審議課題2 社会の多様な場で活躍する人材の養成方策について(意見集約版)

(検討のポイント)

○知識基盤社会が進展する中で、イノベーションを絶え間なく創出するため、創造性を発揮できる人材の養成や社会の多様な場での活躍への期待が高まっている一方で、若年者の「理工系離れ」や職業人としての基礎能力の不足が指摘されている。

○これらを踏まえ、理工系人材の質と量を確保し、社会的好循環を構築するための方策など、社会の多様な場で活躍する人材を養成するためのシステム改革について、社会全体を視野に入れて議論してはどうか。

2-1 企業人としての基礎力不足への対応など、産学をつなぐ人材養成方策

○産業界が求める人材とアカデミックが輩出する人材の間にある質的なミスマッチを解消する。

【社会との量的ミスマッチ】

<検討の視点>

  • 博士課程学生の育成人数(大学院の定員)、博士の教育について、産業界のニーズに合わせる必要はない。
  • 修士課程から博士課程への魅力が消失。
  • 量的なミスマッチの解消が必要。

<解決策への提言>

  • 量的なミスマッチには、社会が必要とするメッセージが不可欠。

<具体的方策>

  • 恒常的な博士課程修了者の産業界への就職機会の提供(OJTの積極的取り組み、大学による産業界との定期的なジョブカフェなどの開催、産業界の就職募集に対して大学での窓口の一本化など)

【産学連携】

<検討の視点>

  • 学生が、企業人のみならず、社会が期待する人材像についての理解を有することが必要。
  • 学生が理解を持てるような機会の提供について、多様な社会の要請を理解してもらう教育機会を十分に提供するだけでは限界がある。
  • 学生の自己啓発を促すことが重要であり、学生の関心と社会の要請が多様であること考えなければ、表面的な措置になってしまう。
  • 社会に出た後に、新たな領域に挑戦するための再教育・再学習の場が与えられることが少ない。大学・研究機関や産業界との連携によって、広い能力獲得とイノベーション創出のための再教育、再学習の場を設定することも必要。
  • イノベーションのリーダー個人の問題だけでなく、イノベーションのチームの問題を考えれば、チーム内の多様な人材にも目配りが必要。
  • なぜ修士修了者が産業界で好評なのかを分析するべき。
  • 大学と企業の連携については、日本企業だけではなく、海外の企業も視野に入れるべき。

<解決策への提言>

  • 学生に広く教育の機会を提供し、パッシブでない教育機会の提供を考える必要がある。
  • インターンシップのプレ教育として、何故そのインターンシップを受けるかについての得心が得られる段階が必要。
  • 産業界も入った多様な社会組織が大学教育の現場に入れば、効果は上がる。
  • 大学の4年生、修士課程、博士課程それぞれのレベルに最もふさわしいチャンスと場を提供する。
  • 金銭的な研究助成も含め、大学4年生、修士課程、博士課程とレベルがあがるに従い、手取り足取りの育成から自立的な研究環境の提供に移行する。
  • 1大学や1企業の研究者・技術者として囲い込むのでなく、社会のために働く人材である若者を育てることの大切さを、大学人・企業人共に認識し、最も適した場で、新たな領域への挑戦や学び直しなどができるような仕組みを作ることも有効。
  • MOT教育は修士レベルまでは、評価される。モノトーンでない教育プログラムの提供が望まれる。

<具体的方策>

  • 博士課程学生のインターンシップや社会人学生の受入れ、産学の共同研究など多様なチャネルを通じた産学の相互理解の機会拡大の地道な努力が必要。
  • 博士課程にあっては、問題を発掘できる能力と課題に直面した時の対応能力の寛容が図られることに尽きる。このため、インターンシップの提供が重要。
  • インターンシップ制度は、自己が固まってないものには有効であろうが、既に方針が明らかな者には、固定のコースを提供することが実効性が高い。
  • 現行のインターンシッププログラムの実効性が上がらない理由を明確にし、必要な手直しを加える。
  • 博士取得者が企業に入っていかに活躍しているかに関する事例集を作り、企業や学生に配布。同様に企業で働くエンジニアなどがどんな生き甲斐、人生観を持っているか、さらにどんな場面に遭遇し、その場面でどう行動するかの事例集(アニメなど)をドクターの学生に配布。そのようなテレビアニメが放映されれば刺激になる。
  • ドクターのキャリアパス多様化事業での取り組み事例を小冊子にまとめ学生、企業に配布。
  • 現実社会のニーズに駆動された技術開発やシステム開発、社会開発を解決するロールプレイゲームを事業に取り入れる。米国のビジネススクールでは古くから実施。同様な考え方としては、大学内にビジネススクールを設置し、希望者が受講できるようにする。もう一歩進めれば、大学がベンチャー企業などビジネス部門を持ち、そこで学生を教育する。
  • 大学が商工会などと定期的な交流会議を開催し双方の理解を進める。
  • 産官学で協力体制を作り、若者が学びなおしのできる時間的余裕と経済的支援を確保する。
  • 各大学院に、産業界との間で、積極的に連携講座、連携大学院を設置する方策を創設する。閉鎖的な大学院生の指導に、連携講座、連携大学院として産業界の研究者や研究チームを招へいすることで、大学院生の選択肢が拡大し、新しい研究テーマへの取り組みや新しい研究マネジメントを長期インターンシップとして経験しつつ、学位(修士号、博士号)取得に導ける。

【就職・雇用】

<検討の視点>

  • 企業が学生を採用する際も学歴や指導教員などによって選抜しているのではないか。
  • 大学では個人の能力を伸ばす教育、企業としては個人の能力を見きわめるような目を育てることが必要。
  • 大学は各人の資質を育てていくことが重要な役割であり、企業はその資質を見抜いて採用しているのかが問題。
  • 産業界が、博士課程学生をシステムとして受け入れる体制になっていない。
  • 青田刈りのメカニズムのルーツについて、日本では履歴に穴をあけてはいけないという観念が非常に強いということが大きな問題。卒業時点で次の行き先が決まってなければ、それは人間として非常にあるまじきことであるというようなスタンダードが、いろいろなことにすべて弊害をもたらしているのではないか。
  • 学部卒業から連続的に修士に入学するような学生の囲い込みがみられる。
  • グローバル人材の必要性を必ずしも企業側は正しく理解していないのではないか。

<解決策への提言>

  • 大学教員の意識改革や大学教育の改革だけでなく、企業の意識改革も必要。
  • きちんとした能力を持った人を大学院に受け入れ、それを評価する企業は学歴よりも能力を見るべき。
  • 企業が学生を採用する際に、何を大学で身につけてきたかを見るようにすることが必要。
  • 博士課程学生も受け入れる体制にするよう、産業界へ要請する。
  • 就職活動を多様化させる。
  • 就職先も世界各国を想定すべき。

<具体的方策>

  • 学生の青田刈りの排除することは、カリキュラムの定着化に不可避。
  • 企業が採用面接時に用いる資料については、学生個人情報の隠蔽を徹底する。

【高等教育行政】

<検討の視点>

  • 世界標準に合わせた教育が必要。
  • 高等教育予算が毎年1%減という状況は問題。

<解決策への提言>

  • 競争的資金を増やす施策も必要。
  • 高等局で大学教育振興法(仮称)をつくって計画的に大学を支援。
  • 学生の品質保証をした上で、1%減をやめる。

<具体的方策>

【女性支援】

<検討の視点>

  • 産業界の研究者・技術者に女性人材が少ないことに鑑み、女性人材を増やすための取り組みが必要。

<解決策への提言>

  • 女子学生が、研究者・技術者としてのキャリアパスイメージを持てるよう、大学や企業が連携してロールモデルに学ぶ機会を作ることも大切。女性が活躍できる企業の事例を示すことも有益。

<具体的方策>

  • 学協会と企業との協力で、ロールモデルから話を聞き議論できる機会を、定期的につくる。
  • 女性が活躍している企業や、活躍している女性たちの事例を紹介するパンフレット等を作って、配布する。

【その他】

<検討の視点>

  • 研究者の研究成果の公表や説明責任を果たすためのサイエンスコミュニケーション促進の取組からの示唆を踏まえるべき。
  • 育成責任を大学のみ、あるいは企業のみに負わせるのではなく、みんなで育てていくべき。そのためには、全く新しい教育手法、あるいは教育機会の提供が必要。
  • 講義形式で外部講師に教育を依頼する方法では解決できず、これまでの大学教育にはない、新たな方法、内容が必要。
  • 科学技術人材育成の中で、必要とされる知識や技術を、すべてを個人の問題に帰するのではなく、プロジェクトチームの中など、複数の人で力を発揮できるチーム力、あるいはそういった環境を作り出す力などがこれからの社会では必要。
  • 問題解決能力だけではなく、課題を発見していく課題探索の力も必要。これは持続可能な社会の開発に向けて一側面からの解決策としての技術を開発するという問題解決能力ではなく、異なる立場の人々、社会を考慮し、いくつかの技術開発の選択肢におけるメリット、デメリットをあげ、そこにあるジレンマや矛盾をあぶりだし、解決の道筋を見つけていくような力が必要とされる。

<解決策への提言>

  • わかりやすい合い言葉を作り、それに向かって意識改革やキャリア教育に様々な立場の人々に参加してもらう。

<具体的方策>

  • 大学における教育だけでなく、短期集中型(1、2週間)の合宿形式で、異分野、異文化(国際)の大学院生を集め、チームで課題に取り組むような教育的なセミナーを実施する。

2-2 教員の意識改革のための取組

○時代の要請に応じて社会が求める人材を養成するために、学生やポストドクターの人材養成に携わる教員や研究者の意識改革を促進する。

【教員の意識改革】

<検討の視点>

  • 現状の研究成果至上主義では意識改革は困難。学長や事務方の意識改革が問題。
  • 人事評価で教員の採用・昇任のときにはどうしても研究成果というのが第一義的な指標になっている。教育をきちんと評価する授業評価、教員評価が必要。
  • 論文数が学位授与基準となっている。指導教官が査読委員へ責任転嫁するかたちとなっているのではないか。
  • 教員、研究者の意識改革を図る取組という正攻法を考えることも大事だが、意識改革が困難なら、キャリアパス多様化事業の中で出てきたポストドクターの職務専念義務の免除のしくみなどを制度化すべきではないか。
  • 指導側の問題として、現状では、社会の多様な場で活躍する人材の養成へのインセンティブが働かない。
  • インセンティブが働かないのは、博士課程学生やポストドクターは戦力になるので研究室に必要であり、使いやすいから。
  • これまで自ら取り組んでいない教員に働きかけるにはインセンティブが必要。
  • 教員組織の意識改革も重要であろうが、多様な能力を有する人材の活用が効果的。
  • インセンティブのおおもとにあるのは、日本の大学院の研究の質が高いこと。
  • 学問に対する教員の柔軟性が必要。どのように多様性を認めていくか。
  • 基本的には問題を発見して解決していく能力などが、大学院を組織している教員・研究者の側にどれだけあるか。

<解決策への提言>

  • 意識改革を待つのではなく、教員に対して、企業を知ってもらう機会を与えなくてはいけない。
  • 任期付きポストの雇用契約に、キャリア開発研修や就職活動に関する職務専念義務免除を一定期間設けることを義務化し、中間評価、最終評価の観点に加える。
  • 大学院が、現実社会で解きたい問題を抱えている人と一緒にその問題を科学的に解決してゆくことによって、科学そのものをより協力にし、広く研究者層の裾野を広げてゆけるのではないか。

<具体的方策>

  • 教員が大学の外に積極的に出て行くよう、給料を一定期間払わない等の制度を取り入れる(サマースクールや他の先生の代理授業によって給料はカバーできる仕組みにする)。
  • 大学でのメンター制度を創設する。
  • 学習を含め協調的な知的創造過程そのものについての基礎的な研究を推進する。

2-3 理工系人材のキャリアパスの充実 ~理工系キャリアパスを魅力あるものにするために~

○大学・大学院の供給とアカデミックの需要、研究所の需要、産業界の需要との間の量的なミスマッチを解消する。

○博士人材が求められる理工系の各分野に、優秀な人材が博士課程に進学することを促進するため、博士課程に進学するインセンティブを高める。

【社会との質的ミスマッチ】

<検討の視点>

  • 大学院においては、特に産業界等に出る場合には、どうしても1つのディシプリンだけでは難しい。
  • 産業界はプロジェクトチームをリードしたり、コーディネートしたりする能力を求めている。中心の学術的能力+人をまとめる力、奇抜なアイディアなどが欲しい。ドクターというタイトルを持っているから必要な人材ということにはならない。
  • 社会の要請する人材像の共有化が図られているか。多様化人材に対する社会の要請は理解し難いのではないか。
  • 社会と産業界で活躍できる人材にとって、どのような能力を身につけることが必要であるかを、産学官の協力の下に考えていくべき。
  • 博士課程院生・ポスドクには、潜在的な能力、意欲、志向性などの観点からみて、複数のグループが存在するのではないか。博士課程、ポスドクの急速な拡大によって、本来、博士課程進学とはミスマッチな学生たちがかなりの数、含まれているのではないか。複数のグループがあるのなら、施策はそれぞれに対して行われる必要がある。
  • 「覇気のない」院生の数はどれくらいなのか。拡張された博士課程の学生定員を少しでも充足せざるをえない事情はないか。

<解決策への提言>

  • 大学院においては、プログラムの中に、複数のディシプリンが絡まないとうまくいかないようなテーマ、PBL的な発想のプログラムを導入すべき。
  • 民間、学校、研究機関、それから国の支援を受けて、仕組み化するために、学と民との接点の場を増やしていくことが必要。国の支援を受けながら、複線型を仕組み化する。
  • 専門教育における多様性な教育の充実が必要ではないか。
  • 全人教育の観点から、教養教育の重要性は理解できるが、時代の要請に応える人材養成の観点からは、専門教育の多様性が必要。
  • 産業界を含め、多様な社会で活躍をした人材を教育の現場に受け入れる方策は効果が高い。
  • 産学官が定期的な会合を持つなどして、グローバルな科学技術の将来に向けた設計図を作ることが大切。

<具体的方策>

  • 学生側に安心感を与えることを考えると、当該大学卒業生で、社会的に活躍している人材、当然、高年齢と考えるが、非常勤の特任教員としての貢献が期待される。
  • 社会と産業界で活躍できる人材にとって、どのような能力を身につけることが必要であるかについては、日本学術会議や学協会などに助力を求めることも有効。

【大学のカリキュラム】

<検討の視点>

  • 社会と産業界で活躍する人材養成のためのカリキュラムや教育指導体制などが不十分。
  • これまでは大学が本来もつ教育研究機能にパッチワーク的に別途付加するような施策で済ませていないか。カリキュラムや教員体制など、恒常的な教育研究機能そのものを強化することが重要。
  • 大学の中でも、学生の資質に応じた教育ができる体制が重要。
  • 個人の素質、資質、それから個性、これを尊重する教育というのが第一にあるべきで、大学はそれぞれの大学ごとに特色を持つということも大事。
  • 国際的な大学のランキングが低い。
  • 博士課程の在り方、修士課程と博士課程の違い、基礎、専門、リベラルアーツ、分野横断などの重要性を理解する。
  • 修士課程や博士課程の卒業者の学力なり能力というのが日本の国際競争力の中心になっていく。
  • 大学院のカリキュラムの質がある程度保証されれば、企業にとってもプラスだし、その後のキャリアパスを考える場合にも有益。
  • 学習指導要領のようなものを大学や大学院に当てはまることはかなり難しい。いろいろなことを標準化するということがイノベーション創出のためによいのかどうかという問題もある。
  • 学部においてきちんとリベラルアーツをやっておく必要がある。いろいろな分野について知ることで、そこがのり代になって、いろいろな分野の融合とか、そういった新しい分野の創出といったことにつながり得るのではないか。
  • 現在の教育は専門を前倒しにしてしまったということが非常に弊害として出てきており、企業に行く人にとっても、どこが自分が生かせるところなのかというのり代がない。そういった教育を提供していないということが、理工の博士に行かないというようなことにつながっている可能性もある。
  • 研究者として、後に企業へ就職するにしても大学で研究をするにしても、きちんとした学術の基盤と応用性を身につけられるようにすることは必要。
  • 専門性については問題ないが、知識の幅広さにおいて日本人は劣っている。

<解決策への提言>

  • 自らの専門分野ではなく関連分野やその分野の人々への関心を持つ人材が重要。
  • 大学の教員は専門分野を深めることに軸足を置きすぎる。しかし、1人の人に両方の役割を求めるのは難しい。このため、役割分担が必要ではないか。
  • 自分の枠を越えて他分野の人材と交流するマインドをもつ人材を養成する仕組みづくりが必要。
  • 学生が自分の希望するような授業、カリキュラムを選択できる体制にする。
  • 学生の資質に応じた教育ができる教員体制を組む。
  • 技術者コースと研究者コースと2つに分けることについて、博士課程で2つのコースに分かれるということであれば、専門性の高さからある程度是認できる。
  • 修士課程と博士課程の差をはっきりさせる。
  • 修士課程、博士課程の教育課程のカリキュラムに標準的なスタンダードを検討し社会に提示する。
  • 大学院教育を抜本的に改め、修士力、博士力を身につけさせる。
  • リベラルアーツの内容は大学が育成したい人材像や時代、専門により変わっていくものであり、指導要領のように固定化できない。内容を常に考えていく場が用意されることが重要。
  • 学部段階の教育では、生き方を含めた基礎だけを教え、その上で修士課程または博士課程の前期で研究者、あるいは研究者マインドとしての醸成になる教育を行うべき。
  • 学部段階においてはリベラルアーツを深めるプログラム、修士段階では専門分野の基盤技術を強めるプログラムが必要。
  • 博士課程において2つのコースを設定し、専門のディシプリンを深める人材と、幾つかのディシプリンの融合や学問成果の社会への還元を行う人材の両方を育成する。

<具体的方策>

  • 技術者コースと研究者コースという、カリキュラムの複線化が必要。技術者コースでは、技術経営的な教育なども行う。カリキュラムの複線化は、両コースの協働の場との組み合わせが、効果的。
  • カリキュラムの複線化の以前に現実味(強制力?)のある大学院教育カリキュラムの設定が不可欠。この点では、JABEEで実施しているPDCAシステムを含めた教育プログラムに対する外部評価が有益であり、これを制度化する。その上で、産学間での人材流動化を増進させる。
  • 博士号を得て研究職に進む際には、世界史、美術または音楽の実技、コミュニケーションの試験を行う。英語もいいが、その前提として日本語も重要。
  • 「理系のリベラルアーツ」に相当するような共通科目を受講させることにより、理系分野コミュニケーションの「のりしろ」を作る。
  • リベラルアーツで実際に教える内容については、教員が分野を超えて共有化する。

【博士課程進学へのインセンティブ】

<検討の視点>

  • 修士課程を修了した学生は経済的に非常に厳しい状況であり、博士進学へのインセンティブはやはり大事。
  • 理工系キャリアパスの魅力の再認識が必要。ポストドクター等1万人支援計画等は雇用の緊急対策から制度化。魅力のある制度の確立が必要。
  • ドクターという肩書は、自分の品質を証明する手段。社会に出て自分が役に立つことが本当のインセンティブ。日本はアメリカのように転職社会ではなく、社会構造が違う。ドクターを持つと役立つ、という社会をどうやってつくるか、根本的なことを考えないといけない。
  • 博士課程に進む際、理工系の処遇の低さや産業構造の変化に伴う不安感から、周囲から反対される例が多い。
  • 理工系人材は社会的にステータスが高くない。トップクラスのエンジニアが、医師や弁護士と同等のレベルで評価されているか。社会的に高いステータスとして認められているかどうかという問題には、一つのインセンティブになっている気がする。
  • ノーベル賞受賞者、社長、医師など、憧れとなるような人材像が必要。
  • 若い人たちに魅力ある活躍の場やキャリアパスを示すことが必要。
  • 修士課程から博士課程に行かない理由は、インセンティブの問題だけではなく、大学院教育そのものに対する懸念がある。
  • 博士号取得者を真に必要とする社会が育っていないのではないか。学界だけではないのか。
  • ポストドクターだけでなく全体のキャリアパスを考えるべき。

<解決策への提言>

  • 社会で博士課程修了者をもっと大胆に展開していくことが必要であるというメッセージを出さないといけない。
  • 博士課程に行くだけの意義が本当にあるのか、博士課程の魅力を示すことが必要。
  • 理数教育の成果が、社会や産業界でどのように生かされ、科学技術が実社会でどのように活用され、人々の生活に役立っているかを発信し、理工系人材を育てることの大切さについて、社会全体としての理解増進を図ることが大切。そのためには、産業界からの教育と理解増進への協力が必要。
  • 博士課程を終えた若者が、産業界で仕事をすることをポジティブに評価し、産業界での技術者に対する社会の評価を、高める必要がある。
  • 理工系分野は進歩が速く、進路選択時の不安の一因。
  • 技術者の有用さを社会にアピールする。

<具体的方策>

  • 学界以外の社会で、博士号取得者を一定数採用する環境の整備が必要。国際化社会にあっては、行政組織においても同様。
  • 理工系人材への返還義務なしの奨学金制度を学部教育から導入する。
  • 例えば、学部と修士を一貫のコースとし、その上に専門職大学院を設置する。専門職としては、文・理研究職、初中教員、エンジニア、行政職、コミュニケーター、ビジネスマン、司法、医師などを設ける。専門職大学院出身者には博士の学位を与える。専門職大学院の修学期間は専門分野によって決める。学部+修士の教育をする大学と専門職大学院は別の組織が運営する方が望ましい。
  • 文科省等の調査やデータを広く発信して、理工系人材の処遇や評価への誤解を解くことが必要。
  • イノベーション創出に向けた研究開発活動、それら技術の企業経営における位置づけ、技術経営における理工系人材のキャリアパスなどについて、情報をハンドブックなどにまとめ、提供することも有効。
  • 博士課程の奨学金制度をもっと充実させる。
  • 就職活動の早期一斉開始をやめる。
  • アメリカ並みにグラントを拡充する。
  • 競争的資金で取った間接経費について、ただ大学のインフラに使うのではなく、定率を人的なインフラに回す仕組みを構築する。

【人事・ポスト関係】

<検討の視点>

  • 大学の若手教員ポストが減少している。
  • 法人化して以降、大学は定員を埋めて、助教を採用できない状況。
  • 任期制は、精神的にはほとんどフリーターのような状況。

<解決策への提言>

  • 若手ポストを増やす方策が必要。
  • 若い人を採用できるシステムが必要。(例えば、高齢教員の給与を下げてでも、若手を雇う努力をするインセンティブを働かせるための運営費交付金や補助金の配分のシステムを考えることが必要。)
  • テニュアトラックのポジションを若手に対して大幅に増やす。

<具体的方策>

  • 任期制の若手教官枠を増設する(競争的資金や委任経理の利用を拡大する)。
  • 研究予算の一部をテニュアトラックポジションのための予算に組み替えるなどにより、至急予算措置を行うべき。
  • 大学内での昇進のステージを助教・准教授、教授の3段階から6段階程度の増やせないか。各段階で昇進評価を行う。評価は順位の低いほど研究能力に重心を置き、高くなるにつれ社会貢献と人格などを重視する。

【大学組織】

<検討の視点>

  • 学部学科構成について、教育学部の教員が多いなど、社会のニーズと異なっており、就職できない優秀な学生がいるのは問題。
  • 学部までの教育と大学院の教育というところで大きく分けるべき。日本の場合には徒弟制度的な教育スタイルというのが学部のころから始まっているが、グローバリゼーションに合ってないのではないか。
  • 大学の評価基準に多様性の確保状況を盛り込む。

<解決策への提言>

  • 学部学科の組み替えが必要。学部学科を再配分するインセンティブが働くような運営費交付金のシステムに変えていくべき。
  • 純血率を例えば30%程度に下げるというような方針というのが、大きなイノベーションにつながる人材育成になるのではないか。

<具体的方策>

  • 大学院進学の際、学部とは異なる研究室に進学することを原則とさせる。
  • 大学が一定の割合でジェネラリストを教員に採用し、その教員を部局間、大学間、産学間で流動させる。このジェネラリストの人事は大学の経営陣が完全に掌握する。学長など大学のマネジメントはこのジェネラリストから選抜する。

【国際関係】

<検討の視点>

  • 海外にいるポスドクは日本に戻る場所がなく、「難民」化している。

<解決策への提言>

  • 海外から帰ってくる人材のポジションをつくることが重要。中国の海亀政策のようなことは、できないか。

<具体的方策>

  • 海外からの帰国希望者用の任期制のポジションを競争的資金で創設
  • 海外での日本人研究者のネットワーク化(データベース作成)

【その他】

<検討の視点>

  • 人材育成の好循環(特に博士課程における好循環)をもたらす視点で、教育と研究とイノベーションは社会経済的な価値であり、教育と研究とイノベーションの三位一体を回していくということのメカニズムが好循環をつくる中には不可欠。
  • 現在の人材養成方策は好循環でなく、負の循環に陥っている。この原因を突き止めなければ正の循環は得られない。
  • 施策についての短期的な評価は、形成的評価、すなわち、小さな改善、修正のためのフィードバックにとどめ、長期的な評価の枠組みを最初から計画し、行っていくべき。量的な評価ではなく、質的な評価が必要。
  • ポストドクターの分野がミスマッチであるというのは、そもそも、科学技術の重点4分野、この分野を国としては進めていきたいというのがあって研究資金がそこに重点的に配分されたのではないか。今後もそういった分野を決めてお金を落とすときに、ミスマッチについても考えていかなければいけないのではないか。

<解決策への提言>

  • 例えば、ライフサイエンスだったらライフサイエンスの会社がもっと大きくなれるような、そういう人たちを雇えるような、あるいは起業できるようなキャリアパスが必要。

<具体的方策>

  • 大学発ベンチャーとPDや博士課程学生の交流会の実施、あるいは、キャリアパスの事例を紹介
  • ベンチャーの起業教育の実施
  • 経済学部の教官と理系学生・PDとの交流会やバーチャル起業の訓練

-政府諸会議等の動向-

○「大学・大学院の研究システム改革~研究に関する国際競争力を高めるために~」

(平成19年11月28日総合科学技術会議)(抜粋)

【博士の社会的好循環の構築】

 まず、大学において、博士課程入学者受入基準を明確にし、入学段階で確認する。時代の変化を反映しつつ入学定員を見直すことにより、入口管理を徹底し、入学者の質を確保する。
 その上で、国際的水準のコースワークを進めるため、教育カリキュラムを改革する。多様なキャリアパスを前提として学修課題を体系的・組織的に履修させ、幅広く深い教養に裏打ちされた専門知識、リーダーシップ力等を涵養することを基本とする。また、出口管理を徹底し、博士の学位の国際的通用性を保証する。
 学生を研究に参加させる場合も学生の教育を中心に考え、指導教員の研究補助とのみ捉えることは厳に慎まなければならない。また、博士課程への進学者に対しては、修士課程での修論を課さない等、一貫した教育を徹底する。修士課程については、国際的水準に則り、高度専門職人材の養成等、社会のニーズに的確に対応したコースワークを徹底すべきである。さらに、インターンシップ等により社会との接点を拡大する。
 このような大学における厳密な入口管理と出口管理の実施により、アカデミアにおいて、国際競争力のある人材を確保することができる。企業においても、採用活動の早期開始を自粛し、大学院における教育成果を十分見極めた上で、優れた博士人材を積極的に採用するとともに、成果主義を基本に魅力ある処遇を行う。
 このことが、博士課程の魅力の増大、博士課程入学希望者の増加につながり、続いて、博士人材の評価向上、企業や官公庁における採用増加等、研究人材の社会的好循環が構築される。
 こうした優れた教育カリキュラムを実施し、国際的に活躍できる人材を輩出する大学への支援を拡充する。
 また、厳格な入口管理・出口管理の下の博士課程修了者は、我が国の将来のイノベーションの原動力、国家の財産と言え、授業料減免、フェローシップ等により、優秀な学生が経済的負担なく博士課程に進学できるようにすべきである。

【ポスドクの社会的好循環の構築】

 ポスドクは、研究者として出発し、将来の進路を見極める期間であり、博士号取得後5年間程度までであるという意識改革を大学や独立行政法人内で徹底する。国際的な競争環境下で切磋琢磨した後は、早めに進路を見極めるべきことをポスドク自身も十分自覚すべきである。ポスドクへのフェローシップ等は、その対象を博士号取得後5年間程度までに限定すべきである。なお、出産・子育て等による研究中断期間に配慮すべきことは言うまでもない。
 また、博士課程までの間に体系的・組織的な教育を受けたポスドクの進路を、アカデミアだけではなく、企業、官公庁、サイエンスコミュニケーター等多様なものとする。
 このように、ポスドクの不安定な雇用期間を限定するとともに、人材の社会的好循環を構築し、研究者のキャリアパスを魅力あるものとする。

お問合せ先

科学技術・学術政策局基盤政策課

(科学技術・学術政策局基盤政策課)

-- 登録:平成22年03月 --