1.社会環境の変化と求められる人材像

 あらゆる協力関係においては、目標すなわち成功イメージの共有が最も重要なスタートとなる。特に人材育成においては、産学各々の取組だけでは人材育成の効果が十分には期待できない。両者が機能的に連携することで効果的な人材育成を実現することが重要であり、その実現によって初めて産学それぞれの人材育成における社会的な役割と責任が果たせるということについて、認識の共有を図ることが必要である。その上で、産学連携で人材育成・活躍の仕組み作りを目指す産学人材育成パートナーシップにおいては、育てるべき人材像が共有する目標に当たると言える。
 社会で求められる人材像や能力は、その時代環境により異なる。他方で、長期に渡り変化しない基本的要素も多分に存在する。
 現在のように、変化の激しい時期にあっては、求められる能力を定義していくことは容易ではない。多くの若者がこれから何十年の期間、社会を支える存在であり続けることを考えると、「現在」よりも「将来」の社会環境を見渡し、産学の知見を結集して人材像を導き出すことが必要である。そして、重要なことは、産学のコミュニケーションを深め、相互の問題認識・課題等について共有するとともに、優れた人材育成のため共同して取り組むことができる関係を恒常的に築いておくことである。
 こうした認識の下、分科会においては、今後当該分野に進む若者が直面する産業環境を念頭に、分野ごとに求められる人材像が議論された。その結果、各分野の相違以上に、共通に指摘される要素が浮き彫りになったことが特徴的である。具体的に列挙すれば、例えば、次のとおりである。

  • 当該分野の専門知識の土台となる「各分野における基礎的な知識」の徹底的な理解。
  • 産業のグローバル化に伴い、多様な地域で、様々な人々と一緒に仕事をしていくための「グローバルな感覚(注1)」の素質。
  • 開発から商品・サービスまで、一連のバリューチェーンを俯瞰しプロジェクトを遂行していく「マネジメント力」
  • 学んだ知識を現場に適用し有効に活用していくための能力として、「課題発見・解決力」、「コミュニケーション能力」等、いわゆる「社会人基礎力(注2)」として括られる要素。

 あえて言えば、各分科会における人材像の違いは、これらの共通要素を表現する専門用語や、特に重点を置く要素の違いとも言える。
 なお、ここでの「求められる能力」は、大学卒業段階ですべて高度に獲得しておくべき能力ではない。これらは、企業での訓練も含めて継続的に高めていくものであり、教育段階では、これらを獲得していく「素質」を育成すると考えることもできる。産学による「求められる人材像」に関する議論はまだ始まったばかりであり、今後、更に議論を深め、「どの段階にどのような能力が必要か」という精緻化(注3)を進めることが重要である(注4)。それにより、教育機関、産業界それぞれの役割と協力の在り方をより明確にし、課題の抽出と具体的な取組をより効果的に進める継続的な基盤づくりを進めていくべきである。

(注1)「グローバルな感覚」には、単に言語能力や海外の知識にとどまらず、自国の文化や伝統の理解に基づく自己認識や、人類や環境など地球社会規模での調和・共存という視点に根ざした、あたたかい配慮といったことも含まれる。
(注2)社会人基礎力とは、職場や地域社会の中で仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力をいい、経済産業省では社会人基礎力を、「前に踏み出す力(主体性・働きかけ力・実行力)」、「考え抜く力(課題発見力・計画力・創造力)」、「チームで働く力(発信力・傾聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコントロール力)」として、12の要素からなる3つの能力として定義し、共通言語として発信している。
(注3)例えば、「大学卒業後までに必要な能力」、「修士卒に求められる能力」、「博士卒に求められる能力」、「企業でプロジェクトリーダーとして必要な能力」等、更には、「大学以前に身につけることが期待される能力」等
(注4)この点については、中央教育審議会において、分野横断的に我が国の学士課程教育が共通して目指す「学習成果」について「学士力」という考え方が提唱されている。

≪分科会における主な議論≫

情報処理
  • ITの本質を理解した上で製品・サービスを企画して実現する、デザイン力と現実適応力に優れていること
  • 優れた分析力・論理構築力に基づき課題の本質を捉え、効果的な解決方法を提案し実践できること
  • 世界の情勢を踏まえて日本の産業を俯瞰するとともに、技術者として求められる高い倫理性をもっていること
原子力
  • 原子力の基礎知識などの特定の専門分野に関する知識に加え、それらの知識を有効に活用する汎用的能力。
  • 立地地域の社会との橋渡しや国際的なビジネスに必要なコミュニケーション能力、特定の専門分野に軸足を持ちつつ原子力プラント全体を俯瞰できる能力、原子力に関する法律や倫理についての知識、マニュアルのない新しい技術領域に取り組むための応用力。
経営・管理
  • 例えば、トップ層に特に必要とされる能力については、「判断力」「統率力」など、ミドルレベルでは、「経営リテラシー(経営分析・戦略形成のツールと応用力)」「課題発見・解決能力」など、新卒段階では、「一般教養」「基礎的な企業・経済知識」「社会人基礎力」などが必要であるとの意見があった。
資源
  • 従来からの上流開発技術(鉱山、地質、探査、採鉱など)に加え、資源開発国の政治的・文化的側面などの「国際感覚」や、コスト管理などの「マネジメント力」などを備えた人材。
機械
  • 機械分野では、基盤技術におけるイノベーションを実現するため、機械分野における基礎的な知識を理解している人材、リーダーシップや発想力等のヒューマンスキルを備えている人材、品質やコスト等の制約条件の下でものを作り上げる能力を有する人材などが求められている。
材料
  • (業務職種別に求められる人材像を整理したところ)例えば、操業技術部門では、ユーザーからの要求厳格化や事業環境変化などに対して、責任工程の技術内容変革をリードできる人材(能力・経験等)が求められており、基礎学力(具体的には、物理・化学・数学・熱力学・流体力学・材料力学・組織学など)を基盤としながら、コミュニケーション能力および未知の局面に対応できる課題発見解決能力など
化学
  • 「専門分野の土台となる基礎学力がある」、「課題を自ら設定し、課題解決のために仮説を立てて実行できる」、「広い視野がある」こと。
  • 産側からは、「企業活動に知識と興味を持ち、ものづくりに対して意欲的である」、「自分の意見を持ち、それを伝えることができる」ことも求められている。
  • 特に博士人材については、「ゼロからの課題設定能力と解決能力」、「複数の専門能力」、「プレゼンテーション能力」、「協調性」、「リーダーシップ」等が期待されている。
電気・電子
  • 社会人としての基礎を備え、自分で課題を発見し考える力やストレス耐性を備えた人材。また、IT・エレクトロニクスへの興味を持ち、明確な目標と意欲のある人材。
  • 最先端の技術ばかり追い求めるのではなく、マーケットの潜在的ニーズとマッチさせることができるような、技術力とマーケティング能力を兼ね備えた人材、
  • 経営、ビジネスを単なるサプライチェーンの最適化に止まらず、グローバルに考えられる人材、
  • 意欲や好奇心に支えられ、差別化イノベーションを生み出せるような人材、
  • IT・エレクトロニクス産業だけでなく他の分野とも深いレベルでつなげていくことのできる人材、
  • 変化を的確にとらえ、素早い判断で、大胆な方針決定や転換できるリーダーシップを備えた人材

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