5 社会への発信と対話

 東日本大震災では、科学技術コミュニティから政府や社会に対し、その専門知を結集した科学的知見が適切に提供されなかった。一方、メディアを通じ、様々な立場の専門家から異なった見解が国民に示され、判断に迷う場面が多々あったと考えられる。また、政府や専門家が、社会に対して、科学技術の限界や不確実性を踏まえた適時的確な情報を発信せず、リスクに関する社会との対話を進めてこなかったことも課題である。科学技術政策研究所の調査によると、6割の専門家が、科学者、技術者や学協会などは、情報を受け取る立場に立った適切な表現や方法では情報発信を行っていないと考えている。
 これらを踏まえ、社会への発信や対話を一層促進するため、特に以下の2点が重要である。

1.科学的助言の在り方

  1. 現代社会の政策課題は高度化、複雑化しており、科学的知見は、政府の政策形成過程における不可欠な判断根拠である。このため、政府は、科学技術に関する顧問を設置するなど、平常時や緊急時において、政府が適切な科学的助言を迅速に得るための仕組みを整備すべきである。
  2. 政府への科学的助言は、明確な根拠を持って提示されることが大前提であり、科学的助言の客観性や質の確保が必須である。このため、当該事案の検討を行うために必要な専門分野の研究者を確保するとともに、互いの科学的知見に対し、建設的、客観的な観点から議論を交わし、検証を行うことが必要である。研究者の意見の多様性を尊重し、結果として見解が分かれる場合は、複数の選択肢として整理し、提示することが求められる。また、科学的知見に不確実性がある場合はその旨を適切に提示することが求められる。
  3. 政府は、科学的助言者の活動に政治的介入を加えてはならない。また、政府には、入手した科学的助言を公正に取り扱うことが求められる。政府は、科学的助言の公正な使用を担保するため、先入観を持った判断や誤った解釈の付加、歪めた形での公表等をしてはならないこと、科学的助言と相反する決定を行う場合はその根拠の説明が必要であること、利益相反の扱いを厳格にすべきことなどに留意が必要である。

2.リスクコミュニケーションの在り方

  1. 科学技術には限界や不確実性があり、想定外の事象が起こり得ることも含め、リスクについて、地方自治体や地域の利害関係者、メディア等を含めた社会一般と、真摯な双方向の対話と議論の積み上げを行い、合意形成を図ることが必要である。その際、例えば、すぐに「地震予知」ができるとか、「ゼロリスク」が可能などと誤解されぬよう、リスクや安全性等に関して、科学的、客観的な情報を、受け取る立場に立った適切な表現や方法で発信することが必要である。ただし、そもそも不確実な可能性のあるデータを、社会にどのように提示するかについては、その考え方をあらかじめ整理、検討しておく必要がある。

A.具体的取組及び検討状況

(研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめ。

(以下、科学技術・学術政策局 人材政策課)

  • 各分野の専門家がリスクに関わる際に、社会への責任を全うするため、専門家集団や組織としてリスクコミュニケーションを行う取組を支援し、モデル化を行う。
  • 東日本大震災をふまえリスクコミュニケーションに関する分野横断的な共通事項を明らかにすべく、リスクコミュニケーションのアクターへのヒアリング、文献調査等による先行事例調査を実施のうえ報告書をとりまとめ公開し、共有化をはかっているところ。また、平時のリスクコミュニケーションのためにリスク情報を集約化し、情報発信・共有化を図る。

B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】 33,828千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上について、リスクコミュニケーションのモデル形成事業において、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を支援し、好事例をモデル化。

 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】 39,900千円

  • 3.11後のリスクを含む科学コミュニケーションの在り方について、東日本震災におけるリスクコミュニケーションのアクターにヒアリング、アンケート等による調査研究を実施、文献調査とあわせ教訓集を作成・共有化をはかる。また、平時のリスクコミュニケーションのためにリスク情報を集約化した一般向けのプラットフォームを構築。

C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】 32,168千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上に向けて、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を引き続き支援し、好事例をモデル化。

 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】 37,575千円

  • リスクコミュニケーションを含む科学技術コミュニケーションを効果的に推進していくため、大学、研究機関等と連携して、基礎的な調査研究等を実施。 
  1. 合理的なリスク管理政策は、科学的な見地から算出されるリスク評価結果を基に、費用対効果をはじめとした様々な社会的、経済的視点を加味して検討される必要があるが、どのような社会的、経済的視点を、どう加味するか等、リスク管理についての考え方を、社会との間で共有することが必要である。

A.具体的取組及び検討状況

 (研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめた。 

 

3.社会との合意形成は、国民と認識の共有化を図った上で適切に行わなければならない。このため、国民の科学技術リテラシーやリスクリテラシーと、研究者等の社会リテラシーの双方を向上させる必要がある。また、双方向の対話と議論の積み上げを通じて、国民との間で、科学技術の社会的得失(リスクとベネフィット)を共有するとともに、国民が「個人の価値」と「社会全体の価値」また、「個人の安全」と「社会全体の安全」を同じ次元で捉え、価値判断を行うことができる環境を整えることが必要である。その際、国民のリスクの捉え方は、科学的事実に加えて心理的影響も加味されることから、リスクの特性を的確に把握し、その特性を踏まえてコミュニケーションを行う必要がある。

A.具体的取組及び検討状況

(研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめた。

(科学技術・学術政策局 人材政策課)

  • 各分野の専門家がリスクに関わる際に、社会への責任を全うするため、専門家集団や組織としてリスクコミュニケーションを行う取組を支援し、モデル化を行う。
  • 3.11後の科学リテラシーの向上を図るため、科学の暫定性、不確実性、答えのない問題への対処につき特に考慮しながら、「生活の中のリスクにかかわる科学リテラシーの向上に関する調査・研究」を含む「国民の科学リテラシーの向上に関する調査・研究」を進めているところ(JST)。

B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況

(以下、科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】(再掲) 33,828千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上について、リスクコミュニケーションのモデル形成事業において、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を支援し、好事例をモデル化。

 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】(再掲) 39,900千円

  • 社会の理解や信頼のもと科学技術を発展させていくため、リスクコミュニケーション、テクノロジーアセスメント等の取組強化が必要であることから、科学技術をめぐる議論の場が日本社会に不断に創出される仕組みの研究開発を進めているところ。また、科学技術リテラシー向上にかかる教材等の科学館、学校等への普及・展開を図る。

C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】(再掲) 32,168千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上に向けて、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を引き続き支援し、好事例のモデル化を行う。

 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】(再掲) 37,575千円

  • リスクコミュニケーションを含む科学技術コミュニケーションを効果的に推進していくため、大学、研究機関等と連携して、基礎的な調査研究等を実施。
  1. 科学技術への信頼を回復するためにも、社会とのコミュニケーションの強化が必要である。具体的には、地方自治体職員、地域の利害関係者、メディア等との継続的な勉強会の開催や、研究開発への参画を促すといった取組、研究者や技術士をはじめとした技術者の専門的能力を生かした自発的な活動などが必要である。また、初等中等教育段階や高等教育段階での取組も含め、国民の科学技術リテラシー向上を組織的に進める仕組みを構築し、科学技術の魅力やその可能性を伝えるとともに、現時点における科学技術の実力(限界)についても、丁寧に分かりやすく説明することが重要である。

A.具体的取組及び検討状況

(研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめた。

(以下、科学技術・学術政策局 人材政策課)

  • 各分野の専門家がリスクに関わる際に、社会への責任を全うするため、専門家集団や組織としてリスクコミュニケーションを行う取組を支援し、モデル化を行う。
  • 社会の理解や信頼のもと科学技術を発展させていくため、リスクコミュニケーション、テクノロジーアセスメント等の取組強化が必要であることから、科学技術をめぐる議論の場が日本社会に不断に創出される仕組みの研究開発を進めているところ。(科学館、大学等の教育研究機関を拠点とした科学技術をめぐる参加型の議論の場、対話手法等の分析・調査等)(JST)

B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】(再掲) 33,828千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上について、リスクコミュニケーションのモデル形成事業において、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を支援し、好事例をモデル化。

 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】(再掲)  39,900千円

  • 3.11後の科学リテラシーの向上を図るため、科学の暫定性、不確実性、答えのない問題への対処につき特に考慮しながら、国民の科学リテラシーの向上に関する調査・研究を進めているところ。また、研究者等に対するメディア対応研修、プレゼンテーション研修等の研修を開発・実施。

C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】((再掲) 32,168千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上に向けて、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を引き続き支援し、好事例をモデル化。

 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】((再掲) 37,575千円

  • リスクコミュニケーションを含む科学技術コミュニケーションを効果的に推進していくため、大学、研究機関等と連携して、基礎的な調査研究等を実施。
  1. 国民との間でリスクを共有するためのコミュニケーションや国民の価値判断に資するコミュニケーションの重要性がこれまでも指摘されてきたにもかかわらず、十分に実行されてこなかった原因を点検し、社会実験を行い、具体的なコミュニケーション手法を、失敗事例を含めて蓄積することが重要である。また、国は、その成果を広く共有し、国民とのコミュニケーションを改善していく取組が重要である。

A.具体的取組及び検討状況

(研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめた。

(科学技術・学術政策局 人材政策課)

  • 3.11後のリスクを含む科学コミュニケーションの在り方について、東日本大震災をふまえリスクコミュニケーションに関する分野横断的な共通事項を明らかにすべく、リスクコミュニケーションのアクターへのヒアリング、文献調査等による先行事例調査を実施のうえ報告書をとりまとめ公開し、共有化をはかっているところ。また、平時のリスクコミュニケーションのためにリスク情報を集約化し、情報発信・共有化を図る。

B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】(再掲) 39,900千円

  • 3.11後のリスクを含む科学コミュニケーションの在り方について、東日本震災におけるリスクコミュニケーションのアクターにヒアリング、アンケート等による調査研究を実施、文献調査とあわせ教訓集を作成・共有化を図る。

C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクを含む科学技術コミュニケーションの推進】(再掲) 37,575千円

  • リスクコミュニケーションを含む科学技術コミュニケーションを効果的に推進していくため、大学、研究機関等と連携して、基礎的な調査研究等を実施。
  1. 科学技術分野における社会とのコミュニケーションの接点となる専門家の育成に努めることが必要である。

A.具体的取組及び検討状況

(研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめた。

(科学技術・学術政策局 人材政策課)

  • 各分野の専門家がリスクに関わる際に、社会への責任を全うするため、専門家集団や組織としてリスクコミュニケーションを行う取組を支援し、モデル化を行う。

B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況

(科学技術・学術政策局 人材政策課)
 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】(再掲) 33,828千円
 ※ 科学技術に関する人材の育成・活躍促進及び理解増進の一部

  • 「建議」において指摘された科学技術分野における社会とのコミュニケーションの接点となる専門家の育成について、リスクコミュニケーションのモデル形成事業において、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を支援することを通して、専門家を育成。

C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況

 【リスクコミュニケーションのモデル形成事業】(再掲) 32,168千円

  • 「建議」において指摘された研究者等の社会リテラシーの向上に向けて、専門家集団である学協会や大学等研究機関のリスクコミュニケーションの取組を引き続き支援し、好事例をモデル化。
  1. 国は、これらを踏まえ、リスクコミュニケーションを推進するための効果的な科学技術コミュニケーションの在り方について、検討を実施することが必要である。

A.具体的取組及び検討状況

(研究計画・評価分科会 安全・安心科学技術及び社会連携委員会)

  • 安全・安心科学技術及び社会連携委員会において、リスクコミュニケーションの推進方策を取りまとめた。

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課

学術政策第1係
電話番号:03‐5253‐4111(内線3848)
ファクシミリ番号:03‐6734‐4008
メールアドレス:shingist@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局政策課)

-- 登録:平成27年06月 --