(1)全米科学財団(NSF)のデータと比較可能な「日本の博士号取得者の就業状況」に関するストックデータの取得。
(2)取得したストックデータに基づく、「日米の博士号取得者の就業状況」の比較。
(3)「博士号取得者の就業状況」に関する、日本の営利企業への詳細ヒヤリング。
(4)詳細ヒヤリング結果に基づく、「日本の博士号取得者の活動実態」の分析。
(1)12,658名の博士号取得者を対象とした全国アンケートを実施し、4,611名からの有効回答をもとに、全米科学財団のデータと比較可能な「日本の博士号取得者の就業状況」に関するストックデータを取りまとめた。
(2)その上で、日米のストックデータを比較し、「営利企業への日本の博士号取得者の就業率」が、米国に比べると、かなり低くなっている事実を明らかにした。
(3)日本の中で比較した場合、薬学部の博士号取得者の「営利企業への就業率」が最も高く、次いで、工学部、農学部、理学部の順番となっている。
(4)また、科学者(研究を担当)、エンジニア(開発、製造を担当)のいずれについても、「電気電子機器」や「医薬品」分野の企業に就業している博士号取得者の割合が高い。
(5)加えて、科学者の場合は「化学」、エンジニアの場合は「土木・建設」における就業率が高いことが、日本の博士号取得者の特徴になっている。
(1)上記アンケートで把握した「営利企業への日本の博士号取得者の就業率が低い」理由を明らかにするため、日本の企業を対象とする詳細ヒヤリングを実施した。
(2)その際に、別途実施した米国でのベンチマーク調査をもとに、「米国の博士号取得者の営利企業への就業率が高い」理由として、以下のような仮説を設定した。
1.米国企業では多くの場合、博士号取得者に対し、「特定分野の専門家(Specialist)」ではなく、「研究開発統括者(Principal Investigator、R&Dマネジメント能力に優れた研究開発のリーダー)」としての役割を期待している。
2.米国の博士号取得者は、大学院での活動を通じ、研究計画の立案や推進、その中で生ずる様々な問題に対処するための訓練を受けながら、「研究開発統括者」としての能力を高め、必要な経験を積んでいく。
3.このため、米国企業は、大学の博士号取得者を「問題解決能力に優れた研究開発リーダー」として認知しており、産業界の即戦力とみなしている。
(1)上記仮説を踏まえ、「医薬・食料品」「土木・建設」「化学」「電気・電子機器」分野の営利企業を対象とする詳細ヒヤリングを行った。得られた結果をまとめると、次のようになる。
1.日本の営利企業においても多くの場合、博士号取得者に対し、「特定分野の専門家」ではなく、「研究開発統括者」としての能力を求めている。
2.実際に、日本企業で活躍する博士号取得者の多くは、「研究開発統括者」としての役割を担っている。
3.ただし、これらの博士号取得者のかなりの部分を、企業の中で博士号を取得した「論文博士」が占めている。
4.一方で、「医薬品」分野を筆頭に、未踏領域の研究開発を推進していく人材として、「研究開発統括者」の能力を持つ「課程博士」に対する企業ニーズが高まってきている。
(2)今回のヒヤリング結果に基づけば、「日本の課程博士の営利企業への就業を促進していく方策」として、以下の取り組みが有効に働くことになる。
1.大学の博士課程の学生に対し、「特定分野の専門家」としての教育に加え、「研究開発統括者」としての能力を育成する機会を与える。
2.具体的には、グラントなどの“外部資金”を活用し、研究活動の中で蓄積した「研究開発統括者」としての能力や実績を、研究業績として積極的に評価していく仕組みを導入する。
3.併せて、上記研究業績を評価するための“共通指標”を提示し、企業が課程博士を採用する際に、「研究開発統括者」として蓄積した能力や実績を、客観的に評価できるようにする。
4.こうして、研究業績に基づく保有能力や実績への高い評価が企業への就業に有利に働くようになれば、課程博士におけるキャリアパスとして、「研究開発統括者」を目指すインセンティブが高まる。
5.結果として、日本においても米国と同様に、「大学の課程博士による営利企業への就業が活発化する」効果が生まれる。
科学技術・学術政策局基盤政策課
-- 登録:平成21年以前 --