科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して

-科学技術・学術審議会人材委員会 第三次提言概要-

平成16年7月

はじめに

○科学技術の発展により、社会が豊かになってきている一方、人間活動の領域の広がりや活発化に伴って新たな社会的課題が顕在化するなど、科学技術と社会の関わりが深化・多様化してきており、科学技術創造立国を実現していくために必要な人材養成についても、社会との関係を意識した方策を展開していくことが必要。
○このような認識の下、本人材委員会では、第一次、第二次提言の内容も改めて振り返りつつ、人材養成上の諸課題について検討を行い、科学技術と社会という視点に立って推進すべき人材養成方策について、今回第三次提言として取りまとめたもの。

1 現状と課題

(検討の背景)

○科学技術と社会の関わりが深化・多様化する中、科学技術・学術活動を担う人材についても、大学などの研究機関はもとより、社会の様々な場で活躍する者を視野に入れることが必要。
○我が国社会が「知」を創造し活用する社会へ移行する中、少子高齢化の進展に伴う若手の供給減少など量的な面での懸念が高まっており、人材養成に当たっては、これまでに増して創造性の向上等、質的な面での充実が必要。
○国民一般の科学技術への関心が低下しているとの調査結果もあり、これからの科学技術と社会の関係を構築していく上で憂慮すべき状況。
○人材養成の現場においては、国立大学が法人化し、各大学の自主性・自律性が大幅に増大するとともに、知的創造活動における産学官連携や大学等の地域貢献が進展。
○経済協力開発機構(OECD)において、科学技術に関する人材養成についての重要性が各国で認識されるなど、人材養成は先進諸国共通の課題。

(検討の視点)

○科学技術と社会の関わりが深化・多様化する中、新しい「知」の創造による社会貢献や、「知」の活用や社会還元の両面において、それを担う人材養成に向けた取組が重要。
○こうした役割を担う人材に共通して必要な能力としては、研究開発活動への関与の度合い等により程度の差はあるものの、高い専門性に加え、柔軟性、創造力、実践力、マネージメント力、国際対応力、社会とのコミュニケーション力などが考えられ、幅広い教養や外国語の運用能力なども不可欠な素養。
○我が国が将来にわたり「知」を創造し活用する社会として持続的に発展していくためには、その基盤となる人材の養成に向けた取組を強化していくことが重要。
○具体的には、初等中等教育の段階からの取組や、初等中等教育と高等教育との接続など教育段階の連続性を活かす取組が重要。
○「知」を創造し活用する社会を担う人材として、博士号取得者等は、大学等の研究者としてのみならず、社会の様々な場において多様な役割を担い活躍することが重要。

(人材養成上の課題)

(1)新しい「知」の創造による社会貢献

○世界をリードする質の高い研究者の養成に向けて、国立大学の法人化などの大学改革により、大幅に拡大した各大学の自主性・自律性を最大限に活かしつつ、研究者養成に重要な役割を担う大学院博士課程の教育機能の強化を図ることが必要。
○我が国全体の研究能力を維持・向上させ、多様な研究者が活躍できる環境を整備するためには、大学や研究機関において、研究者の流動性向上や各人の能力・業績が適切に評価され、処遇に反映されるシステムを整備するなど、多様な人材が能力を発揮できる創造的・競争的な環境を醸成することが重要。

(2)「知」の活用や社会還元

○創造された「知」を経済社会に活かし、持続的な発展を遂げていくため、「知」の活用や社会還元を担う人材養成に向けては、産学官それぞれの特徴や役割を踏まえた連携を一層強化することが重要。
○新しい知識を技術に結びつける創造性豊かな技術者の養成に向けては、大学院修士課程の教育機能の強化とともに、既に技術者として活躍する人材が継続的に能力開発を行う機会を確保することが重要。
○研究開発成果の移転を推進する人材として、未開拓の事業にリスクを恐れず果敢に挑戦する起業家や、技術経営(MOT)等に関する深い知見を備えた人材等、産学官連携等を推進する人材の養成に向けた取組を強化することが重要。
○研究者と社会をつなぎ、また、科学技術に対する意識と理解の涵養、科学リテラシーの向上を図り、科学技術と社会との間の双方向のコミュニケーションを可能とするような、いわば対話型科学技術社会を構築していく人材を養成することも重要。

(「知」を創造し活用する社会の持続的な発展)

○我が国が将来にわたって「知」を創造し活用する社会として持続的に発展していけるよう、その基盤となる人材の養成においても、連続性を踏まえた取組が重要。
○次代を担う人材養成に向けては、初等中等教育段階から子どもが科学技術を学び・親しむ環境が人的・物的に充実されることが必要。このため、科学技術分野において卓越した人材を、高等教育との接続なども視野に入れながら、初等中等教育段階からしっかりと養成することが重要。
○高度な専門能力を有する博士号取得者等が、大学等の研究機関における研究者としてのみならず、社会の様々な場において、多様な役割を担い活躍するためには、大学院博士課程における産業界や行政機関等での活躍も視野に入れた教育機能の強化を図るとともに、博士課程進学に伴う経済的負担の軽減が重要。

2 改革方策

(基本的視点)

○小学校、中学校、高等学校、大学学部、大学院、社会人等に至るまで連続性をもって、各段階に応じた人材養成に関する取組を推進することが重要。その際、各段階において、理科や数学、専門分野のみならず、意欲や感動を育み、豊かな人間性や社会性を涵養するような取組も重要。
○人材養成に関わる者は、社会との関係や養成される個々人のニーズを意識し、役割に応じた取組を行うことが重要。特に、学校教育においては、各段階における教育内容や手法等と併せて、教員の教育能力の向上が極めて重要。
○とりわけ大学等の教員に関しては、「知」の創造を担う研究者としての高度な研究能力に加え、教育者としての能力・資質の向上が重要であり、大学教育の質的向上の一環として積極的に検討されることが必要。
○人材養成に当たっては、個々人の意識や関心と社会ニーズとのマッチングが重要であり、教育機関が主要な役割を果たすべきものであるものの、産学の人材養成パートナーシップの確立が重要。また、社会的ニーズの変化への機動的な対応に加え、将来の需要見通しなどに留意するなど、長期的な視点に立った対応が図られることが重要。
○各人の能力が最大限に発揮されるよう、適正な競争環境や各人の能力や業績が公正に評価される環境づくりが重要。併せて、多様な人材の活躍が期待される今日の我が国においては、多様性を育む社会的な環境を構築していくことも重要。

(具体的な改革方策)

(1)新しい「知」の創造による社会貢献

1 世界をリードする質の高い研究者の養成

○我が国において世界をリードする研究者を養成していくため、大学院博士課程を中心とした研究教育拠点に対する重点的支援の充実
○国際的に活躍できる研究者の養成・確保に向けた、若手研究者の海外における研鑽機会等の充実
○我が国として戦略的に取り組むべき新興・融合分野における人材養成モデル事業の推進

2 多様な研究者が活躍できる環境整備

○多様な研究者がその能力を発揮できる創造的・競争的環境の醸成に向けた、評価システムの改革や流動性向上に向けた取組を促進
○優れた若手研究者、女性研究者、外国人研究者等が活躍できる環境整備に向けた取組を促進

(2)「知」の活用や社会還元

1 創造性豊かな技術者や産学官連携等を推進する人材の養成
(1)人材養成面における産学官連携の強化

○個々の大学と企業群が契約に基づき安定的な長期インターンシップの実施を可能とするなど、産学人材養成パートナーシップの確立

(2)新しい知識を技術に結びつける創造性豊かな技術者の養成

○科学技術の急速な進展や社会ニーズの多様化・高度化に対応できるよう、技術者の継続的な能力開発環境の整備促進
○実行力・創造力をもつ技術者養成のための大学院修士課程の教育機能の充実
○技術者の役割の明確化等、技術者が誇りと生きがいを持って活躍できる環境の整備促進

(3)産学官連携等を推進する人材の養成

○起業家が多く生み出される環境づくりの支援、産業界が求める人材と大学が創り出す人材のイメージを合わせた産学官連携推進人材の養成
○国公私立大学を通じた競争的環境の下で、技術経営等各種の専門職大学院で行われる質の高い実践的教育の支援

2 対話型科学技術社会を構築していく人材の養成

○研究者と社会をつなぐ科学技術コミュニケーターの実践的な活躍促進モデル事業の推進
○研究者自身が一般社会に語りかけるアウトリーチ活動の支援
○子どもたちに理科・数学を学ぶ楽しさや面白さを伝えるため、理数担当教員の修士号以上の取得や専修免許状の取得の促進

(3)「知」を創造し活用する社会の持続的な発展

1 初等中等教育段階からの科学技術を支える人材養成

○初等中等教育段階での教育効果を高め、高等教育段階でさらに伸ばす環境を醸成するため、人材養成の視点を重視した新しいスーパーサイエンスハイスクールの発展・充実
○理数への興味・関心を高め、理科好きの子どもの裾野を広げるため、各種のプログラムをメニュー化し、地域の特徴を活かした取組の支援

2 博士号取得者等の社会の多様な場における活躍促進

○大学院博士課程において、研究科又は専攻レベルの目的・役割に沿って、進学からキャリアアップまでの一貫した教育支援プログラムを実施する研究教育拠点を重点的に支援
○優秀な人材が経済的負担の心配なく大学院博士課程へ進学できるよう、特別研究員事業等の充実
○博士号取得者等が多様な場で活躍できるよう、大学院博士課程における組織的な取組の促進

おわりに

(留意事項)

○人間社会と地球環境との調和のとれた発展を図っていくためには、自然科学と人文・社会科学を総合した人類の英知が求められていることは言うまでもない。
○科学技術と社会との間の双方向のコミュニケーションのための条件を整えるに当たっては、自然科学系のみならず、人文・社会科学系の人材が、科学技術と社会との関係について研究を行い発言するとともに、企業や地域など社会の側にある意見や要望を科学技術の側に的確に伝えるという点で重要な役割を担うことが期待。
○人文・社会科学固有の問題を含め、学問分野ごとの特性を踏まえた検討も必要。こうした点については、科学技術・学術審議会関係分科会等における検討状況を踏まえ、本委員会としても必要な検討を行うことが必要。その際、高等教育の将来構想(グランドデザイン)など、中央教育審議会大学分科会における検討状況にも留意。

(第三期科学技術基本計画の策定に向けて)

○今回は、喫緊の課題となっている人材養成の質的な面の方策を提言したが、我が国社会の急速に進展している少子高齢化は、今後の科学技術・学術活動の基盤となる人材の養成・確保に関して極めて大きな影響を及ぼすと考えられ、この問題についての検討を深めることが必要。
○政府においては、今後、平成18年度から実施予定の第三期科学技術基本計画に向けた検討が本格化するものと考えられ、本委員会としても、こうした検討動向に留意しつつ、引き続き必要な検討を行っていく予定。
○今回提言した方策が実効性あるものになるよう、人材養成に直接的に関わる者のみならず、産業界を含め、広く国民一般の幅広い理解と協力が得られることを期待。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)