科学技術・学術審議会
人材委員会(第21回)
平成15年11月12日
科学館等における科学技術理解増進活動への参加が参加者に及ぼす影響について ―科学技術館サイエンス友の会・日本宇宙少年団を例として― (調査資料-99)
文部科学省
科学技術政策研究所
科学館等(注1)において一般の人を対象とした友の会活動、科学講座などの科学技術理解増進活動が実施されている。このような科学技術理解増進活動への参加者は活動に参加することによって理科や科学が好きになったかといった点については、科学技術理解増進活動の有効性評価の重要な要素であるにもかかわらず、これまでに公表された調査結果を見出すことはできなかった。(注2)
今回、科学技術理解増進活動関係者の参考として供することを目的として、科学技術理解増進活動が参加者に及ぼす影響等を調査するためのアンケート票を作成し、関係機関の協力を得て実際に科学技術理解増進活動への参加者に対してアンケートを行った。そしてアンケート調査の結果から、科学技術理解増進活動の影響の測定を試みた。
注1:本報告で「科学館」とは、科学館に加え、科学系博物館を含めている。また、「科学館等」の「等」は例えば日本宇宙少年団のように科学館とは別の組織で科学技術理解増進活動を行っている団体を指している。
注2:全国の科学館において来館者に対してアンケートを実施しているかどうか、現状を確認したところアンケートを実施している科学館(112館、55.2%)のうち、質問の項目に、来館することによって理科が好きになったかなど、来館者の意識の変化が入っていると回答した科学館はわずか9館(8.0%)であった。また、この9館のうちアンケート結果を公表していると答えたのは3館あったが、科学理解増進活動への参加の有効性を判断するには、十分な内容とはなっていなかった。
科学技術理解増進活動が参加者に及ぼす影響等を調査するためのアンケート票の作成にあたっては、参加の動機、参加したことによる影響などを評価できるよう、1.知ったきっかけ、2.参加したきっかけ、3.参加前の理科(科学)の好ききらい、4.活動に対する満足度、5.参加の前と後での理科(科学)の好ききらいの変化、6.高校、大学進学への影響、就職への影響などの質問項目を設けた。
アンケート調査の実施にあたっては、科学技術理解増進活動を実施している団体として科学技術館サイエンス友の会及び日本宇宙少年団を選び、それぞれの会員及び団員に対して2003年3月から4月にかけて郵送調査法で調査を実施した。
科学技術館は東京都千代田区北の丸公園に1964年に開館した科学館で、科学技術館サイエンス友の会は科学技術館開館とともにサイエンスクラブの名称で発足し、「科学する心」を育て、「創る喜び」を体験することを目指して活動を行っている。今回の調査では名簿が入手できた1997年から2002年までの会員6,528人(2,498戸)を対象に全数調査を郵送調査法で実施した。
日本宇宙少年団は1986年に発足した組織で、宇宙への夢の実現を通して青少年の科学への探究心や創造性を育むための活動を行っており、全国に118の分団を展開している。今回の調査では1986年の設立以降これまでの団員1万6千人余りの中から無作為抽出法(系統抽出法)で対象を2,076人に絞って標本調査を郵送調査法で実施した。
科学技術館サイエンス友の会会員へのアンケートは、6,528人(2,498戸)に送付し、912人から回答があった。アンケートが会員へ着信した数(5,849人)に対する回収率は15.6%であった。
「問1 サイエンス友の会を知ったきっかけを教えてください。」に対して、入会時の年齢が0歳から19歳までの未成年層では「家族を通じて知った」とする回答が51.2%ともっとも多く、次いで「自分で知った」が25.5%、「友だちを通じて知った」が20.8%であった(図1)。
また、「問2 サイエンス友の会に参加したきっかけを教えてください。」に対して、入会時の年齢が0歳から19歳までの未成年層では「家族に参加するようすすめられた」とする回答が52.4%ともっとも多く、次いで「自分から参加したいと思った」が36.3%となっている。
未成年者に対しては、家族からの働きかけが重要であることがわかる。
「問6 サイエンス友の会の活動は満足でしたか。要望や不満などがあれば自由に書いてください。」に対して、「満足」、「どちらかというと満足」とする人が合計で70.9%、「ふつう」が23.7%、「どちらかというと不満」、「不満」とする人が5.4%という結果で、全体の7割以上が満足していると回答している(図2)。
「問7 サイエンス友の会に参加した後、あなたの理科(科学)の好き、きらいは、サイエンス友の会に参加する前にくらべて変わりましたか。」に対して、「前より好きになった」とする人が49.8%、「前よりきらいになった」とする人が0.4%、「前と変わらない」とする人が49.7%であった(図3)。
「問6 サイエンス友の会の活動は満足でしたか。要望や不満などがあれば自由に書いてください。」と「問7 サイエンス友の会に参加した後、あなたの理科(科学)の好き、きらいは、サイエンス友の会に参加する前にくらべて変わりましたか。」との間の関係を調べてみた(図4)。
活動は「満足」と回答した人(n=345人)のうち71.3%(246人)が「前より好きになった」と回答し、「どちらかというと満足」とする人(n=268人)では48.1%(129人)が「前より好きになった」と回答している。同様に「ふつう」、「どちらかというと不満」と回答した人では、それぞれ26.5%、23.5%と25%程度であり、「不満」と回答した人ではサンプル数が11人と少ないが、「前より好きになった」と回答した人はいなかった。活動に対する満足度が高いほど「前より好きになった」と回答する人の割合が高いことがわかる。
「問3 サイエンス友の会に参加する前、あなたは理科(科学)は好きでしたか、きらいでしたか。」と「問7 サイエンス友の会に参加した後、あなたの理科(科学)の好き、きらいは、サイエンス友の会に参加する前にくらべて変わりましたか。」との間の関係について調べてみた(図5)。
結果は、サイエンス友の会に参加する前に理科(科学)を「好き」と回答した層では54.4%、「どちらかというと好き」と回答した層では49.3%が「前よりも好きになった」と回答している。また、友の会に参加する前の段階で理科(科学)の好ききらいについて「ふつう」と回答した層で40.9%が「前より好きになった」と回答し、「どちらかというときらい」、「きらい」とする層でもそれぞれ54.2%(26人)、47.1%(8人)が「前より好きになった」と回答している。一方、「前よりもきらいになった」とする人は4人(0.4%)でほとんどいない。科学技術館サイエンス友の会へ入会し、科学技術館サイエンス友の会の活動に参加して理科、科学に触れる機会が増えることで、参加前に比べて理科(科学)を好きになる傾向があると考えられる。
日本宇宙少年団団員へのアンケートは、2,076人に送付し、525人から回答があった。アンケートが団員へ着信した数(1,828人)に対する回収率は28.7%であった。
「問1 宇宙少年団を知ったきっかけを教えてください。」に対して、入団時の年齢が0歳から19歳までの未成年層では「家族を通じて知った」とする回答35.0%ともっとも多く、次いで「自分で知った」が22.2%、「学校を通じて知った」が19.7%であった(図6)。
また、「問2 宇宙少年団に参加したきっかけを教えてください。」に対して、入団時の年齢が0歳から19歳までの未成年層では「自分から参加したいと思った」とする回答が53.4%ともっとも多く、次いで「家族に参加するようにすすめられた」が36.2%、入団時の年齢が20歳代以上の成年層では「自分から参加したいと思った」とするものが49.1%でもっとも多く、次いで「その他」が36.8%などとなっている。
未成年者に対しては、家族からの働きかけが重要であることがわかる。
「問6 宇宙少年団の活動は満足でしたか。要望や不満などがあれば自由に書いてください。」に対して、「満足」、「どちらかというと満足」とする人が合計で64.0%、「ふつう」が26.8%、「どちらかというと不満」、「不満」とする人が9.1%という結果で、全体の約三分の二が満足していると回答している(図7)。
「問7 宇宙少年団に参加した後、あなたの理科(科学)の好き、きらいは、宇宙少年団に参加する前にくらべて変わりましたか。」に対して、「前より好きになった」とする人が51.3%、「前よりきらいになった」とする人が0.6%、「前と変わらない」とする人が48.1%であった(図8)。
「問6 宇宙少年団の活動は満足でしたか。要望や不満などがあれば自由に書いてください。」と「問7 宇宙少年団に参加した後、あなたの理科(科学)の好き、きらいは、宇宙少年団に参加する前にくらべて変わりましたか。」との間の関係について調べてみた(図9)。
活動は「満足」と回答した人(n=180人)のうち67.8%(122人)が「前より好きになった」と回答し、「どちらかというと満足」とする人(n=127人)では52.8%(67人)が「前より好きになった」と回答している。同様に「ふつう」(n=132)、「どちらかというと不満」(n=32)と回答した人では、それぞれ40.9%、28.1%が「前より好きになった」と回答し、残りのそれぞれ59.1%、71.9%は「前と変わらない」との回答で、「前よりきらいになった」との回答はなかった。また、「不満」と回答した13人については、1人が「前より好きになった」、11人が「前とかわらない」、1人が「前よりきらいになった」と回答した。活動に対する満足度が高いほど参加前後での理科(科学)をより好きになる傾向があることがわかる。
「問3 宇宙少年団に参加する前、あなたは理科(科学)は好きでしたか、きらいでしたか。」と「問7 宇宙少年団に参加した後、あなたの理科(科学)の好き、きらいは、宇宙少年団に参加する前にくらべて変わりましたか。」との間の関係について調べてみた(図10)。
日本宇宙少年団に参加する前に理科(科学)を「好き」と回答した層(n=256人)では54.3%(139人)、「どちらかというと好き」と回答した層(n=109人)では57.8%が「前よりも好きになった」と回答している。また、日本宇宙少年団に参加する前の段階で理科(科学)の好ききらいについて「ふつう」と回答した層(n=110人)で41.8%が「前より好きになった」と回答し、「どちらかというときらい」(19人)、「きらい」(8人)とする層でもそれぞれ36.8%(7人)、37.5%(3人)が「前より好きになった」と回答している。一方、「前よりきらいになった」とする人は3人(0.6%)と少数である。日本宇宙少年団に入団し、日本宇宙少年団の活動に参加して理科、科学に触れることで、参加前に比べて理科(科学)を好きになる傾向があると考えられる。
今回の調査の対象は2団体、回答した人の総数が1,437人と少なかったが、科学館等で行われている科学技術理解増進活動についていくつかの知見を得ることができた。
「参加の前と後での理科(科学)の好き、きらいの変化」についてみると、参加者の半数は理科(科学)を「前よりも好きになった」と回答した。「前よりきらいになった」と回答した人の割合は1%未満と少数で、残りの半数は「前と変わらない」と回答した。科学技術理解増進活動に参加することで、参加者は参加前よりも理科(科学)を好きになる傾向がある(図3、図8)。
「参加前の理科(科学)の好き、きらい」と「参加の前と後での理科(科学)の好き、きらいの変化」の関係をみると、「参加前より好きになった」とする人は、科学技術館サイエンス友の会や日本宇宙少年団に参加する前から理科(科学)が好きだった人だけでなく、参加前は「ふつう」、「どちらかというときらい」、「きらい」とする層でも4割前後存在する。科学技術の理解増進を目的とする活動に参加によって理科や科学を一層好きになる傾向が確認された(図5、図10)。
「活動に対する満足度」について、科学技術館サイエンス友の会、日本宇宙少年団の活動に対して、「満足」または「どちらかというと満足」と回答した人はそれぞれ70.9%、64.0%で、参加者の満足度は高いといえる(図2、図7)。
「活動に対する満足度」と「活動に参加する前と後での理科(科学)の好き、きらいの変化」の関係をみると、活動が「満足」と回答した人ではおよそ7割が「前より好きになった」と回答しており、満足度が高いほど理科(科学)を「前より好きになった」とする割合が高い。参加者に満足感を与えることが理科(科学)の好ききらいの変化に影響を与えることを示している。(図4、図9)
「知ったきっかけ」について、19歳以下の未成年層についてみると「家族を通じて知った」とする回答が科学技術館サイエンス友の会51.2%、日本宇宙少年団35.0%で最も大きな割合を占めている。科学技術館サイエンス友の会、日本宇宙少年団などの科学技術の理解増進に関する活動について、未成年世代が知る機会を家族が与えていることがわかる(図1、図6)。
また、「参加したきっかけ」を未成年層についてみると、科学技術館サイエンス友の会では「家族に参加するようにすすめられた」が52.4%でトップ、日本宇宙少年団では「家族に参加するようにすすめられた」が36.2%で、「自分から参加したいと思った」の53.4%に次いでいる。未成年世代では、活動に参加するきっかけとしても家族が大きな役割を果たしている。
科学技術・学術政策局基盤政策課
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