人材委員会(第99回)議事録

1.日時

令和5年11月2日(木曜日)13時00分~15時00分

2.場所

科学技術・学術政策局16F2会議室及びWeb会議(ZOOM)

3.議題

  1. 産業界における博士人材の活躍について(有識者からのヒアリング)
  2. その他

4.出席者

委員

 狩野委員、岩崎委員、稲垣委員、迫田委員、杉山委員、隅田委員、長谷山委員、水口委員、村上委員、柳沢委員

文部科学省

 柿田科学技術・学術政策局長、清浦大臣官房審議官、山下科学技術・学術総括官、生田人材政策課長、髙見人材政策推進室長

5.議事録

科学技術・学術審議会 人材委員会(第99回)

令和5年11月2日



【狩野主査】  それでは、皆様、13時になりましたので、開始をさせていただきます。科学技術学術審議会人材委員会、第99回目の開催でございます。
 本日は、会議冒頭より、傍聴者の皆様にも公開いたしておりますので、よろしくお願いいたします。
 本日は10名の委員に御出席をいただいておりまして、定足数を満たしております。
 それでは、議事に入る前に、まず、本日の委員会の開催に当たりまして、事務局の皆様から注意事項と資料の確認をお願いできればと存じます。お願いいたします。
【對崎人材政策課長補佐】  事務局の人材政策課の對崎でございます。本日の会議は、対面とオンラインのハイブリッドでの開催となっておりますので、対面で御出席の皆様は、御発言の際は挙手、または、名立てのほうを立てていただくような感じの合図をいただければと思います。オンラインで御出席の委員の皆様は、挙手機能により挙手ボタンを押していただきまして、主査より指名を受けましたら、お名前をおっしゃっていただいた上で御発言をいただければと思います。機材の不具合等ございましたら、対面で御出席の委員の皆様は会場の事務局宛てに何なりとお声がけをいただければと思います。オンラインで御出席の委員の皆様は、マニュアルに記載の事務局の連絡先までお願いいたします。
 資料につきましては、Zoomでの共有も行ってまいりますが、会場では、紙媒体でお配りもしておりますので、お手元でも資料を御覧いただけます。資料の確認でございますけれども、委員の皆様を含めまして、事前に送付しております議事次第が、まず、1枚目。それから、資料が大きく4点ございまして、資料1が、旭化成株式会社の久世様の本日の御発表資料。資料2が、岩崎主査代理の御発表資料。資料3のセットといたしまして、作業部会の設置の関連で、こちら3-1-1から3-1-3が、研究者・教員等の流動性・安定性に関するワーキンググループの設置の関連、資料3-2-1から資料3-2-3が、研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務人材に係るワーキンググループの設置の関連でございます。最後に、資料4が最近の政策動向等についての事務局の提出資料でございます。また、参考資料1として人材委員会の委員名簿をおつけしております。議事進行の過程で不備等ございましたら、事務局までお知らせ願います。資料の確認は以上でございます。
【狩野主査】  ありがとうございました。今日は文部科学省側も柿田局長以下、たくさんご出席いただきありがとうございます。
 今日のまず、1つ目の議題は、産業界において、博士人材の活躍をよりいただきたいということのヒアリングをさせていただきたいと思っております。
 私の問題意識として、やはり日本の大きな企業の皆様にもぜひこのことをご一緒に進めていっていただきたい気持ちが大変あり、そのためにどういうことをしていったらいいかということも含めて、今日、久世先生にお話をいただければと思ってお声かけをお願いいたしました。改めまして、今回は旭化成株式会社 取締役 兼 専務執行役員 デジタルトランスフォーメーション統括 デジタル共創本部長でおられます、久世和資様にお話をいただければと思っております。
 久世様におかれましては、海外での御経験それからCTOフォーラムなどにおいて、最近の産業界における博士人材の動向あるいは期待を踏まえてお話をいただきたいと存じております。およそ20分お願いしております。その後、20分程度、質疑応答を考えておりますので、ぜひお聞きになりながら御質問を考えていただいて、後で活発に討論いただきたいということでよろしくお願いいたします。では、お願いいたします。
【旭化成株式会社(久世様)】  狩野先生、御紹介いただき、ありがとうございます。改めまして、旭化成の久世と申します。本日は本当に貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
 狩野先生から御紹介いただきましたように、私自身、筑波大学の博士課程を修了し工学博士号を取得しました。日本でも博士号取得者が、より活躍できる環境が必要だと感じています。大学院生本人の自覚と覚悟、企業側の受入れ体制、大学側の育成体制、そもそも社会全体が変わっていかないと、なかなかそういう環境になっていかないと考えています。本日は、少しでも参考になるようなお話ができればと思います。よろしくお願いします。
 私は、87年に筑波大学の工学研究科、博士課程を修了後、IBMに入社し、IBMリサーチに入りました。当時、IBMリサーチは、8つの研究所があり、3,000名の研究者がいました。私は、その中で東京基礎研究所に所属しました。33年間、IBMに所属し、2020年7月に旭化成に入社しました。
 2020年、旭化成に入った頃から今年の3月まで、JSTの共創の場形成支援プログラムの共創分野のプログラムオフィサーをしておりました。その際にも、大学と企業が連携を各段に強化しないと、日本は厳しくなると感じていました。特に、企業側が、より真剣に取り組む必要があります。
 先日、髙見室長にお越しいただき、今回の講演内容として、産業界における博士人材の活用促進をどうするか、私自身のキャリアパス、その他ということで御要望いただきました。
 まず、産業界における博士人材の活用促進ということで、本日は旭化成の取組み、産業界全体、それから日本と海外の違いを御紹介させていただきます。
 旭化成は、積極的に博士人材も採用、登用しています。博士人材に関する取り組みの一つに、東京工業大学との連携があります。東工大の物質・情報卓越教育院は、物質科学、情報、デジタル、社会といった複数の分野で活躍できる人材を輩出することを目標にしています。その中の一つのプログラムが、プラクティススクールで、2019年から継続して、旭化成が支援しています。
 全体では30社が参画しており、プラクティススクールの実施組織は、19年が旭化成、20年はTDKと旭化成、21年は産総研と旭化成、22年は旭化成でした。毎年、博士課程の学生が、十数名、参加します。通常のインターンシップとは異なり、教授も含めて3名の指導教官も参加します。6週間で2単位のプログラムです。単に企業の経験をしてもらうだけでなく、成果にこだわってもらうことも特徴になっています。
 実施は旭化成のオフィスです。ただ、20年、21年はコロナのため、在宅とオンライン併用で実施しました。旭化成は、マテリアル、住宅、ヘルスケアの三事業領域がありますが、マテリアル領域において、2018年以前からマテリアルズ・インフォマティクスを推進しています。新規材料や新グレードといった新しい機能の材料をいかに高速に開発できるかが大変重要です。マテリアルズ・インフォマティクスでは、実験を繰り返して新しい材料を開発するのではなく、データや機械学習などのデジタル技術を活用し、材料開発の圧倒的なスピードアップを実現します。旭化成の材料研究者向けに、マテリアルズ・インフォマティクスの人材育成プログラムを推進しており、そこでの経験、ノウハウ、ツール、プラットフォームなどを、東工大のプラクティススクールで活用しています。
 サンプルでのトレーニングではなく、旭化成の材料研開発現場の実課題の解決に取り組んでもらいます。データも旭化成の実データを使ってもらいます。また、旭化成のデータサイエンティストが、常に支援する体制をとっています。
昨年からは、マテリアルズ・インフォマティクスに加えて、製造現場や工場の品質、生産効率、製造装置の故障予測、検査の自動化などのスマートファクトリ化に向けた実テーマもプラクティススクールのテーマ候補としています。
 プラクティススクールでは、テーマ自体にいきなり入るのではなく、旭化成にとっての重要性や業界の動向なども、博士課程の学生の皆さんに理解してもらっています。材料開発は、日本は強い産業ですが、最近、データやデジタル技術を活用して海外勢がかなり伸びてきています。データは特に重要ですが、たとえば、中国では、大学に材料開発に関係するデータを集約しています。また、高価な検査装置や実験装置も大学に設置し、優秀な人材が材料開発に携わっています。日本のマテリアルズ・インフォマティクスのコミュニティでは、このような海外の状況にかなり危機感を持っています。
 また、ITやデジタルの企業も、材料開発の世界に入ってきつつあります。これは、電気自動車の分野に、自動車メーカーだけではなく、デジタル関連企業などが参入してくる状況に似ています。
 このような環境下、マテリアルズ・インフォマティクスを高度化し推進することは、旭化成にとって重要な戦略の一つです。業界にとって最先端な分野を学生に体験してもらうことは、非常に重要だと認識しています。
 材料開発では、原料として、どの種類のものを、どの分量を混ぜ合わせ、プロセスとして、熱を与えるとか、圧力を加えるとか、組合せが無限にあります。要求される機能や性能のものを開発するには、かなりの経験、ノウハウ、スキルが必要で、実験を中心に材料開発がされてきました。データやデジタルを使うと、圧倒的な開発スピードの向上と革新素材の開発を可能にします。ただし、データとデジタルで完全に自動化できるわけでなく、人間の知見や経験は重要で、人間とコンピュータが連携することにより、今までの開発速度の10倍や20倍を達成しています。
 旭化成には、材料開発の研究者が1,000名以上います。彼らが、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)を道具として使いこなせるようになり、自ら、自分たちの材料開発という業務を変革してもらっています。いわゆるDXのX(Transformation)、変革です。プラクティススクール開始の前年より、初級、中級、上級の3つのクラスのMI人材育成プログラムを開始しました。MI中級では、3か月から半年、現場の実課題に取り組んでもらいます。教育のコンテンツも、我々が内製化しています。サポートするデータサイエンストも用意しています。現在、中級と上級を合わせて、458名が修了し、日々の材料開発に、MIを活用しています。
 マテリアルズ・インフォマティクスを活用する際の基本アルゴリズムや、機械学習のモデルをPythonでプログラミングするためのプラットフォームも用意しました。
 例えば、旭化成の提供する合成ゴムは、タイヤの材料になります。タイヤに要求される機能は、省燃費性、耐磨耗性、静穏性、安定走行性、停止性などがあります。要求機能をすべて満足する材料を開発しますが、実験だけでは、新しいグレード開発に数年かかります。マテリアルズ・インフォマティクスを使うことにより、半年以内で材料開発ができた事例もあります。製品開発の期間を抜本的に短縮することで、事業自体の競争優位性を保つことができます。
ヘルスケア領域の旭化成メディカルで、ウイルス除去フィルターを製造しています。これは筒に中空糸が約1万本入っています。表面に極小の穴が開いており、ウイルスを除去できます。製薬会社がバイオ由来の薬、例えば、血液製剤などの製造において、ウイルスをフィルタリングします。製薬会社から、ウイルスの除去性能は落とさず、濾過スピードを2倍にという要請がありました。中空糸の性能に関わるのは、中空糸の製造プロセスの紡糸です。ノズルの角度や直径、製造のための溶液の種類、温度、圧力など、20以上の変数を、うまく調整する必要があります。この解決にも、インフォマティスを使いました。インフォマティクスを使わずに、数年、開発を続けましたが、要求仕様を満足するものは開発できませんでした。その間のデータも使用して、マテリアルズ・インフォマティクスを利用して、数カ月で開発に成功しました。
 プラクティススクールの学生には、旭化成のさまざまな製品のMIによるグレード開発に参画してもらっています。プログラミング、モデル作成、評価などと、各メンバーに、大変活躍してもらっています。サポートする旭化成メンバーにとっても負担は大きいですが、修了された学生の満足度は非常に高いです。通常の体験型のインターンシップですと、企業側の準備や支援メンバーの割当てなどで負担感があります。これに対して、プラクティススクールは、旭化成にとっても有効かつ重要だという位置づけで、積極的に関与、推進しています。
 また、大学と産業界との連携は大変重要だなと考えています。その一つの試みでとして、共創の場形成支援プログラムでも、日本CTOフォーラムの技術経営者の参画を検討しました。日本CTOフォーラムは2004年から20年近く続いている日本能率協会のプログラムです。毎年約50名のCTOが3グループに分かれて、2か月に1回ぐらい議論をします。議論のテーマは技術経営、新事業創出、連携共創などで、人材育成も大きなテーマのひとつです。
 日本では、CTO、チーフテクノロジーオフィサーは、経営トップに近く、かつ技術に精通しているので、博士人材の重要性の認識もあるかと思います。例えば、1期には、三菱ケミカルの小林さんが参画され、その後、コニカミノルタの松﨑さん、安川電機の小笠原さんと、CTOフォーラムに参加されたメンバーが、その後、社長になられるケースも少なくありません。CTOフォーラムのように、経営に影響力のある人たちが集まって、博士人材に関する議論を通して具体的なアクションにつなげることが重要だと考えています。
 その一つのきっかけとして、今年の6月8日、生田人材政策課長にもCTOフォーラムにお越しいただき、ジョブ型研究インターシップや、現在、博士課程を取り巻く状況などについて説明いただき、議論の場を持ちました。個別の企業へのアプローチに加えて、このようにチームとして産業界側も少しまとまった形で、具体的なアクションやプログラムにつなげる活動の必要性を感じています。
 私自身の経歴ですが、筑波大学の学部で4年、博士課程で5年の計9年過ごし、その後、IBMで33年間、仕事をしました。旭化成で3年と4か月です。
 筑波大学は大学院が2年の修士課程と5年の博士課程と最初から分かれており、私は博士課程に入学しました。当初から、大学院修了後は、大学に残るよりは、企業に就職したいと考えておりました。4年生の卒業論文で、新しいプログラミング言語の開発に取り組みました。コンピュータサイエンスでは、システムソフトウエアの分野ですが、テーマ自体は、大変チャレンジングで魅力的なテーマでした。卒業論文には、一応はまとまりましたが、さらに高いチャレンジをしたいということで大学院に進学しました。
 筑波大学の情報学類には、企業出身の教員が多く在籍されていました。入学当時、コンピュータの基本を学んだのは、益田先生で、日立製作所の中央研究所の御出身でした。大学院に入学してからも隣の研究室ということで、大変御世話になりました。益田先生は、東京大学の理学部長・理学系研究科長、電気通信大学の学長を歴任され、現在、船井情報科学振興財団の副理事長として、海外で博士号を取りたい若手をサポートされています。
 プログラミング言語研究室には、学部4年生の1981年に入り、82年から博士課程コースの計6年間は、中田育男先生と佐々政孝先生に大変御世話になりました。中田先生も日立製作所の研究所から教授として筑波大学に着任されました。情報学類、理工学研究科や工学研究科の情報専攻の教員は、企業から来られた方が10名強、おられました。また、当時も筑波大学では留学生が多く、私の研究室も中国、台湾、韓国、アメリカからのメンバーがいました。研究室に限らず大学全体で留学生が多いので、他の学群、学類の多くの留学生と広く交流がありました。留学生の中には、就職したあと、日本に来て学びなおすといった経歴の方も多くおられました。仕事や研究に対する多様性の大切さを、日々の生活から大学で身近に学ぶことができました。大きなインパクトを出すには企業に出たほうがいいという考えを持つようになりました。経済的にも、かなり厳しく、学部の1年生の時には、実家の倒産のため、学費が1回払えず除籍になりかけました。大学院のときも自活の必要があり、様々なアルバイトをしました。指導教官の佐々先生が、そのような状況を心配されて、育英会の他、川口育英会、実吉奨学会、ゼロックスなどの奨学金を紹介いただきました。
 大学院修了後、IBMに入社しました。IBMで、私は多くの新鮮な刺激をもらいました。本日のテーマに関係しては、博士号を持った人たちが、研究所だけではなくて、事業や営業の現場や経営層として、当たり前に活躍していました。そのような環境を身をもって体験したわけです。1987年にIBMリサーチの一つ、東京基礎研究所に入りました。初代の研究所長は、小林久志さんでしたが、当時、小林さんがプリンストン大学の工学部長として異動されるタイミングでした。江崎玲於奈先生も当時はIBMに所属されており、私の入社した翌日には、東京基礎研究所に来られて、21人の新入社員向けにスピーチされました。
 IBMリサーチでは、研究職のメンバーは、ほぼ全員、博士号を持っていましたし、開発職や事業職のメンバーも博士号を持った人が少なくなかったです。IBMの複数のソフトウエア開発ラボ、たとえば、カナダのトロントラボ、米国NC州のラーレーRPC(リサーチトライアングルパーク)ラボと、一緒に仕事をしていましたが、チームの皆さんも博士号を持っていました。
 米国の企業ですと、博士号を取得して入社してくると、企業としてはその分野の専門家で即戦力と見なし、それなりの処遇と責任ある仕事を任せるといった社会環境があります。米国の大学院で博士号を取得することは、大変厳しく、鍛えられ、専門分野のみならずリーダーシップも鍛えられます。日本の博士課程や博士号をとりまく環境は、欧米とは、かなり異なります。米国では、学生の覚悟も違いますし、教える教員もそのつもりで育成します。企業や取り巻く社会環境も日本と欧米では、かなり異なりギャップが大きいので、欧米のやり方をそのままの形で日本に持ち込んでも、うまくいきません。欧米から見習うべきところは、取り入れて、日本ユニークな方法を、産官学で具体的にプランしていくことが重要だと考えています。
 すみません。少し長くなりました。御清聴ありがとうございました。
【狩野主査】  大変ありがとうございました。パーソナルヒストリーを含めて、大変魅力的なお話をいただきまして、誠にありがとうございました。
 それでは、質疑の時間にまいりたいと思います。ぜひ活発にお願いできればと思いますが、挙手を。まずは、杉山委員お願いいたします。
【杉山委員】  久世さん、どうもありがとうございました。もっと長く聞いていたいようなお話で、質問が幾つかあります。1つ目は、CTOの間でいろいろ今、博士人材のことを話されているとおっしゃっているんですけども、CTOの方々、実際、皆さんがどのぐらいがPhDフォルダーなのか、博士号を持たれているのかということが。2つ目は、日本の会社と外資、IBM、両方を経験されていらっしゃるわけですけれども、そこでの博士人材の受け取り方の違いというようなところが何かあれば教えていただけたらうれしいなと思います。よろしくお願いします。
【旭化成株式会社(久世様)】  最初の質問の「日本CTOフォーラムメンバーの博士号取得者の割合」ですが、正確には把握していません。私は名刺に工学博士と入れていますが、日本ですと名刺に入れる人が少ないです。旭化成も博士号取得者は、一定数いますが、名刺に入れない人もいます。本日、柿田局長の名刺をいただきましたが、裏にはPh.D.と入っていますが、表に博士のタイトルがありません。CTOフォーラムでは、もちろん名刺交換もしますし、かなり密度の濃い議論をしますが、名刺には必ずしも博士のタイトルが入っていないため、正確には数はわかりません。欧米では、自己紹介の際に、どこの大学でPh.D.を取ったといった会話が自然とされています。CTOフォーラムメンバーの博士取得者は、感覚的には3分の1ぐらいで、それほど多くないかと思います。日本の場合、博士号を持った人が、なかなか企業に入ってこないという課題もありますが、会社の中で役員や社長など、経営層に少ないことも問題です。博士号を持った人が研究職だけではなく、事業や経営で活躍できる環境を作るべきです。
 申し訳ありません。2つ目の御質問は何についてだったでしょうか。
【杉山委員】  2つ目は、日本の会社と外資と両方経験されていらっしゃる中で、博士号を持った人をどう使っていくかというようなところの違いとかがあれば教えてください。
【旭化成株式会社(久世様)】  IBMですと、博士号を持っていますと、大学院を出たばっかりでも、即戦力となる専門家として扱ってくれます。私はIBMリサーチに所属しましたが、1年目から、リサーチのHQでもあるニューヨーク州郊外にあるT.J.ワトソン研究所で、各種の会議や戦略会議に出席しました。博士号を持っている人には、入社年数にかかわらず、責任者として、まとまった仕事をアサインされます。ポスドクのシステムも有効に機能しています。IBMの研究所のうち、米国では、1割ぐらいはボスドクです。研究職の場合は、ポスドクという形で試用期間があって、その後、チームを任されたり、責任者としてプロジェクトを任されたりします。
 また、博士号を持っているかどうかで、IBMの中での活動のしやすさが違ってきます。日本から海外に行って、グローバルの人たちを仕事する場面、Ph.D.を持っているということで信頼されて、話を真摯に聞いてもらえましたし、意見が通りやすかったように思います。IBMの中では、研究所同士は連携して活動していますが、時には競争するケースもあります。そのような際には、Ph.D.を持っていることが大変有効でした。
 日本の場合も、大学や研究機関以外にも、博士号を持った人が一定数いますが、先ほどもお話ししたように、そのことをアピールしません。日本企業では、博士の入社時の処遇は、修士で入社した社員の3年後の処遇相当に設定されることが、ほとんどです。特別な処遇は用意されていることはありません。米国では、博士号を取る人たちは、給与ももらいながらTAをします。社会人として活躍できる素地が、博士課程を通して醸成されます。日本は、まだまだ、そのような環境になっていません。企業にとっても、本人にとっても、大学にとっても、博士への期待や活躍といった点で、欧米との違いは大きいです。
【杉山委員】  ありがとうございます。大変参考になりました。まず、ぜひ旭化成の中で、ドクターを持っていたら名刺に書いていただいて。
【旭化成株式会社(久世様)】  そうですね。私が名刺に明記し、本日のような話題で会話することもあるので、私のまわりでは、少しずつ増えてきました。
【杉山委員】  よろしくお願いします。
【狩野主査】  杉山先生、すてきな質問ありがとうございました。収入以外に裁量権というものがメリットにつけられるということは、今感じたところでした。
 では、次に迫田委員、お願いいたします。
【迫田委員】  日立アカデミーの迫田と申します。今日は貴重なお話ありがとうございました。今お話を伺っていて、確かに私の同期にアメリカの大学のドクターを取った人がいたんですけど、会社に入って数年でNASAから手伝ってくれみたいな話が来て、びっくりしたのを覚えていますけど、そういう違いがあるなと思いました。ありがとうございます。
 お伺いしたいのは、プラクティススクールについてです。この取組、すばらしいなと思ったんですけども、十数名の方に対して、どれぐらいの方が対応されているのか、人数やレベル感について教えてください。また、もしお分かりになれば、ここで勉強された方々が、その後、どんなキャリアを積もうとしているか、分かる範囲で教えていただければと思います。よろしくお願いします。
【旭化成株式会社(久世様)】  まず、旭化成側はフルタイムでサポートします。人数規模は年によって違いますが、4人から6人といったところです。レベル感としては、マテリアルズ・インフォマティクスや製造のIoTデータ分析ができるデータサイエンティストです。我々のデジタル共創本部は全体で約300名ですが、その内、約4割がキャリア採用です。デジタルのスキルレベルは、年齢には関係なく、若くても活躍しています。このプログラムでは、30才から40才代のメンバーがサポートしています。
 マテリアルズ・インフォマティクスの共通プラットフォームなども利用するで、サポートの延べ人数は、さらに増えます。また、プラクティススクールの成果発表会には、私はじめ技術理事、それから、センター長、役員も出席します。
 次の御質問は、このプログラムを修了した学生が、その後、どのようなキャリアで活躍しているかという内容でした。我々も、修了生のその後の活躍を把握したく、大学側に御願いしているのですが、プライバシー他の点から、情報はいただけていません。これまで、4回実施しており、修了生が、50名近くになっています。修了生から、旭化成に入社いただいたのは、2名です。我々としては、もっと多く、入社いただきたいのですが、旭化成以外でも、活躍いただければ、長い目で見た時、日本や社会にとってプラスになると考えて、プログラムの支援を続けています。修了生のコミュニティなども支援したいと考えています。歯切れが悪い回答で、申し訳ありません。
【迫田委員】  いえいえ、ありがとうございました。
【旭化成株式会社(久世様)】  文部科学省から東京工業大学に確認いただくと、情報を提供してもらえると思います。
【狩野主査】  ありがとうございました。ぜひ東工大様以外にも、こうした動きが広がらないかなとか、政策的に何かできないかなと思いながら聞いていました。ありがとうございます。
 それでは、続いて、隅田委員、お願いします。
【隅田委員】  ありがとうございます。企業がスピードアップさせる仕組みがすごく面白かったです。先ほどの御質問に近くて、プラクティススクールのスライドで、指導教員3名というのがありますが、この3名は全て企業の方なのか、大学の方が入っているのかとか、どうやって選ばれたのか、1点目の質問です。
【旭化成株式会社(久世様)】  これは大学の先生方です。先ほどの物質情報卓越教育院を回す組織がありまして、その中のプラクティススクールをリードされている先生方です。
【隅田委員】  分かりました。企業の方も入ってもいいんじゃないかと思います。
【旭化成株式会社(久世様)】  なるほど、私も企業のメンバーが入ることはよいことだと思います。
【隅田委員】  2点目は大学と企業の流動化というのが課題なのですが、例えば企業と企業の間の流動化というのはどれぐらいあるのか、その辺りはどうなんでしょうか。
【旭化成株式会社(久世様)】  企業間の人材の流動化は、我々も加速していきたいと考えています。流動化を進めるためにも、より緊密な企業間連携が必要です。マテリアルズ・インフォマティクスでも、データが重要です。日本では、三菱ケミカル、住友化学、三井化学他、各社ごとに、データを揃えて、マテリアルズ・インフォマティクスを実施しています。しかしながら、データの中には、共通に使える標準的なものも少なくありません。それらも、全て自前で集めて、機械学習のモデルを作っています。共通で用意できるものは、競合であっても連携し、自社の競争優位性を持つデータや分析については、各社で独自に進めるという形態が望ましいです。日本では、同業の企業が、本気で連携できないとうい課題があり、これは、世界の中で、リーダーシップを発揮する上で、大きな障壁のひとつになっています。
 また、サプライチェーン上の企業の垂直連携も日本は不得意です。例えば、先ほど、合成ゴムのマテリアルズ・インフォマティクスの事例を紹介しました。合成ゴムの御客様であるタイヤメーカーは、旭化成の材料だけでなく、他の材料も組み合わせてタイヤを開発します。タイヤメーカーでも、独自のマテリアルズ・インフォマティクスを実施します。タイヤメーカーの次工程の車メーカーも同様です。各企業で、別々に材料や製品の分析・解析をしていたら効率が悪いのは明白です。データ、分析・解析のためのモデル、機械学習のアルゴリズム、プラットフォームなどを共通化して、関係企業で連携すると、開発スピードがより加速できますし、革新的な材料や製品の開発も可能になります。現在、企業間のデータ連携を活発化するために、オリジナルのデータを開示することなく分析や解析ができる共創型マテリアルズ・インフォマティクスのプラットフォームを開発しています。これには、機密計算技術が使われており、サプライチェーン上のパートナーや同業企業との連携に活用しています。
 人材の流動性ということでは、旭化成のデジタル共創本部は、40%がキャリア採用で、AI、IoT、データ分析、UI/UXなどのデジタルの専門家が集結しています。マテリアル系の企業やデジタル系の企業から入社するケースが多いです。また、逆方向の移籍もあります。日本においても、このような人材の流動化をさらに加速したいと考えています。
 企業間の人材の流動性の活性化について、日本CTOフォーラムでも活発に議論しました。たとえば、企業の壁を越えた人事異動の制度設計なども複数企業のCTOで議論しました。給与体系、処遇が会社ごとに異なりますし、年金や退職金の扱いなど課題はありますが、5社とか10社で、優秀な人材を数年単位でローテーションする仕組みとして検討しました。海外に比べると日本は人材の流動性が少ないのは大きな課題で解決する必要があります。
 人材流動化に関連して、先ほどのデータを共通化して複数の企業が連携することも、ゆくゆくは、人材の流動化につながるとみています。中国では、大学をデータ集約の基点としていますが、日本でも同様に、大学にそのような役割を持たすことが、現状打開につながるように思います。材料の業界だけでなく、今後、データとデジタル技術を使って、業界や社会変革は進みます。業界や企業の枠を超えて専門分野も広がり、データを起点に系統的に連携されます。そのような環境下で、大学がフェアかつ安全にデータを全部預かり、集約する役割の中心になると、そこで活躍する人材、博士人材も含めて、もっと産業界との連携も拡大されます。やはり人材育成と活用だけのプログラムではなく、企業側も本気で取り組むには、自分たちの事業やビジネスにとって、かなりプラスになるという仕組み、仕掛けも同時に設計する必要があると思います。博士人材の個別課題の解決だけですと、企業の巻き込みが弱くなり、どうしてもスピード感がでないと考えています。
【隅田委員】  大変参考になりました。ありがとうございました。
【狩野主査】  大変いいやり取りをいただきまして、本当に人材育成のみに関わらず、我々の国の産業競争力にも関わる、それから大学の活用の仕方の別の在りようというのもお話しいただけたような気がいたしました。
 すごく魅力的なお話だったものですから、もっとやり取りしたいところですけど、取りあえず、こちらで一旦、お開きにさせていただいて。久世様は多分最後までいていただけると思いますので、もし最後に、また時間の余裕がございましたら、場合によったら、さらに質疑応答に応じていただければと存じます。大変ありがとうございました。
【旭化成株式会社(久世様)】  どうもありがとうございました。
【狩野主査】  では、次の議題に入りたいと思います。次の議題が、日本学術会議の若手アカデミーというところがありまして、私も創立に関わったんですけども、そこでまとめられました提言について、当委員会の主査代理をしていただいています、岩崎先生から御説明いただきまして、これについての質疑応答をその後させていただくということでお願いしたいと思います。
 一応15分程度ということで、お願いできればと思います。岩崎先生、お願いします。
【岩崎主査代理】  ありがとうございます。若手アカデミー前代表で、東京大学の岩崎と申します。
 今日は、日本の若手研究者がどういうところで研究のやりにくさを感じているのか、あるいは、人材育成の観点で何に困っているかということを分野横断的に、つまり人文社会科学、生命科学、理工学といった分野にわたる若手研究者が今、何を課題だと思っているかということをまとめた初めての公式な文書として、見解「2040年の科学・学術と社会を見据えて今取り組むべき10の課題」を発出しましたので、御紹介させていただきます。委員の先生方におかれましては、いろいろなところで今、日本の研究、人材育成の研究環境の改善について課題が何かと御説明するような機会があると思うんですけれども、ぜひ若手研究者の、しかも特定の分野の若手というだけじゃなくて、分野横断的な声ということで非常に力があるものと思っておりますので、ぜひ御活用いただければと思っております。もちろん文科省のほうでも、政策立案等で、これが現実の若手の声だということで、後押しとして使っていただければと思っております。
 最初に、日本学術会議は3年を1期として変わっていきますが、若手アカデミーについても、ちょうど先々月の9月まで3年間、私を代表として、45歳以下の人文社会科学、理工学、生命科学のメンバーが集まって、50名ほどで、日本の研究環境、あるいは日本の科学と社会の未来について、3年間密な議論を行ってまいりました。
 こちらのメンバーは分野もかなり様々、それからダイバーシティーの観点からも様々、それから地域としても様々なところから参加して議論を行ってきました。45歳以下ということで、分野、地域、属性が多様というメンバーということになります。
 もともと何で若手アカデミーのような活動をしているかということを、少しだけ背景を御説明させていただきますと、こういった若手研究者の、しかも分野を超えた声が必要だという認識は、ヨーロッパで最初に立ち上がりました。欧州アカデミー協会、それからドイツ、オランダと、特定の分野の若手研究者だけではなくて、分野を超えた若手研究者の活動が必要だということで、ヨーロッパで先行して始まった動きになります。
 その後、経済界からも、世界経済フォーラムのほうでも、こういった若手研究者の分野を超えた声をまとめてほしいという意見が出まして、また、アカデミアのほうでも、インターアカデミーパートナーシップでもこういった声がありまして、先ほど狩野先生からも御紹介ありましたけれども、そういったところで、若手アカデミーを日本でも立ち上げようということになったということになります。
 そこで、これから日本がいわゆる下り坂局面にある中で、アカデミアとして果たしていかなければならない役割がある。私たちは45歳以下ということで、まさにこれから10年、20年、学術の立場から、日本のイノベーションを背負っていく、そういった立場の若手研究者としていろいろな課題があるということで、かなり密な議論を行ってまいりました。
 トピックとしては幾つかあるんですけども、ピックアップいたしますと、1つは、まず各地域の中で大学、アカデミアというものが中心となって地域の課題を、地域のステークホルダーの皆さんと連携をして解決して、そこから新しい学術の種を見いだしていく、そういった活動。それから、私たちアカデミアの業界体質と書いていますけれども、ライフワークバランスの改善。それから産学連携も含めますけれども、今、いろいろな共同研究というだけではなくて、20年後を踏まえて、産学を越えてどういったことに取り組んでいくか、ビジョンを共有しようと。そういった活動を行ってまいりました。
 それから、さらに若い世代に高度な知識や技術を身につけてもらうためには、どういった人材育成が必要かという分科会。また、タコツボに入らないで、いろいろな複雑な課題を解決するために分野を越えるための後押しというのをどうやってしていけばいいかという議論。それから国際的な、ほかの国の若手研究者との連携を強化する活動も行ってまいりました。
 さらに、私たち分野を超えて50名ほどのメンバーがいるんですけれども、それだけではなくて、およそ8,000人程度の日本の若手研究者に対して大規模なアンケート、これもこれまで例がないようなものと思うんですけれども、8,000人程度の声を集めて、今どういったところに活動の難しさを感じているのかといった大規模な調査も行ってまいりました。
 それから、実際に分析するだけじゃなくて、地域でイノベーションを加速されようとしている方、それから、シチズンサイエンスと申しますけれども、NHKで市民科学を推進する番組を作られている方と一緒に、日本のアカデミア、あるいは学術の状況というのを変えていこうといった活動も行ってまいりました。
 それから、実際にいろいろな専門性、これは千葉県柏市柏の葉をフィールドにしているんですけども、工学の研究者、生物学の研究者、社会学の研究者、そういった分野を超えて一つの地域で連携して課題解決するという実践的な活動も行ってきています。
 それから世界の若手研究者の議論ということで、若手アカデミーの世界版のグローバルヤングアカデミーというのがあります。こちらは狩野先生も入られていますけれども、去年初めて日本で開催して、世界の若手研究者と、どういった課題があるかということ、あるいはどういったことを各国で行っているか、そういった情報交換を行ってまいりました。
 そうして3年間の活動の集大成として発出したのが、今回御紹介する、「2040年の科学・学術と社会を見据えていま取り組むべき10の課題」です。こちらは5つのポイントがあります。
 1つは、繰り返しになりますけれども、現場に近い若手研究者が今どういったところで課題を感じるかというニーズを書いたものであるということ。
 それから、特定の分野の議論だけじゃなくて、文系と理系を超えて議論を行ったものであるということ。
 それから、いろいろな観点を網羅しています。大体、人材委員会でも出てきているような観点というのは、かなりここで網羅されていると思います。一方で、全部書くと非常に見通し悪くなってしまいますので、10個の課題ということでまとめたというのが3つ目のポイントです。
 4つ目は、公式文書として出ているものですので、きちんと参照していただくのに耐えるものということが4番目のポイントです。
 それから5番目、これは読んでいただくと分かるんですけれども、いろいろな引用文献、それからデータも、かなりこの見解のほうから引用されて、ある意味、リファレンスとしても活用いただけるものになっています。こういうデータがないかなというときに、こちらを見ていただけるとデータに素早くたどりつけるんじゃないかなと思っております。
 こちらは、私たち若手研究者が抱える課題というのは日本特有のものでもなくて、ほかの国の研究者、特にG7が今年日本で行われましたけれども、それに先立って行われた、G7各国のアカデミーの代表の先生方にも御紹介して、非常に各国でも同じような課題があるということで賛同いただきまして、英語版の抄録も公開しております。それから新聞等でも取り上げていただいております。
 それからYahooニュース、こちらも「研究時間は全体の1割、日本の若手研究者の直面する、厳しすぎる現状」ということで取り上げていただきました。あと先月のNatureのニュース記事、「日本の研究はもはやワールドクラスじゃない、その理由は」という、こういった記事が出て、こちらの記事は反響もあり、先週の衆議院予算委員会でも審議、質疑があったと承知しておりますけれども、日本の研究者の研究力の低下という文脈で、私たちの見解についても触れていただきまして、私のコメントもこちらの記事に掲載されております。
 この見解の中で、私たちが非常に問題意識を持っていることというのが、こちらにまず、書かれております。1つは、これから65歳以上の人口が全人口の35%になり、労働力の不足や医療、介護、需要の増大、地方の過疎化、さらに日本の国際的な地位の低下なども確実であると。継続的な我が国のイノベーション創出が必須なんですけれども、若手研究者たちから見て、我が国にはイノベーション創出を阻むような多数の構造的な原因があると。イノベーションというのは環境を整えてからすぐに起こるものではなくて、環境が整ってから10年とかそういった時間が必要になります。そうすると2040年、仮にここに20年後と、イメージしやすいということで設定しているんですけれども、2040年にこういったイノベーションを起こることを考えると、今すぐ取り組まないとその土壌というのが間に合わないということになります。
 こちらは、私たちが3年間議論して、何が何の原因となって、それが日本の研究力、あるいは人材育成について、ボトルネックになっているかということを分析した図になります。それぞれ、ハードワークであるとか、あるいは研究以外の業務の増加、あるいは、近視眼的な評価、縦割り、キャリアパスの流動性の低さ、それから大学院進学者の減少、まさに人材委員会でこれまで取り上げられているトピックと相当重なるようなものになっております。それは、私たちが日本の研究の将来というものについてディスカッションしてきた結果、人材委員会でディスカッションしていることと非常に近いことをディスカッションしているので、同じようなトピックが網羅されているということになろうかと思います。
 こちらの10項目を書き出したのが最後のページになります。この10個を解決していくことで、日本からイノベーションが起きると。これはアカデミアだけで取り組むべきことじゃなくて、産業界、政策決定、それから広く国民の皆さんとも協力をして変えていかなければいけないと考えております。
 10個、読み上げさせていただきますが、まず、基盤的・伝統的分野における知識や技術の蓄積ということで、すぐに役に立つような研究だけではなくて、ある一つの基盤からいろいろな研究が花開いていくような基盤的な研究、あるいは、伝統的な分野の研究というのが土壌であって、これが枯れてしまうとそれを立て直すのは非常に大変ですので、これを日本として、さらに伸ばしていかなければいけないというのが1点目です。
 2番目が、それを前提とした上で、さらに越境的な研究、他分野をつなぐような、先ほどマテリアルズ・インフォマティクスの話もありましたけれども、多分野をまたぐような越境研究。それから、地域連携です。各地域の課題というのをアカデミアとして解決していく、そういった、いわゆる論文的な評価だとすぐに評価されにくいような部分に対する評価や支援の拡充が必要であるということが2番目になります。もちろんこれは、研究論文、いわゆる古典的な評価というのが要らないというわけじゃなくて、古典的な評価というのもきちんと行った上で、バランスとしてもう少しこういったところにも評価をしたほうがいいんじゃないかというのが、分野を超えた若手研究者の結論ということになります。
 3つ目が、博士号取得者を擁するコアファシリティの拡充ということで、やはり若手がシニアのより上の先生方の下で働くというよりも、自分のアイデアをどんどん試していくということをやろうとするときに、そういった若手研究者は設備が整っていない時点でも、いろいろなことを試せるような、そういったコアファシリティの拡充というのが必要だというのが3点目になります。これは中国等では非常に充実しておりまして、日本ではなかなか、こういった点が弱いということが今、分野を超えた認識となっております。これは、いわゆるキャリアパスの複線化というか、博士号を持った人がいろいろなところで活躍すると、そういった意味合いもあります。
 4番目がセクターを超えた共創プラットフォームの整備ということで、アカデミアは自分の場所にいるだけじゃなくて、産業界とか行政とか地域社会と連携をすると。もちろん何か特定の技術があったときに、それを直接的に生かすような相手というのは探しやすいんですけど、もう少しどういった課題があるかということを長期的に考えようというときには、ほかの業界の方とビジョンを共有するような場がなかなかまだない。こういった場をさらにつくっていくことが大事というのが4点目になります。
 5番目が、競争的資金を活用するための基盤的経費の拡充と研究支援人材の増強ということで、研究支援人材は先ほどのコアファシリティも関係しますが、今、日本の大学とか研究機関は、研究者に対してそれを支援する人材の数が非常に相対的に少ないと。アメリカだと教員よりも職員の方が多いけれども、日本は職員よりも教員の数が多いような状況になっていて、研究に集中したい研究者が、研究に時間をかけられない状況になっております。これを解決するということ。それから、競争的資金、いわゆる選択と集中という言葉で出てくる場合が多いんですけれども、一歩踏み込んで、集中しているはずのところも基盤的経費が減っているがゆえに、集中されている資金をちゃんと活用できていない。あるいは、フォローアップが十分にできていないせいで、効率的に活用できていない。なので、競争的資金をうまく活用しようと思えば、それはそれで基盤的経費が大事なんだというような書き方になっております。
 それから、6番目が科学技術外交で、科学技術の専門家がより国益というか、日本の外交に貢献するようなキャリアパスというのがない。これはキャリアパスの多様化ということも関係しますし、科学技術というのを日本としてうまく、もっといろいろな形で使っていただくということもありますし、いろいろな条約等で、日本にとって不利な形で決まってしまうということを避けていかなければ、科学技術の研究にも悪影響を及ぼしてきますので、こういった整備が必要というのが6番目になります。もちろん官僚にも非常に優秀な方がいるので、非常に質の高い交渉はされていると思うんですけども、各国では特定の課題について非常に深い知識を持った方が何年も十何年も、ずっと交渉される。それに対して日本ではローテーションで当たっていくというのが、非常に交渉力として不利になるというのが6番目です。
 7番目が、過度な経営的視点や失敗を許さない前例踏襲主義からの脱却ということで、やはりイノベーションを起こそうと思うと、失敗というのは不可欠だというのが若手研究者の分野を超えた理解になります。ですが、近年、失敗というのを許さないような形のプロジェクトの立て方が非常に増えているというのが、皆さん、分野を超えて、日々肌で感じておりまして、失敗をもう1回受け入れるということを、もちろん精神的なところも入ってきますけれども、変えていかないと、いろいろな新しい研究に挑戦できないというのが7番目になります。
 8番目が教育費の家計負担の低減で、これは先ほど、アメリカとの比較で少し出ましたけれども、マクロで見ますと、大学や大学院の進学というのが決定的に決まってくるのは家計負担になります。ですので、ここを低減していかないと、人材育成というのも限界があるというか、ここは本当にクリティカルに効いてくる部分というのが、分析の結果として出てきています。
 9番目が、アカデミア自身の業界体質の改善ということで、これはアカデミア自身、我々自身も振り返って無駄な仕事を増やしていないか。誰もあまり読まないような原稿を依頼していないかであるとか、あるいは、皆さん競争を生き残ってきた人ばかりが残っているような業界になっていますので、競争して生き残るということを所与のものとしていないか、ハードワークを美徳としていないか振り返るというのが9番目になります。これは割と自制的な内容になります。
 最後は、これも先ほどのお話に非常に近いんですけども、博士号取得者をセクターを超えて活用していただく。また、特にジョブ型雇用を推進していく。とにかく入り口はジョブ型で雇用していただいて、その後、マネジメントなんかにシフトしていくというのが非常に理想的だと思うんですけれども、日本においても、そういった専門性というのに注目して雇用していくことを、もっと推進していく必要があるだろうというのが10番目になります。
 それぞれ、繰り返しになりますけど、人材委員会で議論されていることと非常に親和性が高いと思いますし、分野を超えた若手研究者が公式に出した見解として、ほかにないものと思いますので、いろいろな場所で御紹介いただいたり御活用いただいて、よりよい日本の研究環境、あるいは人材育成につながっていけばということが、若手アカデミーとして3年間、活動してきて願っているところになります。
 以上になります。ありがとうございます。
【狩野主査】  岩崎先生、大変ありがとうございました。内容豊富でありまして、あと、私も自分が活動していたときに思っていたことは、同世代性がないと分からないという問題はたくさんあるかなと。その視点が、こうやって国の場などにも持ってこられることが非常にこの集団のいいところだなと思っていたところです。
 御質問、御意見いかがでございましょうか。同世代という意味で、水口委員、いかがですか。
【水口委員】  ありがとうございます。私は博士号を取得して5年ぐらいになりますが、同世代にはポスドクや助教のポストに就いている知り合いが何人もおり、キャリアが不安定であるというような話はよく聞きます。任期制であるところが大きな要因かなと思っていて、任期5年で、残り2年で就職活動をしようかというような話をよく聞きます。そこはどう解決していくべきかというところは、非常に気になっているポイントです。流動性のところでは、アカデミアでチャレンジし、なかなかポストが見つからなくて企業に行くことを脱落のような捉え方をされる例も聞きますが、そういう認識はよくないなと思っていて、アカデミアから企業への転職をよりポジティブな形で、より挑戦していく形が生まれていくと非常にいいなと思っているところでございます。
【狩野主査】  ありがとうございました。日本学術会議、いろいろな最近、御意見がございますが、こういう活動もやれるところをほかに国で探すとないので、やはりそういう意味で、非常に重要な存在かなと私自身は思っているところです。
 では、杉山委員お願いいたします。
【杉山委員】  若手アカデミー、存在は知っていたんですが、初めて実態を知りました。ありがとうございます。
 同世代で集まっていろいろ議論されているということで、大変いいかなと思うんですけれども、少しだけ辛口で言わせていただくと、まず、1つ目は、先ほどの御質問というかコメントと多分重なるんですが、成功した人たちだけで話しているんですよね、同世代の。うまくいっている人たちだけで。先ほど競争的資金を取っている人たちという話もありました。
 だから、これでそういう意味で大丈夫なのかというのが気になるところと、2つ目は人材委員会と非常に親和性があるとおっしゃったんだけれども、親和性は、逆に言うと、我々、古手の人間が見て、はっとするものがあまりないということにもつながっているんです。おまえらひどいことやったから、俺らはこんなにひどい目に遭っているんだ、だからこういうふうに変えなきゃいけないじゃないか、どうしてくれるんだみたいなのがもう一つないような気がするんですが、その中で、業界体質の改善とかというのは、言葉ではあるんだけど。という辛口な意見に対して、何かコメントください。
【岩崎主査代理】  ありがとうございます。1点目は、もちろんポスドクの方に若手アカデミーに入っていただこうという議論もあるんですけども、一方で、これはいわゆる研究業績にならない活動ですので、そういった任期が不安定な方に入っていただくというのが、本当にこの人にとって幸せなのかどうかという両面の配慮が必要だと考えております。
 もちろん任期付きの方も、私たちのメンバーの中に、少なくない数いるんですけれども、かなり大変な議論ですので、そういった方に入っていただくというよりは、先ほど申し上げましたけれども、8,000名を超えるような方にアンケートを取って、それを我々のほうで集約して届けるということで、不安定な方にこういった仕事を押しつけるのではなく、けれども、そういった声もきちんと反映しようということで進めてきたというのが1点目になります。
 2点目は、若手研究者の分野を超えた声というのは、本当に大事なことをちゃんとやってほしいと。何か気をてらったことを動かすというよりも、皆さんがこういうことが必要だということをきちんとやってほしいということが、それができていないということが、なかなか研究力というのが上回っていかない理由だということを、皆さん本当に感じているということが、まず、大事かなと思います。
 ただ、各分野に絞りますと、それぞれ分野に応じて変えていかなきゃいけないことがあると思うんですけど、やはり若手アカデミー、分野を超えた議論の中では、それは別に分野ごとで出しましょうと、そういった整理になったというような経緯がございます。
【杉山委員】  分かりました。学術会議というのは、ある意味で、皆さんで合意しないと何もできないところなので、私も会員ですけど、その辺の事情はよく分かっていますが、その分、あまりとんがったものは出しにくいことになっているのかなというのは、反省点ではあります、学術会議自体。その中で、若手アカデミーはもう少しとんがってほしいなと思いました。
【岩崎主査代理】  繰り返しになりますけれども、とんがったことを出せなかったというわけじゃなくて、みんなで議論した中で、ここに挙げたようなことが、一番我々が求めているものだというところに行き着いたということになります。
【杉山委員】  だから、例えばこれを全部やって国際卓越研究大学に出して通るかといったら通らないと思います。そういう意味で……。
【岩崎主査代理】  だから、多分そういう予算の設定のところで、どうしても新しいタマを出していかなきゃいけないみたいな論理はあるとは思うんですけれども、一方でそういった本質的ではない論理に余り引きずられ過ぎて、日本の研究力が弱ってきている面があるんじゃないかと、そういった議論もございました。
【杉山委員】  もう一つ、最後、ごめんなさい。時間をあまり使いたくないんですけど、これを全部やって、愚直にやったら、例えばアメリカとか中国みたいなところに勝っていけるのかというところは、若干何か足りないかなという気がするんですけど、そう思いませんか。
【岩崎主査代理】  例えばアメリカや中国に勝つというのは、社会、経済規模等も勘案する必要があると思うんですけれども、こうしたことをきちんとやれば、日本の研究力としては伸びていくということは皆さん、信じているとは思います。
【杉山委員】  このぐらいにしておきます。すみません。
【狩野主査】  ありがとうございます。では、続いて、村上委員お願いします。
【村上委員】  岩崎先生、どうもありがとうございました。私からは、資料の一番最後に関する質問です。取り組むべき10の課題の中で、丸1 基盤的・技術的分野における知識や技術の蓄積、ここの説明書きのところに「決定的に重要である」と書かれているんです。それから、丸2 の越境研究や地域研究、丸4 のセクターを超えた共創プラットフォームの整備という項目もあります。丸2 丸4 と丸1 というのは、少し方向性が違うような感じがしているんです。若手としては、どっちが大事だという意見になっているのかというのをお伺いしたいです。それは、若手の考えはこれからの方向性をある程度リードしていくのではないかと思うからです。そういう意味で、分野によって違うということももちろんあると思うんですけど、先ほど分野を超えて共通にという御発言だったので、その辺を教えていただけますでしょうか。
【岩崎主査代理】  ありがとうございます。まさに丸1 と丸2 と丸4 は、多少方向性が逆というか、違った面になるんですけれども、先ほど申し上げた8,000人の不安定な方も含めた大規模アンケートの結果でも、丸2 あるいは丸4 、いわゆる旧来的な評価の仕組み、研究評価・論文評価の仕組みだけではないような評価にもう少し重きを置いてほしいというのが、若手研究者の全体的な声でした。
 しかも、非常に興味深いのは丸2 とか丸4 みたいな活動を評価してほしいというのは分野によらず、例えば人文社会系の方もそうですし、生命系、あるいは理工系の方も、皆さんもう少し、丸2 とか丸4 の活動を評価してほしいと、そういった声が大きかったところです。ただ、ここで丸1 を出さないと、私たちアカデミアとしては、基本的な、例えば学問というのがちゃんと蓄積があって、そこから新しい学問が出ていくという、そこのところを、若手が重要性を理解していないみたいな誤ったメッセージになってしまうということもあるんじゃないかということで、丸1 のところに、アカデミアの技術の蓄積、知識の蓄積というのを載せたというような構成になっています。
 ですので、丸1 はもちろん重要で、丸2 、丸4 も重要なんですけども、バランスとしては、もう少し丸2 丸4 のほうに寄せたらいいんじゃないかというのが、分野を問わず、今、若手が感じていることということにまとめられようかと思います。
【村上委員】  貴重な御意見ありがとうございました。
【岩崎主査代理】  ありがとうございました。
【狩野主査】  すみません、予定していた時間を使ってしまいましたので、柳沢先生、後でまた時間が取れたら、ぜひ質問をお願いできたらと思います。岩崎先生、御発表、それから質疑をありがとうございました。
 では、続いての議題にまいりたいと思います。人材委員会に設置する作業部会に関しまして、事務局から御説明お願いできればと思います。對崎補佐、お願いいたします。
【對崎人材政策課長補佐】  ありがとうございます。それでは、2つの作業部会ワーキンググループの設置について、資料3をご覧ください。資料3-1が研究者の教員との流動性、安定性の関係で、資料3-2が研究開発イノベーション創出に関わるマネジメント業務・人材に係るワーキングということでございます。こちら、本日、お話しする趣旨としましては、ワーキンググループの設置については、御報告という形になります。今後の両ワーキンググループでの検討内容等につきまして、事務局より説明をさせていただいて、基本的にはワーキンググループのほうでも議論を深めてまいりますが、本日御出席の委員の皆様からも多様な御意見をいただければと思っております。
 まず、1点目が資料3-1-1で研究者・教員等の流動性・安定性に係るワーキンググループの設置でございますけれども、こちら、この後、説明するものも含めて2つのワーキンググループにつきましては、先日10月24日付で、皆様にメールで持ち回りの開催の連絡をさせていただきまして、御意見いただきまして、設置の御了解をいただいたという趣旨で、持ち回り開催を先日させていただいたところでございます。こちらの研究者・教員等の流動性・安定性のワーキングのほうは、趣旨のほうにございますとおり、労働契約法の特例の施行から10年が経過して、今後、特例対象者に本格的に無期転換申込権が発生することなどを踏まえて、10年特例の在り方をどういうふうにしていくかという検討を行う必要があること、また、このような制度の運用状況も踏まえて、研究者・教員等の多様なキャリアパスの構築や活躍促進を図るための雇用の在り方というものを総論的にも検討する必要があることから、設置をさせていただきます。委員の方は別紙に示すようなメンバーになっております。以上です。
 資料3-1-2に、現状と課題というところで、総論的なポイントになりますけれども、幾つかお示しをしております。全ては読み上げませんけれども、現状のほうでは、先日、文部科学省でも特例の施行から10年たってどのような研究者が、雇用の状況かというところを調査したところ、令和4年度の年度末に10年を迎えた特例対象者については、8割程度が無期転換したか、または無期転換申込権が発生する有期労働契約が継続されたことが明らかになりました。ただ、これは厚労省のほうで、5年特例のほうも同じように運用されている状況ですので、しっかりこの後のフォローアップというのが必要になってくるかと思います。
 課題のところには先ほど趣旨のところで申し上げた2点を掲げております。1点目は、雇用の全体像と10年特例の運用状況の把握というところです。これは大学・研究機関等の研究者が無期か有期かとか、10年特例の対象かとかいった全体像を詳細に、雇用の状況も含めて把握した上で、個別機関ごとに10年特例の運用状況はどうなっているかなど、制度全体の今後の課題等を検討する必要があります。
 2点目が、研究者等のキャリアパス構築や活躍促進についてです。こちらは、1点目の全体像を踏まえつつ、無期ポストと有期ポストの運用状況の適切な把握や在り方、また、アカデミアのみならず、産業界や行政セクターなどを含めた人材の流動性や安定性を考慮した、研究者のキャリアパスとか雇用の在り方を検討する必要があるということでございます。
 最後に検討の視点を幾つか挙げておりますけれども、こちら、10年特例の運用に関して全体像を把握した上で、例えばキャリアサポートが十分にできていないとか、今後の10年特例を運用する上での改善方策等も含めて、留意事項等をまとめた上で、次の調査等も引き続き行っていく必要がありますし、大学に向けて10年の特例制度をしっかりと運用していただくというところの我々からのメッセージの発信も必要ではないかと思っております。また、先ほど来、岩崎先生のお話にも、久世様のお話にもあったような、機関間異動とか職種間移動の円滑を図るなど、ポストドクターを含めた研究者等のキャリアパスの構築のための人事評価制度やキャリアパス支援を促進するための具体的方策等を検討していくといったことも挙げさせていただいております。
 資料3-1-3には参考資料として幾つかデータをお付けしていまして、基本的には新しいもの以外は省略をさせていただきまして、15ページを御覧いただけますでしょうか。こちら、先日、文部科学省のほうで実施した調査結果でございますけれども、先ほど現状のところで申し上げましたとおり、労働契約法の特例ということで、今年度末で10年を迎えた特例対象者が1万2,000人ぐらいいて、その中の8割程度は、無期契約したか、無期転換申込権が発生する有期労働契約が続けられたということでございます。
 詳細について、次の17ページ以降載せておりまして、全体は既に文部科学省のホームページに公開をしており、ここも一つ一つは説明をしませんけれども、全体像の把握という意味で、有期と無期の割合とか、10年特例で対象を迎えた人の所属やその後の進路等について、可能な限りでの把握をしております。もちろんこれで追い切れていない部分とかもありますので、個別には詳細に、各機関の状況等も事務局等で把握していく必要がありますけれども、全体像の把握というところで一つ、議論の参考にしていただけるのではないかなというところでお付けをしております。詳細は省略します。
 そして、参考2のほうにポストドクターの関係で、こちらも以前、文科省が実施した調査でございますけれども、ポスドクが今どういう機関に所属しているかとか、あるいは彼らに対してどのようなキャリアパスの支援や研究活動支援が実施されているかといったところを、人材委員会のほうで以前、お定めいただいたポストドクター等のガイドラインに基づくフォローアップの状況というところで、調査を昨年度行わせていただきましたので、こちらの調査結果なども踏まえつつ、今後ワーキンググループのほうで議論をしていきたいと考えております。
 続きまして、研究開発イノベーションの創出に係るマネジメント業務の関係は、髙見室長のほうから説明させていただきます。
【髙見人材政策推進室長】  それでは、資料の3-2-1から3-2-3までが、研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材に係るワーキンググループの関係でございまして、人材政策推進室の髙見より御説明を申し上げます。
 まず、資料3-2-1を御覧いただければと思います。こちらのワーキンググループ設置の趣旨でございますけれども、大学等における研究力強化を図る観点から、これまで10年以上にわたりまして、文部科学省において、リサーチアドミニストレーター(URA)を育成、確保するようなシステムの整備というものを行ってきております。その結果、令和3年度の時点で全国で1,600人程度のURAが活躍するという状況になっておりまして、また、スキルの育成とか認定を行うような制度の運用も開始されているという状況になってございます。
 一方で、大学・研究機関における研究開発マネジメント業務というのが、昨今、一層多様化、高度化していると認識しておりまして、例えば、研究セキュリティ、インテグリティですとか、倫理的、法制度的、社会的課題、ELSIと呼ばれるもの、それからスタートアップ支援、ファンドレイズへの対応、こういったものが新たに求められるようにもなってきております。また、これまで育成してきているURAが、研究推進支援というところを中心に担う人ということで当初、認識されておりましたが、それのみならず、研究戦略の策定ですとか、大学経営に携わるようなケースというのも見られるようになってきているということで、このタイミングで、改めて、研究開発マネジメントに係る業務ですとか、それに携わる人材の、まず、実態把握をしたいと考えております。
 その上で、現代的要請に対応した形での人材育成の在り方というのを模索していきたいということでございます。ひいては、そうした人材の各機関における一層の定着ですとか位置づけの明確化を図っていきたいというところでございます。
 先ほどの研究者・教員等の流動性・安定性のワーキングとも同様なんですけれども、ワーキングに所属する委員の先生、それから、主査、副主査の先生は、人材委員会の狩野主査から御指名をいただいて、この形で進めさせていただきたいと思っております。こちらのマネジメント業務人材に係るワーキングにつきましては、副主査として稲垣委員にお入りいただいておりまして、主査は、自然科学研究機構の小泉先生にお願いしているところでございます。
 資料3-2-2は現状と課題ということでまとめております。一番上の小さい字で書きました※のところは、研究開発マネジメント業務というのが一体何を指しているのか、現状の認識として書いているものでございますので、御覧いただければと思います。
 1ポツ、現状を御覧ください。上2つの〇のあたりは、研究開発マネジメントに携わる人材、業務を担う人材の役職が多様ですし、また、2つ目の〇では業務の内容も多様であるという現状を書いております。
 3つ目の〇は、先ほども申しましたが、研究推進支援や研究資金獲得業務、こういったところにとどまらず、URAが、大学経営や研究戦略策定に関わるようなケースも出てきているいうことです。
 4つ目の〇は、こちらも新たな業務といたしまして、研究インテグリティ等につきまして、書いております。大学等において新たな研究支援、研究推進業務というものが拡大しているということを書いてございます。
 一つ飛ばしまして、これまでURAの雇用経費として活用されてきておりました、研究大学強化促進事業というのがありましたが、こちらが終了しているというのも現状として認識しております。
 下3つの〇でございますが、こちらは国際卓越研究大学、それから地域中核・特色ある研究大学強化促進事業、それから、私立大学等改革総合支援事業、こういったところの中でも、URAの積極的な登用ですとか配置、確保について触れられているという状況がございますので、現状として踏まえております。
 こうした研究開発マネジメントというくくりとは、やや違うのですが、技術職員に関しましても、ワーキングの中で一定の育成の在り方というものを考えていきたいと思っております。技術職員につきましては、従前より大学共同利用機関法人の各機関が育成を実施してきたということがございます。分野ごとに全国のネットワークも形成されてきているということですが、直近の動きといたしまして、東工大において、TCカレッジというものが設立をされてきていて、他の大学等とも連携を図りながら、技術職員の育成に資するようなカリキュラムを開発してきている、こういった実態もございますので、こういったところも踏まえながら、今後の育成の在り方について検討していきたいと考えております。
 2ポツの課題のところを御覧いただければと思います。1つ目の〇は、先ほど来、申し上げているように、研究開発マネジメント業務、それから人材というのが非常に多様なわけですけれども、その多様な実態ですとか効果的な業務の切り分け、統合などについて、こういった実例が、全国的に共有化されていないのではないかということを書いてございます。
 2つ目のURAに係る課題ということで書いておりますけれども、URAが配置されているか否か、それから役割が浸透しているか否か、こういったところも大学・研究機関によって様々であると書いてございます。そして、2つ目のポツではURAは研究に係る知識も持ち合わせた上で、マネジメント業務を行う非常に高度な専門職人材であるということですけれども、この認識が必ずしも全ての機関において浸透しているわけではないということ。結果、処遇につきましても、期間によってばらつきがあって、博士号取得者が志す魅力的なキャリアパスになっていないんじゃないかということを書いてございます。そして、URAの業務に関する整理といたしましては、2013年度に東京大学において策定されております、URAのスキル標準というものがございますけれども、その後、関連団体による議論を経て、研修の形で具体化されてきているわけですが、策定からかなり時間がたっているということもありまして、先ほど申し上げたような現代的な要請も踏まえた形で研修内容を見直していくということが必要だということを書いてございます。
 3つ目の〇です。URAの質保証の困難さということで書いてありますけれども、現状におきましては、認定対象のURAの総数というのが、先ほど申し上げましたが、全体で今1,600名程度ということでございます。また、待遇ですとかキャリアパスの不透明さ、こういったところもありまして、URAの総数の伸びが鈍化していると認識しておりまして、認定を独自に継続できるだけの規模がないというのが課題としてございます。
 これまで10年間かけて開発してきていただいております、認定のスキームは、研修で体系的な知識を担保して、それに加えて業務実績等の経験を評価することで認定をするというスキームでございますけれども、URAが実務を遂行する上で必要なスキルとして、知識と経験が両輪だというところの基本的認識は維持をしつつ、持続可能に育成をしていくにはどうしたらいいのかということについて検討していく必要があるとしております。
 「関係団体と連携した育成方策の検討」とありますけれども、国や1つの機関が全てを担うというよりは、研究開発マネジメント業務を行う人材や業務が幅広く多様であるという状況を踏まえたときに、例えば、産学連携ですとか知的財産管理等の関係団体を巻き込みながら、幅広に育成方策を模索することが必要だということも見据えております。
 また、技術職員に係る課題、最後の〇で書いておりますけれども、国内の技術職員の全体像が把握できていないというところがありますので、特に大学で、組織的に技術職員のスキルの把握、育成がなされていないということが課題かと思っております。分野を超えた連携ですとか、大学と大学共同利用機関を横断するような人材育成の在り方について検討していきたいと考えております。
 3ポツ、検討の視点、それぞれ対応しておりますけれども、1つ目の〇では、研究開発の一翼を担う重要な機能を、研究開発マネジメント人材という方々が担っているんだということを改めて確認していくことが重要なのではないかとしております。
 2つ目の〇、多様な研究開発マネジメントの在り方の実態把握、優良事例の抽出とあります。全国的にどういった形でのマネジメントがなされているのかというのが共有化されていないと先ほど書きましたけれども、優良事例を出していって、全体に共有していくことも考えていく必要があるのではないかとしております。
 3つ目の〇は、こちらも分野ごとにマネジメント業務、研究開発マネジメント業務の在り方というのが異なってくるんじゃないかということで、分野ごとの視点を入れていくということも、一つ見据えております。
4つ目の〇は、研究開発マネジメント人材育成の目的の明確化ということで、これまでの質保証という言い方と人材育成というのを比べたときに、新たに今後の人材育成というのを持続的な形でやっていこうとしたときに、その目的は、個人の自己研さんや能力開発、業務のエンカレッジを目的とすべきなのか、それとも、人材育成後のこれまでの認定等を基にした雇用の確保につなげていくということまで含めて目的とすべきか、この辺りも確認が改めて必要だと思っております。
 最後から2つ目の〇は、先ほど来申し上げておりますが、大学・研究機関において、多様な形でマネジメントがなされておりますので、大学・研究機関の事務職員等も含めた裾野の広い研究開発マネジメント人材を対象とするような人材育成方策というのを検討していく必要があるのではないかということです。
 それから、基礎的な機能として、どのようなことを見据えていくべきか、先ほど研究セキュリティと申し上げましたけれども、そこも研究開発マネジメント人材の基礎能力として位置づけていく必要があるかといった点も改めて考えていく必要があると思っております。
 最後、技術職員の人材育成は、従来からなされております、大学共同利用機関法人における育成方策ですとか全国ネットワークの形成、東工大のTCカレッジ、こういった取組について確認した上で、今後、全国の技術職員の育成に資するような方策というものは、どういうふうに構築していけばいいのかというのを書いてございます。
 以上が、資料3-2-2の御説明でございまして、先ほどの流動性、安定性と同様に、資料3-2-3といたしまして、参考資料をお付けしておりますけれども、平成23年、4年のあたりから、こちら研究開発マネジメント人材、リサーチアドミニストレーターの導入に係る議論というものがなされ、政策的な経過をたどっておりますので、当時の導入の狙いとしていた政策的な効果であるとか、各種提言であるとか、文科省がこういった取組を進めてきた、そういったところを資料として、まとめてお付けをしておりますので、こちらは御参考までに見ていただければと考えております。
 私からの御説明は以上でございます。皆様から、こういう視点を忘れないで議論したほうがいいとかいったところも含めて御意見いただけましたらありがたいと思います。よろしくお願いいたします。
【狩野主査】  髙見室長、對崎補佐、大変ありがとうございました。今、最後に髙見室長からありましたとおり、特に、資料3-1-2、資料3-2-2にまとめていただきました論点等に関して、追加、あるいは御意見等をいただけますと大変ありがたく存じます。お願いいたします。
 よろしければ、稲垣先生、何か御追加でございますでしょうか。
【稲垣委員】  追加は特にないんですけれども、先ほど来、研究環境を取り巻く状況が厳しく、サポート環境をいかに整えるかが大事だというお話がありました。このワーキングで議論することは、それに直結することだと思いますので、未来につながるような方向を出せればいいかなと思っています。感想ですみません。
【狩野主査】  ありがとうございます。ほかいかがでしょうか。岩崎委員、何か御追加ございますか。
【岩崎主査代理】  いや、私からは大丈夫です。
【狩野主査】  ありがとうございます。ほかよろしいでしょうか。
 すらっと終わってしまいそうなんですけど、大体もう網羅されているという印象でしょうか。
【杉山委員】  そこまで言うなら、手を挙げないといけなくなったみたいで。
【狩野主査】  そんなわけではないですけど、杉山先生、お願いいたします。
【杉山委員】  研究開発人材のほうなんですけれども、非常にいい論点がそろっていると思います。大学の側からすると、先ほど研究力強化促進事業がなくなって、予算をどう確保していって人員を確保していくかというところは、かなり重要な論点なのかなとは思っています。
 それから、あと人材育成のところなんですけど、うちぐらい大きいとそこそこやれるんですけれども、岐阜大とかを見ていると、すごく人数が少なくて、個別の大学では人材育成がすごく難しい状況になっていて、せっかく雇っても何をやっていいか分からないみたいなことになっているという実情があるので、もちろんお考えだと思いますけれども、全国的なというか、横連携のある人材育成という辺りを考えていただけるといいかなと思いました。
【狩野主査】  ありがとうございました。ほかはいかがでございましょうか。長谷山委員、お願いします。
【長谷山委員】  長谷山です。少し杉山委員のご意見に近いと思うのですが、全ての国立大学に対して、同じような視点でURAを置くことは、ほとんど不可能であると思います。指定国立大学に始まって、国際卓越研究大学が選考され、大学にはヒエラルキーがあると、世の中に理解されてしまったわけですから、それ以外の大学は、課されたミッションが違うと強く主張することになると思います。
 そうなると、各URA人材がどのような領域にどのような技量があるのかを考えた上で、自身のキャリアを見据えて所属を考えなければなりません。それが見える仕組みを作らなければならないと思います。今まで予算化されていたもので、みなが一斉にURA職を作りましたが、URAのキャリアアップの構造設計に成功している大学をほとんど見たことがありません。個人の技量と大学の多様性を考えた上で、もう少し、先のキャリアが見えるようにしていただくと、さらに活躍が期待できると思います。私のこの発言は、先に発言した委員が、未来につながるような方向と仰ったことに共通するものと思っています。以上です。
【狩野主査】  大変ありがとうございました。おっしゃるとおりで、徐々に個々人がどのぐらいに満足して生きていけるかということの視点が重要になってきている時代でございますので、先ほどの仕事の行き来もそうなんですけども、似たような視点がこちらでも必要でしょうね、ということを思いました。ありがとうございます。
 ほかはいかがでございましょうか。久世さん、本当は陪席なんですけど、企業視点から見て、この辺のアドミニストレーションのことで御意見ございますか。
【旭化成株式会社(久世様)】  そうですね。URAについてコメントさせてください。JSTの共創の場形成支援のプログラムでは、世界をリードできる拠点の確立が目標になっています。そのためには、プログラムの予算だけでは不十分で、その10倍以上の予算や人材や設備などを外部から調達・確保する必要があります。そのような状況下で、例えば、CTO経験者のURAは、経営トップに近いところで、企業経営に携わっていたので、出身企業へのパイプだけでなく、国内外の企業との関係も強力で、リソースの確保だけではなく、成果のビジネス化でも貢献できると思います。URAは、非常に重要なポジションで、いろいろな役割が期待されています。それらの役割りを一人のURAがすべてこなすというのは、無理があり、負担が大きいと感じています。
 先ほど、長谷山先生から、大学の規模によっては、URAを何人も置けないとの御話がありましたが、国レベルで、URAのローテーションや企業からのURAの一定数の排出など、有効な具体施策の必要性を感じました。経営が得意なURA、研究や技術が得意なURAなど、その大学の時々の状況に応じて、最適なURAが支援できるといった仕組みです。URAのポジションは非常に重要です。産業界も本腰を入れて協力する必要があります。
【狩野主査】  それは、ぜひお力添えをいただけると、アカデミアセクターは喜ぶと思いますので、よろしくお願いしたいと思うところですが。
【旭化成株式会社(久世様)】  企業から強力な人を出すことを制度化するぐらい重要な案件だと考えています。
【狩野主査】  企業との流動性も皆さんに持っていただくと、非常に本当はいいんだろうということは思いますので、そういった視点もこれからぜひ、これ、国の委員会ですので、検討していけるといいなと。大変貴重な御意見いただきまして、ありがとうございました。すみません、急にお願いしまして、ありがとうございました。
 杉山先生、どうぞ、お願いします。
【杉山委員】  もう一つだけ。1番目のポストドクター等の雇用、育成に関するというやつなんですけども、これもよく練られていると思うんですけれども、策定の趣旨のところに、次のポストにステップアップできる環境の実現を図ると書かれているんですが、正直言って、これ何が一つ大きな縛りになっているかというと、大学の研究の現場に、もちろん競争的資金は大量にある、それなりにあるんですけれども、それは年限が必ずあって、だからどうしても期限を切らなきゃいけないと。それで無期転換ができないという状況があって、お金はあるんだから雇い続けたいのに10年でというのを柳沢委員がおっしゃったような気もしますけれども、そういうこともあって、競争的資金で期限があるもので、どうやってこれを無期化していく、無期ポストにステップアップできるか、そういうポストを用意できるかと、そこら辺も少し考えていただけると。大変難しい問題だと思うんですけど、現実がそうなっているので、それなりに全体では予算あるんだけれども、プロジェクト、プロジェクトごとで期限が決まってしまっているような実態を反映した議論をしていただければうれしいなと思います。よろしくお願いします。
【狩野主査】  承りました。ぜひ、今のことも非常に重要な視点でありますので、政策として、整合性がある状態で、なおかつ実際に雇われて活躍される皆さん方が、ぜひ活躍していきたいと思えるような制度に向けられるように考えてまいりたいということを、まずは個人的に思いました。ありがとうございました。
 迫田委員、お願いいたします。
【迫田委員】  初歩的な質問で恐縮なんですけども、よく分かっていないので教えてください。
 先ほど、どういう人材を育てていいかというお話とか、あと大学の規模感とかによって違いがあるという話だったんですけど、基本的なジョブディスクリプション的なものは整備されているんでしょうか。レベル感も含めて記述されるべきだし、それに必要なスキルや期限も、明確にされていれば、当然そういう問題は起こらないんじゃないかなと思ったんですけど、教えていただければと思います。
【狩野主査】  これはURAに関する御質問と理解してよろしいですか。
【迫田委員】  はい、URAです。
【狩野主査】  ありがとうございます。じゃあ、髙見室長、まず、お願いします。
【髙見人材政策推進室長】  ありがとうございます。資料の3-2-3、ポンチ絵集ですけれども、こちらの7ページを御覧いただければと思います。
 先ほど課題の中で申し上げたのですが、こちら、2013年度(平成25年度)に東京大学で策定されましたURAのスキル標準というものを簡略化して示したものです。本当はもう少し分厚い冊子といいますか、何ページかの資料なのですけれども、URAのスキル標準というのが、現行のURAの業務の一番基礎となる部分を規定しているという整理になっておりまして、URAが遂行することを期待されている業務を示したものになります。
 ただ、実態といたしましては、この中の、特にプレアワード業務、コストアワード業務を中心にやっているという方もいらっしゃいますし、1ポツの1-3のところにありますが、研究戦略の策定ですとか少し高度な部分の業務に、大学本部の中に身を置いて携わっているURAの方もいらっしゃるということで、どの業務を中心にやっているのかというのは濃淡があるような状況になってございます。
【迫田委員】  そうすると、個別のジョブディスクリプションみたいなものはないということですか。
【髙見人材政策推進室長】  そうですね。
【迫田委員】  例えば、それによって、プロジェクトでも、グローバルなメンバーと一緒にやるのであれば、そこは難易度が高くなるしということになって、それによって必要となるスキルとかは当然変わってくるというのが一般的な事例で言うのかなと思うんですけど、そういうものではないんですね。
【髙見人材政策推進室長】  一般的にそういうものがあるとは聞いていませんので、例えば今回の検討の中で、ジョブディスクリプションをしっかり書いていくというのも一つの方向性としてあるんじゃないかというような議論もあると思います。
【迫田委員】  なるほど。分かりました。
【髙見人材政策推進室長】  どうもありがとうございます。
【狩野主査】  ここは、アカデミア的な感覚と企業における感覚が違うところの1つかもしれないんですけども、例えば、アカデミアで教員をやっておりますとジョブディスクリプションがあるようでいてないようなもので、悪い言い方をすると無限責任みたいになっておりまして、多分それと似たようなセンスがURAの皆様にも適用されているのだろうと思います。これ、企業的にすべきかどうかについても、場合によっては議論いただくのも一案かもしれませんが、文化が違うところがあるなということを今、伺って思ったところです。ありがとうございました。
 ほかは、取りあえずよろしゅうございましょうか。もしよろしければ、政策動向を少し説明していただくという次の議題に移りたいと思います。皆様、活発に御意見をいただきまして、ありがとうございました。ワーキンググループで、また活発かつ有意義な内容になることを祈りつつ進めたいと思います。
 では、続きまして、今申し上げましたとおり、最近の政策動向等につきまして、資料4に基づき對崎補佐から御説明をお願いしたいと思います。お願いいたします。
【對崎人材政策課長補佐】  ありがとうございます。最後もしお時間ありましたら、柳沢先生が先ほど、岩崎先生に御説明されていたので、私のほうは、ごく簡潔にやらせていただきます。
 政策動向は、主に概算要求とイベントの報告でございます。概算要求のほうは古新聞で恐縮でございますけれども、詳細は、一つ一つは省略をさせていただきますが、博士課程学生の支援というところで、これは第6期の科学技術・イノベーション基本計画の令和7年度目標2万2,500人に向けて、着実に支援の割合を増やしていきたいというところで、本事業で1万800人程度の要求をしているところでございます。
 JSPSの特別研究員のほうも、より支援の充実を図っていくべく、こちらは人数というよりも支援単価の増というところで、研究奨励費の引上げでありましたり、ポスドク向けのPD、RPD、CPDにつきましては、家族帯同に関する支援等の充実を図ってまいりたいと概算要求をしております。
 こちらは新規事業として、国家戦略分野の若手研究者と博士後期課程学生の育成というところで、特に次世代AIの関連の人材育成として、これまでAIに携わってこなかったバイオとか、材料とか、それ以外の分野の掛け合わせでAIを使っていくという若手研究者及び博士後期課程学生の支援として、支援の単価の大幅なの拡充と、その充実というところで、少数ではありますけれども、こうした支援をしっかり行っていくという新規事業を立てております。
 また、研究者の関係で、女性研究者の研究支援の充実というところもありまして、ダイバーシティー研究環境実現イニシアチブの事業をはじめとして、概算要求の段階では拡充を図っていきたいということで要求をしております。
 また、ポスドク若手研究者向けの支援というところで、先ほどと、PD、RPD、CPDは重複しますけれども、それ以外に様々な事業を展開しておりまして、JREC-IN Portalなどの使いやすさのためのポータルの整備等も引き続き行っていきたいと思っております。
 最後にイベントの報告でございますが、こちら、未来の博士フェス2023というところで、本日御出席の水口先生にも御登壇いただいて、本日御欠席ですけども、桝先生にも御登壇いただきまして、また、狩野主査や迫田先生にも当日お越しいただきまして、非常に活発な、学生を中心とした議論が進んだかと思います。こうしたイベントを、また引き続き、文部科学省のほうでもしっかりと、将来の博士の活躍の見える化というところで取り組んでいきたいと思っております。
 報告は以上でございます。
【狩野主査】  大変ありがとうございました。それでは、柳沢先生に、先ほどはすみません、御遠慮いただいてしまいましたので、よろしければ、御発言いただけますでしょうか。
【柳沢委員】  せっかくなので、では、若手の提言本当にありがとうございます。いいことばっかり言っているのですが、一つ意外だというか不思議だなと思ったのが、今報告書も、ざっと見たのですが、この会でも私、何度か言っているかもしれないですが、評価疲れという言葉が、実際引用されていて、特に若手の方は、恐らく学内の評価に加えて、ファンディングエージェンシーからの評価とかに疲れている人も多いのではないかと思うのですが、この手の提言ってお金のかかることが多いので、なかなか全部をどんどん実現していくのは難しい面もあると思うのですが、国の側の、特にファンディングエージェンシー、それから大学の内部も含めてですけど、評価を簡略化する、減らす、間引く、不要な評価をやめる。特に私が言い続けているのはポストファンディングの評価です。ファンディングが決まった後で中間評価だ、事後評価だ、その評価結果を誰が読んで、何に利用するのかすら、よく分からない。それに評価される側も評価する側も物すごいエネルギーを使っていて、しかも、ここにいらっしゃる方々も含めて、ファンディングエージェンシーのスタッフとか、文科省本省も含めて、お役人の方々も膨大なエネルギーを使っていらっしゃると思うんですよね。それって何のためのエフォートなのか、それこそ分からない。言ってみれば、オーディエンスのない、評価につながりかねないです。私、目の前で見てあきれたのは、特にAMEDとかかな。まさに若手を対象とする数年のファンディングで、事後評価というのを20ページ書かされて、それをまた正式に審査員が数名で読んで点数を付けると。その点数を付けて、何に使うのかすら分からないんですよね。もうファンディングは終わっている状態なので。
 そういう無駄を省いていくというのを、かなり積極的にやらないと、その手の制度ってイナーシャが働くので、慈善主義をやっていると、なかなか仕事はお互い増えていくばっかりだという気がします。だからその辺り、若手の方が一番負荷がかかっていのではないかと心配しておりました。
 質問というかコメントみたいなものですが、それが言いたかったことです。ありがとうございます。
【岩崎主査代理】  ありがとうございます。まさに、コスパ、タイパと、いろいろな言葉がありますけれども、何のためにやっているのか分からない。それからもちろん評価するような側に行っている若手研究者もおります。また、身近で見ていても、本当はもっと研究してほしい先生方が、そういった評価をする側、される側で本当に時間を使って、時間の価値というか、そういったものが考えられないで、どんどん「定額働かせ放題」じゃないですけども、そういった無駄が研究力を削いでいると。そういった危機感が、この議論の中でもすごく出てきました。ありがとうございます。
【柳沢委員】  いや、本当にアカデミア側だけじゃなくて、ここにいらっしゃるビューロクラートな方々も、そこでエネルギーを無駄遣いしていると本気で思うので、やらなくていいことは思い切ってやめるということもすごく大事だと思います。これはお金一銭もかからないので。
【狩野主査】  温かいやり取りありがとうございました。ビューロクラシー側で、何かおっしゃることがある方はございますか。よろしいですか。柿田局長、お願いいたします。
【柿田科学技術・学術政策局長】  文科省、柿田です。ありがとうございました。
 最後の柳沢先生のお話、評価の件、これは本当に私も、個人的にもものすごい問題意識を持っています。ただ、勝手にやめられないものでして、これは、もともとは内閣府のCSTIの、内閣総理大臣決定なるもので、評価の大綱的指針というルールが決まっていると。だから何もしないというわけではもちろんなくて、今日いただいたような意見というのは極めて大事で、我々、科学技術政策を担う役所の1つでありますけれども、内閣府CSTIに対して、そういうことは提言していかなきゃいけないと思っておりますし、それから我々、文科省の中でやっている評価、自分たちの裁量で工夫できるところ、融通が利かせられるところについては、不断の見直しをして改善していきたいなと思います。ぜひまた具体的な御提案もいただいて、ゼロにやめるというのは、いきなりは難しいかもしれませんが、改善していきたいと思います。ありがとうございます。
【柳沢委員】  さっき言ったように、ファンディングエージェンシー同士でも大分違うので、例えばAMEDなんかは、私、特に自分の近くなので目立つのですが、例えば、単純にJST、JSPSと比べても、AMEDはものすごく過剰に見えるんですよね。どうしてだかルールが分からないですけれども、そういうことは内閣府のレベルの話じゃないと思うので。
【柿田科学技術・学術政策局長】  そうですね。ファンディングエージェンシー同士でも議論しているはずですけれども、その辺りが十分議論ができていないのかもしれません。いただいた意見は所管課にも伝えたいと思いますし、我々はJSTを所管しておりますけれども、JSTのほうにも伝えたいと思いますし、全体、議論しながら、よりよい方向に持っていけたらなと思いますので、ぜひ引き続き温かい御意見いただければと思います。よろしくお願いします。
【狩野主査】  どうも踏み込んだ温かい御発言いただきまして、ありがとうございました。柳沢先生も非常に本質的なところをまた御発言いただきまして、ありがとうございました。
 それでは、予定しました時間を少しだけ超過してしまいましたけれども、これで準備した内容が、おおよそ終わりましたので、事務局より事務連絡をお願いいたします。
【柿田科学技術・学術政策局長】  その前に1つ。先ほど事務局から最近の政策動向についてということで、資料4のポンチ絵で発表させていただきましたけれども、実は、経済対策というのが今日の夕方閣議決定されます。それで、その中に様々な政府全体の施策、経済対策の施策が盛り込まれるわけですけれども、我々の所管しております人材の話とか、様々科学技術の事柄についても、しっかりと役所として入れ込んでおりまして、そして、やがてはそれを実行するための補正予算というものの案ができるわけですけれども、その中にもしっかりとした規模のものを確保できるように、概算要求の状態の説明をいたしましたけども、次回の会議では、きちんとその成果が御報告できると思いますので、乞う御期待ということで、よろしくお願いします。以上です。
【狩野主査】  これもまた期待が持てる内容を踏み込んでいただきまして、ありがとうございました。人間が生きるためにお金が必要なんだけれども、お金が回るために人間が生きるようにならないように、うまく進めていただきたいなということを思っている次第でございます。
 それでは、事務局連絡をお願いできますでしょうか。
【對崎人材政策課長補佐】  ありがとうございます。
 次回の委員会の開催日時につきましては、調整の上、また御連絡をさせていただきたいと思います。先ほど局長からありましたように、しっかりといい報告ができるようにと思っておりますので、次回も引き続きよろしくお願いします。
 また、本日の会議の議事録につきましては、いつもどおり作成の上で、委員の皆様にお目通しをいただいて、主査確認の上でホームページに公表させていただきます。
 連絡は以上でございます。
【狩野主査】  ありがとうございました。皆様の豊富な、実りある討議をまたいただきまして、大変ありがたく感謝申し上げます。
 では、これでお開きにいたします。ありがとうございました。
 
―― 了 ――

お問合せ先

科学技術・学術政策局人材政策課