中央教育審議会 初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)抜粋

平成11年12月16日

第2節 入学者選抜の現状と改善の方向

(1)入学者選抜をめぐる状況(略)

(2)入学者選抜の改善方策を検討するに当たって(略)

(3)入学者選抜の改善で目指すべき方向

(冒頭 略)

 入学者選抜の改善で目指すべきは、誰もが志望する大学に入れるようにすることではなく、大学と学生とのより良い相互選択を図り、学生の大学教育への円滑な移行を実現することにある。これは、大学側から見た場合、選抜方法の改善により、当該大学(学部・学科)の教育理念、目標に適した資質を持つ学生を見いだすかということである。また、受験生から見た場合は、他者との相対的な優劣を競い、少しでも「よい大学」へ進学することが目的ではなく、明確な目的意識の下に、大学入学後の教育につながるような学習を行い、自己の能力、適性、意欲、関心に最も適した教育を受けられる条件を備えた大学(学部・学科)を選択することである。
 高等教育の改革が進み、入学後の丁寧な履修指導や厳格な成績評価の実施、企業による大学教育の付加価値の適正な評価など、卒業生の質を確保する観点からの教育機能の充実とこれに対応する企業、社会の評価が行われるようになれば、受験生の大学選択もこれに基づいて望ましい形で行われるようになると考えられる。(以下 略)

第3節 これからの選抜の在り方

(1)大学と学生とのより良い相互選択を目指して

 高等学校及び大学の教育改革が進み、高等学校と大学の役割が多様化する中で、入学者選抜の基本理念は大きく転換しつつある。すなわち、学生の大学教育への円滑な移行の実現を目指すためには、これからの入学者選抜の在り方は、大学と学生とのより良い相互選択を図ることが重要になる。つまり、大学側から見ると、「学生を絞り込む」のではなく、「求める学生を見いだす」ことが求められ、学生の側から見ると、「大学から選ばれる」のではなく、「大学を主体的に選択する」ことが求められるのである。
 このため、各大学(学部・学科)は、その教育理念、教育目的、教育課程の特色等に応じた多様で確固とした、特色ある入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の確立を目指すべきであり、入学者選抜方法もこの受入方針に沿って設計すべきである。受験生は、このような大学(学部・学科)の教育の理念や特色に沿った入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に応じて、主体的、個性的選択を行うことが必要である。
 同時に、今後は、大学入学者選抜が学習の動機付けとして機能することに一定の限界があることも認識すべきであり、高等学校側でもそれに応じた学習指導上の工夫が必要である。
 受験生側も大学名でなく、自分の能力、適性や個性を伸ばす教育が行われているという基準で大学を選択すべきである。「入れる大学」ではなく、「入りたい大学」、「よい大学」よりも「自分に合った大学」「やりたいことのできる大学」を選択する方向に意識と行動を転換すべきであり、それができる環境が整いつつある。
 平成11年9月の大学設置基準等の改正により、それまでは努力義務とされていた大学の自己点検・評価が義務化されるとともに、この点検・評価の結果を公表することとされた。また、大学の教育研究活動等の状況について、国立大学ではその公表が義務付けられ、公私立大学でも積極的に提供するものとされている。さらに、第三者評価機関の設立に向けての準備も進められている。今後、自己点検・評価の一層の充実と情報公開、第三者評価機関による大学の評価が定着すれば、学部や学科の教育の具体的な在り方が、受験生、親、進路指導担当者をはじめとする高等学校教員、企業や社会にも広く知られるようになり、現在のように偏差値という単一の基準により「入れる大学」を選択するという意識も必ず変化するものと考えられる。
 高等学校関係者の中には、「大学入試が変わらなければ高校教育は変われない」という意見もあるが、大学全体としても、個々の大学においても鋭意改革が進められている状況を十分理解して対応することが望まれる。
 大学においても、より積極的に幅広く情報を発信することにより、高校生が「入りたい大学」、「自分に合った大学」についての考えを明確に持てるようにすることが必要である。
 高等学校での教育、大学入学者選抜、大学入学後の教育の在り方を一貫したものとしてとらえる中で、入学者選抜の在り方も各大学の役割、教育理念、目標の多様化に応じて多様なものとなるべきである。
 そして、各大学の入学者選抜において、それぞれの教育理念等にふさわしい資質を持った学生を適切に見いだすことができるよう、各大学の多様で自由な入学者選抜の設計を可能にすることが必要である。
 要は、各大学(学部、学科)がどのような理念に基づき、どのような学生であればその大学の目指す教育を実施できるかを明確に示して、選抜方法を責任を持って決めていくということであり、選抜基準自体は、主体的に決めればよい。ただし、その際、選抜基準に透明性を持たせることは不可欠であり、それが受験者に明確に示されていなければならない。
 また、実際に行っている選抜方法がそれぞれの大学等の教育理念等にふさわしい資質を持った学生を見いだす上で適切であるかどうかを入学後の教育内容と照らし合わせて検証し、その上で、入学者選抜の一層の改善に努めることや、学生の入学を認めた後の教育に責任を持つことが必要である。
 このようなことを勘案すれば、今後の入学者選抜の改善に当たっては、以下のようなことに留意すべきである。

(2)入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の明示

 多様な後期中等教育機関と多様な大学とを接続していくに当たって大学入学者選抜は、それぞれの大学教育に必要なものとしてどのような能力を受験生に求めるのか、大学教育に必要な能力をどのように評価するのかをこれまで以上に明確に対外的に示していくことが望まれる。
 このため、大学は、受験生に求める能力、適性等についての考え方をまとめた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確に持ち、これを対外的に明示するとともに、実際の選抜方法や出題内容等に反映させることが重要である。例えば、当該大学(学部・学科)の教育理念や教育内容をよく理解した上で、より高いレベルでの自己実現を図ろうとする情熱と明確な志望を持った学生や、十分な基礎学力を有し、かつ問題探求心・学習意欲・人間性に優れ、将来研究者となることに熱意と適性を有する学生などといったように、先ずは各大学が求める学生像を明確にすることが必要である。また、例えば、国際的に活躍できる人材を養成するという観点から高度な外国語能力を求める、豊かな教養を持ち社会に貢献する人材を養成するという観点から文化活動やボランティア活動の経験を求めるといったように、受験生に求める能力、適性等を明確に示した上で、リスニングテストを実施したり、多様な活動に関する自己推薦書を選抜資料として活用するなど、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を実際の入学者選抜の方法等に反映させることが必要である。
 また、各大学の教育内容や教育理念は学部・学科ごとに異なり、受験生に求める能力、適性等も学部・学科ごとに設定されるべきものであることから、学部・学科等の募集単位ごとに入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を示した上で、多様な入試を行うことが必要である。この際、一つの学部・学科の中で異なる選抜方法や評価尺度を取り入れ、多様な観点から求める学生を見いだすことも考えられる。
 学生の側も、自らの将来の職業選択等を見据えつつ、各大学が提示する入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を参考とし、自らの能力・適性等に適合した大学、学部、学科等を選択していくことが求めらる。
 これまでの偏差値に基づく進路選択や選抜機能に偏った入学者選抜ではなく、学生の求めるものと大学が求めるものとの適切なマッチングが必要である。
 そして、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)の明示を前提として、各大学(学部・学科)において、多様な入試を更に推進すべきである。
 その場合、大学によっては、入試科目の増加など受験生の負担の増加となるところや大幅に主観的な要素を取り入れた入試を行うところも出てくると考えられるが、こうしたことも各大学(学部・学科)の責任において行う多様な入試の一形態と考えられる。
 ただし、どのような入学者選抜を行うにせよ、大学側は、それに対する説明責任を十分に果たしていかなければならない。

(3)「公平」の概念の多元化(略)

(4)受験教科・科目数の考え方

 また、「学校生活における[ゆとり]を確保するためには、学力試験における受験教科・科目数をできるだけ少なくしていくべきである」(中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」第2次答申)との方針については、当然必要な学習負担の軽減までを求めるものではなく、受験教科・科目数の削減を一律に求めているものではないことを再確認する必要がある。
 さらに、この方針は、高等学校段階における基礎的な学力を身に付けていることを前提とするものであり、履修科目の指定や高等学校の評価(調査書等)の充実・活用等、その削減に代わる措置が必要なことを含め、改めてその趣旨を徹底する必要がある。
 入試でどのような科目を課すか、何科目を課すかは、基本的には、各大学がそれぞれの教育理念等に照らして自主的に設定すべきものであり、各大学の教育に必要なものを課すことは当然であって、受験生確保の観点から設定することは適当ではない。また、大学入学後の教育に支障が生ずることがあれば、その教育に必要なものは受験教科・科目として課したり、大学入学後の教育をしっかり行うための体制を整えたりすることが必要である。
 従来、センター試験利用大学の個別試験の受験教科・科目数の削減を要請してきたが、上記のような観点や個別試験の受験教科・科目数は既に相当程度減少している実態も踏まえて、削減すべきとの方針はとらないこととし、(2)で述べた入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に基づき受験教科・科目を増やす大学があってもよいし、減らす大学があってもよいと考えるべきである。

第4節 接続を重視した具体的な改善方策

(1)入学者選抜そのものの具体的な改善方策

  1. 各大学が多様な進学希望者の能力・適性等を適切に評価するための選抜方法の開発
     各大学が求める学生を適切に見いだすためには、多様な履修歴や経歴に応じた選抜方法の工夫が必要であり、また、受験生の能力・適性のみならず、学ぼうとする意欲や専攻分野への関心等も適切に評価することが必要である。このような観点から、近年各大学における導入が進み、受験生を多面的かつ丁寧に見るためのきめ細かな選抜方法とされているアドミッション・オフィス入試について、その在り方(目的、特色等)や社会において発展・定着させるための条件等について検討する必要がある。
     また、入学者選抜に当たって、学力だけでなく、学んだことを社会の進歩に生かそうとする公共心、高い倫理観に基づく人間性、職業体験や職業歴、環境・福祉・青少年活動・スポーツ・国際協力など多様な分野でのボランティア体験など幅広い要素を大学(学部・学科)の教育目標、教育内容等に応じて適切に評価することも必要である。例えば、医療・看護人材を養成する学部・学科であれば患者の立場に配慮できるなどの幅広い人間性が求められる。こうした資質をボランティア体験の有無や面接、小論文、グループ討議などの方法を通じて評価し、合否の判定の要素に加えることも考えられる。
     さらに、各大学が求める学生を見いだすために多様な選抜を行うためには、教科・科目の知識のみならず、高等学校での教科・科目の学習を通じて習得される論理的思考力や表現力、応用力等の大学での学習を支える能力・技能を評価する方法を確立することが必要である。このため、例えば、大学、高等学校側の協力を得て、大学入試センターにおいて教科・科目横断型の総合的な問題等についての研究を行うなど、評価尺度の多元化に対応した評価方法の研究を進める必要がある。
  2. 丁寧な入学者選抜を行うための体制の整備等(略)
  3. 適切な出題
     大学入学者選抜においては、学習指導要領のねらいに沿った適切な出題が必要であり、そのねらいを達成するためにも、高等学校関係者の参画や高等学校関係者による評価が必要である。
     なお、大学が高度な教育を行う前提として高度な思考力、表現力、応用力等を求める場合には、求める能力、適性についての明確な基準を示した上で、学習指導要領に準拠しながら、そのような能力を見ることもあり得る。
     また、過去に出題された問題や類似した問題を出題することは、それを目にしたことがある受験生が有利になるという公平性の観点からこれまでは否定的に考えられてきた。しかし、このような制約が入試問題作成の幅を狭め、かえって枝葉末節にこだわった問題や難問・奇問の出題につながっている面も否定できない。良質な問題を出題するという観点から、過去に出題された問題等を出題することは、必ずしも否定されるべきではない。各大学の試験問題においては、適切な問題であれば、再利用できるようにすることも必要であり、入試の試験問題は初出問題でなければ不公平になるという社会の根強い意識を変えていくことが必要である。
  4. 高等学校での学習成果を多面的に評価する入学者選抜
     多様な能力・適性、目的意識や意欲・関心を有する受験生の中から大学が求める学生を適切に見いだす観点及び初等中等教育の改善の方向を尊重し一層助長するような入学者選抜の在り方を目指す観点から、高等学校における平素の幅広い基礎的な学習状況、様々な学習の成果や活動の状況などを総合的・多面的に評価するためには、高等学校における評価の充実を前提として、調査書等、高等学校の評価を一層活用していくことや、詳細な推薦書、様々な学習活動、文化・スポーツ活動、就業経験、活動経験の記録や成果物などの多様な評価資料を高等学校等から提出してもらい、これら資料の評価を他の選抜方法と適切に組み合わせて行うことも望まれる。
  5. 大学入試センター試験の改善(略)

(2)入学者選抜の改善を促すための具体的方策

 以上のような大学入学者選抜の改善を促す取組として以下のようなことを推進すべきである。

  1. 入学者選抜についての評価の実施
     各大学の選抜方法等の評価については、各大学の教育の目標・理念等に照らしてふさわしい資質を持つ学生を見いだすものとなり得ているかという観点から評価を行うことが重要である。各大学の選抜方法等についての自己点検・評価を実施し、その結果の公表を推進することにより、入学者選抜方法の一層の改善を図っていくことが必要である。また、その際には、高等学校関係者等を含めた学外者による検証を推進することも望まれる。
     なお、試験問題については、全国の大学・学部等の多量の試験問題を単一の機関が評価を行うことは極めて困難であり、また、その評価は各大学の個々の教育内容に照らして行うことが必要であることから、各大学による自己点検・評価等の自主的な取組を基本とすべきである。
  2. 入学者選抜についての情報の公開・提供
     大学は公共的な機関であり、その社会的責務を果たす上で、入学者選抜の在り方についての基本的な考え方、理念等を自主的に公表していく必要がある。
     なお、試験成績などの個人への開示も検討する必要があり、大学入試センター試験の成績の個人への開示については、関係者の間で協議しつつ具体的な進め方について検討していくことが望まれる。
  3. 初等中等教育における進路指導の充実(略)
  4. 高等教育システムの柔構造化(略)
  5. 意識の変革(略)

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科学技術・学術政策局基盤政策課

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