科学技術・学術審議会人材委員会・中央教育審議会大学分科会大学院部会合同部会(第4回) 議事録

1.日時

平成30年5月15日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省5階 5F3会議室

3.議題

  1. 研究人材の育成・確保を巡る諸課題について
  2. 国立大学における人事給与マネジメント改革について
  3. その他

4.出席者

委員

宮浦主査、川端委員、髙橋委員、沼上委員

文部科学省

戸谷文部科学事務次官、佐野科学技術・学術政策局長、伊藤文部科学審議官、中川大臣官房総括審議官、松尾大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当)、勝野科学技術・学術総括官、坂本人材政策課長、石丸人材政策推進室長 他

オブザーバー

鵜飼名古屋工業大学長、小林筑波大学元教授

5.議事録

科学技術・学術審議会人材委員会・
中央教育審議会大学分科会大学院部会 合同部会(第4回)

平成30年5月15日


【宮浦主査】  人材委員会・中教審大学分科会大学院部会の合同部会第4回となっております。本日、10時から12時を予定させていただいております。本委員会は、ただいま申し上げましたように、科学技術・学術審議会の人材委員会と中央教育審議会大学分科会大学院部会の合同部会となっておりまして、第4回目となります。本日は冒頭より公開となっておりますので、よろしくお願いいたします。
 本日は、3名の委員が御欠席で、現時点4名の委員が出席でございますので、定足数を満たしております。
 議事に入ります前に、事務局より本日の資料の確認をお願いいたします。
【広瀬基礎人材企画係長】  事務局でございます。委員の先生方のお手元に資料1から3及び参考資料1、2を配付させていただいております。本日は、小林信一筑波大学元教授、鵜飼裕之名古屋工業大学長にお話を伺うことを予定してございますが、小林先生、鵜飼学長に御提出いただきました資料につきましては、参考資料2「科学技術・学術審議会人材委員会・中央教育審議会大学分科会大学院部会合同部会の公開について」第3条ただし書きの規定に基づきまして、一部を非公開とさせていただいております。資料につきましては、適宜投影させていただきますので、傍聴の皆様におかれましては、前方のスクリーンをご覧いただけましたらと思います。また、委員の先生方のお手元に、研究人材の育成・確保に関する主要な資料をファイリングして配付させていただいております。
 議事進行の過程で不備等ございましたら、事務局までお知らせ願います。以上でございます。
【宮浦主査】  ありがとうございます。
 それでは、議題1、研究人材の育成・確保を巡る諸課題についてでございます。本日は、小林信一筑波大学元教授をお招きしております。小林先生からお話を伺いたいと思います。
 御略歴を簡単に御紹介申し上げます。小林先生は、筑波大学社会工学研究科博士課程御出身でございまして、その後、東京工業大学工学部助手、文教大学国際学部専任講師、電気通信大学大学院情報システム学研究科助教授、筑波大学教授を御歴任されておられます。また、科学技術・学術政策研究所の総括主任研究官や科学技術・学術審議会の人材委員会の委員を第4期から第6期までお務めでございます。
 それでは、小林先生、30分程度でどうぞよろしくお願いいたします。
【小林筑波大学元教授】  ただいま御紹介いただきました小林です。人材問題を話すと1日でもしゃべっていられる人間なので、資料は多いですが、できるだけ簡単に、飛ばしながら話したいと思います。
 早速ですけれども、まずこれまでのいろいろな議論を伺っていて、果たして私たちは、博士とかポスドクの実態を今正しく理解しているのだろうかというところから始めたいと思います。多分皆さんが大体お気付きで、もう議論にも出てきたことですが、まずポスドクに関しては、2006年度からキャリアパス多様化促進事業が始まりまして、10年間経ってかなり環境が変わってきたという印象があります。2006年頃は本当に暗中模索という感じでしたけれども、最近のNISTEPの調査等を見ますと、前回会合でも報告がありましたけれども、2010年頃からポスドク数は安定か微減傾向だと思います。
 ポスドクは多くて困るという面もありますが、実は研究スキルのトレーニングという意味では非常に重要な機会でもあります。いわゆるポスドク・トレーニングということになります。そういう意味では適正な規模はやはり必要なはずで、ポスドクはいなくなればいいというものではないということです。当然、新しい研究動向が生まれると人数が増えるということもあるわけですし、そういう観点でもう少し見直していかなければいけないという気がします。単に減らせばいいだろうということではないだろうということです。
 それと、ポスドクになって1年、2年、3年と経つに従って、上の折れ線の方を見ていただくと分かるのですが、大体毎年2割以上の人がほかのところへ移っています。10年も経つとほとんどいなくなるというような現実で、ゼロにはならないわけですけれども、かなり順調に人材は流動化しているというのが実態だと思います。既に議論にも出てきていますけれども、民間への就職もかなり浸透してきているという面もあると思います。そういう意味でいうと、何もしなくてもいいというわけではないですけれども、かなり変わっているということであります。
 それともう一つ、今度、博士の育成に関してどうだろうかということです。これはむしろ日本の人たちはかなり誤解している面があって、世界的に見ると日本はちょっと変わっている傾向があります。これは非常に古いデータで、アメリカのCouncil of Graduate Schoolsというところが調査して出したものですが、博士の在学年数別の修了率というのがあります。これは分野別と全体で見たもので、見て分かるとおり、10年経って修了しているのは全体平均で57%です。もちろん分野によって違います。人文系は低い、理工系とかバイオ系は高いという傾向がありますけれども、5年間ぐらいでちゃんと修了しているということはない。
 それに対して、また古いデータで申し訳ないのですが、文科省がかつて出していたデータでは、平成3年度ぐらいには学位取得率、これはとにかく取得して修了した人ということで修了するまでの年数は関係ないデータですけれども、非常に低かった時代があったわけです。特に文系が頑張ったということもあって、平成21年度ぐらい、表の一番右側を見ていただけると分かりますが、文系ですら5割近くなってきているということであります。学位取得率は非常に高くなってきた。もともと高い分野も少し数字が上がっていますが、全体の変化に対しては、恐らくそれほど大きい影響はないだろうと思います。特に文系が頑張ったということであります。
 それと、博士の修了者の年齢はどれぐらいかというデータが、古いですがあります。メジアンを取ると、国際比較で、日本は大体どの分野でも一番若いという特色があります。ほかの国はいろいろな状況や事情もあって大体遅いということです。それほど差がない分野もありますし、差が大きい分野もあります。これには歴史的ないろいろな背景もありますので単純なことは言えませんけれども、少なくとも日本はかなり早く、若い年齢で博士が養成されている。
 ほかにもいろいろなデータが出せますけれども、要するに、こういうデータで見ると、日本の博士は短時間で育成されているということがよく分かります。そういう意味では、日本の博士は優秀なのかもしれませんし、日本のシステムは優れているかもしれません。ただ、そんなことを言っても日本の先生方はそうは思っていないだろうと思います。結局、日本の博士というのは時間で育成しているわけです。要するに、標準年限の中でどれぐらい育成されるかということが評価基準になるということで、とにかくその時間の中で育成するということだけを目標にするという、そういう傾向があります。それに対して海外の場合には、質で育成というか、要するに、一定の質まで行かないと認めないので時間が掛かるということもあります。そういう違いがあるのだろうと思います。
 要するに、日本は効率的に学位を取らせたいという先生方の考えと、取りたいという学生自身の気持ちがあるわけですが、その結果、非常にタイトなスケジュールになってくる。育成スケジュールがタイトになって、いろいろな関門を用意するような形になっていく。これは小中学校などと同じで、一定の時間内にできない子は落ちこぼれと言われてしまうという、それと同じような構図なのかもしれません。しかし、日本以外はうまくいっているかというとそんなことは全然なくて、やはり世界の中で博士の育成というのは共通的な問題になっています。しかも、博士というのは、珍しいことに、世界共通の資格なのです。職業資格というのは国ごとに別々だったりしますが、博士というと基本的に共通なので、そういう意味でも世界的な問題になっていることがあります。
 もう一つ、若手研究者についてはどうだろうかということです。これについても統計を見ると、いろいろな見方ができるのですが、例えばこれは採用数のデータです。毎年の採用を見ていくと、赤い折れ線が若手の、40歳未満の割合です。これは確かに平成元年が86%だったものが、平成28年で66%というふうに20ポイントぐらい落ちている。しかしながら、下の棒グラフの方を見ていただくと分かるのですが、実は40歳未満の採用者数というのはそれほど大きく減っているわけではありません。もちろんこの中には任期付きとか、いろいろな条件の悪い方たちもたくさんいますけれども、数としてはそれなりに、8,000人弱ぐらいですかね、そういう数字をほぼ維持しているという現状があります。ですから、パーセントで言ってしまうとすごくドラスティックな減少のように見えますけれども、数で言うとそれほどでもない。
 これは採用というフローで見ているわけですが、ストックで見ても、実際の教員数の中で若手がどれぐらいいるかというのを見ても、若手の比率は確かに減っています。しかしながら、一番下のところですけれども、40歳未満の教員数というのは、大体4万2,000人ぐらいから始まって、多いときで4万6,000人ぐらいということで、ほぼ横ばいという感じになっています。ですから、決してすごく減っているというわけではない。ただし、先ほど申し上げましたように、雇用条件の悪い方がたくさんいるということも事実なので、放っておくということではありません。結局、大学における人事に関していえば、人事のゆがみが若手に向かっているのは事実であって、数だけの問題ではないだろうと思います。
 それでは、どこに問題があるのかということですが、私が今回のこの合同部会のテーマを聞いたときに最初に思ったのは、ポスドクの問題よりもむしろ後継者というか、次世代研究者の確保の方が圧倒的に重要な問題だろうということです。かつては博士のオーバープロダクションということが非常に大きい話題でしたが、日本の人口構成の問題もあって、将来の研究者の確保というのは非常に大きな課題になってくると思います。
 これからデータをお見せしますけれども、博士課程の入学者は2004年以降はほぼ微減で、若干減っているぐらいです。しかしながら、社会人とか留学生とかを除くと、それ以外の一般の入学者というか、次世代の研究者として一番のコアの部分として期待される人たちですけれども、そういうところが実は大幅に減少しているという問題があります。しかも将来の若年層の人口の減少を考えるとますます難しい問題になってきて、日本の研究能力を維持できるかという深刻な問題に行き当たるのではないかと思っています。
 実際どうかというのをお見せします。一番上の濃い茶色のようなところですけれども、ここは社会人の部分です。その下が一般の学生で、平成16年からはデータの取り方が変わっていまして、その間に留学生というのが出てきます。これは若干正確でない部分もあるのですが、大体の傾向だと思って見てもらえばいいと思います。大きくは違わないと思います。
 これを見て分かるのは、確かに平成16年以降は入学者が減っていますが、社会人も増えているし、留学生も若干増えている。では、どこが減っているのかというと、一般の学生、下から進学してくるような学生です。平成16年では1万1,000人いたものが、今は6,500人ぐらい、ほぼ半分に近いという感じです。今や大学院の博士の学生たちの構成というのは、大体4対2対4ぐらいの比率だと思います。要するに、かなり社会人で占められているようになっています。
 一方、最近は企業も博士号取得者の割合が徐々に上昇していっているということもあります。まだまだ少ない割合ですけれども、たかだか4%ぐらいのところですけれども、人数も徐々に増えている。こういったものも社会人学生の増加と少なからず関係しているのだろうという気がします。
 つまり、まとめると、社会人の学生が博士課程の学生の減少分の穴埋めをしているということと、企業の中の博士号取得者は、低水準だが徐々に上昇している。企業の研究者等の博士課程進学と、企業における学位取得者の増加との間の循環がそろそろ形成し始めるのかなという感じがします。しかし、一般の進学者は大幅に減少しているという問題があります。
 これは修士課程から博士課程へ進学する人たちの割合を見たものですが、これを見ていただくと明らかで、平成16年をピークにどんどん減っています。進学率でも、過去最高だと17%近い進学率がありましたが、今は9%ぐらいで、かなり減っているということであります。
 もう一つ注意しなければいけないのは、医歯薬獣医、6年制の場合には直接大学院の博士課程へ進学します。これは医学部の医師養成の方を見たものです。実は平成16年というのは臨床研修が必修化された年でありまして、非常に急激な減少が起こるのではないかということがそれ以前から議論されていたところです。実際、医学部からの進学者というのは、もともと減る傾向にあったのですけれども、平成16年には一段と減っている。今、毎年せいぜい五、六十人ぐらいしか進学しない。ただ、それ以外の形での進学もあるので単純なことは言えませんが、とにかく医学部から医学系の大学院、ドクターに直接進むというのは今ほとんどなくなってしまったということがあります。
 データの関係でやむを得ませんが、ストックとしての学生数で見ていますけれども、これを見ていただくと分かるように、医学分野では、一部留学生がいるのと、あと、昔だと臨床研修しながらですとか、最近だと社会人扱いで臨床研修をした人が入ってくるということですけれども、そういうような変化を踏まえて、社会人学生がどんどん増えて、今や7割、66%ぐらいが社会人学生という状況です。それ以外の下の方の直接進学も、実は医学部から来ている人が決して全体を占めているわけではなくて、昔からそうですけれども、他分野からの進学者が多数いますから、医学部からの直接進学してくる学生がいかに減少しているかということが分かります。社会人学生がそれ以外の学生の減少分を埋めているという感じです。要するに、人材養成の仕方が変わっていっているということです。
 これは、工学部について見てみたものですが、工学部は一時期社会人学生が増えていたという時期があったのですが、意外に社会人学生はその後増えなくて、大体3割ぐらいのところで今安定しています。では、下から上がってくる学生がちゃんと確保できているかというと違って、実はこの背後には留学生の増加があります。ですから、決して工学部だからといって安心はできない状況です。
  とにかく結論として言いたいのは、1990年代の前半は大学院が拡大し始める前ですが、それと現在とでは博士課程の姿というのは非常に大きく変化している。とても同じものとは思えないというような状況になっています。それを前提に考えなければいけないということです。
 こういう現状認識の中でどこにフォーカスをするか。全て重要な問題なので、どこかを捨てていいとは思わないですけれども、特に人材の育成という観点からどういうことをやっていかなければいけないかということについて、1つは、既にこの会合でも議論の中で出てきたものですけれども、欧米では博士人材の教育を改善しようという取組がいろいろあります。いろいろなものがあるのですが、1つ典型的なものがやはりトランスファラブル・スキルズの育成ということです。
 これは、もともとイギリスで始まったものですが、今からちょうど25年ぐらい前に英国の「科学技術白書」の中で、いわゆるポスドク、契約研究員の処遇を改善して、キャリアパスを明確にすることが必要だという提言が出されて、それで、国会で議論になって、最終的には96年の段階で、研究助成機関と大学との間でポスドクの育成に関しての協定を結びます。
 どういうものかというと、簡単に言うと、処遇を改善する。あと、重要なのは、キャリア改善のためのトレーニングの機会を提供する。それと、キャリアの支援をするということです。この3つで、特にこの中で各機関は、キャリアの開発方針という、真ん中の部分ですが、要するに、トレーニングをどうするのかという方針を策定しなければいけない。できれば博士課程の段階から参加するということが求められるわけです。そういう約束をしたわけです。
 その後、これに基づいていろいろ進んでいきます。ポスドクを中心とする方では、Research Career Initiativeというプロジェクトが始まって、協定がどの程度実施されているかということと、グッドプラクティスを普及するためにいろいろな調査が行われます。これの中間まとめのようなものがありまして、SET for Success、又はロバーツ報告と呼ばれますが、これによって政策の内容がまた変わります。
 この頃から、大学院生も含めてやったらどうかという議論がたくさん出てきます。1つは、ポスドクとか大学院生のスキルアップのための予算を付けるということです。もう一つは、2003年から大学院の方にむしろ焦点を当てた調査、あるいはいろいろなグッドプラクティスの普及をするような、UKGRADというプログラムが始まります。この頃から、トランスファラブル・スキルズがメインになってきたということであります。その後、2008年にはポスドクの事業と大学院生の事業が統合されてVITAEという活動に移り、皆さん御存じのものになっているわけです。
 しかもトランスファラブル・スキルズ・トレーニングはかなり早く普及しました。なぜそうなったかというと、実はその背後で、2001年にはリサーチカウンシルがジョイント・スキルズ・ステートメント(JSS)を出しまして、この中でトランスファラブル・スキルズの定義をします。2004年にイギリスの大学等の質保証機関、質の評価をする機関ですが、QAAという機関がありますが、そこの行動規範というか評価基準を改訂して、その中で、ドクターの人間についてもJSSに書いてあるようなトランスファラブル・スキルズのトレーニングをするのだということを書いたもので、大学の中にどんどん普及したということがあります。
 重要なのは、大学院生に関していうと、アカデミックなキャリアに進むか、あるいはその他のキャリアに進むかにかかわらず、トランスファラブル・スキルズを身に付けることがキャリアを通じて非常に役に立つと考えられていたというところです。決して企業に進む者だけのものではなくて、全体のものだという、そういう認識で進められたということであります。
 これは、トランスファラブル・スキルズの体系です。いろいろなところで見られたことがあるかと思います。現在は、共通の能力を4つのドメインに分けます。ちょうど十文字に切ったところです。その次の中間のところが12のサブドメイン、更に細かく字が書いてあるのですが、53のディスクリプターという個別の項目が並んでいる。これが現在のフレームワークの中でのトランスファラブル・スキルズの体系ということになります。
 こういうことでイギリスはかなり一生懸命やっているのですが、実はアメリカでも同じようにやっています。ただ、アメリカはボトムアップでやることが多いので、ちょっとやり方は違います。大学ごとに担当している人たちが結構いますが、そういう人たちが横につながっていろいろな調査とか提言をしているということがあります。例えばこれはアメリカの場合の例示の1つです。
 もう一つご紹介しておきたいと思うのは、イギリスのDoctoral Training Centreです。これは何かというと、先ほどのトランスファラブル・スキルズのトレーニングを紹介しましたけれども、それを更にうまく進めるために、リサーチカウンシルが中心になって進めているものです。リサーチカウンシルは、かつてはプロジェクト研究に伴ってRAを支援するという形で博士を支援していたのですが、そちらを減らす代わりに、博士支援を、プロジェクトではなくてブロックで支援するという方式を始めました。
 具体的には、博士課程は従来3年制が中心だったわけですけれども、それを4年制にして、1年目を中心にして、共通の分野の基礎的な技術やトランスファラブル・スキルズの集合教育をします。要するに、ラボの中に最初から閉じこもるのはやめてくれということと、学生の全体のレベルアップを図っていこうということ、また、博士が共通に有すべき能力をちゃんと育成しようということと、できればインターンシップもやるということで、これに選ばれた学生は大体それをやっていくということになります。そういう点で企業とも協力を図ります。
 面白いのは、複数大学が連携して実施する例が多いということです。自分で数え上げたため間違いがあるかもしれませんが、イギリスには幾つもリサーチカウンシルがあり、それぞれのところで幾つかのプログラムをやっています。例えば、表の一番上の例だと、人文系ですけれども、Doctoral Training Partnershipsというのがあり、11のうち9が連携型です。ほとんどの分野で連携型をやっている。物理系、医学系は表の真ん中辺りのところですが、ここでも従来は連携型が少なかったのですが、最近は連携型が増えているということがあります。
 このように連携型でやっているというのは、実は効果があるのではないかと思っています。要するに、大学ごとのばらつきをなくすためのいい手段だというだけではなくて、日本のいろいろなプログラムもそうですけれども、大体、報告を書くと、うまくいきましたという話ばかりが出てくるわけで、どういう失敗をしたかという例が出てこないんです。そうすると、後からやるところはまた失敗を繰り返すことになりますけれども、複数大学がやってしまうと失敗がばれますから、お互いにその失敗例を共有することもできるし、成功例を共有することもできるということで、何をしたらいいかだけではなくて、何をしたらまずいかということも共有できるというメリットがあるのではないかと思います。
 もう時間がなくなってきたので、最後に、私からこういうことを考えたらどうだろうということを幾つか述べたいと思います。
 まず1つは、博士課程への入学者の問題です。簡単に言うと、入学者数の変化率というか、減少の仕方には、進学率の低下と人口の減少が大体半々で効いているというのが過去12年間の傾向です。もしこれから12年後ということを考えると、24歳人口の方は現状より7%減る形になっていますので、現状の水準を維持しても入学者数は7%減ってくるだろう。進学率を高めて何とか現状維持をするためには、7%アップ。今マイナスですけれども、それをプラスの方向に7%アップしなければいけないということになります。
 さらに、2004(平成16)年度の数字に戻すには、12年間で25%ないし27%進学率をアップするという、かなり努力しなければいけない。これはもう明らかに努力目標として明確なので、ここには何らかの対策あるいは施策が必要になるだろうということです。要するに、進学率の減少トレンドを増加トレンドに何とか転換しないと、将来の実際での研究者は確保できないということになると思います。
 そのためにいろいろな可能性はあると思うのですが、具体的にお話しすると、大学院部会の皆さんもいらっしゃるので、ここでわざわざ言うことじゃないのかもしれませんけれども、医学部は、先ほどの臨床研修の義務化のときに、何とか進学者を確保したいということで、MD-PhDコース等のいろいろな工夫をして、進学意欲のある学生に何とかその進学意欲を高めたり、維持してもらったりという工夫をしています。
 例えばこれが通常のパターンで、学部を出たら臨床研修をやって、場合によってはその後大学院に行く、あるいは大学院まで終わった後で臨床研修をやるというようなそういうパターンがあります。それに対してMD-PhDコースというのは、もともとはアメリカで始まっているものです。学部4年間の段階で一旦退学ないしは休学をします。そこでドクターコースに行ってしまいます。多くの場合には、3年ぐらいで早めにドクターを修了して、そこでまた今度学部に戻るという、博士を取った後で学士を取るという、そういう仕組みのわけですけれども、こういう方式でなるべく早く研究の経験をしてもらおうというようなことをやっているところが結構あります。
 類似のものでは、研究者養成コース等があります。同じく大学院に進んでもらうのですが、学部は学部でやった上で大学院へ進んでもらう。そのために、大学院準備教育みたいなものを非常に早い段階から始める。そういう中で研究意欲のある学生を発掘して、研究に関心を持ってもらって、大学院に進んでもらおうという、そういう努力をしているわけです。やはり厳しい状況に直面した分野というのはそれなりに努力をしているなという気がします。ただし、これでカバーできる学生数はそんな多くはなくて、もっとも毎年毎年たくさん必要なわけではないので、1大学で二、三人もいれば十分ということがありますから、そういう努力はしているということです。
 あともう一つ、これは採用の問題です。若手の採用が減少するとか、あるいはいろいろな人事のゆがみ、ひずみが集中しているとかいうことがありますけれども、今の人事というのは、大体1人ずつ決定していくわけです。ある意味では部分最適化をして、それを積み上げて大学全体の人事ということになるわけですが、最近は全学人事委員会が増えているので、例えば3人以上の採用審査・決定を同時にまとめて行うというような方式だってあり得るわけです。そうすると、人材政策を反映したり、あるいは多様性に配慮した採用や分野間の協力を前提とした採用をしたり、いろいろな可能性が出てくるだろうと思います。女性教員の確保の点でも、1人ずつ採用するよりは、例えば3人以上の同時採用という方式も考えていいのではないかと思います。
 あと、ポスドクの就職支援に関しては、大学ごとにやるか、ナショナルセンターでやるかというような議論があります。これはイギリスのDoctoral Training Centreのようなものを考えてみたら分かるのですが、意外に、大学か、全国かというだけじゃなくて、中間がある方がいいのではないかと思います。これはある意味では無駄の排除ということもありますし、個別的な対応も可能であるということがあります。
 イギリスの場合には、大体学生が移動できるような距離、ちょうど日本でいうとここから筑波ぐらいまでの距離ですが、そういう範囲の中の大学が集まってやっています。比較的近い大学が数校まとまって就職支援などをやると効果的なのかなという気がします。先ほど言いましたように失敗する例はたくさんあるわけで、そういうものを共有していくということも重要で、そういう顕在化した情報をナショナルセンターが吸い上げて分析、普及するというような形、つまり大学、連携、それと、全国というような重層的な形もあり得るだろうと思います。
 これが最後です。先ほどのDoctoral Training Centreのような考え方もそうですが、実はやり方が従来とちょっとずつ変わってきているなと思います。日本でいえば、すぐに補助事業のように財政的に支援するということを考えるわけです。当然そういうものは必要な分野があるので、そういう分野にはそういうことをしなければいけないのですが、そうでない分野もあるのではないかと思います。むしろネットワークをうまく発掘あるいは活用して、場合によっては、それを拡張していって政策目標の実現へ向かうというような、そういう政策の仕方もあるのではないかと思います。民間の活動なども含めてうまく連携することによって、自立できる部分は自立していくような方向です。ですから、政策としてはそういうネットワークを刺激するということになると思います。そういう点でも、複数大学を単位として事業を推進するとか、それを中心にしていろいろなところと連携を深めていくことで、うまく回っていくような形にできないかということを考えています。
 以上です。
【宮浦主査】  小林先生、ありがとうございました。それでは、ただいまの話題、研究人材の育成確保に関する話題提供を頂戴いたしましたので、30分程度意見交換をさせていただきたいと思います。
 幾つかポイントがあったと思いますが、我が国の博士の研究人材の動向、割合、また、問題として御指摘いただいた部分で非常に十分考えるべきところは、いわゆる博士後期の進学者、修士課程からの進学者が非常に減っているという点が研究力に大きく響いてくるという御指摘のところであります。実際に人数はそれほど減ってはいないという部分が、社会人や留学生で埋めているという現実がございます。そこのところが1つ大きなポイントかと思います。
 もう一つは、ポスドクのキャリアパスの問題で、10年ぐらい見ますと、かなり人材が民間含めて輩出されて落ち着いてきているという現実を把握させていただくと同時に、やはりポスドクに対するキャリア支援を、各大学単位ではなく、少しネットワークを組みながら、それはナショナルセンターでやるかどうかは議論が必要かと思いますけれども、複数大学が連携して行うことにより、失敗事例も含めて情報共有が盛んになるメリットがあるという御意見を頂戴したところでございます。
 また、医学部のドクターが研修医の制度的な変化の問題で劇的に減りましたけれども、その後、医学系のMD-PhDコースも含めて何らかの工夫が必要なのではないかという御指摘も頂いたところでございます。
 比較的博士人材が10年のスパンですと、それぞれのいろいろなポジションに落ち着いているというところは非常に、今までそこはかなり議論したところではありますけれども、それは数字を把握した上での議論が必要になってくるところかと思っております。
 いかがでしょうか。
【川端委員】  プレゼンどうもありがとうございました。ポスドクの問題のスタートの頃から御一緒させていただいていて、先生がおっしゃるように、ポスドクというもの自体の位置付けも含めてかなりこの10年間で変わってきた。ある部分では、やはり今海外で言われているポスドク・トレーニングであったり、ポスドクが流動性を持った人間としての職位として重要だという考え方自体が、日本の場合はそれが特任になっていたり、それから、助教自体に任期を付けたりというものの概念に混ざっている。混ざっていることが悪いこととは言わなくて、そういうような意識付けの中で日本は回しているという意味からすると、では、ポスドク・トレーニングに対応するような助教に対するトレーニングができているかどうかというのは、確かに先生の話を展開するとそういう話なのかなというふうにちょっとお聞きしました。
 2つ質問があります。1つは、NISTEPが出している話もそうですけれども、ストックとしてPhDホルダーの数は海外では増えていると言われていて、日本が減っていると言われています。日本の中で減っているという中で、ドクターの進学が下がっているだとか何だ、いろいろな話がありますが、海外では一体フローとしては何が起こっているのかというのが実態として余りよく分からなくて、その辺についてのもし御存じのところがあったら教えていただけるとありがたいです。まず1点。
【小林筑波大学元教授】  今のことについてお答えしますと、先進国では、ここ数年の話題は、ポスドクのオーバープロダクションですね。日本は10年ぐらい早くそういう問題が出てきたというところがあります。日本の教育関係の指標を見ていると、大体10年ぐらい早く問題が出てきて、むしろ問題先進国というところがあって、今になって欧米の国がオーバープロダクションという話をしている。
 ですから、細かいデータの積み上げはちょっと分からないですけれども、ここ数年は、博士の作り過ぎでないかというような議論があったりとか、あるいはアメリカの場合に、博士の学位をせっかく取ったのに生活保護を受けているとか、それがニュースになったりしている状況です。ですから、博士は取るけれど、必ずしも個人的にも社会的にもハッピーではないという状況にあると。
【川端委員】  もう一点すみません。最後に言われた、キャリアパスだとかこういうもののナショナルセンターみたいな話の考え方ですけれども、日本の中でも、大きい大学ですら、キャリアパスに関するセンター自体がなかなかうまく持続できていなくて、博士の半分の人数を抱えている中規模から小規模大学においては、せいぜいドクターの人数が数十人そこそこしかいないから、それに対してキャリアパスなんてとてもやれる状態ではない。となると、全体が集まった何かをしなければならない。そこにやはり最近データのやりとりが中心になってくるので、JREC-INだとかそういうナショナルセンター的なものがあってもいいだろうというような考え方があっていいと思います。ただ、それだけで全部片付かないので、各大学のという、先生のおっしゃるような中間的な話。こういう取組の考え方、例えばイギリスの場合に、ナショナルセンター1個作って、それで解決しているのかどうかということについてはいかがでしょうか。
【小林筑波大学元教授】  イギリスは、解決できているかどうかは別にして、非常によくやっていると思います。25年ぐらいやり続けているので、かなり工夫されてきたと思います。しかも、地域で集まってやるようになってから、結構トレーニングがよくできるようになってきています。ただ、修了年限が1年間延びていることが、いいか悪いかという問題とか、あと、トレーニングセンターに採用される学生が実は望んだ大学に行けるかどうかという点に関しては、各大学の受け入れ人数が決まっているので、希望が通るか難しいことがあるというので、学生に評判が悪い面もあります。実はイギリスは、ほかの活動でも地域の大学の連携が盛んなのですが、なかなかうまくやっているのではないかなという気がします。もうかなり定着していると思います。
【川端委員】  ごめんなさい、そのときのコストは誰が払っているのですか。
【小林筑波大学元教授】  今のところ、リサーチカウンシルが払っています。
【川端委員】  ありがとうございました。
【沼上委員】  プレゼンテーションどうもありがとうございました。1回でなく、多分もしかすると2回質問の機会が回ってくるかもしれないので、簡単な質問を幾つかしたいと思います。
 1つお伺いしたいのは、先生のお話を伺っていて、問題の設定をどうすればいいのかというのを少々迷い始めたところがあります。博士とかポスドクのオーバープロダクションという問題も世の中にはあるということをお伺いしたところで、我々は昔の博士進学率に戻せばいいのか、それとも最適な博士進学率というのがある程度実際には別に考えられるのでしょうか。つまり、例えばこれからハイテクをもっと促進しなければならない中で、我が国の経済規模からすると、PhDに進学する人を何%ぐらい見込まなければいけないか、というような理想的な数値をまず出して、その数値に合わせてどういう施策を打つかと考えるべきなのでしょうか。
 何となく私自身も、昔にどうやったら戻れるのだろうかという問題設定をしてしまっているのですが、果たして本当に昔に戻るというのが適切な問題設定なのか、それとも、昔よりもっと本当は伸ばさなければいけないものを止めてしまっているのが問題なのか、その辺りの最適値がどの辺りにあるというのがそもそもこの世界では標準的に言われていることなのかと。今の御説明だと、人口減を補うためには7%ぐらい進学率を上げなければいけないという話ですけれども、これは現状を維持するための目標数値ですよね。本当に現状維持が最適な目標状態なのか、それとも、もっと上げなければいけないのかというところの目標設定のレベル感、この辺りをどのようにお考えなのかというのを1つお伺いしたいということです。
 もう一つ、アメリカもPhDは留学生が多いのではないかと思うのですけれども、違いますかね。
【小林筑波大学元教授】  それは分野にもよりますね。
【沼上委員】  そうですか。もしアメリカもPhDの留学生が多かったとして、でも、優秀な留学生が来て、PhDがそこで起業したり、向こうで研究したりするということによって、アメリカ経済を内側から支える人材として活用できているということだとすると、もう一つの我々が直面している問題は、留学生をそういうふうに活用できてないという可能性もあり得ると思ってですね。理系の留学生が果たして日本で起業してくれるとか、日本の企業の発展に貢献してくれるとか、日本の大学教育あるいは研究にものすごく貢献してくれるとか、その種の活用がどのぐらいうまくできているのか、できてないのかという、この辺りと2つお伺いしたいところがあります。
【小林筑波大学元教授】  目標設定の問題というのは、これはとても難しい問題で、1990年代の半ばまでは、日本ではむしろ目標設定をして、それに向けてどれぐらい博士の規模を拡大するかといった議論をしてきました。このまま行くと、2000年代半ばぐらいからオーバープロダクションになるというのはもう予想されていて、審議会等でも答申というか、まとめを出したことがあります。それ以降は、とても予測が難しくなってきて、将来どうするのかということを含めて目標の設定をすることが困難になってきた。成長しているときには目標設定というのは非常に簡単だし、見込みも立てやすいのですが、安定期とか減少期に入ってくるときにはなかなかそういうイメージを描きにくい。ということで、その後20年間ぐらい、そういう目標設定型の議論というのはありませんでした。
 むしろ今は、今度、人口減少期に向かうので、どうするのかというのをやっておかないと、底なしになってしまう可能性があって、むしろ、そのような問題をこのような会議の場で議論していただきたいというのがこちらの期待です。ですから、そういう質問をしていただくこと自体に非常に意味があるという気がします。
 ただ、どのぐらいの規模がいいかというのはよく分からないのですが、少なくとも放っておけば、研究の再生産というか、次世代の研究者の確保、これは民間も含めてですけれども、非常に厳しくなっていくだろうという気がします。過去に戻れとは言わないのですけれども、最適なところを少し考えてやっていかなければいけない。
 そのときに、留学生の問題もありましたけれども、留学生とか社会人の大学院生とかももちろん研究者としていろいろな分野で活躍してくれるわけですから、それも含めて考えなければいけないというのも当然です。日本でも今までは留学生というと、ちょっとお荷物みたいなところがありましたけれども、これからは活用していくことを考えていかなければいけないという、そういうことだろうと思います。ですから、今のような質問をされたこと自体が、これからの議論の課題ではないかなと思います。
【沼上委員】  どうもありがとうございます。
【宮浦主査】  今、留学生の問題が話題に出ておりましたけれども、博士後期に占める留学生の割合が非常に大きくなってきている部分で、それを我が国として活用できていないと言うと語弊があるのですが、博士号を取った後、研究人材としてどれぐらい定着していただけるかとか、逆に言うと、米国では日本人も含めて数多くの若手が相当量参入をして、定着をして活躍をしているという状況に比べて、我が国ではかなりの留学生が学位を取ったら本国に帰られるとか、あるいは博士人材を含めてですけれども、国籍が違う場合の就職なり、その後のキャリアパスがなかなかイコールで評価されるかどうかという問題、その辺り、留学生の問題は非常に大きくなってきていると思うのですが、今日的に留学生に対してどういう、恐らく違う支援方法も必要ではないかと思うのですけれども、その辺りいかがでしょうか。
【小林筑波大学元教授】  実は留学生はもっと増えているのかと思っていたのですが、実際には、意外に大きい変化はありません。ここ10年、12年見ても、このグラフを見ていただくと分かるのですが、2,500人前後のところを行ったり来たりしているという感じで、しかも最近はやや減少気味というか、意外に留学生が増えていない。これは、大学側が留学生の受入れが面倒だというので受け付けていないという可能性と、留学生が日本を選んでないという可能性もあります。選ばれてないというのはとても危険なことで、非常に問題だと思います。
 一方で、最近、企業では、ドクター等に関していうと、留学生だろうがなかろうが、採る意欲はあるということをよく聞きます。現実問題としても、大企業の場合には、研究開発部門も半分ぐらいがもう海外に行ってしまっている。国内のマーケットが半分ぐらいになってしまっているということです。そういう中で留学生と日本人が応募してくると、留学生の方が優秀だというのがよく聞く話で、そういう意味でいうと、留学生というのはポテンシャルがあるなという気がします。ですから、むしろ留学生に選んでもらえるような大学院の制度というか、博士の仕組みを作って育成していかないと、国際的な競争の中ではかなり厳しいのかなという気がします。
【宮浦主査】  ありがとうございます。ポスドクと一口に言っても、それが任期付き助教に移行しているという川端先生の御指摘がございました。教員のカテゴリーに入っているとはいえ、任期が付いているということで、実質的にはかなりポスドクに近い支援体制が必要であろうということだと思います。
 一方で、博士人材が足りない、例えばAIとかデータサイエンスの人材が足りないという話題になると、とにかく足りないので、産業界、アカデミア含めて作らないとという話題になるのですが、高度人材は1年や2年では作れないわけで、学部から博士課程、そして、ポスドクも含めたある程度の年数のスパンで考えていかなくてはいけない。そこの部分が、だぶつくといいますか、ある程度過剰になっている分野と、非常に足りない分野が混在していて、それが将来同じではないだろうということで、分野によりますという、先ほど先生からコメント頂いた部分というのを今後どう見通して、全体の数も重要ですけれども、分野別の今後の変遷などをどう読んでいくかという部分はいかがでしょう。
【小林筑波大学元教授】  博士課程の人材育成の柔軟化のようなことをもう少し考えなければいけない。特に新しい分野が出来たときにどういうふうに対応するかというのは、日本だと結局、設置基準の制約から、そのための専攻なり何なりを新しく作るという発想をするわけですね。
 それに対して、例えばアメリカなんかだと、ダブルメジャーというのもありますし、メジャー、マイナーもありますし、あるいは早期履修で、いろいろな学部から大学院へ進学を誘導するような仕組みがあります。そういう意味で、例えばメジャーとかマイナーを作る、あるいはダブルメジャーを作るという形でやることによって、既存の人材の中から新しい分野に転換を促進するようなプログラムの作り方をするわけです。決して多くはないですけれども、少なくともそういう自由度はアメリカにはあって、一番熱心にやっているところは、そういうプログラムを1年間に何十も作っている。一つ一つはそんなに規模は大きくないですけれども、それによって学生に対しても刺激を与えるし、いい学生であれば、そこで拾い上げていくということがあります。
 ですから、日本のやり方でやっていくと5年10年掛かってしまうかもしれないけれども、そうでないやり方というのもそろそろ考えた方がいいのではないかと。日本では、メジャー、マイナーと言っているところもあるのですが、制度的には何の裏付けもないというのが現実で、やはりそこをきちんとやってあげないと、特に新しい分野に対応するためには必要でないかなと思います。
【宮浦主査】  おっしゃるように、定員管理の問題ですね。定員管理は、工学系などはある程度学科単位の定員管理を学部単位にしてもよいとか、あれだけでかなり変わってくるかなとは思うのですが、新しい領域ですと、すぐ新専攻を立てないとそういう学生が作れないという話題になりますし、そこの辺りの自由度、定員管理も含めた自由度というところで、何か川端委員。
【川端委員】  1点だけ。最初から気にはなっているのですが、ポスドクとか任期付きの教員にしても、アカデミアの場合、任期が付くということイコール、やはりそこにはトレーニングがある。ただ任期を付けているならそれは人事制度の問題なので、任期があるイコール、その人のトレーニングをやるのだという、それがやっぱり相補関係にあるはず。だから、流動性が出来ます。だからといって全員が幸せになるかというと、それは本人の状況等があるから、それはなかなかいい職に就けなくて、違う人生に移る人も多くいていい。それは当然あっていい。
 そこで気になるのは、誰がいつまでやるのだという話。要するに、50人にそんなことやるのか、40人ならいいのか。ポスドクの出た後すぐの数年だったら当然みんながやるべきだと思うし、特任助教になって、それで5年とか7、8年ぐらいまでいったら、限界が来るでしょう。でも、さきほどのアメリカのように、ドクターを取る人間自体の年齢が非常に広がっているときに、そういう人たちの育成を国が考えるだとか、それから、機関が考えるというときに、一体そこの考え方は、年齢等の考え方自体は全然ないのでしょうか。
【小林筑波大学元教授】  これは日本の特殊性というか、学生の能力開発とポスドクの能力開発、若手の能力開発、あるいはシニアの人の能力開発を、例えばそれをポスドクのキャリア何とかと言ってみたり、FDと言ってみたり、言い換えるのですが、イギリスやアメリカでは全部一緒です。全部、プロフェッショナルディベロップメントといって、要するに、能力開発を一括していて、同じ担当の部署が大学院生からポスドク、若手、あるいは場合によっては、それ以上の年齢の人たちも対象に、例えば新しく出てきた話題とか何でも、必要であればあらゆる層に対してそれをやるわけですね。ですから、そこは外国と日本はちょっと違っていて、日本は逆に細かく切り過ぎというところがあるのではないかと。もっと柔軟に対象を広げてやれば、例えば先端技術とかいう点でも少し楽になるのかなという気もします。
【川端委員】  それはやっぱり国が保障しているという?
【小林筑波大学元教授】  イギリスの場合にはそれに近いですけれども、イギリスは先ほどのいろいろなルールみたいなものが出来て、各大学の中にそういうトレーニングセンター的なものを作っているわけですけれども、それは国が資金を出している形です。
 アメリカの場合にはこれはちょっと違っていて、国は何も言いません。ただし、自発的にやっているので、地域ごと、大学でやっぱり少しずつ違うのですが、ただ、少なくともみんな自発的にやっています。それは恐らくそれが大学のいろいろな意味でのパフォーマンスに対していろいろ影響があるということが大きいと思うのですけれども、恐らくいい学生をたくさん出したいということに尽きるだろうと思いますけれども、そのためには先生たちも一生懸命頑張るしかないということなのだろうと。
【川端委員】  なるほど。どうも。
【宮浦主査】  年齢の話題が出たのですが、若手を40歳未満ということで、38あるいは39歳の若手研究者、若いかどうかはさておき、若手研究者に対するアプローチと、29歳、30歳ぐらいの第1クールを始めたばかりのポスドクですと、根本的にやることも考え方も変えていかなければいけないと思うので、その幅を持たせつつ各大学が対応するのは極めて難しいのではないかと思っているところです。それで、ナショナルセンター的な、あるいはコンソーシアムで、ある程度地域の複数の大学で共通する部分は一緒にやるとか、そういう取組がやはり重要ですか。どういうお考えでしょう。
【小林筑波大学元教授】  それは日本の事情があるので是非御検討していただきたいと思うのですが、少なくとも日本では年齢別に妙な区切りを付けてしまいます。むしろ区切りではなくて、例えばトレーニングの段階に応じたいろいろな能力開発の仕方とかを考える方が現実的で、そういうステージのようなものを考えていく、その方が柔軟だろうと思います。それが今の場合、日本では無理やり、ポスドクはポスドク、博士は博士と切ってしまうので、いろいろなポスドクが入ってしまうとか、若手教員もいれば、シニアのポスドクもいるけど、別々になってしまうとかという、そんなようなことになっている。そこはもう少し柔軟なやり方はあり得るだろうという気がします。
【宮浦主査】  それでは、議題1はそろそろよろしいでしょうか。小林先生、ありがとうございました。
 議題2に移らせていただきます。議題2は、国立大学における人事給与マネジメント改革についてでございます。国立大学協会においては、国立大学の教育研究活性化を促進する人事給与マネジメント改革のワーキンググループも設置されておりまして、人事給与マネジメントのシステム改革の促進、あるいは若手研究者の活用促進に向けた議論が国大協で行われております。そこで、本日は、国大協ワーキンググループの委員でいらっしゃる鵜飼学長をお招きいたしまして、お話を伺いたいと思います。
 御略歴を簡単に御紹介させていただきます。鵜飼学長は、名古屋工業大学におかれまして工学博士を御取得の後に、名古屋工業大学教授、副学長等を経て、平成26年より現職、名古屋工業大学学長を務めておられます。
 それでは、30分程度でどうぞよろしくお願いいたします。
【鵜飼名古屋工業大学長】  御紹介いただきました名古屋工業大学、鵜飼でございます。本日はこのような説明の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。よろしくお願いいたします。それでは、以下、座って説明させていただきます。
 今御紹介がありましたように、本日は、国立大学協会の方を通して私に御指名がありまして、説明する機会をいただきました。国立大学法人では人事給与マネジメントに関わる改革のワーキンググループがございまして、その一員として数回にわたって議論に参加させていただいております。そういうことを踏まえまして、本日は、国立大学全体における人事給与マネジメント改革に関わる動向と申しますか、方針について御説明するとともに、せっかくの機会でございますので、名古屋工業大学における年俸制導入、それから、クロスアポイントメント導入、それから、教員評価、この3つについて事例を紹介させていただきたいと思います。
 最初の資料でございます。今年の1月に国立大学協会では、高等教育における国立大学の将来像について最終まとめを行いました。その中で、克服・改善すべき課題として、ここの上のところにございますように、教員及び職員に係る人事制度の改革が挙げられております。赤線を引っ張ったところにございますように、今後、教育、研究、社会貢献、大学運営等への各教員のエフォートをまず明示化した上で、それに応じた評価を行って、インセンティブとして業績給に反映させるような、そういう制度の在り方について検討すべきであると。また一方で、年俸制、クロスアポイントメントについて現在導入が進められていますが、まだまだ成熟した制度となっているとは言えません。民間企業や海外の大学等を含めて人事交流が実効的に促進されるような制度の改善を進める必要があるというような課題が挙げられております。
 それを受けまして、国立大学のマネジメントの方向性として、組織及び人事制度の中に2つ項目が挙がっております。1つは、社会ニーズに対応して柔軟に教育プログラムや研究プロジェクトを編成するために、教育組織と教員組織の分離、いわゆる教教分離と呼ばれるような組織の在り方について検討しましょうと。それからもう一つは、先ほどの課題を受けまして、教育、研究の活性化を図って、教員のモチベーションを高めるために、エフォート管理、業績評価、処遇への反映等の適切な制度の在り方も検討する。また、年俸制、クロスアポイントメントの制度設計についても、国立大学全体で連携・協働して検討を進めていきましょうということです。
 これを受けまして、後ほど御紹介しますが、国立大学協会の中で人事給与マネジメント改革のワーキンググループが出来て、これまでに5回ほど検討をしております。本日は、残念ながらまだそのまとめの段階ではございませんので、その結果について御報告させていただくことはできませんが、方向性と、今までの議論の中身について少し触れさせていただきたいと思います。
 まず、これはもう既に皆様御承知のとおり、若手教員の減少は運営費交付金の減少が1つの要因だと思いますが、若手教員の雇用には努めているものの、全体に占める割合がどんどん減っているというのが非常に厳しい状況であるということでございます。実際、本学でも、特に定年延長の時期に少し若手の教員といいますか、新規採用を凍結した期間もございまして、年齢構成が相当高齢化しているということもございます。やはり教育、研究を活性化するためには、若手の教員を定常的にコンスタントに入れていく措置が必要であるということは、これは本学だけではなくて、全ての国立大学及び大学の課題ではないかと思います。
 その中で、特に国立大学の中で人事給与制度改革の取組事例ということで、ここに5つほど紹介をさせていただいております。詳細については、申し訳ございませんが、私自身もよく分からないものですから、タイトルだけしか挙げさせていただけていません。
 まず大阪大学では、外部資金を基に優れた若手教員を、特に研究以外の業務を抑えることによって、研究に特化するような形で専念できる環境を確保していると。それから、筑波大学では、シニア教員を年俸制に移行して年俸額を原則7割程度に抑え、若手教員の採用を促進している。また、宇都宮大学では、学部長の学長指名制とともに、学長が議長を務める全学の人事調整会議が教員人事の選考、公募も含めて一括管理するマネジメント体制を構築されておられます。また、岐阜大学では、業績評価の方法として、年度評価以外に6年ごとに業績評価、これは関門評価というふうに呼んでおられますけれども、実施して、昇給反映あるいは、要努力、つまり、負の方と評価された教員への長期改善指導なども実際に実施していくという方針を取られております。
 また、東京大学では、若手研究者雇用安定化の取組ということで、いわゆる外部資金の間接経費収入や、それから、本部の産学連携に関わる収入などを財源としまして、任期なし雇用への転換を部局財源で行う場合には、本部が年間300万円を支援していく。また、独自に東京大学卓越研究員制度を設けて、部局が任期なしかそれに準ずる扱いとした中から対象者を選んで、やはり本部が1人当たり300万を2年間にわたって支援していくということで、その結果、その下にございますように、28年度から29年度に向けて大幅に任期なしの雇用が促進されたというような実績が上がっております。このほかにも各大学でいろいろな取組をされておられるところですが、今回はこの事例だけを述べさせていただきました。
 次からは、名古屋工業大学の取組について御説明をさせていただきます。まず名古屋工業大学の年俸制でございますが、導入して既に5年目だと思いますが、そこに挙げた年俸制の仕組みを御紹介させていただきます。まず年俸額でございますが、これはまず基本的に基本給と業績給という2階建てになっております。基本給というのはいわゆる月給制で雇用されている方々の俸給月額の12倍を基本年俸表に照らして決定しております。
 それから、業績給が、中で3階建てになっております。まず月給制の方々と同じように、期末勤勉手当と退職金相当を賞与相当額という形で一定程度上乗せしております。また、青で塗っております業績評価額が、これがいわゆる純粋な業績評価でございまして、単年度ごとにそれぞれ教員が目標と定めた目標値に対して達成度評価を中心にしながら業績を評価して、その結果に応じて毎年変更しますが、学長がその額を決定しております。また、4番目が外部資金獲得手当ということでございます。その教員が外部資金を稼いだときのその間接経費の獲得額に応じて支給するというものでございます。
 もう少し詳細に述べさせていただきます。まず基本給部分でございますが、設計当初、スタートした当初は基本給については変更しないというような方針でございましたが、その後4年間推移する中で、いわゆる年俸制の教員の方々と、それから、それ以外の月給制の方々が、人勧などの対応を受けて給与に少し格差が出てきております。そういう格差をカバーするためにはやはり基本給もある程度月給制の方々と同様にアップする余地があるのではないかということで、基本給については、そこにございます5段階の評価に応じてアップするということでございます。全てがアップするわけではございません。これも教員評価に基づいてアップさせていきます。ただ、アップの幅は月給制の方々の半分に抑えております。半分だけアップするという仕組みになっております。これを昨年29年4月から実施しております。
 それから、業績評価額につきましては、適用基準を、「極めて顕著な業績を上げた者」という方から「著しく不十分な業績の者」ということで6段階。さらに、上のSはS+++まで行くということで、かなり幅広く業績評価額を設定しております。これは1年度ごとに評価して、累積はいたしません。先ほど申し上げましたように、各教員が挙げた達成目標について達成しているかどうかということを主に基準として額を決定しております。
 それから、外部資金の獲得手当につきましては、これは1年ごとに計算をしております。研究代表者若しくは分担者として前年の1月から12月までに獲得した外部資金の入金確定の間接経費相当のまず10%を、120万円を限度として手当として支給しております。例えば科研費で100万円とすると、間接経費30%で30万円が大学に入りますが、そのうちの10%を手当としてキックバックするということでございます。わずかではございますが、そういう資金の還元を行っているところでございます。
 ちなみに、本学では、今現在の年俸制の教員数は72名でございます。そのうち、クロスアポイントメントが4名、それから、勤務延長者、これは全て年俸制に移行していただいておりますが、その方が7名でして、それを除くと61名が現在、年俸制として採用しています。4年前から新規の採用は全て年俸制とするという路線を打ち出しておりますので、これは順次年俸制がどんどん増えていく仕組みになっているところでございます。
 続いて、本学で推進しておりますクロスアポイントメント制度について、概要を説明させていただきます。本学は工学系の単科大学として、いわゆる名工大版の理工系人材育成戦略を大学改革の柱に定め、その流れの中で、教育、研究、産学連携等を推進するために、特に産業界等との人事交流が不可欠となっているため、その円滑な交流を進めることを主な目的としてクロスアポイントメント制度を取り入れました。
 概要はそこにございますように、まず所属長、学科あるいは領域からの申請に基づいて、役員会の承認を経て、他の機関との協定を締結した上で実施していきます。もちろん本人の同意は取った上でございます。それから、本学と他機関の双方に身分を有して、双方の業務を行うということが基本になっておりますが、受け入れるときの身分は、教授、准教授又は助教として、教員資格審査については、いわゆる人事の一元的な委員会でございます人事企画院、それから、教授会、教育研究評議会で通常の過程を経て行っております。実施対象は、教員を対象としております。
 続きまして、勤務割合については協定において定めておりまして、本学の年俸制適用職員給与規程又は職員給与規程に基づく給与を本学の勤務割合に乗じた額、これは出向負担金と申しますが、それを負担するということにしております。実施対象機関は、民間企業、大学・研究機関等、これは海外も含んでおります。本学の方針、制度利用の目的等を総合的に勘案して、役員会において個別に決定しております。
 また、他機関との協定においては、その都度、先方とのいろいろな条件を相談しながら決めておりますが、特に知財、それから、利益相反、それから、責務相反等の扱いについては、かなり厳密に先方と話し合いながら協定書をまとめているところでございます。
 他機関との協定形式ですが、後で申し上げますが、実は2つのパターンがございます。基本的には、在籍出向という形で本学から送り出したり、あるいは先方の機関から本学に送り出したりしていただくということでございますが、次の資料に図をまとめております。パターンAというのは、これは出向元が他機関にある場合でございます。他機関から例えば週に1日、例えば業務が20%ということで週に1日勤務していただく場合には、業務の負担の20%に当たる出向負担金を先方の機関にお支払いして、その中で一括して先方でお支払いをいただくような形になっております。パターンBは、逆でございます。名工大の教員を他機関に派遣する、出向させるような場合には、逆に先方から出向負担金を頂いて、それを本学の中で処理して、給与あるいは出向負担金を精算して支払うという形になっております。
 基本的にはこの2つのパターンでスタートしましたが、実際に民間企業等といろいろなクロスアポイントメントの交渉をする上で、なかなか在籍出向という考え方が企業の方で受け入れられないようなケースも出てまいりました。ちなみに、愛知に本社を置く日本で一番大きな自動車メーカーにこの話をしましたところ、最初は一言、「うちの社風には合いません」と言って断られました。それから2年間近く交渉した結果、何とか1人受け入れることができておりますが、企業さんによってはなかなか難しい場合があります。
 それから、特に小規模の会社あるいはベンチャー企業なんかで、代表者の方をクロスアポイントメントで雇用する場合には、株式会社の代表者はいわゆる在籍出向が適用できませんので、その方の場合にはこういうクロスアポイントメントルールに従っての雇用が難しくなってくるということで、本学では、そういう方々を対象として、短時間勤務職員制度を設けました。先ほど申し上げたように、在籍出向が適当でない場合には、短時間の勤務が可能になるように、お互いのところで直接雇用が可能になるような仕組みを作っております。いろいろな制度の違いはございますが、本学ではこのような方も一応、クロスアポイントメント制度の1つとして位置付けております。
 こういう形で弾力的な受け入れ制度を設ける必要があるだろうということで、次の図をごらんください。これは制度の概要でございますが、先ほどと同じようなものでございますので、飛ばさせていただいて、次のパターンの絵を見ていただけますか。
 先ほど、本学から先方に、あるいは先方から本学にという、いわゆる出向負担金という形での精算払いによらない形で、この場合には、それぞれの機関で直接雇用をして、その雇用形態に応じて、例えば本学で5日のうち1日働いている場合には、その方の給与分の20%を本学の給与として積み上げる。先方はそれを除いた80%を給与として渡すと。いわゆる直接雇用形式の雇用契約を結びまして、それで給与を支払うというような形も作っております。
 教員評価について少し御説明をさせていただきます。もう既にいろいろな大学で教員評価を実施しておりますので、余り他の大学と差はございませんが、簡単に御紹介させていただきます。
 評価基軸は、教育、研究、学内活動、社会貢献という4つの基軸でございます。
 目的は、教育活動の活性化と社会的な評価の向上ということでございまして、特に本学では、数値データに基づいた量的評価を重視しております。また、必ずしも量的な評価だけでは収まらないときには、特記事項のような形で記述的な質的な評価も行っております。対象は常勤教員で、これは年俸制教員を含んでおります。対象期間でございますが、1月から12月期と設定しております。もともとは4月から3月だったのですが、年俸制の教員が増えてまいりまして、年俸制の教員の場合には給与期間が1月-12月ということで、それに合わせる形で全て全学的に1月から12月の対象期間ということになっております。
 評価の手順は後ほど説明します。教員評価委員会、これは担当副学長、それから、教員組織である領域長、それから、学長が指名する委員等で構成した教員評価委員会の中で教員評価を行っています。その結果でございますが、優秀教員を表彰して、その事例という形で全学的な講演会をしていただくとともに、給与インセンティブとして昇給あるいはボーナス支給に反映をさせていただいております。また、統計データは教員に学内公開しております。システムが出来て十何年になりますが、この間いろいろな先生方の意見を反映しながら見直しを図っているところでございます。また、外部委員を取り入れた評価委員会の中での外部評価も行っています。
 手続の流れでございますが、ここにございますように、12月の上旬辺りに先生方に自己点検をしていただきます。それを受けて、所属長、これはいわゆる学科の長、専攻の長でございますが、そういう方々、先生を一番よく御存じの方々にそれを評価していただいて、チェックをしていただきます。その後で、教員組織の長である領域の長によるダブルチェックを行った上で、最終的に教員評価委員会の中で更に全体的に評価を行います。その後、役員会の議を経て、学長が最終的に決定するという流れで、大体4月末ぐらいには最終結果の決定が出るような形になっております。もちろん異議申し立て期間がございまして、毎年何件か異議を申し立てておられる方もいらっしゃいます。
 それから、年俸制評価との関係でございますが、先ほど申し上げたように、年俸制は1月から12月期でやっております。それに合わせて教員評価も1月から12月にやっております。ただ、年俸制の方は給与に反映するのに対して、教員の方は、基本的には優秀教員であるかどうかという表彰と、それから、翌年の6月勤勉手当、それから、1月昇給へのインセンティブという形で、やはりこれもある程度給与反映をさせております。
 ただ、年俸制の評価項目を教員評価に取り込む形で、なるべく一本化していこうということで現在検討しております。というのは、年俸制評価は、先ほど申しましたようにある程度達成度評価となっておりまして、主に研究とか、あるいは産学連携などについてそれぞれの数値目標を掲げて達成度評価をしております。一方で年俸制の教員の方も教員評価を行っておりまして、その部分は教育、学内活動、社会貢献等も評価しております。そういうことで、一体化するのが望ましいということで、今その点について検討させていただいておるところでございます。
 そのほかに、本学では若手教員の積極的な採用についても取り組んでおります。本日は御紹介しておりませんが、文科省の方でありました若手教員の研究者支援事業等にも積極的に提案して、これまでその枠を使って15名。これは言ってみれば、将来の承継職員枠を先取りする形で採用しておりますが、現在、既に10名は承継枠に入りまして、今5名がそういう枠に入っております。ただ、これは今年から少し仕組みが変わりまして、支援がないということもございますので、実は昨年から自主的な財源を使いまして、若手研究者支援枠を作りました。これは5名程度ですが、学長のトップダウンで若手を入れるというようなことで、若手をとにかく重視している。
 一方で、工学系は女性教員が非常に少ないということでございまして、これも女性研究者支援制度あるいはダイバーシティー推進制度、こういうものに採択されまして、それをうまく使いながら女性教員についても増加策をしております。ただ、女性教員の場合には、いわゆる承継枠だけではなくて、特任教員、特任研究員、企業の方を特任の形で入れていく。その中で特に大学に残りたいという意思があれば、大学の教員として採用していくなど多様な研究者の獲得に努めておりまして、現在、特任研究員、特任教員まで含めますと11%強まで上げております。34年度には15%という目標を達成したいということでございます。非常に限られた財源の中で、若手教員、女性、それから、外国人教員、こういうものをうまくバランスよく配置していくためには相当な工夫が必要ですし、やはり財源の確保が重要な課題ではないかと思います。
 以上が簡単でございますが、名工大の説明でございます。
 その次のところで、次は、国立大学全体で年俸制教員がどうなっているかということを表した数字でございます。教員数は、昨年の5月段階で約1万4,000人。ただ、承継職員はそのうちの半分ぐらいということでございます。ほとんどの法人がもう全て年俸制を取り入れているということでございます。その下の図も同じことですね。
 一方、クロスアポイントメントにつきましては、法人はまだ48法人でございまして、適用教員数は338。その内訳がその右側のところにございます。これを見ますと、やはり民間企業がまだまだ少ないということでございます。実は本学の場合は、現在、クロスアポイントメント、先ほどの短時間も含めますと9名でございますが、ただ、民間の企業がそのうち8名でございまして、いわゆる国立の研究開発法人は1名ということで、本学は積極的に民間をクロスアポイントメントとして雇用する方針でおります。
 最後になりましたが、国立大学協会における現在の検討状況ということです。先ほど申し上げました人事給与マネジメント改革ワーキングの中で1月ぐらいから検討しております。改革の方向性としては、そこにございますように、まず全学的な戦略に基づいた教員配置を可能とするような人事システムの全学的な一元化ということ。それから、若手、女性、外国人等の多様な人材の確保。適正な業績評価と処遇への反映による教員のモチベーション向上。そのために、適切なエフォート管理と支援体制を充実していくということでございます。
 そのためには、やはり業績評価と、それから、処遇への反映をするためには財源の確保が必要であるということから、その多様化を考えるということで、間接経費の確保や、あるいは直接経費の使途の柔軟化を行って、場合によっては直接経費から払っていくというようなことも可能とするような制度についても検討しております。また、先ほど申し上げたクロスアポイントメント制度の活用拡大ということでございます。
 一方で、現在、各国立大学で導入が進んでおります年俸制ですが、これをもっと拡大できるかどうかについても検討しております。そこにございますように、法人化以降も、国家公務員に準拠する形で終身雇用を前提とした給与制度を基本としております。一方で年俸制を入れることによって様々な雇用、給与の形態が混在化しているということから、戦略的で一貫性のある制度改革をしていく必要があるというのが課題となっております。
 そのために、年俸制への段階的な移行も視野に入れながら、特に業績給の導入によって、業績評価とそれに基づいた処遇によって教員のモチベーションを向上していくということがまず第1です。また、そのためには、実現可能で、かつ年俸制のメリットを生かせるような様々な選択肢や移行措置を含む方策、そのための必要な財源の確保の措置についてもいろいろ検討しているところでございます。
 様々な御意見がございます。また、年俸制から移行する上で、やはり退職金の問題が一番大きな問題でございまして、それについてその財源をどのような確保していくかということも大きな課題でございます。そういう点を整理しながら、できれば早急にまとめを出していきたいと思っておりますが、現在までのところこういう検討状況に向かって検討している段階でございますので、このぐらいにさせていただきたいと思います。
 最後は、ワーキングのメンバーでございます。
 少し長くなりましたが、以上でございます。どうもありがとうございました。
【宮浦主査】  ありがとうございました、鵜飼先生。特に国立大学の人事給与マネジメントを国大協としてどういう御検討をされているか、また、名古屋工業大学様としてどういう具体例で進めておられるか、大変貴重な話題を提供いただきまして、ありがとうございます。
 非常に大きく進みつつあるところと、進みにくい部分もあろうかと思います。そこの部分が、若手教員の減少については、定年延長の影響が一時期出ておりましたけれども、それが一旦落ち着いて、若手を採用しやすい環境が整っているところかと思います。また、大阪大学さん、筑波大学さん、宇都宮大学さん、岐阜大学さん、東京大学さんのようにある程度具体的な工夫をして若手を採られているというパターンが幾つか、必ずしも同じではないというところ。
 他には、人事制度改革のところはやはりクロスアポイントメントと年俸制の問題かと思います。クロスアポイントメントにつきましては、全体の数字を拝見いたしますと、企業とのクロスアポイントメントの割合がまだ余り多くないという部分が、独法とか国立大学法人が相手である場合が結構多いという現実もございます。
 また、新たに入られる教員は基本、全員ですかね、年俸にされておられる点、その辺りも他大学と一斉にやるような流れが起きるべき側面もあろうかと思いますので、その辺り。また、クロスアポイントメント及び、特に年俸制の場合は、企業等の年俸制が進むと給与体系もかなり変わってきますので、本人にとっても給与の大幅上昇につながる可能性がありますし、法人にとっても新たな取組の起爆剤になるというところで期待されているところではないかと思います。
 話題が多岐にわたりますが、先生、いかがでしょう。
【沼上委員】  プレゼンテーションどうもありがとうございました。本会の趣旨と少しずれた質問になってしまうかもしれないですけれども、これほどの人事システムを導入されているということで、是非私どもの方の運営にいろいろ御示唆を頂きたいと思ってお話をお伺いしたいです。
 年俸制と、今、基本給部分で、一番上と一番下で24万ぐらいの差が付くような、ある種の成果給的な制度を導入されているということですが、企業の人事制度上の常識からすると、この種の制度を入れたときの一番のポイントは、事前の目標設定面接と事後的な成果のフィードバック面接がフェアに行われているかどうかというのが決定的だと言われていて、そこがだめだと、かえってものすごくマイナスの効果を及ぼしてしまうと言われています。
 それで、私自身も年俸制でこういうものをやっている部下を4人ぐらい抱えているのですが、4人やるだけでものすごく疲弊している状況です。一般に組織論の常識からすると、部下の数というのは、スパン・オブ・コントロールがセブラルというので、4から8ぐらいの間と言われて、それ以上は余り管理できないと言われています。名古屋工大さんの場合は、恐らく教員の数が三百数十名いらっしゃるのではないかと思うのですが、そうすると、どういう手分けの仕方をして目標設定面接とその後の事後的なフェアな評価のフィードバックが行われているのかという辺りがですね。
 これ、すごいエネルギー使っているので、私、4人分でものすごいエネルギーを使っていて、それでいて差は大して付かなくて、経済的なインセンティブがどのぐらい本当に効くのかというのと、あと、大学の教員の世界は、どちらかというと、そんなことほっといてくれという、自由度が高いことの方がうれしいという人も結構多いところもあって、この制度の導入がどのぐらいうまくできるのかという点に非常に興味を、本当に純粋にどうやるとうまくいくんだろうという興味を持っているところなので、是非御示唆をいただければと思います。
 また、もし経済的インセンティブを本気で付けるなら、年俸で24万円というのは本当に適切な幅かどうかですね。もしかすると、これだけの制度をやって、これだけ金銭的なインセンティブである程度動き方を変えたいということの場合には、もっと急峻なインセンティブシステムにしないといけないかどうかとか、その辺の手触り感の印象とか、そんな点をもし教えていただければと思います。
【鵜飼名古屋工業大学長】  御意見ありがとうございます。まず基本給については、月給制のいわゆる人勧対応なんかでアップしている部分に対応するような形でアップさせることで、基本的には業績評価の方で更に差を設けております。これについては、限られた予算の中で、年俸制教員の評価に従って、絶対評価というよりはむしろ相対的な評価で予算配分するような形になっております。その差でいきますと、昨年の一番優秀な方はたしか30万程度は上乗せが更にされております。ですから、総額でいきますともう少し差が出てきているのではないかと思います。
 その評価の仕方については、教員評価とは別に拡大教員評価委員会の評価があります。もちろんこれは年俸制の評価、いわゆる達成度評価だけではなくて、教員評価のデータも入れて全体で評価しますので、拡大評価委員会というところでやっております。現在、年俸制の評価軸としては、先ほど申し上げましたように、研究と産学連携等の目標値を達成しているかどうかということで評価しております。それ以外の、教育あるいは学内活動、社会貢献については、教員評価データを使って評価するということでございます。そういう意味ではかなりデータベースで評価をしているというような実態でございます。
 また、現在、年俸制、承継枠としては大体61名ですが、そのほとんどが助教の先生方でございまして、この方々は全ていわゆるテニュアトラックとして雇用しております。テニュアトラックの場合には、若手教員養成センターというのがまた別にございまして、そこで毎年かなり研究実績についての評価もしておりますので、そういうところもデータとして用いながら評価しているということでございます。ですから、どこかで集中してやるというよりは、いろいろなところで基軸を設けて、それらのデータを合算する上で最終的には拡大評価委員会の中で評価していくということでございます。
【沼上委員】  面談はどうされているのでしょう。
【鵜飼名古屋工業大学長】  先生方に一応プレゼンをしていただいて、ヒアリングを受けてやっております。
【沼上委員】  私が自分でやっているのだと、今年は例えば教育、研究、学内活動、社会貢献だと何%ずつの比重でやって、特にこちらが期待していることや向こう側がしたいことなどを30分から45分ぐらい面談する。また評価のときには、良かった点と不十分な点を相手に納得してもらうように更に45分ぐらいお話をし、2回にわたって十分な時間を掛けて上司・部下の間で話し合う。面談のときに異議を申し立てられる機会が与えられているだけでもフェアだと感じるので、その種の丁寧な対応をしないといけないというところもあると思うのですけれども、結構な人数と面談をするのに、学部長の方が全部されることになるんでしょうか。
【鵜飼名古屋工業大学長】  本学は単科大学ですので、工学部しかございませんので、先ほど申し上げたような教員評価委員会の中で所属長を中心とした委員会の中でやらせていただいていますが、本当に先生方にいろいろ研究の状況をプレゼンしていただき、また、その達成度の評価についてデータを示していただく。ただ、おっしゃるように、実は個々に面談をしながら、お互いに納得をしながらというところまではまだ行っていませんし、なかなかそこまで行くのは大変だと思っております。ただ、異議の申し立てはできるようになっていますので、いろいろ御意見を伺いながら、納得していただくような形で最終的には評価を固めております。
 年俸制の評価と教員評価、それから、先ほど申し上げた若手教員の養成センターの中のいろいろな評価、こういうものがまだ統一感がないものですから、それを統一する中で、本当に年俸制というものを正確に評価していくシステムをどうやって作っていくのか。例えば企業の中でも、一旦年俸制に切り替えたけれどもまた元へ戻るとかそういう動向がある中で、年俸制の導入について何が問題か。特に教員の場合に、研究はいいけれども、例えば教育の評価にどのようにインセンティブを付加していくのかとか、様々な問題がございますので、そういう問題を考えながら、国立大学協会の中でも検討することになると私自身は思っております。
【沼上委員】  ありがとうございます。
【川端委員】  プレゼンテーションありがとうございます。幾つかお聞きします。この話全体を見ると、要するに、任期制の話と、それから、年俸制の話とクロスアポイントメントと、こういう整理になっていて、1つ目は、お聞きしたいのは、最初のプレゼンは多分、全体像として若手教員の減少というところで少しお話しされて、任期がないポストを増やす方向のように私は聞こえました。最初小林先生がお話されたように、要するに、若手自体は流動性を保ったり、彼らがやはり研究に専念して、次のポストの経験を得ながらまた次のポストに上がったりするようなシステムを、国立大学も含めて助教に任期を付けるというのはそういう考え方で導入されたものです。そのような考え方と、さきほど言われた、任期がない方がいいという考え方というのが根本的に違っている部分だと思います。
 ましてや、最後に言われた、運営費交付金以外に競争的資金も含めた合算使用型として人件費を確保しないと全体としては回っていかないだろうと、こういうふうに考えれば、ますます全部任期なしに向かうことが幸せ的な向かい方はやっぱりちょっとおかしいかな、若しくはそこをどう整合性を取られているのかなというのが1点目にお聞きしたい話。
 それから、2点目は、年俸制という話も、クロスアポイントもそうですけれども、もともとはセクターを超えた流動性を担保しようよということも1つ大きいゴールに持っていて、大学側がやっぱり出ていくに当たって、退職金の問題とかいろいろあるから、年俸制にして、民間との間の入れ替えを非常に楽にして、敷居を減らしましょうという話からスタートはしたけれども、結局、日本の中の企業さんのほとんどが年俸制を導入していないということから考えて、そこに障害がどうもあるのではない形というのがあるだろうというようなことから、次の基軸は、年俸制としてはやはりインセンティブ型になって評価をしてもっと元気付ける、そういうような基軸にこれを活用していこうというふうになったのかなというふうに理解をしています。
 そうなったときに、先ほどの質問にもあったところですけれども、日本の中では、やはり年功序列型という考え方、要するに、競争ばっかりさせることが幸せではないという意味では、あるレベルで全体として動いた方がいいのではないかというところもある。悪いところもありますけれども。年俸に関しても同じようなことが、やはりいいことと悪いことがあって、最終的には日本型の年俸制がここで作られていくのかなというふうに考えています。いわゆる外資系の企業がやられている年俸制の形ではないやり方がきっとここに作られていくのかなと思っていたのですが、この2点について少しコメント頂ければありがたい。
【鵜飼名古屋工業大学長】  分かりました。まず任期ありの若手教員が増えている。それを任期なしにしていくというような、特に東京大学辺りの積極策はそういう趣旨に沿った形だと思います。一方で、特に若手教員を採用する上で、若手教員を育てるために私どももテニュアトラックを設けました。
 テニュアトラックというのは、基本的には任期を設けて、その期間の中できちんと評価をして、優秀であれば、昇任を含めて次のステップに移るということですから、ある意味では任期ありということですが、ただ、そういうことを最初に言ってしまいますと、先生方、若手の方々は腰が引けてしまいますので、基本的には任期なしとして皆さんを採用しますが、5年間はみっちり見させていただく、場合によってはそこで退場いただくこともありますということは申し上げます。
 ですから、ありか、ないかという、その二元的な考え方ではなくて、やはり若いうちのテニュアトラックのときには、任期ありという形もある意味で必要ではないかというような印象を持っております。確かにある意味で矛盾する考え方かもしれませんが、そういう方針で若手の教員については今採用をさせていただいております。
 それから、流動性に関しましては、国立大学協会のワーキングの中でも議論がありましたが、国立大学が例えば先頭を切って全て年俸制に移行した場合に、それがきっかけとなって研究者コミュニティの中で本当に流動性が広がっていくだろうか。例えば国の研究開発法人はほとんどもう年俸制に移行しています。一方で、公立大学、私立大学はまだまだ年俸制は行ってない。本当に私立大学のレベルで年俸制が実施されるのかどうかということも分かりません。それから、先ほどおっしゃったように、企業の中でもやはり年俸制を取り入れているところと、そうではない企業がございます。ですから、そういうものに対してコミュニティの中で流動化を、国立大学が年俸制をやれば広がっていくかどうかということについては、なかなか議論が難しいところがございます。
 ただ、先ほど申しましたように、年俸制の考え方が必ずしも一通りではないということは、それは今、各国立大学が進めている中でいろいろな事例を見ますと出てきますので、ある意味で日本型の年俸制というものを考えていく上で、国立大学が1つの方向性を示すということも考え方の1つではないかと思っております。
 ちょっと明確な答えにはなりませんが、確かにやはり年俸制を取り入れることの一番大きなメリットはインセンティブでございます。頑張っている先生にはいかにそれにプラスしていくか。そのために、本学でも外部資金の間接経費のキックバックとか、あるいは業績評価額に差を付けていくというようなことでエンカレッジするような仕組みは必要です。ただ、エンカレッジだけではこれはもう財政的に破綻しますので、どこかでマイナス面を付けなければいけない。ところが、マイナスというのが本当に可能かどうか、つまり、雇用における不利益につながっていくような部分もございますので、それは慎重に取り組まなければいけないのですが、やはりプラマイというものも、全体を評価する上でできればプラスの方向へ持っていくようなそういう年俸制を目指していきたいというのが私自身の考えでございます。
【川端委員】  名工大さんの中での基本給部分の年俸制は極めて良好ですが、これはベースアップですか。
【鵜飼名古屋工業大学長】  これはベースアップです。そのため、これは業績評価とはちょっと違った形での配分になります。というのは、基本給自体が、ある年に採用した基本給がもう5年経つとまた基本給はレベルが変わりますので、その分を補填するという意味でこういう形でプラスしています。ですから、基本的には業績評価額が、EからS+++までが純粋な業績評価額というような枠組みにしている。
【川端委員】  もう1点だけ。いろいろな大学がそうですけれども、結局、全部積算したらプラスになってしまっていないか。要するに、今言われたように、マイナスの人はなかなか付けられなくて、全部がインセンティブ型のプラスになってしまっていて、足すと、大学としては人件費がひたすら増えていくという形になると思って、それをどういうふうに考えていくのかお聞かせいただけるでしょうか。
【鵜飼名古屋工業大学長】  困ったところだと思いますが、本当に幸いなことに、若手の助教を年俸制で採用して、業績はかなり全体的にアップしています。マイナス要因を付ける先生方がいらっしゃらないのですが、ただ、これもやはり将来的にはマイナス要因を付けざるを得ない。その辺は覚悟しなければいけないと思っております。
【宮浦主査】  年俸制について御意見を頂きたいのですが、いわゆる若手の助教を年俸制にするという部分と、年齢層としてはある程度のシニアの部分を一斉に年俸制にするという考え方も可能性としてはありではかという部分をどのようにお考えでしょうか。
 また、インセンティブの問題ですけれども、かなりやられていて非常にすごいなと思った一方で、やはり若者に夢を与えるようなインセンティブと言いますか、スポーツ選手がこれだけ活躍している時代で、研究者になると、一発成功すると3倍の給料が出るとか、ごく一部でも何か研究者に大きな、子供たちに夢を与えるようなモデルケースがあってもいいと思うのですが、その2点について御意見頂ければ。
【鵜飼名古屋工業大学長】  本学でも一応、定年延長の方には必ずなっていただくのですが、それ以外にも、シニア教員、ある程度年齢を経た方には年俸制への移行を勧めておりますが、残念ながら希望者がいないということで、なかなかうまくはいっていません。そういうことで、シニア教員も、特に外部資金の獲得が大きな先生方は、間接経費を自分の給与として上乗せできる仕組みですから、もっと積極的に取るようにということでお願いはしておりますが、残念ながら、年俸制に対する抵抗が強いのか、なかなか移行していただけないということがございます。
 それから、元気が出るような給与配分、もちろん本当に業績の高い方にはもっと給与を差し上げたいというのは本音でございますが、ただ、そういう方々は特別表彰という形で実は金一封を用意しておりまして、お渡しするぐらいでしか今、報いていない。ただ、先ほど申し上げた業績評価の中で非常に高得点をされる方は、いわゆる上がらない方に比べてかなりの額の差が出てきています。それを毎年続けることによって累積していきますので、そういうものを見ていくと、先生方もある意味でインセンティブがドライビングホースになっていくのではないかということは言えるのではないかと思っています。
【宮浦主査】  ありがとうございました。国大協の御検討状況と、名工大様の非常に進んだ取組についてお話を伺って、非常に参考にさせていただきました。
【鵜飼名古屋工業大学長】  ありがとうございました。
【宮浦主査】  それでは、お時間ですので、最後に事務局から当面のスケジュール等について御説明をお願いいたします。
【広瀬基礎人材企画係長】  事務局でございます。本合同部会の当面のスケジュールにつきましては、現時点のものでございますけれども、資料3に記載のとおりとさせていただければと思っております。
 次回の第5回合同部会では、これまでの議論を踏まえまして、論点整理の素案について御議論いただくことを予定しております。次回の合同部会の日時につきましては、5月31日木曜日14時から16時の開催を予定しております。委員の皆様におかれましては、開催場所も含めまして改めて御連絡させていただきたいと思います。
 また、本日の会議の議事録につきましては、作成次第、委員の皆様にお目通しいただきまして、主査に御確認の上、文部科学省のホームページを通じて公表させていただきます。
 また、委員の皆様の本日の資料につきましては、机上に残していただきましたら、追って、事務局より郵送させていただきます。
 以上でございます。
【宮浦主査】  それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。ありがとうございました。


―― 了 ――

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