1.科学技術分野の理解増進活動に関連した主な意見

1.児童生徒の学習意欲の向上

○ 科学技術関係の人材育成の前提として、初等中等教育における学習離れ、学習意欲・学びへのモチベーションが低下していることが大きな課題。初等中等教育段階から一貫した人材育成を考えなければならない。人材育成の基礎段階から将来の研究者を育てていく必要がある。高等教育だけでなく初等中等教育も含めて議論するべき。

○ 教育の分野で科学の歴史を教えていないのが問題。歴史的なつながりがないと子どもが興味を持つのは難しい。

○ 何のために勉強しているのかを実感を持って理解するには、「ものをつくることができる」という視点を小・中学校段階から強調していくことが大切。理科系の教育ではあるレベルに達すると極めて難解になることがあるので、一番地に足のついている小・中学校段階からものをつくることに取り組むべき。

○ 国をリードしている研究者や技術者の顔が、もう少し子どもたちに見えるような社会、そういった人々が尊敬されるような社会づくりが必要。

○ 高学年になるに従ってどんどん関心が下がっていく。気になる点は継続性。チャレンジブなことを継続してやることが、高い関心を保て、将来へも繋がっていくことになるのではないか。

○ 年とともに興味が変わっていくのは当たり前のこと。途中から経済学に興味のある人、マーケティングに興味のある人など、多様性がどんどん出てくる。将来どこにいってもいいが、やはり基本的に理科は好きだという気持ちはいつまでも残しておいて欲しい。また、幼年、小中学校といった各層での総合学習というのをどういうふうに考えていくかというのもポイント。

○ 小学生の時と中学生の時と、関心を持つ中身がかなり違ってくる。同じようなことをやると年齢とともに興味を失っていくといったことは当然ある。年代別にプログラムがうまく工夫されているのか。

○ 継続性が非常に大事。我が国の研究者は、自分の関心の範囲というのは、どちらかというと狭い人が多い。なるべく広い関心を持つという時代を経ることが非常に大事なのではないか。広い関心を絶えず持ち続けていけるような育成の仕方は、トップクラスの研究者に対しても重要であるし、それがいろいろな関連で多くの人の理科教育の振興ということにも繋がればよいのではないか。

○ 小学生くらいだと何でもわくわくして興味は高い。中学生になると興味がだんだん分化してきて、多様性が出てくる。自分の将来と繋げて考えると、理科・工学的な分野より、もう少し楽で、自分のやりたいことが実現目標として得られるような職業の方を考えやすい。理工は非常に発展が速く、職業としてのパスが大変な割には見えない。

○ 理科の授業が「わかる」とか「好きだ」ということが将来仕事に役立つかどうかは、本人の感想を聞いているわけだから、実際は本当に役立つかもしれないのだけど、本人がそう思っていないだけではないか。少なくとも授業がわかるということは大変立派なことだと思う。

○ 理科が「わかる」「好き」ということが最終的にライフワークとして生かすというところに繋がり難い。それをどうやって繋げたらよいか。

○ お父さん、お母さんが科学が好きであったら全然違う。プロフェッショナルになる必要は全く無いが、科学が好きであってくれることが極めて大事。

○ 研究者がどんな仕事を具体的にしているかわからないから、理科を勉強すれば自分の好きな仕事に役立つかと聞かれても、役立つと思わない人が多くなる。大学の先生もしくは企業の研究者、エンジニアというのがどういう職業なのか具体的に見えるようにしてあげなければならない。

○ 企業などで父親、母親の仕事を見せようということは結構始められている。

2.教員の資質向上等

○ 急速な経済成長、科学技術の著しい発展のために、小中高から大学・大学院に至るまでの基盤となる教育が空洞化した。最先端の科学技術についての国民の見解が極端に分かれ、正しい理解が得られていない。親の教育、最先端の科学技術を分かりやすく説明する先生の育成などは長期的視野に立って取り組むべきである。

○ 理科教員が最先端のバイオテクノロジーを常に知っていることは少なく、大学に行って勉強するなどの余裕もない。また、大学院、ポスドクを終わった時点で、研究者ではなく教育の道に進もうとする者にあまり道が開かれていない。

○ 研究機関から高等学校へ一時的に派遣されて講義を行うのではなく、研究者が教員となる道を開いていくべき。また、教員が修士を取ろうとした場合、教員養成系の大学院に行ってそこで理科教育を学ぶことが多い。新しい知識を取り入れることが可能となるような理工系の大学院への進学、受け入れ促進についても検討したらよいのではないか。

○ リタイアした研究者・技術者を活用できないか。世代から世代の引継ぎを利用する仕組みをつくるべき。

○ 企業、公益法人、特殊法人などでは高度な技術を持った人間が一斉にリタイヤを迎えており、そうした人材を子会社や別の団体として組織して活用している部分もあるが、十分ではない。

○ リタイアした人間を活用するというのは仕組みがきっちりしていないと難しい。学会でそうした仕組みを作ったらやりやすいのではないか。

○ 中身、内容を理解することはともかくとして、楽しませてあげるようなことを子供たちに教える人がいなくてはならない。一過性のものでなく、おもしろいものだと理解されるような仕掛けが欲しい。

○ コミュニケーター役は教師、先生が果たさなければならないのではないか。教員養成系の大学のトレーニングだとか、あるいは教えるということについての工夫などがもっともっと必要ではないか。システムとしての科学館の中身、コンテンツがどこまで活用されているのか。地域における、あるいは教育における役割というのがうまくできているのか。教師を科学館に回す人事があってもよい。

○ 講師の魅力というのは極めて大事。やはり教えることに熟達した人が非常に重要である。

3.科学技術に対する生徒の取組が適切に評価される環境づくり

○ 高等学校時代に実験等に取り組みすぎて大学に入れないということはないと思われるが、大学側もそうした意欲・能力のある学生を受け入れられるような入試に変えていくべき。「SSHで学べばむしろ大学の理数系学部に進学しやすい」というように高校生をエンカレッジする方法も考えられる。

○ SSHに取り組んだような高校生は推薦枠で十分に大学に進学できる。その際、SSHの連携先である大学にどのような学問があり、どのような先生がいて、どのような道にすすめるのかということも踏まえた上で、総合的に志望大学を検討してもらうような保護者の価値観の変化が必要。

○ 特別に傑出した人材を育成するのに日本の高等教育は向いていない面があり、日本の底上げには高等学校段階において、良い先生の適切な指導の下、生徒の興味・関心を高め、大学がその後を引き受けてさらに育てていくというのが望ましい。

○ 各大学独自の選考方法によって選抜された学生が、独創性や優れた才能をそこで身につけ、それが社会に出たときに適切に評価されるようなシステムを作ることが重要である。

4.専門的に科学技術理解増進活動に取り組む人材の育成

○ 日本は科学の記事・報道がなくても成立する社会である。市民が科学の知識を欲しがるような状態にしないといけない。一般市民、特に父母の科学リテラシー向上が極めて重要である。学校教育より市民教育が先。

○ 理解増進についてのキャリア・パスについて、未来館では理科系の博士号を取得したものをサイエンス・スペシャリストやインタープリターとして養成・活用している。従来の学芸員とは違った科学コミュニケーターといったような資格を創設したらよいのではないか。

○ 社会の側に立って科学者の規範を監視することができるような人材が日本の社会にはいない。その意味で市民の科学リテラシー向上が不可欠であるし、科学コミュニケーターも科学の言っていることを伝えるだけではなく、科学のあり方そのものを議論するという役割において重要。科学の知識・常識を一般の人に普及するという議論になりがちだが、むしろ社会の常識を科学の側にフィードバックすることが大事である。

○ 科学コミュニケーターの養成は供給側からの議論であり、需要のないところではうまくいかない。アメリカをはじめとする英語圏の社会では科学記事への需要があるが、日本の新聞記者は非常に優れた内容の科学記事を書く能力があるにもかかわらず、国民が科学記事に興味をもたないということが問題。

○ 社会システムの観点から科学技術分野の人材を育成するというマクロなアプローチだけでなく、科学や研究に対する個人の発想といったような人の心を育てるというミクロなアプローチも重要。科学的成果としてのWhat、どうしてこうなったかというHowの部分を伝えることも大切だが、Why do you do science?とか、Why do you do research?といったWhyを伝えられるコミュニケーターが必要。

○ マスコミの側は、読者が科学技術に関する情報を強く求めていないという認識をしている。今回の議論を単発に終わらせずに継続していくには、行政当局とマスコミの対話も重要。

○ サイエンスライターの養成は重要であるが、アメリカとは異なり、日本では一般教養的な科学雑誌が次々と廃刊となっており、彼らが本当に活躍できる場があるのか疑問。こうした実情を分析するべき。また、イギリスのネイチャー、アメリカのサイエンスのような学術誌が日本にないのは問題であり、自然科学関係者の中で、日本を中心とした学術誌の必要性や需要の有無について考えていく必要がある。

○ 日本の技術人材あるいは研究人材というのは、レベルは高いけれども柔軟性、幅がない。理解増進に携わる人材というのは、研究者以上に人間的な幅があって感性が豊かでなければ、アウトリーチはできない。研究者をちょっと活用してというのではいけない。どこかの組織を通じ、組織的にそういう人、集団をつくらなければならない。研究者の中でも非常に能力のある人でないとインパクトを市民や子供に与えられないであろう。

○ 専門の職業としてのコミュニケーターをどう育成していくかということの方が、若手研究者にそういうことを勧めるより国全体としては大事。コミュニケーターとしての専門家をどう育てるかということを考えた方がいい。自分の研究の領域を一般の社会に説明しながら自分の研究もするというのは、一番大事なところにむしろブレーキがかかることを危惧する。

○ 科学コミュニケーターとかいうのは、全体の、多くの人のサイエンスに対する理解とかバックグラウンドを上げるという意味では大事だが、科学技術創造立国を担う人材という意味ではそれは必ずしも決め手ではない。

○ コミュニケーターは相当専門的に広い知識を与えないと無理。また、相手によっていろいろな説明の仕方ができないといけない。理系の教育を受けただけでできるというものでもないし、文系の教育を受けただけでできるというものでも全くない。

5.研究者の情報発信、社会貢献

○ 研究者のアウト・リーチ、研究者自身が一般人に対して自らの研究内容を説明できるようになることが必要。また、固定化された知識だけでなく、実際に研究のプロセスを見せたり参加させたりするPublic understanding of researchという考え方が重要。さらに、単に研究所を公開するだけではなく、社会貢献や人材育成というものを機関評価の観点の一つあるいは研究助成の対象として継続的に取り組むべき。

○ 日本の場合、ノーベル賞を受賞するような人物が、受賞して初めて脚光を浴びるようなところがあり、社会の中で十分な評価がなされていない。

○ 科学技術に関する専門用語をもう少し啓蒙的なわかりやすい表現にしていくことも必要。

○ 科学技術については、ネガティブなイメージが強調されることがあるが、国民がそういうものが大切だと身近に感じられ、子供たちが科学技術の分野を目指していくことができるよう、成功例やプラスの面を含めて伝えていくことが重要。

○ 授業でやるものと課外でやるもの、あるいは、科学館のようなものでさらに伸ばしていくということを地域などで体系的に考えていくということが必要。

6.その他理解増進活動全般

○ 理解増進活動を行う目的を再確認すべき。常に好奇心を持ち続けていけるような人材を育成していくことが重要で、こうした目標を達成するには、こうした活動を国の側から押し付けてやるのではなく、国民のニーズを正確に把握する必要がある。

○ 自分の生活にどういう影響を持っているかという観点で見た場合、科学技術は遠い存在というイメージが強い。真理の探究や科学的発見に対する夢やロマンを感じ、興味がわいたとしても、実際に自分に身近な問題として関心を持たなければ、一時的なもので終わってしまう。科学技術の理解増進活動を進める上では、自分たちの生活に関わっているという部分をどれだけ上手く説明できるかがポイントになる。

○ 根本的な問題は、一般市民が科学技術に対する要求をほとんど持っていないということ。科学技術の理念や精神を説くのではなく、医療や産業廃棄物の問題など、市民の活動に密接な関係がある事柄から、その背景にある科学技術を理解していくといったアプローチの仕方をしていくのが望ましい。

○ 理科系を選んで企業に入ってくると、自分の生きがいとして専門分野で大きな貢献をしたいという部分が前面に出てくるので、企業経営というものから乖離する傾向がある。全体をリードする、産業界をリードしていくというような価値観を、専門分野に進む段階や企業に入る前の段階で植えつけていくことが必要。

○ 教育が大切だというのは、万人がそのとおりだと思っている。一般教育をどうしたらいいかということと、将来研究者になる、教育者になる、ノーベル賞まで取るような人をどういう風に育てていくかということは別の議論で、同時にできない。

○ 子ども達と、お父さん、お母さん、市民を分けて考える必要がある。子供は少なくとも強制的に学ばされるチャンスを持っているが、普通の市民は全く学ぶチャンスを持っていない。市民のリテラシーに焦点を当てて言うと、いかにして水を飲ませるか、いかにニーズに合って、水を飲みたくなるような仕組みを作るかということが極めて大事。大学の広報室などで専門の人に取り次ぐ仕組みを市民に対する場合には考えていく必要がある。

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