人材委員会(第100回)議事録

1.日時

令和6年2月5日(月曜日)15時00分~17時00分

2.場所

科学技術・学術政策局15F1会議室及びWeb会議(ZOOM)

3.議題

  1. SSHにおける探究学習の取り組みについて(有識者からのヒアリング)
  2. その他

4.出席者

委員

 狩野委員、岩崎委員、稲垣委員、梶原委員、杉山委員、隅田委員、長谷山委員、桝委員、水口委員、村上委員、柳沢委員

文部科学省

 柿田科学技術・学術政策局長、清浦大臣官房審議官、山下科学技術・学術総括官、生田人材政策課長、髙見人材政策推進室長

5.議事録

科学技術・学術審議会 人材委員会(第100回)
 

令和6年2月5日

 
 
【狩野主査】  では、定刻となりましたので、ただいまから科学技術・学術審議会 人材委員会の第100回を開催いたします。
 今日は大雪という印象深い日になりました。ぜひ内容も濃くさせていただければということで、よろしくお願いいたします。
 本日の会議は、冒頭より傍聴者に公開しておりますので、よろしくお願いいたします。
 本日は11名の委員の方にオンラインと現地で御出席をいただいておりまして、定足数を満たしています。
 それでは議事に入る前に、まず本日の委員会の開催に当たりまして、事務局の皆様から注意事項と資料の確認をお願いできればと存じます。お願いいたします。
【對崎人材政策課長補佐】  事務局を務めます、人材政策課の對崎でございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
 まず、本日の会議は、対面とオンラインのハイブリッドで開催しておりまして、対面で御出席の委員の方々は、質疑応答の際、挙手または名立てなどで合図をいただければと思います。また、オンラインで御出席の先生方におかれましては、挙手機能で挙手ボタンを押していただきまして、いずれの場合も狩野主査より指名を受けましたら、お名前をおっしゃっていただいた上で御発言いただければと思います。
 機材の不具合等ございましたら、対面でお越しの皆様は事務局に手を挙げていただくなど合図をいただければと思います。また、オンラインで御出席の委員の方々はマニュアルに記載の連絡先に御連絡ください。
 資料につきましては、ZOOM上で共有を行ってまいりますが、会場にお越しの皆様方にはお手元に配付させていただいております。資料の確認でございます。議事次第が1枚あります、資料としましては、資料1が愛媛県教育委員会、八木様の御発表資料。資料2が京都市立堀川高等学校の御発表資料。資料3-1から3-3が最近の政策動向についての事務局の提出資料。資料4が、狩野主査の御提出資料。参考資料1として人材委員会の委員名簿、となっております。
 進行の過程に不備がございましたら、何なりとお知らせいただければと思います。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございました。
 それでは早速、本日の議題に入ってまいりたいと思います。
 本日は、探究学習の必修化という背景もあり、また、科学技術の教育をどのようにしていくかという背景もありますので、それらも踏まえまして、SSHを実施しておられます2校をお招きし、探究学習に関するヒアリングをしたいと思っております。御協力くださる先生方、大変ありがとうございます。よろしくお願いします。
 それでは、1件目、愛媛県教育委員会事務局指導部高校教育課指導主事でおられます八木康行様からお話をいただきたいと存じます。八木様は、愛媛県立松山南高等学校の取組についてお話をいただきたいと存じます。愛媛県立松山南高等学校は、愛媛大学のグローバルサイエンスキャンパスと連携され、高いレベルでの探究学習を行っており、卒業生も多方面で活躍されております。
 それでは、御説明をお願いできますでしょうか。よろしくお願いいたします。
【愛媛県教育委員会(八木様)】  愛媛県教育委員会の八木と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 まず、本日はこのような発表の機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。私が知っている範囲で、松山南高校の取組等を紹介させていただいたらと思います。画面の、説明資料に沿って説明いたします。
  まず、皆様御承知のように、松山南高校は、スーパーサイエンスハイスクールが開始した当初からの指定校で、現在、先導的改革型2期の指定を受けて、研究を進めております。まず、こちらの御説明をさせていただいたらと思います。資料の1番目のポンチ絵を御確認ください。
 こちらが、先導的改革型2期で申請した際の松山南高校SSHの概要になります。資料のとおり、松山南高校には普通科と理数科があり、普通科、理数科それぞれでの取組を柱の一つと捉え、いわゆるGeneralist育成のため、新時代対応型課題発見・解決能力を養うため、学校設定科目として「STEAM探究」というものを設定しております。学びのSTEAM化を図るため、第5期に実施したデータマーケティング教育プログラムをベースとして、現在の課題研究では産学連携型の課題研究にて研究成果を地域社会に還元し、新しい価値を創生する創造力を養うことを特に意識して進めております。
 それから、Specialistにつきましては、理数科を中心とした取組として、ハイレベル科学技術人材の育成のため、学校設定科目「スーパーサイエンス」において、従来の物理・化学・生物・地学・数学、5講座から、理工系、生物系、複合系の3講座に再編成して、教科・科目等の横断を意識した上での課題研究などを行っております。
 また、普通科だけ、理数科だけというわけではなく、資料1下の方の帯のように様々な取組をしております。
 現在、先導的改革型2期の1年目ですので、この後御紹介させていただくものは、先導的改革型1期、いわゆる5期の取組も含めさせていただいきます。
 続いて、最初のレジュメに戻りまして、松山南高校は、「えひめ版STEAM教育」の研究開発事業の指定校でもあり、SSHと連動している部分もありますが、「えひめ版STEAM教育」研究指定校としての取組も行っております。
 こちらの事業は、資料2のポンチ絵にあるように、SSHに指定されている松山南以外の他の学校も指定し、その中で課題研究が位置付けされております。
 最初のレジュメに戻りまして、このような課題研究、SSHの取組の中で、生徒の将来の進路選択やキャリア教育につながる取組を、幾つか御紹介いたします。1つは、課題研究を中心に据え、様々なSSHの事業などが行われており、例えば高大連携事業として、愛媛大学理学部やプロテオサイエンスセンターなどと連携事業を実施し、先端研究の一端を知り知識を高めるキャリアデザイン能力の育成や、課題研究の深化を図るため、それぞれ生徒が課題研究に取り組む中で、愛媛大学との連携を多くしております。
 加えてアドバンストサイエンス研修、アドバンストデータサイエンス研修と銘打ち、愛媛大学だけではなく、他の地域の大学や研究機関の見学なども行うことで、課題研究に取り組むための姿勢を養っております。また、愛媛大学研究室体験という形で、愛媛大学の6学部3センター16研究室で、生徒が実際に実験を行ったり講義を受講したりして、早期から卒業後の進路や方向性を強く意識させて、意欲的に課題研究に取り組ませています。また、SS交流会と銘打って、理数科の全学年が一堂に会して、課題研究の内容を発表するポスターセッション、異学年交流を行っています。松山南の課題研究の取組では、単に研究を進めるだけではなく、様々な方面からアプローチをした上で、生徒が主体的に課題研究に取り組むことができるような仕掛けづくりも重視しております。
 資料3,4につきましては後ほど御覧いただきたいのですが、以前、文部科学省が作成した実践事例集に、第5期の内容を中心に実施している取組が記載されております。
 続いて、レジュメのさらに下の方では、大学入学後の研究につなげる課題研究の取組を紹介しております。松山南高校では、大学接続型課題研究として、松南課題研究Grade-upプログラムを実施しており、愛媛大学と連携して、複数の生徒から成るグループが愛媛大学の研究室で継続した研究を行うことができるシステムを構築しております。現在は2つの研究が実施されており、1つ目は、地元愛媛ということもあり「みかんの腐敗を抑制するために」という課題研究になります。それから2つ目の研究は、SSH卒業生勤務の大学研究室が愛媛大学の研究室の中にあるのですが、そこで「イチョウ葉および果実の抽出液によるリパーゼ活性阻害効果の検証」というテーマで、実際に大学に行って研究をしています。
 それから、グローバルサイエンスキャンパスに愛媛大学が採択されておりました。現在は四国型次世代科学技術チャレンジプログラムと名前が変わっておりますが、こちらでも多くの生徒が愛媛大学で実際に研究に取り組んでおりまして、それらをそのまま学校の課題研究に生かす生徒もおりますし、他の生徒にアドバイスをする生徒もおります。このグローバルサイエンスキャンパス事業が松山南高校にとってはうまくリンクして、研究の深化がよく図られているという実感を得ております。
 そして卒業生の進路等の成果ということで、SSHの松山南高校の卒業生の代表的な方として、コネチカット大学化学科アシスタント・プロフェッサーの萬井先生、愛媛大学大学院農学研究科助教の石田先生、この2名がSSH卒業生の活躍事例集で取り上げられております。先日はSSHアメリカ研修を実施した際に、実際に萬井先生に御協力、御指導いただきました。このアメリカ研修を経た後に、さらに萬井先生の下で研究したいといって、他の留学制度を使って実際にアメリカに行った生徒もいると聞いております。それから先ほど申しました愛媛大学に卒業生の石田先生がおり、今現在も直接研究の御指導をいただいております。このような身近な先輩がそれぞれの大学で活躍していて、なおかつ、そこで直接指導を受けることができています。おそらくいわゆる都会の学校ですと、卒業生が研究室に勤めているというケースも多くあろうかと思いますが、直接卒業生から、特にSSHを経験した卒業生から直接指導を受けられることは本人たちにもやはり大きな良い影響を与えていると考えております。
 レジュメのさらにその下に、理数科でつくっているパンフレットにある卒業生の声を載せております。こちらでは課題研究に取り組んだことの良さに加えて、大学進学後に感じたことが中心に記載されております。このような形で次の世代に、課題研究の良さや、課題研究が自分の進路実現に役立ったことをアピールしており、「松山南高校に入れば課題研究に頑張って取り組むことができる」ということが伝わると考えております。
 それから、資料は用意していませんが、卒業後の進路として松山南高校のいろいろな資料を拝見しますと、最近は、学校推薦型選抜などで課題研究の成果を活用するケースが多くあります。全国レベル・地方レベルの発表会での成果が課題研究の成果として挙げられると思いますが、その成果をうまく自己アピールの場として使って、大学進学等に役立てるケースもありますし、成果の1つとしてそのような受賞実績等もあるという現状がございます。
 このように、実際の課題研究ももちろん大切ですが、松山南高校の取組では、課題研究の意義や実施の仕掛けも大事にしております。課題研究に取り組むための仕掛けづくりにつきましては、本県のSSH3校以外の学校につきましても同じような形で行っており、愛媛大学と愛媛県総合教育センターにおける課題研究の教員の育成などでも松山南高校の取組が生かされております。このことが幅広く本県全体の課題研究の取組、それから課題研究を生かした進路選択に役立っていると考えております。
 このような場だけではなく、いろいろなところで申し上げておりますが、愛媛大学の協力は非常にありがたく、他県の指導主事などと話す中でも地元の大学がこれだけ協力してくれるところはないのではないかと言ってくださるくらいの御協力をいただいており、本当に感謝しております。松山南高校の成果を発表できるのも、そのような取組、協力があってのことだと考えております。
 ざっとではございますが、松山南高校の取組について説明させていただきました。ありがとうございました。以上で発表を終わらせていただきます。
【狩野主査】  八木先生、大変豊富な内容を短くまとめてくださいまして、ありがとうございました。
 では続きまして、京都市立堀川高等学校から、飯澤功副校長及び濱田悟先生にお話をいただきたいと存じます。お願いできますでしょうか。
【京都市立堀川高等学校(飯澤様)】  堀川高校副校長の飯澤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず私のほうから、本校の大まかな探究の目的をお話しさせていただいて、具体的なことは濱田からお伝えしたいと思います。
スライド2枚目をご覧ください。SSHにもちろん関係しますが、探究も含めて、本校の最高目標は「自立する18歳」を育成するということです。この説明文の最後には「自己実現を図ろうとする」という言葉がございます。この「自己実現を図る」とは、やりたいことを実際にやっていくためにはどうすればいいかを生徒が分かっていくことであり、このような力をつけることは本校の教育の非常に重要な目的だと思っております。探究とは、科学の研究に関しましては、明らかにしたいこと具体化や検証、そして検証の結果、うまくいかなかったら修正する、論文を見てもらうことも含めて必要に応じて人に頼る、ということが必要です。このようなことが実は「やりたいことをやるためにどうすればよいか」ということに非常に直結していると考えております。つまり、探究活動というのは、本校の最高目標の実現のための教育活動として非常に適していると理解しています。 
自己実現だけ、自分のやりたいことだけを優先するのではなくて、例えば社会のニーズがどこにあるかも考えてもらいます。本校2年生の前期に、半年間で自分でテーマを決めて研究を進めていくという時間があり、生徒は自分のやりたいことをやっていくのですが、最後の最後に論文に書くときに、イントロダクションをどう書くか、非常に悩みます。要は、自分のやりたいことだけではなく、社会のどういうところに影響があるかとか、今の学問の分野のこのようなところに自分の研究が位置づけられるとか、そういうこともしっかり意識をするような機会があり、単に自己実現だけではなくて、社会のことも考えながら自己実現していくという、本校の最高目標に非常に近い形で探究活動を進めています。
 本校、平成14年度、SSHが始まった初年度から機構として認定を受けたのですが、そのときにどのように探究活動を生徒に伝えていくかと考える中で、やはり大学のまねをしようと考え、まずは初歩的な実験や手法を学ぶ期間をとり、その後、ゼミ単位で専門的なことを学ぶ期間を、そして自分で探究活動を進める期間というのを、それぞれ半年間ずつで設定いたしました。
 それが本校で、今でも続いている大きな流れになっております。今年になり、単にゼミという大学をまねてやっていたことから、さらにもう一歩進めまして、個人の研究が終わる2年の前期のちに、自分でやりたいことを再度考えて、個人で新たに始める、もしくは、グループで何か新しいことをやるという、新たな取組をこの2年生から始めました。
 ゼミは教員が決まっており、その決まっている教員の指導を仰ぐという形になりますが、2年の後期は大学院を意識し、自分で聞きたい先生を選べるようにしてみました。すると生徒たちは自分たちで考えて、どの先生が何に詳しいのかわかるようにと、先生名鑑というのをつくりまして、この先生に聞いたらこういうことが分かるという冊子です。その作成を、生徒たちが、教員もアイデアを出しながらですが、始めています。これは大学院の研究室紹介のようなものだと思うのですが、これを生徒が自分たちでやっていく力というのも、この探究活動で培われていると思っています。
 では、具体的な中身について、研究部長、濱田のほうからお伝えします。
【京都市立堀川高等学校(濱田様)】  よろしくお願いいたします。研究部といいます総合的な探究の時間の企画・運営を司っている部署で部長をしております濱田です。よろしくお願いします。
 スライド3枚目をご覧ください。本校では総合的な探究の時間を「探究基礎」と呼んでおります。シラバスの記載を見ると「自立する18歳」という本校の教育最高目標と非常に近いことが分かっていただけるかと思います。令和4年度の新カリキュラムから、1つ目の目標に、「さまざまなものから疑問を発見し~」を追加して、意識しております。
 本校は、探究基礎という授業に限らず、学校の教育活動全てにおいて、探究が軸になっております。スライド4枚目の「すべては君の『知りたい』からはじまる」は、中学生向けの説明会でもよく使っているフレーズです。
 具体的に探究基礎がどのようなカリキュラムになっているか、説明いたします。
 6ページから、令和4年度からのカリキュラムと旧カリキュラムとの違いが分かる形で載せておりますが、中ほどの二重線の枠になっているHOP、STEP、JUMP、AcaProが探究基礎と呼んでいるところです。
 以前は最初に探究の「型」として、論文の書き方や発表の仕方といった方法的なものを行っておりました。これも非常に大事なので理数探究基礎の授業に残してはおりますが、探究基礎としては、自分は何をやりたいのか、何を知りたいのか、そこの取っかかりをしっかり考える機会を最初に持ってきております。
 STEPでは分野ごとの専門性を勉強して、2年生の前期のJUMPが先ほど申しましたように個人研究、ここが一番メインとなっております。後ろのAcademic Project、AcaProというのは令和4年度から追加したもので、ここはゼミを一旦解体して、自由度の高い形で探究を続けてもらう授業となっております。
 7ページ目をご覧ください。先ほども話した通り、まずHOPはホームルーム単位でやっています。STEPがゼミ単位です。理数探究基礎もホームルーム単位になっております。続いて8ページ目、 JUMPがゼミで、Academic Projectはゼミを解体ということで、生徒も3種類のコースに分かれて、少し自由度を高めて、自分の力を改めて確かめています。なので教員のかける手が少し減って、自分たちだけでどれだけできるか、やってみるものがAcademic Projectになります。
 9ページ目は講座編成になります。先ほども少し話しましたが、ゼミに大学院生以上の論文執筆経験者に TA(ティーチングアシスタント)として入ってもらうことが大きな特徴です。もちろん実験の方法や文献の紹介などの専門的なアドバイスを受けるというのも大きいのですが、それよりも生徒が研究者を身近に感じる、大学院での生活がどのようなものなのか、直に話して知ることができるのは、非常に大きいと思っております。10ページ目にゼミの種類を記載しました。本校では芸術科以外の教科全て、何らかのゼミを持っております。 
11ページ目をご覧ください。HOPから順に少し詳しく説明しますと、HOPはまず序盤として、自分の好きなことや興味のあることをとにかく話して、ほかの人と共有することで、他と比べて自分とはこういう存在なのだということを理解し、少し自己肯定感を高めてもらいます。学問とはどういうもので、いろいろな学問同士はつながっているということを知ってもらったり、自分が分かっているつもりでも分かっていないことがたくさんあると気づいてもらったり、実際の論文はどのように書かれているのか読んでみることで、ちょっと研究のイメージを持ってもらったりします。夏休み中に調査や検証をしてもらって、最後に発表会を行います。ここでの発表は、研究成果を発表するというよりも、なぜそれをやったのか、やってみてどうだったか、自分自身の変化について全部話してもらいます。普通の研究発表ではカットするような失敗の話も含めて、全部話してもらうような形で発表してもらっています。どうしても生徒は、教員もそうですが、やはり研究成果がとても気になってしまって、取り繕って発表しやすいのですが、気にしなくてよいから全部話してください、という感じでやっています。
 続いて12ページ目、理数探究基礎についてですが、これは型の部分なので、課題設定についてはある程度教員が与えますが、その先は生徒が実践しながら、経験しながら、探究の過程を学んでもらっています。
 13ページ目、STEPでは、先ほど申したようにゼミに分かれて、大きな目標としてそれぞれの専門分野の常識を学び、個人研究に向けた準備を進めるために、大まかに図のスケジュールで動いております。
 続いて14ページ目、前期のJUMPでは、1人ずつ生徒のペースは異なりますが、切りがなくなってしまうので、図のように中間発表や論文提出という形で全体の区切りを設けて進めています。9月の発表からは、本当に研究発表会として、外部からも人を呼び、成果発表会としてやっております。ここまでがJUMPです。
 続いて15ページ目、Academic Projectは自由度が上がっていますので、全体としては非常にシンプルです。時々面談を挟み、それ以外は自分で先ほどの先生名鑑から適切だと思う先生を見つけて、相談に行って、活動を進めるという形です。授業の時間割に入っていない時間もありまして、生徒が教員と相談して進めますので「自分で時間割をつくっているみたいだ」と言う生徒もいました。16ページ目、17ページ目に、生徒の振り返りの一部を掲載しました。また御覧いただければと思います。
 その他の取組も簡潔にお話いたします。
 探究基礎以外にも、きっかけを与えるため、各種講演会を行い、専門、本物を知ってもらう取組を行っています。また、授業以外では、委員会、スタッフ活動として、生徒が自主的に行うものを非常に多く取り入れています。
  21ページ目にも生徒の振り返りを掲載しました。これも生徒の振り返りです。行事にも探究が生きていることがわかります。
 最後に少しだけ、進路意識についてお話します。23ページにも記載したコメントにもある通り、HOPで自分のやりたいことを考えさせていますので、それが進路指導にも役立っていると感じられます。最後になりますが、5年に一度行っている卒業生アンケートの結果を24ページに記載しました。修士課程の進学率が全体のうち4割程度で、5年前と10年前、ほぼ同じような割合になっています。N=95,N=96というのは、進学している人数が95人、96という意味で、オレンジの部分の実数だと思っていただければ結構です。隣の博士課程の進学率は、平成17年から22年卒の生徒の中、95人の中で博士に進んだ者が30%弱という結果でした。やはり全国的に見ても高い割合になっていることがわかります。
 以上で終わります。
【狩野主査】  大変厚い蓄積を短時間でまとめてくださり、ありがとうございました。その成果が最後にまとまっているように見えまして、やはり「熱いうちに打たない」といけないなと思いながら伺ったところです。ありがとうございました。
 それでは、皆様からの御質問の時間にしたいと思います。どうぞ御質問をお願いいたします。
 杉山先生、お願いします。
【杉山委員】  ありがとうございます。両高校とも非常に積極的な取組で、感銘を受けました。
 私、名古屋大学の杉山といいます。もちろん愛知県でもSSHは盛んにやられていて、私自身も、SSHの指導員や運営委員をここ10年以上やって参りました。年1回の神戸での大会にも審査員として何度も参加させていただき、高校生の熱量をとても感じて、いいなと思っています。1つ2つ伺いたいのですが、1つ目が、堀川高校の最後のところに関係して、両校とももう20年ぐらいやられていると思いますが、その20年間で卒業生も30代中ぐらいの方になっていると思います。彼らが社会でどのように活躍したのか、SSH全体での社会を底上げする成果ですね。アメリカの大学に就職したというような、個別の素晴らしい大きな成果についてはご発表にも出てきましたが、SSHとして多くの高校生に関わる中で、皆さんがどのように育っていったのか、どのように今までと違う人材が育成できたのかというのは大変重要な観点だと思うので、そこを両方の高校に教えていただきたいと思います。
 2つ目は、SSHだとどうしても理系が中心になってしまい、文科系の生徒が参加できないとか、あまり興味を持たないということもあるかと思います。それには高校全体で取り組んでいるのか、それともやはり理系を中心に取り組んでいるのか。STEMではなくSTEAMなので、Artをどう入れているかにも少し興味がございます。
この2点について、卒業生の進路・キャリアがどうなっているのかと、取組は高校全体を対象にしているのか、文系がどのように参加するようになっているのかを教えてください。
【狩野主査】  ありがとうございます。多分両方のお話に関わるかと思います。八木先生からお答えをいただける範囲でお願いできますか。
【愛媛県教育委員会(八木様)】  松山南高校の卒業生の具体的な進路としては、追跡調査自体は今年度、令和5年度に予定しておりますので、その前の調査として平成30年度に実施したものの結果をお伝えいたします。当時24歳以上のSSHの卒業生において、大学や企業等の研究職が26名で12%、博士課程を修了した方が20名で9.2%、修士課程の修了者が108名で49.5%でした。大学卒業後も各分野で、それぞれ専門的な部分で社会貢献できていると分析しております。
 それから、お話がありました文系・理系に関しては、もちろん理数科はそれに特化した教育を行っておりますが、松山南高校も全校体制を取り入れるという中で、普通科、文系・理系関係なく、課題研究に取り組んでおります。
 第5期のときには、データサイエンスをテーマとして取り入れていたのですが、文系の生徒もいろいろなところでデータ分析や、関連する課題研究に取り組んでおりました。例えば文学作品を読んで、その中でどのようなことが統計的に処理した中で分析ができるのかとか、推理小説の中でどのようなトリックが具体的になされているのか検証してみるといった面白い課題研究もありました。現在は特に文系・理系関係なく、全校体制で取り組んでいます。
 それから、STEAM教育に関しては、いわゆる教科等横断型を意識して取り入れていますので、もちろんArtのAというのもあるのですが、以前、四国地区のSSHの講演会でお話しいただいたのが、AをArtだけにとらわれるのではなく、例えばAgricultureのAを入れてみてはどうかとか、いろいろな御助言もいただいております。そういったことも学校で取り組んでみようという話がございましたし、そのようにSTEAMのAを解釈して扱っている段階になります。
 以上になります。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 では、飯澤先生、濱田先生、いかがでしょうか。
【京都市立堀川高等学校(飯澤様)】  まず卒業後の進路に関しては、一定のバイアスがかかってしまい、本校と連絡を取ってくれる、遊びに来てくれる卒業生に限ってしまうので、少しデータに偏りはあります。ですが、例えば大学で研究者をやっているとか、企業に勤めながら、自分自身で興味が生じたことがあって、大学院に通い、博士号を取って研究を進めているといった話を聞いたことがありますし、そのような卒業生は一定数いると思っています。もちろんアカデミックポストに就職している人間も多い中ですが、最近は起業する生徒が多くなってきたと思っています。教育業界での起業もありますし、全く関係ないところでの起業も卒業生から何回も聞くことがあり、新しいことに挑戦していくところで、本校の探究がもし活きていたら、本当にうれしいなと思っております。
 続いて、カリキュラムについて濱田から説明いたします。
【京都市立堀川高等学校(濱田様)】  濱田です。文系の生徒の様子としては、本校では、ゼミは教科ごとに担当しているのですが、別に実際に自分が文系・理系どっちに進むかとゼミの選択は無関係なので、理系のゼミに文系の生徒が入っていることもあれば、文系のゼミに理系の生徒が入っているということもあります。
 あとは、スタッフ活動、探究道場スタッフという、教育課程外の取組がございまして、そこにも文系の生徒が加わって、中学生相手に少し理論も勉強しながら工作するような、壊れにくい橋をつくったり、よく回るこまをつくったりするようなことに取り組んでいます。
 教員も、先ほどのAcademic Project、ゼミを経た後の活動において、自分の専門分野でない生徒の面談をすることもあります。専門の有無に関わらず、科学することや探究することの本質は文理問わず共通していて、教員もその腕を磨いていかないといけないのではと感じています。
【狩野主査】  大変すてきなお答えをありがとうございました。
 ほかに御質問いかがでしょうか。よろしければ私から質問させてください。
これだけ蓄積のある学校でしたら、教員側の皆様も今おっしゃったような支え方に慣れておられると思いますが、「探究が必修化したからこれから頑張ります」というような学校だと、難しい思いをされている場合も多いと思います。特に2校とも公立ですので、先生方の異動もある中で、その辺りの支援策はどのようにされているか、もしありましたら教えていただけないでしょうか。
 八木先生から、いかがでしょうか。
【愛媛県教育委員会(八木様)】  愛媛県の取組として、教員の課題研究の指導力を上げていくために、愛媛大学と総合教育センターで研修を実施しております。実際に、指定された教員及び参加を希望した教員が、自校の生徒を4名程度連れていって、大学の先生から直接課題研究の指導を、教員が受けながら、自分の生徒に指導するという研修があり、そういった教員研修の中で課題研究――理科・数学が対象に今のところなっていますが――に取り組んでおります。
 そこで経験を積んだ先生が、実際に日本学生科学賞でも賞をいただくような指導をされている実績もあり、そういう先生が今度またSSH校に赴任したり、SSHに赴任していた先生が転勤した先の自然科学系の部活動でそのような課題研究指導を実施したりということで、サイクルが今のところうまく回っていると捉えております。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 堀川高校様はいかがでしょう。もし加えてくださることがありましたらお願いします。
【京都市立堀川高等学校(濱田様)】  よろしいでしょうか。
まず本校内のことで言いますと、研修会や、授業の担当者会議も行っておりますが、一番大きいのは、ゼミもHOPもTT(チームティーチング)で授業をしています。どちらかの教員が慣れていれば、実際にやりながら伝わっていく部分は結構大きいと思っております。
 少し広げますと、最近、市立高校で研究会を立ち上げまして、他校でどのような総合的な探究の時間の授業をしているか共有したり、総合的な探究の時間の指導は何ができればよいのかということを共同で研究したりしています。
 さらには、教育委員会を通じて小学校や中学校に向けた研修会も実施して、合同のポスターセッションを開催しております。それらをもっと範囲を広げようと考えているのが、今まさにSSHの重点枠でさせていただいている取組になります。
【狩野主査】  ありがとうございます。ぜひ水平展開をよろしくお願いいたします。
 そうしましたら、隅田委員、桝委員、村上委員から挙手をいただいておりまして、先に御質問をいただいてから、皆様にそれぞれ思うところをお答えいただくのはいかがかなと思います。隅田委員、まずお願いできますでしょうか。
【隅田委員】  ありがとうございました。ちょうど昨日、愛媛県ではえひめサイエンスチャレンジの大会がありました。松山南高校の生徒さんは、発表もいいですが、運営側にも入っていて、リーダーシップなども培われていると思います。長く続けられているので、先生が異動されながら、質の高い先生が本当に育っていると思いました。
 2点あります。1点目は、2校とも20年ぐらい歴史がございますので、その20年で変えなかったことと変えたことをお聞きしたいです。もう1つは、2校とも探究が一つ鍵だと思ったときに、こういう特性を持った生徒が特にこの探究で伸びたという、何か生徒の特性があれば教えてください。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございました。不易流行と、それから伸びた特性があればということでした。
 では続いて、村上先生、いかがでしょう。話をしていただいてよろしいでしょうか。
【村上委員】  早稲田大学の村上です。松山南高校では、課題研究を強調しておられたと思いますが、この課題研究の課題は、先生側が設定するものなのか、あるいは学生が自ら見いだすものなのか、もしそうでしたら、どのくらいの学生がその課題を自ら見いだせているのかが一つお伺いしたい点です。
 それから、課題を設定したら、それを解決するところに進むと思いますが、その課題を解決するために必要な知識は、高校で習うべきアカデミックサブジェクトの範囲を超えているのか、あるいは高校で習うべきことの範囲の中での解決を目指しているのか、お伺いしたいです。
【狩野主査】  ありがとうございます。課題の設定が自発的なのか、あるいはサポートがあるのか、それから高校の範囲を超えたことまで内容に含めておられるか、そういう御質問をいただきました。ありがとうございます。
 続きまして、桝先生、お願いできますでしょうか。
【桝委員】  改めて、すばらしい内容の御説明ありがとうございました。
 大学・大学院生と高校生との接点があるということが本当に有意義なんだと感じて聞いておりまして、ただ、大学・大学院生の皆さんというのは、なかなか高校生に説明するという機会があまりないと思っています。大学・大学院生と高校生との間で、探究学習、科学のことに関するコミュニケーションの部分で、うまくいっているなと思う部分、もしかするとまだ課題があると感じる部分もおありなのかなと思いましたので、もし感じるところがあれば伺いたいです。大学・大学院生がそういうコミュニケーションスキルをもっと学ぶと、より高校生の探究学習に貢献できるのではないかと思うのであればという意図です。
【狩野主査】  ありがとうございます。桝先生のようなコミュニケーション能力をみんながつけるのはなかなか難しいだと思いますが、ぜひ院生の皆様につけていただければと思い、その辺も伺ってみたいと思います。ありがとうございます。
 では、柳沢先生、お願いします。
【柳沢委員】  2校の先生方にお聞きします。まず、両方とも非常にすばらしい試みで、私も筑波大の者ですが、大学が頑張らなないといけないなと思わされました。大変一生懸命やっておられると感じました。
 質問は、両校に聞きたいのですが、両校とももちろん進学校で、生徒さんは受験勉強も大変だと思います。例えば堀川高校だと、最後のAcaProAdvancedは3年生で選択になっていますが、実際に3年次の生徒はどのぐらい参加しているのか、同じ御質問を松山南高校の先生方にも聞きたいです。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 では、すみません、4件、たくさん質問をいただいてしまいましたけども、八木先生のほうからもしお答えになれる範囲でお願いできたらと思います。お願いいたします。
【愛媛県教育委員会(八木様)】  失礼します。まず1つ目の不易流行の部分につきまして、私も20年全てを見ているわけではなく、また、松山南高校に勤務したことはございませんので、外から見ていてというところにはなります。松山南高校はこの20年近く、生徒主体というところは変わりないところであって、なおかつ、大学との協力関係を大切しながら、いろいろなところから助言を受けるというようなところは、ずっと変わっていないことだと考えております。
 反対に変わったところは、SSHの申請が一つのきっかけになっていたのだと思いますが、そのときそのときの、例えば始まった頃は理数科に特化したものであったものを、普通科も交えて全校体制にしたり、データサイエンスを取り入れたりと、時流に合わせた変更を加えていっているところではないかと思います。
 それから2点目、大学院生・大学生とのコミュニケーションについては、例えば愛媛大学の教職大学院の学生や大学生が実際に高校の様々な運営のサポートをするスクールサポートスタッフという制度がございます。このように比較的大学生との距離が近い学校ですので、それを活かして、研究はもちろん研究以外の部分でもいろいろなコミュニケーションが取れております。また、高校3年生にとっては、1個上、2個上ぐらいの学年の大学生に知っている先輩がいると、よりコミュニケーションをとることができるため、比較的そのような面ではうまくいっていると考えております。
 それから、課題研究の課題の設定については、基本的には生徒自身がやりたいことを見いだして、それを課題として設定しておりますが、当然グループ研究が中心になることが多いので、似たような興味・関心を持っている生徒が集まって、一つの課題を決めていく場合もございます。
 運営指導員の先生からも時々御指摘があるのですが、例えば課題の内容によっては、高校レベルどころか大学レベルでもなかなか厳しいような課題を設定する生徒もおりますので、その場合には、例えば運営指導員の先生方からの御助言をいただくほか、高校の教員とのやり取りの中で、どこをゴールにするのかといったことを指導しながら落とし込んでいっています。もちろん引き続き研究することもあるのですが、一つの区切りとして成果を出すために、生徒にとっての目標が見えるところに課題を設定するための助言は行っております。
 それから、進学と高校3年生での単位数につきましては、普通科、それから理数科とも、3年生に単位を設定しておりますので、全員が3年生でも課題研究の取組を行っております。ただ、3年生の場合は、研究もまとめのほうに入っていきます。例えば発表会に出品をしようとか、論文にまとめようということを中心に、主に2年生までにやってきた研究をまとめて発表する形に持っていくという取組をしているのが現状でございます。
 以上です。
【狩野主査】  全部にお答えいただきまして、ありがとうございました。
 では続いて、堀川高校様、お願いできますでしょうか。
【京都市立堀川高等学校(飯澤様)】  変えなかったこと、変えたことというところで言いますと、「探究活動そのものを大学に頼らない」ということをSSHの当初から続けております。研究室訪問等は、1回はしたのですが、探究活動指導そのものは自前でやる、本校でやるということを徹底してきました。
 これは、探究活動をしている生徒を観察、我々は実際に見ることができて、そして日々の指導に生かすことができるためです。「あなたはこんなことが好きだったんだね」と気づいたり、探究活動をきっかけに進路選択に対して大きな影響があったりすることもございますので、そこは変えておりません。
 変えたことでは、初めのうちは我々も、まずは教員が論文の書き方や研究の仕方を学ばせなければならないと考えたんです。なので、スキルや探究への理解をしっかり教え込もうというところがあったのですが、それだと、その期間、やっぱりつまらないと思う生徒が多かったり、探究を進めていく上で大事なモチベーションや自分のこだわりがどうも伸びづらかったりということがございました。そこで、1年の前期に、とにかく探究の授業が始まったら、まずは自分のこだわりであるとか、例えばこだわりにも、学問分野に対するこだわりだけではなくて、実はものづくりが好きだとか、どういう作業が好きだとかいうこだわりもあると思うんですね。そういったことに生徒が気持ちを向けるようにしてきたということが変わったところです。
【京都市立堀川高等学校(濱田様)】  探究を通じて伸びた生徒の性質について、私からご紹介いたします。私の中で、教科学習はそこまでピカイチでないけども、探究で力を発揮したなと思う生徒は、やはり好きなことがあるというのはもちろんなのですが、自分で知識を取りに行くというところがございます。授業で習ったかどうかは関係なく必要だと思うことを勉強したり、あとは学校の外に出ていって例えば上級生と勉強したり。そういう子は大学に入ってからも、早速上級生と勉強会をやっているという話をしていました。そういうことができる子は、やはり伸びるのではないかと思います。
 あと、大学院生と高校生の関係でいいますと、たくさんのTAに来ていただいているので、やっぱり個人差はかなり大きいと感じます。本校としては、基本的には生徒の話を聞いてくださいとか、質問してやってくださいといったことをよくお願いをしています。なので、自己紹介とかで研究のことを話してもらうのであれば、プロの研究者でもやはり失敗はするよ、そんな簡単にいかないよ、といった話もしてもらえたら、高校生も頑張る気になるのではないかと思います。
 本校の課題設定については、もちろん生徒が自分で課題を設定しまして、必要に応じて高校の範囲を出た部分も勉強しなさいと言って、やってもらっています。
 受験勉強との兼ね合いについては、やはり最後の追い込みはかなり生徒も頑張っているし、頑張らせています。探究基礎について、3年生だけ選択で授業を置いておりますが、それは探究の成果、過程も大事ですが、成果でもって外のコンテストや総合型選抜で勝負していこうというのを目標に設置した科目なのですが、1学年240人のうち、来年度初めてですが、5名が選択するという形になっています。総合型選抜という意味では、もう少し選択する生徒がいたらよかったと思うところはございますが、そのような状況です。
 受験勉強そのものに探究がどれくらい生きてくるかというのは難しいところですが、やはり自分の中のつまずきをメタ認知して、どういうふうにして改善していくかというサイクルがしっかりできれば、絶対に役に立っているだろうと信じて、やっております。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 高校の学習範囲を超える超えないというところはいかがですか。
【京都市立堀川高等学校(濱田様)】  テーマによりますが、やはり生徒が関心を持っていると、例えば私自身は物理ゼミなのですが、簡単な流体力学や、回転、慣性モーメントぐらいは、勉強してみようか、といった場面もあります。
【狩野主査】  なるほど。
【京都市立堀川高等学校(飯澤様)】  自分で探究活動を進める期間は2年生の授業で設定しています。やりたい研究を進めるには、3年生の物理があれば何とかできるようなこともあり、先に勉強することもあります。ある生徒はすごく頑張って、3年の物理や大学の物理もちょっと予習したんですが、2年生の物理では成績が下がってしましました。ただ、その後すごく頑張って、進路実現を果たしまして、頑張った分だけ、とはいっても運にもよりますが、あとから教科学習につながるところはたくさんあるので、進学とそんなに親和性が低いわけではないかなと思っています。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございました。
 熱く対談がございまして、2校の先生方、ありがとうございました。大変よい内容だったかなと思います。またちょっとお伺いしたいようなところがありますね。
 それでは、このヒアリングの内容を踏まえて、今後こちらでも議論を深めさせていただきたいと思いますし、もし先生方からも何か我々のほうに御提案等ございましたら、またお寄せいただければと存じます。今日は本当にありがとうございました。
 それでは、次に進みたいと思います。その他の議題ということで、まず事務局の皆様より、最近の政策動向について御紹介いただきたいと思います。
 對崎補佐、お願いいたします。
【對崎人材政策課長補佐】  ありがとうございます。資料3でございますが、まず資料3-1が予算関係の資料で、資料3-2として人材委員会下部に設置したWG関係の資料、資料3-3で大臣タスクフォース、資料3-4として大学院部会のまとめとなってございます。簡潔に説明させていただきます。
 まず1枚進んでいただきまして、特別研究員制度、ポイントだけ説明してまいります。20年ぶりにDCの最終学年のみ、一部在籍者に対して月額3万円、年額36万円の増という形で研究奨励金の特別手当を付与する形にしております。また、PD、RPD、CPDにつきましては、家族の海外往復渡航の支援も追加で措置できるようにしております。
 博士後期課程学生の支援事業、JSTのSPRINGでございますが、こちら、補正予算のほうで1万800人に3年分を大学ファンドの運用益と併せて支援していくという形で、JSTの創発基金のほうに充当する予算を確保しております。
 また、インターンシップの関係は、同額でございますが、引き続きジョブ型インターンのさらなる発展や活用の仕方等も検討していく予定でございます。
 卓越大学院プログラムは、この後、高等局から簡単に説明いたしますが、基本的に国から補助金額は低減する形になっておりますので、予算は減っておりますが、事業は着実に実施しているというところでございます。
 女性の活躍関係は、ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブという事業で着実に予算を増して、さらに新規採択も含めて取り組んでいくというところでございます。
 若手育成関係は、右肩、補正予算のほうの資料にも入れておりますが、国家戦略分野の若手研究者と博士後期課程学生の育成として、次世代AI分野の研究者と博士後期課程学生への支援の補正予算として213億円を、これも同じくJSTの創発基金に充当しております。また、JREC-IN Portal等の活用等も進めてまいる予定でございます。
 研究開発マネジメント人材関係は、URAの事業を文科省内局で実施しておりましたが、次年度以降、JSTの運営費交付金のほうに財源を移し、プログラムマネジャーの育成と併せて、こうしたURA等の研究開発マネジメント人材の育成のための研修等の事業を進めていく予定でございます。
 SSHについては、平成14年度からということで、文部省と科学技術庁が一緒になったときから、まさに人材委員会とときを同じくしてスタートした事業ですが、こちらも次年度に向けて、新規指定校あるいは重点枠の中の重点枠数も、新規も含めて、着実に支援していく予定でございます。
 また、STELLAの事業は、事業概要のところに記載したとおり、グローバルサイエンスキャンパスとジュニアドクター育成塾を発展的に統合する形で令和5年度から開始した事業ですが、こちら、令和6年度が2年目ということで、新規も含めて、着実に採択校数を増やしていくという計画でございます。
 補正予算は、先ほど申し上げた次世代AIの人材育成ということで、現在、博士後期課程学生の公募を実施しているところです。
 また、資料3-2といたしまして、人材委員会のワーキング・グループですが、1つ目が、研究者・教員等の流動性・安定性に関するワーキング・グループということで、集中的に議論しています。また、研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材に係るワーキング・グループとして、こちらも同じく論点を絞って集中的に議論を進めているところでございます。また折を見て、人材委員会でも状況等を御報告・御議論させていただきたいと思っております。
 資料3-3として、博士人材の社会における活躍促進に向けたタスクフォースの開催についてということで、こちらは文部科学大臣を座長として、昨年11月に立ち上がりました。構成員として、各局の局長、教育関係の部局あるいは大学関係を所管している部局等も入り、省全体として大臣座長の下で議論を進めているところで、主な検討事項としては、社会において博士人材が活躍するための方策と、大学院教育の充実や学生への支援方策という、大きく2つに絞って深掘りをしているところです。何回か議論をいたしまして、民間企業、こちら、今日お越しの水口先生にもプレゼンテーションいただきましたが、産業界も含めて様々な方、経団連の方々との意見交換なども実施しまして、今年に入ってからは、実際に大学視察を行い、博士学生と大臣との懇談等も実施しております。春に向けてこのタスクフォースの取りまとめを行っていくという予定でございます。主な課題と論点を次のページにまとめておりますが、先ほど申し上げた2点の論点について、個別に文科省の視察も含めて充実を図っていくというところで議論しております。
 続いて、資料3-4については高等教育局より説明いたします。
【金井高等教育政策室専門官】  高等教育企画課の金井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、卓越大学院プログラムについて御説明いたします。こちら、海外のトップ大学や民間企業等と組織的な連携を図って、世界最高水準の5年一貫の博士課程学位プログラムの構築を目指す取組を国として支援するものでございます。平成30年度に事業を開始しまして、現在30件の取組を採択し、支援しているところです。当省としても博士人材の育成や大学院改革のための重要な施策だと考えており、令和6年度予算案として、こちらの30件の取組の推進に必要な予算として、約36億円を計上しているところです。
 続きまして、資料3-4、人文科学・社会科学系における大学院教育の振興方策について(審議まとめ)についてです。こちらは中央教育審議会の大学分科会の下に設置している大学院部会において、人文科学・社会科学系の大学院の在り方について継続的に議論を行い、12月22日に大学分科会において審議まとめとして取りまとめたものとなっています。
 審議まとめの本文は添付しておりませんが、約20ページ弱ほどのレポートとなっております。本日はこの3枚物の概要資料で、簡単に全体を御紹介いたします。
 まず2ポツ、人文科学・社会科学系大学院の現状でございます。人文科学・社会科学系では、大学院進学の問題意識がより具体的で明確であって、学部から直接進学する学生や社会人の修士課程への満足度が高いこと、満足度が高いのは、自らの関心への適合度や裁量・主体性の高さによるところが大きいことを記載しています。
 一方で、主に研究者や大学教員志望者のための進路だと考えられている傾向があること、学位取得までの期間が他の分野と比較して長いこと、修了者の社会での多様な活躍の場と機会が可視化・定着していないことなどについて、本審議まとめ本文ではデータを交えて示しています。
 次に、3ポツの今後の人文科学・社会科学系大学院の在り方でございます。課題の1つ目として、社会的評価や認知の不足に関する課題を改善する取組を進めていく必要があるということ。課題の2つ目として、大学院教育そのものの課題への改革を進めていく必要があることについて記載をしています。そして、改革の方向性として、この2つの課題を並行して対応を進めて、全体として解決を目指していくことが必要であるという形となっています。
 次のページ、具体的方策でございます。まず、社会的な評価の向上と認知の拡大に向けて、6つの取組の必要性について述べております。具体的には、1ポツで、大学が育成する人材像の明確化。2つ目で、社会が求める人材像の明確化としまして取り組むべき視点を明記しております。3ポツでは、社会の様々な分野での活躍促進としまして、公的機関でのロールモデルの充実に加え、URAなど多様な人材のキャリアパスの充実についても必要性を提示しています。4ポツでは、大学間・企業等とのネットワーク型教育の推進としまして、大学院が連携してチーム型の教育研究や組織的な就職支援体制への転換を促進することについて記載しています。5ポツでは、国際的な大学間連携の推進。6ポツでは、リカレント教育やリスキリングの推進についても触れています。
次に、2として、幅広いキャリアパスを念頭に置いた教育研究指導の強化案として、6つの取組の必要性について述べています。1つ目としまして、教育課程・研究指導の質保証について触れた上で、2ポツでは、円滑な学位授与の促進について述べています。その上で、3つ目として、博士課程はあくまでも学位授与に向けた一連の教育課程であることなど、指導教員の共通理解の徹底を図る必要性について記載しております。4ポツでは、このような共通理解の徹底を実効性あるものとするためには、組織的な対応が必要である旨を記載しています。さらに、5ポツでは人材の多様性と流動性の確保、6ポツでは学部と大学院の連携・円滑な接続について、具体的な方策を提示しているところです。
 3ポツ、情報公表の促進においては、学位を取得するために要する平均年数ですとか標準修業年限期間が満了した時点での修了者、在学者、退学者の数と割合など、こういった情報公表の必要性について触れるとともに、学校教育法施行規則にこれらの事項について位置づけることを含めて検討を進めるべきであるとしております。
 最後に、大学院教育改革に向けた今後の取組です。今後の課題として、大学院と社会との接続の在り方や、リカレント教育の推進の在り方など、引き続き、大学院部会において審議を進めていくことが必要であるということを示してございます。
 審議まとめの説明は以上となりますが、文部科学省としましては、この審議まとめを各大学の現場に届けるよう努めるとともに、各大学に対しては、本審議まとめを踏まえた大学院改革の取組を進めていくよう促してまいりたいと考えてございます。
 今回、情報公表の促進について、制度改正についての具体的な提案をいただいておりますので、その議論も深めていきたいと考えております。
 私からの説明は以上となります。
【狩野主査】  御説明、大変ありがとうございました。
 では、今の御説明に関しまして、何か御意見、御質問ございましたら、お知らせいただけますでしょうか。
 杉山先生、お願いします。
【杉山委員】  幾つかございます。まず、人文科学と社会科学は問題点がかなり違っていると私は思っていて、だからここは一緒に議論しないほうがよいのではないかと思うところはあります。社会科学のほうは、それぞれ必要な、社会のイノベーションにつながるような人材はそれなりに出せていると思いますが、一方で、法科大学院のように、従来の大学院とは違うものができた結果、従来の教育がちょっとうまくいかなくなっているという問題点もあります。人文科学のほうは、やはり博士を取ったときの価値というのが何だか、それは打ち出し切れていないんだと思っています。だから、ここは2つ、違うのかなというところは少しコメントしておきたいと思います。
 やはり人文系では、博士を取った後のキャリアパスというものがうまく描けず、40になるまで延々と非常勤講師を続けてようやく、というのがかなり普通になってしまっている状況は、何とかしないといけないと思います。
 また、新しく出てきた「国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成」の話、すばらしいと思いますが、こちら、1人当たりの単価がすごく高いんですよね、390万。これ自身はすばらしいと思いますが、学術振興会の特別研究員より高くなってしまっているので、格付のような意味合いで、ここがいきなり突出してきて、大学の中ではSPRING事業や卓越大学院も含めた他のものとのすみ分けで若干難しさがあるというか、非常に人気のある人材だから大学にとどめておくには大きなお金が必要だという議論なのかもしれませんが、この事業がどうしてこんなに高い金額設定にされたのか、教えていただけたらうれしいです。ほかも全部こうなるなら大変いいことだと思うのですが。
【生田人材政策課長】  「国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成」について、杉山委員のご指摘は、390万だと、DCの単価――先ほど少し御紹介したように、3年生だけ少しかさ上げをして、それでも240万――と比べると、そちらのほうが今までプレミアム的なものだったのに対して序列が崩れるのではないかという御質問だと思います。それは本当に我々も悩みどころではあるのですが、基本的にこちらの国家戦略分野のほうは、もともと組織を通じて、キャリアパスの支援も通じ、かつ、390万というのは研究費と生活費相当を足して390万と。DCのほうは、基本は、研究費のほうは科研費から別途という形で、少し性格の違う事業として位置づけております。
 一方でDCについては、20年ぶりに少しだけ上乗せできたとはいえども、全体としてそれで十分かというのは、引き続き我々としても問題意識は持っておりますので、そこは大きな声をバックに、頑張っていければと思っています。
【杉山委員】  DCについては、3万円追加されたのは大変良かったのですが、よくよく見ると支援人数は減っているんですね。4,196人が4,142人になったということで、それはあまりうれしくないですね。
【生田人材政策課長】  SPRINGの事業が充実してきている中で、博士全体の人数は我々としては当然確保して増やしていきたいと思っています。
【杉山委員】  クオリティーを上げて、いい人だけに高いお金をというのは一つの考え方だと思います。今、序列がいろいろばらばらになっている感じもしますので、整理のほうよろしくお願いいたします。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 ほかはいかがでしょうか。長谷山先生、お願いします。
【長谷山委員】  北海道大学の長谷山です。
 少し気になるところがございますので、発言させて頂きます。資料3の最後のページの③「情報公表の促進」についてです。博士課程修了者の標準修業年限超過率の公表を促進するということかと存じますが、博士課程の学生には、ライフイベントもあり、途中で長く海外等に滞在しフィールド研究を行うなど、多様なケースが出るものと思います。大学の数字を公表すれば、各大学の特徴を理解する機会無く、単に数字の大小で比較するということになりかねません。数字を出して公表するときには、その目的と示される数字のしっかりとした定義の明記をお願いします。
 以上です。
【狩野主査】  加えますと、これ、目標は何のために公表することにされたかもぜひ教えていただければということも思いました。お願いいたします。
【金井高等教育政策室専門官】  高等教育局の金井です。コメントありがとうございます。
 情報公表の促進、まさに先生がおっしゃるとおり、単に数値のみを公表する形というのは望ましくないと思っております。コースワークと研究指導の在り方や、留学の位置づけ等も修業期間と関わってくるところですので、そういった数字が何を意味して、どのような情報と組み合わせて参照することが必要なのか、大学としてその数値をどのように評価していて、今後どのようにその結果への対応を図る予定なのか、そういった分析や解説と合わせて説明することが期待されるというところを、本体のほうで丁寧に記載しています。ぜひ本体も御確認いただければと思います。よろしくお願いいたします。
【長谷山委員】  ありがとうございました。
【狩野主査】  ありがとうございました。
【杉山委員】  これの狙いなんですけど、多分間違いなく、いまだに文系の、特に人文系の先生は、そんな3年でドクターなんか取れるはずはないと。本を1冊とにかく書き上げないとドクターは出さないという先生はまだそれなりにいます。1冊を書き上げるだけの勉強量を積み上げるのは、ドクター3年間では到底無理だということであれば、例えばマスターの最初からちゃんとそういう指導をするべきだと私は思っていますが、そういう意味で、やはり3年で終わらない人はとても多い傾向にあるというのは、グラフを見てもそうだと思いますし、そこに問題点があるのは確かだと思います。
 ただ、長谷山委員がおっしゃるように、青年海外協力隊に2年行ってきましたみたいな人もいっぱいいるので、多様性はとてもあります。
【狩野主査】  あるいは、ここで議論しているような社会人博士を増やすということになると、年限どおりにはなかなか終わらないと思われます。あるいは、人文科学系と社会科学系を一緒に考えないほうがいいというお話がありましたけど、問いを見つけるのも大変といった事情もあるかと思いましたので、一概に本だけとも言えないかなと思った次第でした。
 柳沢先生、お願いします。
【柳沢委員】  確認というか、ちょっとよく分からなかったのですが、この新しい、2回目のJST-SPRINGというのは、基金化されているんですか。これそのものが基金化されていて、大学から見れば年度をまたいでかなりフレキシブルに使えるという理解でしょうか。
【對崎人材政策課長補佐】  基本的には修業年限3年ないし4年の継続的なプログラムですが、それが少なくとも令和8年度まで続く分の予算を確保しています。
【柳沢委員】  それはすばらしいですね。
 あと、タイトルに博士後期課程学生への支援となっています。これはこの会で私もほとんど毎回言っておりますが、卓越大学院でも触れられていたように、5年一貫で修士を出さないプログラムもだんだん増えてきていると思います。そういう場合には前期から支援していただかないと、そういうところには学生は来ないです。後にも先にも経済支援が一番大事だと私は思っていますので。
 これもこの会で何度か言ったと思いますが、アメリカの、特に一流の大学では、博士課程と修士課程は積み重なる縦の関係ではありません。博士を取る人は最初から博士課程に行く。修士課程は一種の職業訓練大学院で、一流大学ほど別コースであることが多いです。日本もそういう形態になっていくのではないかと思うので、この後期支援という言い方を、できたらやめていただきたいです。
【杉山委員】  まさにそのとおりだと私も思います。MIT等もたしかそのようになっています。大学院のマスターコースについてはある種大学にとってお金儲けのようなところもあり、そちらには高額な授業料を課すのですが、ドクターというか、Ph.D.コースという言い方ですね、それはもはや取らない、むしろ給料を払うのが当たり前となっています。我々、競争力という点で、良い学生が海外、アメリカなどに比べて取りにくい状況があって、マスターから良い学生を採らないと、なかなかマスターやりました、ドクターからという人は、留学生ではさほどいない。そこはおっしゃるとおりだと思います。
 全体の予算がもし限られている中でどういうふうに割り振るかという問題だと、また課題はあります。
【對崎人材政策課長補佐】  ありがとうございます。
【狩野主査】  ありがとうございます。他はよろしいでしょうか。
 そうしましたら、ここまでの説明・議論を踏まえて、今後の人材政策のありようについてという大変大きなお題でお話をしたいと思います。100回を迎え、今後に向けて考えるいい時期ではなかろうかという話がございまして、しかも私の名義で1枚どうですかという話もありましたので、取りあえず私見も含めて資料4としてまとめさせていただきました。これをたたき台にして、皆様から方向性についての御意見をいろいろ出していただく時間にしたいという趣旨でございます。いろいろな省の仕事もさせていただくと、文部科学省が一番、中長期的な人材育成ということについての役割を背負っておられるということもあり、その中の人材委員会ですので、ぜひそういう視点で話をしていただければ幸いです。
 科学という言い方をするといろいろな内容が含まれ得るかと思ったので、取りあえず私の理解の定義を最初に書きました。その上の1行は、経済発展した後に何を目指すのかというところがきっとあろうかと思います。そのときに、もし我々がより充実感を持って生きるということであるとすると、どんな充実感のありようがあるかと思い、探していると、ちょうどいい、この「創意工夫」を「誰かのために」しているということが、人間、生まれてからずっと楽しくやっていることではないだろうか、という表現を見つけましたので、書かせていただきました。
 まず中長期の振り返りからしていくと、まず、科学技術が入ってきた当初は、江戸時代の末期かと思います。もちろんその前の鉄砲伝来もあったかもしれませんが、取りあえず江戸時代末期からすると、やはりこの頃から、もはや医学においては有用性に通じるもの、そのほかの平賀源内などは好奇心等から来たかもしれませんが、政策的支援ではなかったということですね。社会の中にそういうことを面白がる人がいて、ということだったと思います。
 政策的な支援が始まったと私が思っているのは明治維新からですが、どちらかというと富国強兵、経済発展及び強い国家のための、という感覚がしております。77年間とわざわざ書いた理由は、終戦後、今ちょうど77年経過した頃らしく、そうすると、明治維新から終戦までと今までが同じ期間になっているということですので、一種の節目かしらということで書いてみました。
 その後、終戦以来は、ちょうど秋田魁新報だったかに、終戦直後に、それまでは「勝つための科学技術」と書いてあったのが、急に「復興のための科学技術」にお題が変わっている記事を見つけました。その後、「技術・経済発展のため」が続いた上に、さらにビブリオメトリクスなどのソフトパワー的な科学技術の支援というのがずっと続いてきたと理解をしております。
 ただその途中で、原子力発電所の災害などがあって不信が増幅する時期が十数年前にあり、パンデミックもあり、それからアカデミア周辺では就職困難という印象が拡大するような事象が続いており、デジタルや人工知能が拡大して記憶だけじゃなくて「問い」が必要だよねという世情が急に広がってきており、それからパンデミックの対応を見ていて日本の科学技術で何か新しいものできるかと思ったけどできなかったよねという話があり、さらには世界的な枠組みの中では、気候変動、災害激化、それから国際枠組みの変化と記載しましたが、いろいろなことが変化していて、既存パターンでは無理だということがだんだん見えてきているように思っています。あるいはその中で、日本の社会、今まで同様的な社会で頑張ってきたけれど、多様も大事だということを急に言い始めているということもあると思います。この中で一体どんな人材を育てたいのというのと、資金の適切な配分の仕方が大きな課題になっています。
 人材委員会そのものをこの機会に振り返ってみますと、1回目は2001年の第二期科学技術基本計画が始まるときに設立されました。当初は世界トップレベルという言い方がされていて、それについて審議と。それからその次に、科学技術と社会という視点に立った人材育成という言い方になっていて、さらにその後に、博士号取得者の活躍促進や基礎科学力強化のための若手育成、そして産学連携をぜひということ。さらにちょっと急に飛びますが、令和5年ぐらい、若手の支援方策の在り方について議論された結果、今日いくつか御紹介いただいた政策がこの委員会の議論を通じても出てきていると見受けました。
 では100回以降は何をするのかということを、今日、特にこの期は一体何をしますかねということを問うてもよいのかしらということでまとめた内容です。私が断言しても仕方がないので、今のことを踏まえて、私なりの問いを並べてみたのがその下でございます。
今後の「優秀・卓越」の定義は何なのか。今までビブリオメトリクス的な優秀・卓越がずっと来ていますが、あるいは、財務省方面も多分、優秀・卓越というとお金が出やすいのかもしれませんが、では、優秀・卓越というのは一体どういう内容で優秀・卓越なのか。
それから、新規の成果を新しく作る、導く側の育成、そういうことも大事ですが、さらに、世の中がそれを受け止めてくれないとお金もつきません。そういう意味で、広い層にこういうことの大事さを、しかも御利益じゃなくて方法も大事だと知っていただくにはどうしたらいいだろうかということも、きっと1つの疑問ではないでしょうか。
 それから、トランスファラブルスキルという話がありましたが、これの共通化できることは何だろうと。これは少し小さめの質問ですね。
 また、「博士人材」として認めるために最低限必要な能力セット、これは学位を出すときに、例えば産業界からの方が増えたとして、一体どこまでやれば学位を出すのにふさわしいのであろうかということも、多分この期に及んで質問になるのではないかと思います。
 それから、文化圏という言い方をしましたが、国境文化圏もあるし、社会規範の文化圏もあるし、あるいは産業とアカデミアもそうですが、要するに、文化圏の内外両方が視野に入った人材が行き来できるようにするにはどうしたらよいかという問いもあるように思います。
 それからさらに、国境を越える場合には、主な対象地域として、今まではより進んだ地域のことを見て学べというやり方でやってきましたが、それが一体今どこにあるのかという問題もあるし、それからさらに、もしたくさんの人に来てほしいとしたら、一体どういう国から来てほしいのかという問いもここに入っていると思います。
 この一連の問題について何かやろうとしたときに、今までの改善で済むことは何で、あるいは、新しくやり始めておかないと実現していかないことは何なのかと。そういうことをこういう委員会で議論した上で何か政策がつながっていくと、いろいろな状況で、例えば国費を出費するときにも様々なやり方が今ありますし、増えていかなければいけないものとして、国を守るという言い方も最近あります。それから世代構成が変わっていくことによる支援費用が増えるという言い方もある中で、さっきお話のあったような、科学技術にお金を出さないといけないんじゃないですかという議論につなげることができるのかということも問われているように思います。
 参考として記載しましたが、最初にウェルビーイングというか充実感について少し話をしましたが、今のところ、一般的にサイエンティフィックな方法で証明されていると言われている充実感について調べてみました。すると、健康、それから人間関係が支えられている気持ち、お金が少ない場合は所得、それから生業を得た後に失業しない状態が続くことが大きいと言われています。それから社会の要因としては、1人当たりの所得が上がればよいのですが、ただ、よく上がってきた国においては、逆に幸福感が今下がっているという現象が随分前から言われていて、パラドックスと言われています。それから健康寿命、社会的支援、個人の自由、よい政府への信頼、それから寛大さ、平和というふうに続いていると参考文献に書いてあります。
 日本の現状はというと、内閣府の調査では、0から10までのうちのあなたはどのぐらいにいると思いますかと聞くと、現在、5.8だそうです。
 というのが現状でありまして、この中で人材委員会というのは一体何をするのかなということを、1回このぐらいの視野範囲から聞くのも悪くはあるまいと思いまして、書いてみました。
 それではあとは意見交換といたします。皆様の御意見を伺えましたら幸いです。お好きな問いについて答えていただいてもいいし、この問いの立て方自体がおかしいんじゃないということもあると思います。この人材委員会で扱うにはこの問いが優先ではないかということでもよいかと思います。
【杉山委員】  杉山です。ちょっと全く異なる観点になりますが、ここのところずっと言われているのは、イノベーションを起こす人材をどう育てるかということだと思います。その中に、もちろん起業というものもあるだろうし、視野の広い人材という視点で言うと、例えばこの間、アメリカ人の女子学生が10人ぐらい来たときに何を専攻しているか聞いてみたら、みんなダブルメジャーだと言っていました。日本はいまだにシングルメジャーで大学教育をやっていると思いますが、そのあたりの在り方を一つ掘り下げていかなければならないというのも事実だと思います。その掘り下げていくのと視野を広くするあんばいを、日本はずっと変えないできていますが、今後どうするかとか、そういうことも考えていかないと、イノベーションを起こす人材とはどのような人材かというのが、我々は全然明確化ができていないのではないかと思いました。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 水口委員、いかがでしょうか。
【水口委員】  弊社の話をいたしますと、いろいろな博士人材が活躍しています。研究開発に限らず、事業開発や、私も財務を担当しておりますし、法務・知財、人事や人材開発というところでも、博士人材が活躍しております。
 企業側が博士人材に求めるスキル等よく言われますが、このような博士人材が共通して持っているスキルとは何かというところを突き詰めるのも、一つの切り口としてよいかと思います。私の感覚的には、ベンチャーでは、明確な正解が決まっていないことが多く、ふわっとした中で、模索しながら正解を見つけ出していくことが必要になります。これは研究を行っていく過程でも身につけられるものかなと思っており、そういったところが生かされているのかなと感じています。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 せっかくダブルメジャーが出ましたので、桝委員がある種、セクターを超えている人のような気が私はしておりますが、どうでしょうか、御意見ございましたら。いきなり振ってすみません。
【桝委員】  実はそのセクターを超えるハードルというのを、昨日の某社会人課程博士の入学試験で痛感してしまったという、非常に心がばきばきに折れた状態で今迎えております。ただ、今思ったのですが、先ほど新規成果を受け止める側の深耕という話があったところとも絡みますが、やはりアカデミアと実社会で求めているものの方向性が違うといいますか、価値を見いだすものの基準が違うというところは、案外お互いに理解されていないのではないかと私は感じております。
 社会人が、社会課題ドリブンで考えて、こういうことをしたいと思ってアカデミアに入ると、学術意義って何ですかと聞かれてしまうということがあります。このギャップは、本当はもっとお互いに理解していれば、お互いにこうアプローチすれば学術的意義が生まれるとか、逆にこうアプローチすれば社会的意義が生まれるとか、もしかするともう少しお互いの基準をすり合わせることができるのではないかと思っています。それが一つ、社会とアカデミアをつなぐかけ橋として大切なのではないかと、我が身で痛感しているという意見でございます。
【狩野主査】  桝委員、そこは例えば政策とか資金があればできそうなこと、何かありますか。
【桝委員】  その間をつなぐのは結局人なのではないかと僕は思っています。それは僕自身が、先ほどダブルという話もありましたが、自然科学と人文科学も全くその基準が違うということを知らなかったので、そこも含めて、間に立てる人、両方を理解できる研究者なのか、あるいはURAなのか分かりませんが、そうした人材・役割の育成が大事なのではないかと感じております。
 質的研究と量的研究の違いですらこんなにも分断があるのかということを私は今感じておりますので、そこはもしかすると人材が解決するんじゃないかなと感じております。すみません、ちょっとジャストアイデアですが。
【狩野主査】  確かに、おっしゃるとおりですね、これも。本当はSSHとかで扱ったらよいのですが、どうしても量的に皆偏っていくので。ありがとうございます。
 村上先生、お願いできますか。
【村上委員】  ありがとうございます。私は今の桝委員の御意見にとても賛成しております。文系・理系という表現がいいのかどうか分かりませんが、その垣根を越えるとかつなげるとか、そういう人材が必要ではないかと思っています。今、いろいろな知識が並列的に存在しているという印象を持っていて、それをつなぐ、あるいはオーバーラップさせるとか、そういうところにいろいろなイノベーションの芽があるように感じています。
 ですから、その垣根を越える人材がどのように育てられるのかというのは一つ課題だと思って、今、杉山委員がおっしゃったようなダブルディグリー制にその活路があるのか、それは今後いろいろ検討していくべきところではないかと思いますが、垣根を超える人材の重要性というのは私も感じております。それから、今御発言がありましたように、アントレプレナーの人材がなかなか日本は少ないということで、それこそ水口委員御自身もそうですが、科学技術をベースにしたアントレプレナーをどう育てていくかというのも課題ではないかと考えております。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございます。多分素質がある人はきっといますが、その後どういう職に就けるかということで不安がある場合があると思います。何か村上先生の近くで、そういう人の職を増やすとしたら、どういう手だてがあるか、いかがでしょうか。
【村上委員】  職を増やすという意味でいうと、いわゆる起業を支援するような政策ということになろうかと思うんですけれども、そもそもアントレプレナーシップをどのくらいの方が持っておられるのかというのもあると思います。また、大学関係や大企業の研究所で人生を送ることとアントレプレナーになることのコストベネフィットというのはやっぱりあって、そのコストベネフィットは社会の情勢に、つまり政策も含めたものに大きく関わっていると思います。
 アントレプレナーシップがどう育まれるかについては、私は教育学者ではないので存じ上げませんが、そういう精神を持った方というのはもしかすると何らかの原体験みたいなのがおありになるかもしれません。専門家の方は御存じかもしれませんので、知りたいなと思っています。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 では、梶原委員がもしかして少しそういうことを御存じかもしれませんという期待も含めて、お願いいたします。
【梶原委員】   私が文部科学省に検討いただきたいと思うのは、日本の高校生があまりにも早い段階から文理選択を強いられているという現状が社会に出てからもかなり尾を引いていることです。弊社もそうですが、企業のほうは文理融合が必要だと思っていますが、例えば女子の理系人材が少ない現状が挙げられます。変わってきていますが、アンコンシャスバイアスも影響し、女子生徒が男性と同じような率で理系を選んでいるような傾向にないと考えたときに、あまりに早い段階で文理の選択を迫られ、そのまま変わらずにいる、変えづらい状況にあるというのは問題かと思います。本来であれば途中で文系から理系、あるいは理系から文系に柔軟に変更可能ということが良いと思いますが、それができていないために、日本社会の中で多様性に対する寛容性のようなものが欠落しているようにも思います。イノベーションには多様性が必要と言いながら、社会システム的には一つのまま変わっていないのが実情だと思います。そこを大胆に変えられる方法が何か、その対策をできないか常々考えており、良い機会なのでこの場で発言させていただきました。御検討ください。
【狩野主査】  ありがとうございました。梶原委員、確認ですが、今おっしゃった趣旨としては、文理選択のことだけですか。あるいは関係して、ほかの分かれ道もおっしゃいましたか。
【梶原委員】  ベースは早すぎる文理選択のことです。それが原因になって、社会システムは変わらず、なかなか多様性が生まれにくい、理系の女子学生が少ないなど、全部に関係してくる諸悪の根源と思っています。最後の最後で決めていくのは良いと思うのですが、早い段階で文系・理系を決定してしまうことをせずに、むしろ文理融合できるような仕組みの検討も必要に思います。理系の人でも文系の素養があり、AI関係もそうですが、文系の人でも理系の素養がある。そういう人材を社会や企業が求めていると思いますので、あまりにも早い段階で文理選択を決めてしまわないような仕組みがよいと考えています。
【狩野主査】  よく分かりました。ありがとうございます。本当は高等教育局以外にも本日来ていただければよかったのかもしれないと思うような内容でございます。ありがとうございます。
 稲垣委員、お願いいたします。
【稲垣委員】  今の梶原委員と全く同じで、中等教育の文理の隔てがかなり大きいのかなと思っています。
 さらに言うと、この人材委員会の対象ではないかもしれませんが、小学校・中学校の画一的な教育、違っていいとか得意なところ伸ばそうというような観点の教育をもっと強化していかないと、最終的な高等教育の一番上の博士課程をいくらてこ入れしても、なかなか難しいのではないかと思います。どこまで踏み込めるか分かりませんが、中等教育や初等教育の部分にも言及するような提言ができるといいのかなと個人的には思っています。
 以上です。
【狩野主査】  なるほど。ありがとうございます。
 柳沢委員、お願いいたします。
【柳沢委員】  今のお二人の議論、私も同感です。これは大学受験制度のせいですよ。
【杉山委員】  それ、まさに同じことを私も言おうと思いました。
【柳沢委員】  これも何度か申し上げたかもしれませんが、私は子供を3人ともアメリカで全部育てました。アメリカの大学は基本的に入学するときは全部リベラルアーツです。文系・理系というのがエクスプリシットには分かれていない。もちろん現実には分かれています。現実には理系志向の子と文系志向の子で実際に取る単位は違うし、多くの子は分かれているのですが、そこに混ざっている子もいます。両方を狙おうとしている子もいるし、現実に、文学部出身で、その後、メディカルスクールに行く子もいます。だからそろそろ日本も、大学をそもそも文系学科、理系学科、学科で受けるというシステムを変え始めたらよいのではないかと。大きなスケールの話でいきますとね。
 もっと言うと、アメリカの少なくとも一流の大学は、二次試験というのがありません。御存じのように、コンピューター化された一次試験のようなもの、これも実は複数回受けられます。1回受けて自分が実力を発揮できていないと思ったら、2回3回受けることができます。あまりたくさん受けると減点されますが。
 それと、幾らでも時間をかけて書いてよい1ページぐらいのエッセイと、一番大事なのは高校の成績です。高校の成績が圧倒的に大事で、しかも多くの大学が9年生から12年生まで4年間の高校成績を参考にするので、マラソンなんですね。うちの娘たちも高校の成績を取るために大変な努力をしていました。その代わり、いわゆる二次試験に当たるものはございません。
 それによって、さっき堀川高校の先生方も言っていましたが、日本の高校生は、特に高学年なると、予備校や塾との二重生活を強いられて――これは今、小学校から始まっているのかもしれませんが――これはやっぱりかわいそうですよね。高校で一生懸命勉強していい成績を取っていれば自然にいい大学に行けるというシステムに変えるということを、何もかもアメリカのまねをすればいいとは思いませんが、そういうスケールの話もし始めたほうがよいのではないかと思っております。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 杉山委員、お願いいたします。
【杉山委員】  日本の場合、難しいのが、高校が偏差値で完全に輪切りになっているので、ある高校でいい成績を取ったからという評価は、少しやりにくいですよね。
【柳沢委員】  ありがとうございます。言い忘れておりましたが、アメリカの少なくとも一流大学は、アメリカ国内の高校の完璧なデータベースを持っています。この高校でこういうコース――APとかいろいろありますので――を取っている子がこの成績だとどのぐらいの実力か、分かるようにできています。高校側も、嘘をついて適当にかさ上げした成績をつけると、信用が一気になくなってどこの大学も採ってくれなくなるので、そういうことはできないという。おっしゃるとおり、そういうシステムが必要です。
【杉山委員】  だから、きちんとノーマライゼーションができているということですね。
 私も同じような意味合いで、確かに初等教育から中等教育にも問題はあるのかもしれませんが、それを言ったら大学入試のためにこうなっているのだと言われるのが落ちのような気がしています。ではなぜ文理融合やリベラルアーツのようなことができないかというと、まず、定員の管理が非常に厳密化されていて動かせないといことを言わせてください。例えば大学の中に入ってみて、実はこっちのほうが向いていたというところで、別の学部に移すことができないんですよね。やってみたら文系が面白かったとか、実は理系に移りたいとか思ったとしても、転科等が大変しづらい状況になっています。それは定員が相当きつく管理されていることに加えて、入試の得点の関係もあるので、なかなか簡単にできないというのが一つ問題だと思っています。
 また、アメリカの大学だと転校のようなこともあるわけで、少し多めにとって、ついてこられない子は下の大学に移ってもらうというようなことも、カリフォルニア等ではあると聞いています。それを日本でどのようにやるのかは難しいかもしれませんが、大学の学部教育の在り方を変えていくことによって、よりリベラルアーツ、そして文理融合がうまくいくような仕組みをつくっていかなければならないような気はしています。
 あともう一つ、日本に完全に欠けているのは、リベラルアーツ専門の大学です。日本だと、間違っていたら恐縮ですが、せいぜいICUと、秋田の国際教養大学ぐらいしかないと認識しています。そういう意味で、大学自身がディシプリンに基づいて、ディシプリンごとに縦割りの教育をしている現状があると。そこを何とかしないといけないというのが、今期の委員会の議論の一つになるかもしれません。
【狩野主査】  ありがとうございます。今経験していて思うのは、日本はやはり入り口で「仲間に入れるかどうか」が厳しくて、「仲間に入った後」はそのまま行きますね。そういう意味でいうと、アメリカの方法は、仲間に入るところはとても広いけれど、その後ちゃんと生き残れるかどうかは個人に任せるという形になっています。そういうことが社会として認識されていないと、多分ここを変えたあとにも、ややこしいことがまたいろいろ起こるだろうなということも一方で思いながら、伺っておりました。
 隅田委員が挙手されていますね。
【隅田委員】  2点ございます。1点は、最初の「優秀・卓越」に関わるところで、現在、「今、どれだけできるか」といった、現状で評価されることが多いと思いますが、もっとポテンシャルを評価することで、多様性を組み込むことができると思います。やはり経験が違う、それなら早く開始したほうが、いい経験を先にした方がとなるのではなくて、これからののびしろというかポテンシャルを踏まえた支援をすると、いろいろな層にもっと支援が行き届くのではないかというのが1点。
 もう一つは、やはり人口がこれから減り、特に若者の人口が減ることを考えたら、量か質かではなく、質が高い人材の量を増やさないといけないと思うんですね。そうしたときに、今日の高校のような話をいい事例にして、もう少し年齢を下げて、中学校・小学校で質の高い教育をみんなに展開していくというのは、重要なポイントだと思います。
 以上です。
【狩野主査】  ありがとうございます。ポテンシャルの評価というのは、言うのは簡単ですが、どのように測るかはなかなか悩ましいと思っています。それから、質が高い人材の量を増やすという件についてですが、日本の今の教育制度は、みんなができなければならない能力を高くする能力は、非常に高い印象です。その中で、個々人が違うところを伸ばす方法というとやはりそうはいかないという、その両バランスで成り立っていると思っています。その意味で、質が高くて量が多いとはどういう意味かというのをお伺いさせていただけますでしょうか。
【隅田委員】  ありがとうございます。まず1点目のポテンシャルは、例えば第2言語等が分かりやすいです。例えばネイティブの家庭教師をつけてずっとやっている、あるいは海外経験がある子と、そうではない子は全く違いますよね。それを同じ尺で測るのは公平なのか。逆に言うと、経験はないけれど、言語にとても興味があって、環境があれば大きく伸びそうな子もいますよね。そういうのはサイエンスでも当然あって、現時点だけではなくもう少し長期的な視点を含めて、考慮して評価しましょうという事例はございます。
 質と量の関係は、先ほどの、多様にやりましょうとか質が高くてもそれを一律にやってしまうと面白くないわけで、いかに自由度を高めながらという、そこで多様性を包摂する。例えば平均点を高くするのではなくて、一定以上に達成する子の率を増やしていくとするとか。そうするとまた違う話になると思います。幾つか方法はあろうかと思いますが、とにかくこの人口減を考えると、かなり喫緊の課題かなと思います。
【狩野主査】  ありがとうございました。
 ほかにぜひ、まだ発言されていない方で加えていただけないかという気がいたしますが、どうですか。
【岩崎主査代理】  岩崎です。非常に壮大で、一方で何度も繰り返されてきた話であるような気もして、何を言おうか悩みました。一つは、ここに書かれていることは、博士人材に能力がないから新しいイノベーションができない、国際的な展開ができないといった前提もあるかと思いますが、私自身はいろいろな博士人材と話していて、能力もあるし、いろいろなことにチャレンジしたいけど、時間がないとか余裕がないとか、そういうところがむしろ枷になっている印象を受けました。ですので、課題設定というより、彼らに今持っている能力をもっと発揮してもらうことが大事なのではないかと思っています。
 それからもう1点、これまでのお話で出てきていないのは、AI時代にそれをどう活用していくかという視点で、どのような人材が必要かということを再設定することが大事ではないかと思っています。もちろんAI時代だからデータサイエンス人材が必要というのは確かに一つあると思いますが、もうちょっと深く、本当にAIは強力で、特にAIはクリエイティビティが必要なことは不得意、とかそういうことではなく、とにかくデータさえあればどんどん性能が上がって、特に文章や画像といった領域では、クリエイティビティというよりもデータがあるかどうかでそのAIの性能が決まってきてしまうところがございます。AIの存在を前提としたときに、ではこれから、日本からいろいろな新しいものや新しい概念、新しい考え方、新しい生き方を提案していく人材をどう育てていくかという、AIの存在を前提にした人材育成ということを今、第100回人材委員会において、一つ新しい視点として考えていくことがあり得るのかなと思っております。
【狩野主査】  ありがとうございました。
 長谷山委員はまだここのセクションでお話しいただいていなかったでしょうか。
【長谷山委員】  長谷山です。私の分野はAIを含むのですが、つい先ほど情報学の魅力を中高生等に知ってもらうことを目的とする、8大学同時共同開催イベントのプレスリリースに出席してきました。博士課程学生は就職先としてアカデミアを希望する方が少ないのが現状かと思います。また、修士課程の学生に対しても、企業の中には、特別な年俸制で雇用する所が出てきており、学生たちは修士課程を修了して教員よりも年俸が高いところに就職して行きます。グーグル等の外資系企業の話はよく聞きますが、国内でもそのような企業が出てきています。もちろん、成果が出なければ、米国企業のように同じ条件での雇用継続は無いと思います。
 そう考えると、アントレプレナーシップというのは精神ですので、学生にそれがないのかと言うと、少なくともないわけではないと思います。成果が出なくて雇用が継続されなくても、高年俸で就職し挑戦するわけですから。それに、最近は、仕事が面白くなければ、海外でも日本でも面白い研究所に転職する自信があると言って卒業する博士課程学生も多くいます。分野によって差が生まれていて、ここで語っている博士人材というものが、変化した社会の現状にあって、「博士課程学生」という一つの言葉でくくって語ることができない状態になっているのではないかと感じます。今日の資料4で、狩野先生がどれほど考えて、きれいにまとめて頂いたかと思うと、大変に心苦しく思います。
 最後に、一言付け加えさせてください。東京理科大の石川学長が東大情報科学研究科長の頃、私は本学でデータサイエンスセンター長を務め、いろいろと教えていただきました。日本がここまで技術を持つ国になれたのは、やはり高等教育のしっかりとした教育体系と、教育者としての先達のスピリッツだと思っています。ただ、「世界が変わった今、現状のままであり続けるのか」を考えなければならないと思います。今までのやり方を否定するのではなく、その上に新しい日本流の人材育成基盤を如何に作り上げるのかを考えなければならないと痛感します。
【狩野主査】  ありがとうございます。
 ほかにいかがでしょうか。
【杉山委員】  追加を1つだけ。先ほどイノベーションという話をいたしましたが、もう一つ別に気になっているのが、日本の研究力の相対的低下という問題です。人材育成がうまくいっていないから研究力が落ちているのだとしたら、人材育成の大きな問題点ではないかと。
 幾つか理由はあるのだと思いますが、今、世界で重要となっている分野への迅速な対応、移行が大学ではできていないという問題も当然ありますし、それから評価システムがうまくいっていないのかもしれない。いろいろな理由があるとは思いますが、明確に日本の論文の数やトップ10%論文が下がってきていて、相対的に悪い数値であることは皆さん御存じなので、研究力強化という観点でも、人材をどのようにしたらいいのかというのは、何か考える必要があるように思っています。
【狩野主査】  ありがとうございます。若干私が加えたいのは、そうすると、資金循環を優先して本質を優先しない風潮かもしれないという心配が一つあるのと、もう一つが、ほかの国から我が国に人を呼び寄せたいと言っていますが、何を魅力に掲げるのかあまり明確にできていないということは、ここに書いた問いの中に実はプラスアルファされていたことですので、またの機会を楽しみにしております。
 長谷山委員、お願いします。
【長谷山委員】  杉山委員がおっしゃった「研究力」というものの定義も、考えなければならないと私は思います。論文の数や、トップ10%論文の数で測るだけの方法から、脱却すべきであると皆が思っているにもかかわらず、何年もこのままでいるということは、何が原因なのか考えなければなりません。その上で、果たして我々の国の研究力は本当に落ちているのか、妥当な方法と数値根拠を持って示す必要があるのではないでしょうか。文部科学省は「研究力が落ちている」と繰り返し言っているようですが、再考の余地があるのではないかと思います。
 以上です。
【杉山委員】  そうなると、いい指標を見つけないといけないですね。
【柳沢委員】  正確に言うと、日本が落ちているのではなくて、諸外国が伸びているのに、日本は伸びていないんですよ。
【狩野主査】  そういう言い方もできますね。
【柳沢委員】  相対的に順位が落ちている。
【狩野主査】  指標として書いた科学的インパクトと社会的インパクトは、これ、EUの構成国の1つで、この両方を測る、あなたはどちらで測られたいか選んでくださいというのを始めているというのを見つけましたので、一応書いてみたところです。いろいろと世の中が動いておりますので、こういうことも踏まえて、人材委員会でできる範囲で扱ってまいりたいと思っております。
 では、事務局にお返ししてよろしいでしょうか。
【對崎人材政策課長補佐】  活発な御議論をいただきましてありがとうございます。
 事務局からの連絡でございますけれども、次回の開催日程等はまた別途御連絡させていただきます。議事録はまた作成の上でお目通しをいただいて、ホームページに公表をする予定でございます。
 第100回、大変印象深い大雪の日ということで、皆様、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。
 以上でございます。
【狩野主査】  SSHの皆様も大変お力添えありがとうございました。
 それではこれで閉会にしたいと思います。ありがとうございました。
 
―― 了 ――
 
 

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