平成14年7月
真の専門性を有する研究者を養成するため、大学院博士課程において、次のような改善が必要である。
このような大学院における研究者養成の改善を図るための取り組みに対して、次のような支援策が必要である。
世界トップレベルの研究者を養成していくためには、その養成を担う大学院博士課程の教育はグローバルに見て優れたものでなければならない。
研究者の養成に関わる者が、真の専門性を有する研究者を育てていくことが重要であることを強く認識しながら、グローバルレベルの大学院教育を目指し、次のような点について改善を図る必要がある。
○ 若い研究人材を養成するという博士課程の教育機能について再認識し、より優れた研究者を養成するためにどうすべきかという視点を重視する必要がある。博士課程においては、博士課程学生自身が研究を通じて経験を積みながら成長していくものであり、教育者としての教員には、学生の成長を助け、適切に「導く」という役割が求められている。この一環として、例えば、博士論文の指導は重要であるが、これについても、単に論文の完成を目的とするのではなく、論文指導を通じて研究者に必要な資質を身につけることを助けるという教育的なアプローチが重要である。
また、大学院及び教員の評価に当たって、教育面に関して、このような観点からの評価が適切に行われる必要がある。
○ 博士課程の学生の指導において、「幅広い知識を基盤とした高い専門性」を養成するため、学部や修士課程を含め、カリキュラム上の工夫(例えば、複数の教員からの指導、複数の分野について専攻するダブルメジャー、複数のゼミの履修、異なる研究科や専門分野の単位取得の促進など。)が必要である。
○ 本来、研究者には、自ら問題を設定し研究する能力が極めて重要である。このため、博士課程学生が主体的に研究に取り組むことを促進するなど、自立して研究活動のできる研究者を養成するための適切な指導及び環境整備が行われる必要がある。
教育方法に関する改革の多くは、各大学自らの取り組みによる実施が可能であり、自己点検を行い改革に積極的に取り組むことが必要である。
このような改革を実効性のあるものとして推進していくためには、研究に関する評価軸などについても、研究者養成の方向性との整合性をとるようにしていくことが重要である。例えば、博士課程学生についての評価や指導者としての評価において、論文の数を重視するとすれば、論文を完成しやすい狭いテーマを選んだ方が高い評価を得られるということになり、あえて困難な課題に挑戦しようというインセンティブは働かない。
したがって、研究者養成の在り方だけでなく、研究をめぐる様々な側面から、養成環境をトータルで見直していくことが重要である。
このような観点を含め、中央教育審議会大学分科会においても、制度の弾力化を含め、大学院の教育の在り方について検討されることを希望する。
なお、中央教育審議会大学分科会において、専門職大学院(仮称)について検討が行われており、大学院における研究者養成と高度職業人養成の在り方が見直されているところであるが、いずれにしても、一般の大学院における研究者養成については、その対象としてもっぱら大学等の研究者を想定するのではなく、大学、研究機関、産業界などの組織の違いに関わらず、研究活動を行う者すべてが対象となるということを再認識することが重要である。
大学院博士課程における研究者養成の改善を図るための取り組みに対して、次のような支援策が必要である。
○ それぞれの大学院が独自に思い切った指導の改善を行えるようにするため、優れた研究者の養成に意欲的に取り組もうとする大学院博士課程に対する支援の充実を図る必要がある。
このため、例えば、「21世紀COEプログラム」の対象となった大学院について、研究者養成に関する施策を重点的に措置するなどにより、その研究者養成機能の一層の強化を図ることが考えられる。
○ 博士課程在学中の若い時期から、ある程度長期にわたって海外の優れた研究現場に身を置き、多くの刺激を受けることは、世界トップレベルの研究者を養成する上で極めて効果的である。
このため、研究者養成の観点から、我が国の優れた博士課程学生等に海外における研究機会を提供することを政策的に推進していくこととし、そのための国の予算による海外派遣制度の抜本的な拡充を図る必要がある。また、同様の観点から、日本学術振興会の特別研究員(PD)の採用に当たって、一定期間の海外渡航を原則化するなどの措置も効果的であると思われる。
研究機関としての研究能力を高めるためには、多様なバックグラウンドを有する研究者を集めるとともに、相互に刺激しあい影響されるような研究環境を整えていくことが重要である。
大学院組織自体の多様性を確保し活性化を図るため、同質な研究者が多くなっていないかなど、研究者の確保に関して自己点検を行うとともに、教員の自校出身者の比率を下げる方向に向かうべきである。
また、助手等の教員の採用に当たって、ポスドクからの採用を増やしていくことが望ましい。
研究アプローチのタイプや考え方などに関して多様な研究者を養成し、また、研究組織としての活性化を図っていくためには、大学院組織における研究人材の多様性を確保していくことが重要である。
欧米のトップレベルの研究機関では、組織としての研究能力を高める観点から、異なるバックグラウンドを有する多様な人材を確保することを重視している。このため、研究者の採用に当たって、研究者間の研究アプローチの仕方や考え方、経歴などが多様になるようにし、また、そうした様々な研究者同士が意見を交換し互いに影響し合う雰囲気や場を設けるようにしている。
我が国の研究者組織については、同質な研究者が集まっていることが多いとされるが、こうした現状について、我が国の社会そのものの同質性や異質なものを排除しようとする意識や慣習の違いといった社会的な背景の特殊性で説明すべきではない。欧米の研究機関においても、意図的に多様な人材を集めるようにしていることに注目し、我が国のように同質性の高い社会にあっては、それぞれの研究組織において、欧米以上に意図的に多様なバックグラウンドを有する研究者を集めるとともに、相互に刺激しあい影響されるような研究環境を整えていくことが重要である。こうした観点から、我が国の研究室への海外の優秀な若手研究者の受け入れを政策的に促進することも必要である。
大学の教員における自校出身比率の改善については、大学審議会などでも指摘されてきているが、本委員会も基本的に自校出身者の比率を下げる方向に向かうことが適当であると考える。その際、我が国の中だけで考えるのではなく、海外の研究者を積極的に受け入れるなど、国際的な多様性の視点からとらえていくことも重要である。
各大学における教官人事に関して自己点検するとともに、教員における自校出身比率について公表していくなどの取り組みが必要である。
なお、他に採用すべき適当な者がいない、自校出身者が最も優秀という場合もあろうが、その際には、それがグローバルなレベルから見てそうであるのか、本当に異なるバックグラウンドを有する研究者を採用するよりも組織全体としての研究能力の最大化につながるのか、という点について改めて検証する姿勢が必要である。
多様な経歴を有する研究者を採用する観点から、大学において助手等の教員を採用するに当たっては、分野によっては、新規学卒者から直ちに採用するのではなく、ポスドクとしての研究成果を適切に評価した上で採用することを増やしていくように変えていくことが望ましい。
ポスドク制度については、すでに1万人計画を達成しているが、研究者の流動化を促進し研究者の質を高める観点から、制度の拡充について検討することが必要である。
なお、日本学術振興会の特別研究員(PD)については、平成15年度の採用より、出身研究室と異なる研究室で活動するという条件について、従来は推奨であったものを原則それ以外認めないという方針に変更した。この背景には、出身研究室と異なる研究室で活動することが望ましいと推奨されてはいたものの、実際には半数近くの者が出身研究室での研究活動を継続していたという実態がある。異なる研究機関において多様な経験を積ませることにより、視野の広い研究者を養成することは極めて重要な視点であり、採用条件の見直しは適切であると考える。なお、研究者の養成に関係する者は、こうした措置がとられるか否かに関わらず、常に研究能力の最大化を念頭に置きながら、長期的な視点に立って研究者の養成に取り組むことが重要である。
また、特別研究員(PD)について、海外における研究活動を促進することは、研究人材の多様性の観点からも効果的である。
優秀な学生の大学院博士課程への進学を促し、研究者養成上の重要な時期を研究に専念できるようにする観点から、博士課程学生に対する経済的な支援を拡充することが必要である。
このため、日本学術振興会の特別研究員(DC)、リサーチアシスタントなど、経済的な支援を充実することが必要である。
博士課程学生は学生であると同時に研究者の側面も有している。これは、欧米においても一般的な考え方である。博士課程学生の経済支援については、最も若手の独立した研究者として、これをどのように支えていくかという観点から考えていく必要がある。
また、世界トップレベルの研究者を養成するに当たって、大学院博士課程に優秀な学生が進学するか否かは根本的な問題として極めて重要である。優秀な学生の進学を促し、研究者養成上の重要な時期を研究に専念できるようにする観点から、博士課程学生に対する経済的な支援を拡充することが必要である。
博士課程学生に対する経済的な支援に当たっては、日本学術振興会の特別研究員(DC)のようなフルサポート、リサーチアシスタントのように研究活動を補助することに対して一定の結果を要求しつつ対価を支給するものなど、様々な趣旨の支援をバランスよく措置していくことにより、優秀で志の高い、意欲のある者がより優遇されるよう、経済支援の中においても競争的な環境が保たれるようにすることが重要である。
特別研究員(DC)は、研究や勉学に専念できる環境を与える支援制度として、エリートとしての研究者養成を行っていく上で大きな役割を果たしており、制度の充実を図るとともに、エリートにふさわしい資質の優れた者が適切に選考されるよう特に留意する必要がある。その際、研究者としては極めて若い時期における選考に当たるため、それまでの研究実績もさることながら、研究者としてのポテンシャリティに重きを置いて資質・能力を見極めていくことが重要である。
リサーチアシスタントについては、研究活動を補助することについて一定の結果を要求し、その対価を支給するものである。これは、研究者としてのプロ意識を養うという面を含め、トップレベルの研究者を養成する上でも有意義である。リサーチアシスタントを雇用する側の教員は、ある面において、リサーチアシスタントに対して厳しく成果を求めると同時に、OJTとしての性格を意識し、単に自らの研究の補助をさせるということではなく、研究者を養成するという意識を常に持って指導することが重要である。
リサーチアシスタント制度については充実を図るとともに、科学研究費補助金による研究やプロジェクト型研究、企業との共同研究などにおいても、リサーチアシスタントの業務の実態にあわせて、適切に手当を支給するようにしていく必要がある。現在、多くの競争的資金制度においてリサーチアシスタントの手当を支給することができるようになっており、人材育成の観点からもその一層の活用が必要である。
なお、リサーチアシスタントはあくまで研究活動の補助であって、自らの研究活動を主体的に行うものではない。したがって、リサーチアシスタント制度においても、これに充てる時間数については最大でも週20時間程度とすることが適当であるとされている。こうした時間数の制約がある中で学生生活費に対するカバー率の向上を図る必要があること、また、業務内容の専門性が高いことなどを考慮し、リサーチアシスタントの手当てを引き上げることが望ましい。
博士課程卒業者の産業界への就職状況は米国に比べて少ない。大学院の拡大は、主として産業界をはじめとする社会のニーズの拡大に対応しているものであり、大学院博士課程においては、これらのニーズを満たす人材養成について真剣に考えることが重要である。博士課程におけるインターンシップの導入などの改善を図るほか、人材養成に関して産学が連携する場を設け、実践的な取り組みを推進することが必要である。
また、人材養成における産学連携は、幅広い視野を有する優れた研究者を養成することにより、大学を含む我が国の研究の水準全体を押し上げることにも寄与するものである。
大学院の拡大は、主として産業界をはじめとする社会のニーズの拡大に対応しているものである。一方、これまでの博士課程は、主として大学や公的研究機関における研究者の養成を念頭に置いてきたため、研究者の概念の中に、企業において研究に従事する者を含むという認識が極めて低かったといっても過言ではない。
各大学院博士課程においては、養成した人材を適切に社会に還元していくところまでを人材養成機関としての責任範囲と認識し、博士課程卒業者の進路の実態を適切に踏まえながら、産業界をはじめとする社会のニーズを満たす人材養成について真剣に考えることが必要である。
いくつかの企業及び大学の関係者からヒアリングを行った結果を踏まえれば、産業界における研究実態を踏まえた研究者を養成する必要があることはもちろんであるが、産業界における活躍の場を拡大するには、例えば、博士課程におけるインターンシップの実施、産学の共同研究における博士課程学生の参画の促進、大学と産業界との研究者交流の促進、求人求職に関する情報提供の促進、企業における期限付きのポスドクの採用等を進めることが効果的であると考えられる。
また、大学院において、研究者養成の改善を図っていくためには、産業界の側から大学側に対して、どのような研究人材が必要とされているのかに関し、専門分野、資質や人数規模などを含め、より具体的に示すことが必要である。このため、人材養成面における産学の連携の場を設定し、双方のニーズの理解及び意見交換を図りながら、具体的かつ実践的な取り組みを推進することが必要である。
博士課程の研究者養成に産業界の研究者が協力したり、学生が産業界の研究現場に接するなど、人材養成の場に大学とは異なる研究の視点やアプローチを取り入れることは、幅広い視野や柔軟性を養成する上で有効であり、真の専門性を有する研究者養成の観点からも重要である。
研究者養成における産学連携の推進は、産業界のニーズに合った研究者養成の観点からだけではなく、大学における基礎研究を含め、我が国の研究の水準全体を押し上げることにも寄与するものと考える。
科学技術・学術政策局基盤政策課
-- 登録:平成21年以前 --