資料3-2 iPS細胞(人工多能性幹細胞)研究等の加速に向けた総合戦略
平成19年12月22日
文部科学省
- 本年11月21日、日本の研究チームが、世界で初めて、生命の萌芽である胚を滅失することなく、成人の皮膚細胞から様々な細胞に分化する能力を持つiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り出すことに成功したという論文が発表された。
- iPS細胞については、昨年8月に日本の同じ研究チームがマウスの細胞からの樹立に成功して以降、ヒトの細胞での樹立に向けて国際的な競争が行われていた。我が国の研究チームの成功は、世界に誇れる日本発の成果であり、再生医療の実現に向けた大きな第1歩である。
- iPS細胞に関する研究に対しては、従来から国として様々な研究支援策を講じてきた。今回の成果を受け、国際競争が進む中で、我が国の研究を加速させ、細胞の初期化のメカニズムの解明やiPS細胞の高度化、また再生医療技術の開発などを日本全体で戦略的に進めていくことが求められている。
- このため、科学技術・学術審議会のライフサイエンス委員会の意見を聴取した上で、今年度中に実施する緊急支援策及び来年度以降に実施する支援策に分け、日本全体での研究体制の構築、十分な研究費の投入、知的財産権の確保等を含む、以下の総合戦略を定める。今後、総合戦略の実施に当たっては、総合科学技術会議における検討とも十分に連携して進めることとする。
1.今年度中の緊急支援策
(1)日本全体の研究推進体制の確立
- 文部科学省は、iPS細胞研究を含む再生医学研究の振興方策について検討を行うため、科学技術・学術審議会ライフサイエンス委員会の下に、「幹細胞・再生医学戦略委員会(仮称)」を設置する。
- 文部科学省は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の戦略目標として、「iPS細胞等の多能性幹細胞研究の推進」に資する目標を新たに設定し、JSTはこれを踏まえて速やかに研究課題を公募する。
- 文部科学省は、京都大学が世界トップレベル研究拠点の「物質-細胞統合システム拠点(京都大学)」にiPS細胞研究を推進する我が国の中核研究組織として「iPS細胞研究センター」を開かれた拠点として整備することを支援する。
- 関係機関が協力して、iPS細胞研究を実施する機関の研究者が集合し結成する開かれたネットワーク組織として、iPS細胞研究センターを中心とした「iPS細胞研究コンソーシアム」を組織する。
(2)iPS細胞研究の加速
- JSTは、戦略的創造研究推進事業で推進されている山中教授を中心とした研究グループの研究活動の加速を支援する。
- JSTの支援により、当面の新たな研究スペースを確保する。そこでは、研究者が自由に交流できる環境を整える。
- JSTの主催により、特別シンポジウム「多能性幹細胞研究のインパクト-iPS細胞研究の今後-」を開催(平成19年12月25日)し、研究者ネットワークを構築・拡大する。
(3)iPS細胞等を用いた再生医療実現に向けた研究加速
文部科学省は、「再生医療の実現化プロジェクト」の一環として、iPS細胞を用いた治療開発や、細胞操作技術開発(分化誘導等)を加速すべく、早急(平成19年12月中を目途)に公募を開始する。
(4)iPS細胞の利用の円滑化
iPS細胞研究コンソーシアム内における研究用途での提供については原則無償とし、iPS細胞及びそれに関する知的財産権を円滑に使用できるような体制を京都大学をはじめとする関係機関の協力の下、整備する。
(5)iPS細胞に関する特許の確保
- 京都大学より国内外ともに出願(予定を含む)しているiPS細胞利用技術に関しては、継続的に追加出願に向けた検討を行い、早急に国内外の審査請求等を行う。
- JSTは、iPS細胞に関する専任の知財専門家の派遣、海外特許の確保等について、京都大学に対して必要な支援を行う。
- 文部科学省は、「大学知的財産本部整備事業」の一環として、iPS細胞研究に関して、米国等における知的財産の取扱いに関する調査等に必要な支援を京都大学に対して行う。
2.来年度以降の措置<平成20年度:約22億円、今後5年間:約100億円>
(1)日本全体の体制で研究を推進するための環境整備
- 文部科学省は、京都大学が世界トップレベル研究拠点プログラムを活用して行う、iPS細胞研究を進めるための中核研究拠点「iPS細胞研究センター」の整備を、継続的に支援する。
- 文部科学省は、生命倫理の観点について、科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会の専門委員会において、生命倫理と安全性確保の両面に配慮し、引き続き検討を行う。
(2)iPS細胞研究のさらなる加速
- JSTは、戦略的創造研究推進事業の一環として、iPS細胞研究の一層の促進を図るため、新たに「iPS細胞等の細胞リプログラミングによる幹細胞研究戦略事業プログラム」を立ち上げ、山中教授を中心とした研究グループの新たな体制強化等により、関係する研究活動を支援する。
- 科学研究費補助金の特別推進研究において、平成19年度より山中教授が実施している「細胞核初期化の分子基盤」を支援しているが、今後とも科学研究費補助金によりiPS細胞関連の基礎研究を支援する。
- 文部科学省は、京都大学において、iPS細胞等の研究を行うために、必要な研究環境(研究者の相互交流に配慮したもの)を確保すべく支援する。
(3)iPS細胞等を用いた再生医療実現に向けた研究加速
文部科学省は、「再生医療の実現化プロジェクト」の一環として、iPS細胞を用いた治療開発や、細胞操作技術開発(分化誘導等)の開始に必要な研究費を支援する。
(4)iPS細胞の利用の円滑化
- 京都大学は関係機関と協力して、iPS細胞研究コンソーシアム内におけるiPS細胞に関連する知的財産に関する情報のデータベースを構築し、情報の共有化を図る。
- 京都大学は、iPS細胞研究コンソーシアムの外の研究者に対しても、知的財産権の適切な確保に配慮しつつMTA(研究材料提供契約)に基づき、iPS細胞及びそれに関する知的財産権を円滑に提供できるようにする。

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