資料3 公立大学協会発表資料

第3期科学技術基本計画策定に関する意見

平成17年1月14日
公立大学協会

 第2期科学技術基本計画の始期に当たる平成13年以後、地方分権化が急速に進展し、その中で公立大学の新設がさらに進み、平成16年度にはその数は77校に達した。また、国公私立を通じて大学の構造的改革が急速に展開する情勢の下で、各公立大学における教育・研究・地域貢献の活動は着実に前進し、加えて公立大学法人制度の法制的整備が完了し、平成16年度には初めての公立大学法人が誕生した。ここ3年間、公立大学は大学評価・学位授与機構による試行的評価や競争的資金公募にも積極的に参加してきた。
 公立大学協会は、府省との協議や公立大学設置団体協議会との交流等を拡大させ、公立大学に共通する問題の研究・開発に取組むなど組織活動を強化し、公立大学を地域の知的拠点としてより確かに位置づけるべく努力を重ねている。第3期基本計画の策定にあたり、地域に根ざす大学の視点から、以下5点にわたって意見を述べたい。

1 「安心・安全で質の高い生活のできる国の実現」にかかわり、“心の豊かさ”をめぐる政策を充実させる必要がある。

 第2期基本計画の第1章には、3つの基本理念が提示されており、このうち(3)安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて―知による豊かな社会の創生―において、“質の高さ”、“豊かさ”については、健康、防災、地球環境、国際関係という4つのテーマに渡り述べられていることは評価できる。加えて「心豊かに」といういま一つの重要な指摘がなされているが、これについては先の4テーマに比べ具体的な説明がない。第2章の重要政策及び第3章の総合科学技術会議の使命においても同様である。
 「人間の尊厳に関わる生命倫理の問題、遺伝子組換食品の安全性や、情報格差、さらに環境問題等、科学技術が人間と社会に与える影響がますます広く深くなること」を予測し、「自然科学のみならず人文・社会科学を総合した人類の英知が求められること」(第1章「1 科学技術をめぐる諸情勢」)という認識の上に立てば、この“心の豊かさ”について、第3期においては、計画を具体化し、充実させる必要がある。

2 「地域における科学技術振興のための環境整備」にかかわり大学の地域における教育・研究拠点としての取組みに対する評価と支援をお願いしたい。

 第2期科学技術基本計画開始以降、公立大学でも、高齢化社会における地域福祉・保健医療の充実や、経済・社会の情報化の進展に伴う地域における情報基盤の整備など、近年における地域政策の重要な課題を達成するために、看護系、保健系、福祉系、情報科学系などの専門分野へ積極的に取組んできた。先端的な科学技術の恩恵を地域住民(国民)の豊かさへ結びつけることは、科学技術振興の重要な一側面であると認識している。
 また最近、大学の教育・研究活動が地域との緊密な連関の下で実施されているケースが増えている。公立大学においても、大学として地域連携センター及びそれに準じる組織を設置して活動を展開しているケースは、公立大学協会が実施したアンケートによっても多くを数えている。これらは、第2章2・3地域における科学技術振興のための環境整備における(1)地域における「知的クラスター」の形成、(2)地域における科学技術政策の円滑な展開に資するものであり、その取組みに対し適切な評価と支援が必要と考える。

3 科学技術の成果にのみ重点を置きがちな傾向を見直し、初等中等教育から高等教育に至る連関性に留意した人材育成が必要であり、そのため高度な人材養成を担う大学への公財政支出を抜本的に拡充する必要がある。

 第2章4は、「優れた科学技術関係人材の養成とそのための科学技術に関する教育の改革」という表題をもつ。しかしながら、その力点は大学院に置かれ、すぐれた実績を上げ得る人材育成に直結する、いわば成果主義的スタンスが感じられる。もし、科学技術の成果に比べ研究者育成を軽視する傾向があるとすれば、科学技術政策全体の問題として見直さなければならない。
 根が地下にしっかり張っていない植物は、少々の風でも倒れてしまう。小中高における初等中等教育を通じて、数学、物理、化学、生物、国語といった学問の基礎をしっかり教え、演習、実験に十分な時間をとる教育が、科学技術を担う次世代の研究者の育成に不可欠である。「アジアの他の国々の大学生の堅実な基礎学力に比べ、わが国学生の数学力は昔と比べ明確に劣っている」と言われ、応用や創造が叫ばれる中で、基礎あっての応用であることを忘れてはならない。
 初等中等教育の蓄積を大学院レベルの国際的水準に積み上げるためには、高=大連携と大学における教養教育・専門教育との連関性を強化する必要があると考える。とくに前者は我が国の教育システムにおいて、受験対策等のため、十分な発展を阻害されてきた傾向がある。公立大学においても、設置団体が同じである利点を生かし、地域の高校と密接な提携(高=大連携等)に積極的な事例が少なくない。初等中等教育の改革については、現在、様々な取り組みが行われているところであるが、科学技術の発展の観点からも、大学、高専、高等学校の連携強化にも眼を向け、その体系化を重視することが望ましい。
 また、第3期科学技術基本計画をめぐる議論では、科学技術に関わる高度な人材養成を担う大学の機能強化が強調されており、それに賛同する。それを実体化するには、欧米等諸外国より低い我が国高等教育への公財政支出を抜本的に拡充する必要がある。

4 競争的資金の評価については、担当する各機関の負担が過大になっているが、次期科学技術基本計画において、研究資金の配分、成果の評価及び公表を行う効果的・効率的なシステムを確立する必要がある。

 研究開発に関する競争的資金は年々増加し、すでに平成14年度より競争的資金がその他の資金を上回っている。そのこと自体は大きな意義をもっているが、これら近年設置の競争的資金については、その配分方法と評価システムがまだ十分に整備されるには至っていないとの声がある。
 第3章にも基本計画を実行するにあたっての総合科学技術会議の使命の一つとして評価の項目が置かれているが、その配分方法と評価システムについて公平性、透明性をさらに高める、より具体的な改善策が必要である。
 また、評価については、関係省庁との連携等により評価の重複を避けるなど、効果的・効率的なシステムを確立し、担当する各機関の負担を軽減する必要がある。

5 「研究機関における研究開発の推進と改革」の担い手として公立大学の位置づけに配慮をお願いしたい。

 最後に公立大学に関し1点のみお願いしたい。第2章2・1・(2)主要な研究機関における研究開発の推進と改革の1大学等の項については基本的に同意し、各公立大学としても改革にさらに真摯に取組むものである。その上で、大学の設置形態別では、見出しも「(a)国立大学等」、「(b)私立大学」とあり、また公立大学の大学院への言及が欠如しているなど、公立大学の役割が軽視されているとの誤解が生じかねない記述が見うけられる。
 公立大学の活動は「21世紀COE プログラム」においても、医学・看護科学を含む幅広い自然科学の基礎・応用領域及び人文・社会科学領域で採択され、また科学研究費補助金の分野でも、国立情報学研究所のデータベースNACSISに基づく研究及び引用資料によれば、多くの学部をもつ総合性の高い公立大学が健闘しているほか、学部数の少ない公立大学の中にも、たとえば人文科学の広範な分野で採択率・件数とも有数の成果を挙げている場合が見出されるなど、充実・拡大がうかがわれる。
 各公立大学においても、科学技術の発展、地域への貢献等において、各公立大学の特質を生かしつつ新たな取組みを進めている折でもあり、第3期計画の立案に当たっては、公立大学の位置づけについても適切な配慮をお願いしたい。また、競争的資金の評価、配分においても、上記の公立大学の取り組みを踏まえた配慮をお願いしたい。

(以上)

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

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(科学技術・学術政策局計画官付)