プレート沈み込み帯に位置する我が国では、地震及び火山噴火が多発することは必然である。これまで、地震や火山噴火による災害が度々発生し、多くの国民の生命や暮らしが奪われるなど多大な被害を受けてきた。平成7年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)では、建造物崩壊や火災により6400人以上が犠牲となり、平成23年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、津波による死者・行方不明者が2万人近くに上った。平成12年の三宅島噴火では、約4000人の全島民が島外へ避難し、長期間にわたり不便な生活を強いられた。
特に、東北地方太平洋沖地震では、その震源域で大地震が発生する可能性が従来危惧され、これまで多くの調査研究が行われていた。しかし、その規模がマグニチュード9に達する超巨大地震となる可能性については、これまでの観測研究計画の中で追究されていなかった。これを受け、観測研究計画の問題点を以下のように総括し、超巨大地震に関する観測研究を強化するなどの計画の見直しを行い、平成24年11月に計画を建議した。
これらの問題点のうち、直ちに対応できることは、計画を見直した際に対処した。しかし、平成25年度末までの限られた残りの計画期間では、全ての問題点に対応することは難しく、残された問題点を考慮に入れて、今後の計画を策定する必要がある。
また、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について(建議)」(平成25年1月)では、特に、地震研究において、大地震の発生やそれに伴う巨大津波の発生の可能性を事前に国民に十分に伝えられなかったことが、大きな問題であると指摘された。その対応として、地震、火山分野だけでなく、防災分野や人文・社会科学分野を含めた研究体制で総合的かつ学際的に研究を推進することや、低頻度で大規模な自然現象についても正しく理解し、防災・減災に貢献できる体制にすることなどが必要であるとされた。また、地震学・火山学の現状を丁寧に説明するとともに、地方自治体等が適切な防災対策を取れるように、科学的見地から助言を与える取組なども必要とされた。
さらに、平成24年10月には、「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の外部評価がまとめられ、地震や火山噴火による災害の多い我が国において、地震や火山に関する科学的な研究成果を防災・減災につなげていくことが重要であるとされた。学術的には、国際的に見ても重要な研究成果が挙げられていることは高く評価された。さらに、地震予知計画と火山噴火予知計画を統合して計画を進めることは有効であり、今後も一層統合に努めるべきであるとされた。しかし、東北地方太平洋沖地震の発生を踏まえて、以下の課題を改善すべきとし、40年以上にわたる予知に関わる計画の抜本的見直しが必要であるという指摘を受けた。
これまでは自然現象としての地震・火山噴火の予知に基づいて災害軽減に貢献することを目標に計画を推進してきたが、今後はこの方針を転換し、以下のような考えに基づいて計画を推進する必要がある。すなわち、地震や火山噴火による災害は、地震や火山噴火が引き起こす地震動、津波、火山灰や溶岩の噴出などの外力(「災害誘因」)が、人の暮らす社会や自然環境の脆(ぜい)弱性(「災害素因」)へ作用することによって生じる。地震・火山災害を軽減するためには、災害を予測して、それに備えることが基本であることから、今後の計画は、災害誘因の予測に基づき災害の軽減に貢献することを最終的な目標と位置付ける。
以上を踏まえ、かつ以下に記述するこれまでの観測研究計画の経緯と成果に鑑みて、本計画を策定した。
全国の大学、行政機関、国の研究機関が連携し、地震予知のための観測研究計画を昭和40年から進めてきた。昭和40年度に開始された第1次計画から、平成6年度に開始された第7次計画まで、調査観測体制の整備を着実に進め、全国に整備した高感度の地震観測網や地殻変動観測網の観測データから地震の前兆現象を見つけ出すことにより、地震予知を目指すことに力を注いだ。計画の進捗に伴い、地震や地殻変動の観測データが蓄積されるとともに、研究者も増加し、地震学は着実に進歩したが、地震予知は実現できていなかった。そのような状況の下で、平成7年に阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)が発生し、それを契機に計画を総括した。その際、地震の前兆現象の発現様式は複雑かつ多様であり、その中に系統性が見いだせるほどにはデータが蓄積していない。また、同じ前兆現象が確実に発現するとは限らず、前兆現象のみに基づく地震予知には限界があると結論付けた。このため、地震の前兆現象の発見に重点を置いていた研究の方針を大きく転換することになった。
平成11年度に開始された「地震予知のための観測研究計画」では、地震の様々な特性を知り、その発生機構を知ることが地震予知の実現に着実につながるとの考え方に立ち、地震発生に関する基礎的研究を重視した。地震の発生機構を理解し、それに基づく物理モデルと観測データにより、地殻活動の推移予測を目指して計画を進めてきた。高感度・高密度の地震及び地殻変動観測網から得られるデータから、地震に先行する現象の観測事例が増加し、地震現象の理解は一層深まった。例えば、釜石沖で繰り返し発生するマグニチュード5クラスの地震は、その発生時期・規模の予測が可能な場合があることが明らかになった。さらに、世界に先駆けて、ゆっくり滑りや低周波微動などの現象が西南日本などで発見され、プレート境界滑りの多様性が明らかになった。それらの物理過程についても理解が進み、プレート境界における大地震の発生過程との関連についても研究が進展し、大地震の発生を含むプレート境界での多様な滑りの数値シミュレーションができるまでになっている。歴史地震研究においては、地震史料集の編纂(さん)が進み、江戸時代より前の地震・噴火史料のデータベース化が進んだ。さらに、考古データから地震災害を読み取る地震考古学という学術分野ができるなど大きな進展があった。
このように、計画開始当時に比べて、地震現象についての科学的知見は格段に増えたが、それに伴い地震現象の複雑さも明らかになり、大地震の発生予測の実現にはいまだ至っていない。また、東日本大震災では、歴史地震研究による成果を、十分には活用できなかった。
一方、昭和49年度に開始された火山噴火予知計画では、火山噴火予知の実用化を目標に、個々の火山の活動度の把握と、火山現象の理解に基づく火山噴火の仕組みの総合的理解を目指して計画が推し進められてきた。
第1次計画以来、年次的に観測網の整備と実験観測を推進し、活動的火山における観測点の高密度化・高精度化と観測内容の多項目化が進んだ。その結果、観測網が整備された幾つかの火山については、噴火の先行現象の検知とそれに基づく噴火開始前の情報発信が可能になった。また、組織的な地質調査、系統的な岩石の化学分析や年代測定が実施された火山では、火山活動の長期予測と噴火ポテンシャル評価の基礎となる情報を得た。
地震や地殻変動の定常的観測や臨時観測のデータなどにより火山体の地下構造や周辺の応力場とマグマ蓄積の関係が明らかになった火山では、マグマ供給系・熱水系のモデル化が行われ、観測データから噴火に先立つマグマの移動を捉えることも可能になった。また、宇宙線(ミューオン)による火道透視技術や、人工衛星や航空機、ヘリコプターによるリモートセンシング技術が、噴火現象の理解や活動評価に有効であることが実証された。さらに、掘削試料や噴出物の解析及び火山ガス組成測定により、マグマの上昇や脱ガスなどの噴火過程に関する理解が進展した。近年では、火口近傍での広帯域地震観測、地殻変動観測、空気振動観測、火山ガスの連続測定により、火山性地震や微動の発生機構、爆発と火山ガス放出の関係についての研究が進み、火山噴火をマグマや揮発性成分の運動と関連させて議論できるようになった。近年、マグマの物性とマグマ上昇速度などと噴火規模・様式の関連が見られる例も見つかり、火山噴火予知のために重要な知見が蓄積された。
火山監視体制の強化と噴火前に現れる地震活動や地殻変動に基づき、有珠山や三宅島などでは噴火発生の予知が実践された。また、これらの実績を踏まえて、気象庁は平成19年より、防災機関や住民が取るべき防災対策と連動した噴火警戒レベルを火山ごとに順次運用を開始している。さらに、火山噴火予知研究の成果を防災に役立てるため、大学及び関係機関は地方自治体等との連携を進めている。
しかし、噴火の規模や様式、活動推移の予測に成功するまでには、火山噴火現象の理解は進んでいない。例えば、平成12年の三宅島噴火の際、山頂カルデラ形成や火山ガスの長期噴出を活動初期には予測できなかった。また、平成23年の新燃岳噴火では、その噴火規模・様式を予測できなかった。また、国立大学の法人化に伴い、大学においては老朽化した火山観測網の更新や高度化が進まず、観測研究の縮小が危惧される。外部評価では、この点を踏まえて火山観測・監視体制の維持についての検討が必要であると指摘された。
平成21年度からの計画では、地震予知研究と火山噴火予知研究が統合され、プレートの沈み込みという共通の地球科学的環境で発生する地震と火山噴火の相互作用の研究が始まるとともに、観測基盤の有効利用が進められた。
マグマの発生や地震発生に重要な役割を果たす沈み込む海洋プレート(スラブ)からマントルウェッジへの水の供給に関して、スラブの上方に地震波低速度で低比抵抗の領域が日本列島の多くの地域で確認され、その実態が明らかになりつつある。また、広域の三次元地震波速度構造や比抵抗構造の調査により、上部マントルにおけるマグマの発生と上昇経路について理解が進んだ。さらに、伊豆大島で発生する火山性地震は、マグマの貫入と広域応力場による応力変化で発生し、震源での岩石の物性の違いによりその発生様式が異なることが明らかになりつつある。
これまでの研究の進捗により、多くの学術的成果が得られてきた。そのうち、地震や火山噴火の防災や減災に役立つと見込まれる成果を以下に挙げる。
地震予知研究では、地震の発生機構、断層モデル、地震波伝播(ぱ)過程などの研究や古地震の調査が進展し、科学的な理解に基づき、地震発生の長期評価や、地震による強震動、津波の予測が行われるようになった。特に、以下に挙げる例は、地震の防災・減災に活用可能な成果である。
地震研究と火山研究の連携では、伊豆半島東方沖におけるマグマの貫入による地殻変動と群発地震活動度の関係が明らかになり、火山活動が地震活動に及ぼす影響についての理解が進展すると同時に、その知見は気象庁の発表する「地震活動の見通しに関する情報」に応用された。
地震・火山の観測研究計画は、国民の生命と暮らしを守るための災害科学の一部として、計画を推進すべきと考える。地震・火山災害は、地震や火山噴火の発生により生じる強震動、津波、火山灰や溶岩の噴出などの災害誘因が、人の住む自然環境や社会環境に作用し、その脆弱性により発生する。地震や火山に関する災害科学とは、災害を引き起こす地震や火山噴火の発生から災害の発生や推移を総合的に理解し、その知見を防災・減災に生かすための科学であり、理学、工学、人文・社会科学などの研究分野が学際的かつ総合的に進める必要がある。一旦発災すると被害が甚大となる地震、津波、火山噴火による災害を軽減するためには、長期的展望に基づき、災害を起こす原因にまで遡った理解に基づく方策を探る必要がある。つまり、自然現象である地震や火山噴火を理解し、それらが引き起こす災害の姿を予(あらかじ)め知る必要がある。この際に、地震や火山噴火の発生の場所、規模、時期などの予測に始まり、災害の発生から地震や火山噴火現象の発展段階に応じて起こり得る災害の推移を予測することが重要である。観測研究計画は、以上を踏まえ、防災・減災にも貢献できる計画として機能すべきである。これまでは、地震や火山噴火の発生予測ができればおのずと防災・減災に貢献できるという考え方で計画が進められてきた。この考え方を見直し、地震・火山噴火の発生予測とともに地震・火山噴火による災害誘因の予測の研究も行い、それらの成果を活用することにより防災・減災へ貢献するという考え方へと移行する。今がまさにその転換点にあると認識する。
これまでの計画では、地震及び火山噴火「予知」という言葉を使用してきた。予知という言葉は、一般的には「予め(前もって)知る」ことに関して幅広い意味で用いられているため、地震や火山噴火に関する最近の理学研究では、定量性を念頭に置いた限定的な語感を持つ「予測」という言葉が好んで使われるようになっている。しかしながら、理学、工学、人文・社会科学の研究分野の専門知を結集して、総合的かつ学際的に研究を進める災害科学においては、むしろ「前もって認知し、災害に備える」ことを幅広く捉えて「予知」という言葉を用いる方が妥当である。災害の根本原因である地震や火山噴火の発生と、それらが引き起こす災害誘因を共に予測して、地震や火山噴火による災害の軽減につなげることの意味は重く、必要性も大きい。これからは、自然現象である地震や火山噴火の発生予測にとどまらず、災害の発生までを視野に入れた災害の予知を目指す学術研究として、計画を推進する必要がある。
新たに計画を策定するに当たり、現状認識に挙げた課題を以下のようにまとめた。
本計画では、外部評価で指摘された「実用科学」を、地震・火山研究の科学的知見を防災・減災に活用し、国民の生命と暮らしを守る災害科学として推し進めることと捉えた。そのため、自然現象である地震・火山現象の理解を深めつつ、地震や火山噴火の発生の予測を目指した研究を継続的にかつ着実に実施することに加えて、地震動や津波、火山灰や溶岩の噴出など災害を引き起こす現象の予測を含めた災害の予知に貢献する研究を推進する。
大地震の発生時期を予測することは現段階では難しいが、釜石沖の繰り返し地震や伊豆東部の群発地震の活動予測などの限られた事象ではあるが、地震発生予測に関連した新たな成果が生まれている。また、火口近傍での観測により、噴火規模の予測に結び付く可能性の高い新たな知見も得られている。このような事例を参考に、地震発生と火山噴火の予測を目指した研究を継続する。その際、多様なデータ、手法、モデルを取り入れ、地震・火山現象の物理・化学過程の理解に基づく地震発生や火山噴火の予測の研究を進めると同時に、十分な精度を持つ観測データや調査結果に裏付けられた経験則も、その適用範囲を考慮した上で活用する。
海底観測装置の開発や高度化、地域防災計画の参考にされた噴火事象系統樹(噴火シナリオ)など、これまでの観測研究計画の成果が社会に役立てられている例も多い。また、津波浸水域の高精度逐次予測、GNSS即時処理による巨大地震震源域の即時推定などは、実用化に向けた研究が進んでいる。今後の計画では、ここで挙げられたような災害の予知に役立つ研究成果を増やし、社会に貢献する。
巨大地震や大規模噴火現象は、発生頻度が低いため未解明な部分が多い。そのため、それらに起因する災害の軽減を図るためには、その発生機構の解明が必要である。東北地方太平洋沖地震という超巨大地震の発生機構を理解するとともに、この地震が隣接域の地殻活動に及ぼす影響を研究することは、同じ地学的環境にある他の地域の防災・減災に資することが期待できる。これらの成果を後世に引き継ぐことが東日本大震災を経験した我々の大きな責務だと考える。また、これまでに南海トラフで発生した巨大地震の特性の解明に力を入れる。大規模噴火は近年日本では発生していないものの、史料、考古データ、地形・地質データからこれまで繰り返して発生してきたことは明らかである。歴史学、考古学、地質学、地形学などの研究者と連携し、近代的観測開始以前の地震や火山噴火の特性を理解する。また、日本以外の事例との比較が重要であるため、世界の他の地域のデータを用いた研究を推し進めることも重要であり、国際共同研究や国際協力をより一層推進する必要がある。その際、マグニチュード8クラスの巨大地震、内陸地震、スラブ内地震についても大きな被害をもたらす可能性があることから、計画の中でバランスを取りつつ研究を進める。
地震・火山噴火による災害を軽減するため、観測研究計画では次のような取組を中長期的な展望の下、体系的に実施する必要がある。
(1)地震や火山噴火が引き起こす災害がどのようなものがあるかを解明し、国民や関係機関に広く知らせること、
(2)地震や火山噴火が、どこで、どのくらいの頻度・規模で発生し、それらによる地震動、地盤変形、津波、噴火規模・様式がどのようなものかを想定して、長期的な防災・減災対策の基礎とすること、
(3)地震や火山噴火の発生直後に、地震動や津波、火砕流や降灰、溶岩流などを予測することにより避難に役立てること、
(4)地震の発生や火山噴火の発生や推移を事前に予測することにより防災・減災対応を取ること。
(1)については、地震や火山噴火が引き起こす災害の特徴を科学的に解明して、その災害について、専門家と社会との共通理解を醸成する。自然現象として数十年に一度発生する程度の地震や火山噴火現象によって引き起こされる災害の理解は進められてきたが、低頻度で発生する巨大地震や大規模噴火の理解は不足し、その災害についての知見も限られている。今後10年程度、歴史学や考古学、地質学などに基づく地震、津波、火山災害の研究を系統的・組織的に推進し、国内外で発生した大規模な地震・噴火現象と災害事例を集積することにより低頻度大規模現象についても一定の知見が得られると期待される。
(2)では、観測データ、史料、考古学データ、地質学データ等に基づく地震の統計学的解析や火山噴火の活動履歴の調査により、地震や火山噴火とそれによって引き起こされる災害の発生場所や規模・頻度を推定し、長期的な防災・減災対策の基礎的知見を得る。これまでも、地震・火山研究の成果に基づき地震発生の長期評価や地震による揺れの予測図(地震ハザードマップ)、降灰や溶岩流を予測した火山ハザードマップなどが作成され、防災行政や避難計画の策定などに貢献している。今後10年程度は、地震の統計的性質も考慮した大地震の長期予測手法の開発や、発生の繰り返し間隔や規模のゆらぎに関する理論的研究を進める。火山噴火に対しては、地質調査を着実に推進し、国内火山の詳細な噴火履歴の作成に努める。
(3)では、自然現象としての地震発生や火山活動を観測により即時的に把握して、地震動や津波、火砕流や降灰、溶岩流、噴石などを予測する。近年、地震発生による強い揺れや津波到来の即時的な予測が可能となり、緊急地震速報や津波警報などに活用されている。また、火山噴火に伴う噴石や降灰の予測手法の開発が、現在進められている。このような予測は、避難や防災行動に直接的に結び付き、その精度向上は短期的には最も効果が高いと思われる。そのため、今後5年間は、既に実用化されているものについてはその信頼性や精度の向上を図り、開発中のものは開発を効率的に進める。また、情報通信網等の社会基盤の発展や、社会の構造変化により、求められる情報が時代と共に変化することも考慮し、今後の災害情報の在り方についての研究も同時に進める。
(4)で示す地震や火山噴火の発生が予測できれば、防災・減災への応用範囲は広く、効果も大きいと考えられる。地震や火山噴火の発生前の現象を検知し、経験的な法則や理論的な裏付けのあるモデルを用いて、地震発生や火山噴火の予測を目指す。予測のためには観測データは不可欠であり、震源近傍や火口付近などでの観測を強化することが重要である。地震現象や火山噴火現象は非線形性が強く、これまでの研究の蓄積があるにも関わらず、予測が確実に行える状況ではなく、予測の実現には今後も息の長い取組が必要である。
プレート境界地震の短期予測については、断層摩擦滑りの物理モデルと観測データを統合して、地震を含めた断層滑りの時空間発展の予測をする研究を進める。そのために、観測、実験、理論研究により物理モデルを高度化することと、モニタリングデータの利用法の高度化を目指した研究を重視し、この計画の中で予測実験を試行する。内陸地震については、地震発生機構の物理モデルが確立していない。そのため、まず、モデル構築のための研究に集中し、モデルとデータを統合した予測の準備を行い、プレート境界地震と同じように予測のための研究を行うことを目指す。また、多様な観測から得られる大地震の先行現象に関する経験則を利用した地震発生予測を試行するため、地震活動の変化などの先行現象の研究を進め、今後10年程度で先行現象についての統計評価を行う。
火山噴火予測では、観測データに現れる異常現象を基に噴火発生を予測する研究を中心に進める。起こり得る火山現象を網羅的に示した噴火事象の系統樹を活用し、火山活動の進行により発現する事象を支配している物理・化学過程を、観測データや火山噴出物や火山ガスの解析結果、理論的な研究成果から明らかにする。個々の事象が発現する機構の理解の積み重ねと、それに基づく事象分岐論理の解明により、予測の実現を目指す。噴火履歴に基づく噴火事象系統樹の作成と高度化を着実に進めるとともに、この計画期間中に、火山事象分岐の判定方法を加えた新たな噴火事象系統樹の原型(プロトタイプ)を作成する。その後も、基礎研究の成果を取り入れながら、実際の火山噴火活動の判断基準として試用し、高度化を進める。
前述のように、発生間隔が極めて長い低頻度で大規模な地震・火山現象を理解するためには、史料、考古データ、地形・地質データの利用が不可欠であり、歴史学、考古学、地質学や地形学などの研究者と連携した研究を開始する。また、観測研究計画が、災害科学に貢献すべきとの観点から、理学だけでなく、防災研究に関わる工学、社会科学の研究分野と連携し、災害誘因予測研究を行う。このような関連研究分野と連携して計画を推進するには、体制の整備も必要であり、その取組も行う。
地震や火山噴火が引き起こす災害がどのようなものがあるか、研究から得られた防災や減災に資する成果を、国民や関係機関に広く知らせることが、観測研究には求められている。そのため、過去の地震・火山災害事例や災害の発生機構に関する研究も実施する。また、それらを含めた地震や火山噴火に関する研究成果を、社会に分かりやすく伝えるための取組を行う。さらに、研究成果を生かした被害軽減のための災害情報の高度化についての研究も実施する。
国民の生命と暮らしを守る実用科学として、地震・火山災害に関する科学(災害科学)が活用され、防災・減災に効果的に役立つためには、地震発生・火山噴火の仕組みを理解する基礎研究、それらを予測する応用研究、さらに、防災・減災に役立てる方策を示す開発研究のそれぞれを体系的・組織的に進める必要がある。
東日本大震災を踏まえた科学技術・学術政策の在り方の検討の中で、基礎研究、応用研究、開発研究のいずれの段階でも、研究者の内在的動機に基づく学術研究、政府が設定する目標などに基づく戦略研究、政府の要請に基づく要請研究の三つの方法によって進められるべきであることが指摘された。また、学術研究においても課題解決とともに自ら研究課題を探索し発見する行動が求められている。さらに、地震・火山噴火研究においては、人文・社会科学も含めた研究体制の構築、海外の地震・火山噴火多発国との連携強化、防災や減災に十分貢献できるような研究体制の見直しなどが指摘されている。(東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の在り方について(建議)、平成25年1月17日)
観測研究計画は、地震や火山災害の軽減という社会の要請を踏まえた課題解決を目指し、全国の大学、研究開発法人、行政官庁が協力して推進する研究計画である。地震・火山の災害軽減に必要な災害の予知は、その手法がいまだ確立していないので、研究者の創意工夫に基づいて体系的かつ継続的に推進する必要がある。そのため、学術的な基礎研究を主体として実施する観測研究の推進体制が必要である。また、成果を社会の防災・減災に効果的に役立てるためには、政府の地震・火山防災施策で設定する要請や目標を十分考慮し、防災・減災に貢献できる体制を構築する必要がある。
大規模な地震・火山噴火の発生間隔は人間の生活時間に比べて長いため、長期的かつ継続的に、観測・調査、観測データ・資料の蓄積、及び総合的な解析を地震・火山噴火研究全体として実施する体制が必要である。観測データ・資料及び研究成果のデータベースの構築などの研究基盤の開発・整備に努める一方、現在の技術では困難に見える観測や解析の新展開を図るため、新たな技術開発を行う。
地震・火山噴火などの自然現象に起因する災害誘因だけでなく、地形・地盤などの自然環境や人間社会の持つ脆弱さが災害素因となり、災害の大きさが決まる。本計画を災害科学の一部として捉えた場合、これまで実施してきた災害誘因としての地震・火山噴火研究に加えて、災害素因との関係を意識して研究を進めることが必要となる。このため、理学だけではなく、防災学に関連する工学、人文・社会科学などの関連研究分野との連携を図りつつ、計画を推進する。また、地震や火山噴火現象の推移を理解して予測するには、近代的な観測の実施期間が短すぎることから、歴史学、考古学などと連携して過去の事例を調査する歴史災害研究を行うことが不可欠である。ただし、過去の地震と噴火の史料、考古データを収集して歴史災害研究を行う組織が存在せず、後継者養成も行われていない状況は、従来から大きな問題となっていた。歴史災害に関する学際的研究は、これを解決する長期的な見通しをもって行われる必要がある。
長期的な展望の下に、防災力の高い社会に変えていくための研究と防災業務に携わる人材の養成を行う必要がある。若手研究者や防災業務を担当する人材の育成だけでなく、地震・火山の専門教育を受けたものが防災・科学技術に係る行政、企業、教育機関に携わる取組を強化し、地震・火山災害に強い国家の構築を支援する。
研究成果が適切に理解され、実際の防災・減災に活用されるため、その内容を分かりやすく社会に伝える組織的な活動が重要である。地震・火山科学が社会に発信する情報の在り方を含め、広く災害情報についても検討する。さらに、そのための人材の確保を図る必要がある。
低頻度の災害の予知を研究するためには、日本だけでなく海外の他の地域の事例を取り入れるなどの国際的な共同研究を行う必要がある。同時に、本計画の成果を海外、特にアジア諸国の地震・津波、火山災害の軽減に役立ててもらうことは、災害科学の先進国である我が国の責務である。そのような観点から国際共同研究・国際協力を実施する必要がある。
科学技術・学術政策局政策課
-- 登録:平成26年05月 --