴 国立情報学研究所長

【臨時委員】

川合 知二 大阪大学産業科学研究所教授
岸 輝雄 独立行政法人物質・材料研究機構理事長
北村 行孝 読売新聞東京本社科学部長
清水 勇 独立行政法人工業所有権情報・研修館理事長
白川 功 兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科長
田村 真理子 日本ベンチャー学会事務局長
平井 昭光 レックスウェル法律特許事務所弁護士・弁理士
堀場 雅夫 株式会社堀場製作所取締役会長
安井 至 国際連合大学副学長

【専門委員】 

生駒 俊明 一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員教授
市川 惇信 総合研究大学院大学監事
伊藤 弘昌 東北大学電気通信研究所教授
小野田 武 日本大学総合科学研究所教授
小林 健 日本政策投資銀行新産業創造部長
田中 道七 立命館大学総長顧問・理工学部名誉教授
吉田 和男 京都大学大学院経済学研究科教授

以上(敬称略)
注)◎は主査、○は副主査を示す。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

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(科学技術・学術政策局計画官付)