資料2-2 「初等中等教育段階からの科学技術を支える人材の育成」と「科学技術理解増進に携わる人材の育成」のための方策(案)

科学技術・学術審議会
人材委員会(第25回)
平成16年3月11日

1.現状認識

- 初等中等教育の段階から子どもが科学技術を学び・親しむ環境が人的・物的に充実されることが必要。
 また、科学技術の分野について関心を持つ子どもについては、興味や関心等を伸ばすことで、個性が最大限に伸長されることが必要。
- 今後、科学技術のあり方を社会として適切に判断し、また、その発展に伴って惹起される新たな課題に対応していく際に、国民の科学リテラシーの高さは重要な要素。
 このため、研究者と社会をつなぎ、また、科学技術に対する意識と理解の涵養、科学リテラシーの向上を図るための人材育成を推進する必要がある。

2.今後の対応

1.科学技術分野において卓越した人材を育成する

【考え方】

  • 初等中等教育段階での教育を受けて高等教育でさらに伸ばす環境を醸成する。
  • 科学技術を支える人材を自国内で如何に確保するかの検討が、先進各国で広く行われている状況を踏まえる。
  • 創造性、独創性を育む素地を作る体験的・問題解決的な学習を重視し、科学技術に関心の高い子どもに対し効果的に理数教育を行うことのできる環境の整備が必要。
  • スーパーサイエンスハイスクール(SSH)により得られた成果と課題
    1. 大学や研究機関等との連携を通じて、生徒の科学に対する興味関心の高まりや将来の職業を見据えた進路意識の啓発などが見られること。
    2. SSHにおける取組は、教員にも良い刺激や波及効果をもたらすこと。
    3. 実験や課題学習等を重視した教育の推進について、進学への影響が生じることを懸念している学校が少なくないこと。
    4. 大学、研究機関等の連携は多くが卒業生人脈等に依存し、組織的な連携が十分でないこと。
    5. 大学入試の関係から教育課程や指導内容を大幅に改変しての取組に至らない事例があること。
  • 科学技術関連のテーマへの挑戦を通して意欲を高める機会を充実する。

【具体的な対応(案)】

○ 理数が好き・得意な生徒を伸ばし、創造性や独創性を育む取組への支援

  • SSHの成果を踏まえ、例えば理数教育の拠点となる高等学校を指定するなど、創造性や独創性を育む教育を推進するべきではないか。
  • 各種科学オリンピック等のコンテストやサイエンス・キャンプへの参加促進と活動振興を図るべきではないか。

2.理数への興味・関心を高め、「理科好き」の子どもの裾野を広げる

【考え方】

  • 実験、観察等体験的・問題解決的な学習やものづくり等を通して、知的好奇心を高め、実感を伴った理解を図ることが必要である。
  • 国をリードしている研究者や技術者の顔がもう少し子どもに見えるような社会、そういった人々が尊敬されるような社会づくりが必要である。

 こういった観点からのサイエンス・パートナーシップ・プログラムの取組における主な成果や課題は以下の通り。

  1. 実験・観察等を織り込み、大学、研究機関等と高等学校・中学校が共同してプログラムを作り上げる方式が最も教育効果がある。
  2. 大学院生等がティーチィングアシスタントを通じて、自らの研究の意義や教育活動の重要性を認識するなど、大学院における教育にも有意義である。
  3. 研究者にはこの種の活動が業績評価につながることへの希望が多い。
  4. この種の活動には相応の経費と手間がかかる。
  5. 相互に連携の相手を見つけることが困難である。
  • デジタル技術を活用することで、子どもの知的好奇心・探究心に応じた科学技術に関する学習機会を充実する必要があるのではないか。

【具体的な対応(案)】

(1)実験、観察等の体験的・問題解決的な学習等の推進
  • 子どもの居場所づくり施策とも連携した科学館や科学ボランティアの活動を推進し、科学的体験や先進的な技術に触れる機会を拡充することで、学習への動機付けを図るべきではないか。
  • 実験・観察等による学習の実施状況や理科教育用の学校備品等の環境が十分かどうかについて、現況把握のための調査を実施し、その整備を一層充実するべきではないか。
  • 宇宙や深海、微小現象や極限状態、物理現象等を可視化、映像化することが可能なIT技術を理科教育に活用し、わかりやすい授業の実現に努めることとし、特に研究機関が所有する研究成果を活用したデジタル教材の教育現場への提供を推進するべきではないか。
(2)研究者・技術者の姿に触れ、科学技術に携わる者に触れあう機会の充実
  • 研究者・技術者と教員の協力により、学習の効果的な動機付けが可能となる大学・研究機関等と高等学校・中学校等の連携を促進するべきではないか。
  • 研究者の評価指標について、科学技術理解増進活動の実績を社会貢献として評価することをより重視するべきではないか。
  • 研究者が自らの研究について平易な言葉で一般社会に語りかけることに自発的に取り組めるような環境の醸成が必要ではないか。

3.科学コミュニケーション人材の育成・確保、理数担当教員の資質向上

【考え方】

 研究者と社会をつなぎ、また、科学技術に対する意識と理解の涵養、科学リテラシーの向上を図るための人材を育成・確保する。

(1)専門職としての科学コミュニケーター
  • 科学コミュニケーターは社会の常識を研究者の側にフィードバックする役割も持つものとして必要性が指摘されているが、科学技術系人材のキャリアパスとして考える際には需要の把握等の検討が重要。
  • 学校教育との連携において科学館・科学系博物館等の持つ科学コミュニケーションの専門性の活用は十分に行われていない。
(2)退職研究者・科学ボランティア
  • リタイアした研究者人材の活用を促進し、世代間の知識継承を行う仕組みをつくるべき。
  • 理科好きの裾野を拡大するための活動に取り組む科学ボランティアの育成・活動の支援をするべき。
(3)研究者自身によるアウトリーチ活動(※)の推進
  • 研究者自身が「社会のための科学」という意識を持ち、科学技術に対する意識と理解の涵養を図るためにアウトリーチ活動に取り組むことを通して、一般人に対して自らの研究内容を説明できるようになることが必要ではないか。また、既知の知識だけでなく、現在進められている研究のプロセスを説明する取組(Public understanding of research)が重要ではないか。

 ※研究者自身が研究活動への興味や関心をもたせるために国民一般に対して行う様々な活動

(4)科学技術を実社会で活用している姿に触れる機会の充実
  • 科学技術に対する意識と理解の涵養をはかる上では、科学技術が実際にどのように活用されているかについて触れる機会を充実する必要があるのではないか。
(5)理数担当教員の意欲、意識を含めた資質の向上
  • 研究者として訓練を受けた人材が教員となる道を開くこと、教員が最新の知識を身につけるため理工系の大学院で学ぶことを推進するべき。
  • 広義の意味で子どもにとり最も身近な科学コミュニケーターである教員について、どのような資質の人材があてられているかの現況を把握し、今後、質量とも優秀な人材をいかに確保していくかが課題。

【具体的な対応(案)】

(1)専門職としての科学コミュニケーター
  • 科学ジャーナリスト、高度の企画力を持つ学芸員等の養成を図る専門の教育の在り方を研究することが必要ではないか。
  • 日本科学未来館における「科学技術スペシャリスト」の基礎研究分野での理解増進活動での活用等の先駆的取組を推進するべきではないか。
  • 公的研究費による大規模な研究については、その研究内容や進捗状況について広く社会に情報発信を行い、社会からの意見等を研究に反映するための取組を予めプロジェクトに組み入れるようにするとともに、このような取組を科学コミュニケーターを養成する場として活用するべきではないか。
  • 学校教育と連携による、地域の理科教育センター的な取組を推進し、科学館、科学系博物館の教育支援の拠点としての活用を推進するべきではないか。
(2)退職研究者・科学ボランティア
  • 学会等を活用してリタイア研究者人材の科学技術理解増進への活用を検討するべきではないか。
  • 科学技術理解増進に取組むボランティアをネットワーク化し、育成や支援を行いながら活動を推進するべきではないか。
(3)研究者自身によるアウトリーチ活動の推進
  • 日本学術会議における理科離れ対策についての検討との連携を図り、研究者のアウトリーチ活動を推進するべきではないか。
  • 研究者を養成する段階から、社会への情報発信を念頭においたトレーニングを行うとともに、情報発信の手法について身につける機会等を充実するべきではないか。
(4)科学技術を実社会で活用している姿に触れる機会の充実
  • 日本経団連の「産業技術の理解増進に関する懇談会」の提言等を踏まえた経済界の取組と連携し、子どもが科学技術を製品やサービスの形で活用している姿に触れる機会を充実するべきではないか。
(5)理数担当教員の意欲、意識を含めた資質の向上
  • 現職教員の過去の専攻分野や理数の指導に対する意識等の現況を把握した上で、必要な検討を行うべきではないか。
  • 国と各地域の理科教育センター及び理科教育研究部会と教員養成系大学等のネットワークを強化し、行政情報流通の円滑化等を推進するべきではないか。
  • 各地域の大学、研究機関等と教育委員会が連携した実験等の実践的な教員研修の取組を一層充実するべきではないか。
  • 大学院修学休業制度を活用した教職員の専修免許状の取得を促進するべきではないか。
  • 他校種免許状による専科担任制度を拡充した教育職員免許法の改正を踏まえ、中学校理科教員による小学校での指導等の取組を推進するべきではないか。
  • 理数科目について高い指導技術を持つと評価される教員の取り組みを支える仕組みのあり方について検討を進めるべきではないか。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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