資料1 科学技術分野の理解増進活動に関する論点

科学技術・学術審議会
人材委員会(第22回)
平成15年12月1日

1.現状

(1)青少年の科学技術・理科、数学に関する意識の状況

1.21世紀の夢に関する調査 平成11年 日米中韓中・高校生比較(財団法人日本青少年研究所実施)

  • 日本の中・高生は科学の進歩で人類をより幸せにする、人生の目標で科学の分野で新しい発見をするという回答が米中韓の生徒と比較して低い。
  • 職業志向は日本は公務員などを志望する者の割合が高く、先端技術者になりたいという回答は米中と比較して低い割合にとどまる。

(2)「科学技術・理科大好きプラン」について

2.平成14年度より、「科学技術・理科大好きプラン」として、下記の施策をはじめとした理科教育・科学技術理解増進に係る取組を総合的・一体的に推進。学校教育を中心とした取組のうち主なものは以下のとおり。

■ スーパーサイエンスハイスクール(SSH)

 科学技術・理科・数学教育を重点的に行う学校をスーパーサイエンスハイスクール(SSH)として指定し、理科・数学に重点を置いたカリキュラム開発や大学や研究機関等との効果的な連携方策についての研究を実施。
 平成14年度は、全国の高等学校の中から26校をSSHに指定して事業を実施。平成15年度は新規に26校を指定し、今後段階的に拡充予定。支援は科学技術振興機構(JST)が実施。

■ 理科大好きスクール【平成15年度事業開始】

 科学技術・理科教育を重点的、一体的に実施する地域及びその地域内の小・中学校を「理科大好きスクール」に指定し、観察・実験等を重視した取組みを推進し、知的好奇心や探究心を高め、理科好きな児童生徒を増やし、科学的な見方や考え方を養う。
 平成15年度から全国19地域の167校を対象に事業を開始。支援はJSTが実施。

■ 大学、公的研究機関、民間企業等と教育現場との連携の推進

(Science Partnership Program:SPP)
 研究者を教育現場に招へいして実施される実験等の講座、大学、研究機関等の施設、機材を活用して実施される講座及び教育委員会と大学、研究機関等の連携により実施される教員研修に対する支援等を行うことにより、中学校・高等学校等と大学、研究機関等の連携を推進しつつ、その適切なあり方について調査研究を実施。また、海外における大学、研究機関等と教育現場との連携の実態や研究者の業績について社会へ発信するための手法等の調査研究を実施。

(3)各国国民の科学技術に関する関心の比較

  • 科学技術関連間題への関心度を米国と比較すると我が国は全般的に低い。
  • 科学技術知識の理解度(リテラシー)について、15ヶ国地域国際比較で我が国は欧米諸国に比較して低いレベルにある。
  • 科学技術の情報源については、テレビ、新聞が中心であり、科学技術雑誌の購読率は非常に低く、科学技術関係の公共施設への訪問回数は少ない。
  • 一般国民は行政担当者、研究者、教育担当者等が一般国民の科学技術理解増進により一層努力すべきであると考えており、マスコミの正確な情報伝達、教育制度等の改善等が研究の正しい理解に繋がると考えている。
    〔平成15年版科学技術白書〕、〔「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」(平成15年1月調査)及び「科学技術に関する意識調査」
    (平成13年2~3月調査)科学技術政策研究所〕

(4)科学技術理解増進活動を担う人材に関する調査

1.職業的に科学技術理解増進の活動に取り組む者…科学コミュニケーター

 科学コミュニケーター:ここでは科学ジャーナリスト・ライター、科学系の学芸員等を表すものとする。

ア.科学館等が活動を行う上での問題点としては、予算的な制約を除くと、「人数が足りない」、「専門的な知識を持った人が集まらない」「専門知識を持った人の長期的見地に立った養成が行われていない」という人材に関する指摘が上位を占める。
〔科学系博物館・科学館における科学技術理解増進活動について(平成14年)科学技術政策研究所〕

イ.科学技術に関する国民の最大の情報源はテレビ・新聞等の媒体であるが、研究者はマスメディアとの接し方を知らず、記者もまた研究の背景や先端的知識に必ずしも精通していないこともあり、必要な情報の取得がスムーズに行われないという状況が出現していると考えられる。この点で、英国や米国においては、記者のみでなく、科学コミュニケーターを養成するための大学院等が存在する。
〔科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について(平成15年)科学技術政策研究所〕

2.科学的な知識についての普及を図るためボランティア活動等を行う者…退職研究者・教員等

ア.研究職以外の方面へ進出を考えた時に興味のある職種についての質問において「研究者社会と国民社会を繋ぐインタープリター」「小・中・高校において教育・育成に携わる業務」に関心を示す研究者は一定の割合があり、特に50歳代の研究者で研究者社会と国民社会を繋ぐインタープリターになることに関心を示す者は3割近く存在する。
〔我が国の研究活動の実態に関する調査報告(平成14年度)文部科学省〕

イ.青少年のための科学の祭典の出展参加者にみる教員の役割の大きさ
 ・「青少年のための科学の祭典」は科学技術振興財団が主な事務局となり、青少年が自分自身で実験や工作を体験することで、科学の面白さや不思議さを感じる機会を充実することを目的として平成4年度から始められたもの。平成15年度は「青少年のための科学の祭典」の名前を冠する実験教室等の取組が全国で77大会(内66大会が終了)開催され、現在まで約33万人の入場者を集めている。出展参加者はボランティアによっているが、95年以降の出展参加者6413人、所属が判明している者4534人のうち、大学教員・学生(8.7%)、科学館・博物館職員(1.7%)であり、半数以上は小学校教員(15.2%)中学校教員(13.2%)高等学校教員(23%)で占められている。この点で、科学ボランティアで教員の果たしている役割の大きさが分かる。

ウ.ボランティア(サイエンス・レンジャー)からの要望
 「サイエンス・レンジャー」とは、「科学実験」、「科学工作」を通して、科学や技術の素晴らしさを感動的に伝える活動をしている実験名人を科学技術振興機構に登録する制度。小学・中学・高校の教員、大学教官や国立研究所の研究官等からなる。平成15年4月現在、全国で登録者167名。出動の要請を受けて全国各地で出前の科学実験・科学工作を行っている。

サイエンス・レンジャーからの要望(抜粋)

  • 授業や部活顧間など忙しい中でSR活動をするのはかなり大変。
  • 文科省のバックアップや教育委員会の活動の承認があると活動がしやすい。
  • 地方におけるこの種の活動への支援は先細りになっている。 等

(5)研究者の情報発信についての状況

  • 自らの研究活動の成果が社会に貢献するか否かについて研究者の意識を問うと、約7割の研究者が「一般の人にわかってもらえるものだと思う」と回答している。このうち、実際にどのような努力をしているかについて調査すると、「機会あるごとに一般の人々をも対象として自分の研究がいかに実社会に貢献するのかについて話をする、原稿を書くなとしている」と回答した者が約5割となっている一方、「時間がない等の理由でなかなかできないでいる」と回答した者も約4割存在する。
  • 教育活動への協力にあたっての対価として何を望むかとの質問については、「特にいらない」とする者が約5割であったが、個人あるいは所属機関の業績評価への反映を求める者も合計で4割にのぼった。なお、若い研究者ほど、自信の業績評価への反映を求める者が多い。
    〔我が国の研究活動の実態に関する調査報告(平成14年度)文部科学省〕
  • 研究評議会と大学は、科学者に対し、コミュニケーションに関する訓練、特にメディアヘの訓練を奨励すべき。また、研究学生向けの訓練も拡大し、自分の研究が社会のコンテクストの中でどのように位置づけられるのかを理解させるべき。
    → 研究評議会において、訓練ガイドラインを作成するとともに、科学コミュニケーションに関するワークショップを開催する。
  • グラント提供機関は、研究者に対し、研究を国民と共有することを奨励する手段を講ずべき。また、これを実施する研究者に支援・報酬を与えるべき。
    → 大学、研究所の上層部が広範なプログラムを作成し、研究内容を国民に普及させるよう努力させる。また、研究評議会においては、助成を与えた研究者に国民が科学への理解を深める活動を実施することを義務づけている。
    〔英国の上院科学技術委員会報告書の指摘及び政府回答〕

2.論点

 上記の状況を踏まえれば、科学技術・理科、数学に関する青少年をはじめとした国民の理解の増進について、以下のような視点に立った対応が必要ではないか。

(1)児童生徒の学習意欲を向上させるきっかけとして、知識を積み上げていく学習の他に、自らの興味・関心に従ってより学習を深めることができるように、獲得した知識を科学的な体験を通じてより実感を伴って理解したり、学習した原理を利用した先進的な技術に触れたり、そこに関わる研究者・技術者の姿に触れ合う機会を拡充すべきではないか。また、こうした機会を充実するためには、教材や設備等の条件整備も併せて進めるべきではないか。

(検討の方向)
○ 学校、科学館や大学、研究機関等の多様な場において、児童生徒が観察・実験等の科学的な体験をする機会を充実したり、先進的な技術に触れたりする機会を拡充させ、学習への動機付けを図るべきではないか。
○ 観察・実験等の科学的な体験に必要な教材や設備についても、一層の充実を図るべきではないか。
○ 研究者や技術者の姿に触れる機会を増やすなど、科学技術に携わる者に触れ合う機会を充実させるべきではないか。

【関連意見】

  • 何のために勉強しているのかを実感を持って理解するには、「ものをつくることができる」という視点を小・中学校段階から強調していくことが大切。理科系の教育ではあるレベルに達すると極めて難解になることがあるので、一番地に足のついている小・中学校段階からものをつくるごとに取り組むべき。

(2)児童生徒の科学技術・理科、数学に関する学習意欲を高めるためには、高い指導技術を持った教員による指導が不可欠であり、1理数科目について十分な指導力を持つ教員を育成するため、地域の理科教育センター等における実験指導等の実践的な研修を充実したり、2専門的な指導を行う取組や3高い指導技術を持つと評価される教員の意欲を喚起するための取組の推進が望まれるのではないか。

(検討の方向)
○ 国と各地域の理科教育センター及び理科教育研究部会と教員養成系大学のネットワークを強化し、行政が持っている情報の流通の円滑化等を推進するべきではないか。
○ 各地域の大学、研究機関等と教育委員会が連携した実験等の実践的な教員研修の取組を一層充実するべきではないか。
○ 大学院修学休業制度を活用した教職員の専修免許状の取得を促進するべきではないか。
○ 他校種免許状による専科担任制度を拡充した教育免許法の改正を踏まえ、中学校理科教員による小学校での指導等の取組を推進するべきではないか。
○ 理数科目について高い指導技術を持つと評価される教員の取組を支える仕組みの在り方について検討を進めるべきではないか。

【関連意見】

  • 理科教員が最先端のバイオテクノロジーを常に知っていることは少なく、大学に行って勉強するなどの余裕もない。また、大学院、ポスドクを終わった時点で、研究者ではなく教育の道に進もうとする者にあまり道が開かれていない。
  • 研究機関から高等学校へ一時的に派遣されて講義を行うのではなく、研究者か教員となる道を開いていくべき。また、教員が修士を取ろうとした場合、教員養成系の大学院に行ってそこで理科教育を学ぶことが多い。新しい知識を取り入れることが可能となるような理工系の大学院への進学、受け入れ促進についても検討したらよいのではないか。
  • リタイアした研究者・技術者を活用できないか。世代から世代の引継ぎを利用する仕組みをつくるべき。
  • 企業、公益法人、特殊法人などでは高度な技術を持った人間が一斉にリタイヤを迎えており、そうした人材を子会社や別の団体として組織して活用している部分もあるが、十分ではない。
  • リタイアした人間を活用するというのは仕組みがきっちりしていないと難しい。学会でそうした仕組みを作ったらやりやすいのではないか。

(3)スーパーサイエンスハイスクールにおける先進的な科学技術・理科、数学教育に関するカリキュラム開発を実施する過程で明らかになった課題の一つは、実験や課題学習等を重視した教育を推進しようとしても、現実の大学入試の在り方との関係で、大学の入学者選抜での評価について心配している学校が少なくない。
 また、各学協会等により科学オリンピックヘの我が国からの参加が拡大される動きがあるが、この種の国際的な広がりを持っコンテスト等、理数分野を得意とする生徒の目標となり、これらの生徒の意欲を一層喚起することを目指して行われている取組を推進するとともにその成果を通則こ評価することも求められている。
 そのため、これらの取組や学習内容・学習活動が適切に評価されるような環境作りが必要であることから、例えば、大学の入学者選抜においても各大学がアドミッションポリシーを明示した上で、高等学校段階までの生徒の特色ある取組や学習内容・学習活動を適切に評価することを一層促進することが求められるのではないか。

(検討の方向)
○ 高等学校までの特色のある取組や学習内容・学習活動を適切に評価することにより、科学技術に対する生徒の取組が広く評価されたりするような環境作りが必要ではないか。

【関連意見】

  • 高等学校時代に実験等に取り組みすぎて大学に入れないということはないと思われるが、大学側もそうした意欲・能力のある学生を受け入れるよう入試に変えていくべき。「SSHで学べばむしろ大学の理数系学部に進学しやすい」というように高校生をエンカレッジする方法も考えられる。
  • 一方、SSHに取り組んだような高校生は推薦枠で十分に大学に進学できる。その際、SSHの連携先である大学にどのような学問があり、どのような先生がいて、どのような道にすすめるのかということも踏まえた上で、総合的に志望大学を検討してもらうような保護者の価値観の変化が必要。
  • 特別に傑出した人材を育成するのに日本の高等教育は向いていない面があり、日本の底上げには高等学校段階において、良い先生の適切な指導の下、生徒の興味・関心を高め、大学がその後を引き受けてさらに育てていくというのが望ましい。

(4)第2次科学技術基本計画においては、研究者や技術者自らが、あるいは専門の解説者やジャーナリストが、最先端の科学技術の意義や内容を分かりやすい形で社会に伝え、知識や考え方の普及を行うことを責務とすべきこと、また、地域レベルでも科学技術に関する事柄をわかりやすく解説するとともに、地域住民の科学技術に関する意見を科学技術に携わる者に伝達する役割を担う人材の養成・確保を促進することとされている。
 今後は、職業的に科学技術理解増進の活動に取組む者、専門知識を活かして科学的な知識についての普及を図るためボランティア活動等を行う者等、科学技術理解増進活動を担う人材を育成し、これらの者が介在することで、国民が科学技術に身近に触れる機会を充実するとともに、社会から科学技術の側に意見や要望が的確に伝えられる機会を拡大していくことが必要ではないか。

(検討の方向)
○ 科学ジャーナリスト・ライター、高度の企画力を持つ科学系博物館・科学館の学芸員等の科学コミュニケーターの量が十分とはいえない状況で、このような者の養成を図るために専門の教育の在り方を研卑することが必要ではないか。
○ 公的研究費による大規模な研究については、その研究内容や進捗状況について広く社会に情報発信を行い、社会からの意見等を研究に反映するための取組を予めプロジェクトに組み入れるようにするとともに、このような取組を科学コミュニケーターを養成する場として活用するべきではないか。
○ 国が主要な学協会等と連携して、科学コミュニケーターとして活動したい研究者・技術者と学校教育・生涯学習の要望をつなぐ取組を促進すべきではないか。
○ 科学技術理解増進に取組むボランティアをネットワーク化し、協力や支援を行いながら活動を推進するべきではないか。

【関連意見】

  • 日本は科学の記事・報道がなくても成立する社会である。市民が科学の知識を欲しがるような状態にしないといけない。一般市民、特に父母の科学リテラシー向上が極めて重要である。学校教育より市民教育が先。
  • 理解増進についてのキャリア・パスについて、未来館では理科系の博士号を取得したものをサイエンス・スペシャリストやインタープリターとして養成・活用している。従来の学芸員とは違った科学コミュニケーターといったような資格を創設したらよいのではないか。
  • 社会の側に立って科学者の規範を監視することができるような人材が日本の社会にはいない。その意味で市民の科学リテラシー向上が不可欠であるし、科学コミュニケーターも科学の言っていることを伝えるだけではなく、科学のあり方そのものを議論するという役割において重要。科学の知識・常識を一般の人に普及するという議論になりがちだが、むしろ社会の常識を科学の側にフィードバックすることが大事である。
  • 科学コミュニケーターの養成は供給側からの議論であり、需要のないところではうまくいかない。アメリカをはじめとする英語圏の社会では科学記事への需要があるが、日本の新聞記者は非常に優れた内容の科学記事を書く能力があるにもかかわらず、国民が科学記事に興味をもたないということが問題。

(5)研究者が、社会との関わりについて常に高い関心を持つことを促すため、予め研究開発の意義について社会に情報発信することを推奨したり、情報発信に必要な知識を身につける機会を充実したりするとともに、科学技術理解増進活動に対する研究者の貢献を適切に評価するべきではないか。

(検討の方向)
○ 研究者を養成する段階から、社会への情報発信を念頭においたトレーニングを行うとともに、情報発信の手法について身につける機会等を充実するべきではないか。
○ 研究者の評価指標について、科学技術理解増進活動の実績を社会貢献として評価することをより重視すべきではないか。
○ 研究者が自らの研究について平易な言葉で一般社会に語りかけることに自発的に取り組めるような環境の醸成が必要ではないか。

【関連意見】

  • 研究者のアウト・リーチ、研究者自身が一般人に対して自らの研究内容を説明できるようになることが必要。また、固定化された知識だけでなく、実際に研究のプロセスを見せたり参加させたりするPublic understanding of researchという考え方が重要。さらに、単に研究所を公開するだけではなく、社会貢献や人材育成というものを機関評価の観点の一つあるいは研究助成の対象として継続的に取り組むべき。

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