2.我が国にとっての課題

 1.で述べた国際情勢の変化を踏まえ、我が国が科学技術・学術活動における国際活動を推進していくに当たっての課題を以下のとおり取りまとめた。

(1)科学技術・学術と社会・経済の発展

 1.で述べた情勢の変化の中で、我が国がまず取り組むべき課題は、「知」をめぐる世界大競争への対応である。このためには、まず、先進諸国等との連携を通じて、我が国の優れた科学技術・学術活動について、その水準を一層高め、維持していくことが重要である。さらに、水準の高い科学技術・学術活動の成果を我が国の強みとして国際競争力の向上に結び付け、我が国の社会・経済の発展を実現することが求められている。

(2)世界共通の課題への対応

 経済大国であり、高度な科学技術・学術水準にある我が国は、科学技術・学術を自国のみならず、国際社会の発展にも活かすことを求められている。特に、地球規模問題や安全・安心な社会の構築をはじめとする世界共通の課題に我が国がリーダーシップを発揮して取り組む必要がある。これらの取組みを通じた国際貢献は、我が国の国際社会における地位を確固たるものにすることにもつながるものであり、科学技術・学術と社会・経済の発展に向けた取組みと両輪をなすものと位置付け推進する必要がある。

(3)アジアにおける連携強化

 「東アジア共同体」の形成に向けて、科学技術・学術分野において、我が国がアジアにおける連携強化のためのイニシアティブを如何に発揮できるかが課題である。
 地域協力の先行事例であるEUの歴史を見ると、研究人材の交流などが地域協力全体の深化の基盤を形成してきたものと位置づけることができる。また、アジアにおける科学技術・学術分野での協力を通じて環境、エネルギー、経済といった地域共通の課題にともに取り組むことにより、地域の持続可能な発展を追求することも可能である。さらに、アジア発の独創的な研究の創出にイニシアティブを発揮することを通じ、地域の国際競争力に資することもできる。加えて、研究人材の交流は、いわゆる「トラック2」外交のツールとして、地域の国際関係の安定にも資するものである。
 科学技術・学術分野におけるアジア諸国との連携強化を進めていく上で、これまでのような先進国日本対アジアという観点ではなく、地域の一員として連携を進めていくべきである。その際、アジアにおいては科学技術・学術面での発展状況が多様である現状を踏まえ、相手国の状況に応じた多様な推進方策が求められるところである。科学技術・学術活動が急速に活発化し、我が国との研究人材交流も最も盛んである中国、韓国との連携を強化するとともに、ASEAN(アセアン)諸国とも人的ネットワークを着実に拡大し、「東アジア」地域、さらにはインド等を視野に置いたコミュニティの形成につなげていく観点が必要である。

(4)魅力ある研究環境の実現

 我が国が科学技術・学術分野における国際活動を行うに当たっては、我が国にいかに世界から研究者、技術などの知的資源を集め、世界をリードする科学技術・学術活動を実施していくかが鍵となる。このため、我が国の研究環境を国内外の優秀な研究者を惹きつける活気あるものとすることはもとより、我が国の研究水準、研究環境に関する情報の発信や、外国人研究者への日常的な研究・生活支援を含めた環境整備を幅広く進めることが課題である。
 また、我が国においては、国立大学の法人化、国立試験研究機関の独立行政法人化等に伴い、これらの大学・研究機関は自らを国際的に競争力のある研究拠点とする観点から独自の戦略に基づいてより積極的に国際活動を実施することが可能となった。さらに、地域レベルでの科学技術振興の進展に伴い、国内外の地域間のネットワークによる科学技術活動の展開も考えられるようになりつつある。こうした科学技術・学術の担い手の多様化を受けて、今後は各主体がそれぞれの特長を一層活かした国際活動を戦略的に実施していくことが課題である。
 さらに、今日、優秀な研究人材の獲得に向けた世界的な大競争時代が到来している中、我が国においては、今後、急速な少子高齢化の進展に伴う若手研究者の大幅な減少が見込まれるなど将来の研究人材が量的に懸念される状況にある。このため、研究人材について、量的な面はもちろんのこと、これまでにも増して創造性の向上等、質的な充実も必要である。今後は諸外国と人材交流を積極的に進めるとともに、外国人研究者を我が国の重要な研究人材と位置付けていく方策の検討が課題である。

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科学技術・学術政策局政策課

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