3.科学技術・学術分野における国際活動の戦略的推進方策

 第1期国際化推進委員会報告「科学技術・学術活動の国際化推進方策について」で提言された重点的に推進すべき方策は全般に着実に実施されてきている。しかし、1.で述べた国際情勢の変化に対応し、2.で掲げた我が国の課題を解決するためには、従来の「国際化の推進」から「国際活動の戦略的推進」へ政策概念を発展させ、国としての国際活動に対する戦略的な考え方を明確にし、これに基づき、アジア諸国との連携や、国際的な研究人材の養成・確保、これらを支える国際活動基盤の強化を推進する必要がある。以上を踏まえ、第2期国際化推進委員会では、科学技術・学術分野における国際活動に関し今後戦略的に推進すべき取組みを、「国際戦略に基づいた活動の重点的推進」、「アジアにおけるパートナーシップの構築」、「国際的研究人材の養成・確保・ネットワークの構築」、「国際活動基盤の強化」の4点に絞って取りまとめた。

(1)国際戦略に基づいた活動の重点的推進

(国際戦略の必要性)

 今後の科学技術・学術分野における国際活動に当たり、第一に重要な点は、国際活動の戦略化である。2.で掲げた我が国の課題を明確に意識し、その解決を目指して国際活動に取り組むことが戦略化の基本的考え方である。国際活動の戦略化の検討に当たっては、中長期的な展望と短期的な課題(時間軸)、我が国及び相手国における科学技術・学術の相対的水準、産業レベルでの技術競争状況、当該技術の開発フェーズ、科学技術・学術の相互補完性等、多面的な視点が必要である。さらに、科学技術・学術の担い手の多様化を踏まえ、国、大学、研究機関、科学技術・学術振興機関、アカデミー、地方(自治体)等がそれぞれに、地域、施策、研究分野といった国際活動の対象に応じて戦略的に取り組んでいくことが必要である。

(国際戦略に基づく活動の推進)

 戦略的に国際活動を推進するに当たっては、まず、対象に関する十分な国際動向の調査・分析、我が国の実力の正しい評価、科学技術・学術への長期的展望等が必要である。その上で、「競争と協調」、「協力」、「支援」といったアプローチ4を対象分野や相手国との関係等に応じ、意識して適切に使い分けることが重要である。
 この際、科学技術・学術の各分野等に係る国際動向の調査、分析を行う体制を一層強化することが重要である。例えば、科学技術政策研究所、科学技術振興機構、日本学術振興会、各大学等による調査、分析活動の充実を図るとともに、関係各機関の連携を図りつつ海外拠点における調査、分析活動を効果的、効率的に実施することが重要である。
 また、このような調査、分析に基づきながら、トップダウン方式とボトムアップ方式を組み合わせつつ戦略的に目標を定め、科学技術・学術分野における国際活動(国際共同研究等)を支援するためのファンディングの仕組みを充実・強化していくことが重要である。その際、「競争と協調」のアプローチを使い分けながら、国際的な研究開発活動を通じてイノベーションを創出していくことは、我が国の国際競争力強化の観点からも重要な取組みといえる。例えば、国際産学連携活動や、知的クラスター間の国際連携等を通じた共同研究の実施などは有効な取組みである。
 さらに、国際機関等多国間の枠組みも、このような戦略的考えに基づき我が国のイニシアティブを発揮しながら活用していくことが重要である。例えば、我が国のイニシアティブに基づき創設されたヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)は、最先端の基礎研究であるライフサイエンス分野への各国の取組みを促すために、我が国が率先して多国間枠組みを形成してきた好例といえる。

※4 各アプローチの詳細については、本報告書の末尾に参考として示す。

(2)アジアにおけるパートナーシップの構築

 アジアにおける連携強化という我が国の課題に対応する上での、基本的な戦略として「アジアにおけるパートナーシップの構築」を取りまとめた。

(アジアにおけるコミュニティの構築に向けて)

 我が国は、欧米諸国に対しては長期間にわたり「キャッチアップ」を目指してきたが、近年はオープンで対等なパートナーとして、「競争と協調」、「協力」を中心に科学技術・学術面での関係を発展させてきた。一方、アジア諸国に対しては、地域内の科学技術・学術先進国の立場から「支援」を中心とした取組みを進めてきたところである。
 しかしながら、アジア諸国、特に中国、韓国や、ASEAN(アセアン)諸国の一部は、近年の急速な経済成長に伴い、科学技術・学術分野でも大きな進展を見せている。このため、我が国は、欧米諸国との間で築いてきたオープンで対等なパートナーシップをアジア諸国との間でも拡げていきながら、中長期的には、ASEAN+3(アセアン プラス スリー)会合などの場で検討が進められている「東アジア共同体」構想をも踏まえつつ、米、欧、アジアの3つの「極」を形成することなども視野に入れ、科学技術・学術分野でアジアにおけるコミュニティ5を構築していくことが必要である。この際、科学技術・学術活動の水準が高く、我が国との間での研究人材交流の蓄積の厚い中国、韓国との間でのパートナーシップを強化していくことが重要である。
 アジアにおけるコミュニティの構築に向けて、我が国として次のような取組みを推進することが重要である。

※5 日中韓三カ国首脳による歴史上初の共同宣言となる2003年10月の「日中韓三カ国協力の促進に関する共同宣言」においては、東アジアの平和と安定に寄与する「対外的に開かれた」「未来志向の」地域協力としての日中韓三国協力の位置づけが示されている。本報告書において言及する「共同体」の構築は、このような「対外的に開かれた」「未来志向の」地域協力を示すものと捉えている。

(研究人材の交流・養成)

 第一に、研究人材の交流を強力に推進するとともに、将来のアジアにおけるコミュニティを担う人材を養成していくことが重要である。人的なつながりは科学技術・学術分野におけるあらゆる国際連携の基礎となるものであり、アジアにおけるコミュニティ構築の出発点として位置づけられる。
 具体的には、国際的に研究人材の獲得競争が激化する中、アジアの優秀な研究人材を我が国に惹き寄せ、こうした人材との緊密なネットワークを構築することが重要である。そのためには、研究フォーラム等「知の出会い」の場を創出する取組みを推進するとともに、対等なパートナーシップを指向した研究人材交流制度の充実や研究人材の流動性を阻害する制度の改革等を通じ、アジアにおける研究人材流動性の向上を図り、地域に根ざした人材を養成していくことが必要である。また、帰国後の研究者・留学生の我が国との関係を維持・発展させるための様々な取組みや、アジア諸国との間で緊密な人的ネットワークをもつような研究人材を我が国で養成する取組みを充実させることが必要である。

(地域共通課題への挑戦)

 第二に、持続可能な発展を確保し、地域社会に貢献していくため、アジアの各国が持てる力を結集し、協力して地域共通課題に挑戦していくことが重要である。同時に、かかる挑戦の中からアジア発の独創的な研究を創出し、科学技術・学術分野の水準を高め、ひいては国際競争力の向上につなげていくことが重要である。
 我が国と他のアジア諸国との間では、地理的な近接性に由来して、環境問題、自然災害の防止や被害の低減、新興・再興感染症対策等の課題を共有している。とりわけ、アジアの人口が2050年までには約15億人増加することが見込まれることからも、これらの問題の一層の深刻化が予想され、その解決に向けた取組みはより重要となる。こうした地域共通の課題に対しては、アジア地域の科学技術・学術力と研究資源を相互補完的に活かした協力、あるいは、我が国がリーダーシップを発揮した支援的取組みが重要である。このような地域共通課題への挑戦の成果は、アジア地域にとどまらず、グローバル社会全体に寄与する面も多いものと考えられる。また、地域の社会経済の発展を展望するとともに、地域において広く受け入れられている価値観や、地域共通の学術的関心に基づきながら、アジア発の独創的な研究を、「競争と協調」や「協力」により実施し、その成果を世界へ向けて発信していくことも重要である。こうした独創的な取組みにより、国内外の優秀な研究者を惹きつける活気ある研究環境を我が国に生み出していくことも期待できる。
 以上のような地域共通課題への挑戦のため、研究者からの要請に基づくボトムアップ方式による共同研究へのファンディング制度を推進するとともに、トップダウン方式で政策的観点から課題を特定し集中的な予算配分を実施するファンディング制度の充実が必要である。

(プラットフォームの構築)

 第三に、アジアにおけるコミュニティの活動を研究面、制度面で支えていくため、先進諸国との間での科学技術協力におけるこれまでの成功事例等を踏まえつつ、プラットフォーム(共通基盤)を構築していくことが重要である。
 共通の研究基盤として、例えば、学協会誌の電子化システムのような研究情報流通の共通基盤の整備を図ることが重要である。加えて、コミュニティの取組みを中長期的展望の下で推進していくため、政策レベルはもとより、行政機関間、大学・研究機関間、科学技術・学術振興機関間、アカデミー・研究者間等の多層的な交流枠組みの整備を図ることが重要である。

(アジアの多様性への留意)

 アジアにおけるコミュニティの構築に当たっては、アジア諸国の科学技術・学術を巡る状況が多様であることに留意する必要があり、コミュニティを固定的、画一的に捉えるべきではない。また、科学技術と固有の文化との間の関係も国により多様であり、各国がそれぞれの文化や価値観を持つことを前提としながら、科学技術の成果を共有できるコミュニティの構築に取り組んでいくことが重要といえる。
 例えば、地理的、文化的に近接し、急速な発展を遂げて、製造業等産業分野や科学技術・学術分野において我が国と競合しつつある中国、韓国については、三国の先端研究分野のポテンシャルを積極的に活かしあい、「競争と協調」により、アジア発の独創的な研究や国際標準の創出等を目指す視点が重要である。同時に、日中韓に共通する地域的課題に対して「協力」する視点、中韓の優秀な人材と我が国の結びつきを強め「協力」のネットワークを構築する視点から、三国の科学技術・学術を発展させるべく戦略的にパートナーシップを強化することも重要である。こうした取組みにより、ASEAN(アセアン)諸国、インドなど、アジアの優秀な研究者を惹きつける活気ある研究環境を日中韓に生み出していくことも期待できる。
 一方、経済発展や科学技術・学術のレベルが多様であるASEAN(アセアン)諸国とは、東アジアにコミュニティを構築することを展望しながら、環境問題、自然災害をはじめとする地球規模問題への対応や感染症対策など、アジア地域で相互補完的に協力して取り組むべき課題等について長期的観点から「協力」あるいは「支援」を推進すること、アジア発の先端科学技術・学術を共有していくこと、援助機関や現地の研究機関等との「協力」に取り組むことが重要である。その際、これまで築いてきた研究機関や研究者のネットワークを活用しつつ、それぞれ戦略的に連携を強めていくことが必要である。また、インドについても、優秀な人材とのネットワークの構築等について検討を進める必要がある。
 なお、こうした各国の多様性を踏まえた交流・協力を進めるためには、それぞれの文化や言語をはじめとする人文・社会科学分野の研究から得られる成果は重要であり、地域を対象とした総合的な研究を推進・支援する必要がある。

(3)国際的研究人材の養成・確保・ネットワークの構築

 国際活動を通じて研究人材の量的、質的充実を戦略的に図るための基本的な考え方として「国際的研究人材の養成・確保・ネットワークの構築」を取りまとめた。

(優秀な研究人材の獲得に向けた世界大競争時代への対応)

 優秀な研究人材の獲得に向けた世界的な大競争時代に対応するために今後重点的に取り組むべき課題は、国際的な研究交流を通じて我が国の研究人材を国際的水準で切磋琢磨させながら、将来国際的にリーダーシップを発揮し、分野横断的に活躍できる人材を養成していくこと、国内外の優秀な研究人材を惹きつける研究・生活環境を我が国に構築していくことである。

(グローバルな「知の出会い」の場の創出、「ネットワーク」構築)

 そのための第一歩として、我が国と外国の若手研究者とがともに議論し、互いに触発し合えるような、国内外の優秀な研究人材の「知の出会い」の場を充実させることが必要である。さらに、このような「知の出会い」を通じた関係や、国内外の研究者交流により構築された関係を恒常的なものとするため、我が国を核とした、帰国後の外国人研究者との継続的なネットワークを構築できるように、同窓会活動への支援をはじめとする様々な取組みを充実することが必要である。これらの取組みにより、新たな国際共同研究の創出、将来的な外国人研究者の来日促進も期待できる。

(優れた外国人研究者等の受入促進)

 第二に、我が国の大学・研究機関への優れた外国人研究者の受入の一層の推進が必要である。科学技術・学術活動は、多様な価値観や経験を有する研究者が切磋琢磨することで優れた成果を生み出すものであり、従来から外国人研究者の受入が進められてきたところである。しかし、長期にわたり我が国の大学、研究機関で働く外国人研究者は少数にとどまっており、今後、外国人研究者を我が国の重要な研究人材と捉えて積極的に活用し、我が国の研究環境を活性化する必要がある。同時に、我が国が「競争と協調」の関係にある場合は優秀な外国人研究者を招へいし、「協力」の関係にある場合は双方向的な研究者交流を実施するなど、戦略的に取り組んでいくことが必要である。
 「知」を巡る世界大競争時代の今日においては、優秀な外国人研究者とともに、在外の優れた日本人研究者についても我が国に惹き付ける努力が必要である。日本人の在外研究者は、中国等と比べると量的には少ないものの、極めて優秀な人材が日本国外に研究拠点を構えて活躍している。既に、EU、仏、独、中などにより、海外で活躍する自国の研究人材や他国の優れた研究人材を国内に受け入れて研究機会を提供する取組みが実施されているが、こうした取組みを参考にしつつ、我が国に適した取組みを検討し、これを推進すべきである。
 また、海外の優秀な研究人材から研究の場として我が国が「選ばれない」面があることは、我が国の大学・研究機関等の研究環境等に関する情報が不十分な点も大きな原因であることから、研究ポストの国際公募等、積極的な情報発信が重要である。
 さらに、留学生や海外で研究経験を積む研究者には渡航先での研究・教育のみならず就業機会も渡航先の「魅力」の一つであることから、我が国においても留学生や外国人研究者に大学・研究機関の研究者に限らない幅広いキャリアパスを提供する必要がある。特に、民間企業においても我が国で研究教育経験を積んだ外国人を我が国の貴重な人材と捉え、積極的に活用することが重要であり、例えば留学生や外国人研究者へのインターンシップや就業機会の提供に取り組むことを期待する。
 同時に、制度的側面について見ると、外国人研究者を我が国に長期間受け入れる際には出入国管理法等による規制があり、また、短期間の研究交流についても査証制度上の規制がある。こうした規制については、相互主義の原則など一定の必要性の下で運用されているものである。一方で、構造改革特区制度の中でも各地方から改革が要請されてきており、産業界からも規制改革の要請があるなど、研究開発の現場から様々な論点が提起されているところである。今後、科学技術基本計画の改定作業の中などで、こうした制度改革の必要性について議論し、優れた外国人研究者が我が国で存分に力を発揮できるよう所要の措置を講じていくべきである。

(若手研究者の海外派遣の促進)

 第三に、我が国の研究者、特に若手研究者に国際的研究環境で「武者修業」する機会を提供することは、国際的水準の研究人材を養成する観点から重要であり、一層推進することが必要である。「武者修行」する研究者については、例えば、我が国と「競争と協調」あるいは「キャッチアップ」の関係にある場合は相手国のレベルの高い科学技術・学術を吸収すること、「協力」の関係にある場合は我が国と補完的な科学技術・学術を学ぶこと、また、「支援」の関係にある場合は我が国の研究者が多様かつ実践的な活動の経験を蓄積すること等の視点を明確に意識することが必要である。
 また、中長期的観点から我が国の国際的研究人材を養成するためには、初等中等教育段階の児童・生徒に外国人研究者をはじめとした国際レベルで活躍する研究者と接する機会を設けることも有効である。

(4)国際活動基盤の強化

 「国際活動の戦略化」、「アジアにおけるパートナーシップの構築」、「国際的研究人材の養成・確保・ネットワークの構築」を支えるものとして「国際活動基盤の強化」を取りまとめた。

(国際的に魅力ある研究・生活環境の創出)

 我が国が国内外の優秀な研究人材を惹きつけるためには、我が国の研究環境を世界最高水準に発展させるとともに、制度面、運営面、あるいは研究者等の生活面も含め、真に開かれた環境を構築することが必要である。そのためには、まず、最先端の設備を備え、世界一線級の内外の研究者が共同研究を通じて切磋琢磨する国際研究教育施設の整備が必要である。さらに、このような場に学生も主体的に参加させて、適切な研究教育指導を行うことにより、高い効果が期待できる。また、高度な研究者等の養成や人材獲得をめぐる競争が激化する状況等に鑑み、世界の学生や研究者が競って我が国を目指すような国際競争力のある高度な人材養成の拠点整備を図る必要があり、このような組織的な取組みを促進することも必要である。これらにより整備する拠点には併せて外国人研究者の利用できる宿舎を着実に確保するなど、生活面の環境整備も重要である。また、こうした拠点を、知的クラスターをはじめとする地域における科学技術振興の核として活用することも有効である。

(大学における特色ある組織的な国際活動に向けた取組みの推進)

 大学は、第2期科学技術基本計画において、科学技術システムの中で中心的な役割を果たすことが求められている。そして、科学技術・学術分野における国際活動においては世界の研究教育機関との切磋琢磨や連携を通じて我が国の科学技術・学術水準を世界最先端のレベルに発展させることが期待されている。さらに、大学改革の進捗により、大学の研究教育を取り巻く環境が大きく変化し、特色ある個性輝く大学づくりが求められている中、国際的な視点からは、各大学の自主自律的・組織的な国際展開に向けた取組みが求められている。しかし、これまでは、国際化の取組みを進めている大学が一部にあるものの、多くは研究者個人の活動に依存し、全学的な取組みが不足しているとの指摘があったところである。このような状況の中、外国人研究者等の研究教育環境・生活環境への組織的な支援、海外の大学、国際機関、内外の援助機関等との連携、情報発信・収集力の強化等、国際活動を戦略的に進める大学の取組みを支援することが必要である。これにより、我が国の大学の国際展開の推進、国際競争力の強化を図ることが可能となる。また、その際、それを支える職員の語学力・国際交流マネージメント能力の向上を図る必要がある。

(海外拠点を核とした事業の総合的実施)

 我が国の大学、企業等においては、日本人研究者の海外での研究活動支援、現地の研究者との共同研究の場の提供、現地の優れた研究者を中心とした研究の実施といった観点から、海外拠点を整備する動きが進んでいる。かかる拠点で展開される活動は、各機関の独自の戦略に基づき競争的に進められるものであるが、複数の機関が連携して効率的に取り組むことでより大きな効果を得られることも多いと考えられる。
 このため、国として、科学技術・学術振興機関の拠点や在外公館を通じて、各機関間の連携を図るための機能を整備し、情報面や、人材ネットワーク形成の面などでの連携を促すことが重要である。例えば、内外の研究情報の収集・分析・発信や、フォーラムの開催、若手研究者交流プログラムの実施、産学官の国内外研究者ネットワークの構築、現地における研究活動支援などの事業を科学技術・学術振興機関の海外拠点において総合的に実施することが重要である。

(研究成果の国際的情報発信力の強化)

 我が国の優れた研究成果を世界に向けて発信することは、国際活動展開の上で重要な基盤である。そのため、我が国の国際的水準の論文誌の育成、電子媒体での国際的情報発信の推進等、情報の組織的な発信を行うための環境整備を推進する必要がある。さらに、世界一線級の研究者がこぞって研究成果を発表するとともに、科学技術政策動向、研究動向やトピックスを世界に発信する総合的な学術雑誌など、優秀な研究者が切磋琢磨する場の構築についても検討が必要である。

(地域を主体とした国際活動の推進)

 我が国とともに、諸外国でも創造的な研究開発活動を核にハイテク分野での起業活動が連鎖的に発展する「ハイテク・クラスター」が注目を集めており、さらに、クラスター同士が留学生、研究者や起業家を中心とした人材交流、企業間の連携を通じて結びつきを密にしつつ発展する事例も増加している。このため、我が国の地域レベルでの科学技術振興の取組みについても戦略的ビジョンを持った国際展開が考えられるようになりつつある。その際、地域における科学技術・学術の核となる大学・研究機関と海外の同様な機関による先端分野での科学技術・学術の共有や人材交流などが、地域間の連携の基盤として機能することを地域と大学・研究機関がともに意識する必要がある。

(多層的な枠組み構築、府省間・機関間の連携強化)

 相手国と我が国との間で科学技術・学術分野における国際活動を中長期的に推進していくためには、パートナーシップを持続的に支える多層的な枠組みを構築することが必要である。また、これら多層的な交流を、我が国全体として同時並行的、整合的に進めていくため、各層間での情報交換や協力を推進することが重要である。
 さらに、国内において科学技術・学術分野における国際活動を戦略的に推進していくに当たっては、府省間・機関間の連携を強化することが必要である。企業間の交流枠組みと公的研究機関間の交流枠組みとの間の連携や、企業と公的研究機関の海外研究開発拠点間の情報交換の促進など、産業界を含めて科学技術・学術分野の国際活動を推進していくことが重要である。さらに、かかる国際活動の推進に当たっては、出入国管理制度や生活面なども含め研究を取り巻く様々な面で関係者の協力が不可欠である。科学技術協力協定に基づく政府間会合をはじめとする各種の政府間対話の機会を戦略的に活用するためにも、日常的に、関連する府省や機関の連携を深める必要がある。

参考:「競争と協調」「協力」「支援」の考え方(3.(1)関係)

  1. 競争と協調:競争関係を前提として国際活動を行う場合のアプローチであり、特に欧米との連携に当たって典型的なものである。例えば、最先端の科学技術・学術活動の場合、産業上の国際競争が激化している場合や、将来我が国の優位を拡大したい場合は、現在あるいは将来の国際的な競争関係を認識した上で、質と量の両面の卓越性、優位性を互いに競い合う「競争」のアプローチが求められる。一方、「競争」の関係にあっても、国際的な技術標準の創出、共通の指針の策定、大規模な研究施設やデータベースの整備等共通の発展基盤の形成、見通しの立てにくい先端的研究分野の進め方に関する共通理解の醸成等に当たっては、関係国が「協調」により人材や資源を投入し、相互に利益を高める視点が重要であり、「競争と協調」のバランスをとった国際活動が適切である。特に地理的、文化的に近接した国とは、「協調」に相応しい科学技術・学術活動に関して、人材や知識などの知的資源をともに発展させる視点が重要である。
     なお、このように競争関係を前提とする「競争と協調」のアプローチにおいては、実施段階のスピードとフレキシビリティを重視して果断に取り組むことが重要である。
  2. 協力:競争関係を前提とせず、相手国との相互補完的な連携をする場合のアプローチである。例えば、当該科学技術・学術について、相手国と我が国との間が産業上の競合関係にない場合、あるいは、双方に共通した課題(感染症等の地域的課題)や世界共通の中長期的課題(地球環境問題等)について科学技術・学術の能力、研究資源等が相互補完的な関係にある場合等は、「協力」することが適切である。なお、「協力」はイコール・パートナーシップによる互恵的な関係に基づくものであり、競争関係を前提とした「協調」とは異なるものと位置付ける。
  3. 支援:我が国の優位性を前提として、将来の「協力」への移行を念頭に置いたアプローチであり、主として開発途上国が対象となる。例えば、我が国の科学技術・学術水準が相手国と比べて十分に高く、かつ、世界共通の中長期的課題や、将来的に我が国の研究環境の活性化に資する相手国の人材を養成する場合等は、相手国を「支援」することが適切である。「支援」は長期的観点から取り組むことが必要である。
    ※キャッチアップ:科学技術・学術水準が相手国より低い場合には、我が国研究者が相手国で研究経験を積み、科学技術上の知見、ノウハウを習得する、あるいは海外の優れた研究者を招聘するなど、知識の吸収と我が国の研究環境の刺激を図る「キャッチアップ」のアプローチも引き続き有効である。)

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科学技術・学術政策局国際交流官付

(科学技術・学術政策局国際交流官付)