大学審議会「大学入試の改善について」(答申)抜粋

平成12年11月22日

はじめに

(略)

第1章 大学入学者選抜の改善のための基本的な視点

1 大学入学者選抜を巡る状況

(略)

2 大学入学者選抜の改善のための基本的な視点

(冒頭 略)

(1)入学後の教育との関連を十分に踏まえた上での大学入学者選抜の改善

(求める学生を見いだすこと)

 これからの大学には、国民の半数近くが進学する教育機関であるという認識の下に、広く国民に大学教育を受ける機会を提供した上で、それぞれの教育理念等に応じた教育を適切に施し、社会の様々な要請に応じた人材を育成していくことが求められる。
 大学入試においても、それぞれの教育を受けるのにふさわしい資質を持った学生を見いだすことが重要になる。入学後の教育との関連を十分に踏まえた上で、それぞれの大学にふさわしい、大学入試の改善を図ることが必要である。
 すなわち、高等学校、大学双方の多様化が進む中で、各大学の理念や特色等に応じた教育を円滑に行うためにも、学生の大学教育への円滑な移行を図るためにも、入学者選抜において、各大学が、それぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った「求める学生」を適切に見いだすことが重要である。
 入学者選抜において求める学生を見いだすためには、まず大学はそれぞれが特色ある教育理念等を確立することが必要であり、それに応じた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確化し、対外的に明示することが求められる。その上で、それを実際の選抜方法や出題内容等に反映させ、それぞれの大学にふさわしい入試を行うことが必要である。このような取組は、受験生が、各大学の入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を参考にし、自らにふさわしい大学を主体的に選択することができるようにするという意味でも重要である。なお、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の明示に際しては、高等学校の生徒等入学志願者が十分に理解できる表現、入手しやすいような方法等により行うことが必要である。
 同時に、必要に応じ学生の履修歴等に対応して大学教育の基礎を教えるなど、入学後の学生に対するきめ細かな配慮や様々な工夫も必要である。
 先に述べたように、相当数の者にとって大学入試が過度の競争ではなくなり、全体として見れば、大学への進学を希望する者がいずれかの大学には入学できるようになりつつある中で、大学は、社会の要請にこたえ、それぞれの特色を明確にし、魅力ある大学作りを行うことが必要不可欠である。今後の大学においては、それぞれの理念や目標等に応じた教育により学生に付加価値を施し、社会の多様な要請に応じた人材として育成していくことが求められるのである。各大学の入学者選抜の改善は、この一環として行われるものであり、入学後の教育との関連を十分に踏まえた選抜を行うことにより、「求める学生」を見いだすことが重要であって、そのための努力を惜しむべきではない。

(2)受験生の能力・適性等の多面的な判定(評価尺度の多元化の推進)

 入学後の教育との関連を十分に踏まえた上での大学入学者選抜の改善を図るためには、各大学の多様で自由な入試設計が重要であり、それぞれの入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に基づき多様な選抜が行われることが必要である。
 選抜方法の多様化等は、受験生の能力・適性等を多面的に評価し、求める学生を適切に見いだすといった観点や、様々な学生を入学させて大学教育を活性化させるといった観点から行われることが重要である。
 このためには、大学入試センター試験の成績の資格試験的な取扱い、思考力や表現力等の評価に力点を置いた個別試験の改善、アドミッション・オフィス入試等の丁寧な選抜等を推進することが重要である。
 なお、大学入試は、高等学校卒業者に対し、その能力・適性等に応じた大学教育の機会を提供し、各人の個性に即して、その能力のより適切な伸長を期するための教育的業務である。このため、その実施に当たっては、初等中等教育の改善の方向を尊重し一層助長するよう十分配慮するとともに、選抜の方法及び結果が公正かつ妥当なものとして受験生はもとより社会一般の信頼を受けるようにすることが必要である。

(3)受験機会の複数化(やり直しのきくシステムの構築)

(略)

(4)公平性についての考え方の見直し

(略)

(5)大学における入学者選抜の実施体制の見直し

(略)

第2章 大学入試センター試験の改善

(略)

第3章 各大学における入学者選抜の改善

1 各大学における入学者選抜の具体的な改善方策

 大学入学者選抜は、基本的には各大学の自主性に基づいて行われるべきものであり、先に述べた「大学入学者選抜の改善のための基本的な視点」を踏まえ、各大学が次のような取組を適切に実施していくことにより、より一層多様で自由な設計が進むと考えられる。

(1)募集単位の大くくり化と、その中での多様な選抜方法、評価尺度の導入

(略)

(2)大学入試センター試験とは異なる能力の判定に力点を置いた個別試験の改善

 大学入試センター試験を利用する大学については、大学入試センター試験で受験生の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度が判定されていることを前提にして、大学・学部の教育内容や専門分野等の特性に応じた個別試験を実施することにより、受験生の能力・適性等を適切に判定してきたところである。
 今後、大学の多様化・個性化が更に進むとともに受験生の能力・適性等の多様化も一層進むことが予想される中で、各大学が求める学生を十分に見いだすためには、受験生の能力・適性等を多面的に評価しつつ、入学後の教育を受けるのに必要な能力・適性等があるかどうかを適切に判定することが一層重要になる。
 このため、各大学が大学入試センター試験を利用する場合には、受験生の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度が大学入試センター試験によって判定されていることを踏まえ、個別試験においては、例えば、論文試験や口頭試問等による論理的な思考力や言語的な表現力等の判定に力点を置く、あるいは大学入試センター試験より難易度の高い問題によって高度な思考力や応用力等を見るといった、大学入試センター試験とは異なる能力を判定するような工夫・改善を行うことが求められる。
 また、高等学校における平素の学習等を評価する観点から、調査書、様々な学習活動、文化スポーツ活動、就業経験、活動経験の記録や成果物等の多様な調査資料をより一層活用することも必要である。その際、大学関係者が調査書等の意義に対する理解を深めるとともに、学校によりいわゆる学力レベルの差が存在することなどに起因する調査書の有効性の問題がその活用を妨げてきたとの指摘を踏まえ、高校生の学習の到達度の評価基準・評価方法等を開発するなど、客観的に到達度の評価を行えるようにするための方策について検討し、調査書や調査資料等の有効性を高めることが必要である。
 更に、大学教育に必要な理解力や判断能力等といった教科・科目ごとの達成の程度とは異なる受験生に関する情報を得ることを目的として、各大学の個別試験において、教科・科目にとらわれない総合的な能力を判定する総合的な問題を導入するといった取組も考えられる。

(3)受験教科・科目の適切な設定とその内容

 受験教科・科目については、入学後の教育との関連を十分に踏まえた上で設定することが必要であり、各大学の教育に必要なものを課すことは当然である。また、幅広い知識や教養を大学入学者に対し求め、文系・理系にとらわれない幅広い受験教科・科目を課すことがあってもいい。
 いずれにせよ、各大学の自主的な判断に基づき、それぞれの教育内容や教育理念を踏まえて受験教科・科目を適切に設定することが必要であり、入学後の教育に配慮して受験教科・科目を増やすことがあってもいい。その際、単に受験教科・科目を増やすというだけではなく、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に応じて教科・科目を設定することやその内容を決定することが求められる。
 ただし、受験教科・科目を増やすなど、その内容が受験生の学習に大きな影響を与えると考えられる場合においては、2年程度前には予告・公表することが望ましい。
 共通第1次学力試験実施以来、共通試験と同じ科目を個別試験で二重に課すことは受験生にとって過度の負担であるとの考えに基づき、従来、「大学入学者選抜実施要項」において、大学入試センター試験利用大学について個別試験の受験教科・科目数の削減を求めてきたところであるが、上記のような趣旨を踏まえ、このような受験教科・科目数についての一律の要請は見直すことが必要である。ただし、大学入試センター試験と個別試験との組合せ、受験教科・科目の設定における各大学の適切な配慮や工夫、受験教科・科目の変更の公表・周知の徹底を求めることは必要である。
 また、受験教科・科目の設定に当たっては、各高等学校において多様な教育課程が編成されていることを踏まえ、普通科目のほか職業に関する科目を加えるなど、受験生の多様な学習履歴に対する配慮や、障害者に対応した配慮を行い、その受験機会を確保する努力を行うことなどが必要であるとともに、新しい学習指導要領に対応した平成18年度入試からの各大学の個別学力検査における教科・科目についても、各大学において検討を行う必要がある。
 更に、学力検査において必要な教科・科目を課すこと以外にも、以下のような学生に対するきめ細かな配慮や様々な工夫により、学生の大学教育への円滑な移行を図ることが必要である。

(1)入学前に学生が学習しておくべき内容に関する積極的な情報提供に努め、高等学校の生徒の適切な学習選択等を支援すること。特に、推薦入学やアドミッション・オフィス入試等により比較的早期に大学が合格者の決定を行う場合には、高等学校側との連絡・協力を密にしながら、入学前までに学習しておくべき具体的な内容を示したり、具体的な課題を課したりするなど、合格者に対して入学前から学習指導等を行うことも望まれる。

(2)入学者選抜において、学力検査を課さない教科・科目については、高等学校で履修しておく科目としてあらかじめ指定したり、高等学校の調査書を選抜資料として活用したりすること。

(3)入学後は必要に応じ学生の履修歴等に対応して大学教育の基礎を教えること。特に、学生が高等学校で履修していない科目等についていわゆる補習授業を実施するだけでなく、文献の読み方や議論の仕方、レポートの作成の仕方等についての授業を入学後すみやかに行うことにより、大学教育への円滑な移行を図ることも望まれる。

(4)分離・分割方式の募集人員の適切な配分

(略)

(5)秋季入学の拡大

(略)

(6)事務職員等の積極的な活用や入試専門組織の整備

(略)

(7)各大学の選抜における信頼性の高い外部の試験の活用

(略)

(8)試験問題の作成における外部の専門家等の活用

(略)

(9)入学者選抜についての評価

 各大学の選抜をより良いものにするための工夫・改善の取組を進めるためにも、入試に対する社会の信頼や理解を得るためにも、入学者選抜についての評価を促進することが必要である。
 これまでも、各大学においては、選抜方法の工夫や多様な入試を行った結果入学した学生が入学後どのような成績を収め、どのように活躍しているかの追跡調査等を実施しているところである。今後は、このような追跡調査のみならず、各大学の選抜が、求める学生を適切に見いだすものとなっているかという観点から、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に照らした選抜方法の評価等を適切に行うことが必要である。その際、大学入試センターが入学者選抜に関する調査研究結果を積極的に各大学に提供し、これが各大学の評価において活用されることも有効であると考えられる。
 また、選抜方法に関する評価については、自己点検・評価のみならず、高等学校関係者等による外部評価等も行われることが求められる。更に、本年4月に設立された「大学評価・学位授与機構」による教育研究活動の評価の一環として、選抜方法に関する評価を行うことも考えられる。
 なお、試験問題の評価については、以下のような点に留意することが必要である。

(1)試験問題の適否の判断は極めて専門性の高い事項であり、正解率の高低等の客観的な数値に基づいて評価を行うことは困難であり、特に、論理的な思考力や表現力、複数の教科・科目に基づく知識等を組み合わせて応用していく能力等、大学入学後に学ぶための基礎となる能力を問う良問であれば、単にその知識が学習指導要領や教科書で扱われていないというだけで、一概に不適切とは言い難い面があること。ただし、学習指導要領に定める各教科・科目の学習を通じて得られた知識を組み合わせることにより十分解答が可能な出題内容で、解答する際に支障が生じないよう適切な解説が設けられるなど、学習指導要領に準拠したものであることが必要である。

(2)大学が入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)として高度な能力を受験生に求める場合もあり、学習指導要領に準拠した上で高度な能力を問おうとする良問であれば、難問であるとの指摘がなされても、一概に不適切とは言い難い面があること。
 大学入試の目的が入学後の教育に必要な能力を見るものであることを踏まえれば、その試験問題はそれぞれの教育内容に関連させて各大学が適切に設定すべきものであり、その評価も各大学の個々の教育内容に照らして行うことが必要であること。
 このため、試験問題については、専門家も参画しながら、自己点検・評価や高等学校関係者等による外部評価等の各大学の自主的な取組が行われることが望まれる。
 なお、試験問題の作成に当たっては、試験問題を作成する組織とは別に、試験問題としての適切さを点検する組織を設けることが望ましい。

(10)入学者選抜等に関する情報提供の推進

(略)

2 アドミッション・オフィス入試の適正かつ円滑な推進

(1)アドミッション・オフィス入試の意義と現状

 アドミッション・オフィス入試は、選抜方法の多様化、評価尺度の多元化等の入学者選抜の工夫・改善の中で各大学の自主的な取組として発展してきた。
 平成2年度入試において、慶應義塾大学が初めて導入し、少しずつこれを導入する大学が増えてきたが、平成12年度入学者選抜においては、新たに62の大学が導入し、現在、国公私立大学あわせて75大学でアドミッション・オフィス入試が実施されており、取組が着実に拡大している。
 アドミッション・オフィス入試には明確な定義はなく、その具体的な内容は各大学の創意工夫にゆだねられている。このため、現在では大学自らがアドミッション・オフィス入試と呼称しているものがそれであるという状況にあるが、一般的に言えば、「アドミッション・オフィス入試」とは、アドミッション・オフィスなる機関が行う入試というよりは、学力検査に偏ることなく、詳細な書類審査と時間を掛けた丁寧な面接等を組み合わせることによって、受験生の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に判定しようとするきめ細かな選抜方法の一つとして受け止められている。
 その意味でアメリカの大学においてアドミッション・オフィスが行う入学者選抜が、経費節減と効率性を目的としたものと言われるのに対して、既に我が国独自の選抜方法となっている。
 特に最近の動向を見ると、高校生の大学に対する理解に力点を置き、大学説明会等を入学者選抜の過程に位置付けたり、高校生とのコミュニケーションを重視した事前の面接を行ったりすることにより、大学の理念や特色等を十分に理解した上で進学してもらおうとする、言わば「相談型」「対話型」のアドミッション・オフィス入試も増えてきている。
 大学入学者選抜が「選抜」から「相互選択」へと変化しつつある中、このような「相談型」「対話型」のアドミッション・オフィス入試も増加していくものと考えられる。
 アドミッション・オフィス入試は、受験時の学力に過度に依存することなく、受験生の能力・適性等を多面的かつ丁寧に判定することを目的とするものであり、これが趣旨通り実施されることで大学入学者選抜の改善に大きく寄与すると期待される。すなわち、アドミッション・オフィス入試に限らず、今後の入学者選抜においては、受験生の能力・適性等を多面的に判定し、求める学生を見いだすことが重要であり、アドミッション・オフィス入試の推進は、丁寧な選抜を入学者選抜全体について推進することにつながるものと考えられる。
 しかし、アドミッション・オフィス入試には、出願資格、選抜基準が明確でなく、どのような学生を求めているのか、推薦入学とどこが異なるのかはっきりしない、あるいは学生の青田買いにつながることが懸念されるといった問題点も指摘され始めている。
 アドミッション・オフィス入試のような新しい形の選抜方法は、大学の創意工夫により様々な試みがなされることが望ましく、その取組が緒に就いたばかりの段階で、厳密な定義を与え、各大学の具体的な方法を拘束するような基準を設けることは望ましくない。しかし、一方でアドミッション・オフィス入試に対してマイナスのイメージが定着してしまうことは、各大学の多様化・個性化につながるせっかくの新たな試みの芽を摘むことにもなりかねないという問題がある。アドミッション・オフィス入試が適正な形で実施され、大学入学者選抜の重要な方法として社会に受け入れられ、定着するようにするためには、最近の各大学における取組の拡大を踏まえつつ、アドミッション・オフィス入試の目的や特色、あるべき方向について、基本的な考え方を示すことが必要である。

(2)大学入学者選抜におけるアドミッション・オフィス入試の位置付け

 これまでに実施されているアドミッション・オフィス入試を見ると、推薦入学と異なって、推薦者を必要とせず、一定の条件を満たす限りだれでも自らの意思で出願・受験できるものであり、また、受験生の能力・適性等を大学自らが多面的に判定しようとするものであることから、公募型入試の一つと考えられる。このことから、アドミッション・オフィス入試の入学者選抜における位置付けとしては、一般選抜に位置すると考えることが適当である。
 アドミッション・オフィス入試を実施している大学の中には高等学校長や教員等の評価書等を出願書類の一つとして求めるところもあるが、これは選抜に当たって大学が用いる多くの資料の一つという位置付けであり、推薦入学における高等学校長の推薦とは位置付けを異にするものである。
 アドミッション・オフィス入試のほかにも、各大学は、自己推薦入試、コミュニケーション入試、自己アピール入試等の様々な名称の入試を実施している。これらの選抜方法は、各大学が新たな試みであることを訴え掛けるために様々な名称を考案している面もあるが、その内容を見ると、その多くは(1)で述べたアドミッション・オフィス入試の特徴を備えていると考えられる。

(3)アドミッション・オフィス入試に求められるもの

 アドミッション・オフィス入試が社会に受け入れられ、大学と学生とのより良い相互選択を目指すものとして定着していくためには、その取組が緒に就いたばかりの現段階では、次のような内容を持つことが適当と考えられる。また、各大学や大学入試センターにおいて、アドミッション・オフィス入試の望ましい在り方や受験生の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に判定する方法論について調査研究を進めていく必要がある。

(1)自らの意思で出願できる、公募型の入学者選抜であること

 公募型としつつ、例えば出願に高等学校長の推薦を必須の条件とするようなものについては、アドミッション・オフィス入試というよりは推薦入学の一形態と考えることが適当である。
 現在、アドミッション・オフィス入試については、推薦入学とは異なるものとして、募集人員の目安となる割合等が示されていないが、これはアドミッション・オフィス入試が公募型であって一定の条件を満たす限りだれでも出願することができるものであり、高等学校長又はその他の者の推薦を必須の条件とし、その推薦を基礎として選抜が行われるものについては、推薦入学と考え、募集人員の目安となる割合等を適用していくことが適当である。
 推薦ではなく、高等学校長等の第三者の評価書等を補足的な資料として必要とするものもあり得るが、その際には第三者の範囲は広い方が望ましい。

(2)求める学生像や、受験生に求める能力・適性等を明確にし、それに応じた選抜方法を工夫・開発すること

 アドミッション・オフィス入試は、大学と学生のより良い相互選択を目指すものであり、学生の募集に当たっては、大学が、いかなる学生を求めるのか、どのような能力、適性、意欲、目的意識等を求めるのかを明確に提示し、その上で、求める学生を見いだすのに適した選抜方法を工夫・開発する必要がある。
 その際、具体的な選抜方法や評価尺度は各大学の主体的判断の下に行われるべきものであり、各大学の創意により多様な方法が工夫されることが望ましい。現実に行われているアドミッション・オフィス入試を見ると、詳細な書面審査と時間を掛けた丁寧な面接の組合せが多いが、模擬授業やグループディスカッションを取り入れたり、1回限りではなく何度も面接等を実施するなど長い期間を掛けて学生を評価している大学もあり、今後、各大学の創意工夫に基づいて多様な試みが行われることが望ましい。
 例えば、受験生の多様な能力・適性等や高等学校における学習成果を多面的、総合的に評価する観点から、各大学の創意工夫に基づき、高等学校における就業体験やボランティア経験、高校時代に取得した職業資格、「総合的な学習の時間」や「課題研究」等の学習成果を評価していくことも考えられる。
 ただし、アドミッション・オフィス入試における選抜方法としては、それぞれの大学の入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に適合したものであることが重要である。
 例えば、国際社会で活躍する人材を育成することを教育目標として掲げる大学において志願者に対し高度な英語のコミュニケーション能力等を求める場合には、TOEFL等における一定の水準を出願要件とすることや、リスニング、ライティングテストを行うようなことも考えられる。
 そして、このように各大学が選抜方法の工夫・開発に取り組むことは、各大学の求める学生像の一層の明確化にもつながるものであるとも考えられる。
 更に、求める学生像の明確化に加えて、そのような学生を見いだした上で入学後の教育においてどのような学生に育成するのかという教育方針についても明らかにしていくことが必要である。
 また、高校生のみならず高等学校において進路指導を担当している教員等に対する説明・情報発信等により、大学が求める学生像、選抜方法、教育方針等に対する高等学校側の理解を深めることも必要である。

(3)受験生の能力、適性、意欲、関心等を多面的、総合的に評価すること

 アドミッション・オフィス入試は、受験時の学力に過度に依存せず、将来の可能性も見通した上で、能力・適性等を多面的、総合的に評価することを目的とするものであり、ペーパーテストによる学力検査に過度に重点を置いた選抜基準を設けることは基本的に適当ではない。一方、どのような選抜方法であれ、大学入試が大学教育に必要な能力等の判定を目的として実施されていることにかんがみれば、基礎学力の判定を全く抜きにして選抜を行うことも適当ではない。アドミッション・オフィス入試は、第三者の推薦や学力保証を基礎とするものではなく、大学が提供する教育機会を生かすことが可能な能力等があるかどうかを自らの目によって受験生を評価するものであり、受験生に一定の基礎学力があることを要求し、調査書を活用するほか、自ら試験を実施し必要な学力を判定することも妨げられるべきではない。
 例えば、アドミッション・オフィス入試において、高等学校での基礎的な学習の達成の程度を判定し、大学に信頼性の高い情報を提供することを目的とする大学入試センター試験の成績を資料の一部として活用することも考えられる。

(4)高校生との相互のコミュニケーションを重視するものであること

 アドミッション・オフィス入試において求める学生を見いだすためには、大学から高校生に働き掛けるという側面が今後重要になる。すなわち、高校生の進路選択の段階から大学が関与し、高校生の能力・適性等を把握しながら、当該大学の教育内容、教育理念、どのような付加価値を与えることができるかなどを率直に伝えることにより、高校生の進路選択や学習を支援するという機能が求められる。例えば、大学の紹介にとどまらず、高校生の疑問に答え、当該大学の試験を受け、進学するためにはいかなる学習が必要であるかについてアドバイスを与えることなどが求められる。そのようなやりとりの中で、大学と高校生とのより良い相互選択を図っていくことが必要である。
 更に、入学決定後も必要に応じて、入学前に行っておくべき学習準備等についてのアドバイスを行ったり具体的な課題を課したりするなど、合格者に対する丁寧なケアを行うことが求められる。また、このような大学入学前の学習準備等の取組を行う場合には、高等学校と密接に連携協力しながら、高等学校での学習と関連付けつつ行うことも求められる。
 なお、適切な相互選択を行おうとする場合、入学者選抜のプロセスは長期化することが考えられる。すなわち、アドミッション・オフィス入試が、その理念通り、受験時の学力に過度に依存せず、入学後の能力の伸長までを見据えつつ、受験生の能力・適性等を総合的に判定し、大学と学生の双方のより良い相互選択を目指す形で行われるとすれば、選抜の期間も長くならざるを得ないという事情がある。また、アドミッション・オフィス入試が、前述のような受験生の進路選択への支援という機能を持つものであるとすれば、選抜とその前段階との区別を明確にすることも難しくなってくる。このようなことを踏まえれば、アドミッション・オフィス入試とは、大学と受験生の相互選択に至る一連の過程としてとらえることが適当である。
 このようなことを踏まえれば、アドミッション・オフィス入試の実施時期について一定の目安を設けることは極めて困難であると考えるが、これまで、学力検査は高等学校で学んだ内容を試す試験であり、早期の実施は受験準備の早期化等を招くおそれがあることから、高等学校教育に極力影響が及ばないよう、原則として2月以降に実施してきた経緯があることなどから、

  • アドミッション・オフィス入試において教科・科目中心の学力検査を行う場合には、現在の一般選抜の学力検査と同様に、原則2月以降に行う
  • 複数回の面接の実施等に当たっては、その時期、内容等に関し、高校生に過度な負担とならないよう配慮する

 など、その実施時期等に関し、高等学校教育への影響に配慮することは必要である。
 更に、アドミッション・オフィス入試については、早期に進学が決まることにより落ち着いて学習や社会的経験を積むことが可能となるという利点を生かすことが求められる。前述したように、合格決定後も大学において、高等学校の理解と協力を得ながら、高等学校での学習と関連付けつつ入学準備学習を行わせる等により、学習に対する動機を維持し、この期間を有意義なものとするよう支援していくことも必要である。
 また、上記のような入学準備学習の一環として、入学者選抜の資料としてではなく、入学準備あるいは大学入学後の教育の参考資料として活用するという観点から、各大学の判断によりアドミッション・オフィス入試等の合格者に大学入試センター試験を受験させることも考えられる。

(5)専門的なスタッフの充実等十分な体制を整備すべきこと

(略)

おわりに

(略)

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

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