4 研究開発の成果の適切かつ効果的な活用
東日本大震災においては、ロボット技術のように、多くの投資をした我が国の研究開発の成果が、災害や事故に際して必ずしも十分に機能しなかった面もあった。科学技術政策研究所の調査によると、現状では、半数の専門家が、研究開発の成果が社会の抱える課題の解決に「あまり結びついていない」と考えている。政策立案担当者を含め、科学技術・学術に従事する者は、こうした現状を猛省する必要がある。現状を打破し、研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるための取組として、以下の2点が重要である。
1.社会的ニーズの把握と研究課題への反映
- 国民は、研究開発成果の社会への還元を求めている。成果が社会的課題解決のために有効活用されるためには、研究課題を設定する段階で、幅広い分野の研究者、産業界、金融機関等の関係機関、他省庁等との組織や分野を超えた連携体制の構築等により、縦割りの弊害をなくし、様々な観点から実社会の現状を捉え、積極的に社会的ニーズを掘り起こすことが望まれる。また、こうした連携体制の構築によって、新しい知識が技術化され、社会に役立つことも想定される。いかに創造的な知見といえども、実用化、社会実装までの将来展望や出口戦略、ビジネスモデルなくして社会に実装されることはない。国全体として、社会的ニーズを適切に課題に反映するための取組の促進が必要である。特に、政府が戦略研究の目標や分野を設定する際には、短期的な必要性のみにとらわれることなく、科学技術の発展の方向性に関する中長期的視点も踏まえた、実効性のある取組が求められる。
A.具体的取組及び検討状況
(研究計画・評価分科会 宇宙開発利用部会)
- 地球観測分野において、広範な宇宙利用関係者のニーズ反映に向けて、関係する府省、大学、産業界やJAXA等が参画するコミュニティ構築に向けた取組に着手。
- また、産学官の連携により、科学技術の成果を、課題解決、社会実装に結びつける一方で、社会のニーズが絶えず基礎研究の現場につながるネットワークの構築が必要であり、全体的に責任をもって統括する司令塔と、その牽引エンジンとなる人材の育成の強化が必要となる。その際、研究成果が放置されないようなマネジメントが重要である。
A.具体的取組及び検討状況
(産業連携・地域支援部会)
- COI(センター・オブ・イノベーション)拠点に多様な関係者による「研究推進機構」を設置し、COI拠点としての基本戦略の策定、研究企画の立案、各研究課題の運営管理等、構想段階から事業化に至るまでの拠点における活動全体のマネジメントを行うとともに、対話型ワークショップの場として、新たなシーズ・ニーズ、アイディア等について発掘するなど、COI拠点における戦略的研究開発と非顕在化シーズ・ニーズのマッチング等を一体的に運営する。
B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課)
【大学等シーズ・ニーズ創出強化支援事業】(再掲) 1,142,054千円
- COI(センター・オブ・イノベーション)拠点に多様な関係者による「研究推進機構」を設置し、COI拠点における研究開発活動の運営統括・マネジメントを行うとともに、COI拠点の多様性を確保するために、拠点のビジョンやイメージに関する新たなシーズ・ニーズ・アイディア等をオープンイノベーションにより発掘するといった拠点の活動を支援し、更なる高度化を図るために拡充。
C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課)
【大学等シーズ・ニーズ創出強化支援事業】(再掲) 1,095,054千円
- COI(センター・オブ・イノベーション)拠点に多様な関係者による「研究推進機構」を設置し、COI拠点における研究開発活動の運営統括・マネジメントを行うとともに、COI拠点の多様性を確保するために、拠点のビジョンやイメージに関する新たなシーズ・ニーズ・アイディア等をオープンイノベーションにより発掘するといった拠点の活動を支援する。
- 国の存立基盤はもとより多様である。我が国が主権国家として存続するため、いかなる科学技術が必要かについて、常に考えることが重要である。このため、客観的な根拠に基づく合理的なプロセスによる政策形成を目指して、経済、社会等の状況を多面的な視点から把握、分析するための研究を更に推進することが重要である。また、政策決定プロセスにおける透明性の確保や国民への説明責任に資する取組を行うことが重要であり、国は、これらの取組を推進していく必要がある。
B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 企画評価課)
【科学技術イノベーション政策における政策のための科学の推進】 698,793千円
(科学技術・学術政策研究所)
【科学技術イノベーション政策の科学の推進に資する基盤的調査研究】 50,810千円
- 建議において指摘された、「経済、社会等の状況を多面的な視点から把握、分析するための研究を更に推進することが重要」、「政策決定プロセスにおける透明性の確保や国民への説明責任に資する取組を行うことが重要」、について、「科学技術イノベーション政策における政策のための科学」において具体的な政策オプションの立案の中核的拠点機能の整備、データ情報基盤の整備等を推進。
C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 企画評価課)
【科学技術イノベーション政策における政策のための科学の推進】 693,933千円
(科学技術・学術政策研究所)
【科学技術イノベーション政策の科学の推進に資する基盤的調査研究】 47,947千円
- 平成26年度と同様に「科学技術イノベーション政策における政策のための科学」において具体的な政策オプションの立案の中核的拠点機能の整備、データ情報基盤の整備等を推進。また、新たな拠点の整備による中核的拠点機能の強化を予定。
2.研究開発成果を課題解決に結びつけるための方策
- 科学技術イノベーションを創出するためには、社会総がかりの仕組みが必要である。革新的な課題設定の下、異分野の研究者等の結集や、我が国が有する卓越した先端研究基盤の戦略的活用により、基礎研究から実用化までの全段階を通じて、戦略的な運営の下で研究開発を進め、科学技術イノベーション創出に取り組むことが必要である。国家戦略に必要な目標実現のため、国は実効性あるプロジェクトを創設すべきである。
- まず、国が主導して、各地域、各機関、各府省にとどまっている成果を、社会や市場の要請に基づき、戦略的、効果的に集約するとともに、国が選定した人材による一貫した戦略的マネジメントの下で、社会実装に至るまで取り組むことが重要である。
- 欧米と比較すると、我が国の産学共同研究は規模が小さく、社会的インパクトの大きな成果が生まれにくいことや、社会の要請に基づく産学連携拠点の整備が遅れているという課題がある。このため、ハイリスクではあるが期待される効果が大きい研究テーマに対し、研究フェーズに応じた産業界の関与、貢献を求めつつ、研究開発の推進、最先端の研究設備の整備と戦略的活用、産学官が一体となった運営体制の構築、高度研究人材の招聘・養成などのための支援を、国が重層的かつ集中的に行うなど、既存分野・組織の壁を取り払い、研究開発の「死の谷」を克服する、世界と戦える大規模産学連携研究開発拠点(センター・オブ・イノベーション)を構築する取組が重要である。その際、世界の潮流といえる、イノベーション創出のための研究と人材育成との一体的な制度設計が重要である。
A.具体的取組及び検討状況
(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課)
- センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムに関して、現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿や暮らしのあり方(以下、「ビジョン」という。)を設定し、このビジョンを基に10年後を見通した革新的な研究開発課題を特定した上で、既存分野・組織の壁を取り払い、基礎研究段階から実用化を目指した産学連携による研究開発を集中的に支援する。平成25年度には、革新的イノベーションを産学連携で実現する12の拠点を、また、将来の拠点候補として課題の解決に向けたコンセプトの検証や要素技術の検証を行う14のトライアル拠点を採択した。今後はビジョンの実現のために、事業化を見据えつつ、各拠点における研究開発を充実・加速させていく。
B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課)
【センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム】 8,322,000千円
- センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムに関して、ビジョンの実現に向け、12の既存採択拠点への支援を充実・加速させる。
C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課)
【センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム】 8,185,910千円
- センター・オブ・イノベーション(COI)プログラムに関して、平成27年度からは、トライアル課題の一部をCOI拠点に発展させ、プログラム全体のビジョン実現に向けた取組を加速させる。
- 我が国が有する科学技術イノベーションを支える多様な研究基盤を、俯瞰的、包括的に捉えることのできるシステムを構築し、ユーザーニーズに基づく基盤技術や機器の開発とその効果的利用を図るため、当該システムの中核的機関を中心にユーザー側と技術や機器の開発側との連携を促進する等の取組を行うことで、我が国が保有する研究基盤の力を最大化していくことが必要である。
A.具体的取組及び検討状況
(先端研究基盤部会)
- 国産の研究機器が研究現場で積極的に整備導入されるための開発及び調達・普及方策の検討を進める。
B.平成26年度予算及び平成25年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 研究開発基盤課)
【先端計測分析技術・機器開発プログラム】 3,913,067千円
- 「ユーザーニーズに基づく基盤技術や機器の開発とその効果的利用を図る」について、先端計測分析技術・機器開発プログラムにおいて、先端的な計測分析技術・機器・システムの開発を産学連携で推進する。特に、新しいサイエンスの潮流を創りうる最先端の開発成果について、ユーザー等と連携した高度化、標準化を推進。
C.平成27年度予算案及び平成26年度補正予算への反映状況
(科学技術・学術政策局 研究開発基盤課)
【先端計測分析技術・機器開発プログラム】 1,946,297千円
- 「ユーザーニーズに基づく基盤技術や機器の開発とその効果的利用を図る」について、先端計測分析技術・機器開発プログラムにおいて、先端的な計測分析技術・機器・システムの開発を産学連携で推進する。特に、新しいサイエンスの潮流を創りうる最先端の開発成果について、ユーザー等と連携した高度化、標準化を推進する。なお、ライフイノベーション分野に関する研究開発課題については、平成27年度から日本医療研究開発機構(A-MED)に移管される予定。
- 戦略研究を主に担う研究開発法人については、研究開発成果の最大化と研究効率の向上の観点から新たな法人制度を創設するとともに、研究開発の特性に配慮した制度運用の改善を行うことにより、投入予算に対し、研究開発法人が、課題解決に最大限貢献し得る環境を整備すべきである。
科学技術・学術政策局政策課
学術政策第1係
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