国際競争力向上のための研究人材の養成・確保を目指して -科学技術・学術審議会人材委員会 第二次提言-

平成15年6月

2 改革方策

2 改革方策

(1)世界水準の研究人材養成機能の整備

(改革の方向)

 激化する各国の高度研究人材の養成、人材獲得競争の状況等にかんがみ、我が国が世界的水準の研究人材を養成し、科学技術・学術の国際競争力を高めていくためには、本格的な国際的研究環境を導入し、国際的にも高く評価される研究者の養成を行う、国際競争力のある研究人材養成機関を早期に拠点的に整備する必要がある。また、若い時期に異文化に身を置き研鑚(さん)を積むため、海外の一流機関への派遣を通じた人材養成の一層の促進を図る必要がある。

(具体的施策例)

1.本格的な国際的研究環境の整備

 第一次提言においては、研究者養成の中核である大学院博士課程における教育機能の強化として、教育的視点の強化、カリキュラムの改革、自立性の養成、組織の多様性の確保等の重要性を指摘したところである。我が国の国際競争力の向上のためには、個々の研究者について、国際的に見た視野や関心の広さ、国際的なコミュニケーション能力を含めた様々な能力、変化への柔軟な対応力などを高めることが求められる。
 本委員会では、同提言に沿った大学院での教育改革、英語教育の一層の充実等と同時に、激化する各国の高度研究人材の養成、人材獲得競争の状況等にかんがみれば、本格的な国際的研究環境を実現し、内外の優秀な学生、研究者が競って集い、そこで教育・訓練を受け、あるいは研究経験を積んだ研究者が国際的にも高い評価を受け、海外の多くの研究者にとって一つのキャリア・パスとして認められるような、国際競争力のある高度な人材養成機関(大学院や公的研究機関)を、早期に相当数整備していくことが必要な状況にあると考える。
 このため、これまで進められている大学院の研究教育の充実方策の一層積極的な推進に加え、例えばトップレベルの外国人研究者の受入れを含む国際的研究環境の実現、海外の優れた教育・研究機関と提携した研究人材の養成、英語環境を含む国際的にも通用する若手研究者養成環境の構築など、本格的な国際的研究環境の導入に総合的に取り組む大学院や研究機関を、競争的環境の下で研究人材養成拠点として支援することが考えられる。これらについては、従来の国際共同研究支援や、個別の研究者の派遣・受入れ支援といった個別の施策では量的、質的に十分な対応が困難であり、体系的かつ総合的な支援が求められるところである。

2.海外一流機関への派遣を通じた人材養成

 諸外国との国際交流は、競争と協調が求められる研究の世界において不可欠な要素であると同時に、若い時期に異文化に身を置き自らを切磋琢磨(せっさたくま)することは、特に日本人研究者にとって重要である。文部科学省の調査によれば、大学、研究機関に研究者の中で、3年以上の海外での研究経験を有する者の割合は2.4パーセントに過ぎないが(平成13年度)(図13)、今後我が国が、真に国際化を図り、内外の優れた研究者を引き付ける環境を実現するためには、特に中核となる機関については、3割程度の研究者が3年以上の長期の海外経験を有する者で占められることが望ましく、そのためにも、若い時期に海外の一流機関で、いわば「武者修行」の経験を積むことは一層促進されるべきである。
 このため、国においては、海外特別研究員制度の拡充、特別研究員の一定期間の海外における研究活動の奨励、大学院博士課程学生を海外に派遣する制度の整備拡充など、若手研究者の長期海外派遣を促進するとともに、中堅研究者の長期海外派遣を拡充することが重要である。
 ただし、我が国の留学生や機関からの派遣研究者は、派遣期間が短く、また帰国後のポストが保証されている場合が多いことなどにより、アジア諸国からの留学生等に比べハングリー精神に乏しく取組が中途半端となっているとの指摘がある。また、海外で自立した研究活動を経験した者が、我が国に戻って研究を継続しようとする場合には、十分なポストがないとの指摘もある。このため、派遣制度の拡充に当たっては、派遣期間、評価について改善を考慮するとともに、海外で活躍する優秀な邦人研究者が日本国内でのポストに応募する場合には、海外での業績を積極的に評価するなどの配慮が必要である。

(2)多様な人材が能力を発揮でき、研究に専念できる環境の実現

(改革の方向)

 少子高齢化が進行する中、優秀な人材を確保するためには、多様な人材の一層の活躍が重要である。大学、研究機関においては、能力、業績を適切に評価し、処遇に反映する人事システムを早急に構築するとともに研究人材の流動性を向上させ、多様性をはぐくむ創造的・競争的環境の醸成を図る必要がある。また、女性研究者、外国人研究者、若手研究者、高齢研究者等多様な人材が能力を十分発揮できるよう、大学、研究機関においては必要な環境整備を組織的、計画的に進めるととともに、多様な研究者が研究に専念できる支援体制の整備や研究施設・設備の整備を推進することが必要である。

(具体的施策例)

1.多様性をはぐくむ創造的・競争的環境の醸成

ア 能力、業績が適切に評価され、処遇に反映される人事システムの構築と人材の流動性の向上

 少子高齢化の進行していく中で、優秀な研究人材を確保していくためには、これまで必ずしも活躍機会が十分でなかった層からも広く人材を求めていくことが重要である。また組織の多様性が研究活動の活性化にとって重要であることは、第一次提言でも指摘したところである。
 多様な研究人材が活躍するためには、基本的な前提条件として、性別、国籍、年齢等を問わず、各人材の能力、業績を公正・適切に評価し、処遇に反映するシステムが構築されることが必要である。また、そのような人事システムが適切かつ円滑に機能するためには、評価に基づいて研究人材が大学、研究機関、企業等を円滑に移動できるような研究人材の流動性が確保されることが必要である。
 このため、各大学、研究機関においては、第2期科学技術基本計画に沿った「研究人材流動化促進計画」を整備し、公募や任期付任用を積極的に実施するとともに、採用、処遇、業績評価が公正で評価基準に基づき客観的に行われるシステムを構築することが重要である。また、選考基準・結果を公開し、透明性、公正性の向上を図ることが重要である。

イ 多様性向上に向けた各機関の自主的取組の推進

 研究人材の多様性の向上による研究活動の活性化は研究機関において重要である。このため、各大学、研究機関においては、第一次提言で指摘された自校出身比率の低減や、以下の各項目で述べるような対応を含め、研究人材の多様性向上に向けた計画を自主的に策定し、公表するとともに、国において、それらの取組に対する支援を行うことが重要である。

ウ 社会全体の人材の流動性

 任期制等の研究人材の流動性向上のための措置をより実効性あるものとするためには、研究人材のみならず、我が国社会全体として必要な人材の流動性向上に向けた取組を行うことが不可欠である。
 このため、給与や社会保障等の面での移動による経済的不利益の解消等について、経済財政諮問会議、総合科学技術会議はもとより、政府全体の対応を働きかけるなど社会全体の取組について政府一体となった検討が進められるべきである。

2.研究者が研究に専念できる環境の実現

ア 研究支援者の確保

 多様な研究者が研究に専念できるようにするためには、それを支える研究支援者の確保が不可欠である。
 このため、今後、第2期科学技術基本計画において指摘された競争的研究資金の倍増や間接経費比率の拡充(当面30パーセントを目安)を速やかに図る中で、大学、研究機関はそれらの資金による研究支援者の確保を積極的かつ計画的に進めることが考えられる。また、国からの委託研究費についても同様な措置が講じられることが望ましい。また、上記1ア.で述べた国際競争力のある研究人材養成拠点において研究支援者の拡充を推進することが考えられる。

イ 科学技術と社会の接点に立つ人材等の養成

 研究支援に関連する人材として、知的財産・産学官連携の専門家等の科学技術と社会との接点に立つ人材や、大学、研究機関において経営の観点も含め組織における研究開発をマネジメントできる人材の養成が喫緊の課題となっている。
 これらの人材については、例えば、産業化につながる技術シーズ等を見出す「目利き」人材など必ずしもすべてが大学等のみで養成されるものではないが、国においては、その養成・確保の一環として、知的財産・産学官連携や研究マネジメントを含む技術経営や大学・研究機関の経営等に関する、専門家の養成を目指す大学院及び専門職大学院等に対する支援を検討する必要がある。その際には、社会人が学びやすい環境を整備することも重要である。また、大学、研究機関の事務職員についても、その資質の向上等を図ることが重要である。

ウ 研究施設・設備の整備・充実

 大学、研究機関において活発な研究活動を展開し、優れた研究成果を生み出すため、優れた研究施設・設備の整備が必要である。
 このため、「国立大学等施設緊急整備5か年計画」を着実に推進するなど、今後とも、国内外の優れた研究者等を引き付ける魅力に富んだ世界水準の優れた研究施設・設備の整備が重要である。

3.女性研究者の参画促進と能力発揮

 女性研究者の参画促進、能力発揮のための改革方策については、内閣府の男女共同参画会議基本問題専門調査会が本年4月にまとめた「女性のチャレンジ支援について」最終報告や、文部科学省生涯学習政策局の「女性の多様なキャリアを支援するための懇談会」が本年3月にまとめた「多様なキャリアが社会を変える」第一次報告(女性研究者への支援)において、様々な具体的提言がなされており、各大学、研究機関においては、それらを踏まえ、具体的な取組を実施することが重要である。
 これらの諸提言を踏まえつつ、本委員会では、研究者の養成・確保という観点から、特に以下のような方策について取り組むことが重要であると考える。

ア 各大学、研究機関における組織的取組の推進

(組織的な取組体制の整備)

 研究分野における男女共同参画促進に向け、各大学、研究機関において組織的な取組を推進していくことが必要である。
 このため、各大学、研究機関においては、男女共同参画を促進する体制を整備し、以下に掲げる様々な環境整備等の取組について、中・長期的な目標の設定、具体的な行動計画の策定等を行うとともに、取組状況を積極的に公表していくことが重要である。
 また、これらの取組状況を、自己評価・外部評価の評価項目に組み入れ、その評価結果等を踏まえて大学、研究機関が自主的改善に取り組むことが望ましい。

(女性研究者の割合の増加)

 特に、女性研究者の割合については、各大学、研究機関ごとや研究科等の組織ごとに目標や理念、女性研究者の実態、大学院の女子学生の割合等が異なるところであるが、今後の女性研究者の参画を促進する観点から、各々の目標・理念、実態等を踏まえつつ、各大学、研究機関が自主的に数値目標等を設定し、それに基づき割合を増加させていくことが重要である。

イ 出産・育児後の研究継続など女性研究者が働きやすい環境の整備

(競争的研究資金や特別研究員制度等における運用の改善等)

 研究への意欲・能力がある女性研究者が、出産や育児との両立ができないためにキャリアを断念することのないよう、研究の中断や、その後の研究の継続、職場への復帰が容易に行えるような環境を整備することが必要である。
 このため、国において、競争的研究資金や特別研究員制度等について、出産・育児に伴う受給の一定期間の中断や期間延長を認めるなどの弾力的運用を可能とするよう検討することが重要である。また、出産・育児により研究を一時中断した研究者の復帰を支援する再教育や訓練等の方策を国や大学、研究機関において検討することが重要である。

(女性研究者が働きやすい環境の整備)

 女性研究者がより働きやすい環境を整備するため、各大学、研究機関において、出産・育児、介護等で一時的に大学、研究機関を離れる場合にも自宅で研究が継続できるようなネットワーク・システムの整備やその間の研究を支援するスタッフの雇用の促進、ワークシェアリング(仕事を分け合うこと)や勤務時間管理の在り方の弾力化などの柔軟な就労形態の導入、保育施設の計画的な充実・確保等の環境整備を行うことが重要である。
 このほか、職場における旧姓の使用など、各大学、研究機関において、女性研究者が男性研究者と同様に活躍できるようにするための基本的な環境整備にも努めることが重要である。

ウ 意思決定機関等への女性研究者の参画の促進

 大学、研究機関における男女共同参画を推進するためには、意思決定を行う機関等に参画する女性研究者が増えることが重要である。
 このため、各大学、研究機関において、大学、研究機関の評議会、部局長会議はじめ各レベルの委員会等の意思決定機関等における審議や学位授与の審査に積極的に女性研究者が参画できるようにするための取組を進めるなど、女性研究者の能力・適正を踏まえつつ、女性研究者の参画を促進する、各大学、研究機関の自主的かつ積極的な取組が重要である。
 また、学会の様々な組織等においても、女性研究者の参画が促進されることが期待される。

エ 女性の研究職への進出の拡大

 女性の研究職への進出の拡大を図るためには、科学的素養や研究職に対する関心のかん涵養を図るとともに、研究者としてのキャリア形成に対する支援を行うことが必要である。
 このため、青少年の科学技術に対する理解増進の充実を図るとともに、研究分野ごとの特性等を踏まえつつ、優れた女性研究者のロールモデルを示し、女子学生に対して研究者の世界の素晴らしさや課題の乗り越え方等を伝えるため、国や大学、研究機関、学会等において教員や研究者を対象とした研修会の開催や事例集の作成などを行うことが考えられる。また、これらの取組を含め、女性研究者の活躍促進のための情報交換を行う自主的なネットワークの形成が望まれる。

4.優れた高齢研究者が引き続き能力を発揮できる環境の整備

ア 定年後も研究を継続できる仕組みの導入

 少子高齢化が急速に進む中、今後とも我が国が優秀な研究人材を確保し、国際競争力を維持・向上させていくためには、優れた高齢研究者が引き続き能力を発揮できる環境を整備することが重要である。他方で、年功主義を残し、能力主義を徹底しないまま安易に雇用期間の延長等を行うことは、若手の登用の機会を奪い、研究現場の活力を失わせるおそれもある。
 このため、各大学、研究機関においては、公正・適切な評価を行った上で、国際的に見て優れた能力、研究業績を有すると認められる高齢研究者については、定年後も専門職、嘱託等何らかの立場で研究を継続できる仕組みの導入を検討することが重要である。その際には、競争的研究資金の活用等も検討すべきである。

イ 教育、研究関連活動等での活躍

 高齢研究者が引き続き研究者として活動を継続することが困難な場合にも、例えば、学生等に対する授業、講義、研究指導といった基礎的な教育等を行ったり、データベースの作成・維持、国際標準化や技術移転に係る業務などの研究関連活動においてその能力を活用することも考えられる。

5.優れた外国人研究者等の受入れ等の促進

ア 外国人研究者の積極的受入れ

(外国人研究者の積極的受入れ・登用の促進)

 我が国の研究人材の多様性を向上させるとともに、分野によっては研究者の量的不足を補う観点や優秀な指導者を招き人材養成に資するという観点からも、各機関・分野の特性を踏まえつつ、研究リーダーや研究機関幹部への登用も含め、優れた外国人研究者の積極的受入れを促進することが必要である。
 このため、各大学、研究機関において、国際公募の徹底による開かれた採用や積極的な求人情報の発信を進めるとともに、各機関の裁量によって処遇、雇用期間等について魅力ある条件提示を行うなど雇用・受入れ条件の弾力化を図ることが重要である。

(外国人研究者の研究・生活環境の整備充実)

 優れた外国人研究者の受入れを促進するためには、まず、それぞれの大学、研究機関において、世界トップレベルの研究水準を実現し、それらの機関で研究経験を積むことが海外の多くの研究者にとってキャリア・パスとして認められるような状況を作り出すことが重要であるが、それらに加えて、外国人研究者が我が国で研究を円滑に実施できるよう、研究・生活両面での基本的な環境の整備充実を図ることが必要である。
 このため、各大学、研究機関においては、優秀な外国人スタッフの拡充や国際担当副学長等の特定、国際担当部門の整備、優れた専門職員、ボランティアの採用、確保や研修の強化などの大学、研究機関の組織・体制の強化を図るとともに、宿舎の整備、配偶者の雇用機会の提供、子供の教育への配慮など、研究者やその家族の生活に対する支援の充実を図ることが重要である。
  また、入国管理手続きや家族の就労制限の穏和、出入国、在留に係る優遇措置や年金上の不利益の解消など、政府として制度改善を引き続き進める必要がある。さらに、外国人を引き付ける魅力ある研究環境を形成するため、世界トップレベルの研究水準の実現や研究施設・設備の整備充実を図ることが重要である。

(外国人特別研究員制度等の改善)

 そのほか、優秀な外国人研究者の受入れを促進するため、国においては、外国人特別研究員の招致の対象の拡充、期間延長、採用時期の弾力化等についての運用の改善を図るとともに、将来の来日意欲の喚起や若手研究者の養成のための外国人大学院学生の短期受入れの拡充などの環境整備を進めることが重要である。

イ 優秀な留学生の受入れ

 研究人材の多様性を向上させる等の観点から、優秀な留学生の受入れを推進するとともに、引き続き我が国で研究者として研究に従事できるような環境を整備する必要がある。
 このため、国において、ポストドクター制度による支援や競争的研究資金による雇用の充実など研究を継続できる経済的支援の充実を図ることが重要である。また、卒業者の企業による雇用の促進を図るため、大学、研究機関と企業との間で情報交換等を実施することなどが重要である。

ウ 海外で活躍している邦人研究者の受入れ等

 我が国において、いわゆる「知の空洞化」が懸念されている状況も踏まえ、海外で活躍している邦人研究者の受入れや、優れた研究者が引き続き我が国にとどまって研究を続けることができるような環境の整備を進めることが重要である。
 このため、各大学、研究機関において、国際公募による開かれた採用や積極的な求人情報の発信を行うとともに、機関の裁量による魅力ある処遇等の提示を行うなど雇用条件の弾力化を図ることが重要である。

6.若手研究者の能力発揮

ア ポストドクター等に対する支援の多様性の確保

(フェローシップ型と雇用型のバランスのとれた支援)

 将来の我が国の研究を担う優れた研究者を養成・確保するとともに、創造性に富んだ研究生活初期の若手研究者に研究に専念できる環境を整備し、我が国全体としての研究活動の活性化を図るなどの観点から、ポストドクター等の若手研究者に対する支援を充実する必要がある。
 現在、ポストドクター等に対して行われている特別研究員制度等のフェローシップ型の支援と競争的研究資金等による雇用型の支援は、それぞれ異なる趣旨・目的や意義を有するものであり、優れた若手研究者の養成・確保、資質の向上のためには、いずれか一方でなく、双方の支援がバランスよく講じられることが必要である。

(フェローシップ型支援の意義等)

 特に、若手研究者の主体性を尊重し、特定の研究分野に限らず幅広い研究分野にわたって優れた若手研究者を確保する観点からは、特別研究員等のフェローシップ型支援の持つ意義は大きい。
 このため、国においては、当面、第2期科学技術基本計画に示された方向性に沿って、競争的研究資金による雇用型の支援を拡充していくことは重要であるが、それとともに、特別研究員等のフェローシップ型についても引き続き推進していくことが必要である。

(各支援制度の改善の検討)

 同時に、国においては、ポストドクター等に対する支援制度が多様化している現状を踏まえ、各支援制度がそれぞれの趣旨に沿って一層効果的に機能するよう、人材養成・確保や資質の向上の観点からの成果を検証しつつ、各制度の改善についても議論を深める必要がある。

イ 若手研究者に対する研究費等の拡充

 このほか、若手研究者が十分に能力を発揮できるようにするためには、競争的・流動的な研究環境の下で、様々な支援を充実していくことが重要である。
 このため、国や大学、研究機関においては、若手研究者に対する研究費の拡充に努めるとともに、海外の一流の機関で研究を行う機会の拡充や、大学院博士課程学生に対する競争的研究資金等による雇用などの経済的支援の拡充などを図ることが重要である。

ウ 研究者の多様なキャリア・パスの構築等に向けて

(多様なキャリア・パスの構築)

 我が国の研究者のキャリア・パスや流動性の状況が現状のままで継続すれば、ポストドクターや任期付ポストに就いた優れた人材が自らの将来に不安を覚えたり、研究の分野に進もうとする若い世代の意欲が損なわれたりする懸念があり、優れた研究者を養成・確保する観点から、我が国にふさわしい研究者の多様なキャリア・パスを確立し、その実現のための体系的施策を講ずることが必要である。
 このため、我が国のポストドクター等の様々な分野における活動状況などの必要なデータの収集・分析を進めることが必要である。
 また、本委員会では、従来の単線的な研究者のキャリア・パスのみならず、研究経験を有する者が、産業界や政府の行政機関、研究助成機関など、社会の多様な場面で活躍できるようなキャリア・パス(ノン・アカデミック・キャリア・パス)が確立されることも重要であると考える。
 また例えば、研究社会の常勤ポストに至るキャリア・パスについては、ポストドクターを経験した者が、任期付ポストにおいて独立した研究者としての経験を積んだ上で、厳格かつ公正な評価を経て、常勤のポストを獲得するといったコースの着実な定着に対する取組が行われることも重要であると考える(いわば日本型のテニュア制度)。このような取組は、競争的かつ創造的な研究環境を実現し、能力ある若手研究者の意欲を高め、優れた研究成果を創出すると考えられる。
 さらに、大学、研究機関と産業界、行政機関等の間で、各人の能力・適性に応じて、研究者が円滑に移動でき、それが社会にも普通に受けとめられ、優れた研究者の養成が図られるような環境を作り出していくことが重要である。

(多様なキャリア・パスの構築に向けた取組)

 その際、各大学、研究機関において厳格かつ公正な人事評価システムが確立されることが前提であるが、社会全体の流動性が高くない我が国の現状では、各大学、研究機関の自主的な判断の下に、例えば、30代の若手研究者を中心として、独立性の高い任期付のポストを研究費等により相当数設けられるようにすることや、機関を移動することが経済的な不利益とならないような給与体系を各機関で整備するとともに、このような取組を行う機関を支援することも検討すべきである。また、その際、支援スタッフの充実を図ることにも留意すべきである。
 なお、現在、中央教育審議会大学分科会では、教育研究の活性化に資する教員組織の在り方を改善する観点から、現行の「助教授」、「助手」の位置付けの見直し等の議論が行われることとなっているが、その検討結果も踏まえつつ、若手研究者の独立性や研究者の在り方について、更に検討を深めることが必要である。

(多様なキャリア・パスを構築するための人材養成や研究者の適切な処遇)

 研究者のキャリア・パスの多様化を図るためには、その前提として、研究者自身に、高い専門性に加え、幅広い視野や関心、変化への柔軟な対応力を身に付けさせることが必要であり、その観点から、第一次提言で指摘した大学院博士課程の教育機能の充実等が必要である。このような観点から、21世紀COEプログラムをはじめ、大学院における研究教育の高度化のための支援が展開されており、今後その一層の充実を図ることが求められる。
 また、社会全体が、そのような教育・訓練を受けた研究者の創造的活動やその成果を適切に評価し、それを反映した適切な給与等の処遇を進めることも重要である。

エ 優れた研究者の養成を促進する評価の推進

 優れた研究人材を養成するためには、適切な評価を実施することが極めて重要である。
 このため、各評価実施主体において、研究機関やプロジェクト、研究費等の評価の中で、人材の養成の観点から適切な評価を実施するよう努めるとともに、若手研究者の流動性や独創性の発揮などを阻害することのないよう留意することが重要である。
 また、第一次提言においても指摘したように、若手研究者や指導者に対する評価において、論文の数等を重視することによって、論文を完成しやすいテーマを選びがちとなり、あえて困難な課題に挑戦しようとするインセンティブが働かなくなることも懸念される。このため、そうした困難な課題にじっくり腰を据えて取り組むことも阻害しないよう、評価の在り方に留意する必要がある。

オ 流動化、多様化がもたらす影響への対応

 社会の流動化、多様化や競争の激化は、一方で、人間関係に多くの変化をもたらし、様々な心理的な緊張や不安を生じさせるなどの問題点が指摘されている。
 このため、失敗にくじけることなく新たな挑戦を行うことが奨励されるような社会的環境が醸成されることや、既に述べたような多様なキャリア・パスが用意されることが重要である。また、特に大学院学生やポストドクター等の若い人に対しては、創造性、意欲を引き出すような教育面での配慮が行われることや、各人の能力・適性を踏まえた適切なキャリア・ガイダンス(職業指導)、カウンセリングその他の助言が与えられることが重要である。

(3)急速に変化する需要に対応する研究人材の機動的供給メカニズムの導入

(改革の方向)

 急速な科学技術の発展や社会のニーズの変化に適切に対応するためには、大学等の人材養成機関、産業界の双方において、より柔軟な人材養成システムを確立することが求められ、国立大学の法人化等を踏まえたより柔軟な取組や産業界からのニーズの発信、産学人材養成パートナーシップの確立等が期待される。また、今後特に大きな需要の増大が見込まれる新興分野については、国において可能な限りニーズの定量的な把握等を行うとともに、分野の特性も踏まえた、戦略的・重点的な支援の在り方を検討する必要がある。さらに、日本発の独創性ある新分野を興していくことが重要である。

(具体的施策例)

1.柔軟な人材養成システムの確立

 科学技術の発展や、社会のニーズの多様化・変化は、今後、従来以上のスピードで進むことが予想される。他方、人材養成については、一定の養成期間を必要とするものであり、あらかじめ将来の需要の動向を予測して、新たな社会ニーズの変化等に備えることはますます困難となっている。このため、今後の人材養成の在り方については、様々な場面でそのような人材の需給の不均衡が常に生じ得ることを前提として、検討することが必要であると考えられる。
 また、企業等においては、従来の終身雇用を前提にした企業内での人材の教育訓練から、高い専門性を有する即戦力となる人材を外部から登用したり、外部の教育・訓練機能を活用することの比重が高まるとともに、個人においても、自己実現の機会を求めて終身雇用にとらわれずに転職したり、自らの能力開発に積極的に取り組む傾向が強まっていくことが想定される。
 このような状況に適切に対応し、我が国の科学技術・学術の国際的競争力を維持向上させていくためには、大学等の人材養成機関、人材の活躍の場である企業等はもとより、個人のレベルにおいても、より柔軟な人材養成システムを確立していくことが求められている。

2.大学等人材養成機関に求められる取組

(人材養成への柔軟な取組)

 大学等においては、社会のニーズ等の動向を十分注視し、その自主的な判断に基づき、学部等の編成や学生定員につき、より柔軟かつ機動的な対応を行うことが求められる。また、教員組織については、競争的研究環境の実現はもとより、研究人材の養成の観点からも流動性の高い組織運営が求められる。
 特に、学部、研究科等の設置認可が弾力化されていることに加え、今後国立大学の法人化が図られれば、組織編成や学生定員等に関する大学の自由度がさらに増大することから、これらの事項は各大学の経営上の重要な問題であるとの認識に立った対応が図られることが重要である。また、今後、社会のニーズに機敏に対応するため、大学の経営への学外者の参加による大学と社会の連携の強化が重要である。

(変化に対応できる人材の養成)

 今後の我が国の研究者には、従来以上に変化への迅速な対応や、追従者から先駆者への転換の要請の中で、独創性、創造性に加え、失敗にくじけずチャレンジする精神やねばり強さ等が求められる。
 このため、第一次提言でも指摘したとおり、大学院教育などにおいて、高い専門性に加え、視野や関心の広さ、変化への柔軟な対応力を養うためのカリキュラム上の工夫等の教育機能の強化が必要であり、また学部のレベルにおいても、これらの基礎を培うための特色をもった教育機能の強化が必要である。
 教員においても、学生の創造性や意欲を引き出し、各人の能力・適性に応じた適切な指導を行うことが求められていることを踏まえ、教育の充実や教育方法の改善等に取り組むことが重要である。

3.産業界等社会に期待される対応と産学人材養成パートナーシップ

(ニーズの発信)

 産業界においては、激化する国際競争の中で、上述したように、従来の企業内での人材の教育訓練から、より高い専門性を有する即戦力を有する人材を外部から登用したり、外部の教育訓練機能を活用する傾向が強まっている。
 今後このような傾向が進む中では、産業界においても、どのような専門性、能力を有する人材が必要であるかについて、具体的な情報を積極的に大学等の人材養成機関に対して発信していくことが期待される。

(産学人材養成パートナーシップの確立)

 また、社会のニーズに適切に対応した人材の養成・確保を円滑に行うためには、人材養成に関する需要側である産業界と養成側である大学等との間のパートナーシップを確立し、人材養成の面でも産業界が適切な役割を果たしていくことが期待される。
 このため、大学、研究機関等と産業界の間で、上述のような人材の養成に関する産業界の情報発信等も含めた相互のニーズの理解促進のほか、研究者や教員の交流の促進、従来学部を中心に短期間で行われてきたインターンシップ(就業体験)について大学院学生を対象により長期間のものとするなどのインターンシップの充実、産学共同プロジェクトや連携大学院による大学院学生やポストドクターの企業での研究経験の促進等により、産業界のニーズにも対応できる能力を備えた人材の養成を進め、国においても、例えば、その支援する産学共同プロジェクトにおいて必要な経費を手当するなど適切な支援を講ずべきである。また、企業においては、これまで海外の大学等との共同研究が多く実施されてきたが、現在、我が国においても、産学連携のための体制整備が進められていることを踏まえ、今後、国内の大学等との共同研究の一層の拡充が図られることが期待される。
 また、このような取組の推進を通じ、企業における優秀な博士課程修了者の雇用の一層の促進が期待される。

4.今後需要の増大が見込まれる研究分野の人材養成への支援

(人材養成ニーズの把握等)

 今後大きな需要の増大が見込まれる新興分野や重要分野については、可能な限り今後のニーズを踏まえ、必要な人材の養成・確保に向けた取組を行うことが重要である。
 このため、例えば、ライフサイエンス、情報、知的財産等の分野については、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会等の関係部会等において、各分野の今後の人材養成に対するニーズの把握等を可能な限り定量的に行うとともに、分野の特性も踏まえ、戦略的・重点的な支援の在り方を検討していくことが必要である。

(他分野からの研究者の参入の支援)

 他方、人材養成については、一定の養成期間を必要とするものであり、あらかじめ将来の社会ニーズ等の動向を予測して、新興分野等の人材養成・確保を過不足なく行うことは極めて困難である。このため、現実的な対応として、新興分野等の研究者の養成を図るため、他分野から新規に参入する研究者を育て、支援する制度の確立を図ることが重要である。
 このため、例えば、学校を卒業した後でも、全国各地の大学等による講座、インターネットなどを通じ、企業等の研究者、技術者等が、多様な最先端の科学技術について学ぶことができるような教材や機会の提供などの再教育機能の充実や、新興分野等の出現に対応するモデルカリキュラムの開発支援を行うことも有効と考えられる。

(日本発の新分野の創出)

 研究人材の需給の不均衡要因として、科学技術の急速な進展が挙げられるが、例えばゲノム関連研究などは、基礎的な研究と同時にベンチャー企業を介して急速に産業化が進められた結果、我が国では関連人材の養成や産業化が後追いになっている状況がある。このような、いわば外的要因により生じた需給の不均衡の解消も重要ではあるが、我が国の科学技術・学術や産業の国際競争力を高めるためには、日本発の独創性ある新分野を興し、内外の人材を育て上げていくことが重要である。
 このような新分野の多くは、自然科学の様々な分野の組み合わせ、自然科学と人文・社会科学との融合、あるいは科学技術と文化・芸術などの感性の分野との出会いの中から生まれてくることが考えられる。
 このような新分野の創造のためには、さまざまな分野の専門家の協同作業はもちろん重要であるが、幅広い視野に立って、多様な知識を自在に組み合わせ、あるいは、ふかん俯瞰的に物事を見ることのできる人材の活躍がますます重要となってくるであろう。また、そのようにして生み出された新しい分野の芽を産業化等に結び付けていくためには、知的財産や産学官連携の専門家等の科学技術と社会の接点に立つ人材や、企業等における中堅技術者など含めた幅広い層の人材の活躍が不可欠である。そして何より、リスクや失敗を恐れない「勇気ある挑戦」と「価値ある失敗」を評価し尊ぶような社会が求められよう。図らずも、昨年のノーベル物理学賞及び化学賞をそれぞれ受賞された、小柴昌俊東京大学名誉教授と田中耕一島津製作所フェローのお二人は、日本人が高い独創性を有することに加え、これらの重要性を示している。

(新分野の創出に向けて)

 新しい分野の創出に向けては、それを支えるような多様な人材の養成・確保が必要であり、そのためには、第一次提言及び本提言で指摘した関連する改革方策を着実に実施することが有効であると考えられる。
 そのほか、新しい分野の創出に向けては、幅広い分野の基礎研究、特にほうが萌芽的研究を支援することや変化に柔軟に対応できるチャレンジ精神に富む人材を養成することに加え、広範な波及効果が見込まれる有望な研究成果を早期に見出し、新たな分野に育て上げる評価システムを整備することが重要である。
 また、特に初期段階の最先端分野の研究においては、実際の研究への参加を通じて人材の養成が行われることが一般的であることから、特に博士課程学生やポストドクター等の若手研究者が、そのような機会に積極的に参画できるよう研究プロジェクト体制の構築等に配慮する必要がある。

5.社会全体の人材の流動性の向上

 人材の需給の適切な調整のためには、研究人材のみならず、我が国社会全体として必要な人材の流動性向上に向けた取組が不可欠であり、上述のような、政府一体となった検討が進められるべきである。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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