資料4 日本私立大学連合会発表資料

第3期科学技術基本計画審議に係る意見

科学技術・学術審議会
基本計画特別委員会(第6回)
平成17年1月14日

日本私立大学団体連合会

1.基本的要望事項

 少子化による若年人口の減少は、将来における生産人口(労働人口)の減少につながることを念頭において、第3期科学技術基本計画(以下「第3期計画」という。)は、向後30年後の我が国と世界の在り方への長期的戦略のもとに策定されるべきである。
 特に、我が国の高等教育機関における教育研究活動の拡充は、我が国経済社会の発展はもとより、国際社会の発展にも大きく貢献するものである。中でも大学(学部)教育の約75%を担う私立大学の教育研究から創出・保有する資源を有効に活用することは、我が国の人的及び知的財産の拡充をもたらすうえで不可欠な要件である。
 そのため、私立大学がその潜在的能力を十分に発揮できるような環境を、国として整備することを要望する。
 また、外国人研究者、女性研究者、高齢研究者の活用といった多様な研究者が活躍できる環境整備については、貴基本計画特別委員会においても検討されているように、重要な課題として取り上げられることを要望する。

a.私立大学の位置付けと財政措置

 第3期計画も、それに必要な経費は国民の税金で支弁されるのであるから、国費の有効な使用の観点から、第3期計画における私立大学の位置付け、すなわち私立大学への期待、果たすべき役割を明確にし、それを果たすために必要な財政上の措置を行うこと。

b.諸外国と共存、共生できる科学技術の樹立

 科学技術基本法第一条に規定されているように「我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献する」、すなわち日本の科学技術の振興により市場における競争を激化し、諸外国の産業に打撃を与え脅威となるようなものではなく、日本の科学技術の振興が諸外国にも歓迎され、共存、共生できる科学技術の樹立を目指して計画を立てること。

c.外国人とともに行う科学技術の振興

 上記観点を踏まえるとともに我が国においては、今後生産人口が減少し科学技術者数も減少することを考慮すると、我が国科学技術の振興は女性研究者・高齢研究者の活用ももちろんのことであるが、すべて日本人の手で行うのではなく、外国人を参加させるというよりも外国人の協力も得て行うとの姿勢をとること。

2.要望事項

 私立大学の潜在的活力を有効に引き出し、育成し、我が国の科学技術振興を促進させるための方策として、下記の施策の実現を第3期計画において実現することを要望する。

1.科学技術関係人材の養成

 基本計画特別委員会における検討課題「『知』を創造し活用する人材の基盤づくりについて」において、「理数好きの子どもの裾野を広げるとともに、初等中等教育段階からの科学技術を支える人材養成に如何に取り組むか」を採り上げておられるのは、慧眼で敬意を表するものである。
 このことを前提に、科学技術関係人材の養成に係る諸問題について要望する。

a.私立大学における理工系学部学生増の支援措置

 文部科学統計(平成16年版)によると、国立大学の理工系学部の学生の比率は55.4%であるのに対し、国立大学の4倍以上の学生を教育している私立大学は24.3%でしかない。私立大学で理工系学部学生数が少ないのは、学生収容定員400人の場合で比較して、人文系学部の校舎面積で約2倍、教員数で1.4倍、機械・器具などの標準設置経費で約20倍の経費を必要とするからである。
 また、理工系学部学生に対する求人は、文系学部学生に対する求人の倍以上あることは常識的であるが、これは大学における専攻が社会の需要と整合していないことを示すもので、理工系学部の学生は就職に有利であるといって看過してよいものではない。平成16年10月1日現在の就職内定状況を見ても国公立大学が文系学部、理系学部とも62.3%であるのに対し、私立大学では文系学部の学生が59.7%、理工系学部の学生が68.9%となっており、私立大学における理工系学部の学生数を現在以上に増加しなければ、日本全体として、大学における学生の専攻を社会的需要に整合させることができないことは明らかである。
 しかしながら、国として理工系学部学生の教育を国立大学にのみに依存できないことは現状からも明らかであるから、理工系学部学生の教育の量的に主要な部分を私立大学に委託するとの観点に立って、私立大学における理工系学部学生増支援の措置を講じること。

b.奨学金制度の財源確保

 我が国の科学技術に携わる人材の養成には、私立大学の人材を有効に利用し、理工系学生数を増やす必要があることは、上記aのとおりである。特に私立大学においては、理工系学部の学納金は文系学部における学納金よりも高額にならざるを得ないので、学生数を増やすには、まず、学生が進学するための諸経費をすべて本人または家族等の負担とするのではなく、国も一部負担するように大幅な奨学金制度の財源確保が必要である。

c.科学・技術研究者の処遇改善

 最近の学生は勤労意欲がないと批判される反面、高校生は大学進学に当たって大学卒業後の就職、社会的活動及びそれによる対価、報酬に関心があり敏感な面もある。もちろん国が個人の所得の保証ができるわけではないが、若い世代に科学技術者として社会的活動をすることに意欲を持たせ、かつ科学技術者に対する正当な社会的評価として、職務上の発明等の知的財産の帰属、対価についての法的整備を行うことが必要である。

d.日本型テニュアトラック制度導入のための財政支援措置

 ポストドクトラル制度は若手研究者の流動性を高め、研究能力の向上並びに国全体としての研究活動の活性化に資する点は多いが、一方において若手研究者の使い捨てになることもあり、不安定な地位として若い世代に敬遠され科学技術者への途から遠ざける向きもある。したがってポストドクトラル制度をこのまま放置すれば社会問題にもなる可能性があり、日本型テニュアトラック制度は必要と考えるが、そのために新たなポジションを創設することを私立大学の経済的負担で行うことは困難であるので、私立大学に対しこの日本型テニュアトラック制度の導入を求めるのであれば、必要な財政上の支援措置をすること。

2.大学改革支援をはじめとする創造的で質の高い研究開発システムの構築

a.私立大学における研究基盤の整備・充実

 国立大学と私立大学との間に研究水準の差があることは、文部科学省の「21世紀COEプログラム」の採択状況を見ても明らかである。この差が生じている一つの原因は、競争的研究資金の配分が現実に優れた研究成果を挙げている研究組織に重点的に配分される傾向があるので、そこには正帰還の現象が生じるからである。すなわち過去において国費をもって教職員、大学院、施設、設備等研究基盤の整備、充実を図ってきた国立大学が、現時点において多くの競争的研究資金を獲得することができるのは当然である。
 したがって冒頭に述べたように私立大学の有する潜在的活力を引き出し、国としての科学技術活動力の一層の向上、充実を図るために、促進策すなわちaffirmative actionとして私立大学における研究基盤の抜本的な整備を施策の眼目とすること。

b.民間資金導入条件の格差是正

 従来も努力されてきたことであるが、国立大学と私立大学との間に残る民間資金導入条件の格差、例えば税制上の格差は第3期計画において解消すること。
 これによりリスクの大きい基礎研究を担当する国立大学、私立大学に対する産業界等からの支援に対する制度上の格差を解消すること。

3.科学技術の戦略的重点化

a.私立大学理工系大学院の拡充支援は基礎研究推進の重要な一翼

 基礎研究は応用研究、開発研究と異なり、計画された期間内に期待された研究成果が得られる可能性は低く、また、どのような研究成果が期待されるのかも不明であることが少なくない。したがって、このような基礎研究の中から独創的な研究成果が得られ、我が国の科学技術の発展に寄与することを現実化しようとすれば、多数の研究者がそれぞれの発想に基づいて基礎研究に取り組まねばならず、その若手研究者の中には当然大学院学生が含まれる。私立大学の理工系大学院を拡充することは、基礎研究推進の一翼を担うものとして極めて重要であるので、その支援策を盛り込むこと。

b.基礎研究の成果に基づく戦略的重点化

 基礎研究経費を費用対効果を重視し、計画された期間内に計画の完成を求める競争的研究資金をもって支弁することは、当該競争的研究資金の趣旨に反して不適切な場合もあり、かつ民間研究資金もリスクが大きいため導入困難であるので、文部科学省科学研究費補助金の萌芽研究枠の拡大など、国として基礎研究の振興に努め、大学等で得られた基礎研究の成果は、我が国の科学技術発展のseedsとなり得るか否かの観点で評価し、なり得る場合には、その成果に基づいて、我が国独自の科学技術研究の戦略的重点化を図ること。
 なお、基礎研究育成は研究基盤の整備の一環として手当てすべきで、私立大学における基礎研究も研究基盤整備の対象に入れること。

4.イノベーションの好循環の形成

 イノベーションの好循環を図るには知の創造の現場、例えば、大学において特許等工業所有権の取得はもちろんのこと技術移転や起業も含めて、その活用への手立てを整えると共に、技術移転、起業化の経験を知の創造の現場にフィードバックすることが必要であり、第2期計画で採られた施策をさらに発展させていくことが期待される。
 そこで第1期計画において、「国以外の者が国立大学等と共同して研究を行うために必要となる共同研究施設を国立大学等の敷地内に整備することを促進することの法改正」が行われたが、同様に当該学校法人以外の者が、共同して研究を行うために必要となる共同研究施設を、当該私立大学の校地内に整備することを促進するための法的整備(現在、国立大学法人等について認められている不動産取得税及び固定資産税の課税標準の特例措置)を行うこと。

5.科学技術と社会の関わり

 科学技術はそれ自身健全な発展を遂げ大きな社会貢献をするためにも、また、学際ないしは新学問領域を開拓するためにも人文・社会科学等との融合を積極的に図ること。
 また、特に科学技術の発展に伴いその倫理の確立が必要であるが、その際、科学者・技術者個人としての倫理の確立と同時に、企業など組織体としての倫理の確立も行われるべきである。

6.地域における科学技術振興

 国土の多極的な活用を促進し、大都市への人口集中に伴う弊害を避けるためにも、地域における科学技術振興が必要である。諸外国では、大学や先端科学技術企業の全国的分散がかなり進んでいるが、日本の場合大都市指向が根強い。その理由の一つは、大都市以外の地に大学や研究所を設置しても、そこに勤務する人々の家族の学校、文化施設、レクリエーション施設を含む生活環境が大都市と格差があるからで、地域における科学技術振興を根付いたものにするため、地域クラスター等の整備の際には、地域の生活、文化水準の向上等地域の生活環境整備も同時に図ること。

7.科学技術活動の国際展開

a.外国人留学生への各種財政的支援

 我が国では、遠からず若手の科学技術研究者数の減少が深刻になると予測されるので、我が国における科学技術活動を日本国内において、日本人の手だけで行うという発想を捨て、外国人研究者と共同で科学技術振興を図る体制を整えること。
 その基盤としても、科学技術分野での来日外国人留学生を増やす必要があるが、そのためには、来日外国人留学生に対する経済的支援を充実させなければならない。一方、来日外国人留学生の立場からみると、大学院において先端科学技術の研究に従事することへの期待が大きいと考えられるので、大学院学生を日本人、来日外国人留学生を問わず、研究助手として採用する経費を国、公、私立大学に対し、研究費に含めて国が支弁し科学技術の振興を図ること。
 特に、大学院学生が国立大学に比較して少ない私立大学における科学技術研究、教育能力を有効に活用し、我が国全体の科学技術活動の活性化を図るために、来日外国人留学生を含め大学院学生を我が国の科学技術活動の一翼を担うものとして位置付け、その活動への対価を支払うとの観点で、処遇を改善することを図るための財政的支援を行うこと。

b.英語で学べる環境整備

 我が国が、外国、特にアジア諸国からの留学生を招致し、新しい科学技術環境を創出するために、我が国の大学で、日本語が学習できるとともに、英語で教育を受け、研究に従事できる環境を整えること。それはまた、世界に通用する日本人科学者・技術者を養成するうえで必要不可欠である。

c.国際的に魅力ある研究環境の実現

 我が国が科学技術創造立国として優れた科学技術活動を進めていくためには、内外の優れた研究人材をひきつける国際的に魅力ある研究環境を実現し、世界水準の優れた成果を創出していくことが必要である。こうした観点から、大学が果たす役割は大きく、例えば大学間の国際学術研究交流を推進するほか、大学における特色ある組織的な国際展開に向けた取組みの充実を図ることが重要である。

8.科学技術振興のための基盤の整備

 大学間の共同利用に供される大規模施設については、加速器など理学的な分野では整備が進められてきたが、技術的な分野では過去において技術開発がほとんど企業で行われたこともあって整備されていない。しかし、企業における技術開発も多額の研究・開発資金を要することから、最近では経済産業省関連の補助金による研究開発プロジェクトとして、あるいは、民間企業間のコンソーシアムで大規模施設を設置し共用している。これ等の共同研究プロジェクトに、大学教員が研究員ないしは受託研究の形で参加することはあっても、これらに使用している、あるいは研究プロジェクト終了後の大規模施設が大学の研究に開放された例はないので、これらの施設を共同利用施設として大学への開放を促進すること。

以上

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

Get ADOBE READER

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Acrobat Readerが必要な場合があります。
Adobe Acrobat Readerは開発元のWebページにて、無償でダウンロード可能です。

(科学技術・学術政策局計画官付)