議事
【安藤室長】 それでは、委員の皆様方もそろわれましたので、始めさせていただきます。私、ライフサイエンス課の生命倫理・安全対策室長をしております安藤と申します。よろしくお願いいたします。本日はお忙しい中、ご出席いただきましてありがとうございます。
皆様ご案内のとおり、5月20日の生命倫理・安全部会において、昨今のヒト遺伝情報をめぐる状況の変化に対して必要な対応を取るという観点から、本小委員会の設置が決められたところです。
「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会」の主査をまず決めなくてはなりませんが、部会の運営規則上、部会長から指名をいただくということとなっております。事務局で部会長と相談したところ、岐阜大学の黒木先生にお願いしてはどうかという話もあり、黒木先生に主査をお願いして、進めることをご提案させていただきたいと思いますが、いかがなものでございましょうか。
(「賛成」との声あり)
【安藤室長】 それでは、今後の進行を黒木主査にお願いいたします。
【黒木主査】 岐阜大学の黒木でございます。よろしくお願いいたします。
私は、今、岐阜大学の学長というポジションにおりますけれども、もともとは東大医科研で、がんの研究をしておりました。前のゲノムの委員会のときも委員をしておりました。そういう関係で、今日、ご指名を受けたのではないかと思っております。
それでは、ただいまから、第1回の「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会」を開きたいと思います。
第1回の小委員会の開催ということですので、委員の先生方から、簡単にごあいさつをいただきます。位田先生からお願いできますか。
【位田委員】 京都大学の位田でございます。私も、前より指針の作成にかかわっておりましたので、よろしくお願いいたします。
【小幡委員】 上智大学の小幡でございます。私も同様で、前、ゲノムのほうに出席しておりました。よろしくお願いいたします。
【鎌谷委員】 東京女子医大の鎌谷です。どうぞよろしくお願いいたします。
【具嶋委員】 バイオフロンティアパートナーズの具嶋です。どうぞよろしくお願いいたします。
【辻委員】 東京大学の辻でございます。神経内科が専門でして、ゲノム研究もやっております。よろしくお願いいたします。
【富永委員】 大変長い組織の名前でございますけれども、愛知県健康づくり振興事業団の健康科学総合センターのセンター長を務めています富永と申します。私の専門は、がんの疫学でございます。
【豊島委員】 理化学研究所遺伝子多型研究センターの豊島でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【橋本委員】 日本医師会常任理事の橋本でございます。長い間慈恵医大の内科におりまして、この4月に日本医師会の執行部が変わりました新任です。よろしくお願いいたします。
【福嶋委員】 信州大学の福嶋です。私の専門は臨床遺伝ということで、遺伝の情報をどのように医療の場で生かしていくかという遺伝カウンセリングを中心にやっております。よろしくお願いいたします。
【堀部委員】 中央大学法科大学院の堀部です。現在、個人情報保護をどうするかが議論になっておりますが、高度情報通信社会推進本部で、日本の個人情報保護のあり方について具体的提案を示しましたときの座長を務めました。それが今日、こういう形で各方面で議論になっていますことは大変喜ばしいことだと思っています。よろしくお願いいたします。
【黒木主査】 読売新聞の南条委員は本日欠席という連絡をいただいております。それから、厚生労働省と経済産業省から関係の方にご出席いただいております。よろしくお願いいたします。
まず、文部科学省の丸山大臣官房審議官にごあいさつをいただきたいと思います。
【丸山審議官】 審議官の丸山でございます。第1回目の「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する小委員会」ということで、一言、ごあいさつ申し上げます。
委員の先生方皆さん、お忙しい中、この検討会の委員へのご就任をいただきまして、誠ににありがとうございます。それから、今日、第1回目に多数の先生方にお集まりいただきまして、御礼申し上げます。
ご案内のとおり、昨年4月にヒトゲノムの全塩基配列が解読されて、ゲノム研究は新しいステージに入ったのではないかと思います。今後、研究の成果が、病気の予防や治療方法の開発ということで、国民なり社会に還元をされていく時代に入ったと認識しております。文部科学省といたしましても、厚生労働省、経済産業省などの関係府省と連携しながら、このヒトゲノムの研究と倫理的な配慮が必要とされる研究につきまして、これまで倫理指針を策定するなど、取扱いの適正化ということを進めてきてまいりました。
他方、最近では、ゲノム研究の進展によりヒト遺伝情報の利用が広がる中、人々のこうした研究の倫理面に対する関心が非常に高くなってきているというのも事実です。昨年10月には、ユネスコにおいて「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」が採択をされ、各国とも、ヒト遺伝情報の適正な取扱いを確保するための措置を講ずることが必要だという考え方が示されました。それから、国内を見ますと、昨年5月に個人情報保護法の制定を受けまして、昨今、特に個人情報が、ヒト遺伝情報ではございませんけれども、漏洩問題というのが大きな社会問題となり、個人情報をきちんと取り扱うということが非常に重要だという認識が高まっていると我々も理解をしております。ヒト遺伝情報の適切な取扱いを図って、安心して、この研究が前に進むということが一番重要ではないかと認識をしております。
たまたま去年の秋に広島県の熊野町で実施しているヒト遺伝情報の関係の研究で、私自身も厚生労働委員会に呼び出されましたけれども、現場できちんと情報が保護されることがないと、結果として研究が遅れを取るということにもなりますので、非常にこの問題は重要ではないかと考えております。
この委員会は、昨今のゲノム研究等をめぐる動きを踏まえ、研究機関等における必要な対応は何かということについて、改めて今日的な視点から検討していただくという趣旨だと理解しております。委員の先生方には、それぞれのお立場から忌憚のないご意見を承りまして、黒木主査のリーダーシップにより、実り多い審議になることを期待して、事務局から一言、お願いとごあいさつとさせていただきます。よろしくどうぞお願いいたします。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。それでは、議事に入る前に資料の確認を事務局よりお願いしたいと思います。
【事務局】 資料の確認をさせていただきます。本日は資料1−1から1−7までの7点です。このほか、参考資料といたしまして、緑色の紙フォルダがあります。この中には、本小委員会での検討に関係します指針や法令等をまとめております。このほか、机上配付資料といたしまして、堀部委員よりお預かりした「個人情報保護法の考え方」をお配りさせていただいております。以上です。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。もし不足の点がありましたら、事務局におっしゃっていただきたいと思います。
本日の議題に入りますが、最初の議題は、この小委員会の運営方法であります。まず、事務局から資料の説明をお願いいたします。
【事務局】 資料1−1と1−2についてご説明させていただきます。
まず資料1−1ですが、冒頭、室長の安藤より申し上げましたとおり、5月20日の生命倫理・安全部会において、本委員会の設置が決定されました。そのときの資料です。
続きまして、資料1−2です。「ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等の検討に関する小委員会」、この運営についての案です。
まず、1.会議及び会議資料の公開について−ということで、この委員会の運営についての考え方をまとめています。読み上げます。
「小委員会の会議及び会議資料は、原則として公開する。ただし、審議の円滑な実施に影響が生じるものとして、小委員会において非公開とすることが適当であると認める案件を調査審議する場合は、非公開とする」
原則公開とするということです。
次に、2.議事録の公開について−です。
「小委員会においては、原則として会議の議事録を作成し、各委員の了解を得た上で、これを公開する。ただし、1のただし書きの場合には、議事概要を公開する」
ということです。
以上です。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。公開とするということでよろしいでしょうか。それでは、公開とするということで今後の委員会も進めたいと思います。
その次に、議事(2)に入ります。ライフサイエンス研究におけるヒト遺伝情報の取扱い等に関する検討の最初の問題であります。そのバックグラウンドと今後のスケジュールにつきまして、事務局からご説明いただきます。
【安藤室長】 資料1−3です。
背景といたしまして、これまで国内外で、遺伝情報をめぐるいろいろな動きがあるということを紹介しています。科学技術会議生命倫理委員会における基本原則ができたこと。あるいは文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省によってヒトゲノムに関する倫理指針が作成されていること。あるいは平成15年、個人情報の保護に関する法律が策定されたこと。あるいは同年10月、ユネスコの総会において、ヒト遺伝情報に関する国際宣言が採択されたといったようなことです。
これらを踏まえますと、最近の状況として、1つは、ヒト遺伝情報等に関する研究、ゲノム解析等の研究の進展が見られるのではないかということ。あるいは国際状況としては、ユネスコで国際宣言がまとまるなど、これらについての関心が高まっているという状況にあるのではないかといったこと。また個人情報保護に関する法律といったこと、その中で附帯決議、後ほど触れさせていただきますが、こういった動きも十分配慮する必要があるのではないかということです。
この委員会における検討は、そういった最近の状況をもとに、どのような対応をしていくのか検討することを基本的な認識とした上で進めていきたいと思っております。
最後にスケジュールですが、秋口をめどに、研究者等が遵守すべき事項をできるだけ内容が具体的になるような形にしていきたいと思っております。それを受けて、法律で担保すべきものがあるのかどうか、法律の必要性の議論を含め、平成16年中をめどに一定の結論をまとめたいと思っております。そして、関係省の厚生労働省、経済産業省両省においても、この問題に関して検討が進められると承知しておりますが、連携を図りながら、必要な場合には合同で委員会を開催することも考えて検討を進めていきます。以上です。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。背景の中の(2)の「最近の状況」については後で詳しくご討論いただくことになりますので、そのほかの部分で何かご意見はありますでしょうか。背景に関しては、前のゲノム指針ができてから、いくつかの新しい、例えば個人情報保護法とか、ユネスコの国際宣言などがあったということです。
それから、今後の進め方に関しては、秋口というのは9月か10月だと思いますけれども、それをめどに、まず研究者側が遵守すべき事項を討論して、その上で個別法の必要性を議論する。そして今年中に大体の指針の一定の結論を得て、それを来年になってからパブリックコメントを行う。――パブリックコメントは1カ月ぐらいでしょうか。
【安藤室長】 大体、その程度でございます。
【黒木主査】 1カ月ぐらいの間にパブリックコメントをいただいて、最終的なものにするということになります。
同時に、関係省庁である厚労省と経産省のほうでも進めますので、前回のゲノム指針と同じように、合同の委員会とするということも当然考えられると思います。
今後のスケジュールについて、何かご意見はありますか。
大体何回ぐらいの委員会を開催することになるんですかね。必要に応じてということになると思いますけれども。
【安藤室長】 月1回ぐらいは最低やらないといけないと思っていますが、議論の進捗によっては、もう少し無理をお願いすることになるかもしれません。
【黒木主査】 10月ぐらいまでに大体の問題点を洗い出して方針を決めるということになりますので、非常にタイトなスケジュールで、先生方にはお忙しい中、たびたびこの委員会に出席するということになると思いますけれども、よろしくお願いいたします。
それでは、その次に、研究をめぐる状況の変化を踏まえた検討に移りたいと思います。先ほどの資料の1(2)のところにありましたように、研究の進展とか、国際状況とか、あるいは個人情報保護といったようなことが進んでまいりましたので、その3つの視点でどういうふうに考えるかということについて、事務局で資料を用意していただいておりますので、その資料についてまずひととおり説明していただいて、その後、ご意見をいただきたいと思います。では、事務局のほうからお願いいたします。
【安藤室長】
(資料1−4、1−5、1−6、1−7に基づき説明)。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。全体のどういう点が問題になるかということがほぼ明らかになったと思います。
そこで、まず皆さんのご意見をいただく前に、ヒトゲノム・遺伝子解析の現場にいらっしゃいます鎌谷先生と辻先生から、まずご意見をいただきたいと思います。研究の進展を踏まえ、指針の見直すべき点がありましたら、最初にご指摘をいただければと思います。
【鎌谷委員】 東京女子医大の鎌谷です。我々、具体的には4年ぐらい前に、日本人の1,000人以上のボランティアから遺伝子をインフォームド・コンセントに基づいて採取し、薬剤に関係する200以上の遺伝子、5,000以上のSNPについて解析する研究を、製薬協の任意団体のファルマスニップコンソーシアムという団体と、理化学研究所の中村祐輔先生のところと共同して行いました。それはガイドラインが出る前に始まったんですけれども、その前の厚生科学審議会などで検討された指針を参考にして、ガイドラインよりちょっと厳しかったと思うんですが、それはスムーズに1,000人以上集まりまして、ゲノムデータもすべて出て、論文も発表しております。
問題点はあまりなかったんですけれども、何人かやはり途中で撤回がありました。そのときは、連結不可能になっているときは撤回しても連結ができないから不可能であり、連結をまだ不可能にしていないときには、それを廃棄しました。
それからもう一つは、最近、これもここに書いてあるんですけれども、我々のところは、関節リウマチでは非常に大きい、多分、世界中で一番大きい施設なんですね。4,500人の大体1,000項目以上のデータを蓄積しているJ-ARAMISというスタディーをやっており、それが3年ぐらい前です。1年ぐらい前からは、そのうちの1,200〜1,300人ぐらいのゲノムをインフォームド・コンセントを取った後に採取しました。それは連結可能だったんですけれども、撤回するということがありました。その場合は連結可能ですから、それを廃棄しております。そういう例が3つか4つぐらいあるんですね。
これにはものすごいお金がかかりまして、これは非常にお金がかかる研究だなということがはっきりわかったんですね。1つは、インフォームド・コンセントを取るにも、専門の遺伝カウンセリングの教育を受けた福嶋さんのところで受けたんだと思うんですけれども専門の看護師さんを雇いまして、一人ひとり、1時間ぐらいかけてやったんですね。その前の1,000人以上のときも、やっぱりすごく長くかけて、専門の人がやりましたので、非常にお金がかかりました。それから、遺伝カウンセリングを受けたいと事後に言う人は、ほとんどいませんでした。何人かいましたので、それはちゃんとカウンセリングを行いましたけれども。ただ、問題は我々のところはそれでよかったんですけれども、これから遺伝カウンセリングをやるということになると、遺伝カウンセラーが非常に不足すると思いました。アメリカでは3,000人以上の遺伝カウンセラーがいるし、しかも遺伝学とか、人類遺伝学とか、それに基づく統計学というのを非常によく教えられているんですけれども、日本ではあまり教えてないので、多分、臨床の先生方が遺伝学をちゃんと知らないことは間違いないと思うんですよ。だから、結局、遺伝子が出ても、それが自分にどういうふうに影響するかということをちゃんとアドバイスできるかどうかが疑わしいと思うのです。そうすると、カウンセラーを教育して、それができるようにするか、あるいは臨床の先生方にもう一回教育をし直すかということが必要だと思いました。
特に、もう一つだけ言いたいんですけれども、ガイドラインの対象とするものなんです。ずっと見ていると、遺伝情報となっているんですけれども、普通、諸外国で、大体、遺伝というと、ジェネティックとか、ジャームラインとか、ヘリタブル、インヘリタブルとか、ゲノムとか、ものすごく厳密に区別しているんですね。ところが、日本では遺伝ということで済ましてしまっている。このユネスコの宣言にも、4ページに、この指針が対象とするのは、ヒューマン・ジェネティック・データとなっているんですけれども、この説明の中で、ここだけヘリタブルとなっていると思うんですね。これは非常に重要なことで、ここの訳は「遺伝的」と訳されているんですけれども、意味はまったく違っていて、ジャームラインであるということを宣言していると思うんですね。そこで、このガイドラインとか、いろいろな指針の対象となるものが、遺伝子ではなくて、ゲノムでもなくて、ヘリタブル・キャラクタリスティックスであると。結局、プロテオームでも何でも、ヘリタブルであれば、それはジェネティック・データなんですね。遺伝子を解析しても、ヘリタブルでなければ、それはジェネティック・データではないというので、この規制の対象外だと思うんです。多分、そういうところも臨床医もあまりわかっていないし、研究者もほとんどわかってないというところに、私は最大の問題点があると思うので、やっぱり、こういう研究を進める上では、教育とか、広報がものすごく大事じゃないかと思うんですね。欧米では10%ぐらいの研究費は、そういう倫理問題とか、広報に使うということは了解されているんだけれども、日本では、そういうことが非常におろそかになっているので、そのあたりを今度の指針の中で盛れたらいいんではないかと思いました。
私の経験からは、私どもの臨床医もそうなんですけれども、大体、臨床医の遺伝に関する知識と洞察力というものがものすごい不足していると。研究者も、もちろんそうなんですけれども、もう一つ、患者さんとか、日本国民も。例えば、これから言われるのは、「あなたは0.3%の確率でがんになりますよ」と言われたときに、確率ということを実感を持って受けとめられるかどうかという問題があると思うんですね。日本人で非常に劣っているのは、統計学というのがほとんど教育されていないという現状にあるので、多分、そういう教育の問題がこれから大きく影響しているのではないかと思いました。
あとは細かい問題はいくつかあるので、後で申し上げたいと思います。以上です。
【黒木主査】 今、いくつか非常に重要な問題が指摘されたわけですけれども、どうぞ、どなたか、それについてご意見がありましたらおっしゃってください。
【具嶋委員】 SNP(single nucleotide polymorphism)がアミノ酸変異を伴うことをSAP(single amino acid polymorphism)と言われています。今のところ、SAPについてはDNAのSNP解析から推測するか、タンパク質を単一に精製し、分解して質量分析を行うことにより同定されています。血清中の、組織中の何千と存在するタンパク質を質量分析で網羅的に解析する、いわゆるプロテオーム解析では、翻訳後の糖鎖の修飾もあり、現在の技術レベルではSAPを見つけることは不可能でしょう。
今、プロテオーム情報をヒト遺伝情報と同レベルで個人遺伝情報として取り扱うのは無理があると思います。プロテオーム研究者は、ヒト組織を用いていることから当然ながら倫理審査委員会に諮り、インフォームド・コンセントを得て倫理面には十分に配慮して研究しているはずです。
【鎌谷委員】 それはアミノ酸だけではなくて、例えばABO型の血液型というのがあります。電気泳動度の違いだけでも、これはジェネティック・データだと思うんです。それがもちろん、あまり差別とか、病気とか別段ないのであれば、私は、問題は起こりにくいと思いますけれども、やっぱり、それの電気泳動度で、病気か、病気でないか、わかるのであれば、明らかにそれはジェネティック・データであると、ここには書いてあります。それはヌクレオチドではなくて、まだ、ほかの遺伝的な解析によるから、結局、問題は遺伝子とか、ゲノムとかというのではなくて、ジャームラインであるということだと思うでんす。そのジャームラインということは、研究者にもわかってないし、国民にもわかってないというところが、非常に大きな問題で、個人情報の中には、もちろん遺伝子情報は個人情報なんですけれども、その中でも、ヘリタブルであるかどうかというのは、特別に保護されるべきものではないかと私は思います。ただ、それが決定論じゃなくて、結局、それによって、その人のいろいろな性格とか、そういうものが遺伝法則という確率関数によって決まっているというところは、遺伝情報が非常に特別であるというのが基本だと私は考えています。
【黒木主査】 どうぞ、ほかの方。
【福嶋委員】 よろしいですか。鎌谷先生からいくつか重要なことを言われて、私もまったく同感です。
まず遺伝情報といった場合、その定義をしっかりする必要があるなと思います。
それと、この情報を扱うときに、鎌谷先生がおっしゃったように、もちろん遺伝カウンセリングを行う技術を持っている人が研究協力を求める、その説明する際に非常に役立つ、そういう人材が求められるということは確かだろうと思いますが、私たち、普通、遺伝カウンセリングというのは、これは評価の定まった遺伝情報を医療の場で使うときに、遺伝カウンセリングというふうに言っているんですね。ですから、インフォームド・コンセントを得るときの説明者、説明する行為を遺伝カウンセリングとは言わないほうがいいのかなと思います。
それと、日本国民全体について、教育というのは非常におろそかになっていて、遺伝の正しい知識がないままに、いくら同意を与えて、研究協力を求めても、土台が崩れてしまうことがあるので、ぜひ日本国民全体が、こういう問題に対して理解する力を高めるような活動、それが研究の一環として必ずやるようにするという指針ができればいいなと思います。
【黒木主査】 どうぞ、ほかにご意見はいかがですか。
【豊島委員】 福嶋先生にちょっとご質問したいんですけれども。
そうしたら、遺伝病に対する遺伝病のカウンセリングと遺伝カウンセリングとは区別する必要があるのか、ないのかが問題ですね。例えば簡単に言いますと、評価の決まってないものでも、何かインフォームド・コンセントを受ける人が不安に思ったときに聞かれることに対して、遺伝学全般に対する問題として受け取って、どういうふうにカウンセリングするかという問題と、それから遺伝病自体に対するカウンセリングと少し違うかもしれない。それをどういうふうにするか。
【福嶋委員】 そうですね。ですから、説明の中身で、「遺伝の情報というのは、こういう意味があって」というようなジェネティック・エデュケーターという形であればいいかもしれませんね。やはり医療で行われる遺伝情報のやり取りということと、これからスタートする研究に協力を求めるときのコミュニケーションというのは、やはり分けて考えたほうがいいのではないかなと思います。
【豊島委員】 というときに、いや、今、遺伝カウンセリングというのは、そうしたら、遺伝病に対するカウンセリングというふうに一応、基本的には決められていると?
【福嶋委員】 そうですね。ユネスコの定義も、「ジェネティック・テスティングにまつわる」と書いてあるんですね。ジェネティック・テスティングということは、臨床検査ということで、ある目的があって、評価が定まっていて、こういう結果が出たらこういうことが予測されるという、ジェネティック・テスティングで、ジェネティック・リサーチと書いてないんですよね。ですから、ある程度、結果が得られた後、行われるのが遺伝カウンセリングで、そうではないリサーチに関してのものは、また別の用語でやったほうがもちろん、そういう機能は大事なんですけれども、そうしたほうがいいかなと思います。
──もちろん、そういう機能は大事なんですけれども、そうしたほうがいいかなと思います。
【鎌谷委員】 テスティングの前に、ビフォー・アンド・アフターと書いてあります。
【福嶋委員】 ですから、ジェネティック・テスティング、評価の定まっている臨床検査をやる前とやった後に必要と。ですから、それは医療なんです。そうじゃなくて、まだどうかわからないけれども、協力していただけませんかというときには、まだテスティングではないと思うんです。ですからリサーチに協力する前と後というのは、もちろん必要なことですけれども、それはジェネティック・カウンセリングではないんじゃないかなと。
【位田委員】 今のユネスコの宣言の解釈というか、意味なんですけれども、先生がおっしゃったような遺伝病に関する遺伝カウンセリング、とは限っていなくて、宣言では医学研究または科学研究の中で、個人もしくは家族のジェネティック・テストをやる場合、これについてジェネティック・カウンセリングが要るという趣旨です。日本では確かに遺伝学検査というのは、評価の定まった遺伝病に関するカウンセリングかもしれませんが、ユネスコのジェネティック・テストというのは必ずしもそこには限定されていない。したがって、科学研究まで含むので、遺伝研究をやろうとしている場合には、もちろん必要に応じてということですけれども、遺伝カウンセリングが必要だと。そういう認識なんです。
【福嶋委員】 遺伝カウンセリングで行われるようなコミュニケーションが必要だということは十分了承しています。
【位田委員】 ええ。だから、遺伝カウンセリングと呼ぶかどうかという名称の問題はあるとしても、ユネスコの宣言の中身はそういう幅広い意味でのカウンセリングだということでご理解下さい。
【黒木主査】 位田先生、ユネスコの中にはプロテオームがはっきり明示されていますけれども、これはどういう考えで。
【位田委員】 先ほどお二人の先生からお話があったように、プロテオーム解析をやった場合に遺伝的特徴があらわれる可能性があるので、そういう可能性がある場合に関しては、この宣言の対象にしようと。確かに宣言の名前は、ヒト遺伝情報ですけれども、プロテオームというのは、それにかかわる解析になりますので、遺伝情報だけに限定しまうと、「じゃあプロテオームだったらいいのか」という話になりますから、将来的に研究がどんどん進んでいくということも含めて、ここで対象にしていると、そういうことです。
【鎌谷委員】 結局、ヘリタブルかどうかということですね。
【位田委員】 そうですね。もちろん。
【鎌谷委員】 そのユネスコの宣言が対象とするヒューマン・ジェネティック・データ、遺伝情報というのは、すなわちヘリタブルなものを言うと書いてあるから、結局、遺伝情報ということになると、プロテオームの中でヘリタブルなものを対象とするということですね。
【位田委員】 そうです。すみません。何度も発言して申しわけないんですけれども、先ほどおっしゃった遺伝情報というのは、ヘリタブル・キャラクタリスティクスだとおっしゃったんですけれども、3省共通の倫理指針も、ヘリタブルということで扱われてきていると思います。黒木先生が体細胞変異は外すんだと主張され、特にがんの研究なんかは、これに当たらないというご意見を出されていたので、それは外して、ヘリタブルだけが倫理指針の対象だと理解しています。
【黒木主査】 そうですね。前のゲノム指針のときの1つの大きな論点は、すべての遺伝子の変化がヘリタブルではないということを、どういうふうに明らかにして、文章にするかということもあったと思います。
【鎌谷委員】 治療の前に、大分前に出ました遺伝子治療の部分では、ジャームラインの訳が「生殖細胞」となっていたんです。それは本当は違うんです。だから、ジャームライン遺伝子=生殖細胞遺伝子ではなくて、ヘリタブルというふうに言って、そこのところをきちんと書かないと何を対象にしているかわからないので。それは現実に、我々のところに倫理委員会に提出される計画の多くが遺伝子発現なんです。ソマティックなものについて、これも対象とするべきかどうかというのは、どこの大学でも、今、ものすごく多くなっているから、その辺ははっきり、これはヘリタブルなものを対象とするというふうに宣言したほうが私はいいように思います。修飾にしても、プロテオームが修飾を受けるところでも、やっぱり「糖」がつくところでも、それもヘリタブルなものによってコントロールされているときは、やっぱり対象にするべきだし、その辺、何がそこの分かれ目かということをはっきりしないと、危険を訴える人は、やっぱり、それは危険だということになるし、守ろうとする人も、どこで守っていいかわからないということになると思うんです。はっきりと書かれていないように私は思ったんですけれども。一時、生殖細胞系列と書いていて。
【黒木主査】 生殖細胞系列と体細胞系列と。体細胞系列のほうは、まあ、わかってもらえるかと思うけれども、生殖細胞系列のほうは非常に誤解を生みやすい言葉であったのは確かだと思います。
【豊島委員】 今、がんが出ましたので、がんの場合は、体細胞系列の分は、大体、ヘリタブルと考えて、がん細胞系列に特異的なものはインヘリタブルと考えている。だから、がんの場合に、ほとんどがん細胞の変化で、体細胞には変化がないものを検査しているので、基本的にはインヘリタブルのものと、そういうふうに考えています。だから、あれは、比較的はっきり分かれていると思うんです。
それからもう一つ、ここには漠然と書いてあるんですけれども、提供者が個人情報を自分で得たいときには、その個人の判断というふうに書かれているような感じがするんですが、この場合に、決定因子の場合は、要求されたら大体説明してもいいと思うんです。先ほどから福嶋先生が言われているような病気のほとんどにきれいに関連していると見てもいい。そうじゃない、いわゆる生活習慣病なんかの場合には、これは相当きっちりと研究が終わった後でないと、むしろ言ってはいけないことというのはかなりあると思うんです。むしろ言うと混乱するだけ。途中の段階だと。そういうものに関してどう扱うかということは、やはり一応議論しておかないといけないのではないかなと思います。
【鎌谷委員】 我々は、連結可能でやった場合は、もし開示を求められたら、開示をしなければいけないと決めています。今のところ、開示をしてくれという要求はありません。ずっと前に連鎖解析というメンデリアンのことをやったことがあるんですが、そのときは、開示してくれというふうに非常に言われまして、それは開示しました。そのときに、遺伝的情報と家系情報を見て、本当にリスクを正しく計算できる臨床医がいるかというと、私は非常に厳しい問題と思います。まだ発症していない人に、この人の発症確率はどれぐらいであるかということを正しく計算できる医師は、私はほとんどいないと思いますけれども、福嶋先生、どう思われますか。
【福嶋委員】 そのとおりです。
【鎌谷委員】 だから、今度のことでも、リスクがどれぐらいあるかといったときに、ある個人が、一つの多型を持っているときに、あなたの発症確率はどれぐらいあるということをきちんと計算して言える臨床医は私は非常に少ないと思います。だから、開示を求めるときに混乱するというのは、その点にあるわけです。
【黒木主査】 あと、鎌谷先生が指摘をされた中で、遺伝学教育の問題があって、大体、中学・高校で遺伝の教育は、日本は非常に遅れているという問題がありますし、医学部に入ってくる人の中で大部分の人は化学と物理だけで受験してきて、メンデルを習ったことがない人が医学部に入ってくる。医学部に入ってからも、遺伝学のきちんとした教育が必ずし、どこの大学でも行っているというわけではないという現状があると思います。
そういう問題については、また後ほど取り上げるといたしまして、もう一つ指摘されたのは倫理の問題について10%ぐらいのお金を、ということをおっしゃっていましたが。
【鎌谷委員】 アメリカでは、ゲノム研究のすべての費用の10%は、倫理問題とか、広報とか、教育に使わなければいけないという一応、コンセンサスができているんですよ。それは、彼らもやっぱりよくわかっていて、こんなことをやっても、実施している臨床医も、対象である試料等の提供者も、多分、本当のことはわからないということがわかって、これはよく教育しないと、本質的なことはわからないということがわかっているからだと思います。日本は、だから、そういう措置が取られていないので。
【黒木主査】 この問題は、別に指針とか、個別法の中に入るかどうかの問題は別といたしまして、その重要性を指摘しているということにとどめたいと思います。
【鎌谷委員】 あともう一つ、国際協力なんですけれども、それも例がありまして、我々のところに、女子医大の病院ですけれども、2つ、アフリカの小さな国と協力して、その1つはマラリアに関係する遺伝子と、もう一つはマラリアの薬に関係する遺伝子を取りたいという計画が出されました。これは、ガイドラインそのものでは、とても許可ができないような、日本のガイドラインよりは厳しくなきゃいけないということ、そんなふうにはなってなかったんです。ただ、インフォームド・コンセントはちゃんと取られているみたいで、しかも、向こうの国の厚生省の同意の文書が出たので、やっぱり、そういうことは国際協力だし、その国にとっては非常に重要なことだからというので、我々は、私は倫理委員会の委員ですけれども、それは許可しました。そういう例もあって、国際協力という点では、ちょっと参考になるかもしれません。
【黒木主査】 それでは辻先生から、ご経験などを踏まえてお話しいただければと思います。
【辻委員】 鎌谷先生のご発言と大分オーバーラップするかもしれませんけれども、私の現状認識としては、ヒトゲノムの配列の解読の終了を受けて、飛躍的にいろいろなものが変わってきていると思います。
1つは、研究面から見ても、極めて大きな広がりを持ってきているように思います。つまり、特定の研究者だけでやるというのではなくて、多くの研究者が、さまざまな研究機関で、幅広い研究が展開されていくのだろうと思います。つまり、ゲノム研究のすそ野が非常に広がるのではないかと思います。
もう一つの認識としては、診療と研究が連続的につながってくるといいますか、研究と診療の境界がはっきりしなくなるような場合がたくさん出てくるように思います。診療と研究がかなり密接につながった形で、連続的な広がりを持ってきているというか、そういう部分が今後、大きくなってくるのではないかなと思います。
研究の幅が広がってきているということから、多施設共同研究といいますか、オールジャパン的な研究体制の構築の必要性、あるいはオールジャパンにとどまらず、さきほど鎌谷先生からご発言がありましたが、国際的なコンソーシアムを形成するとか、そういったことが必須になってきていると思います。日本でも、かつては、多施設共同研究というのは、なかなか進展しなかったというところがありましたが、最近は、こういったことに積極的に取り組もうという動きになってきていると思います。
先ほど、文科省のほうから提示された資料の中にも入っていましたけれども、今の3省ガイドラインの体制は、多施設共同研究に対する審査に関して、うまく機能できない状況が起こっているように思います。現状では、中核機関の倫理委員会で審査をいただく。その上で、さらに協力機関でも審査をいただくという形になっています。だけれども、これらの審査は、それぞれ個々にばらばらに行われることになりまして、実際、すべての協力機関の倫理委員会を全部、きちんと通すためには、実は膨大な時間がかかっているのが現状です。研究の進捗からすると、実際、それは大変大きな足かせになっているように思います。
それから、海外との共同研究は、先ほどのマラリアの例もそうだと思いますけれども、やはり日本の3省ガイドラインを適用する、あるいは厳しいほうを適用するというようなきれいごとでは、とても現実にはスムースには進まないところがあるし、各国の倫理観というものもさまざまですよね。ですから、日本人が考える倫理感というものを押しつけても、うまく機能しない場面というのはたくさんあると思います。つまり、多施設共同研究なり、国際的な枠組みの多施設共同研究を行う場合に対して、どのような形で研究計画を審査、承認するかという仕組みについては、私はもう少し工夫が必要であろうと思います。
それから、さきほどより、遺伝カウンセリングと研究の説明ということで話が出ていましたけれども、そういうインフラがほとんどできていないと思います。大規模研究を行うにあたって、インフォームド・コンセントを得るときに、何かありましたら、自分たちはカウンセリングなり、説明なりをやりますよということになってはいるわけですけれども、それを実際に提供できるインフラというのは、実はほとんど整備されていないのではないかと思います。それは福嶋さんがおっしゃったように、診療としての遺伝カウンセリングとは随分違う次元のものだと思います。むしろゲノムリサーチコーディネーターとか、ゲノム研究コーディネーターとか、そういうふうな役割の方々なり、組織というものが必要であると思います。そういったものをきちんと整備しているところは、多分、極めて限られていると思います。今後、研究が非常に大きな広がりを持ってくるということからすると、例えば大学病院であるとか、大きな研究機関では必須のことになるだろうと思いますが、そういうインフラの整備というのをちゃんとやっておかないと、なかなか理想論だけでは動かないと思います。現実に何が起こっているかというと、いろいろな用件をすべて満たすように努力すると、膨大な時間がかかってしまい、結果的には研究の進捗が遅くなってしまう、一生懸命、そういったことを遵守してやろうとすると、現実には障壁となるところが多過ぎるということを認識する必要があると思います。
それから、教育・広報の問題は、私も大切なことであると思っています。いろいろな見方があるかと思いますが、今は、ゲノム研究をしたら何でもわかるというふうな、あまりにもバラ色で語られているように私は思います。現実には非常に難しいわけでして、みんなが一生懸命努力をして、また国民の方々からも協力をいただいて、果敢にチャレンジしていかないと、何も達成できないというわけで、そういったことをよく理解していただく必要があると思います。
遺伝学の教育の必要性が先ほどから指摘されていますが、これは当然のことだと思います。今後は、ゲノム解析の成果と診療とのつながりがより密接になってくると思います。つまり、医師が遺伝学をよく知っている必要もありますが、逆に、それぞれの臨床分野の病気のこともよく知っていないと成果を医療に還元できない。遺伝学の専門家のほうは、多分、もっともっと広く疾患のことも知らなければいけないだろうし、逆に診療の最前線にいる方々は、遺伝学も知らなきゃいけないというか、どちらの側も双方に知識を得る必要があるだろうと思います。遺伝医療というものが、全科的に、どの科においても、必須なものになってくると予想され、そういった時代に対応することを考えていかなければいけないと思いますので、どの領域にいる人にとっても、教育は必要だと思います。
そういう意味では、実際の大学の現状は、非常にお寒いものがあって、臨床遺伝学とか、医科遺伝学を教えるところはほとんどないわけです。診療部門として、臨床遺伝学を、本当の意味できちんとやれるところというところも実はほとんどないわけです。日本は歴史的にそういったところが非常に弱いし、また遺伝統計学とか、遺伝疫学とかという分野の教育も弱い。私は、すべての面において足りないと思います。単に遺伝学にとどまらず、医療の中におけるゲノムというものの存在感が、今後はものすごく大きくなってくると思うから、それを見越した教育の体制の充実は必要だと思うし、そのような状況変化を国民の方々にもよくわかっていただくということは当然必要なことだと思います。
それから倫理委員会を例にあげると、大学とか、大きな研究機関では、きちんとしたものを持っていると思いますが、今後は、一線の病院の先生方とも協力して、臨床データや、あるいはゲノムリソースの収集などの協力をお願いするという場面が多くなってくると思います。今でもそういうことは多いと思いますし、今後はますます、発展していくと思いますが、そういう病院レベルで、きちんとした倫理委員会を持って審査できるかというと、必ずしもそうはなっていないと思いますので、現場はうまく機能できないというか、インフラが十分に整備されていないという問題が大きいと思います。例えば匿名化にしても、最初、ガイドラインでは、原則としては提供する側で匿名化するとなっていて、ただし、中央の1カ所でやることも可能とは書いてありますけれども、現実問題としては、なかなかそれは難しい面もあります。個々の施設で連結可能匿名化作業をして、多施設共同研究をうまく機能させて、しかも、連結可能匿名化を機能させることは困難なところも多いのではないかと思います。
何を申し上げたいかと言いますと、立派な理念に従い、実際に現場で、できるだけ理想的にやろうとすると、現実とのギャップが非常に大きい。やはりインフラを十分に整備することを考えないといけないと思います。本当に大切なことは、研究を推進して、国民の健康増進に役に立つ成果を得ることだと思いますので、それを実現するためには、そういったところに配慮していく必要があるのではないかと思います。
以上が現場からの意見です。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。現実にいろいろ共同研究をされている立場から、例えば中核機関(コア機関)と協力機関との間の倫理審査の問題のずれとか、いろいろな問題が起こってくるということをお話しいただいたわけです。どうぞ、ただいまの辻先生のご意見についてコメントなり、お考えをいただければと思います。
【鎌谷委員】 ちょっと先ほどのを補足すると、我々日本の人類遺伝学会というのは、きっとすごく小さいんですよね。アメリカの人類遺伝学会を見ると、とてつもなく大きくて、この10年間で遺伝学の教員の数は49%増えたそうです。何かアメリカでは、工学部ですか、テクノロジー・デパートメントのほとんどで遺伝学が必須になったそうです。そういうふうに社会全体が遺伝学ということをちゃんと教育しようとしている外国と、日本のように固定的な現状というのは非常に差が大きくて、そこに予算が来て、ゲノムを解析しろと来ると、なかなか、これは結構難しいなと思います。
それから、辻先生の今、言われた臨床と直結するというのは、私は、それは本当に大賛成です。こんなことを言うと、すぐみんな、非難するけれども、結局、医学自体が実験の1つであるという考え方が大きくなってきていると思うんですよね。今、実施するものも100%正しいのではなくて、それは確率の中で、我々はこうしているということがすごく大事だと思います。それにつけても、やっぱり遺伝学と統計学というのは双子の兄弟みたいな学問なんですね。もともとまったく同じ人たちによって始められた学問で、それが日本では、どちらともひどい現状であるということが、やはり今の日本の問題をものすごく大きくしていて、その点についての配慮をしていかないと、なかなか進展しないし、国民も、本当に、この研究が自分たちのために役に立つとかということを確信が持てないんです。
【黒木主査】 どうぞ、ほかにございますか。
【豊島委員】 今、鎌谷先生が言われた、あるパーセンテージを使うことを初めから考えておかなきゃいけないということと、辻先生が言われたことは、基本的には同じだと思うんです。だから、そういうことを、これから研究計画するときに、初めから、ある金額を、そういうことに使うということを前提にして立てないと、研究費全体を、研究費として公募して、皆さん手を挙げてしまって分けた後で、それを考えるというのは非常に難しい。だから、そういうことの研究であるというスタートのときに、それを計上しておくと。これは研究者の1つの、これから先のやらなければいけない倫理規定みたいなものになるかと思うんですが、それを提唱していかなければしょうがないだろうと思います。
例えばですけれども、今、ここにも取り上げられておりますリーディングプロジェクトの場合には、かなりの額をそういうことに使っています。ですから、医療機関が8機関で、30ぐらい病院がありますか。そこに対して出している説明者ですね。インフォームド・コンセントを取るための説明者は全部、例えば看護師さんか、薬剤師か、そういう方の病院から推薦した方を、リーディングプロジェクトで雇い上げて、それで教育しているんです。こういう研究であって、だから、インフォームド・コンセントのときには、こういうところを注意しなければいけないという教育を何時間かかけて、全部にして、それを戻して、その方々がお医者さんは、初め参加するかしないかは取りますけれども、その後の説明は、その方々がやっている。そういう立場でされています。それ以外に、やっている各地で、パブリックに向けたシンポジウムのようなものを組んで、どういう意義のあるどういうものをやっていると。それは例えば生活習慣病なので、決定因子を探しているんじゃないということも含めた話をずっとやって回っているということはあるわけです。
ですから、例えば、これからするときは、基本線として、初めに、そういうものの箱をどこかにつくっておいて、それ全体をスタートさせるということを考えるということが必要じゃないかなという気がします。
【辻委員】 現場の感覚ですと、やはり、そういう組織があってほしいと思います。研究をやるときに、例えば5年間の研究費をいただいたとすると、それでもって、説明する人を雇えますということでは済まないと思います。基本的に遺伝学の教育もそうだと思うし、やはり基本的な機能として、例えば大学などでは、そういった講座なり、診療科なり、そういうものがなきゃいけないと思います。今、豊島先生から、看護師さんや、薬剤師さんというのが出ましたけれども、それは法律的に守秘義務がかかるということで、そういう方々をということだと思いますが、考えてみると、看護師さんとか、薬剤師さんの守秘義務の対象となる役割とはずいぶん異なっていると思います。
【豊島委員】 いや、基本的には、やはり医療情報を漏らしてはいけないという意味では一緒なんです。それからもう一つは、それだけではなくて、基本線として、看護師さんも、薬剤師さんも、病気を一応学んできているんです。ですから、それで足りる足りないは別問題。
それから、今おっしゃった全体の教育のレベルを変えなきゃいけないと。これは間違いないことだと思います。これはちょっと、ここの問題よりも、もう少し大きい問題になりますが、提言にはなると思います。
【辻委員】 本来ならば、ジェネティック・カウンセラーとか、何か本来的に、そういった職種を作っていったほう良いと思います。それを薬剤師、ナースが行うというのは、ちょっと筋違いじゃないかなと、普段、感じているところがあります。
【具嶋委員】 豊島先生が言われた生命倫理・教育に国の予算が増えてきたことは大変良いことですが、以前、文科省の生命倫理・安全部会に出させてもらったときに、どの省庁のどのプロジェクトに生命倫理・教育関連予算があるのか明示して欲しいと要望しましたが、その後もはっきり分からないのが状況だと思います。
【豊島委員】 確かに非常に微々たるものではあるけれども、スタートして10年以上になります。一番初めにスタートしたのは、がんの研究領域で、あれは合同でありますので、その中に、そういうことを検討する委員会をつくってほしいということで、一部の方にお願いして、いわゆる理系の研究者以外の方にも入ってもらったような委員会をスタートしています。それからもう一つは、あれはゲノムの特定で、やはり、ほんのわずかですけれども、そういうお金を取ってスタートしています。
それで、ないわけじゃなくて、皆さん、努力はし始めている。これから、それをもう少し一般化していかなきゃいけないし、もうちょっと周知して、みんながやるようにしていかなければいけないということだろうと思います。
【位田委員】 確かに教育も必要なんですけれども、私、何回か、ゲノム指針の説明を医学系もしくはライフサイエンス系の学会でお話ししたことがありまして、そのときによく質問が出るのは、例えば倫理委員会のお金はどこから持ってくるんだとか、遺伝カウンセリングのお金はどうしてくれるんだと。医療ではないので、当然、社会保険もきかないということで。ただ、そういうご質問を聞いていると、研究者の方は、研究費が来れば、とにかく、それは全部、研究に使うんだという意識だと思うのです。私はいつも、研究費の中で、10%なのか5%なのかはわかりませんが、その中で倫理問題とか、社会との関係問題に使うような形で、研究計画をつくるべきだと申し上げてきたわけです。当然、文部科学省にも、そういう枠を認めてほしいということを申し上げたいと思います。その辺は、研究者側の意識の問題もあるかなと思うんですね。一般的に、倫理問題が重要だという教育、もしくは遺伝学そのものの教育だけではなくて、研究者の方々が、倫理問題というのは研究の一部だというふうにお考えをいただく。それが非常に重要だと思うんです。
先ほど豊島先生がおっしゃった、特定のゲノムは多分、全体の研究費のパーセントからするとわずかかもしれませんが、私なんかの目から見ると、例えば「ゲノムひろば」なんかをやる場合にはものすごいお金がかかっているわけですね。それが日本の3カ所でやっている。それだけお金がかけられるぐらいの、つまり全体の研究費の中で、それだけを使えるという体制ができている部分もあるわけですから、なぜ通常の研究計画に広がっていかないかないのかなという気はします。まだ初めの段階なのかもしれませんが。
【豊島委員】 実は「ゲノムひろば」なんかのお金を維持するのは、かなり大変な作業なんです。これは研究じゃないのに、なぜ、ここで請求してくるかと言われる。だから、そうじゃなくて、これはやっぱり先生の言われるように、これから先のことを考えた研究であると。これは、ただストレートにゲノムをやる研究じゃないけれども、それをやらなきゃいけない研究であるということでスタートしたんですが、それでも、引き継いでいるうちに、結構大変ではあるんです。ですから、努力していないわけではなくて、してはいるんですが、研究費というのは、応募したときに言った額が来ることはまずないですから、カットされたときに、やはりどうしても大きい力がそこへかかってくるということは否めないです。
【辻委員】 私は、ゲノム特定にかかわっているのですが、豊島先生がおっしゃったように、純粋に教育・広報的な活動としてやろうとすると、文科省的にはとっても困るということをいつも言われて、それを何とか研究としての位置づけでという、かなり苦しいところもあるので、むしろ正面から、そういう活動に使うことも必要であるということで、文科省としても対応していただくほうが良いと思います。
【福嶋委員】 私も、やはり倫理コストというのはかかるということだと思うんです。その場合、何に使うかということなんですけれども、3省指針にしても、今回つくろうとしているものにしても、お題目だと思うんですね。こうすべきだと。匿名化すべきだとか、きちんとこういうことに気をつけるべきだと。それを具体的にはどうやったら、実際、それに到達できるのかというのをここで示して、具体的な方法、匿名化の方法にしても、こうやると人権が侵害されずに研究が進みますよと。だから、協力してくださる方は安心してくださいとかですね。あるいはインフォームド・コンセントを得るときには、こういう講習会をやりますので、それを受けた人に説明してもらうといいですよとか、やはりマニュアルと言ったら言葉は悪いかもしれませんけれども、プリンシプルを実現するための具体的な方法。その具体的な方法にも予算をつけるような、そこに研究費が充当できるような形を盛り込んでいただけると、日本全体の研究推進ということになるんじゃないかと思います。
【黒木主査】 前のゲノム指針ができて3年たったわけですから、いろいろな問題点が出てきて、前のはわりと具体性がなく、具体的な方針についてはあまり書いてない点が随分あったと思うんですね。例えば倫理審査委員会についても、ほとんどを倫理審査委員会に委ねているという点もありますので、そういういろいろな問題点が、今回、浮かび上がってきて、それを提言としてまとめるということはぜひしたいと思います。今のお金、予算の倫理にコストをかけるという点も含めて検討したいと思います。
続いて、位田先生がユネスコの国際生命倫理委員会の委員長として、国際宣言をまとめられましたので、まとめたときの要点、そして、どういうふうに指針を見直すべきか等についてお話しいただければと思います。
【位田委員】 お手元の参考資料集でしょうか、このファイルされたものにユネスコの宣言の原文と日本語があります。ご承知のようにユネスコは97年にヒトゲノムと人権に関する世界宣言を出しております。その時代、つまり97年に採択した宣言は、どちらかといえば、ヒトゲノムのシーケンスを研究するというのが主なターゲットだったと思うんですね。というのは、93年からゲノム宣言をつくる作業をしてきておりますので。
ところが、先ほど少しご紹介があったように、ゲノムのシーケンスは一応完了しました。そうなると、これまでのゲノムの塩基配列の研究を主体にした形から、遺伝子の解析そのもの、もしくは個人の遺伝子解析の研究というのが主になってきた。こういう認識の違いというか、先ほど研究の広がりとおっしゃった部分もあるんですが、遺伝研究というのは新たな時代に入った。そこでは、個人遺伝情報というのが非常に重要なんだという認識が、ユネスコの国際生命倫理委員会及びユネスコ全体の中で出てきました。それで、ヒト遺伝情報に関する宣言というものをつくることになったわけです。
よくポスト・ヒトゲノム・シーケンスとか、ポスト・シーケンスとかというふうに言うわけですけれども、この時代に入ると、塩基配列がわかっているので、個人の遺伝子の解析によって研究を進めるという特徴がありますし、大量のサンプルを採取して研究をします。それから、個人遺伝情報を蓄積して、データベースのような形で蓄積しておいて、研究を進めていく。そのためには、長期間、連結可能なままで試料もしくは解析した情報を保管する。さらに遺伝情報だけではなくて、その遺伝情報に関連している詳細な個人情報、これも併せて扱わないと意味がないという状況になってきています。そういう状況に合わせて、どのような問題があるか。もしくはどういった倫理ガイドラインが必要かということをユネスコでは議論してまいりました。
ユネスコの宣言の内容は、ある程度おわかりになっていると理解いたしまして、これまで我々が持ってきている倫理指針とユネスコの国際遺伝情報宣言と合わせて見て、どこを検討するべきか、ということを簡単にお話ししたいと思います。
いくつか論点があると思いますが、第1に、ゲノム・シーケンスの時代からポスト・ゲノム・シーケンスの時代に変わったということで、ある意味では原則を変更する必要がある。倫理指針では、連結不可能匿名化というのが原則であったんですが、もはや、そういう形では研究が進まない。したがって、連結可能匿名化というのが原則になって、連結不可能というのは、ある意味では、過去とは言いませんけれども、ある程度役割を果たしてきたので、「従」になってきたのではないかと思います。そうすると、連結可能匿名化を「主」として考える場合に、インフォームド・コンセントとか、個人遺伝情報保護の枠組み、これをもう一度考え直す必要があるんじゃないかと思います。特にインフォームド・コンセントについては、連結を前提として、かつかなり長期間の連結をして、場合によっては定期的に試料を提供するという状況がありますので、その旨の説明をどのようにするかというのは、これは非常に重要な点だろうと思います。
それから2つ目は、これは、ちょっとまだここで議論する必要があると思うんですけれども、倫理指針がつくられているのは、人を対象として規律するというやり方でございます。研究者とか、研究機関の長であるとか、研究責任者とか、その人たちが何をするべきかという形で規定がなされております。個人情報保護法でも、個人情報取扱事業者の義務という形で、人をターゲットにしていますが、ユネスコの国際宣言は、人ではなくて、段階ごとに宣言を見ていただくと、採取、加工、保管そして使用、この4つの段階ですね、その4つの段階で、それぞれの段階で守るべき倫理指針もしくは倫理原則とは何であるかというのを示しております。ユネスコの遺伝情報宣言をそのまま新しい倫理指針に使うというのは、多分、現場ではあまり妥当な形ではないので、個人情報取扱事業者ということをターゲットにして、ユネスコの宣言の4つの段階のそれぞれの問題をどのようにして入れていくかということが問題になろうかと思います。すり合わせという意味ですが。
それから3つ目の問題として、先ほど少し申し上げたインフォームド・コンセントが、かなり大変になるということだろうと思います。インフォームド・コンセントというのが、事前の十分な説明を受けた上での自由意志による明示の同意ということ、これは変わらないんですけれども、問題になるのは「十分な説明を受ける」というところで、どこまで説明をすればいいのか。かなり長期間の連結をして研究をするんだというときに、それをどこまで説明をすればわかっていただけるかということが問題になると思います。
それからもう一つ、インフォームド・コンセントで大きな問題は、遺伝情報データバンクというのがつくられた場合の寄託です。試料及び解析結果の情報、それに関連するさまざまな個人情報が、そこに全部、寄託されることになりますので、バンクに寄託されてしまうと、そこから先、どこかの研究機関が研究したいというときにバンクから出すときには、提供してもらう時点は、何の目的で使われるかわかっていません。倫理指針では、ちゃんと目的を明示して説明をしなさいということが原則になっていましたけれども、少なくとも遺伝情報データバンクというものが研究にかかわってくる場合には、提供されたときの目的以外の目的に使われるのが本来の形です。提供されるときの目的というのは、バンクに入れるという目的だと思うんですね。ところが、バンクから出すときには、どんな研究に使われるかわかりませんから、したがって、あらかじめ、そういうことを説明するというのは非常に難しい。そうであるとすると、遺伝情報データバンクに対応した新しいタイプのインフォームド・コンセントが必要なのではないかと思います。
そこまで詳しくはユネスコの宣言には書いてありませんけれども、しかし、ユネスコの遺伝情報には、遺伝情報データバンクを前提に考えている条文がいくつかあります。当然、何らかの形で新しいタイプのインフォームド・コンセントが必要ではないか。それは従来から言われている包括的同意という形ではなくて、バンクに入れるときの同意というのは、包括的同意とは種類が違うんだろうと思うので、包括的同意とは私は申し上げませんが、何か新しいタイプの同意が必要なのではないか。
それから4つ目に、やはり個人情報の保護という制度を、倫理指針の制度よりはもう少し明確にかつ厳格な形でやらないといけません。連結可能が条件で研究が行われますから、従来以上に厳格な体制が必要だろうと思います。倫理指針では、個人遺伝情報もしくは個人識別情報という形で示されていますが、今度は、それだけではなくて、医療情報と、場合によっては環境情報も含めて個人情報というものが蓄積されますし、同時に個人遺伝情報も蓄積される。そうすると、遺伝情報の保護だけではなくて、個人情報も含めて遺伝情報にかかわる個人情報全部を保護するためにどうするかという問題がございます。
同時に、個人遺伝情報がわかると、第三者への情報開示のやり方というのが、従来のようなやり方でいいのか。特に医療に密接にかかわってきます。今までは研究だから、よくわからないところだから研究しているので、情報を開示する場合でも、開示しても、あまり意味がない、ということで説明がなされていました。しかし、非常に医療に近いところに行くと、ある程度までわかっているけれども全部はわからないというような情報をどういう形で開示するかということは大きな問題になってくると思います。それから、提供する側から言うと、わかっても、わからなくても、それは個人の遺伝情報なので、当然、それを知る権利がある。ユネスコの宣言は、そういう形で書かれています。わからないから知らせても意味がないというのは、確かに研究をする側からはそう言えるんですが、情報を提供した側からすると、わかっても、わからなくても、それを解釈するのは自分であるという考え方も成り立ち得るわけです。したがって、従来のやり方で行けるのかどうかということをもう一回検討する必要があると思います。
それから5つ目ですが、データバンクもしくはデータベースというのができます。これはいろいろなところで、別々にデータベースができると、その管理基準というのは非常にばらばらになってしまう可能性がありますから、何らかの形で国による管理か、または管理基準を策定する必要があるだろうと思います。そのときに、よく倫理指針のときでも言われましたが、公的バンクというのは何かという問題があります。私的バンクというのはあるのかないのかという話が当然出てきます。連結不可能匿名化の場合には、公的でも、私的でも、そんなに問題は大きくなかったと思うんですが、今度は連結可能匿名化で、かつ長期間で、しかもバンクに入れるということになると、やはり一定の水準の規律というのが必要だろうと思います。それから、同時にバンクに入れたサンプルと遺伝情報の質の確保というのも、やはり考えておく必要があるんではないかと思います。
それから6つ目ですが、利益配分の問題が、今度はより大きく出てきます。特に医療と直接にかかわってくるようになりますと、研究成果が現実の利益につながる場合が多くなってきますので、知的財産とか、もしくは特許の可能性というのを当然に考えに入れないといけないわけですね。そういった場合に、提供者はどの程度貢献したことになるのか。今は提供者には何の権利も発生しませんという形で説明しているんですけれども、本当にそれでいいのかという問題が出てくる可能性があります。そのときの利益還元というのは、各提供者個人個人に対する還元にするのか、もしくは社会全体に別の形で還元をするのかということを考える必要があると思います。
たくさんあるんですが、7つ目に、ユネスコの宣言では、法医学とか、民事・刑事手続きへの利用ということが定められていまして、これは倫理指針ではあまり考えてこなかったので、ある意味では、従来と違う利用方法、これに対して、どういった原則をここでつくるのかということが問題になろうかと思います。親子関係とか、犯罪人捜査というのは、当然、これから大きな問題になってくるだろうと思います。
8つ目ですが、倫理指針で、どこが具体的に不都合であるのかということを、もう一回、検討し直しておく必要があります。非常にやりにくくなったということは皆さんおっしゃるんですが、一体どこが、具体的にどうだからやりにくいのか。やってみて、どういう状況が出てきたのかという情報は実は私はあまり聞いたことがありません。一度、従来は1,000人ぐらい、すぐにサンプルが取れていたんだけれども、倫理指針を使うと100人しか取れなかったというご意見をいただいたことがあります。それはむしろ1,000人も簡単に取れていたということのほうが問題ではなかったか、という指摘をしたことがございます。それは非常に極端な例だと思いますが、先ほどの国際共同研究の場合には事例がいくつかありますので、よくわかります。それ以外のところで、どのような問題が具体的に生じたのかということを、ここである程度明らかにしていただかないと、ただ単に改正しよう、改正しようというだけではうまくいかないのではないでしょうか。
それから最後ですが、倫理指針というのは、いわゆる研究に限定した指針でしたけれども、当然、医療とかかわりますから、臨床研究、臨床応用に遺伝情報を使うときの指針というのを早急につくる必要がある。それは文部科学省ではないでしょうけれども、今度は厚生労働省と経済産業省もまたご一緒にやられるようですから、そういう臨床に関する指針というのを早急につくっていく必要があるんじゃないかと思います。これは遺伝学検査のガイドラインについては、福嶋先生なんかがご苦労になって、学会の指針がありますけれども、あれはある意味では学会の指針なので、国がどういう形でやるかということは当然考えておく必要があるかと思います。
すみません。たくさんで長くなりましたが、以上でございます。
【黒木主査】 どうもありがとうございました。非常に大事なことは、これから、連結可能という方向に、いろいろな解析が移っていくという中で、もう一回見直す必要があるということじゃないかと思います。そのほか、いろいろな問題をご指摘いただいたんですが、ちょっと時間が迫っておりますけれども、堀部先生は、この次の7月14日のときにはいらっしゃるんですか。
【堀部委員】 14日は何時からですか。厚労省の委員会のほうは14日ですよね。
【事務局】 その前の2時間です。2時〜4時です。
【黒木主査】 次回、もしおいでいただけるのでしたら、個人情報保護法のご説明は、かなり詳しくしていただかないとならないこともあるかと思いますので。
【堀部委員】 わかりました。2時からですか。場所はどこになりますか。
【事務局】 同じ建物にしたいと思います。経済産業省の別館にしたいと思います。
【堀部委員】 はい。調整して、何とかします。
【黒木主査】 ええ。今日と思っていましたけれども、ちょっと時間が、残りの10分間で、個人情報保護法のご説明をいただくのはとても無理だと思いますので、次回ということにお願いしたいと思います。
【堀部委員】 はい。調整して出るようにいたします。
【黒木主査】 それから、富永先生は次回は?
【富永委員】 来ます。
【黒木主査】 地域の問題が、これも非常に大きい問題ですので、富永先生のご意見を伺わなければなりませんので。
今日は、あと10分残っているだけですので、今、位田先生からご指摘のあった9つの問題、お互いに関連しておりますけれども、それについていろいろコメントをいただければと思います。どうぞ。
【福嶋委員】 位田先生のお話で、大分、頭はすっきりしてきたんですけれども、やはりインフォームド・コンセントをきちんと得なければいけない。そのためには十分、時間をかけて、きちんと説明能力のある人が時間をかけて。ですから、忙しい研究者が片手間にという時代ではなくなってきたということですね。あと、連結可能匿名化のシステム、これでこうやれば絶対大丈夫ですというものの標準化が大事だと思いますね。ですから、そこの2点をきちんとやれば、先生のお示しいただいたものは、かなり解決できるんじゃないかという印象を持ちました。
【位田委員】 連結可能匿名化の方法として、いわゆるダブルコーディングというのが、国際的には大体、標準というか、アクセプタブルな基準だという理解なんですけれども、倫理指針では、必ずしもそこまで書いてないと思います。
【福嶋委員】 ただ、お題目じゃなくて、このシステムで、ラベルを張っていって、管理者は、どれをどう持ってと。そこのところがきちんとやれるといいかなと。
【位田委員】 ええ。具体的に。
【辻委員】 コメントですが、現場におけるの問題点を、できるだけ調査するというか、実情を把握することは必要だと思います。先ほど申し上げたのは、多施設共同研究だと、各施設の倫理委員会がそれぞれ、かなり違ったコメントをすることによって、1年もかかってしまうとか、そういう事例は現にたくさんございます。それに限らず、どういうことが問題かということは、ぜひ具体的に調査したほうが良いのではないかと思います。
それから、連結可能匿名化に関しては、多分、これまでも実はほとんどの場合がそうだったのではないかと思います。
【位田委員】 倫理指針は、原則は連結不可能匿名化で。けれども、実際にやられていることは、多分、ほとんどが連結可能匿名化だったんじゃないかと思っています。
【辻委員】 現場の研究の内容からすると、ほとんどの場合は連結可能でないとできないというのもあって、それでやってきていると思います。今、標準化というお話もありましたが、実際、だれがどういう形で匿名化作業ををして、ダブルコーディングとか、そういったものも含めて、きちんとやるかというと、またインフラの話になってしまいますが、本当にきちんとしたインフラの整備がされていないと思います。だれかが、ボランティアでやっていて、その管理もどこまで厳密にできているかというと、それもまた問題かもしれないですね。だから、現場の声として、立派な指針を実現するためには、実際にその受け皿を整備することをやらないと、指針が定められてきた考えが生かせないと思います。その乖離を現場で痛切に感じています。
【位田委員】 今の問題に関しては、ユネスコの宣言は、国家がちゃんとやれと書いてあるので。
【鎌谷委員】 私も現場の経験として、連結不可能匿名化で1,000人の人をやったときは、それはセルラインにして、バンクに寄託しました。ヒューマン・サイエンス財団というところですね。連結不可能匿名化だから、まあ、問題は非常に少ないと思いますけれども、細かいことを言えば、その配列を全部解析すれば、例えばある犯罪者がいて、その人が、この中にいるとわかるわけですよね。そういう問題があるということですね。
それから一つ、ここのヒューマン・ジェネティック・データの訳のところで、遺伝性の特性ではなくて、例えば世代間で継承可能な特性というふうに訳していただいたほうが。遺伝性というのは、日本語でも遺伝学と遺伝子の両方が遺伝性だし、英語でも、ジーンとジェネティックスの両方が、ジェネティックなわけですよね。
【位田委員】 そうですね。でも、これは私が訳したわけではございませんので。
【鎌谷委員】 そうですね。そこら辺ははっきり明確にしていただきたいなと。
あと、連結可能匿名化にしても、多くの施設でものすごいデータがあるものですから、大変です。もう本当に大変で、しょうがないから、私はプログラマーでもありますので、ソフトをつくって、一応、売り出しています。他施設でも、それを使うと、うまくいくようなシステムにすべきだと思うんですよ。例えば匿名化ソフトにして、これをみんな、やりなさいと。フロッピーで。で、ぽんぽんと入れたら、自動的に行くようにしたほうが私はいいと思います。
それから、簡単に対応表にと言いますけれども、そのたびに、これをつくれとかといって、研究者が言ってくるんです。それに対応していたら、対応表はあるんですけれども、これを対応させるのが本当に大変で、やっぱりプログラムをつくらないと、とても無理です。現実を見ていて。
我々のところで、ちょっと問題が少なかったのは、たくさんのサンプルを得られたというのは、我々のところは、病気の原因を解明はしないと約束したんです。薬に対する副作用とか、効果に関する遺伝子を探しますということなので、それは患者さんもすごい興味があるんです。もしはっきりしたことがわかったら開示しますということなんで、それが一つ、たくさんのサンプルが得られた原因ではないかと思っています。
それから、先ほどの情報管理者が1人で、それをやるのは、正直言って、不可能ですね。絶対不可能です。だから、それはやることができる人は、相当、遺伝学とか、コンピュータープログラミングの知識を持った人じゃないと、現状では無理だと思います。むしろ、私は現実的だなと思ったのは、だれがそれにアクセスしたかという記録をきちんと取ることだと思うんですよ。そうすると、だれからだれに漏れたということがたどることができるようにして、それに罰則を設けておけば、むしろ、そっちのほうが有効ではないかと思いました。
最後に、ちょっと法律の問題なんですが、やはりこの遺伝情報を、例えば雇用とか、保険で差別的に使った人は罰するというような法律ができると、それは我々としては非常にありがたいというか、ゲノム研究はかなり進むんではないかと思います。
あともう一つ、統計ですけれども、多分、今、ゲノムの大量データを統計解析できる人というのは、そんなにいるわけではないと思うんですよ。だから、ゲノムのデータを集めている人とか、タイピングをやっている人が簡単に統計解析できないとすると、だれかがやらなきゃいけないわけです。そのデータを扱うときにもすべて、倫理問題がというふうになると、これは結構大変ですね。私も統計解析を専門にしているので、それを頼まれることが結構多いんです。そのたびに、私も倫理計画の中に入らなきゃいけないかとなると、それはもうちょっと緩和してもいいんじゃないかと思います。
【小幡委員】 ちょっと次回出られないものですから、簡単に。
今のお話ですけれども、簡単に誰でもアクセスできるようなシステムではないはずですよね。管理者もいますし。
【鎌谷委員】 管理者が大変なんです。
【小幡委員】 まあ、そうなんですけれども。原則としては、アクセスはきちんと管理しないといけないといっているはずです。
データバンクの話ですけれども、前の倫理指針のときにも、最後に公的バンクというのが出てきて、それはどうなんだと、最後に時間切れになったような記憶があるんですが、これから非常に確かに大変だというお話で、さまざまな可能性が出てくる。そこで連結不可能ではない形で管理し得るのか。されるとしたら、どういう形で、そこのデータバンクにアクセスするのか。
【鎌谷委員】 先生、データバンクじゃなくて、今言ったのはセルラインのバンクです。
【小幡委員】 はい。ただ、位田先生のお話との関連で申し上げているのですけれども。
公的バンクとか、あるいは普通の民間のバンク、その実態が知りたいなという感じがします。今後のことかもしれませんが。連結可能匿名化のバンクであるとすれば、それに対してどういうふうに指針等で対応するべきかという問題があるかと思います。
それからもう一点は、先ほどから臨床との関係が大事であるというお話がございまして、臨床の現場でも、どうも大分困っているようなのですが、そこの部分が、多分、研究とは切れると思いますか、他方で今回の対象について、先ほどから遺伝情報うんぬんというのがございますけれども、いずれにしても、それでも臨床の現場は、また別の枠組みで行くのか、あるいは臨床まで、本当はここでくくっておいて、実質的にそれが遺伝情報にかかわるものについては、ほぼカバーするという形に最終的にはなってもよろしいのではないかと思います。そこがあまりやり方がずれますと、結局、いくら指針等を作っても、使いものにならなくなるのではないかと思いますので、そこら辺は、むしろ厚労省さんの関係なのかと思いますが、連携が必要なのではないかと思います。
【黒木主査】 前回、バンクは、かなり最後にちょっと議論して、非常に不十分にしか議論していませんので、やはり限られた材料を有効に使うということで、いろいろな意味で、これからバンクが重要になってくると思います。
【具嶋委員】 本日の会議で、すでにいろいろなご意見が出てきたようですが、これからこの委員会から提言が出されて3省庁の倫理指針が見直されるのかもしれませんが、その場合、以前のように作業委員会を設けて指針案を作成していくのでしょうか。
【安藤室長】 今の時点で、前回のように作業委員会をつくってやるといったことは考えていません。ここの小委員会を中心に議論を進めて、必要があれば、例えば、この中で何人かの先生にご協力をいただいて、個別テーマごとに、何か詰めの作業をするといったことが、それは必要があれば考えていきたいと思います。
【黒木主査】 前回は、メーリングリストという形で、すべての問題に意見をいただいたわけですけれども、今回は少しを的を絞って、いろいろな意見をいただく。あるいは現状の問題点について、実際に動いているところから意見をいただくというようなことは、ぜひしたほうがいいんじゃないかと思っています。
ちょうど時間が終わったところなんですが、まだ多くの、特に個人情報保護法について堀部先生にご説明いただく時間が次回になってしまいました。それから、地域との問題とか、いろいろな問題がまだ残っていますので、7月14日に、また続いて議論を深めたいと思っております。よろしいでしょうか。
どうもありがとうございました。
【安藤室長】 すみません。机上にお配りしてある参考資料集、これですけれども、一応、本日は机上に残していただいて、もし必要であれば、事務局のほうにお申しつけいただければ別途作成いたしますので、よろしくお願いします。
次回は、先ほどお話がありましたけれども、14日の午後2時から、経済産業省別館の1014という会議室でございます。また別途、ご案内申し上げます。
【黒木主査】 それからもう一つ、今日のことでもよろしいし、これから議論がある問題で、ご意見がありましたら、事務局までメールで送っていただければと思います。
【安藤室長】 どうもありがとうございました。
──了── |