令和7年4月24日(木曜日) 14時04分~15時15分
Web会議
文部科学省17階会議室
森座長、阿部委員、有江委員、石井委員、神里委員、楠岡委員、佐々委員、佐原委員、田代委員、徳永委員、戸田委員、長神委員、花井委員、日置委員、別所委員、前田委員、三浦委員、三成委員、山内委員、山本委員、横野委員、吉田委員
木村安全対策官、市原補佐、佐藤専門職、工藤専門職
眞鍋課長、江田推進官、西田専門官、安樂補佐、北澤補佐
飯村室長、新井専門官、八百野技術参与
小野企画官、室補佐
個人情報保護委員会 山田企画官、古川補佐、新津補佐、藤田補佐
厚生労働省 西川企画官、山崎補佐、岡補佐、吉原補佐、糸谷補佐
内閣府 日野参事官、網野企画官、中村補佐、宮田補佐、阿部主査、増田係員
東京大学大学院法学政治学研究科 米村教授
【森座長】 それでは、定刻となりましたので、ただいまから第2回生命科学・医学系研究等における個人情報の取扱い等に関する合同会議を開始させていただきます。
本日は、大変お忙しい中、御出席賜りまして厚く御礼申し上げます。
最初に、事務局から、本日の出席の状況と配付資料について御説明をお願いいたします。
【佐藤専門職】 文科省研究振興局ライフサイエンス課の佐藤でございます。よろしくお願いいたします。
本日は、森座長をはじめ、22名の委員が出席されています。石井先生は、15時前に途中退席の御予定です。なお、日本製薬工業協会の中西委員におかれましては、役職の変更に伴い、今回より同協会の阿部委員が御出席となります。
事務局につきましては、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省より関係課室が参加するとともに、オブザーバーとして個人情報保護委員会事務局と、今回より内閣府健康・医療戦略推進事務局、厚生労働省医政局参事官(医療情報担当)付が参加されております。
なお、事務局のメンバーは参考資料1-2を御覧ください。
続いて、資料の確認をいたします。本日はウェブ会議としており、委員の皆様は事前にお送りした資料を御参照ください。議事次第のほかに資料1、米村滋人先生発表資料、資料2、今後の見直し検討における主なご意見と今後の議論について(案)と、参考資料1-1~5をお配りしています。なお、本合同会議を構成する委員会のうち、文部科学省、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する専門委員会については、構成メンバーは前回と同じですが、形式上、新たに第13期の委員会が立ち上がっております。参考資料2は、第2回合同会議までの委員の追加意見をまとめておりますので、適宜御参照願います。
ここで、ウェブ会議を行うに当たって御留意いただきたい点について説明します。通常はマイクをミュート、カメラをオフに設定していただき、発言時にはカメラをオンとミュートの解除をお願いします。発言を希望される方は画面上の挙手ボタンで意思表示をお願いいたします。その他、何か不都合等ございましたら、チャット欄にてコメント願います。
【森座長】 御説明どうもありがとうございました。
それでは、議題1、倫理指針の見直しについて、に入らせていただきます。本日は、医学と法学の観点から知見を賜るため、参考人といたしまして、東京大学大学院法学政治学研究科教授でいらっしゃいます米村先生に御発表をいただきます。御発表を15分、その後に質疑10分をお取りしたいと思っております。米村先生、よろしくお願いいたします。
【米村教授】 東京大学法学政治学研究科の米村でございます。本日は、このような発表の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。私のほうからは、「研究倫理指針に関する法的課題と改正の方向性」というタイトルでお話しをさせていただきたく存じます。次、お願いいたします。
皆様方の間で、既にかなり御議論いただいているところかとは存じますが、私の認識に基づき、現行指針にどのような問題点があるのかを簡単にまとめさせていただきました。本日の話の前提としてお聞きいただければと思います。
現在の指針は、非常に複雑になっておりまして、この点に批判といいますか、見直しが必要であるという意見が集中しているかと存じます。現状では、法律家でも理解が難しいような状態になっており、また、研究の現場においても、研究者や倫理審査委員会委員が十分に指針を理解できないために、現実に研究の遂行や倫理審査業務に当たって支障が出ているという状況がございます。もしかすると研究実施自体に対する抑制因子となっている可能性もあるのではないかと思っているところです。
特に問題なのは、個人情報保護法との関係が極めて分かりにくいというところであると思っております。個人情報保護法の規制がほぼそのまま指針に盛り込まれているというのは、この後お話しする理由によりますけれども、その一方で、個情法(個人情報保護法)とは異なる上乗せ規制も存在し、どこまでが法的義務なのかがよく分からない書き方になっています。そもそも上乗せ規制の必要性や趣旨も明確になっていないというところがあるように思います。次、お願いいたします。
そのようなことを踏まえまして、本日は3点お話をさせていただきます。最初に、研究倫理の基礎と現行指針の位置づけについてお話しさせていただいた上で、法令との関係について、最後に改正の方向性についてということでお話をさせていただきたいと思います。次、お願いいたします。
まず、研究倫理の基礎と行政指針についてです。次、お願いいたします。
教科書的な話で大変恐縮ですが、研究規制がされるようになったもともとの契機が大きな2つのスキャンダルであったということは、皆様御承知かと存じます。ナチスによる非人道的な人体実験、それから、アメリカで起こったタスキギー事件というのが大きな契機になって生命倫理学が誕生し、また、研究に対する倫理規制が導入されるようになったわけです。次、お願いいたします。
生命倫理学の誕生についてですけれども、タスキギー事件などを受けて、1970年代に米国で、公民権運動とも結びつく形で患者の権利を確立させよという社会運動が起こったというのが1つのきっかけでした。それによって、医療における患者の権利、医学研究における被験者の権利を一体的・包括的に保護すべきであるという考え方が出現し、さらにインフォームド・コンセントを特に重視する立場が出てまいりました。それが生命倫理学という学術分野の誕生に結実したということになります。医療・医学研究全般を包括する倫理的判断を体系化し、それを学問的に分析し、さらに実務的にもそれを適用する形で倫理的な医療・医学研究を進めていく、そのような方向性が目指されたということになります。次、お願いいたします。
日本にもその流れは入ってきたわけですが、1999年までは、医薬品等の治験を除いて明示的な規制はありませんでした。ヘルシンキ宣言等の倫理規範のみが適用されていたという状況です。それが2000年のミレニアム指針の策定を契機に、行政サイドで倫理指針策定の動きが顕在化しました。2001年にヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針が策定され、その後、2002年には疫学研究に関する倫理指針、2003年には臨床研究に関する倫理指針が策定されまして、以後、改正・統合が重ねられ、現在の生命・医学系指針につながっているのは、皆様御承知のことかと存じます。
これらの指針におきましては、当時の時代状況も反映して、特にインフォームド・コンセントの規制に重点が置かれておりまして、現在に至るまで、指針ではインフォームド・コンセントに関する規定が非常に手厚いという特徴があるわけです。次、お願いいたします。
生命倫理に基づく研究規制の特徴ですが、生命倫理の世界では、「生命倫理4原則」というものが大変有名です。自律尊重・無危害・善行・正義の4つの原則によって倫理的判断を説明し、具体的な問題状況において、その4つの観点から検討していく、そのような考え方が、生命倫理学の主流をなす学派によって唱えられています。
この4原則というのは比較的柔軟に適用できるとされており、いずれか1つが絶対的遵守を求められるということはないとされています。インフォームド・コンセントというのは自律尊重原則の表れとして通常説明されていますが、このインフォームド・コンセントも、ほかの諸状況によっては不要となる場合が認められており、必ずインフォームド・コンセントの要請を満たさなければならないという形では定式化されていません。ところが、法令や指針においては、その性質上、柔軟な適用の可能性を書き込むというのはなかなか難しいところです。倫理指針ではどう対応しているかといいますと、規制の強弱を上手に表現するために、細かい場合分けをするという方針を採っております。こういう研究の場合にはこの程度の規制、こういう研究の場合にはこの程度の規制という規定が幾つも列挙される形になっています。これが、現在の指針の分かりにくさをもたらす1つの原因にはなっていると思います。次、お願いいたします。
既存法令との関係というところにまいります。次、お願いします。
やはり重要なのは、個人情報保護法との関係です。2003年に個人情報保護法が制定されましたが、その際に、センシティブ情報に対する加重規制を行うべきだという立場がかなり有力に存在しておりました。ただ、最終的にはその方向性は採られませんでした。特に個人情報の中で別のカテゴリを設けて規制を差別化するということはされなかったわけですが、その際に、そのことの引換えに、と言ってもいいかと思いますが、国会の衆参両院で附帯決議がつきまして、その中で、センシティブ情報に近い情報を取り扱う幾つかの重点分野について、個別立法を行うことを検討してくださいという意思表明が国会側から上がりました。他方で、個人情報保護法の当初の規定では、学術研究が適用除外とされておりました。個情法の個別義務規定が適用されるのは民間法人ですので、私立大学等の民間研究機関には、個別義務規定が適用されない状況だったわけです。そのようなことで、そのままでは研究機関間に規制の不整合が生じるということがあり、倫理指針上に個情法のルールをほぼそのまま書き込む方針が採られました。次、お願いいたします。
お見せしておりますのは附帯決議、参議院の決議をお示ししておりますけれども、医療分野、それから金融・信用その他もついておりますが、医療分野などの「個人情報の保護が求められている分野について、特に適正な取扱いの厳格な実施を確保する必要がある個人情報を保護するための個別法を早急に検討」するということが求められたわけです。次、お願いいたします。
こちらは、当時の合同会議において決定された報告書の抜粋です。基本的に個人情報のルールというのは、やはり研究分野でも適用する必要がある。他方で、憲法上の学問の自由との関係で、それを個別法、すなわち法律の形で強制的に適用していくというのはあまり適切ではない。したがって、研究倫理指針の中に個人情報の規制を盛り込む形で、強制ではないけれども、しかし、個人情報保護のルールを民間研究機関を含めて全ての研究機関に適用できるようにする必要がある、そういう考え方が取りまとめられ、それが現在の指針の在り方につながっているわけです。次、お願いいたします。
ところが、現在に至るまで、いろいろな問題が発生してきております。私のほうで認識している問題点を4つにまとめました。
まず、倫理原則とは異なり、法律上の義務は絶対的遵守が求められるということがあります。これは、先ほど申し上げた倫理規範と法規範の違いということが背景にあるわけですが、それら異質なルールが倫理指針中に書き込まれる結果として、さらに複雑な場合分けが発生したということが言えます。幾つかの改善点に関する御意見の中で、「インフォームド・コンセント」と「適切な同意」の二元的規制が分かりにくく、また複雑であるという御意見がありました。これは当然といえば当然の御意見だと思いますが、現場からもそのような意見をよく聞くわけです。これは、まさにこの点に関係しており、生命倫理に基づくルールが本来の「インフォームド・コンセント」の規制であり、それとは別体系で存在する、個人情報保護法、すなわち法令の要請に基づく同意の取得規制が「適切な同意」であるわけです。これが徹頭徹尾、融合するということはなかなか難しい。かなり多くの場面で融合的・一体的に取り扱えるのは事実なのですが、細かいところでは完全に同一化はさせられないので、どうしてもそれらを区別するために別概念を持ってこざるを得ない、そういう関係にあるわけです。しかし、それが法律や行政の専門家ではない人たちにとっては非常に違和感があり、理解しにくいという側面があり、この点が、指針の抱える問題の、1つの大きな原因であるというように思うわけです。
それから、個人情報保護法の規定をそのまま書き込んだ結果として、個情法改正のたびに指針改正を余儀なくされたということがあります。最近5年ほどの間に、生命・医学系指針の新規策定を含めて、3回ほど改正がされています。頻繁な改正によって、現場の混乱に拍車がかかったということも否定できません。あまりにしょっちゅう改正が行われますと、とても現場の研究者はついていけないということがあります。倫理審査委員も同様です。
それから、法律と指針の関係、指針中の上乗せ規制の趣旨・内容の不明確性が生じた。これは冒頭でお話ししたとおりです。
私の観点から見てさらに問題だと思われるのは、個情法だけが重要、個情法さえ守っていればよいという誤解を生んだことであるように思います。つまり、研究活動に関わる法令というのは非常に多岐にわたります。もちろん、どのような研究をするかによっても適用法令が違ってくるという実情はありますが、倫理指針がことさらに個情法の規定のみを中に入れ込んでいるということにより、そもそも研究上問題になるのは個人情報のルールだけなのだ、そこさえしっかり押さえておけば、ほかは気にしなくていいのだという誤解を与えることになったというのが、私は大きな問題であったと思っております。次、お願いいたします。
その1つの例として、ヒト試料に関する問題を挙げさせていただきたいと思います。研究倫理指針では2000年のミレミアム指針以降、ヒト試料と情報というのはほぼ同一のルールで取り扱われてきました。今の生命・医学系指針でも「試料・情報」という形で一括して取り扱われています。しかし、個情法は情報にしか適用されませんし、試料、すなわち有体物には民法の規定の適用があります。両者を同一視することは法律に反するということを、私自身は20年前から指摘しておりました。2003年の臨床研究倫理指針ができた直後に、私、厚労省の担当課のほうに参りまして、この点を指摘させていただいたんですが、しかし、もうこれで動いているので仕方がない、これでやらせていただきます、というお話でした。以来20年間、一切変わっていないというのがこの問題です。
特に、死体由来試料については問題が大きいという認識です。私は、『医事法講義』という医事法全般の教科書を書かせていただいており、その中でも書いるのですが、死体については、民法の通説・判例において所有権の客体になるということが確立した解釈になっております。にもかかわらず、この所有権を含む法律関係というのが全く無視される形になっております。これは適法性を確保するという指針の目的からしても、非常に問題があると思っている次第です。次、お願いいたします。
3番目に、改正の方向性についてお話しさせていただきます。次、お願いいたします。まず何よりも、個人情報との関係を再整理する必要があるというのが、やはり最も重要な点ではないかと考える次第です。指針の著しい複雑化や、他法令軽視の風潮の原因は、第一義的に個人情報のルールのみをそのまま指針に書き込むという方針にあったと考えられます。もっとも、先ほどお話ししたとおり、このような方針は、2003年の個情法制定当時の状況が原因でした。民間法人には適用除外規定があって、個人情報のルールが適用されないとされていた、あるいはセンシティブ情報の規制がなく、それについて別出しの規制が求められていたわけです。
ところが、この2つの点、どちらも現状は解消されております。令和3年改正によって学術研究の適用除外がなくなり、現状は全ての研究機関に対して個人情報保護法の適用がある状況になっております。加えて、センシティブ情報に当たる情報は、2015年の個情法改正において「要配慮個人情報」として法制化され、これも現状では研究機関に対してそのまま規制が適用される状況があります。そうしますと、今の法状況を前提にすれば、指針中に個人情報保護規定を直接書き込む必要性はもはや失われていると考えるべきではないかと思われるところです。したがいまして、個情法と同一のルールは指針から削除することが望ましいというのが私の意見です。
もしそれが難しいとしても、最低限、指針固有の規制と個情法の規制を明確に区別して、指針の中で、それぞれの規制がどちらに由来する規制であるのかというのを誰が見ても分かりやすいような形で記載することが必要ではないかと考えております。次、お願いいたします。
もう一つ、私が問題視しております、他法令の取扱いの問題についてです。研究現場に広がった、個情法のみを遵守すればよいという風潮は是正する必要があると考えております。指針中にあらゆる法令の規定を書き込むことはもちろん不可能であり、そうではない方向性を考えなければなりません。ただ、どのような法律が問題になり得るかを一般的に指摘して参照を促すということくらいは可能ではないかと考えられますので、個情法もその種の注意喚起対象法令の1つにとどめるということが望ましいのではないかと思います。
他方で、一定のルールを指針中に規定する際に、どうしても考慮しなければならない法令というのはあります。個人情報保護法も、もちろん一定程度は考慮しなければならないということがあります。他方で、民法や刑法も、先ほどお話ししたヒト試料の取扱いを考えるに当たっては、考慮しなければならない法令に当たるのではないかと思います。したがいまして、今まで研究倫理指針を策定する際に、民法・刑法の具体的な適用場面、あるいは適用内容について、ほとんど考慮されてこなかったと思われるわけですけれども、ここの点をしっかりと考慮していただいて、ヒト試料についてどのような取扱いが求められるのか、この辺りのルールを再整備していただきたいと考える次第です。次、お願いいたします。
最後に、ゲノムに関する問題について一言だけお話しさせていただきます。本日は時間の関係で詳しくお話しすることはできませんでしたが、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針においては、ゲノムの特殊性に配慮した規定が存在したのですが、現在の指針ではほぼ全てが削除されております。もちろん一般的な規制に解消された、ないし吸収されたと思われる部分もありますが、そうであったにしても、かつてのゲノム指針には細則がついており、様々な問題状況に関して、このように判断するのが望ましいということが詳しく書き込まれていました。ところが、残念ながら現状の指針及びガイダンスでは、その種のゲノムに特化した適用問題に関する言及がないわけです。
しかし、ゲノムには、近親者との共有性や差別的利用の可能性など、幾つか通常の個人情報とは異なる性質があるということも指摘されてきたところです。そういった固有の問題状況に即した規制は、やはり必要なのではないかと考える次第です。ゲノム関連の規制は、必ずしも研究の場面だけで問題になるわけではありませんので、ゲノムはゲノムで、単独の包括的規制が必要なのかもしれません。ただ、そういったことと併せて、指針規定の見直しも御検討いただきたいと思っております。これは長期的課題ということになるかもしれませんが、本日、一言だけ付け加えさせていただきました。
以上で私からの話を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。
【森座長】 米村先生から御発表を承りました。どうもありがとうございました。
それでは、質疑の時間とさせていただきます。御意見、御質問の先生は挙手をお願いいたします。
【森座長】 では、田代委員から御発言ください。お願いします。
【田代委員】 米村先生、御報告ありがとうございました。
私のほうから2点、追加でお話を伺いたいところがあります。1点目は、16枚目の個情法との関係の再整理に関してなんですが、私も個情法が既に学術研究に適用されている以上、その部分を削除するということでよいと思うのですが、併せて上乗せの部分をどうするかという論点があると思います。先生、最初のほうに少し触れられてはいて、実際に今、学術例外であろうが、基本的には例えばカルテ情報の二次利用に関しても原則は同意であるとか、あるいは仮名加工情報を作成する際にもオプトアウトをするとかという幾つかの上乗せ規定があるのですが、その上乗せ規定に関する方向性について、先生がどんなふうに考えられているかということが1点伺いたい点です。
もう1点は、17枚目の他の法令等の取扱いで、特にヒト試料のことをおっしゃられていまして、私も死体由来試料に関しては民法上の扱いについての注意喚起をしていくというのは重要かなと思います。ただその一方で、民法・刑法との整合性ということは判断がつかないところがありますが、実際には疫学指針の時代から、指針は試料とデータの扱いをかなり分けて考えてきたという経緯もあります。特に試料に関しては強く同意を求めるという、そういうスタイルでやってきたところがあるので、それを踏まえた上で、具体的にどの辺りがやはりヒト試料の扱いについて問題があるというふうに考えられているのかということについて、追加で御説明いただければと思いました。
以上です。
【米村教授】 ありがとうございます。まず、第1点目、上乗せ規制についてですけれども、これは結局、何のために上乗せ規制を導入したのかという趣旨、目的によって変わってくるように思います。ある程度、個情法の規制にプラスアルファで規制するということも、この分野では特に上乗せの規制が必要であるという明確な理由づけに基づくのであれば、一般論としては許されてよいと思っております。したがって、現行の指針に盛り込まれている上乗せ規制が、なお維持すべき理由があると判断されるのであれば、例えば先ほど田代先生が例に挙げられた、学術例外や仮名加工情報についてもオプトアウトの規制が存在するというような点については、もしかすると個情法のルールを指針から切り離したとしても、なお存続させるべき規制に挙げられるのかもしれません。それはむしろ先生方の御議論をお願いしたいと思っております。
ただ、基本的には、個情法のルールをそのまま書き込む目的で導入されてきたような規制は、原則削除したほうがよいと思っています。特に、先ほども少しお話しした適切な同意のルールは、基本的には個情法の同意規制を指針に盛り込む際に、調整のために出てきた概念であるということがありますので、削除すべき規制にあたるように思います。実は、適切な同意の運用に当たっても、個情法の規制だけではなくプラスアルファの上乗せ規制がかかっている部分があります。これは、私はあまりよいことではないと考えておりまして、個情法の規制は個情法のほうでやってもらうべきであって、個情法のルールに関連する上乗せ規制を指針でやるというのは、ますます事態を複雑化させるのではないかと思います。
したがいまして、大きな枠組みとしては、個情法のほうで実施すべき規制というのは、上乗せ規制部分も含めて指針からは削除するという方向でお考えいただきたいと思います。ただ、インフォームド・コンセント関連の規制であるとか、何かしらの理由でどうしても残すべき上乗せ規制があるのであれば、それは残すことも選択肢になると、そのような整理になろうかと思っております。1点目は以上です。
2点目の御質問に関して、田代先生からは、疫学指針以来、試料と情報は異なって扱われてきたというお話がありました。ただ、そのあたりの認識は、もしかすると私と少し違いがあるのかもしれません。割と疫学指針、臨床指針の時代から、例えば、当時の用語で連結不可能匿名化をすると、試料でも全く同意なしで使えるようになるとか、あたかも情報規制であるかのような扱いがされていたと認識しておりました。しかしやはり、それはまずいのではないかというのが私の理解です。匿名化あるいは匿名加工によって権利関係が変動するのは、情報だからでありまして、有体物の場合にはそのようなことによって権利の帰属が変わるということはないわけです。そこの点をまずはきちんと考慮すべきであると思います。
他方で、民法には、例えば「加工」のルールというのがありまして、所有権者でない者がある物に手を加えて全く別の物に加工した、つくり変えたという場合には、そこで所有権が「原始取得」されるとされています。「原始取得」というのは民法上の専門用語ですが、要は、所有権者でなかった加工者が所有権者になるということが起こるわけです。そのようなルールを適用しますと、例えば、細胞を培養して増やしたというような場合に、増やした後の細胞は全て加工後のものであるということで、研究者または研究機関の所有物に変わるという扱いも十分できるわけです。そういうようなことも踏まえて、果たしてどこまで同意が必要なのかということは、もう少し厳密に考えていったほうがいいと私自身は思っておりまして、必ずしも所有権ルールを導入するから、研究者にとって不利になるとか、従来よりも規制が厳しくなるとか、そういうことにはならない可能性も十分あると思っております。
いずれにせよ、今までこの辺りの検討は全くされてきていないと思いますので、ぜひその点も含めて御検討いただきたいというところです。
以上です。
【田代委員】 ありがとうございました。
【森座長】 では、長神委員、お願いいたします。
【長神委員】 私も2点ございます。1点目は、米村先生は、そもそも指針とは何かということに迫っていただくお話をいただいたのかなと思っています。ありがとうございます。個情法の規定と重なる部分に関しては、もはや指針になくてもいいのではないかという趣旨の整理がありましたが、ごもっともだと思います。しかし、今の状況でそこだけを除いてしまうと、課題が生じるように思います。例えば、個情法に照らして問題ないのかどうか個別に判断しようとしたときに、指針事務局に問合せが行っていたものが、これからは現場から個情委(個人情報保護委員会)の事務局に問い合わせるということになると、むしろ現場が萎縮して、どんどん安全面に振られるというような事態も想定されます。むしろ指針の中で、これは大丈夫なことというのをはっきり発信しながら研究を促進していくような役割が、べからず集ではない役割として求められていくのではないかなと考えました。ここまでが1点目です。米村先生の御意見もいただければと思います。
2点目は個情法よりも厳しい上乗せの規定が指針に載せられて厳格になっていった結果として、指針が研究にしか適用されないので、研究でできないことを商売でやってしまったほうがいいのではないかというような、そういう話になりかねない事態が、今生じていると思っています。次世代医療基盤法の仕組みなどを通じてデータ取得したものを使うに当たって、指針の話ではなくて、これはあくまで、むしろ企業は企業活動の一環として扱ったほうがむしろ簡単なのではないか、といった話がある。そうすると指針の議論の際には、周辺の法律をきちんと扱って、例えば、採血するといった侵襲行為は医行為でなければ法律上できないわけですが、公的な目的を伴って、かつ結果やプロセスの公開が原則である研究だから、ということで可能になる。そういう原則にのっとって考えると、その際に、研究として守ることが指針だというのが本来の在り方なのではないかと思います。
そうなると、例えば個情法は、学術研究例外とか公衆衛生例外とか細かい例外を設けて第三者利用の規定などをされていらっしゃるのですが、その辺のことを全て研究目的で例外としていただいて、実施する機関の種別による例外ではなく目的による例外としていただいた上で、例外になった研究で個情法が適用されないのだけれども、守るべきことは本当はあるはずだから、そこは指針で決めましょうという形が本来の姿なのではなかろうかと思った次第です。
むしろ個情法をそうして改正していただいた上で、指針の側をそうした形で法律が適用されない中で研究の指針として守るべきことを決めていくという方向にならないものだろうかと思いました。御見解いただければ幸いです。
【米村教授】 長神先生、御質問誠にありがとうございました。私以上に大きなテーマに関する問題提起をしていただいたというような気がしております。
まず、1点目についてですけれども、現状の指針から個情法のルールを削除したとして、そこの部分について、何も代替の指針やガイドラインがないということになるとすると、やはり現場はどうしていいか分からないという状態に陥るだろうと思います。したがいまして、研究倫理指針から個情法関連のルールを削除した際には、個人情報保護委員会のほうで、別途医学研究に関する個人情報保護法の適用に関するガイドライン、ガイダンスのようなものを公表していただきたいと要望しております。
現状、臨床医療に関しては、「医療・介護関係事業者における 個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」というものが厚労省と個情委の連名で出されております。医学研究に関しては、3省の倫理指針で規制するということで、おそらく個情委は、直接関与するということをずっと控えてこられたんだと思いますが、もう指針で扱わないということになるとすると、むしろ個情委が前面に立って、この辺りのルール整備を進めていただきたいと思っている次第です。
それが進めば、むしろ公衆衛生例外の内容の明確化や、学術例外との関係性などについて、従来よりも突っ込んだ検討をせざるを得なくなると思いますので、その段階で、個情委から何らかの方向性が出されるということを期待したいと思っている次第です。それが1点目に対するお答えです。
2点目は、私も本来はそのような方向性がよいと思いますし、実際、当初の2003年の個情法はその方向性を目指したんだと思います。とにかく学術研究は一括して適用除外にする、これは、個情法は当初から法人単位規制でしたので、「学術研究機関」の適用除外という形でしたけれども、しかし一応適用除外にして、学術研究であっても守るべきルールは指針のほうで義務化するという方向性を目指したんだと思います。しかし、そうはならなかった。それは、基本的には行政機関個人情報保護法と独立行政法人等個人情報保護法、それから各自治体の個人情報保護条例が、いずれも学術研究を適用除外にしなかったからです。そうすると、適用除外になっているのは民間研究機関だけで、それ以外のところは、国立大学も政府の直轄の研究機関も自治体立の研究機関も、全部個情法類似のルールが法的に適用されるという状況になってしまって、それがやはりさまざまな混乱の源になるということがあったわけです。それは、いわゆる「2000個問題」と呼ばれた問題にも関わる問題ですけれども、そういうことがあって、令和3年改正で、一旦は全部の研究機関に個情法の規制の適用を認めた上で、安全管理措置は少なくとも行ってもらうということになりました。ただし、第三者提供その他に関しては、学術例外を広範に適用して、なるべく自由に学術研究はしてもらうという方向性での改正になったわけです。これはもう行きがかり上、そうならざるを得なかったということであろうと思っております。
ですから、私も長神先生と本心は同じなんですが、ただ、今までの経緯を踏まえると、今のこの規制方式を尊重して進めるという形にせざるを得ないように考えているところです。
以上です。
【長神委員】 ありがとうございます。学術研究機関といった場合に、その定義の難しさと、指針の側で昔から言っている研究というものと、個情法における学術研究機関における学術研究と定義はまた違うということがあり、それも混乱を招いている原因の1つになっていると思っていました。機関ごとの規定として考えると、学術研究機関には、例えば国立大学であっても、学生さんの健康診断の結果とか、それは当然学術研究の目的では収集されていない個人情報が山のようにあります。そういったものが法律の適用をされること自体は全く問題ないかと思うので、学術研究、それは研究目的ということで、目的で例外とした上で、例えば、指針の中で、指針の規定に基づいて行われている研究目的のものに関しては、個人情報保護法の適用を除外とするような方向もあってしかるべきなんじゃなかろうかと思った次第でした。ありがとうございました。
【森座長】 そのほか、先生方から御質問、御発言ございましたらお願いいたします。
横野委員、では御発言をどうぞ進めてください。お願いします。
【横野委員】 横野です。米村先生、どうもありがとうございました。
特に法令と倫理指針のそれぞれの役割を再確認する必要があるというような点は、非常に重要な御指摘かと思います。先生の御指摘の中で、倫理的な観点からの判断の柔軟性ということと、倫理指針という規律の在り方との両立が難しいというような御指摘があったかと思います。その点に関連して、個人情報保護法に由来するものを今の倫理指針とは基本的には別のものとして整理をした場合に、その後もなお研究倫理指針として残すべき、個人情報保護という観点では拾い切れないような参加者の方のプライバシー保護に関連する倫理的な規範にはどういったものがあるのか、ないのかということと、そうしたものを倫理指針の中に残す場合、それは柔軟に適用できるような、ある意味理念的なものにするしかないのかといったところについて1点お伺いしたいです。
それから、試料と情報についての御指摘も重要だというふうに思います。民法や刑法における議論との整合性を踏まえてという御指摘だったかと思うんですけれども、今の倫理指針にあるような具体的な手続のレベルに落とすことができるような研究の場面を前提とした民法や刑法の解釈における具体的な確立した議論というのが今の段階であるのかどうか、ないとして、倫理指針の中で何らか具体的なルールがあることが、民法や刑法の解釈に逆に好ましくない影響を与えているというような現状があるのかないのか、そして今後、倫理指針の中でのルールの在り方については、民法や刑法との整合性を踏まえて、ある程度具体的なルールを指針に書き込んでいくべきだというふうにお考えなのかどうかというところについてコメントいただければと思うんですけれども。
【米村教授】 ありがとうございます。まず、1点目の御指摘ですけれども、私としてはもともとの指針は、生命倫理の観点からの考え方によってつくられているものだったと思います。少なくとも2001年のゲノム指針はそうだったんです。ゲノム指針の最初のところに、基本理念が列挙されており、その後で個別具体的な規定があったことはあったのですが、やはり、もともと倫理指針は倫理規範を示すものだというのが一番徹底されていたのがゲノム指針だったと私は思っております。そのときの魂が、どんどん改正に改正を重ねるうちに失われていき、細かい技術規定ばかりになってきて、そのために、本来何が重要なのかというところを研究者に伝える、メッセージ性のようなものが全くなくなってしまったように思います。それもまた分かりにくさ、理解されにくさの1つの要因ではないかという気がしております。
ですから、私としては、理念的なものかもしれませんが、研究とはかくあるべし、あるいは、研究者たる者こういう心構えを持つべし、というようなことを指針中に書き込む、そこが本来の倫理指針の出発点だったはずですので、そこをやはりもう一度盛り込んでほしいというのが、まず第1の希望ということになります。
その上で、技術的規定においても、ある程度指針に残すべき内容というのはあると思っております。インフォームド・コンセントの問題もそうですし、あと、臨床研究倫理指針以来、侵襲性や介入を伴う研究に対する規制を厳格化するという方針が採られてきていますので、やはり、何かしら患者・研究対象者に健康リスクをもたらすような研究はしっかりと規制するという方向性は、大事なのではないかと思っております。
他方で、単に情報を利用するだけの研究については、研究倫理というよりは個情法のほうで規制してもらうというのも十分あり得る考え方だと思いますので、観察研究を中心に、情報だけ使う研究に関しては、特別にはこの指針の中で規制をしなくてもいいかもしれない、そんなことを思っている次第です。これは1点目に対するお答えになります。
2点目は、なかなか広範な御質問で難しい部分もあるわけですけれども、民法・刑法の考え方がそんなに明確かと言われると、そうではない部分ももちろんあります。実際、この辺りのことを研究テーマとしている民法学者、刑法学者は数的にすごく少ないということもありまして、解釈が固まっていない問題も多く、議論は今でも行われています。それでも、こういったヒトから分離された組織・細胞の法律関係という問題に関する議論は、少なくとも最近の民法学界では増えてきました。ただ、そういう人たちがみんな研究倫理指針のルールなどを踏まえて議論してくれているわけではないというところがあり、その意味では研究倫理指針に何と書いてあっても、民法学界はそれと無関係に議論しているということはあります。ただ、それが望ましいかと言われると、そうではないと私は思っておりまして、現実に一部の社会であるにせよ、こういうルールが存在し、それが妥当だと思われている部分もあるわけですので、そのことはきちんと民法の側が受け止めて、どのようなルールが望ましいかを考えていく必要があるだろうと思っております。
ですから、一概に、すべてのルールを民法に合わせよ、と言うつもりはなく、研究倫理指針のルールがよいのだと思われてきた部分があるのであれば、そのことを尊重しつつ、しかし、民法のロジックにうまく乗る形でモディファイしたものをルールとして明確化していく、そんなプロセスが望ましいのかなと思っている次第です。ありがとうございました。
【横野委員】 ありがとうございました。イメージが具体的に理解できました。
【森座長】 それでは、時間のこともありますので、あと石井委員の御発言で、その後、質疑応答でこのセッションを終了させていただきます。では、石井委員、どうぞお願いいたします。
【石井委員】 私でよろしいでしょうか。
【森座長】 はい、どうぞお願いします。
【石井委員】 ありがとうございます。非常に明確な問題点の御指摘をいただいたと思っております。
私からは2点ほどお伺いしたいことがあります。個人情報保護法に関するルールを削除するかどうかは検討したほうがいいと思いますが、少なくとも指針固有の規定と、個情法の規制を明確に区別する。そこは、指針の見直しの上で、よりクリアに現場に動かしてもらうためには必要だろうと思います。
その上で1点目の御質問は、学術研究目的における個人情報の取扱いです。個人情報保護委員会が何か指針なりを設けるとなったときに、「学術研究目的」とはという定義を設けることは、憲法上の権利、人権との関係で、書き込むのが難しいのではないかという気もしておりまして、その辺りについての先生のお考えをお聞かせいただければというのが1点目です。
2点目は、倫理審査について、先生のお考えを基に見直していったときに、倫理審査の対象は一体どのように変わっていくのか。対象と、手続もかもしれませんが、倫理審査委員会の動かし方についてお聞きできればと思います。お願いします。
【米村教授】 御質問ありがとうございます。すみません、ちょっと1点目の御質問について、趣旨が必ずしも十分理解できなかったのですけれども、学術研究の定義が憲法上難しいとおっしゃったんでしょうか。
【石井委員】 そうですね、「学術研究とは」ということを、指針だとしても、国の機関が明確に定めるのも実際上難しいのではないかというのと、逆に、これが「学術研究」だと言ってしまうと、学問の自由が損なわれる可能性、本来保護されるべき人権としての学問の自由に制約がかかるリスクがないのか、その辺りの問題意識になります。
【米村教授】 ありがとうございます。現状の指針は、研究に対して適用される規制ですので、やはり学問の自由の制約になっているということは疑いのないところだろうと思います。したがって、この研究倫理指針のありようが違憲な形にならないようにしなければならないというのは、あらゆる規定を置く際に考慮すべき点だろうと思っております。
他方で、学術研究それ自体の定義は、指針の適用範囲を明示するためには必要なことであり、それはやはりせざるを得ないのではないかというように、私自身は考えているところです。個情法との関係で学術例外のような規定を適用する際に、学術研究の中身が定義されていないというのは、確かに御指摘のような配慮があった可能性は十分あるかと思いますし、それは適切な配慮だったと言ってもいいかと思います。ただ、それを指針として具体化したルールの中で適用する際に、明確化できないということはないのではないかと私自身は思っております。もちろん、指針の適用場面以外に何らかの規制を適用すべき学術研究もあるかもしれないし、あるいは、学術研究以外の目的のものについても同様のルールを課すべき場合というのがあるかもしれません。そういうことはあるわけですが、ただ、少なくとも指針の適用上、どの範囲までその指針を適用するかということについては、学問の自由に踏み込むことはせずに適用範囲を明確化するということはできるのではないかと思っておりました。ちょっと私の認識が甘いかもしれませんが、そのような印象を持っていた次第でございます。間違っていましたら御指摘を頂戴できればと思います。
【石井委員】 ありがとうございます。よく分かりました。
【米村教授】 それから2点目の御質問は、すみません、2点目は……。
【石井委員】 倫理審査委員会は……。
【米村教授】 ああ、そうでした。倫理審査委員会の役割ですね。基本的には、そんなに大きな違いは出てこないと私は思っております。従来の倫理審査というのは、やはり冒頭で申し上げました生命倫理の4原則の観点から、研究の倫理的な適合性を確認するということだったわけですが、個情法のルールが指針にどんどん書き込まれると、あるいはそれが詳細にわたるようになるというプロセスにおいて、倫理審査委員会のほうで個情法上の適法性確保ということも確認しなければならなくなり、プラスアルファの任務を担わざるを得なくなっていたように思います。それがなかなか現場の倫理審査委員にとっては重荷であり、法律の専門家でもない人たちが個情法のルールをしっかり理解し、しかも倫理指針の中身、上乗せ規制の部分も理解して、目の前の研究課題が個情法違反、指針違反になってないかどうかを確認するというのは、なかなか大変だったというところがあるように思います。
そのような審査が倫理審査の場で必要ないということになるのであれば、委員としては、負担がかなり軽くなると思います。ただ、その部分の適法性確認を誰もやらないということになると、それはそれでまずいわけですので、それは別途の仕組みの中で行うことが求められるように思います。基本的には個情法は、いろいろ賛否はありますが、法人単位規制を取っていますので、法人単位で内部で行われる事業活動に伴う個情法の適合性に関する確認を取ることを求めていると認識しております。そうだとすると、そのような法人内部の手続として、それぞれの研究機関などが、自前できちんと個人情報保護法に関する適合性確保の仕組みを用意するということが本来的な姿だろうと思いますので、それは倫理審査と切り離して行うというのが本筋ではないかと思っております。以上です。
【石井委員】 どうもありがとうございます。分かりました。
【森座長】 そのほか委員の先生方から御質問の挙手もいただいておりますが、時間の都合上、個々の御質問につきましてはメールでいただくということにさせていただき、また、米村先生から御返事をいただけるということで伺っておりますので、よろしくお願いいたします。
米村先生、大変貴重な御発表、また質疑応答、どうもありがとうございました。
それでは、米村先生、この後も御同席いただけると承っておりますので、引き続き、資料2の今後の見直し検討における主な御意見と今後の議論について(案)につきまして、事務局から説明のほうをお願いいたします。
【木村安全対策官】 資料2のほうを御覧いただければというふうに思います。画面共有しているものでございます。
前回の会議、また会議の後に、参考資料2でお配りしていますように、たくさんの先生方から御意見を賜ってございます。それらについて一言一句というわけにはまいりませんが、事務局のほうで整理をいたしまして、類型別に御意見をまとめさせていただきました。そちらが資料2になります。また、まとめた内容に基づきまして、今後どのような議論の進め方がよろしいのかという点につきまして御提案をさせていただくものが、最後のページについてございます。
では、初めに2ページ、今、表示されているところについて御説明をしてまいりたいと思います。前回会議以降、いただいた意見のまず1つ目といたしまして、個人情報保護法との関係に係る御意見を賜っております。一般法である個情法に加えて、倫理指針にのっとって研究する場合について、法律と倫理指針での差分や関係性を分かりやすく示してほしい。これまでの指針改正では個情法に合わせることが中心に議論されているが、倫理指針は医療情報の取扱いだけではなく、研究の視点で納得できる指針を目指すべきではないか。法律で担保されているところは上乗せをする意味はなくなっているのではないか、指針の在り方も含めて検討が必要ではないかといったような御意見を賜っております。
2つ目の類型といたしまして、倫理審査委員会に係る御意見を賜っております。一括審査を推進するに当たり、倫理審査委員会の事務局体制や、その充実について実態調査をした上で検討すべきではないか。倫理審査において、配慮、注意すべき点などのチェックポイントがあるとよい。審査の免除については、日本では医療系の学会報告などで倫理審査を必須としている状況を踏まえ、調整が必要。指針が適用される研究か否かについて、関係者が判断しやすい記載にされたい。事務局負担や一括審査を引き受ける機関の負担が増えており、不適合の定義も考える必要があるのではないかといった御意見を賜っております。おめくりください。
3番目の類型としまして、インフォームド・コンセントなどの手続に係る御意見を賜っております。IC(インフォームド・コンセント)の手続が複雑化しているため、簡素化すべき。個情法の用語が現場では理解が難しい。外国提供の際のIC手続等も明確にすべき。また、個情法に引きずられない倫理の側面から対応できる形にしていくべき。同意説明は、研究者である医師以外の身近な者も手伝っている印象があるが、当該者も含め適切な説明ができているのか。救命・救急医療に関する御意見、適切な同意に関する御意見。また、ICのプロセスは、研究対象者と研究者の信頼関係をつくるためのプロセスだといった御意見も賜っております。
また、4番目、その他という形でくくってしまって恐縮ではございますが、用語の定義、ヘルシンキ宣言等の国際的基準との調和、研究参加者・被験者保護の観点、複雑化した指針スリム化は、被験者等の信頼にもつながることなどの御意見を賜っております。バイオバンクや学会における審査体制の充実といった意見もいただいております。
こういった賜った御意見について、今後の議論の進め方について御提案させていただくものが最後のページになります。
まず、主な意見1の個情法等との関係につきましては、個人情報保護法と指針を対比して整理の上、法律に委ねてよい部分があるか、指針の在り方を含め、検討してはどうか。特にIC手続の複雑さを指摘されているため、IC手続等の在り方を中心に議論することとしてはどうか。また、個情法との関連性が大きいため、個情委より3年見直しの検討状況について適宜御報告していただくこと。ゲノムデータや医療データに関連するデジタル行財政会議等における検討事項等について、本会議においてもフォローを行い、必要に応じ検討してはどうかと。
主な意見2といたしまして、倫理審査委員会に係る御意見でございますが、一括審査について実態把握を行った上で、1、一括審査や審査免除等の課題についての是非や、2、現場での運用を支援する方策を検討することとしてはどうか。また、倫理審査委員会における倫理審査の種別ごとの対象や、変更申請の範囲について改めて整理することとしてはどうか。一括審査については、それを必須とする研究の範囲について議論することとしてはどうか。
主な意見3、ICの手続に関する御意見につきましては、個人情報保護法と指針の関係についての検討と並行し、IC手続の進め方について検討してはどうか。IC手続の大枠を検討した後に、各委員より御提案のございました各論、AI関係ですとか、越境データなどについてですが、それらについて把握・検討してはどうか。検討に際しては、まず、現行のフローチャートを参照しながら検討を進め、概要が決まった段階で条文修正作業を実施してはどうか。
最後、その他意見4でございますが、ここで御説明いたしました主な意見1から3についての事項を御議論の上、指針の見直しの方向性が定まった段階で、他の意見についても整理してはどうかというものでございます。
先ほど申しましたとおり、先生方の御意見一言一句掲載する形にはなってございませんが、私どもの整理が足りておらず抜けているようなポイントがないか、また、今後の議論の進め方について御意見いただけますと幸いでございます。
以上でございます。
【森座長】 御説明どうもありがとうございました。
前回の合同会議では、委員の先生方から様々な御意見もいただいておりまして、事務局におきまして論点整理をしたものが、今の資料2となります。お時間限られてはおりますけれども、この論点に過不足等はないか、御発言のほう、お願いしたいと思っています。お願いいたします。
佐々委員、どうぞお願いします。
【佐々委員】 今、ちょうど米村先生もおっしゃってくださったのですけど、私は消費者の立場、被験者保護、それから、医学研究に協力するための信頼構築というところが大事だと思っています。それで、やはり前の指針にありました理念のようなものがあると、国民とか患者さんや家族は、前向きに研究に協力する気持ちになると思います。今は3つの論点があって、その後の4番目に、この3つの議論が終わってから議論するとありましたけれども、やはり理念のようなものも、初めの3つの中の続きの4番目として入れていただきたいです。研究を進めていくために、みんなが分かって信頼できる方向性を入れていただきたいと思います。
以上です。
【森座長】 ありがとうございました。先生、いかがでございますか、もしよろしければ今の御発言にコメントいただければ。
【米村教授】 全くおっしゃるとおりで、私もそのような方向で改正していただけることを、期待したいと思っております。ありがとうございます。
【森座長】 佐々委員、今の指針にも、指針の冒頭に、8つの基本方針を記載しております。けれども、細かな内容についての補足ですとか、基本方針の内容に沿った指針の記載としても、例えばインフォームド・コンセントの部分にやや重きが置かれ過ぎていたりとアンバランスの部分もあります。今、先生が御指摘いただいた理念については、この基本方針の理念を踏まえつつ、指針を読んでいくうちに分かりやすくなるように記載の整備をしていくという趣旨でよろしかったでしょうか。
【佐々委員】 ありがとうございます。また、後ほどの意見でもまとめて書かせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
【森座長】 主な意見、論点の今後の議論の1つの柱として、今の理念に関する記載の追記についても、より重点を置いて対応してまいりたいと思っています。どうもありがとうございました。
そのほか、先生方のほうから御発言、御意見いかがでございましょうか。
【森座長】 では、吉田委員、お願いします。
【吉田委員】 今後の議論についてまとめていただきありがとうございました。主な意見1つ目と3つ目でもIC手続の複雑さについて触れられていて、1つ目では、IC手続の例えば簡略化を目指すという議論になるかと思い、一方3のところでは、現行のフローチャートをどのように簡略化するのかについてしっかり議論が進むとよいと思っていいます。
先ほどの米村先生のお話にもあったように、現行の指針がかなり複雑化しているので、簡素化が適切な表現かどうかは分かりませんが、研究者に分かりやすい倫理指針であるべきというメッセージが伝わる必要があると思いました。
以上でございます。
【森座長】 ありがとうございました。
では次、長神委員、お願いします。
【長神委員】 バイオバンクのお話をさせていただきます。前回、私を含めて四、五人の委員から発言もあったかと思いますが、バイオバンクについて口頭で補足をいただきましたが特に記載がありません。恐らく先ほどの吉田先生がおっしゃったICの話の関連ですが、単純な広範同意をどこまで広げることが許されるのかというタイプの議論と、現在、将来の研究に向けて同意があることという場合とはやっぱり峻別して議論をすべきと思います。その辺をきちんと整理して、指針の中でもバイオバンクのことを書き込んでいただいたほうがよろしいんじゃなかろうかなと思います。
ICの中で研究開発事業、産業利用が明確にうたわれて利用時に審査が行われるならば、いわゆる例外(学術例外や公衆衛生例外)を持ち出さずとも、適切な同意の範疇の中で利用可能であるということはっきり打ち出せないかということが、産業界側からも類似の御意見もいただいていますし、あってしかるべきかなと思います。
また、要望としては、個情法の3年ごと見直しのことも適宜御報告いただきながらということもございましたけれども、ここでの議論もぜひ3年ごと見直しの中に、反映も含めて考えていただきながらということを、ぜひやっていただければと思います。
以上です。
【森座長】 長神委員、どうも御発言ありがとうございました。
有江委員、お願いします。
【有江委員】 今後の議論に加えていただきたいことが2点ございます。
先ほど長神委員がおっしゃったことにも関連するんですけれども、これまであまり議論になってはいなかったんですが、バイオバンクは、指針では、試料・情報の収集・提供を行う機関でありながら、研究も実施しているというような機関だと思います。研究を実施する場合はほかの研究と同じく、インフォームド・コンセントの手続とか倫理審査委員会が必要だと思うんですけれども、試料・情報の提供のみを行う場合に、ほかの研究と同じような規定を設けるのが適当かどうかというところについて、あるいは、そういうところで何か問題が現場で起こってないか、困ったことはないかというところの意見を聞きたいと思っておりまして、行政のほうで実態を本当は把握してほしいという気持ちです。現場の意見も聞かせてもらいたいので、行政のほうで実態を何とかして把握していただけませんかというところが1つ。
もう一つは、患者参画とかパブリックエンゲージメント、あるいはコミュニティーエンゲージメントと言われるようなものなんですけれども、これも先ほどの佐々委員の御意見にも関連すると思いますけれども、やはり患者さんとか研究対象者、あるいは社会との信頼関係というものはとても大事だと思います。今回のヘルシンキ宣言の改定でも、研究対象者やコミュニティとのエンゲージメントが大事な原則として掲げられましたし、既にCIOMSでは2016年から、コミュニティーエンゲージメントについては方針の1つとして掲げられておりますので、ここをぜひ指針の基本方針、この大事な理念を基本方針の1つに加えるべきかどうかについても、御検討いただければありがたいと思っております。神里委員のほうからも多分同じような意見が出ていたと思いますので、ぜひこれを御検討いただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
以上です。
【森座長】 有江委員、御発言ありがとうございました。
日置委員、どうぞお願いします。
【日置委員】 ありがとうございます。大まかなところについては特段異論はないというところではございますが、少し確認的に幾つかコメントさせていただきます。
主な意見1の方が、個人情報保護法等との関係の整理とあるんですが、関係を整理される際には、当然倫理的側面から必要なところ、医学系研究という意味での必要性があるところについては、ちょっと区分けして検討していくという趣旨が入っているものと理解しておりますが、相違があれば何かコメントください。
個人情報保護法と倫理的な側面から要求されている事項が、今コンタミしているというか、キメラのように融合している状態ではあるので、簡単に切り離せるものではないかなというのがちょっと懸念としてはありますし、あとは共同利用ですとか、そういう個人情報保護法の概念を持ち出して、一体的な組織として指針適用の上で、この条項は適用しないとかいう形になっていますので、かなり精査してやらないと、現場も混乱するということは理解の上進めなければいけないかなというふうに思っております。
3点目のところなんですけれども、現行のフローチャートを参照とありますので、参照している中には当然、先ほど来先生方がおっしゃられているバイオバンクですとか、必ずしもこの指針を適用するとうまく機能しない部分というのは、当然ピックアップされるものと理解しております。これも違うなら違うとおっしゃっていただきたいですが、その部分を実際に研究を想定した上で、具体的にどのような形でスタックポイントがあるのかというのを洗い出しながら進めていただきたいと思います。
以上でございます。
【森座長】 日置委員、どうも御発言ありがとうございました。
花井委員、どうぞお願いします。
【花井委員】 ありがとうございます。花井です。
直接項目としては、こういったことというのは必要かなというふうに思うんですが、毎度思いますのは、結局ICをして信頼関係等々言われるんですけど、結局そういうことをするためには、研究する医療機関のリソースが決定的にないということがあって、問題なのはそのリソースが決定的にないことによって簡易化するという話だと本末転倒になるんですけれども、しかし、現実は結構厳しくて、やっぱりまともなICを取っていくということに非常に人がいないとか、お金が足りないとか、そういうことが起こっていますので、今回の指針にそのままというわけにいかないんですけど、やはりこれを遵守するために必要な体制というものが、基本的に具体的に言えば、医学系研究を行う医療機関が具備すべき体制はこういうのが望ましいということを何か明示的に書いたほうが、逆に言えばそこに予算を投入するのは別のセクションかもしれませんけど、要するに研究を行うような医療機関は最低この程度のことは必要だという機能面、もしくはリソース面のところを何かの形で出しておくというのは1つありかなと思って、そうじゃないといつまでたっても、衰弱している医療機関が研究するということにおいて、この指針を持ってちゃんとしていこうということが阻害されるという現実があるので、ちょっと何かそういう趣旨のことが最後の何かに盛り込むとか、そういうことができないかということをちょっと提案したいと思います。
以上です。
【森座長】 花井委員、どうもありがとうございました。
それでは、多くの委員の先生方から貴重な御意見をいただきまして、どうもありがとうございました。本日いただきました御意見も含めまして事務局で整理を行います。
本日の資料2の記載の過不足につきましては、御欠席の委員も含めて、会議終了後から1週間程度の間、御意見を承りまして、御意見の提出方法の詳細につきましては、事務局のほうから後日、御連絡させていただくということとなっております。
本日の議事は以上でございます。事務局からお願いいたします。
【木村安全対策官】 それでは、事務局でございます。先ほど途中で時間がちょっと不足した関係で、米村先生への御質問を途中で打ち切りさせていただきました。引き続き御質問ある方は、事務局にメールでお寄せいただきまして、私どもの方で集約をして、米村先生に御回答いただいた後に、皆様にお返しをしたいと思います。
また、資料2につきまして、何か追加の御意見等ございましたら、メールでいただければ、私どもで整理をしてまいります。
【森座長】 それでは、本日の議事は以上となります。御出席どうもありがとうございました。これにて閉会させていただきます。米村先生、本日はどうもありがとうございました。
【米村教授】 ありがとうございました。
―― 了 ――
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