資料3-2 「技術者の養成・確保」のための方策(案)
科学技術・学術審議会
人材委員会(第25回)
平成16年3月11日
1.現状認識
- わが国が引き続き科学技術・学術に係る国際競争力を有し、ものづくりや情報通信技術に立脚した持続的な発展を遂げていくためには、研究者に加え技術者(※)の役割が極めて大きい。
- デフレ傾向が続く経済環境の中においては、付加価値を高める努力が求められており、知識と技術を結びつけ、それにより創造性を発揮するような技術者が求められている。
- 一方、このように技術者に必要とされる能力が多様化・高度化する昨今において、「自分の能力に比べて技術レベルの進歩が早すぎる」、「専門以外の関連技術に対する習得が要求され、技術上の能力不足を感じる」と考えている技術者が多いことが、アンケート調査等を通じて明らかになっている。
- また、安心・安全な社会の実現に向け様々な取組が行われている中、科学技術活動に伴うリスクを評価し、適切に対応することがますます重要になっており、その中核を担う技術者が社会の中で果たすべき役割、責任を改めて明確にすることが必要である。
- さらに、企業が社会的責任を果たすとともに、危機管理に万全を尽くすためには、企業倫理の徹底が必要である。最近頻発する工場での大事故は、単なる規律の問題としてではなく、いわゆる「現場力」の低下の反映であるとの危機感をもった認識が深まっている。
- このような状況を踏まえ、技術者が抱えている不安を取り除き、その能力を遺憾なく発揮できる環境を整備することが必要である。
※本委員会において対象とする技術者は、研究者の場合同様、基本的に自然科学のみならず広く人文・社会科学まで含めたものとする。ただし、具体的な対応を考えるに当たっては、国際的な「engineer」(学士レベルの自然科学・数学知識を基礎に、人工物・人工システムの開発、設計、製造、管理に関する技術業に携わる者)の考え方、動向等を考慮しつつ、最も人数が多い生産活動を担う民間企業の技術者を中心に検討を行うべきではないか。また、技術者の検討においては、技術者といわゆる技能者等とは区別して扱われる必要があるのではないか。
2.今後の対応
1.技術者が継続的に能力開発を行うことができる環境の整備
【考え方】
技術者に対する継続的な能力開発については、企業・技術者個人ともその必要性を認めているにもかかわらず、時間的制約、人手不足等の理由により満足のゆく効果が得られていない。技術者が必要とされる知識を身につけ能力向上を行うことができる環境を整備する。
【具体的な対応(案)】
(1)技術者の能力開発システムの構築
- 大学、学協会等が、企業等の技術者に必要とされる科学技術に関する知識・技術的能力を習得するための能力開発システムを構築すべきではないか。
- 能力開発の形態は、大学院等の社会人専門コース、短期的な集中講座、eラーニング等を組み合わせた多様なものとすることが必要ではないか。
- 単なる知識の習得ではなく、特に実験・実習等を通じ実務的能力が身につくシステムを目指すべきではないか。
- 習得すべき内容の策定、教材の作成、教育体制の構築そして実践までの一貫したシステム構築が必要ではないか。
- 各プログラムにおける難易度、質保証等に対する統一的な基準の導入を図るべきではないか。
(2)自習可能なコンテンツの提供
- 必ずしも十分な時間が取れない技術者が、時間や場所を問わず学習できる先端科学技術に関する教材を開発・提供すべきではないか。
- 教材は、短時間でも習得可能なようにモジュール化を行い、インターネット上での学習が可能なものとすることが必要ではないか。
- (1)の能力開発システムにおいても利用可能なものとすることが重要ではないか。
2.将来を担う実行力、創造力を持った技術者の育成
【考え方】
技術者に必要とされる能力が多様化・高度化していることを踏まえ、大学の理工系教育における実践的教育を一層推進するとともに、大学院修士課程修了の技術者が増加している実態を受け、大学院等における高度な教育研究の質の向上を図る。なお、大学・大学院等における技術者の養成に当たっては、学問分野毎に状況が異なることに留意する必要があるのではないか。
【具体的な対応(案)】
(1)特色ある大学教育の推進
- 長期インターンシップ導入をはじめとする産業界と連携した取組、学生の創造性を育成する取組、ものづくり等の実践的な取組などの、国公私立大学を通じた競争原理に基づく優れた取組を支援することにより、大学における理工系教育の充実を図るべきではないか。
(2)大学における技術者教育の向上
- 「日本技術者教育認定機構」(JABEE)が行う4年制大学等の技術者教育への認定を支援することにより、国際同等性を持った技術者教育の質の確保・向上を図るべきではないか。
(3)大学院における技術者の養成・確保
(1)大学院修士課程等における技術者教育の充実(中央教育審議会大学分科会の審議状況も考慮しつつ検討)
- 高度知識社会の進展に対応するため、これまで発展してきた各種の科学技術分野のみならず、革新的な分野や学際的・複合的分野などにおける高度な専門的知識と幅広い視野を兼ね備えた技術者の養成を目的として、教育内容・方法の展開を図ることが重要ではないか。
- 柔軟な発想とインテグレーション(統合、融合)能力の習得を意識した教育の充実を図る必要があるのではないか。
(2)大学院修士課程相当の技術者の養成
- 最先端の科学技術分野、知的財産関連分野および自然科学と人文・社会科学との融合領域等において、大学院修士課程相当の技術者の養成を目的とした講座・部門規模のユニットの機動的な設置を推進するべきではないか。
3.技術者が誇りと生きがいを持って取り組むことができる社会の実現
【考え方】
技術者が自らの活動に対して誇りと生きがいを持って能力を遺憾なく発揮できる社会の実現を目指し、技術者が社会的・経済的にその活動の意義や役割に見合う適切な評価を受けられるような環境を整備する。
【具体的な対応(案)】
(1)技術者の役割の明確化、社会的地位の向上
- 安心・安全で快適な生活ができる社会を形成するためには、技術の社会的責任を担うプロとしての技術者集団が必要であり、そのような集団として、技術士制度を充実し、技術士(現在約5.4万人)の質的・量的向上を図るべきではないか。
- 技術者自身の倫理、社会的に果たすべき責任を明確にすることが重要ではないか。(高度な科学技術活動に伴うリスクを評価し、最小化するための適切な管理を実施する 等)
(2)技術者の能力向上のためのインセンティブの付与
- 1.の継続的能力開発において、異なるプログラム間の互換性を高め、一元的な学習履歴の作成及びその証明を可能とし、技術者の処遇に反映させることを容易なものとする取組を支援するべきではないか。
- 技術者が各種能力開発を行う場合に企業が行う経済的支援を促進すべきではないか。
(3)技術者の貢献に対する適切な評価
- 技術者の今日的な役割を踏まえて、優れた技術的成果をあげた者に対する特別の昇進・処遇の充実など、技術者の貢献に対する適切な評価及び処遇を行うことが重要ではないか。