令和6年3月14日(木曜日)15時00分~17時00分
文部科学省16F2会議室及び Web 会議(ZOOM)
小泉委員、稲垣委員、桑田委員、重田委員、杉原委員、高木委員、野口委員、正城委員
生田人材政策課長、髙見人材政策推進室長
科学技術・学術審議会 人材委員会 研究開発イノベーションの創出に関わる
マネジメント業務・人材に係るワーキング・グループ(第4回)
令和6年3月14日
【小泉主査】 では、定刻となりましたので、ただいまから科学技術・学術審議会人材委員会研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材に関わるワーキング・グループの第4回を開催いたします。
本日の会議は、冒頭より傍聴者に公開していますので、よろしくお願いいたします。
本日は8名の委員に御出席いただいております。定足数を満たしておりますので、このまま進めたいと思います。委員の先生方、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、議事に入る前に、まず、本日の委員会の開催に当たり、事務局から注意事項と資料確認をお願いいたします。
【川村人材政策推進室長補佐】 事務局でございます。本日の会議につきましては、対面とオンラインのハイブリッドでの開催となりますので、対面で御出席の委員は、御発言の際には挙手または名立てなどで、オンライン御出席の委員は挙手機能により挙手ボタンを押して合図いただき、主査より指名を受けましたら、お名前をおっしゃっていただいた上で御発言いただきますようお願いいたします。
機材の不具合等がございましたら、対面で御出席の委員は、会場の事務局にお声がけいただき、オンラインで御出席の委員は、マニュアルに記載の事務局連絡先に御連絡ください。
資料につきましては、Zoom上の共有も行いますが、会場ではお配りしておりますので、各自お手元で資料を御覧ください。
それでは、資料を確認させていただきます。事前に送付させていただいた資料としましては、議事次第、資料1から資料3、参考資料1でございます。議事進行の過程で不備等がございましたら、事務局までお知らせ願います。
以上でございます。
【小泉主査】 どうもありがとうございました。
それでは、早速ヒアリングに移りたいと思います。これまで過去2回は、特に大学におけるURAはじめ研究開発マネジメント人材の実態、それから、それぞれの業務の特徴に合わせた研究開発マネジメントという点でお話をいただきました。
今日も、それぞれ大学におけるURA制度の現状というところでお話をいただくとともに、ELSI、それからファンドレイジングといった観点で、新たな課題に関して求められる機能について全部で3件のヒアリングをお願いしているところです。どうもありがとうございます。
では、最初に、日本ファンドレイジング協会事務局長の小川愛様から「研究開発マネジメントでのファンドレイジング業務 ファンドレイジング実践の視点から」ということでお話をいただければと思います。小川様、よろしくお願いいたします。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 よろしくお願いいたします。
私、認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会で事務局長をしております小川愛と申します。よろしくお願いいたします。
今回は、研究開発マネジメントの業務の中で、昨今多様化している内容の一つとして挙がっておりますファンドレイジングにつきまして、今後の検討の一助となるようなお話をさせていただければと思います。私からは、ファンドレイジング、また、それを担うファンドレイザーの育成のための研修プログラム、大学でのファンドレイザーの活躍、そして、参考にしていただけるであろう事例を御紹介し、URAの観点からのファンドレイジングの今後の参考にしていただければと思っております。よろしくお願いいたします。
まずは、私どもの協会の紹介をいたします。日本ファンドレイジング協会は、寄附・社会的投資が進む社会の実現を目指して2009年2月に設置されまして、今年の2月でちょうど15周年を迎えたところでございます。ファンドレイザーの育成の事業を主軸といたしまして、インパクトマネジメント、インパクト評価の事業、そして、教育現場や昨今では企業などにも提供しております社会貢献教育の提供の事業を行っております。
それでは、ファンドレイジングのお話をさせていただければと思います。私どもの協会では、民間非営利組織が活動のために資金を個人、法人、政府などから集める行為を総称して、ファンドレイジングと呼んでおります。民間非営利組織と申しましても、この中には広義として、大学また教育機関、学校法人などを含んでの考えとしております点を申し添えます。
また、ファンドレイジングの範囲ですが、ファンドレイジング、資金調達というのは寄附ではないのかと言われることがよくあります。狭義ではもちろん寄附集めということになりますが、それだけではなく、3ページにございますように、広く、会費や助成金、また事業収入、投融資、それらも含めての財源の獲得を目指したものをファンドレイジングと呼んでおります。
そのための戦略を立てるに当たっては、3ページの右にあるように、すぐに財源のファンドレイジングの戦略を立ててアクションするのではなく、外部の環境や内部の環境、自分たちの組織、また大学等がどういうふうにありたいのかというビジョンを描き、その中で事業計画、組織計画、そして財源計画をどうしたらいいのかの戦略を立て、その中で具体的にどの財源をどのようなところから持ってくるのかというプラン・アクションを行うということを私どもの研修の中でも言っております。それをPDCAでどんどん回していくことによって、ファンドレイジングを続けていくということをお伝えしております。
そのファンドレイジングを担う人材といたしまして、ファンドレイザーというものがございます。これはファンドレイジング、資金調達をするだけではなくて、資金調達の目的となるような社会課題、ひいては研究やその中身を世の中の人に知ってもらいたいということで、社会と組織の結び役、パイプラインという役割も担っていると私たちは思っております。そのファンドレイザーに求められる5つの能力としまして、4ページの左下にございますが、もちろんスキルや知識は必要ですが、多くの方々が携わる資金調達においては、やはり人々とのコーディネーション、マネジメント、そして対人コミュニケーションも重要です。また、2023年には通称不当寄附勧誘防止法が制定されておりますので、寄附や財源を集める側も倫理観高く行っていかなければいけないということで、倫理という面も非常に昨今注目しており、私たちも気をつけているところです。4ページにありますようなファンドレイジング行動基準やガイドラインを自ら制定し、その遵守を宣誓しまして、ファンドレイザーは認定されています。
5ページに私どもが提供しておりますファンドレイザー育成の研修体系を記載いたしました。日本ファンドレイジング協会では、准認定ファンドレイザーという基礎的な資格と、アドバンスとしての認定ファンドレイザー、この2つの資格を提供しております。准認定が今1,400弱、認定ファンドレイザーが200弱ですので、合わせて1,600。URAが1,600というふうに聞いておりますが、ほぼほぼ同じ人数の資格を持った者が専門家として働いております。
それぞれの研修のカリキュラムは、5ページに掲げさせていただきましたが、研修の中で似ているところや、特にこちらはファンドレイジングのところを深めた研修をしております。ただ、一方で、認定のための研修になりますと、広く一般的な内容になりますので、専門分野においての専門ファンドレイザーの研修も今提供しております。その一つの分野として大学の専門ファンドレイザーの研修も提供しています。
資格を得た、また、ファンドレイザーと働いていらっしゃる方が大学にもたくさんおりますので、大学におけるファンドレイザーの活躍や活動について御紹介いたします。
まず、日本ファンドレイジング協会大学チャプターというものがございます。これは大学をはじめ教育現場や、研究機関のファンドレイザーが集まって、コミュニティー、チャプターをつくっております。通称「ガクチャ」と呼ばれており、3月1日現在で508名が参加しています。非常に活発に勉強会やセミナーを開催されており、メルマガでの情報提供等も活発に行われています。
続きまして、6ページの右上、ファンドレイジング大会という日本ファンドレイジング協会が年に1回開催しているファンドレイザーが全国から集まるカンファレンスがございます。今年は3月9日に開催されましたが、その中でも、大学ファンドレイザーが自分たちの大学でのファンドレイジングの事例を発表したり、「ガクチャ」の中での活動を発表したり、とても積極的に情報提供をしてくださっています。ここでは、大学以外の様々な分野でのファンドレイジングの成功事例も提供されますので、他の分野での事例が非常に役に立つということで活発な意見交換や情報交換がされており、積極的に参加してくださっています。
左下に参りまして、大学の専門ファンドレイジングコースです。先ほど申し上げましたとおり、こちらは2022年から開催されております。講師となっている方が、大学で既にファンドレイジングを行ってこられた方や、現在行っていらっしゃる方、関わっていらっしゃる方が講師になって、ピア・ツー・ピアのラーニングの研修コース版だと思いますが、基礎編と応用編を提供してくださっています。修了者は大学ファンドレイザーという認証を得ることができまして、今、33名が認証を得ております。その方々をホームページでも公表しており、大変モチベーション高く仕事をしてくださっているところです。
また、分野ごとに将来を見据えた戦略ロードマップというのを2022年に4分野でつくりましたが、その一つが大学分野でございました。この大学分野でのロードマップを作成するに当たっては、中心となる方が、大学や元総長の方にヒアリングをしたり、ワークショップをしたり勉強会をしたりしてくださいました。URLもつけておりますので、お時間がございましたらぜひ御覧いただければと思いますが、将来構想としてURAではないですが、UFR、ユニバーシティー・ファンドレイザーというような制度も必要なのではないかという提言も加えてくださっております。このように、大学分野でのファンドレイジングのロードマップをつくるという活動を、大学でファンドレイジングに携わっている方がしてくださっている状況です。
ここから、今後の参考にしていただければと思い、2つほど事例を入れております。
まず、1つ目が国立研究開発法人での資金調達活動活性化のための人材育成研修というものでございます。こちらは2020年に文部科学省から私どもが受託した事業でございまして、国研でも今後運営費交付金の増額が期待しにくい中、財源の多様化や自己資金の増加が急務ということで、現状の調査と、人材育成に向けたセミナーの提供をいたしました。
セミナーの提供に当たり、セミナーの受講前後で幾つかの指標を設けて意識調査をしたのですが、セミナーの後行った意識調査ですと、ファンドレイジングの意義や価値、ノウハウ、プロセス等、全ての項目について変化が生じておりました。特筆すべきは国研担当者とのネットワークを持っているかどうかという項目で、こちらはかなり変化が見られたと思っております。後で申し上げますが、組織の中でファンドレイザーや専門家が1人で孤立してしまったときに、自分の組織では相談できないけれど、ほかの組織で同じことをやっている専門家に相談できるコミュニティーがあると非常に心強いものになります。さっきの「ガクチャ」もそうですが、コミュニティーをつくるという観点で、私どもはセミナーをやるときに、必ず後でブレークアウトで横のつながりをつくる話しかけを行っておりますので、それが機能したのかなと思っております。このようなことを国研の方に対して行ってまいりました。
次は、共感的資金である寄附の力として、一つ御紹介いたします。独立行政法人の国立科学博物館が去年クラウドファンディングをされました。メディアでも取り上げられていたので御存じの方も多く、寄附や御支援をされた方もいらっしゃるかと思いますが、こちらは想定の9倍以上の寄附を集めたということもございます。
私どものファンドレイジング協会では、年に1回、過去1年間で顕著な業績を上げたり注目すべきと思われたりするファンドレイジングの活動を、先ほどの有資格者が投票して選ぶという制度がございます。それで今回、国立科学博物館のクラウドファンディングを有識者の投票によって大賞に選ばせていただきました。
土曜日に行われた大会で表彰したのですが、そのときに国立科学博物館からいらしていただきましたイノベーションセンター長の有田様が受賞の言葉としておっしゃっていたんですが、今回、国立科学博物館では4回目のクラウドファンディングで、初めて経営が厳しく、やむにやまれず、プロジェクトではなくて経営のためのクラウドファンディングをしたと。そうしたところ、御自身たちが想像していた以上の多くの人が自分たちの国立科学博物館を支えたいと思っていたということに気がつき、寄附をしてくださった5万6,000人の仲間が増えた。温かいたくさんの応援をいただけたのが非常に力になりましたということをおっしゃっていました。ですので、共感的な資金、寄附というのが、国立のこのような組織であっても非常に大きな力になっているというのを御紹介させていただいたところでございます。
以上、ファンドレイジングやファンドレイザーの活躍について御紹介させていただいたのですが、それを基に、URAの視点からの考察として幾つかお話をさせていただければと思います。
稲垣先生のプレゼンテーションにもございましたけれども、URAの定義を9ページに記載させていただきました。先ほど冒頭にお話した通り、ワーキング・グループの共同認識ということで、この多様化、高度化してきている開発マネジメント業務の中のファンドレイジングの対応というところで、私どもが行っているファンドレイジングの考えやファンドレイザーの中から、幾つかの外部資金としての寄附金等の多様な資金獲得の可能性というのがあるのではないかと思っております。
3点を挙げておりますので、詳しく御紹介できればと思います。こちらのURAさんの活動、また、ひいては、大学の資金調達を一歩進めていただける可能性のあるスキル領域ということになるかなと思いまして、共有できればと思います。
まず一つが、広報マーケティングの手法です。もちろん、今のURAの方々、大学の方々もやられているという前提で、それを一歩進めていくための観点として見ていただければと思うのですが、広く社会や一般への大学や研究のアピールをしていく。ファンドレイジングはフレンドレイジング、ファンレイジングと私たちも呼んでおりますが、ファンの人をどれだけ獲得できるかというのも一つ大切な指標になりますので、アウトリーチも非常に大切だと思っております。まずは、大学や研究を知ってもらう仕掛けづくりやマーケティングも必要ですし、大学を好きになってもらう、また、教授や先生をブランディングして伝えることによってファンをつくる。そして、ひいては、そのファンの人たちが寄附をしてくださったり、学生として入学してくださったりする。または、優秀な職員の方も集まってこられるというのが、助成金獲得や共同研究に付随した大学にとっての大きなプラスの要素、価値として働いてくるのではないかと思っています。
2番目が、外部支援者とのリレーションシップの構築です。こちらは単発の接点ではなくて、それが継続して複数回の支援、助成につながっていくような関係性の維持というのが非常に大切だと思っており、ファンドレイザーもその観点で動いております。例えば、卒業生から周年寄附を頂くきっかけもあるかと思いますが、そこで終わらず、昔ご縁のあった研究室の研究やいろいろな新しい取組を紹介すると、継続寄附や、将来の遺贈寄附の可能性にもつながってくるのではないかと思っています。大学の遺贈寄附というのも今注目をされているところでもありますので、このような視点も加えられるのではないかと思っております。また、研究助成をいただく企業から、次の他の研究やさらなる助成、また寄附金へのつながりというのがあるかと思います。私どもファンドレイジングの鉄則として、寄附のお礼は7回伝えるというのがありまして、あらゆる接点で寄附のお礼をしつつ、次につなげていくという形でのお礼を常にお伝えしながら、次の関係性に持っていくということをしています。
また、最後に、共感を得る対人コミュニケーションの実施です。こちらは信頼される関係性の醸成のための第一歩として非常に重要なものになってくると思いますが、冒頭に申し上げましたように、何のためにどこからどれだけの資金をいただくのかというのを明確にしますと、そこから共感を得られるようなメッセージがつくられたり、助成金の申請書の書きぶりが少し変わってきたりするのではないかと思っています。また、助成もそうかもしれませんが、寄附をくださいとは非常に言いづらいという方もたくさんいらっしゃいます。ただ、寄附は自分たちのためだけではなくて、ひいては大学のため、研究のため、研究成果で利益を得られる方のためですので、これは胸を張って「寄附をください」「助成をお願いします」と言えるようなコミュニケーションをするのがとても大切なスキルになってくると思います。
こう考えますと、ファンドレイザーとURAは非常に親和性が高いと思いますので、協働しながら進めていくこともあると思いますが、全ての大学にURAとファンドレイザーが両方いるとは限らないと存じておりますので、URAもファンドレイジングの手法等を学ばれると、今の業務からプラスアルファの、一歩進んだ形ができるのかなと思っております。そのために、学びの越境といいますか、それぞれの研修の相互乗り入れのようなことも将来的にはもしかしたら検討の中に入ってくるかと思いますし、専門家、専門職同士の連携が非常に重要になってくると思っております。
ただ、これらを行うために、これは大学や研究機関だけではなく、進めていくために非常に大きな課題があるというのも認識しております。課題を整理していくことも重要になってくるかと思いますが、リーダーや組織全体が、寄附も含めた多様化する外部資金に対しての理解を持ち、積極的に関与、アウトリーチの活動に出たり、メッセージを寄せたりすることに期待が寄せられます。
また、縦割りの組織ですね。組織内のいろいろなところからアプローチされると企業側も困ってしまいますので、縦割りでなく組織全体での協働、俯瞰で見られた協働が必要になります。また、専門家を孤独にしないために、コミュニティーをつくったり内部連携を行ったりすることや、ファンドレイザーの専門職としての認知度が上がると、大学の中でも注目されるのではと思っております。
以上、今後のためにお役に立てればと思ってお話をさせていただきました。
また、最後に、私自身が大学のファンドレイザーではございませんので、今回のこの発表をするに当たり、筑波大学の池田様、そして、徳島大学の小出様に御協力をいただきました。お二方ともURAで、かつファンドレイザーでいらっしゃいます。小出様は、兼業で大学支援機構のサービス、Otsucleクラウドファンディングの運営もされており、この方々の働きが、今までも実績もある中で、それがさらに進んでいくことを願っています。
ぜひこれを機会に、大学の中でのファンドレイジングの推進で御一緒できることを願っております。本日はありがとうございます。
私からは以上でございます。
【小泉主査】 どうもありがとうございました。大変分かりやすいお話をいただき、小川様、ありがとうございました。
この発表に先立って、実は、先ほど御紹介されていた筑波の池田URAからは熱いメッセージを別途いただいておりまして、やっぱりファンドレイジングは大切だということをお聞きしていたところです。ありがとうございます。
この後、大学の話に移ってしまうので、ここで一旦、質疑応答を行います。小川様へのファンドレイジングという機能、業務に関して、また、そういったファンドレイザーという人に関して御質問等あれば、ぜひいただければと思いますが、いかがでしょうか。
僕のほうから1点、小川様、よろしいですか。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 はい。
【小泉主査】 最後のほうで少し触れられていたところで、先ほどの最後、池田URAの話もありましたが、大学として見たときに、例えば、URAがファンドレイザーとしてのスキルを身につけるのか、それとも大学が外部から専門のファンドレイザーを雇用するのか、両方のミクスチャーなのかもしれませんが、どのようなイメージを持たれていますか。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 おっしゃるように、両方あるのかなというふうに思っております。例えば、国研の事業をやったときに、組織のいろいろな事業があって、有期雇用になってしまうと長続きしないとか、また、URAは違うかもしれませんが、組織の中でも異動があるとなかなか知識が定着しないというところもありました。
だとすると、本当は理想的なのは、期限が長い形で専門家を雇っていただくと、ほかの方が異動されても、その方々に知識が残るということもあるかと思います。ただ、財源的にそれが難しいというのも理解はしています。そうしますと、URAの方が、もともと研修の中にもプレアワードのところでしたか、ファンドレイジングの項目がありますように、親和性はあると思いますので、そこにアドオンということで、ファンドレイジングの研修を受けたり、そこの知識を得たり、コミュニティーに入っていただくだけでも横のつながりができて、困ったときに自組織だけではなくて他組織の支援も得られるということもありますので、その形で進めていただくのも一つかなというふうに思っています。
【小泉主査】 ありがとうございます。
実は、別の方に誘われて、ファンドレイジング協会の大学チャプターの人たちの集まりみたいなのに呼ばれて参加して、グループディスカッションしたことがあるのですが、ああいうコミュニケーションはすごい、今おっしゃっていた最後の部分ですが、一緒に話すだけでも非常に目からうろこだなと思っておりました。やはりそういうつながりは重要だと思いました。ありがとうございます。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 そうですね。ありがとうございます。
【小泉主査】 ほかに御質問等あれば。今日発表の先生方でも。加藤先生、何か言いたげですね。お願いします。
【名古屋大学(加藤様)】 名古屋大学の事情、今のURAとの連携という面での実情をちょっとお話しいたしますと、本学の場合は、Development Officeという組織を事務組織の中に置いております。そこにファンドレイザー、シニアのファンドレイザーと3名のファンドレイザーをおいて、寄附金の獲得を主な業務としてやっています。なかなか、企業からすると寄附というのは非常に出しにくいというか、株主の合意が得づらいという昨今の状況の中で、共同研究だったら出せるということをよく耳にします。そのような企業側からのリクエストがあったときに、Development Officeは我々のところに、共同研究のメニューなどを企業に紹介してくださいというリクエストをしに来ます。
当然に、URAがファンドレイジングの専門的知識を有するところまでには至ってはいませんが、企業から外部資金を獲得するという手段として、我々も一緒に獲得活動に加わるという連携方法を取っているというご紹介でございます。
【小泉主査】 ありがとうございます。
大学の中でファンドレイザーを雇えばそれで終わりというわけでもなくて、また、ファンドレイジングを特殊な人だけに任せるというだけでもなくて、やはり大学の中で、産学連携部門やほかの広報等と連携を進めていく必要があるのかなと思って先ほどの小川様の話や加藤先生のお話をお聞きしたところです。
ほかに御質問ありますでしょうか。正城先生、いかがでしょうか。
【正城委員】 小川様、どうも御説明ありがとうございました。
多くのNPO法人さんは、社会課題、例えば環境問題や子供の貧困を解決するための活動をする中で、一般の方に呼びかけて寄附を集めるということは一般的によくされていると思いますが、途中でもおっしゃっていただいたように、大学、特に研究の分野となると、一般の方への寄附の呼びかけというのはかなりNPO法人と違うところもあるように思います。その辺り、何か御見解があれば伺えればと思います。
研究でも、例えば、能登で地震が起こったときに、どのように復興していけばいいのかということを研究している方は、すぐに現地に行っていろいろな活動をされたりすると思いますが、先端的な材料を研究するとなると、一般の方にはなかなかそれが何にどうつながるのかすぐには伝わりにくかったりとか、人間の細胞のいろいろな働きを解明する研究は、ときに治療薬につながるような研究成果が出ますが、それもすぐには結びつかない、「今困っている方をすぐに救うようなものではないが、将来的にはそういう可能性がある」という研究もたくさんあるかと思います。
少し話が長くなりましたが、質問としては、社会課題に直接的に働きかけをしているNPO法人と、そこから一般的には遠いと思われる研究をしている大学とのファンドレイジングで、注意するべきところや異なるところ、あるいは、反対に同じところなど、何か知見があればお話しいただければと思います。
【小泉主査】 ありがとうございます。小川様、お願いします。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 ありがとうございます。お役に立つかわかりませんが、例えばクラウドファンディングするにしても、必ずしも全てが成功するわけではありません。ただ、クラウドファンディングをやる意義の一つに、その課題を知ってもらう、認知を上げるということもございます。
例えば、クラウドファンディングするにしても、一般的なものだと、先ほどのスクールのようなものですとか、別の学術系のクラウドファンディングがあって、そこにどういう人たちが興味を持って入ってくるかというのがあるので、どこで何をするかというのを選ぶのが一つなのかなと思います。
また、もしかすると1回単発ではなく、2回、3回と継続した形の中で考えて、まずは、これをちょっと世の中に打ち出してみようとか、そこである一定の方々の支援が得られた場合に、その人たちに継続して情報を提供したり、次の寄附をいただきたいときに、その人たちを中心にまた次のステップ、このような形で進化してきましたとか、このような結果が出ており、次はこういうのにチャレンジをしていきたいので、ぜひ御支援をいただきたいとか、継続的なアプローチをしたりするのが一つなのではと、今お聞きしていて思いました。
ただそのときに、申し上げましたように、「何のために」「どこから」ということが重要で、一般には受けなくとも、すごくニッチなエリア、その分野にすごく興味のある方もいますので、彼らがどこにいるのか、どこにどのようにアプローチしたら彼らに訴えることができるのかというのを、ファンドレイザーは常に探しておりますので、力を借りるというのも一つかなと思います。
【正城委員】 ありがとうございます。
【小泉主査】 ありがとうございます。高木先生、お願いします。
【高木委員】 高木でございます。御説明どうもありがとうございました。
4ページに、知識とスキルなどファンドレイザーの資質・能力、コンピテンシー、これを明確にされている点は非常にすばらしいと思いました。さらに、これに対して、5ページにあるようにファンドレイザーの育成の研修体系まで用意されているということで、全体としてシステマチックに進めていらっしゃるということで感心いたしました。
お伺いしたいのは、現状のファンドレイザーの方のキャリアパスについてです。どのような方がファンドレイザーになられるのか、ファンドレイザーで定年までキャリアを終えられるのか、それともまた別のキャリアに移られる方がいるのか。また、現状の年齢構成が大体どのぐらいの構成になっているのか。その辺り教えていただけますでしょうか。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 ありがとうございます。こちらは大学に特化した情報ではなく、一般的な話でよろしいですか。
【高木委員】 はい、一般的なことで結構です。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 ありがとうございます。どのような方がファンドレイザーなるかといいますと、小さな組織では、ファンドレイザーをやりながら総務をするなど、いろいろなことを兼業しながらファンドレイジングをされているところがあります。
ただ、今、若い人たちも非常にNPOに対しての興味がございます。自分たちのNPOがどのように成長していくべきか考えるときに、財源だけではなくて事業戦略や組織戦略も併せて考える中で、行き着くところがファンドレイザーだったからと、ファンドレイザーになられる方も多いです。
今、全体的に30代後半、40代、50代くらいの方が多いです。キャリアパスとしては、一つは、私どもの中だと講師になるというのが一つですし、あとは、独立して伴走する場合もございます。今、一つの組織に所属していたファンドレイザーが独立して、自分のノウハウや経験を持っていろいろな組織をお手伝いする、ファンドレイザーのコーディネーションのようなことをしたり、プロフェッショナルの伴走支援をしたり、若手の育成に回ったり、そのような形で進まれている方もいらっしゃいます。
副業・兼業が許されるところだと、一つの組織に入っていながら副業で、他の組織をお手伝いしながら、逆にそこから学ぶこともあるので、自組織に持って帰る。そんなようなことをされておられる方もいらっしゃいます。
【高木委員】 よく分かりました。ありがとうございました。
【小泉主査】 ありがとうございます。ほかに御質問とかありますでしょうか。
僕からも実はたくさん質問がございまして。もう一個だけ聞くとすると、今の話にもつながりますが、クラウドファンディングについてお聞きします。クラウドファンディングだけがファンドレイジングじゃないというのはもちろんそのとおりだとして、例えば、国立科学博物館の例にあるようなREADYFORとかacademistとか、学術研究に特化したクラウドファンディングがあると思いますが、そのような大学の外のプラットフォームを使うことと、ファンドレイザーを学内というか大学内に抱えておく、または、学内の人がファンドレイジングの資格を持つということがどのようにすみ分けられるかお伺いしたいです。正直なところ、外にあるacademistのようなプラットフォームの人にお願いしてしまえばそれで済むのではないかということに対して、クラウドファンディングするにしても、わざわざ内部にファンドレイザーを抱えることの意味というか、その辺は何かありますでしょうか。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 多分、国立科学博物館の中にもファンドレイザーさんはいます。どのタイミングでどういう打ち方をして、どのようなメッセージを出していって、お礼はどのように出そうとか、要所要所でどういうふうなアップデートをしていこうかと考える人はファンドレイザーです。READYFORはあくまでも伴走者であって、プランニングや内部のことは自分たちでやらなければならないので、そこをプランするのがファンドレイザーになってくると思います。
【小泉主査】 分かりました。外のプラットフォームと、内側でしっかりプランニングするところからファンドレイザーが関わっているという。そうでないとうまくいかないということですね。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 そうですね。内部の調整はすべてファンドレイザーさんがやらなければなりませんし、皆さんと連携して行う必要があり、その辺りを調整して、いざ出すぞというメッセージングや、どんな写真を使うかとか、そういうのはすべてファンドレイザーさんが考えることになります。
【小泉主査】 そういう意味では、内部の連携というのは大変重要ということですね。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 はい。とても大切です。
【小泉主査】 分かりました。
あと、もうひとつ質問させてください。認定ファンドレイザー、スライドの5ページ目でファンドレイザー育成の研修体系というお話がありましたけれども、研修についてはよく分かったのですが、認定に関してはどのようなことをされているのでしょうか。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 例えば認定ファンドレイザーですと、ベースで准認定を持っていなければならないのですが、加えて3年間の有償実務経験が必要です。なので、経験と、研修受講実績と、あとは、何ポイントかきちんとその間にも研修を受けて知識をアップデートしていただく必要もあって、さらには最後にテストを受けていただきます。
それらを総合して、認定ファンドレイザーの必修研修の中ではプレゼンテーションもビデオに撮って点数化しており、全体を評価して検討委員会で認証するという形になっています。
【小泉主査】 分かりました。ありがとうございます。
ほかにどなたか御質問があれば。ございませんでしょうか。
それでは小川様、どうもありがとうございました。
【日本ファンドレイジング協会(小川様)】 どうもありがとうございました。
【小泉主査】 では、続きまして、大学からのお話ということで、名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部本部長補佐の加藤滋様及び名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部URA/輸出管理マネージャーの石川綾子様から、「名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部 URAの組織・制度・活動」ということで、大学におけるURA制度の現状に関してお話をいただければと思います。加藤先生、石川先生、よろしくお願いします。
【名古屋大学(加藤様)】 改めまして、名古屋大学の加藤でございます。本日はこのような機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。
今回のテーマが、制度というよりもむしろ課題と課題解決ということで伺っておりますので、私どもがどのように課題解決に取り組んできたかということを組織的な面で少しお話をさせていただいて、また、それから私どもの制度の説明、最後に、課題の一つであるエキスパート人材の育成・登用というところで、リスク管理マネージャーの石川から状況をお話しさせていただくという段取りで進めてまいりたいと思います。それでは、よろしくお願いします。資料に沿って説明いたします。
まず、名古屋大学でございますが、平成23年、2011年に文部科学省でURAの定着事業が事業化されたと同時に、第1期校として採択をいただき、ここで10名のURAを採用し、活動組織としてURA室を設置しました。
2013年には研究大学強化促進事業にも採択され、ここでのメインメニューが研究支援人材の登用、強化でしたので、URAを12名増員して、22名の体制で運用を軌道に乗せる取組をいたしました。
そのときの組織図が2ページ目にございます。研究推進室というのは各部局から選出された研究担当の教員で構成する組織で、ここでは科研費対策や大学の研究力強化、Times Higher Educationの分析等をやっていたので、そことも連携しました。それから、もう一つ、産連本部整備事業で設置した産学連携推進本部という知財、共同研究組成、キャリア支援の部隊があり、この3つがそれぞれミッションを担うという状況でございます。
2014年、現在の東海国大学機構長、前名古屋大学総長の松尾が産連本部長のときに、これからの研究支援は、基礎研究から応用研究までシームレスにやらなければならなくなるだろうからそれに合わせた体制づくりを考えろという意向を示したことで、3ページにありますように、この3つの組織を1つの組織にすることで、基礎研究から応用研究、研究グラントの獲得から共同研究組成につなげることを狙った組織改正を行いました。このあたりが、いわゆる課題、今後社会がどうなっていくかということを先取りして組織改組に取り組んだということですが、実は金沢大学が先行されていましたので、それを一つのベースにして進めたという状況でございます。
そのときの具体の組織が4ページ目です。学術産連本部の執行部ということで、研究担当、それから産学連携担当の当時の理事、副総長、それから、各部局の研究担当教員を副本部長として執行部に置いて、企画戦略、地域連携、情報発信、プロジェクト推進、知財、人材育成の部門で構成し、時の状況に応じた組織づくりをしてまいりました。事務方との連携の下に進めたということになります。
時を同じくして、2015年にCOI事業に採択されたことに伴って、地域の産学連携本部の総本山たる建物付きの組織整備の採択を受けました。そこで、今までばらばらに点在していた研究支援部隊、URAを1か所に集めることで初めてシームレスな活動ができるようになるだろうと、またここでワンストップの活動を展開すべきと、これも当時の学術産連本部執行部の指示を受けて、5ページ目にあるように1部屋への集約をいたしました。ただ、それでも、産連本部の部隊は、特任教員という制度で採用されており、特任教授、准教授を名乗っておりましたし、URAは、身分上は特任教員ですが、呼称URAという形でしたので、真の融和はなかなかという状況でございました。
真の融和を考えたこと、それから、整備事業において、我々は第3の職種としてURAを定着するというマニフェストを掲げながら、なかなか制度改正までに至らなかったので、整備事業終了時に結構厳しい評価を受けたということもあり、6ページにある通り、抜本的なURA制度改革に取り組むことになりました。
ここで注意したのが、一番には、冒頭にありますとおり、インセンティブを備えたやりがいと将来設計を描ける魅力あるURA制度にしましょう、そうでなければ今後の定着はあり得ないですよねということ。そのために、現状の課題として何があるのかということで、この改正前のところに、それまでの制度の具体を記しておりますが、それを改善、課題解決するということで、職種、職位、それから業績評価、それに伴う業績給、また評価に伴う無期化、それからもう一つは、服務として裁量労働制を固定時間制に変えることとし、それに伴って、超過勤務手当を払う制度に改正したということです。職種としては、第3の職種として組織規程の中にリサーチ・アドミニストレーターの定義を盛り込みました。なので、教員や事務職員に並ぶ職種としてリサーチ・アドミニストレーターというちゃんとした名称が組織規程の中に載っております。
それから、職名、職位につきましては、首席以下、主幹、主任、冠なしのURAという4階層。給与については、この後、業績給については説明をしますが、基本給、業績給、それから先ほどの超過勤務手当を支給し、もう一つ、年次昇給をきっちり設けることにいたしました。当時は、採用時の給与を5年間変更しないという形でしたので、どうしても後から採用された後輩のほうが高い給与になるというような歪みが生じておりましたので、そのあたりも改善いたしました。
裁量労働制は労働基準監督局から裁量労働制の適用職種ではないという指摘を受けたことに伴っての改正です。当時は、10年ルールが明確になっていませんでしたし、この裁量労働制がいかがなものかという議論もありましたので、そこははっきりさせましょうということで改正いたしました。
それから、評価制度として年度評価をきっちり入れること。雇用期間についても、後に厚労省からURAは10年という規定が出ましたが、我々は5年で十分アドミニストレーターとしての資質は確認できるだろうということで、現在も5年で運用しています。
あと雇用財源ですね。承継ポストとは別枠で、自主財源で雇用財源を確保しています。名古屋大学は定員枠がなかったので、全部アドオンで、また産連本部と学術研究部門が併合しましたので、共同研究の直接経費、間接経費、それからグラントの間接経費、プロジェクト雇用費、そうした収入の一部をURAの財源にできるというのは一つ優位な点として運用できております。
ということで、次のページに今の制度の具体をまとめました。虹色かどうかは、執行部はそのように捉えておりますが、決して実際の現場のURAがこういったニュアンスで捉えているかどうかは分かりません。とはいえ、制度に対してこれまでにクレームを受けたことはありませんし、評価制度についても評価結果についてのクレームを少なくとも私は受けたことはございませんので、一定の理解は得られているのかなと思います。
年度評価については、URAの職種は非常に多岐にわたりますので、一つの指標でははかれないということがあります。逆に、それを設けますと指標に左右されがちになりますので、あくまで自己目標達成型の評価制度を取っております。
ただ、適切な自己目標を設定したかどうかということがあるので、原則、期首、中期、期末の3回面談を行っています。目標設定するときに、一番近い上長である部門長と当該者が、目標設定が妥当かという打合せをします。低い目標設定をすれば、達成は簡単になりますが、どう考えてもあなたのポテンシャル、アクティビティーを考えたら、もう少し高い目標にしたほうがよいのではないかという指導を部門長が行う。また、それを受けて、面談には本部長、副本部長3名が必ず加わりますので、そこでまた確認をいたします。中間で、年度当初に掲げた目標に変更がないか、例えば新しいグラントが生まれて関わるとなれば、それに応じた変更が生じますので、そこは修正をかけます。
最後に、期末評価で自身の評価を行い、自己評価に対して本部長、副本部長、部門長がどう捉えるかというところで、最終評価は全て本部長に委ねています。
絶対評価にしたいですが、予算がありますので、最終的には、本部長が全体予算を見て、S、A、B、C、Dの5段階評価を行います。基本的にはBの32.5%というのが標準評価、Sが44.5%ということで、全体の給与、ここから給与の話に移りますが、基本給が67.5%で、B評価の業績給割合が32.5%です。それで100%を構成しています。翌年度の7月から前年度の評価結果を給与に反映するということになっていますが、S評価になると、32.5%の部分が44.5%になりますので、主任・主幹級ですと、100万円弱の額の差が出ます。Aがこの中間の38.5%だったと思いますので、それでも相応の差が生じます。
それらの評価が、職階の昇格審査やその後の無期化審査にも影響します。特に無期化については、約半数を無期化にするということでの運用方針を立てており、現在54名のURAがおりますが、そのうちの20名のURAが無期雇用です。5年の任期設定をしますので、4年目の前後、6か月程度をめどに無期化審査をします。無期化審査は、1年目からの評価結果が反映されますので、テニュア資格を得られるかどうかということはURA自身がその感覚を持って業務に就くという感じになります。
8ページをご覧ください。もう一方で、エフォートという考え方を入れていまして、1人のURAが一つの専門業務だけを担当するのではなくて、科研費のアドバイスをしたら共同研究のアドバイスもできるような形にするため、基礎から応用までエフォート割りをして、どのくらいの人数構成になるかというところを、全体54を0.1刻みで積み上げた表になります。御参考までに見ていただければと思います。
9ページ目で外部資金の獲得状況についてご紹介します。名古屋大学の運営資金約1,300億円のうち、運営費交付金が約250億円で、寄附も入れた外部資金の獲得が約250億円ですから、URAの果たす役割は非常に大きくなっています。コロナで少し落ち込みもありましたが、URAの活躍によって右肩上がりに外部資金獲得額が増えている状況です。
10ページ目が現在の私どもの学術産連本部の組織図になります。ここでは、先ほどの課題解決ということで、例えば、一番右のスタートアップ推進室、これは2021年に東海地区がスタートアップのグローバル拠点の認定を受けたことに対応する形で、人材育成部門を改組してスタートアップの専従支援組織として新たに設けた組織です。2022年には創発が始まったということで、研究支援部門を強化いたしました。企画プロジェクト部門と一緒だったのですが、分離、独立させたように、時の状況に応じた改組で対応しています。
11ページ目、URAの教育システムを紹介します。産連本部は毎月2回、スタッフ会議という全体会合を持っていて、この第2部で各回4名のURAが発表する機会を設けています。これは皆さんに自身の業務を説明するということ、加えて一番は各人のスキルアップを目的として行っていることです。5分のプレゼンのための資料を作り質疑に応えるということはURAとしてのスキルアップになるし、本部長、副本部長全員参加しますので、どのようなことをやっているかというその人のアクティビティーをここで示し、判断・評価につながるという、そういう仕組みをつくっています。そのほかに、FD/SD研修、例えば、ポンチ絵の書き方や、科研費の申請書の書き方等についてSD研修などで対応しています。
12ページに記載の通り、名古屋大学は東海国立大学機構として岐阜大学と一緒になりましたので、そこでも改組を行いました。機構には統括本部を置き、URAは全員機構所属で、名古屋大学、岐阜大学のそれぞれのブランチで活動するという形を取っています。この改組の中でも、この後説明するリスクマネジメント部門については、法人として強化すべき事項であるということを前提にして、名古屋、岐阜のそれぞれにあった部門を機構に一本化しました。強化を図る施策をもって、エキスパート人材としての確保にも取り組んでいます。
このリスクマネジメント部門に所属する石川に、この後、リスクマネジメントにおけるURAの活躍について説明を委ねたいと思います。
【名古屋大学(石川様)】 名古屋大学の石川です。本日は大変貴重な機会をありがとうございます。私は2011年からリスク管理専門のURAとして着任しまして、リスク管理、研究インテグリティの関係で対応しております。
早速ですが、まず、リスクマネジメントURAの必要性についてご説明します。現在、研究者を取り巻く研究・連携活動のリスクというのは大変複雑化しており、研究者は知らずに法律違反に陥る可能性がございます。例えば海外出張をして研究活動するだけでも、安全保障、利益相反、学内規程、ABS等、様々な法的、規則的なリスクに研究者は対応しなくてはならず、研究者一人ではなかなか難しい状況になっています。なので、URAには限らないと思いますが、関連の法規制に専門的な知識を持つ研究支援者が必要になっています。
昨今、研究インテグリティの確保ということが言われております。今、大学は、企業や海外機関との連携が不対応では難しい状況になっているかと思います。14ページの図にありますように、海外の大学等から多額の研究資金や報酬をもらっている研究者がいて、その見返りとして、日本から研究情報が流出してしまうというようなことが、研究セキュリティのモデルケースかと思います。これにも対応していく必要がございます。
この研究インテグリティの案件というのは、格別の法規制に違反があるかという観点のみではなくて、法律を超えたレピュテーションのリスクを含めた総合的、俯瞰的なリスクマネジメントとなっており、そういったリスクを、総合的、俯瞰的に法律を超えた部分についてもマネジメントできる支援者が、現状求められつつあると考えております。
15ページ、東海国立大学機構のリスクマネジメントURAのミッションというところですが、研究推進とリスクマネジメントを両輪として捉えると。リスクマネジメントは単なるブレーキではなくて、研究推進をするエッセンシャルな部分であるとしてミッションを進めております。東海国立大学機構には、現状7名のリスクの担当者がおりますが、中でもURAは専門性を持ち、研究者に身近な存在として柔軟にリスクマネジメントを行うという意味で意義があると思っております。
現在、15ページに記載の4つのリスクマネジメントを担当しております。安全保障輸出管理というのは、研究が海外で軍事転用されないようにマネジメントを行うということで、主に業務としては、貨物の輸出、技術の提供、留学生等の受入れに関して、審査、承認をします。これら3つの審査だけで年間3,000件以上がございまして、大きな業務になっております。
右側の利益相反マネジメント、現在、スタートアップの増加がありまして、外部機関連携の公正性、透明性を確保するために対応しております。これも年間300件以上、スタートアップ設立の際には必ず利益相反の審査をしておりますので、案件がございます。
その他、秘密情報管理、ABSも一緒に対応して、大学のインテグリティ確保のリスクマネジメントを行っています。
最後のスライド、リスクマネジメントURAの必要な知見と人材育成というところです。インテグリティ確保のためのリスクマネジメントというのは、先ほど少し触れましたが、法律に違反するかどうかだけではなく、現状、法を超えたレピュテーションリスクを含んだインテグリティ確保のリスクマネジメントも求められていると思います。そのためには法律の知識だけではなくて、国際情勢や、アカデミアの常識や工学、生命科学の知識など様々な知見が必要で、私もまだまだ勉強をしています。
こういった人材育成に関しては、輸出管理、利益相反等、学内外ネットワーク、格別のリスクマネジメントについてはいろいろとありまして、私も所属をして知見を情報収集しております。ただ、インテグリティ確保の総合的、俯瞰的なリスクマネジメントという部分では、まだネットワーキングはさほどないと思いますので、そういった課題発掘、ベストプラクティス共有の場があれば、より大学も効率的にインテグリティ確保につなげられるのではないかなと思います。
最後に、リスクマネジメント人材の課題的をお伝えいたします。リスクマネジメント人材は、個人情報や機密に日常的に触れる存在でありまして、大学のコンプライアンス経営にも関わりますので、そういったリスクマネジメント人材の地位や権限、それから責任の範囲というのはよくよく考えた上で、大学等で配置すべきではないかなと思います。
以上となります。ありがとうございます。
【小泉主査】 ありがとうございました。大学の中での位置づけの話と、最後は、研究インテグリティ・リスクマネジメントという新しい業務というか、大学で対応しなければならないところにURAがどう関わるかという話をしていただきました。
京都大学の白井先生の話もお聞きして、まとめて質疑にしたいと思います。
続きまして、学術研究展開センター融合研究創成部門副部門長・部門長代理の白井哲哉様からお話をいただきます。ELSI/RRI、Responsible Research and Innovationへの取組・人材・体制と題してお話をいただきます。白井先生、よろしくお願いします。
【京都大学(白井様)】 京都大学の白井です。よろしくお願いします。
本日は5,6分程度で京都大学のURA組織の紹介をして、メインはELSI/RRIの話をしたいと思います。
まず、京都大学のURA組織はKURAと呼ばれています。名古屋大学と全く一緒で、文部科学省のURAの補助事業を受けて、2011年度から活動、そして2012年度に正式発足という形になっています。8名から始まり、今は50名近い体制で全て自主財源になっています。
一番の特徴は、立ち上がってすぐに部局のURAを自主財源でつくりました。それが2016年度に、それらの部局のURAと本部のURAを一体化するURA組織一元化という大きなガバナンス改革をしています。
一元化した理由ですが、元々は本部のURAと部局のURA、個々のそれぞれの部局のURAが異なるガバナンス、別々のオフィスで活動するという形でした。そういう状況だと、固定されたURAの配置によって、様々な支援ニーズに対し適切なスキルを持ったURAが対応することが難しかったり、一体的なURAの育成機会を作ることが難しかったり、また、URA間の情報共有や効率的な連携が難しかったりということが見えてきました。そこで、平成28年度に一元化しています。建物も1つ、URA皆が集まる建物、オフィスというものをつくって、ガバナンスを一元化しています。
たまに「一元化」といった表現をすると、部局のURAが本部に召し上げられたような印象を持たれる場合もありますが、そうではなくて、部局のURAの機能をそのまま地区のURAとして残しており、遠隔地にあるオフィスもサテライトとして残しています。ガバナンスを一体化することで、多様なスキルや知識・経験を有するURAが適材適所で働けますし、URA独自のキャリアパスもでき、また、戦略的に公募採用もできるという形に変えています。
4ページが現在の体制です。見ていただきたいポイントは2つありまして、1つは部門です。部門が下に5つ並んでいますが、右3つの部門、生命・医薬系部門、理工系部門、人文・社会科学系部門、これが下に矢印が出ていますように、京都大学の各部局、また部局にいる研究者をサポートするのを主な業務としている部門になります。左2つは、研究マネジメント・人材育成部門、融合研究創成部門とありますが、名前のとおり学際であったり国際であったり、また産連であったり、またIRであったり、広報であったり、または人材育成であったりということを担っている部門になります。こちらの部門は全学支援組織のサポートなどもしています。
もう一つの特徴は、オレンジと緑の横の矢印を記載しておりますが、各部門に所属しているURAは、その部門の業務だけをするのではなく、横断的に仕事をしています。例えば、左端の研究マネジメント・人材育成部門に、もともとのバックグラウンドが人社系の研究者だったURAがいる場合は、人文・社会科学系部門のところでの業務を一緒にやるという形もありますし、例えば理工系部門でIRをこれから自分もやっていきたいというURAがいましたら、左側の部門の人と一緒に協働してやるということで、一人一人のURAは横串的に働く、業務ができるという形になっています。
5ページ、もう一つの特徴ですが、全学支援組織のハブ機能をURA、KURAが担っています。京都大学も、研究に関連する部署はURA組織だけではなく、産官学連携本部や情報環境機構、また大学経営では、プロボストオフィスや国際戦略本部等、様々なものがあります。なので、こういう組織と必ず窓口になるURAが存在しています。それにより、よい意味で業務をしっかりと明確に切り分けて、しっかりと連携ができるようにしています。
例えば、先ほども御紹介があったファンドレイジングにおいても、総務部の渉外課基金室から、これも先ほど名古屋大学の加藤さんからもありましたが、同じような依頼がKURAに来ます。URAの特徴は、四十数名のURAが専門性を持って京都大学の全体の研究者の現場でサポートしているので、研究者のことを大学で一番知っているというのがKURAの特徴です。基金室からファンドレイジングの依頼があれば、URAが基金室に研究者をつなげたり、逆に研究現場でインテグリティに関する課題があればURAが研究者を産連本部や研究推進部に繋げたり、つなげる役割をURAが担っているという構造になっています。
京都大学のURAのキャリアパス・スキルアップですけれども、これも、先ほど名古屋大学の加藤さんが話されたものとほぼ一緒です。URAの評価制度も同じで、職位に応じた目標管理と評定要素で評価する。面談も年に3回あります。その期初の面談で、上長と相談して調整をしています。雇用期間も一緒で、無期雇用化転換というものが可能になっています。
1つ、URA育成カリキュラムに関しては、URA組織ができた12年前から着手しています。URAの仕事は非常に多様ですので、全URAがやはり基盤となる知識は持っておくべきだということで、KURA独自のカリキュラムをつくっています。稲垣先生から報告がありましたURAの質保証事業のカリキュラムのところでも御協力して、また現在では、そのURAの質保証事業のカリキュラムと京都大学のカリキュラムが読替えできるような制度になっています。
京都大学の紹介は以上で、続きましてELSI/RRIへの取組・人材・体制についてお話ししたいと思います。まず、自己紹介ですが、私は2012年、11年の後半からリサーチ・アドミニストレーターとして京都大学でやっていますが、その前は、京都大学の人文科学研究所というところでELSIの研究をやっていました。当時は、日本だけではなくグローバルにゲノム研究に対してELSIへの取組が必要だということで、文部科学省でも、ゲノム研究全てをサポートするゲノム支援というプロジェクトがあり、その中でELSIの取組をしていました。
9ページ、URAや研究者がELSI/RRIに取り組むために知っておくべきことはそもそも何なのかという話ですが、大きく分けて2つあります。1つは、研究を進める上で、なぜELSI/RRIへの取組が必要なのかということです。こちらは、ここ数年、JSTのCRDSから報告書が複数出ています。特にURLを載せています「自然科学系研究者のためのELSI解説」は入門書としてとても分かりやすいので、今日は、この話は割愛いたします。ELSIとは何か、また、先ほどありました研究インテグリティとの違いは何かといったことも、こちらを見ていただけたら分かるかと思います。
もう一つ大事なポイントは、2つ目にありますELSI/RRIへの取組に何が必要なのか、具体的に何をしないといけないのかというものです。これを学ぶ資料はなく、ケーススタディーを紹介したものはございますが、自分事に置き換えると何をする必要があるのかが分からないというのが現状かと思います。そもそもELSI/RRIへの取組は対象となる研究分野によって異なりますし、取組によって、必要となる機能や人材も異なってくるという状況です。
そこで昨年、大阪大学のELSIセンターの方々に協力いただいて、具体的にELSI/RRIに取り組むにはどのような活動があるのか体系化したものを作成しました。それが10ページになります。活動は体系化すると6つあります。
ごく簡単に御紹介しますと、まず(1)俯瞰と整理とあります。ELSIは倫理的・法的・社会的課題と訳されますけれども、そもそも当該研究分野、科学技術に対して、どのような課題があるのか、ゲノム研究だったらゲノム研究でどのような課題があるのかというのを、まず見いだす必要がございます。その課題を整理して俯瞰するというのが(1)になります。
(2)協働と調整ですが、課題を見いだしただけでは何も解決しませんので、課題に対してどのような対応を取っていくのか考えるということです。当該研究分野、例えばゲノムだったらゲノム、AIだったらAIという、それら自然科学の研究者だけだと解決策が見つかりませんので、いろいろな研究者、またステークホルダーと協働、調整して解決策を考えていくことが必要になってきます。
次に、(3)実装と展開ですが、こちらも(2)協働と調整で案ができただけで終わりでは解決しませんので、その案を実行に移していくというフェーズになります。実装と展開というところも研究者だけではできないため、こちらの実行計画を立てていくということが必要になります。
そして、(4)評価と提案。こちらは具体的にはテクノロジーアセスメントやリスクコミュニケーションの取組になります。俯瞰と整理の段階から、そこにある課題が社会にどれぐらいの影響を及ぼすものか、また、その課題に対する対応策も、対応することで課題が解決したのか等々のエビデンスも必要になってきます。そして、そのエビデンスを基に次なる提案が必要になってくるということで、評価と提案というプロセスがあります。
この(1)(2)(3)(4)を全て囲むように(5)広報・PRとあります。広報「・PR」と入れている理由は、日本語で「広報」と書いてしまうと一方通行の情報発信に見える場合もありますので、双方向のコミュニケーションという意味で、パブリックリレーションズと入れています。この広報・PRは、(1)から(4)まで全てにおいて必要になってくるアクションなので、全体として描いています。
最後、(6)活動マネジメントです。ここまでお話しして、(1)から(5)まで多様な活動がありますので、これを全部やろうとなると、ELSIの活動自体のマネジメントが必要となります。例えば、研究プロジェクトのマネジメントと一緒で、どのような体制・計画で、どのようなコストを払ってということが必要になってきますので、中央に(6)活動マネジメントとあります。
一連の取り組みの詳細につきましては、最後につけた参考資料の18ページ以降に、もう少し細かくまとめてあります。後で御覧になっていただけたらと思いますが、アクションとしては、このようなものがELSIに対して必要になってくると思います。
次のテーマ、ELSIに必要な機能、人材の話ですが、この参考資料に入れたものをまとめると、11ページになります。機能、人材はどうなるかといいますと、大きく分けて2つ必要になってきます。
まず、研究者ですが、研究者は3種類要ります。1つは、自然科学の研究者、当該研究分野の研究者ということで、ゲノムだったらゲノムの研究者、AIだったらAIの研究者、最近ですと教育学のELSIなどもありますが、その場合は教育学の研究者になります。
もう一つは、人文・社会科学の研究者ということで、ELSIつまり倫理的・法的・社会的課題には、倫理学・法学・社会学的のアプローチや考察等々が必要になってきますので、それらの研究者です。
最後、3つ目ですが、人文・社会科学の研究者からあえて切り離して書いていますが、ELSIに関する研究者というのを入れています。具体的には、科学技術社会論、STSの研究者や、テクノロジーアセスメント、リスクコミュニケーションの研究者です。これらの研究者がいないと、先ほど参考資料に載せていたような部分ですが、なかなか(1)から(6)のアクションがうまく回らないことがあります。個人的には、このELSIに関する研究者が日本ではかなり少ないのではないかと感じています。
次に、研究マネジメント人材(URA等)になります。参考資料に載せているものをまとめますと、ここにある6項目になります。広報の専門家で広報戦略・実行計画を描ける人材、アカデミアと多様なセクターをつなげられる人材、学際的な議論の場がコーディネートできる人材、サービスデザインができる人材、プロジェクトマネジメントができる人材、プレアワード(資金獲得)業務ができる人材。気づかれる方もおられるかもしれないですが、稲垣委員の発表にありましたURAの質保証事業の15のカリキュラムの中に、このような要素はもう既に入っています。
ですので、これらの業務を担えるURA等の専門職は、日本のアカデミアの中にも存在しつつあります。しかしながら、それがELSIを担える専門人材としては認識されていません。その理由として、不足しているのは、ELSIに関する個々の取組に必要な人材ではなくて、ELSIとは何か、何をすべきかを理解し、各研究プロジェクトにおいてELSIに必要な活動を研究者に教えコーディネートできる人材です。逆に言うと、ここさえあれば、ELSIの個々の取組に必要な人材はいるということになります。
最後に、ELSI/RRIを担う体制の話をしたいと思います。まず、12ページは、1つのモデル・案を表したものになります。各研究のプロジェクトごとにELSIに専門的に取り組むチームが必要です。研究プロジェクトを担う研究者だけではELSIの対応は不可能、負担も増えるということで、左側の図が、日本でもよくある構造だと思います。CRESTにしろ、ERATOにしろ、WPIにしろ、大きな研究プロジェクトは、トップに研究者が立って、その下にも各研究グループのリーダーがいて、その下にポスドクや学生がいる。こういう構造はよくあると思うのですが、ELSIに対応していくためには、右のように、トップと並列するレベルのELSIの取組のトップが必要になって、そのトップから、個々のELSIの取組を行う他の研究者や研究マネジメント人材のチームがあり、研究プロジェクトを横串するように受けて一緒に協働するという形が理想な形だと考えられます。これは私の個人的な案ではなくて、イギリスのURA、向こうではリサーチマネジャーと呼ばれることが多いですが、そこでは、このような体制で、大きなプロジェクトが組まれていたりします。
次に、組織について、日本のアカデミア内にELSIへの対応が求められることも非常に増えてきていると思いますが、根づかせる場合には、ELSIに取り組む機能・人材・組織に注目する必要があると認識しています。ELSIへの取組が継続してレベルアップするには、ELSIへの対応に必要となった機能や、得られた経験が継承されなければならない。機能や経験が継承されるには、人材が必要だと。人材が残るには、組織、コミュニティーが必要だと認識しています。
これはELSIに限った話ではなく、研究マネジメント人材全体に言えることだと思いますが、今、URAが1,500~1,600人に増えて、安定的に雇用されるケースも増えてきています。その次に必要なのは、組織が安定的に維持されることです。これは組織が急になくならないようにするという意味だけではなく、組織のミッションが安定的に維持されることも重要です。組織のミッションが変わったり、人が流動化するだけだったりすると、次の人に継承されていきません。つまり、人の安定だけではなくて、ミッションを備えた組織が安定的に備わっていかないと、レベルアップは難しいと認識しています。
続いて、評価の観点です。避けたい状況として認識しているのは、研究者が従来の研究活動に加えELSIへの活動をボランタリーに対応することや、また、ELSIへの取組実績が研究者、専門人材のキャリアパスに反映されないことです。こうなると、やはり活動が継続されない、レベルアップしないことになります。ELSIに対応する人材を明確にし、その人材による研究成果や専門的な活動を評価することと、その評価をその人材が定着できる、キャリアアップできる体制と組み合わせておくことが肝要だと認識しています。
最後、ここまで説明したELSI/RRIの取組・人材・体制のまとめです。ELSI/RRIの取組は6つあります。研究者にもURAにも、ELSIとは何か、何をすべきかという6つの取組が、現状知られていません。また、各取組によって必要となる機能、人材は異なります。
ELSI/RRIに必要な人材としては、研究者は3種類です。特にELSIに関連する研究者が不足しているように感じています。研究マネジメント人材ですが、個々の取組に必要なスキルを持った人材は、既にURAコミュニティーに存在すると認識しています。ただ、ELSIとは何か、何をすべきかを知り、活動全体をコーディネートできる人材が不足していると思います。
最後、体制についてです。ELSIへの取組が継続しレベルアップするには、機能・人材が残る組織が必要です。ELSIを担う人材の評価は、その人材が定着、キャリアアップできる体制と併せた検討が必要だと認識しています。
私からは以上になります。
【小泉主査】 白井先生、どうもありがとうございました。
名古屋大学の話、そして中でも研究インテグリティ、リスクマネジメントの話、それから、白井先生からは京都大学の話とともに、特にELSI/RRIを担う人材という話をしていただいたところです。
ここから少しディスカッションに入ります。いかがでしょうか。
杉原委員、お願いいたします。
【杉原委員】 名古屋大学の加藤先生にお伺いいたします。スライドの7ページ目あたりで、URAの人事制度の御説明をいただきましたが、これからURAをしっかり定着させていく上で、昇格審査で例えば、首席、主幹、主任、一般と職位がある中で、この人材の比率は、最初からある程度決められていて、ピラミッド構造になるようにきちんと考えられているのでしょうか、もしくは、ある程度平準化して配置しているのでしょうか。この人員配置をどのように考えられているのかというのが一点目です。また、今実際に採用されているURAが、ある程度年齢層が固まっているような背景があるのではないかと思いまして、将来的に、こういった階層ごとにURAをきちんと配置する上で、長期的に循環していくような形で人材を配置していく仕組み等を、もしつくられていたら教えていただきたいです。
【名古屋大学(加藤様)】 質問ありがとうございます。ずばり直球で痛いところをつかれたという印象を受けております。まさに課題たるところと、私どもも受け止めているわけです。本来はやはり、ヒエラルキーのある組織構造にしたいということで、事務組織などは新規採用を行って順々に成長させていき、係や課を構成する構成になっているかと思います。ただ我々のところは、一応そういう絵を描いてはいますが、後任補充として、それにマッチした人材が来るかというと、必ずしもそうではありません。先ほど言われた年齢層という部分に関しても、やはり若手が欲しいのですが、なかなか若手の応募はないです。当然部門によっても大分異なりますが、例えば産学連携、国際戦略部門などは、企業の役職定年になったOBの応募が非常に多い。アカデミアはポスドクあたりもありますが、なかなか応募がないという状況です。なので、我々が狙ったところを埋めたいのですが、それに対応する人材の応募がない。でも、やはりこの人は採りたいよねという場合もあるので、そういうときには、どのような形ではめるか、例えばこの人を少し上に上げましょうとか、一応組織としては考えます。もう一方で、実力主義とはいえ、どうしても構成を考えると、年功序列の部分も、ある程度考えざるを得ないという苦しいところもあります。非常に優れた人が一足飛びに首席、主幹になるようなケースはありますが、レアケースです。部門の中で最適配置ができるような募集として、主任を募集する、主幹を募集するということはしますが、それに応じた人材が来るかというとなかなかそうもいかず、実際には苦労しているという回答です。
【杉原委員】 ありがとうございます。長期的に考えたら、やはりバランスを取るべきだと思いますが、なかなか難しいところだというのがよく分かりました。
【小泉主査】 杉原先生、加藤先生、ありがとうございます。
ほかに御質問等ありますか。稲垣先生、どうぞ。
【稲垣主査代理】 石川先生にお伺いします。安全保障に携わるURA業務をしている方は、今、名古屋で7名いらっしゃるというお話でしたが、背景、バックグラウンドはどのような方々なのでしょうか。
【名古屋大学(石川様)】 私は法学系の大学院を出て、その後、ここのURAとしてリスクマネジメントを行っております。他の方の多くは、企業で安全保障輸出管理の業務をやられていた方が、教員や事務系専門職として対応されています。
【稲垣主査代理】 ほかの大学のこのようなコミュニティーも同じような傾向なのでしょうか。
【名古屋大学(石川様)】 そうですね。アカデミアをバックグラウンドとする方もいらっしゃいますが、企業出身で、安全保障輸出管理の専門人材として雇用されるという方が多いです。ただ、その職種というのは結構様々になりまして、教員ポストだったり、事務系職員であったり、いろいろになります。
【稲垣主査代理】 なるほど、ありがとうございます。
【小泉主査】 ありがとうございます。
野口先生、お願いします。
【野口委員】 野口です。加藤先生、石川先生、白井先生、ご説明ありがとうございます。
両大学に共通してお伺いします。採用にはとても苦慮されているということでしたが、両大学の採用方針や採用ポリシーがあればお聞きしたいです。また、ELSIや、先ほどお話しにありました安全保障輸出管理や、場合によっては国際連携分野は、人材がなかなかいないため、待ちの募集をしていても採用が本当に難しいと思いますが、そのような分野の人材リサーチの手法がありましたら教えていただきたいです。
以上です。
【小泉主査】 どうぞお願いします。加藤先生から。
【名古屋大学(加藤様)】 ポリシーとしては、1つには、共通して博士号、Ph.D.を持っていることが望ましいと掲げています。そういう意味では、共通したポリシー、こういう人をというのは、結局どのポジションのURAを採るかということにもよりますので、まちまちですね。よく言えば柔軟性というところにもなりますが、ある意味ポリシーがないとも言えます。
例えば産学連携部門であれば、企業出身であるとか。どの部分をやってもらうのかにもよりますので、社会実装に近いところであれば、企業でのR&Dよりも、むしろ事業部に在籍した方とかという点を重視します。研究支援の場合は、現状、我々のグラント支援では、バイオ系は多いが、工学系が少ないとなったら、当然そのバックグラウンドを持つ人を優先的にというか、少しバイアスをかけて見るようなことをします。
相応の審査をしておりますので、本部長以下、副本部長が必ず採用の審査員になるのですが、そこにどういう人をはめるかという人物像は共有できていますので、それに応じて、募集要項にもその旨は記載をし、そこを1つの基準にして採否を決めるようなことになります。
基礎系であれば当然にアカデミア出身を想定しますし、産学連携であれば基礎、それから最近のスタートアップ支援であればやはり起業の経験がある人やメンターといった人材など、多種多様です。ただ一方で、素養があるというふうに見たときには、先ほどリスクマネジメント、どういった人材をということでのお話がありましたが、補足をしますと、必ずしも経験がある人が全てではありません。知財をやってきたとか、企業でこういうことをやってきたら、そのスキルアップとして、本学に入って、それを身につけるということも可能だという判断もします。
回答になっているかどうかわからず申し訳ないですが、以上、名古屋大学はそのような感じで審査をしている状況です。
【小泉主査】 白井先生、続けてお願いします。
【京都大学(白井様)】 本学の状況も名古屋大学の加藤様が言われたこととほぼほぼ一緒です。京都大学でも、URAの専門性は2軸に考えていて、1つは、学術的分野です。総合大学ですので、いろいろな学術分野の全てをサポートいたします。それからもう一つは、URAの専門性です。分かりやすく言うと、質保証にあります15のカリキュラムにあるような、国際、産連、広報等です。その2軸の中で、やはり欠けている人材を採っていくという形になります。URA組織、KURAは多様性のるつぼだと意識していますので、欠けている部分を採っていくことにしています。
もう一つは、これも加藤様が言われたことと全く一緒で、リクルートするだけでなく、先ほどもありましたように、特に若手に関しては育成するという観点が大事だと認識しています。その点、一元化したところにやはり強みがあると思っていまして、採用したときには、例えば広報をやりたい、広報のバックグラウンドがあるという方でも、入ってから、IRにチャレンジしてみたいのであれば、IRのチームに入れて、そこでスキルを伸ばしてもらうということをしています。もともとURAは新しい職業ですので、そこから、先ほども言いました通り、シニアやミドルクラスが持っているノウハウを若手に引き継いでいくという意味でも、中で育てるというようなことは意識しています。
それから、最後の質問ですが、ELSIにしろ、コンプライアンスにしろ、結論から言うとどこにそれらの人材がいるかのリサーチはしていないです。リサーチはしていないですが、結果論として御紹介するならば、例えば、先ほどのELSIのものだと、6つの体系化したものをURAコミュニティーに伝えていかなければということで、RA協議会のほうで実務者養成講座として、今日お話ししたような話をレクチャーしています。そういったレクチャーをすると、これからELSIをやっていこうという人たちが集まるわけですから、そこで、そういう人たちが知れるというような状況は結果論としてはあるかなと思います。
以上になります。
【小泉主査】 ありがとうございます。野口先生、よろしいでしょうか。
【野口委員】 ありがとうございました。多様性、育成、研究分野、所属部門など、最適解をうまくミックスされながら活動されているのが、両大学からご説明を伺いよく分かりました。
【小泉主査】 ありがとうございます。
続いて、重田先生、お願いします。
【重田委員】 小川先生、加藤先生、石川先生、白井先生、本当にありがとうございました。白井先生に1件と、加藤先生に2件、お伺いしたいことがあります。
白井先生にお伺いしたいのが、私もELSIの活動というのは非常に重要で、今後、科学技術のプロジェクトを遂行するにしても絶対に欠かすことができない観点になっていると考えまして、筑波大でもそういったことができないかと、今、必死に考えているところです。ELSIに関わる教員及びURAについて、どういうものを彼らに関して、目標であるとか、あるいはKPIのような指標であるとか、そういった形で評価するのか、教えていただければと思います。
【小泉主査】 では、白井先生、お願いします。
【京都大学(白井様)】 御質問ありがとうございます。今日は時間の関係で割愛したのですが、具体的に今からELSIに取り組もうという活動があったときに、6つのアクションがあると御紹介いたしましたが、6つの活動全てをやらないといけないわけではありません。
例えば、先ほど、私の自己紹介でありましたように、文部科学省として日本のゲノム研究全てに対してELSIをやっていくとなると、6つ全てが必要になってくることはございます。ただそうではなくて、最近ではAMEDやムーンショット、海外ファンドでも、ELSIの活動が計画に求められることがありますので、例えば一研究者が何らかの研究プロジェクトで、数百万円で、3年間で、1人でとなったときに、どこまで何をするのか考えた場合、6つ全ては当然無理なわけです。
このためURAの役割としては、そのような研究者に対して、6つの取組があるということと同時に、あなたの研究分野ではこの6つの取組のうち、まず最初の1年でどこまで何をしますかとか、3年間のアウトプットで何をしますかという計画を、最初に一緒に立ててあげることが大事だと考えています。難しいのは、それはやはりELSI/RRIに対応したことがある人間でないと、なかなかその計画は立てられないので、そういった人材の育成が必要だと認識しています。
今ので、まずはお答えになっていますでしょうか。詳細がもっとありましたら。
【重田委員】 例えば、一緒にこういった大きなファンドに出していくときに、その申請書のほうに名前が入ったりするでしょうか。あるいは、そういった活動をしたということ自体が蓄積されていて、給与等に反映されるのでしょうか。そのあたりどのような形になっているのかお伺いしたいです。
【京都大学(白井様)】 結論から言いますと、ELSIに対する評価がないというのは課題になっています。いずれにしろ、今、先生が言っていただいたポイントは、それをサポートしたURAの評価、あと、それを研究プロジェクトに入れた研究者側の評価、両方になってくると思うのですが、研究者側の評価というものも実情としては、ファンディングエージェンシーのほうで、こういうKPIで出しなさいというような明確な回答はないというのが現状です。だから、研究者側もどのような計画を立てればよいのかわからず困っているということになります。悪い意味ではなく、ELSIをコーディネートできる人材が、あなたの研究プロジェクトの規模ですと、3年間でここまでのリサーチはしましょう、リサーチした結果こういうアウトプットを出しましょうと、現実的な計画をKPIとしてオリジナルに立てる、それをサポートするというのが大事で、研究者としては、申請段階に計画した実現可能な計画をしっかりやったということが現状としては大事なのだと思います。
もう1点、URAのほうの評価は、それをサポートしたということの評価になりますので、実際私もプロジェクトチームに入る場合もありますし、その評価の仕方はURA全体の評価と共通する部分になるかと思います。
【重田委員】 ありがとうございました。よく分かりました。私たちも参考にさせていただければと思います。
続きまして、加藤様にお伺いしたいのは、先ほど、いろいろな形で人を雇っていったときに、年齢のバランス等がなかなかうまく最適になるのは難しいとのことでした。お伺いしたいのは、新しく入った方が、例えば欠けた方がやっていた業務とは違うことをやりたいということもあると思いますが、そういった場合のワークバランスというか、その方に対してどのようなアプローチをするのか、やりたい業務をやらせるのか、それとも、やってもらいたいものを優先していただくかというバランスについてお伺いしてもよろしいでしょうか。
【名古屋大学(加藤様)】 御質問ありがとうございます。せめぎ合い、しのぎ合いといった部分もございますが、やはり本人から、こういう業務をやりたいという希望は出てまいります。一方で、組織としてどのように育ってほしいかという、やはりその部門の中でどういう位置づけでその者を捉えるかという執行部の考えもございます。
先ほどエフォートの業務の表を共有いたしました。例えば今回のようなケースですと、広報、アウトリーチをやっていた人間が、企画をやりたいと申し出てまいりましたら、まず半年、その者のエフォートの30%を企画部門にします。幸いにして同じ企画戦略部門の中にアウトリーチ部門がありますので、そのユニット間でエフォートを分け合う、エフォート割りという考え方を入れています。
同様に、これまで研究支援として、主に基礎系のグラントの活動をしてきた者が、研究者に寄り添ってというところで、今度、共同研究の支援依頼を受けたケースでは、企業との連携、どのように付き合うかという経験が必要だという希望に対して、今度は部門間でまたがって、産学協創部門のエフォートを当該者に充てたりいたします。そのようにエフォートを切って、当人の希望に沿うような業務を担当させることもありますし、我々が当人にどのようになってほしいかということを説明し、納得感をもって業務に邁進してもらう工夫も少ししているということは申し上げられるかと思います。
以上です。
【重田委員】 ありがとうございます。非常にダイナミックに仕事を捉えているということに感銘を受けましたとともに、やはり、人材というのは、基本は人なので、やりたいこと、あるいは自分が実現したいことと実際の業務の折り合い、バランスというのが、本人の成長にとっては非常にいいことだと思います。名古屋大学のやり方についても少し学ばせていただきましたので、また何かありましたら教えていただければと存じます。どうも失礼いたします。ありがとうございます。
【小泉主査】 白井先生、加えて。
【京都大学(白井様)】 京都大学の事例も参考になればと思い、御紹介します。基本は加藤様が言われた名古屋の場合と一緒で、私たちもエフォート管理をしています。そのときに大事なポイントは、先ほど紹介したように、部門の中を横串的に皆が協働できる形をとっているのですが、そのエフォートの調整で肝になってくるのが部門長、副部門長になります。要するに、何か横串を通して連携して行うときに、そのエフォートが適切かどうかという調整をしないといけないので、そこは副部門長間、部門長間で調整しています。組織としては大学全体のミッションから下りてきたものに応えていかなければならないので、それを含めての調整も行います。一方で、今、重田先生が言っていただいたように、URAの仕事は新しい仕事ですので、新しいサービスデザインをしていくこともとても大事なことだと認識しています。
なので、もう一つ御紹介したいのは、新しい仕事をしていくにも、単に思いつきで何かをやられると困るわけですね。なので、KURAのURAのカリキュラムのレベル2というところでは、研究開発評価として、新しいサービスをデザインする、企画書をつくるということを教えるようにしています。なので、新しいことをやりたいといった場合には、具体的に言うと、しっかりとしたロジックモデルを書いて、どういうチーム、どういうコストでやるのかという企画書を上げてもらって、それをオーソライズするというステップを踏んで、新しい企画をKURAの中に入れていくというようなスタイルで進めています。参考になれば。
以上です。
【重田委員】 ありがとうございます。大変参考になりました。
【小泉主査】 ありがとうございます。
ほかに御質問等ありますか。正城先生、お願いします。
【正城委員】 御説明ありがとうございます。石川様と白井様に同じ質問をさせていただきたいのですが、研究インテグリティやELSI/RRIというのは、それ自身が研究の活性化や、研究・アカデミアと社会とのつながりにどのような好影響があるのと感じておられるかを伺いたいと思います。
もちろん安全保障輸出管理は法律なので守らないといけないのは当然ですし、倫理も守らないといけないのですが、ともすれば、義務的、やらないといけないという文脈で語られることが多いのかなと思います。しかし、やはりそのもとには何か、先ほど質問させていただいた研究そのものへの好影響があるのではないかと思うのですが、その業務に携わる専門家としてどう感じられているか、伺えればと思います。
【小泉主査】 では、石川先生、お願いします。
【名古屋大学(石川様)】 まず、研究インテグリティというのは、研究者の自律的な透明化、マネジメントということです。米国などでは、人、物、金連携、自分が株を持っているとか、共同研究をしている、研究費をもらっているといったことを自発的に自己申告という形で届けて、それを基にマネジメントをすれば、その範囲では積極的に研究や産学連携ができるというのが前提にあります。ですので概念として、何か規制をするというよりは、自ら身の潔白を表した上で、透明・公正な形で研究を推進するということが根本になります。
日本では、研究インテグリティというのが最近取り入れられて、少し誤解をされているようにも思います。やはり規制的なものであると、不当な技術流出というのを法令違反のようにバッシングしていくとものだと思われているのかなと思うのですが、そこには少し誤解があって、その趣旨は、研究者がきちんと理解をして、自発的な透明化をしてインテグリティを自ら確保するというのが根本にあると思います。おそらくすぐに導入し当たり前のものとするのはなかなか難しいと思うのですが、きちんと学内でガイダンスとして周知をして、自己申告の制度の意義と方法を定着させて、インテグリティを確保しながら研究を推進していただくというところを定着させていくのが重要だと思います。
【小泉主査】 ありがとうございます。白井先生、いかがでしょうか。
【京都大学(白井様)】 今日紹介したELSI/RRIとはというところで、JSTのCRDSの報告書のURLを載せていますが、そちらに書いてある言葉を借りると、ELSI等の活動というのは、研究にブレーキをかけるのではなく、ハンドル役だと書いてあります。もちろん私もそのような認識はあるのですが、やっぱり現場としては、ブレーキをかけられるとか、なぜそんな負担をしないといけないのか思ってしまうというのが、御質問いただいた背景にあるのかなと思います。
それに対してどうサポートするかというと、やはり背景、文脈を伝えないと、なかなか理解していただけないので、具体例を伝えています。例えば遺伝子組換え作物の事例だと、今でも「遺伝子組換え作物ではない」といったことが書いてありますよね。一度そういうコンフリクトが社会で起きてしまうと、せっかく有用な技術であってもなかなか実装されにくいという過去の事例等を御紹介して、その先生の目的が社会実装であるならば、その目的に向かって必要なアクションですよという形で紹介します。
ただ一方で、やはり言葉で伝えたり情報で伝えたりするだけでは、理解、納得していただくのは難しいという実感はありまして、やっぱり実働としてやってみないと、そういうものを感じないというのは現実問題としてあると思います。そこで、私がすごく印象的に思っているのは、イギリスのカウンシルでの活動です。イギリスでは、パブリックエンゲージメント等、昔から歴史がございますので、研究者がそれをする意識、文化があるというのはすばらしいなと一時期思っていたのですが、向こうのURAにその話を聞くと、それは違うぞと言われました。なぜそういう文化があるように見えるのかというと、向こうはジョブディスクリプションがあり、研究者がパブリックエンゲージメントの活動をすることが義務になっているものがあります。例えば、1,000万円のお金を取ってきたら、500万円は研究に使えるけれど、500万円はパブリックエンゲージメントやELSIに使うようにお金に紐付いて活動が義務化され、それが個々の研究者やURAのジョブディスクリプションにも明示されているわけです。やはり実践していただかないと、なかなか分かっていただけない、気づいていかないというものは現実問題あると思うので、答えとしては、こういうふうにアプローチすればうまくいくというよりは、義務的なものというのが悪い意味ではなくて、一緒に取り組んでいくというのを積み重ねることになるのかなというのを、実体験として印象として持っています。
以上です。
【正城委員】 ありがとうございます。
【小泉主査】 ほかにございますか。では、桑田先生、お願いします。
【桑田委員】 ありがとうございました。今の白井先生のお話で、RRIの話にもう少し特化してお話を伺いたいと思います。私どもは、ありたい未来を構想して、そこから研究をつくっていこうというときに、どうしてもRRIの考え方、もちろんELSIの考え方も必要であろうと思っています。その役割を担うのは、企画をつくる研究者やURAだと理解していて、このように専門家を配置するという発想が全くありませんでした。ですから今日は目からうろこだったのですが、とはいえ、我々はありたいものをつくるときというのは、必ずこの視点が入っていないと、ありたいものが思わぬ悪意のものを生んでしまうと。今ちょうどいい事例にゲノムの話があって、健康被害が出るようなものが出てしまっているとか、あるいは、今、一生懸命グリーントランスフォーメーションをやっておりますが、よかれと思ってやっていたエネルギー源が、実はカーボンニュートラルになっていなかったとか、そういうことが起こるのではないかというのは、研究者と研究を企画するメンバー自身がどうしてもやっていかなくてはいけない仕事なんじゃないかなとずっと思っていました。それで我々の組織では、研究を構想するときには、この観点を入れていきましょうとずっと言い続けていたのですが、これをあえて専門の方を横につけてプロジェクトを推進していくということにとても効果があると伺うと、ますます、このスタイルを採用したいなと思うのですが、その辺りは実績としていかがでしょうか。
【京都大学(白井様)】 やはり負担ですよね。負担は2つあって、感覚的になぜそれをしないといけないかという負担と、実労働の負担と、2つあると思いますが、研究者コミュニティーにELSI対応をしてくださいとなると、その両方の負担があるわけです。要するに、なぜしなければならないのかという負担と、実労働の負担と。
とはいえ、それに対応していこうと思ったときに、ELSIに関連する研究者や研究マネジメント人材に丸投げして解決できる問題ではなくて、当該の研究者も一緒にやらないといけません。今日、プロジェクトチームが横について横串をさした絵をご紹介しましたが、あの横串が大事でして、研究者はやはり自分の研究を進めるのが一番向いている人材ですので、そこに集中してもらいつつ、日本にはジョブディスクリプションがないですが、ELSIの取組というのは専門人材がうまく協働、サポートしてやりますよと。その中には、先ほど質問いただいたような、なぜそれをしないといけないのかということを伝えるというのも含めてやっていくという体制がないと、いろいろなところでひずみが出てくると思います。なので、あの体制がよいのではという印象を持っています。
【桑田委員】 分かりました。ありがとうございます。何となく理想像はうまく語っていても現実問題ちゃんとできていないというところを、この仕組みというのはうまく、きちっと運用できていることだと理解しました。
【京都大学(白井様)】 今日お時間がないので、あまり具体的な事例は御紹介しづらいのですが、最初に、俯瞰・整理して、課題に取り組むときに、その取組にはシンプルなものもあれば、非常に難しいものもございます。いろいろな政府の方と調整して、ガイドラインを修正していかければならないという、労力的にしんどいものもあれば、もう一つは、本当にその対応でいいのかどうか悩ましいものもございます。具体的なことを言うと、プレコーショナリーとプロアクティブの考えで、規制を強くすると研究が進まなくなりますし、これはいいものだというふうに進めることによって何か大きなリスクが出るかもしれないという、どこで折り合いをつけるのかということも、課題に対応していくためには必ず出てまいります。それをどうするのかとなったときに、それは1人の研究者や、1人の人文・社会の研究者だけでは解決できませんので、やはりそういったことにも対応していくためには、それなりのチームがないと、ELSIの活動の中身としてもスタックしてしまうということがあるかとは思います。
【桑田委員】 ありがとうございます。
【小泉主査】 ほかにございますでしょうか。
では、僕のほうから、加藤先生と白井先生に御質問です。1つは承継ポジションの扱い方です。特に白井先生から、単に一人一人のURAなり研究支援人材が無期雇用になっていればいいというわけではなく、得られた経験が組織の中で継承されていかなければならないと。そうすると、一人一人が単に無期雇用でよかったということではなく、組織の中で、ちゃんとしたポジションで雇われて、次に伝えていくということが必要だと思うので、そういったときに、やはり承継ポジションを使うということが重要なのかなとも思います。そのあたりのことについて、名古屋大学、京都大学、それぞれについて、加藤先生と白井先生からお話を聞きたいということが1点です。
2つ目として、これは白井先生に質問なのですが、京都大学にはジョン万プログラムという、自己研鑽や海外渡航などを通じて、URAや研究開発マネジメント人材や事務職員が自分で自分を高めていくプログラムがあると思いますが、そういったところで、こういったELSIなり新しい業務というのをどう学んでくるのか御紹介いただければなと思います。
まずは、承継ポジションの扱い方に関して、まさに得られた経験を組織で根づかせていく、単にその人がよければよいというわけではないというところはいかがですか。加藤先生から、いきますか。
【名古屋大学(加藤様)】 ありがとうございます。実は、名古屋大学の場合は、いわゆる座布団、承継ポストというものは使っていません。というのは、法人化のときに全てのポジションを埋めてしまったので、空きポストがないという状況になりました。なので、23年度の定着事業を受けたときにも、使えるポストがないので、全てアドオンでの採用にしました。やはり年齢がまちまちであったり、採用をスタートにして5年で無期化にするという制度にしていたりするので、完全に組織として描く構成にはなかなかならないところは、結果的にあります。
当然に、採用した現員の年齢であるとか、それから無期化にするとあとどれだけ雇わなければいけないかというところや、あとは財源がどのぐらい確保できそうだとか、この事業がどこまで続くか、例えばプロジェクトですと、もうあと何年というところが見えるので、財源について、大体10年先、15年先ぐらいのシミュレーションはします。ですがやはり具体の人物を無期化するかどうかということになりますので、一応それを見据えて、先ほどのエフォートを使います。そこが、先ほどお話しした組織として、この人をどのように持っていきたいかというところで、こちらの業務を少しやらせて今度シフトしていきましょうということをしたりもします。それともう一つ、メンター制度を取っていますので、伴走支援することでのスキルをアップという方法も取ります。
結論としては、場当たり的と言えるかもしれませんが、それでも一応10年、15年というところでの人件費、雇用財源とのシミュレーションを置き、それから、執行部の運用サイドで座布団管理は当然していますので、一人退職になるのであれば、では次にどこのポジションに移して、どのような人を採りましょうという工夫をして組織運営をしています。
【小泉主査】 なるほど、そこはマネジメント。
【名古屋大学(加藤様)】 そうですね。まさに、その辺りを、私がこれまで担ってきたというところでもあります。
【小泉主査】 ありがとうございます。では、白井先生、承継とジョン万プログラムの話をお願いいたします。
【京都大学(白井様)】 実情としては、京都大学もいわゆる承継職員枠でURAを雇っていることはございません。ただそれができるのは、名古屋大学や京都大学だからだと思うんです。それだけの財源があるから、承継職員枠でなくとも安定的に無期雇用化できる。なので、個人的な見解としては、他大学のURAと話をしていても、名古屋大学や本学のようなシステムができたのは、やっぱり文部科学省の整備事業等々による10年以上の大きな補助金を出していただいた結果のURAの実績があるからです。そういった事業からの実績がURAの必要性を示すエビデンスとなり、現在の40人、50人という単位で動ける組織環境になったと思います。
イメージしてもらいたいのは、URAが10人に満たない規模の大学も少なくないわけです。その規模の大学で、その10人に満たない人のためだけに勤務評定制度をつくりますか、数年置きに変わっていく執行部の中で、このミッションはずっと備え続けましょうという方針になるかといったら、恐らくならないんです。なので、この十数年、URAコミュニティーにいて見ていても、URA組織がなくなったという大学もありますし、なくなっていない大学にしても、やはり改組したりミッションが変わったりしています。
これを繰り返していると、URAができても、いつまでたっても、技能継承がうまくいかず、日本全体のレベルが上がっていかないので、なので、先ほど小泉主査が言われたように、例えば教員のうちの何割はURAを承継職員枠に入れて雇用するというような政策、施策というのを打ったほうが、日本全体のレベルアップができるのではないかと私は思っています。
それから、ジョン万プログラムの件について。本学のジョン万プログラムについて簡単に説明すると、ジョン万次郎のジョン万なのですが、海外に研究者を派遣しましょうというプログラムです。研究者のプログラムなんですけれども、研究者については、多分皆さん、若いころに海外に行ったほうがいいというのは皆の共通理解だと思います。もし海外でポジションを得られなくても、学内ファンドでお金を出しますよというようなプロジェクトなのですが、実は、もう1個、違うポイントがございます。研究者を海外に派遣するお金を出すだけではなくて、抜けた穴にもお金を補塡しています。それがなぜ大事なのかというと、例えば自然科学系の研究者だったら、1人の助教がいて、彼を成長させるために海外に行かせたいと。しかし彼を海外に行かせると、彼が担っていたラボの仕事はどうしよう…と、そのラボが困ってしまう場合がありますよね。なので、個人としては行きたいと思っていても、ラボの経営としては、そこが抜けたら困るというところがある。そこで、抜けた人の雇用分も補塡するというような施策を設けています。そうすると、研究者個人もラボもウィン・ウィンなので、海外派遣がうまく回ります。
それを、URAのことも、承継職員枠の話とはまた別に、日本全体でレベルアップしていくためには、流動性が必要だと思っています。例えばELSIに詳しい人材がいて、その人材がほかの大学に行くと、そこでELSIの取組やノウハウがまた広がります。しかし、もとの大学はELSIの人材がいなくなってしまうと、それができなくなります。URAの場合は研究者と違って、外に出たらいいという認識が共通理解としてあるかというと、実績がないがゆえになかなかそこまで踏み出せないという状況もあります。そこで、人材の流動化のスタートアップの施策として、ジョン万プログラムのように、人を外に出すとか、抜けた穴を補塡するという施策があれば、人の流動化が起きると思います。
もう1点言うと、人が外に出るだけではなくて、クロスアポイントメントのような人事交流がありますよね。文部科学省と大学の交流も、今も既にあると思うんですけれども、それは既に、やったほうがいいと認識されているからですよね。では、URA間、大学間、もしくは企業と交流しようと思ったときに、今、現場で何が起こっているかというと、やっぱりお金なわけです。交流するときも、企業と大学ではサラリーが違うので、それを補塡するようなシステム、お金を追加で補助するシステムもなかなか難しい。その状況で、本当に交流するのがいいのかどうか不確定な場合、なかなかそれが進まないですし、今日もありましたように、若手の人材はリクルートすら最近難しいので、交流するためのインセンティブもやっぱり必要です。サラリーを上げるとか、単身赴任の手当を支援するとか。
なので、日本全体としてレベルアップしていくためには、結論を言うと交流、人が回るのが大事だと思います。回ることに対するスタートアップとなる支援、回ることの重要性が認識されるまでは、そういう人事の施策、補助金が機能するのではないかと、ジョン万プログラムの例に思ったりします。
【小泉主査】 ありがとうございます。まさに、人のポジションだったり、その流動性だったりの重要さというのをとても感じました。
【名古屋大学(加藤様)】 白井先生がおっしゃったこと、私も大変共感いたします。やはり名古屋、京都の規模だからというところも同じように言えます。
一方で、財源のシミュレーションをする中で、本部から、財源の確保が保障されないのでこの増員に対しては応じられませんと言われることがあります。でも、私は絶対大丈夫ですと伝えます。そしてURAには、自分の給料は自分で稼ぎなさいと言います。アドオンの組織なので、やはり独立採算とまではいきませんが、そういう意識を持ってやることが重要だと言っているということがありますね。ゆえに、枯渇することはないと。我々自身で稼ぐのだというメッセージを出しています。
それから、流動性については、おっしゃられたとおりです。課題として私も提言をさせてもらいたいのが、よその機関がどのくらいのサラリーでURAを雇用しているか、分からないんですよね。某大学から「うちよりも向こうの給料が高いと分かったので、これでは人材が確保できないから給与を上げなければと考えた。ただ、これは連携して初めて分かったことだ」というような話を聞いたんですが、我々の給与が高いのか安いのか、自分たちでは分からないんですよ。でも、絶対安いんだろうなと思うんです。これでは来てもらえないなというのが、今、1つ大きなテーマにしてはおりますが、一方で財源の問題もあり、ほかの教員や事務職員とのバランスもあるので、我々だけが高額な給与を設定するわけにはいかないといったジレンマもあります。流動化を高めるというところが非常に大きな課題だと私も提言させてもらえると幸いです。
【小泉主査】 大変貴重なお話をありがとうございました。
それでは本日は以上といたします。今日のヒアリングを踏まえて、研究開発イノベーションの創出に関わるマネジメント業務・人材について、今後も議論を深めていきたいと思っております。ありがとうございました。
最後に、事務局より事務連絡をお願いいたします。
【川村人材政策推進室長補佐】 事務局からです。次回のワーキングの開催日時等につきましては、4月12日金曜日を予定しております。本日の会議の議事録につきましては、作成次第、委員の皆様にお目通しいただき、主査に御確認の上、文部科学省のホームページを通じて公表させていただきます。
以上でございます。
【小泉主査】 それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。
―― 了 ――
科学技術・学術政策局人材政策課 人材政策推進室